ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第75話 「紅白共闘戦線」

翌日、兵藤宅の地下一階にある大広間に関係者が集まった。

 

オカ研組、生徒会メンバーことシトリー眷属、そしてヴァーリチーム。ヴァーリチームと言うこの場にいるにしては異様な存在が、既に顔を合わせた俺達は兎も角生徒会組の表情を硬くさせる。

 

オーディン様とロスヴァイセさんは別室で本国にロキのこと、そしてユグドラシルのことについて連絡を取っている。向こうもロキの動向については知らなかったらしく混乱しているようだ。

 

部長さんからサーゼクスさんにも話は伝わり、三大勢力全ての上層部にこの事件の情報が伝わることとなった。そしてその上層部が出した結論が…今、バラキエルさんやロスヴァイセさんなどヴァーリチームを含めたここにいるメンバーでロキとフェンリルを退けろということだった。

 

無茶にもほどがある。上は俺達、あるいは二天龍の力を過信しているのではないだろうか。兵藤は兎も角、ヴァーリですら白龍皇の力を完全には引き出していないのだ。『覇龍』を使えばどうにかなるかもしれないが、二度目の使用になる兵藤は今度こそ生命力を使い果たして死ぬ。

 

ヴァーリは魔王の血を引いているため、膨大な魔力に代償を肩代わりさせることができるがそれでも負荷が大きくもたないとされている。前回の戦いで唯一効果的なダメージを与えることができたオーディン様は会談に参加するため参戦は不可能。いずれにせよ、数名の戦死は確実だ。

 

問題は世界樹の力を手にしたロキだけではない。フェンリルもいることだ。奴は生み出したロキはおろか、全盛期の天龍並みの力を持っている。そんな相手、二人の『覇龍』でも勝てるわけがない。

 

増援は英雄派のテロで主要機関の警戒に戦力を当てなければならないため、期待はできない。やはりこのメンバーだけで奴に挑むしかない。

 

「……」

 

話し合いは始まっているが、この八方塞がりな状況に皆の表情は険しい。俺だけではない、全員が胸中不安だらけだ。

 

「…もう一度聞くが、お前が今回俺達に協力する理由は?」

 

「ロキやフェンリルと戦ってみたい、無論アーサーや黒歌たちから了承は得ている。それだけだが不服か?」

 

壁に背を預けて腕組むヴァーリは先生の問いにさも当然の如くはっきりと断言する。

 

なんともバトルジャンキーなことで。普通神と戦うって言ったらビビるのが普通だというのに、こいつには恐怖心ってものがないのかね。

 

ヴァーリの返答に、思った通りだと半ば呆れ気味に先生は軽く笑った。ヴァーリは禍の団に下る前はグリゴリに所属していた。その付き合いで先生はヴァーリの人となりをよく知っているのだろう。

 

「…お前らしいと言えばそうだし、不服かと言えばそうだが、こっちは猫の手も借りたい状況だ。だがお前が同じ禍の団の英雄派と繋がっている可能性もある」

 

「その点に関しては一切連中との関わりはないと断言しよう。互いの邪魔にならないよう、彼らとは相互不干渉の約束を結んでいる。しかしそちらが俺の提案を蹴った場合は、そちらを巻き込んで三つ巴の戦いを演じることになるが」

 

つまりは脅しか。こちらが提案を飲もうが飲むまいが、戦いには参加すると。何とも身勝手な連中なことで。

 

「…サーゼクスも、旧ルシファーの血を引くお前の協力を無下にはできないと言ってな。本当に甘い奴だが、俺も今回限りは協力したほうがいいと思っている」

 

俺達の代表ともいえる先生は渋々ながら言うが、一部の面子、特にシトリー眷属はまだ納得がいかないと硬い表情をしていた。アーシアさんを助けてもらったあの時、居合わせていなかったシトリー眷属が奴への好感度が低いのは当たり前と言えよう。

 

正直に言うと、俺も奴との共闘には気が乗らない。

 

奴はテロリスト、更に言うと裏切り者なのだ。かつてはアザゼル先生の下で動き、あの和平会談で敵に情報を流して裏切り、強者と戦いたいがために俺達に牙を剥き被害を出した敵だ。

 

一度は人の信頼を完膚なきまでに踏みにじった相手をどうして信用することができる?アスタロトの件では確かにアーシアさんを助けてくれたし、兵藤の覇龍の解除に一役買ってくれた。特にアーシアさんに関してはあいつがたまたま次元の狭間にいなかったら間違いなく死んでいた。

 

恩があるのはわかっているが…どうしても、奴を信じることができない。

 

「…監視をつけて、妙な動きをすればいつでも刺せるようにすればいいのではないでしょうか」

 

皆の奴のへの疑心を抱えた内心を読んだように、会長さんが一つ提案する。落としどころとしてはやはりそれか。逆にこいつの監視を務められるレベルの実力者はこの面々では限られてくるが、多少は気休めにもなる。

 

「ふっ、構わんさ。無論ただで刺される気は毛頭ないがね」

 

自信を不利に追い込む提案にもかかわらず、ヴァーリは相変わらずの何を考えているか読めない笑みを浮かべるだけだった。

 

「今こいつと手を組むか組まないか議論していたらキリがない。ヴァーリのことは置いといて、肝心のロキとフェンリル対策だ。今回、奴らに詳しいとあるドラゴンに知恵を貸してもらう」

 

疑心にピリピリする空気を変えようと先生が話題を変える。

 

今回の戦いは今までのように力のゴリ押しで勝てる相手ではない。奴への有効打になる策が必要だ。この策がうまく行くかどうかが勝敗を分ける。

 

「ドラゴンって誰ですか?それに奴らに詳しいって…」

 

「五大龍王の一角、『終末の大龍《スリーピング・ドラゴン》ミドガルズオルム』だ」

 

「五大龍王かよ…!」

 

五大龍王という名にドラゴンを内に宿す兵藤と匙が息を呑む。

 

俺達が今まで会ってきた、あるいは関係がある龍王は元を含めると3体。匙の神器に魂の断片が封じられていると言われているヴリトラ、アザゼル先生が契約し、人工神器に封じているファーブニル、そして最上級悪魔となったタンニーンさん。

 

早くも4体目の龍王の登場。このペースで行けば残りの2体も年内には会えそうだ。別に全員に会ったからと言ってどうするわけでもないが。

 

「ドライグ、アルビオン、ヴリトラ、タンニーン、ファーブニル。五体の力あるドラゴンの力で竜門《ドラゴン・ゲート》を開いて奴の意識を呼び出し、対策法を聞き出す」

 

ミドガルズオルムに続いて名だたるドラゴンの名が並び、大掛かりな作戦であることを認識させてくる。奴本体ではなく意識だけを呼び出すというのが気になるが…。

 

「先生、そのドラゴンに一緒に戦ってもらうという手は?」

 

折角五大龍王と接触するのだ。今回の戦いにおいて知恵だけでなく、力も貸してもらいたいところなのだが。

 

「いや、力はあるがあいつの巨体ははっきり言って戦闘の邪魔になるし、北欧の深海の奥底で眠ってばっかりのドラゴンだ。知恵を借りる以上の期待はできん」

 

だが先生は残念そうにかぶりを振る。

 

4体目の龍王は眠ってばかりの怠け者ね。戦闘の邪魔になるレベルの巨体って…もしかしてグレートレッド並みのデカさだったりするのか?いや、流石にそれはないか。あったとしてもあれの半分ちょっと程度だろう。

 

「ヴリトラって、俺もですか…」

 

匙は若干嫌そうに言葉を漏らした。二天龍、最上級悪魔という錚々たるドラゴンたちの中で自分だけ本来の龍の力を発揮できているわけではないことに気が引けているのだ。

 

「お前もドラゴンだからな、竜門の発動のために来てもらうだけでいい。今はタンニーンとの連絡が付くまで待っていてくれ。俺は今からシェムハザと話し合ってくる。バラキエル、お前もついて来い」

 

「私は一度天界に帰ってセラフ様達に報告していきます。イリナ、何かあったらすぐ連絡してね?」

 

短く話を切り上げる先生はさっさと部屋を出ていき、バラキエルさん、メリィさんとその後に続いていく。

 

話し合いが終わり、やることがなくなった俺達の間に気まずさすらある沈黙が流れ始める。普段のように過ごそうにも、ヴァーリたちがいるから動きにくいんだろう。

 

「……」

 

「なあ赤龍帝」

 

しかしその雰囲気を破るように美猴が軽い調子で兵藤に声をかける。

 

「何だよ」

 

「暇だからどっか遊べるところねえか?この家広いからそんくらいあるだろ?」

 

お気楽な質問にペースを崩され兵藤がずっこける。

 

遊べるところって…。さっきまで真剣モードでピリピリすらしていた空気を何でもないかのような何とも能天気な様子だ。

 

「ちょっと、ここはあなたの家じゃないのよ。そもそもあなたは敵、招かれざる客人なのよ」

 

しかし部長さんは奴の勝手を許さなかった。腕を組んで、毅然と奴の前に立ちはだかる。

 

だが美猴はそんな様子を意に介さずカカと笑う。

 

「お堅いなぁ。そんなだとおっぱいまで硬くなっちまうぜ、スイッチ姫?」

 

何気ない言葉が部長さんの胸ではなく怒りのスイッチを入れた。

 

刹那の間に部長さんが動く。おちょくった美猴の頭をどこから取り出したか鋭いハリセンの一閃がスパンと快音を響かせて直撃した。

 

「いってぇぇぇぇ!!叩きやがったなこのスイッチィ!!」

 

ハリセンを受けた美猴からたまらず喉から絶叫じみた声が迸り、打たれてひりひりと痛む頭を押さえて悶える。

 

一方の部長さんは怒りにわなわなと震えてハリセンをぎゅっと握りしめる。

 

「よくも私をスイッチ姫なんて言ってくれたわね…!あなたのせいで皆からその変なあだ名で呼ばれてるのよ!?」

 

「なんで怒るんだよ!?むしろ俺が付けたあだ名のおかげでガキんちょどもに人気が出たんだから感謝しろよ!」

 

売り言葉に買い言葉、すぐに部長さんとの喧嘩が始まった。紅髪のように顔を真っ赤にして怒る部長さんに、猿の妖怪らしくウッキーと声を上げて抗議する美猴。俺とこいつの関係も大概だが、部長さんとの関係も大概だな…。

 

だが。

 

「招かれ猿、か」

 

「お前もお前で反応してんじゃねえ!!」

 

見ざる聞かざる言わざる、そして招かれざる。これは日光のサルたちの仲間入りかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後の兵藤宅の地下トレーニングルーム。そこの設備として備えられたランニングマシンを稼働させ、俺はひたすらに走りこむ。

 

これから起こる戦いへの不安、敵と手を結んで肩を並べて戦うことへの不満、それらを少しでも押し殺すために何かに必死に打ち込もうと俺はここに来た。

 

初めてポラリスさんと会った時に教えてくれた方法だ。不安なこと、悩みがあれば何でもいいから必死に打ち込んでみる。

 

アザゼル先生の作戦でミドガルズオルムの召喚に成功して上手く情報を聞き出せた匙も加わり、共に走り込みの真っ最中だ。

 

「今日はとんでもない一日だったぜ…」

 

隣で走り込み、汗に顔を濡らす匙が今日の出来事を振り返り、しみじみとした調子で呟いた。

 

「いきなり北欧の神ロキとフェンリルと戦うなんてとんでもないことを聞かされて呼び出され、挙句の果てに最上級悪魔のタンニーンさんとそれを上回るとんでもないデカさのミドガルズオルムと会ったんだぜ…?」

 

「うん」

 

「うんって何だよ!?驚かねえのかよ!?」

 

「前にグレートレッドを見たし…何ならロキと戦ったし…」

 

「そうだもんな…お前らっていっつもとんでもない連中とばっか戦ってるんだもんな…。たまにグレモリー眷属じゃなくてよかったなぁって思うときがある」

 

おい匙、お前軽く引いてるだろ。俺も今までの戦いを振り返るたびに自分でも引いてるんだけどさ。

 

何か、異世界でファンタジーって言われて来たからもうちょっとのびのびとした感じだと思ったんだけどさ…普通に現代文明だし、やってくる敵が堕天使の幹部とか、神とか、さらには妹とかハードすぎないか?

 

俺、あの駄女神に恨まれるようなことしたかな…。前世、あるいは前世のさらに前世の行いが悪かったのだろうか。前世の前世は知らないが前世は悪いことした覚えはないんだが。

 

「ついでに言うとミドガルズオルムはグレートレッドよりデカいらしいぞ」

 

「あれより大きいドラゴンっていたのか…道理で先生が邪魔になるって言うわけだ」

 

さらりと匙が付け加えた。グレートレッドの大きさが確か数100mだから…史上最大のサイズのドラゴンになるのか?

 

「……」

 

会話は途切れ、沈黙が流れる。

 

ロキとの戦いが重く心にのしかかっていて、余裕が持てないのだ。だから会話もあまり弾まず、続かない。

 

この質問は匙の不安をぶり返すことになるかもしれない。だけど聞いてみたい。思い切って、俺は匙に問う。

 

「…匙、お前神と戦うのが怖いか?」

 

俺は他の人がどう思っているのか聞いてみたかった。皆、俺のように不安に襲われているのか。それとも何か別の思いを抱いているのかを。

 

やはり一度は相手にしたとは言え、圧倒的に格上の存在である神との戦いへの不安が拭えない。

 

まだこの世界に来てから1年と経たない俺にはそこまで格上と戦う力もなければ、心の準備もできていないのだ。

 

ヴァーリチームの協力を得られたとはいえ、依然として勝利の可能性は厳しい物がある。全滅の可能性を考えると不安で仕方ない。

 

俺達が負ければ、当然奴はオーディン様を殺し、三大勢力に恨みを持っているためアザゼル先生はもちろん日本の神々にもフェンリルと共に牙を剥くかもしれない。そうなれば、この国の異形界は大混乱に陥ってしまう。いや、この一件は異形の世界を揺るがす大事件として歴史に刻まれることになろう。

 

俺達は絶対に負けられないのだ。だがわずかしかない勝利の可能性と、負けが許されないプレッシャーに今にも押しつぶされそうになる。

 

「…まあ怖いな、正直言ってどうやって神に勝てるって言うんだ?一年どころか、下手しなくても一生勝てないだろ」

 

匙は俺の質問にやや表情を暗くしながらも答えた。やはり不安なのは俺だけじゃないのだ。

 

「でも、俺はやるさ。会長にカッコいい所見せたいからな。男なら好きな人の前でカッコつけたいだろ?そんで生きて帰って、俺は会長とデキ婚するって夢を叶えるんだ」

 

しかし不安に囚われるだけの俺と違って、匙はにっと笑った。

 

自分の夢のために、惚れた相手のために命懸けでかっこいいポーズを取ろうというのだ。俺は驚いた。

 

…こいつは兵藤と同じだ。好きな人のためにどこまでもがむしゃらに突き進めるタイプの人間。こういうタイプの人間を見ると羨ましく思える。俺は…思いを告白してはならないから。ポーズを取っても、その先に進むことはできないから。

 

「…お前の夢はさておき、カッコいいと思うよ。会長さんが振り向いてくれるといいな」

 

でも、こいつの応援をすることはできる。あのお堅い雰囲気の会長さんを攻略するのは大変だと思うが、その分振り向いてくれた時の嬉しさもひとしおだろう。

 

「おう、そう言うお前も頑張ってゼノヴィアさんを…」

 

「何をお話してるの?」

 

会話の途中に割り込む声。誰だと思うと、チェストプレスに使う訳でもなくただぞんざいに腰かける女、ヴァーリチームの黒歌がいた。

 

反射的に稼働するランニングマシンを止めて、さっと身構える。さっきまで喋っていた匙も同様に動いていた。

 

「お前は塔城さんの…」

 

共闘関係にあるのはわかっているが、どうしても敵対していた時の気持ちが抜けない。戦いへの不安がさらにそれを加速させているのもあった。

 

「そんな怖い顔しなくていいじゃない、ヴァーリが帰ってくるまで暇こいてただけよ?冷蔵庫のつまみ食いはしたけど悪いことはなーんにもしてないにゃん」

 

身構える俺達に対して黒歌はむしろ自分の仕掛けた悪戯の反応に面白がるように笑う。

 

ってか冷蔵庫のつまみ食いって悪いことしてるじゃねえか。夕飯前におなか空かせて冷蔵庫を漁る子供かお前は。

 

「お話し中だったみたいだし、せっかくだからお姉さんの話も聞いてかない?」

 

「…聞くだけなら」

 

こいつの口から何が飛び出すかは知らないが、今は共闘関係にある。話を聞くだけならいいだろう。

 

俺の返事に、一瞬ニヤッとした笑みが浮かんだ。

 

「いやーそれがね?赤龍帝ちんと子供作りたいから誘ったんだけど、周りのガヤのガードが固くてねぇ…」

 

「こ、子供を…」

 

子作りと言う言葉をあっけらかんと口にする彼女に俺は軽く引いた。

 

ゼノヴィアみたいなことを言うな、こいつは。うちの周りってそういう女性多くないか?アーシアさんとか塔城さんは兵藤の影響を受けてるところも多分にあるが。

 

「そそ、私、強いドラゴンの子供が欲しいの。ヴァーリにはそういうのに興味ないからって断られちゃったし、逆にそういうのが大好きだって言う赤龍帝にお願いしてるの」

 

消去法で選んだのか、一度は戦った相手にヤらせてくれなんて何て図太い神経の持ち主だ。いや、その図太さこそが種族もバラバラで自由なヴァーリチームの面々が共通して持つものかもしれない。

 

「…龍王の子もいいかもしれないわね。ヴリトラ君、私と子供作ってみない?デキたら私がちゃーんと育てるし、あんたの手はいらないからさ♪」

 

ぺろりと舌を舐めずり、匙に上目遣いで誘惑的な視線を送る。豊かな胸をこれでもかと押し上げて強調し、男の本能をくすぐる。

 

「う…い、いや!俺には会長と言うただ一人、心に決めた人がいる!お前の誘いには乗らないぞ!」

 

女らしさに満ちた女体、魅力的な誘いに唾を飲んでたじろぐも匙は屈しない。

 

匙が会長さんに抱く思いは熱く、揺るがないのだ。こいつの志に男として尊敬するぞ、俺は。

 

「ふーん。まあいいや、がんばって赤龍帝ちんを落とそ♪」

 

しかしそれでもと粘るかと思いきや、意外にもあっさりと諦めた彼女はくるりと背を向ける。

 

「いや俺には来ないのかよ」

 

彼女の素っ気ない態度に俺の口から反射的なツッコミが飛び出した。

 

兵藤、匙と来て次は俺だとこの流れは男なら少し期待してしまうだろう。俺だけ仲間はずれなのはちょっと傷つくぞ。

 

「あんたはまあ童貞だけど別にドラゴンでも何でもないフツーの人間だし、そこまで大したことないかなって」

 

「な…」

 

しかし振り返る黒歌は冷めた目でお前には興味ないと言わんばかりにあっさりと突き放す。

 

何気ない一言が、俺の心を大きく傷つけた。

 

何でもない。大したことない。

 

俺が…何でもない、大したことのない男。

 

俺が…俺が…。

 

男として、彼女の言葉に深くショックを受けてしまいずさりと両膝を突いてうなだれる。

 

「紀伊国?」

 

「兵藤だってまだ童貞なのに…匙だって童貞なのに…そこまで言わなくたっていいじゃないか……」

 

ただの人間だからって…そんな俺でも一生懸命頑張って戦ってきたし、模擬戦だってやって戦いに備えてきたんだぞ?それなのに童貞と言う条件は同じでも、種族が平凡な人間だからダメって、俺は何をしたらいいんだよ……。

 

…ていうか何で俺が童貞だってわかった?もしかして、こいつ雰囲気的にがっつかない奴だから童貞だろとでも思われた?

 

……ますますショックだ。

 

「き…紀伊国…お前は人間でもすげえ奴だから、大丈夫だって。ほら、お前にはゼノヴィアさんがいるだろう?」

 

俺のへこみようを見かねた匙が慰めの言葉をかけてくれる。慰めてくれるのは嬉しい。嬉しいけど、やっぱりそういう目で見られてあんなこと言われたらショックなんだよ…。

 

「お。でもからかいがいはありそうね♪そこは気に入ったわ、じゃあねー♪」

 

へこむ俺を見て面白いおもちゃを見つけたように嬉しそうに笑うと、今度こそ踵を返してふらりと去って行った。

 

猫又と言うだけあって、猫耳と言う見た目だけじゃなく本当に猫みたいな奴だ。いや、はぐれ悪魔だから野良猫と言うべきか。普段は気まぐれで動いて、自分の好きな時だけ人に絡む。

 

しかしどうして、ああいう奴がヴァーリと行動を共にしているんだろう。自由に、気まぐれに動く者同士類は友を呼ぶという奴なのか。

 

だとしたらヴァーリチームは野良猫の集まりだ。……あれ、この表現だとあいつらがかわいく思えてきたぞ。

 




次回、「人と堕天使の狭間で」
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