ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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去年最後の更新にするつもりが今年初の更新になってしまった…。こんな不甲斐ない自分ですが今年も蒼天をよろしくお願いします。3月までには頑張ってラグナロク編を終わらせます。




Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
5.ビリーザキッド
7.ゴエモン
9. リョウマ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第80話 「噛み合わない青と白」

彼女が姿を消してすぐオカ研+シトリー組は解散し、俺はすぐさまレジスタンスの戦艦『NOAH』に足を運んだ。

 

「まったく、どういう腹積もりで…」

 

その目的は当然、いきなり皆の前に姿を現したあの人へ今回の行動の真意を問うこと。夜もかなり更けているがこの疑問を解決せずに今寝ることはできない。

 

廊下を進むうちに一つのドアにつき当たった。ロックされており先の部屋を閉ざすドアに備え付けられた装置にパスワードを素早く入力するとセキュリティーロックが解除され、頑丈な金属製のドアがシャッと開く。

 

「む」

 

ドアが開かれた先の部屋にいたのはデスクに腰かけラップトップコンピューターを子気味よくカタカタと音を立てて操作する目的の人物、ポラリスさんだった。

 

「来ると思っておったわ」

 

作業に勤しむポラリスさんはモニターからちらりと俺に目線をやるとふふっと笑った。その表情は俺が来ると思っていたというよりむしろ来るのを待っていたと言わんばかりだ。

 

そんな彼女にずかずかと歩み寄ると、惜しげもなく内心に満ちる疑問をぶつける。

 

「聞きたいことが山ほどある。どういう風の吹き回しだ?」

 

「何、ただの気まぐれ…ではない。今回のイレギュラーは看過できぬ故な。アレをそのまま放置しておけば最悪妾達が遂行すべき究極の計画の支障になり兼ねぬ。そう言う訳で今回は動くことにした」

 

俺から再びスクリーンに視線を戻し、作業を続けながら彼女は答えた。今回の件はポラリスさんが直々に動かざるを得ないほどのイレギュラーなのか。

 

「あのロキはポラリスさんから見て異常なのか」

 

「ああ、正史のロキにはあのような力はなかった。このイレギュラーも叶えし者たちが絡んでいると妾は考えておる」

 

「…叶えし者、凛か」

 

俺が知る限りの叶えし者と言えば、凛とアルギス・アンドロマリウスしかいない。俺達を排除するために奴らがロキに力を与えたということだろうか。そのためにわざわざ神すら利用してしまうとは…いや、利用できてしまうというべきか。奴等の魔手は各勢力の深いところまで行っているということが窺える。

 

「うむ、彼女しかおるまい。今の彼女は叶えし者たちのボスと呼んで差し支えないからの」

 

「…彼女がボスって、どういうことだ?」

 

「いずれわかる。全く困ったもんじゃ、何度も正史に介入し、妾の計画を邪魔してくれおってのう」

 

気になる言葉をつぶやく彼女にその意味を問うても、キーボードを軽快に叩き意味深な笑みを返して来るばかりだった。

 

この人はいつも俺に何かを隠している。討つべき敵と言いながら、その敵、凛と深くかかわる俺でさえ叶えし者以上のことは何も教えてくれない。一体なぜ、俺も敵対している者の情報を伏せるのか。この際丁度いいから言ってしまおう。

 

「…なあ。前々から思っていたんだがあんた、色々隠し事があるな?どうして俺に隠す?俺にとって不利な情報があるからか?」

 

俺をレジスタンスに引き入れておきながら多くのことを教えないこの人は叶えし者については教えてくれたがそれを操る『敵』と呼ばれる存在、組織の明確な目的等々、聞いても口を濁すばかりだ。

 

それらのことを教えてもらえないことへの不満はある。しかし過去に助けてもらったことだけでなく模擬戦など多くの面で面倒を見てもらっているのもあってとやかくは言わないでいるものの、こうも積み重ねられると流石に気になってくる。

 

…俺に対するゼノヴィア達の気持ちも、今の俺と同じなのかもしれない。身の周り、隠し事だらけで困ったもんだ。望んで、やりたくてこうなったわけでもないのに。

 

全部カミングアウトできるものならしてとっとと楽になりたいものだ。天王寺みたいに言うなら、なんでこないなってもうたんや、かな。

 

「そう急くな。ゆくゆくはおぬしに全てを話すつもりじゃ、グレモリー眷属にもな。じゃが物事には最適なタイミングというものがある。今はその時ではないというだけの話じゃよ」

 

問うてもやはり口を割らないポラリスさんはまたも口を濁す。

 

「特に今、ロキで手一杯のおぬしらに叶えし者の全貌を話すのは酷でのう。今話して皆の不安をバイプッシュしてしまっては目に手も当てられん」

 

「…そんなにやばいのか?叶えし者とその親玉は」

 

「ああ、ヤバい奴じゃ。世界の危機じゃの」

 

…世界の危機って、一体どれほどの連中を相手取ろうとしているんだよ、この人は。なのにレジスタンスのメンバーは俺を入れて3人だけって…この人の考えが浅いのか?

 

「で、その最適なタイミングってのはいつだ」

 

「ロキ戦の後じゃ」

 

「お、ロキ戦の後……えっ?」

 

予想外にも返答されたことに思わず上ずった声が出た。今、この人、ロキ戦の後って……。

 

「どうした、不満でも?」

 

「いや…今まで話したがらなかったのに、あっさりと教えてくれたからビックリしたんだが。何故にそのタイミング?」

 

「その理由は残念ながら今教えるわけにはいかんのう。ロキ戦の後、全てが分かるとだけ言っておく」

 

いやそこは教えてくれないんかい。相変わらず思わせぶりな口ばかりな人だ。

 

「…はぁ。まあそれはさておきだ。わざわざ出てきたってことはあんたならロキを倒せると思っていいんだな?」

 

そう、この状況下において一番肝心なことを聞きだす。まだ本人の言う表舞台に立つその時ではないのにこの人は皆の前に姿を現し協力を申し出てきた。素性を隠しながらもわざわざ出張ってまで対処しようということは当然、それを打破できる策を持っていると考えていいんだろうか。

 

「100%とは言い難いが、そう思ってもらって構わんよ」

 

「100%じゃないというのは?」

 

「今後、計画を円滑に進める上での様々な制限があるということじゃ。しかしさっきも言ったが、グレモリー眷属がやられてはかなり困るのでな。今の段階で使ってもいいと判断した札は使っていくつもりじゃ」

 

作業の間に透き通るような銀髪をさらりと撫で払う彼女に表情には少し厳しい物があった。

 

ポラリスさんでもロキは厳しい相手か。だがあれだけのチート能力を持った神が相手ならそれも仕方ない。

 

「そう心配するな、妾が動くからには必ずロキは倒す。如何に兵藤一誠が特異点とはいえあそこまでのイレギュラーが起こればどうなるかはわからぬからのう。故に万難を排すためにも、今後を考えても妾が動くのじゃ」

 

「本当に信じていいんだな?」

 

「うむ、妾が必ずやお前たちを勝利へと導こう。かつて多くの船乗りたちをあるべき道へと導いた北極星、ポラリスの名の通りにな」

 

如何にも決め台詞じみた言葉を吐くと、スクリーンから俺に目線を移しにやりと笑みを見せる。そんな彼女の言葉に思わず苦笑が漏れた。

 

「ふ、なんだそれ、決め台詞か?」

 

「折角動くのじゃ、少しくらいかっこつけてもいいじゃろ?」

 

天の北極に輝くこぐま座の星、ポラリス。かの星は北極星であり夜空で唯一動かない星ということで多くの国で目印にされてきたと言われている。

 

北極星はある意味、導きの星と呼んでも過言ではない。レジスタンスのリーダーを務める彼女が冠する相応しい名とも言えよう。

 

会話しながらも続けてきた作業の手をふと止めたポラリスさんが手元のティーカップを啜る。

 

「さて、夜ももう遅い。夜分に動いて皆の睡眠時間を削って悪かったの」

 

「全くだな、俺は悪魔じゃないから夜はしんどいんだよ」

 

兵藤たち悪魔は日の光に弱い代わりに日が沈み夜になると身体能力諸々が増し、活発的になる。つまり、悪魔とは夜に強い生き物なのだ。

 

そうでない俺は主に夜での活動となるオカ研の悪魔の仕事に付き合う時にその違いを感じるときがある。皆がピンピンして依頼主からの召喚を待つ中で一人大あくびをかましたことは何度あっただろう。

 

「それは済まなかったのう、妾レベルになると昼夜関係なく24時間働けてしまうのでな」

 

「社畜オブ社畜じゃねえか」

 

「社畜で結構。計画の完遂のために必要とあらば幾らでも妾の時間は費やそう」

 

軽い談笑の後、話は終わったと今度こそポラリスさんも作業に戻りだした。

 

一通り聞きたいことも聞いたので、今度こそ自分の部屋に戻って床につこうと部屋を後にしようとした時だった。

 

「そうじゃ、すまぬ。もう一つだけ言い忘れたことがあった」

 

「?」

 

話が終わったそばから突然彼女に呼び止められたのだ。

 

もう眠気も来ているのでその言い忘れたことが長話にならないことを願いながら振り向く。

 

「北欧神話と日本神話の会談、つまりロキ戦から二日後の夜にレジスタンスの協力者たちを招集して今後の活動について会議を行う。おぬしにもそれに参加してもらいたいが、構わんか?」

 

「構わないが」

 

レジスタンスを支援しているという協力者。時折その存在をポラリスさんは口にするがそれが誰なのかは教えてくれない。

 

…あれ、俺ってレジスタンスのことそんなに知ってないのでは?むしろ遠ざけられている?信用されてない?だから俺に色々と教えていないのか?

 

でもそうだったらわざわざイレブンさんが模擬戦してくれたり諸々の面で面倒を見てもらってる理由が説明できない。ポラリスさんは一体、俺のことをどういう風に思っているのだろう。

 

「話は以上じゃ。今度こそ、おやすみ」

 

「ああ、おやすみ」

 

話がようやく終わり、今度こそ俺は部屋を出ていく。

 

対ロキの作戦決定、ポラリスさんの参戦、この一日で事態は大きく動いた。敵は依然強大であるにせよ、勝利の可能性が増えたのは確かだ。

 

「この戦い、勝つぞ…!」

 

戦いの決意に、希望の色が混ざり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紀伊国悠。おぬしが神を相手にどこまでやれるか試させてもらおう」

 

一人きりになった空間で、ポラリスは冷たさすら感じる笑みを浮かべる。

 

「やがて来る神々との決戦、『プロジェクト・ロンギヌス』のためにな」

 

 

 

 

 

 

 

  ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日間、俺達は来たるべき決戦の準備に打ち込んだ。

 

シトリー眷属は特別な結界術式の練習に取り組み、前線に出て戦う俺達オカ研は模擬戦やトレーニングなどでお互いの力を少しでも奴に近づけるようにと高め合う。

 

学生なのに本分たる勉学をおろそかにしている気はするが、そうも言ってられない。一神話の主神が討たれるようなことになれば世界情勢は大きく揺らいでしまう。何より新たに主神になろうとしているロキの思想は危険だ。奴の暴挙を何としてでも阻止しなければならない。

 

そして今日もトレーニングに励み、一通り終えて兵藤宅地下のトレーニングルームから出てきた俺はその男とばったり会った。

 

「…」

 

「……」

 

無言で二つの視線が交錯する。一方は俺の敵意マシマシの視線、もう一方は何ともないように俺を見つめてくる視線。そう、俺が今視線で敵意を訴えて向かい合う銀髪の男はヴァーリ・ルシファー。

 

ヴァーリチームは監視の意味も込めて作戦期間中は兵藤家に滞在することになっている。しかしあまり厳しい待遇にして不満を与えては連携に支障が出るのではという懸念で一応活動できる範囲は著しく制限されているが、監視付きでの外出が許可されてはいる。ポラリスさんが現れた際に屋台に行っていたのもそれだ。果たしてこの自由人たちと連携ができるかどうかは不明だが。

 

「敵意を隠しきれていないな」

 

最初に口を開き沈黙を破ったのはヴァーリだった。

 

「当たり前だ、人様に迷惑かけておいて今更味方面するのは虫が良すぎないか?俺は今回の共闘に納得したわけではないからな」

 

それに対して俺は否定することもなく堂々と肯定して見せる。

 

俺はどうにもこいつが気に入らない。過去のことをこっちが水に流したわけでもないのに太い顔をして堂々と居座るこいつが。

 

「ふっ、そう思われて当然か。だがこちらとしても神と戦える機会はそうそう得られないのでね。強さを求める者としてはこのチャンスに乗るしかない」

 

あんなおっかない奴と自分から望んで戦いたいと。本当にこいつは戦うことしか考えていないのか?

 

「君も強くなりたいのだろう?自分よりも格上の強者との戦いは己の限界を超え、力を高める手段の一つだと思わないか?そして、己よりも高みに立つ強者に打ち勝つことはどんな喜びにも代えがたい。俺は純粋に戦いが楽しいだけじゃなくそうも思っているからこそ強者との戦いを望んでいるのだが」

 

「勝利の喜びか…」

 

今回の行動には納得がいかないながらも、奴の語る戦いへの価値観には少なからず共感を覚えた。

 

俺も少なからず、今までの強敵を打破するたびに喜びを感じてきた。それはどうにかして苦境を打ち破れたという喜びだけでなく、強者に打ち勝てたという喜びでもあった。

 

リアルの戦いだけじゃなくスポーツでもゲームでも格上相手に勝つことはただの勝利よりも強い喜びを感じるし、自分はもっとやれるんだという自己肯定感の向上にもつながる。勝利の喜びとは、誰もが多くの場面で感じうる感情だ。

 

「そうだな。確かにお前の言う通り俺達の相手は格上ばかりで、その度に俺達は限界を超えてきた」

 

コカビエルも、会談の時のヴァーリも、ネクロムも、俺達の相手はいつだって強者だった。その時その時の俺達のレベルよりも上に立ち、俺達以上の強さを以て殲滅せんと武を振るう強敵だ。

 

今の俺達があるのははっきり言って奇跡といっても過言ではない。ポラリスさんの言う特異点の理論で言えば10個並行世界があればうち9個は俺達の負けルートだろう。そもそも10個の可能性の方が高いかもしれない。

 

俺達はいつもそんな強敵と戦ってきた。しかしヴァーリとは決定的な違いが一つある。

 

「でも俺達はお前みたいに自分から闘争を求めてないんだよ。俺には戦いが楽しいというお前の考えがどうにも理解できない。そのために、先生を裏切るなんてことができるってところもな」

 

俺達は楽しくて戦ってるわけじゃない。命懸けで、こいつのように戦いたいという欲望のためではなく守るべき者のために、己が内に燃え滾る信念のために戦っている。大義もないバトルジャンキーと一緒にされてもらっては困るのだ。

 

びしっと己との違いを突き付けると、ヴァーリもやれやれとため息を吐いた。

 

「…君とはどうも反りが合わないみたいだな」

 

「全くだ、ロキ絡みじゃなけりゃすぐにお縄にかけてやるところなのにな」

 

しかし、こんな気に入らないところだらけのこいつに言わなければならないことが一つだけある。

 

「…でも、アーシアさんを助けてくれたことには礼を言っておく。お前がいなかったら助からなかった」

 

アーシアさんは以前の戦いでシャルバ・ベルゼブブの装置の力で次元の狭間に飛ばされてしまった。グレートレッド以外の生命が活動できないとされる次元の狭間で一度は彼女の死を覚悟したが、どんな方法を使ったかは知らないが調査で付近の空間をうろついていたヴァーリたちがアーシアさんを発見したことで事なきを得た。

 

それだけじゃない、ヴァーリの助言と力がなければ兵藤が覇龍の闇から戻ってこれなかった。悔しいがこいつには戦うべき、討つべき敵なのに大きな恩が二つもある。

 

気に入らない所は多々ある。しかし、受けた恩に対して言うべき礼は言わねばなるまい。

 

「礼を言われる程の事じゃない。いつものように気まぐれが働いただけだ」

 

渋々ながらの感謝の言葉にも奴は涼しい顔で受けるだけだった。すると不意に口角をニッと上げる。

 

「…だが、敵意剥き出しの君に礼を言わせたのは面白かったよ。いいモノを見せてもらった礼と言ってはなんだが、これを渡そう」

 

そう言って手元に魔方陣を出現させて何かを取り出すと、ポイっと手首のスナップを利かせて投げ渡してきた。

 

すかさずキャッチし受け取る俺はヴァーリが渡してきた思いもよらぬ物に瞠目した。

 

「眼魂…これをどこで?」

 

ヴァーリが渡したのはなんと英雄眼魂の一つ、灰色に輝くベートーベン眼魂だった。

 

俺が手に入れてきた眼魂の多くは駒王町で発見された物だが、中には冥界にあったものもある。サーゼクスさんが手に入れたフーディーニ眼魂や、魔烈の裂け目で奇しくも先に回収されてしまったゴエモン眼魂。

 

凛が持っている眼魂もその後者の部類だろう。彼女の場合は叶えし者たちを動かして得た可能性が高い。それなら冥界以外の場所にあったものも回収でき、彼女が多くの眼魂を持っていることにも説明がつく。

 

「普段はチームで世界各地の謎を追っていてね、オリュンポスのアポロン神の領域に立ち寄った際に偶然だが手に入れた。少しは力になるだろう?」

 

「……」

 

ヴァーリの口にしたアポロン神の名に俺は何となく合点が行った。

 

オリュンポスのアポロン神は太陽の神であると同時に音楽の神でもある。数多のクラシック音楽の名曲を作曲し、楽聖と呼ばれた男の魂が宿るベートーベン眼魂との繋がりのようなものがあったとしても頷ける。

 

アーシアさんの時と同じだ、こいつがいなかった俺はこの眼魂を手に入れることができなかった。またしても恩が増えてしまったようだ。

 

…て、ちょっと待て。チームで世界の謎を追っているだと?

 

「お前、テロリストらしく各地でテロってるんじゃないのか」

 

俺のイメージと違うんだけど、色んな強者を追っかけて出合い頭に喧嘩吹っかけて戦闘狂やってるイメージを今まで持っていたんだがもしかして、実はそうじゃない?

 

「時々は指令を受けてやってるさ。だが、テロよりも世界の神秘や強者を調査する方が楽しい」

 

「…お前普通にどっかの勢力の研究者にでもなればよかったのに」

 

「だがそれでは強者と戦えなくなる、平穏な探求よりも闘争の中での探求の方が俺の性に合っているからな。だから俺は禍の団で自由に動く道を選んだ」

 

このバトルジャンキーめ。そんなに戦いたいなら人様に迷惑かけない組織に入ってからやれってんだ。何なら裏切らずにこっちに身を置いたまま禍の団と戦えばよかったのに。

 

「俺は戦い以上に勝利が好きだ。そして俺にとって敗北は2番目に嫌いなものでね。だからこそ、俺は全力でこの勝負は勝ちに行かせてもらう。戦力は多いに越したことはないからな」

 

「はぁ…」

 

一時的に手を結んでいるとはいえ俺達と敵対しているというのに本当にわかんない奴だ。最初は口論に突入するんじゃないかと思っていたがむしろ頭の中こいつへの疑問だらけだ。ますますヴァーリという人間が読めなくなった。もう一生かけてもこいつの考えることは理解できないんじゃないだろうか。

 

…いや。そもそも、俺とこいつとじゃ過ごした環境も立場もまるで違う。人の価値観、倫理観は生まれ育つ環境と教育によって形成されるものだ。そんな彼を理解しようとするのが不可能なのかもしれない。

 

ヴァーリが先生の元を離れてしまったのも、つまるところそうなのだろう。カテレアが先生に言った通り、長年の付き合いがあるという先生ですら今俺が読めていない奴の本質を理解できなかったから。

 

やはりヴァーリを理解できないという思いを強くしていると階段の方からかつかつと足音が聞こえてきた。

 

「ヴァーリと悠って珍しい組み合わせだな」

 

「なんじゃ、さっき剣呑な会話が聞こえたが喧嘩か?」

 

揃って現れたのは兵藤とオーディン様だ。家の住人である兵藤は兎も角、そうでないオーディン様はここの所先生と会談の打ち合わせをするためにちょこちょこ顔を出している。

 

「あまり信用されてないみたいでね。まあそんなことは気にしてないが」

 

「…こいつが変なだけだ」

 

二人の登場にもヴァーリは相変わらずすまし顔をするばかり。

 

「ほっほっ、そうつれないことを言うでない。せっかく男子3人揃ったのじゃから、また猥談でも始めようではないか」

 

「えっ」

 

和やかなオーディン様の急な提案に虚をつかれ上ずった声が出る。

 

いや待て待て、なぜそうなる。何でよりによって猥談なんだ。というかまた、だと?

 

「…猥談なら先日したはずだが」

 

「男の仲を深めるのは戦いと猥談だと相場は決まっておる。どちらも何度やっても楽しいもんじゃろう?」

 

この場に揃った男子3人を見て楽しそうにニヤニヤして提案するオーディン様にヴァーリはどこかうんざり気に目を細める。

 

先日もしたんだ…。オーディン様、神だから人間とは比べ物にならないほど歳がいってるはずなのにこういうノリが男子学生のそれそのものなんだが。

 

それに、バトルジャンキーで女に興味がなさそうなこいつがどんな猥談をしたか気になる。俺は極力混ざりたくないけど。

 

「猥談はさておき、戦いが飽きないものだというのは同意だよ」

 

『…ヴァーリ』

 

「アルビオンか、どうした」

 

ヴァーリとオーディン様の会話にこの場にいる四人以外の声が割って入る。以前聞いたことがある声だ、ヴァーリが神器に宿すドラゴン、白き龍アルビオンの声。

 

『ヴァーリ、頼むから今すぐこの場から離れてくれぇ…』

 

「お前、まだあれを引きづっているのか…」

 

必死に訴えるような調子でアルビオンは宿主たるヴァーリに語り掛けてくる。会談で戦った時の厳格な様子とは打って変わって弱々しい声色だ。

 

「一体アルビオンに何が…」

 

「それがな、ヴァーリがオーディン様に女性のどこが好きかって聞かれて尻が好みだって答えたらケツ龍皇なんてあだ名をつけられたんだ」

 

「ケツ龍皇…これまたひどい名を」

 

乳龍帝に負けず劣らず酷い名をよくもまあ思いついたものだ。それよりヴァーリって尻が好みだったんだな。ものすごくどうでもいい情報を知って…いや、これを周りに言いふらして変な評判を作れば実力では勝てないまでも奴を精神的には追い詰めることができるのでは?

 

…やめよう、敵とはいえこういうのは性に合わない。というかあのアルビオンの声を聞いたらむしろ可哀そうなまで思えてくる。

 

『宿命のライバルがこんな馬鹿馬鹿しいあだ名をつけられていると知った時の私の気持ちと来たら…こんな奴と今まで戦ってきたのかと思うと恥ずかしくて恥ずかしくて……おまけに私までこんな二つ名を……』

 

『やめろ白いの、それ以上言うな!!俺だってこんな…こんな!う…ううっ…ウォォォォォォ!』

 

悲嘆に満ちたアルビオンの嘆きに兵藤の左手の甲からドライグの声に応じてちかちかと光り、やがて二匹の龍の声にならない悲しみが迸った。もはや互いの悲しみを泣き散らす二人のやり取りにかつての誉れ高い二天龍の誇りは見る影もなかった。

 

「オーディン様、あんたのせいだろう。どうにかしてくれ」

 

「乳龍帝にケツ龍皇、いやー今代の二天龍は面白いのー!」

 

面白くて仕方ないと大笑いするオーディン様は長い白髭をさする。

 

この爺さん、最低だ…。過去に神に喧嘩売ったドラゴンがいまやこんな間抜けなあだ名をつけられて…ドライグと同様にアルビオンもショックを受けてしまったんだな。兵藤とヴァーリはロキ戦の前に相棒のメンタルケアをしてやらないといけなくなるなんて、災難だ。

 

「ほっほっほっ!!…さてさて、それでおぬしはどこが好みなんじゃ?」

 

「えっ」

 

ひとしきり笑い終えた爺さんのいやらしい視線が明らかに俺に向いた。

 

「おぬしも男じゃろう、なら女の好みの一つや二つは性癖を持って当然じゃ。最近の若いもんはフェチとも言うらしいの」

 

「お、俺のフェチ……」

 

問い詰められた俺は言葉に詰まる。

 

俺のフェチ……あれを話せと言うのか。よりによって一神話の主神に、敵もこの場に居合わせているというのに。

 

「「じーっ…」」

 

それに追い打ちをかけるように2人の野郎が好奇の視線の圧をぐいぐいとかけてくるのだ。おいそこ、何気なくその中にヴァーリも混ざるな、二人ほどの圧ではないが。

 

「……うなじ、です」

 

果たして空気に流されてしまったか、圧に耐えかねた俺は口を開き、渋々答えた。

 

「ほほう…」

 

興味深そうに顎髭を撫でるオーディン様。

 

「まあ俺は前に聞いたけどな」

 

兵藤は和平会談前にオカ研男子で集まった時に話したから知っている。あれは面白かったなぁ…木場のああいう話を聞く機会は後にも先にもこれだけなんじゃないだろうか。

 

「じゃあなぜ圧をかけた」

 

「お前を猥談に巻き込みたかった。反省も後悔もしてない」

 

「この野郎…!」

 

最低なことを言いながらサムズアップしていい笑顔を見せる兵藤の表情がちょっとムカついた。

 

「グレモリー眷属は女子が多かろう、誰のうなじが一番好みじゃ?」

 

「…朱乃さんです」

 

一度言ってしまうと楽になるもので、もうどうなってもいいやという思いになった俺はやけくそ気味に答える。

 

「朱乃と言えば、バラキエルの娘か。確かにあの娘はべっぴんじゃからのう。胸もデカいのにそっちに目が行くとは」

 

「あのポニーテールに隠れたあれがいいんですよ。でもゼノヴィアのも中々に…ってもうやめよう、これ以上は俺にとって良くない気がする」

 

しかし何でだろう、自分の内に秘めた物を話すたびに泣きたくなってくる。これ多分後でどうしてあんなことをベラベラ喋ってしまったんだろうと死ぬほど恥ずかしくなる奴だ。

 

「うなじ…ほー、おぬしもマニアックな性癖を持っておるのう」

 

「これを本人にばらしたらロキの前にあなたを神殺ししますからね」

 

もし俺がそう言う目で見たことがあるとバレたら恥ずかしくてオカ研にいられなくなる。こういう話は女子の間ではすぐに拡散するもので、ただでさえオカ研は女子の比率が高いのだ。俺にはその人数分の羞恥の感情を耐えられない。

 

「ほっほっ!そんな野暮ったいことはせんわい、こういうのは男同士で共有するからこそ楽しいんじゃよ!」

 

手を叩くオーディン様は心底楽しそうにげらげら笑う。本当にこういうノリが男子高校生だな!

 

「君も兵藤一誠と同類なんだな」

 

「いや違うから!!」

 

おいヴァーリィ!妙に傷つく追い打ちをかけるな!アルビオンが逃げろって言ってるんだからさっさと逃げろ!自分の相棒にも迷惑をかけてやんな!!

 

「むう……」

 

そんなやり取りをしているうちに突然オーディン様が難しい顔で唸り始める。

 

「どうかしました?」

 

「いや、ケツ龍皇みたいないい二つ名を思いつかなくてのう……」

 

「つけなくて結構です」

 

前の戦いで見直したから真面目な考え事してると一瞬でも思った俺が馬鹿だったよ!乳龍帝みたいなあだ名はいらない、俺にはスペクターとか推進大使で十分だ。びこうみたいに変なあだ名を付けられませんようにと神に祈るか。

 

あっ、この爺さん神だった。じゃあそれ以外の神に祈ろう。…だめだ、この爺さんとロキぐらいしか実際に会った神がいない。

 

『君もつけられたら我々の気持ちが分かるぞ』

 

『紀伊国悠、俺と白いのと一緒に地獄に落ちないか……?』

 

すると兵藤のドライグまでもが会話に参加し、片割れの白い龍と共に暗く、しみじみとした様子で俺に語り掛けてきた。不名誉なあだ名をつけられてしまった双竜の昏い嘆きが俺を同じ領域に連れ込まんと誘ってくる。

 

「ドライグがナチュラルに理解者を増やそうとしてるよ…」

 

「俺は絶対に変なあだ名つけられないからなァ!」

 

猥談はしてもいいけど、それだけは勘弁だ。

 

その後小一時間ほど野郎4人でくだらない話で喋り倒したのだった。結局俺も空気に流されるまま己のフェチを語りつくし、ヴァーリが何度か逃げようとする場面があったがオーディン様がダル絡みして引き留め、その度にアルビオンが泣いた。

 

しょうもないひと時ではあったが、不安を忘れることができた時間でもあった。

 

黄昏の日は、明日。決戦はすぐそこだ。

 




NGシーン

悠「それで、あんたならロキを倒せると思っていいんだな?」

ポ「うむ、妾がロキに勝てる確率は100…いや、1000%じゃ」

悠「神相手に1000%で勝てるってあんたインフレしすぎだろ」






ヴァーリの一番嫌いなもの、というか人が何かは原作既読者の方ならご存知でしょう。

次回からいよいよ決戦です。自分がこの作品をやる上でやりたかったことの一つがあるのでそれもお楽しみに。

次回、「迫る黄昏、集う勇者達」
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