遅くなりましたがアニメ4期始まりましたね。
ちなみに作者のお気に入りのキャラは曹操です。
英雄派と英雄の力を使って戦うスペクターとの絡みも、いずれ。
Count The Eyecon!
現在スペクターの使える眼魂は……
S.スペクター
第4話 「怒り」
「あー、クソッ、この問題わかんねえ」
テキストに書いた答えを消し、もう一度別の解き方を考える。
初めての変身から一週間。あの戦いは嘘だったかのように平穏に時は過ぎていった。
天王寺や上柚木と勉強会をしたり、兵藤とゲームセンターで遊んだりした。あいつらと遊んでいると、楽しいと思うと同時に不思議と懐かしい感じがした。あいつらと遊んだりしたのは初めてだというのに。
もしかして『紀伊国 悠』は俺の中でまだ……?
あれ以来ドライバーや眼魂は一切触れていない。そうすることであの記憶を忘れようとした。
だが、そう思えば思うほど忘れられなくなってしまった。
今でも夢にあの堕天使が現れ、自分に億千の呪詛を投げ掛けてくる。お前が死ねばよかった、自分を忘れるなと。
それでも俺は忘れたかった。戦いなんて忘れて、新しい世界で新しい友達と幸せな日常を送りたい。その思いは日に日に強くなっていた。
「この問題はこうして……」
天王寺が丁寧に問題を解説し始める。
こいつの家は母子家庭だが、一年前母が体を壊して以前俺も入院していた病院に運び込まれた。最近は回復の兆しを見せているようだが今でも放課後には町のカフェでアルバイトをして生活をしている。兄の方は外国の企業に勤めていると聞いた。
高校生の段階でバイトと学業を両立させるとは、と話を聞いたときは舌を巻いたものだ。
「なるほど、そうするのか」
問題を解き終え、テキストを閉じる。
「助かったよ、ありがとな」
「いやいや、僕も昨日色々教えてもらったからそのお返しや、気にせんでええで」
机の上でシャープペンシルを転がしながら話しかけてくる。
「最近ごっつ暗い顔するから心配してたで?」
「あぁ、それか、それは……」
まさか普段の学校生活でも顔に表れていたとは。だが本当のことを話したところで信じられるはずもない。せいぜい悪い夢でも見たと思われるのが関の山だろう。
とはいえ、あの件に友達を巻き込むわけにはいかない。
「…あの家で一人暮らししてると、すごい寂しくなるんだよ」
「あー、せやなぁ僕もおかんが入院してからはそうだったからわかるで」
この答えは本当のことだ。学生が一人暮らしするには、一軒家は広すぎる。
特に夜になると音がよく響いて夜の闇の不気味さを際立たせる。
だが悪いことばかりではない。洗濯、掃除と毎日を過ごすうちに俺の家事スキルは磨かれていった。まだ食事に関してはカップ麺だが、いずれは自炊もできるようにならねば。
「でも暗い顔ばっかしてたら、幸せが逃げてまうで?」
「そうだな、『笑う門には福来る』なんて言うしな」
「悠くんももっと笑った方がええで!後ろの一誠くんみたいに」
後ろを振り返り、当の兵藤本人を見ると……
「エヘヘヘヘ……」
口元も目もにやけており、嬉しさにとろけきった表情を浮かべている。教室に入ってこいつを見たときからずっとこんな感じだ。
「おい兵藤、さっきからずっとそんな調子だがそんなに嬉しいことでもあったのか?」
「お、紀伊国、気になる?気になるか!?」
「えっ、あぁ、まあ気になるかと言われれば気になるな…」
いかにも自分の話を聞いてほしいという反応を見せてきた。
「実はな!俺、彼女ができたんだ!!」
そして満面の笑みでそう答えた。
「何…だと……!?」
「なんやて一誠くん、それはホンマか!?」
予想の斜め上をいく答えに俺と天王寺は二人揃って唖然とした。
友達の悪口を言うつもりはないが、兵藤といえば坊主頭の松田、エロメガネの元浜と共にこの学校では変態三人組で名を知られている。
話に聞く限りだと、女子更衣室の覗きなど女子からの評判は最悪である。それなのに彼女ができたということは…
「マジだって!天野夕麻ちゃんって言うんだけどさ!昨日の帰り道でいきなり声をかけられて、『好きです、付き合ってください!』ってさ!」
「…そいつは物好きもいいところだな」
「もしかして他の学校の生徒ちゃうんか?」
「あ、多分そうだ!そういえば違う制服を着てた!」
なるほど、それなら納得がいく。流石に他校にまではコイツの評判は行き渡っていないようだ。
「でもなんで違う学校の生徒がお前を知ってるんだ?」
「前に俺を見かけてさ、一目惚れだったんだって!!」
へ、へぇ……。今時一目惚れなんてあるんだな……
「ま、まぁ、とにかくおめでとう」
「いいなー!僕もいつか彼女が…」
「うぅ…素直に祝ってくれたのはお前らだけだよ……松田と元浜なんて二人揃って『死ね!』って言われてさ……」
まぁ兎にも角にも兵藤は新二年生としていいスタートをきれたようだ。
べ、別に羨ましくなんてない。……正直に言うとほんのちょっぴり羨ましい。
一度目の人生も含めて俺は今までそういう色恋沙汰とは無縁の人生を送ってきた。今までもそうだったし、これからもきっとそうだろう。
でもちょっとくらい、異世界転生なんてしたのだから夢を見たい。
朝のチャイムが鳴り始めた。転生だとか、堕天使だとかそんなことは忘れて俺はただこの世界で一学生として生きてき、平穏を享受する。そう決めた。
だがそんな決意を許すほど運命は甘くないということをまだ俺は知らなかった────
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日曜日の正午を過ぎてもうすぐ夕暮れどきに入ろうかという頃、俺は家の庭の手入れに精を出していた。二週間ほど人の手が入らず放置されていたこの庭は雑草が伸び放題になってしまっていた。
「あー、腰痛い……」
思った以上に長時間の作業になってしまった。
雑草を引っこ抜き、袋に入れる。こんな単純な作業でも何度も繰り返すと疲れる。
雑草の中にもしっかりと根を張っているものもあるため腕の力も使いさらに疲労は倍になった。
「ん?」
作業を続けていると手が雑草以外の何かに当たった。コツッという音を出して転がっていくのが一瞬見えた。感触からして石でもなければ虫でもない。
興味が沸き、転がっていった方の雑草を引き抜き、その正体を明らかにする。そこに現れたのは──
「これって…英雄眼魂!」
変身に使うスペクター眼魂とは違う色の眼魂が二つ転がっていた。
15存在する英雄眼魂の内のふたつ。一つは紫色のノブナガ眼魂。
もう一つはターコイズブルーのツタンカーメン眼魂。
おそらく俺が転生したときに一緒にこの世界に来たのだろう。しかし残る13の英雄眼魂は見当たらない。
どうせ戦うこともないので、無用の長物だがそこらに転がしておくのも悪い気がするので拾うことにした。
そろそろ引き上げるべきかと思い、引き抜いた雑草を入れたごみ袋を持って立ち上がる。夕日の光が顔に当たり、眩しさに目を細めた。
(あいつはまだデートをしてるんだろうか)
昨日突然兵藤から電話がかかり、遊びに誘うつもりだろうかと思っていたら……
『明日夕麻ちゃんとデートするんだけどさ、何かいいアイデアある?』
と、アドバイスを求められてしまった。
前世も入れてそんな経験ないのに…と思いながらも
「とりあえず一緒に服屋にでも行ったらいいんじゃね?」
やや適当に返すといたく喜んだ。何となく噂の彼女がどんな人か気になったので写メでもくれと言ったら電話を切って十秒も経たないうちに送ってきた。黒髪のロングなんて美少女の典型とも呼ぶべき顔だった。
(あいつ本当いい彼女ゲットしたんだな…)
クソっ、多分気づいてないだけで天王寺は上柚木から好意を寄せられてる。なんで俺だけ……
その後、「どうせ俺なんか…」とやややさぐれた気分になってしまった。
「あぁ…疲れたぁ……」
リビングに入り、ソファーの上でごろごろしようとした矢先、
「なんだあれ…?」
テーブルの上に覚えのないメモ書きが無造作に置かれている。
気になってメモの内容を確認した。
『兵藤一誠が堕天使に狙われている。町の噴水のある公園に急げ』
なかなか物騒な内容が書かれていた。
「馬鹿馬鹿しい……なんでアイツが狙われんだよ……」
メモ書きを握ってゴミ箱に放り投げる。しゃっという音を聞いて無事にゴミ箱に入ったことを確認し、ソファーの上で疲れを癒そうと横になる。
(……)
やはり気になる。あのメモ書きを見てから、胸がざわつく。
もしあの内容が本当だったら……
「……行くだけ行ってみるか」
重い腰を上げて、上着を羽織って家を出る。
アイツがデートするところを見るのも面白そうだし気分転換に調度いいだろう。
この選択が俺の運命を左右する大きな出来事だったと気づくのはさらに後のことである。
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観察対象が玄関の扉を開けて家を飛び出すのを二階の窓からその赤い双眸で見届ける。
青い髪を切り揃え、ショートカットにし近未来的なサイバースーツを纏った少女。額に装着された機械のグラフィックにはⅩⅠの文字が浮かび上がっている。
虚空に小さなスクリーンを展開し通信を始める。
「──様、指示通り彼を指定の場所へと向かわせました」
『─────────』
「了解」
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「は?」
メモに記された通り公園に向かった俺はこの世界で二度目のすっとんきょうな声を上げることになった。
中央にある噴水が夕日に映えて独特の美しさを見せている。
何事もなかったのなら噴水の美しさを堪能することができただろう。
しかし工場の時と同じように公園には気配も音も失せている。
そして────
「……」
そこに倒れているのはつい数日前まで笑いながら彼女とのデートを心待ちにしていた兵藤。派手に血を流しており、その両眼は虚空を向いたままである。
「……おい、嘘だろ…兵藤……!」
すぐさま駆け寄り、体を揺する。
「しっかりしろ、兵藤!おい、返事してくれよ!おい!」
何度も揺すり声をかけるが、全く反応を示さない。
だが触れてわかった。
冷たい。
既に体温も脈も失われている。
つまりこれが意味することは一つしかない。
死だ。
「そんな……なんで……」
その時、声を投げられる。
「あら、もう一人入ってくるとはね」
俺と兵藤を冷笑を浮かべて見下ろすのはボンテージ衣装の女。
雰囲気こそ違うがその顔は間違いなく兵藤の彼女、天野夕麻その人である。
その背には堕天使であることの証明である黒翼がある。
「お前がやったのか……!」
「ええ、そうよ」
悪びれる様子もなく答える。
「なんで殺した!お前は兵藤の彼女なんじゃないのか!?」
「それは彼が神器を宿していたからよ」
またそれか……!何なんだよ……!セイクリッドギアなんて物を持ってるだけで殺されるのか!
「セイクリッドギアなんて物を持っていたとしても、あいつはあいつだった……!なんでそんなもののためにアイツが死ななきゃならないんだよ!?」
「それは彼が危険因子だからよ、恨むなら神器を宿させた神を恨んでほしいわね」
コイツ……自分は悪くないとでも言うのか……!!
やつがあくびをすると、今まで浮かべていた冷笑が一転、嘲笑に変わる。
「ぷふっ、思い出すだけでも笑えてくるわねぇ!あのバカの浮かれた顔!」
「……」
……今度はあいつを侮辱するのか。
「気持ちいいくらい思い通りに動いてくれたわ、バカは考える頭もないのね、おかげでいちいち細かく作戦をたてる手間が省けたわぁ」
今度はおどけた調子で身ぶり手振りを混ぜて語る。
「『その服、似合ってるよ!』、『大丈夫?夕麻ちゃん』、ぶふっ!ごっこ遊びにしては傑作だったわ!!」
怒りがこみ上げ、拳を強く握りしめる。
「本当に大変だったわ、うまく騙すために清楚な女子高生を演じて」
「黙れ…」
「帰り道には欠伸がでそうな退屈な話を聞かされて」
「黙れ……!」
「そして最後になんの捻りもないクソつまらないデートに付き合わされて!」
「黙れェ!!」
今まで感じたことのない程の怒りが燃え上がる。熱い。強く握りしめた拳が真っ赤になっている。
「俺は今までこんなにも誰かを憎いと思ったことはないっ!!」
「だったらどうするのかしら?まさかここまで来て無事に帰れるなんて思ってないわよねぇ?」
その手に光の槍を生成する。以前会った堕天使のものよりもその輝きは強い。
本当は使いたくなかった。
一生使わないことで忘れるつもりだった。
でも、目の前で友達を殺されて、侮辱されるのを黙って見ていることなんてできない!
「お前はここでぶっ潰すッ!!」
腰にゴーストドライバーが出現する。眼魂を起動しセット、カバーを閉じる。
〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕
「変身ッ!」
トリガーを引き力を解放する。
〔カイガン!スペクター!〕
全身を黒いスーツが覆い、さらにパーカーゴーストを纏う。
〔レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キゴースト!〕
二度目の変身を果たした俺は、見下ろし嘲笑う堕天使を指差す。
「お前だけは絶対許さない……!!」
Q.「コード」って何?
A.原作一巻を一章としてそれをさらに大きくくくったものです。
更新が遅れてすみませんでした。リアルが忙しかったもので…
次回は戦闘回です。一応ヒロインは決めてあります。まだ秘密ですが。