ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第81話 「迫る黄昏、集う勇者達」

「やるならメイド喫茶かお化け屋敷かな」

 

授業が全て終わって放課後へと移り眩しい黄金の陽光が差し込むオカルト研究部部室でオカ研メンバーは議論を交わす。

 

いま議論しているのは学園祭に向けた出し物の件だ。オカルト研究という出し物のネタには困らないはずなのだがただ活動の結果を発表するだけではパンチが弱いということで人目を引きつけ、万人が楽しめるものということでメイド喫茶とお化け屋敷のどちらかをやろうというように話が流れていった。

 

「俺としてはただのメイド喫茶じゃなくおっぱいメイド喫茶が…」

 

「却下よ」

 

「何で!?」

 

個人的な煩悩塗れの案をつらつらと出す兵藤に部長さんは冷静に否を突き付ける。

 

「イッセーの言う通り、そういう方面で行けばポイントは稼げるでしょうね。でもそもそもの話、生徒会や先生方の許可がまず出ないわ」

 

「ガーン!」

 

夢、儚くも崩れ去る。むしろ何で通ると思ったのだろうか。

 

「なら、オカ研の女子部員の方々で人気投票をするというのはどうでしょう…?」

 

兵藤が崩れ落ちたところにギャスパー君が恐る恐る意見を口にした。

 

「人気投票!その手があったか!」

 

「うちの部員は人気があるから注目度は高くなりそうだね」

 

ギャスパー君の名案に詰まっていた話が再び動き出す。うちの部は二大お姉さまやマスコットなど有名人揃いだ。中々話題性もあり、盛り上がりそうな企画ではある。オカルトに関係あるかはさておきだが。

 

「面白そうね。まあ私の一位は揺らがないだろうけど」

 

「あらあら、本当にそうかしら?いよいよどちらが真のお姉さまか決着をつける時が来たようね」

 

「上等だわ、この際はっきりさせるのもいいわね」

 

ギャスパー君の案に関心を示す部長さん。しかし何気ない一言が朱乃さんの闘争心に火をつけてしまい、すぐに二大お姉さまの間で激しい闘争の炎が燃え上がった。

 

この人たち、いつも喧嘩しているなぁ。喧嘩するほど仲がいいというが、最近は兵藤絡みでさらにそのペースが増えたに違いないし、これからもたびたびこのような光景を目にすることだろう。

 

「わ、私も参加するんですか…?」

 

「アーシアは兎も角、イリナには負けたくないな」

 

「何ですと!?」

 

「マスコット部門なんて作れませんか…?」

 

戸惑うアーシアさんの一方でゼノヴィアは乗り気だ。塔城さん、あんた意地でも一位になりたいんだろ。

 

しかし話が出ただけで本人たちの間でこれなのだ。正式に決定し生徒たちの間で発表されようものならきっと…。

 

「いつもはあなたが『王』なのだからたまには私に一番を譲ってもいいじゃないの」

 

「そんなことは関係ないわ!あなたにだけは負けたくないのよ!」

 

「…学校中を巻き込んだ戦争になりそうだな」

 

「その前にオカ研並びにグレモリー眷属崩壊間違いなしだ」

 

「これもやめておいた方がよさそうだね」

 

止めておこう、大事な戦いを前に内部分裂しましたなんてことになったら大ごとだ。バラキエルさんやヴァーリが呆れる中で多分美猴あたりは大笑いしそうだが。

 

ヒートアップしていく部長さんと朱乃さんの口喧嘩で話し合いは流れてしまい、また後日に各自案を用意して話し合うことになった。

 

「…黄昏だな」

 

窓から注ぐ夕暮れの黄金色の輝くに対する何とない先生の呟き。さっきの話し合いには参加せず紅茶を片手に静観していた先生の他意のない呟きは盛り上がっていた部室が一気に静かになる。

 

「そう緊張するな、保険もいくつか打ってある…決戦まであと五時間後。程よく緊張し、盛り上がる時には盛り上がっていけ」

 

それから数分後、活動時間終了を告げるチャイム音が鳴る。今日の楽しい学園生活はこれで終わりだ。

 

学園生活が終わると何が始まる?

 

そう、決戦だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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決戦の時もいよいよ近づき、全員が集まったのは会談が行われる高層高級ホテルの屋上だった。

 

日がすっかり落ちて空は夜の色に染まり、月明かりと細々とした星明りが夜空を彩る。そんな夜空の下で俺達は高所故の強い風に吹かれてながらも作戦開始を待つ。

 

「…寒いな」

 

寒さに震える手で握る黄金の槍は件のグングニルのレプリカ。つい先ほど宝物庫から発見された物をロスヴァイセさんに手渡されたばかりだ。

 

本物を見たからこそ思うのだが、見た目は大差ないもののやはりレプリカというだけありイマイチ物足りないように感じる。だが神の武具というからにはその威力はお墨付き。後は俺がどれだけこいつの力を引き出せるかだ。

 

このホテル周辺の建物の屋上には先生にグリゴリ送りにされた匙以外のシトリー眷属がそれぞれ待機しており、ロキの出現を確認し次第結界を発動させる。ここからだと小さな人影が見えるくらいだが、きっと硬い表情をしていることだろう。

 

会談に参加する先生以外のオカ研や意気揚々と乱入してきたヴァーリチームはもちろんメリィさんとバラキエルさん、戦乙女らしい銀の鎧に身を固めるロスヴァイセさんもやがて来るその時を待っている。

 

龍王のタンニーンさんも快く参戦を承諾し、今ホテル上空で待機中だ。最もあの図体が目立たないはずがないので一般人に見つかって騒ぎにならぬよう術をかけて視認できないようにしている。増援は期待できない状況下で龍王が手を貸してくれるのは非常に心強い。

 

「…噂の戦士はまだ来ないのか?」

 

相も変わらず、屋上に吹く冷たい風ですら涼しいと言わんばかりの表情でヴァーリは言う。

 

そう、事前に遅れるとの連絡があった匙を除き、まだ一人この場に姿を現していない者が一人いる。

 

それは…。

 

ガチャリ。

 

『遅れて済まない、また会ったな…ヴァーリチームには初めましてか』

 

噂をすれば影が差す。開かれた屋上のドアから現れたのは左右で異なる色をした歯車を随所に装着された戦士、ヘルブロスことポラリスさんだ。そのサイバーチックな装いが否応にも皆の注目を集める。

 

ちなみに声は前回と同様ボイスチェンジャーで低く加工されている。低い声と口調も相まって皆からは男と思われているようだ。あのヘルブロスのスタイルやデザインに女性らしさはないからそう思われても仕方ない。

 

「お前が噂の不審者か」

 

『そうだ。この度はよろしく頼む』

 

初対面のポラリスさんとヴァーリは手短に言葉を交わす。それからポラリスさんはこの作戦の指揮を任されたバラキエルさんの下へ行く。去り行く彼女の背にヴァーリチームは視線を外さない。

 

「ザ・歯車って感じだな…それより仙術でもこいつの気が読めねえ」

 

「私もよ。あのスーツが遮断でもしてるんじゃないの?」

 

「この作戦に参加する以上は相応の実力の持ち主なのでしょうね」

 

「強者なら誰でも大歓迎だ。戦いで頼りになるし、何より未知の強者はワクワクする」

 

視線の意味は好奇、詮索と様々だが彼らの願うことは一つ。彼女が自分達のお眼鏡にかなうレベルの強者たることそれのみ。

 

そのうちバトルジャンキー共に喧嘩を振られないことを願っておこう。神に喧嘩売りに行く連中だぞ、探求心と闘争心の塊のようなこいつらが異世界を渡り歩いたというポラリスさんのことを知れば間違いなくろくなことにならない。

 

「…以上が作戦だ。何か質問は?」

 

『ない。私はフェンリルの陽動に回るとしよう』

 

バラキエルさんがポラリスさんに一通り作戦を説明し終えると、ふとこちらを向いた。

 

「一つ皆に知らせがある。遅くなって悪いが、そこの彼の他に急遽もう一人天界陣営から助っ人が来ることになった。作戦の途中から参戦するとのことだ。彼も多忙な中、ぎりぎりまでスケジュールを調整して作戦の参加を決めてくれた」

 

「!」

 

ポラリスさん、タンニーンさんに続く更なる助っ人の発表に決戦を控えて硬くなっていた皆の表情が明るくなる。今までの敵とは大きく格が跳ね上がって今回は神、依然として強大ではあるがその差は埋まりつつある。果たして今度は一体誰が手を貸してくれるのだろうか。

 

「多忙なスケジュール…有名人かしら」

 

異形界の有名人というのは神だったり魔王だったりと実力のある者がほとんどだ。ただし実力者であると同時に大抵は要職についているから普段は前線に立つことはない。

 

もしそういう人が来るのだとしたら、それだけ今回の件が大事件だという証明にもなる。どうしてこうも事件にばかり巻き込まれるのだろうか、俺達。

 

「ちなみにその助っ人は誰ですか?」

 

風に薄い金髪を揺らす木場が訊ねる。神と交戦するこの作戦に参加できる者はかなり限られるが一体誰なのだろう。

 

「それは本人の希望で到着まで伏せてほしいとのことだ。おそらく、知ればヴァーリが大人しくしないだろうからな」

 

「…匿名希望の助っ人ってどういうことだ」

 

何でわざわざ大事な作戦なのに隠す?ヴァーリが大人しくしない?俺はバラキエルさん、並びに助っ人の意図が全く読めなかった。

 

「ヴァーリが大人しくしないとなれば助っ人は余程の強者でしょう」

 

「ガチモンの強者だったら戦いの後で一戦頼んでみっか?」

 

「そうだな。ロキとの戦いの後で余裕はないだろうが、もしそうなら是非手合わせ願いたいところだ」

 

カカカと笑う美猴と戦意に口角を上げるヴァーリ。気に入らない点は多々あるが戦いを前に余裕を崩さないこいつらの図太さを見習いたくはある。

 

「イリナやメリィさんは何か知ってるか?」

 

「え、私何も聞かされてないわよ?初耳なんですけど」

 

「私は知ってますけど~秘密です」

 

戦いを前にしても朗らかな表情を保つメリィさんはニコニコで口に手を当てる。助っ人は天界陣営であるにもかかわらず、同じ天界組の紫藤さんには知らされずメリィさんには知らされている。これは一体どういうことなのか。

 

…いやまさかな。でももしそうなら心強いなんてレベルじゃないぞ。

 

「紀伊国君、一ついいかしら」

 

まだ見ぬ助っ人のことをあれこれ考えていると部長さんが話しかけてきた。

 

「あなた、以前ポラリスと会ったことがあるのよね?」

 

「はい、そうですけど」

 

「その時の彼はどんな感じだったの?」

 

「…何と言うか、掴みどころのないミステリアスな感じでした。でもその一方であの時の俺に容赦ない言葉を浴びせながらも熱くぶつかって立ち上がらせてくれる人物でした」

 

あの時のことを思い出しながらありのままを部長さんに伝える。

 

あの時はよくもまあ限界すれすれの俺に自分勝手な奴だと下手すれば心をぶっ壊すような発言をしてくれたものだ。でもあのやり取りがなければ今の俺はなかったとはっきり言える。

 

「そうなのね…私にはまだ彼が本当に味方なのか判断しかねるわ。本当にあのポラリスを信用していいのかしら?」

 

俺の話を聞き、まだ迷いの残る目で部長さんはさらに訊ねる。

 

仲間を助け、結果的には自分達や町の危機を救うことになったとはいえ見ず知らずの、素顔も素性もはっきり明かさない人物とこんな大事な一戦を肩を並べて戦うのに敵ではあるものの素性が割れているヴァーリ以上に大きく不安を感じているのだ。

 

「うーん、俺も彼について知らないことは多いですけれど少なくとも俺達に悪意を向けるような悪人ではないのは確かです。俺は信じてもいいと思っています」

 

俺の知らない情報を多く握り、未だに何を考えているかわからない所が多い人ではある。彼女の言う計画やいつかなど聞いてもはぐらかすばかりで疑問は日々尽きない。

 

だが彼女が俺達の敵ではないということははっきり言える。それは本人が自分から断言していることでもあるし、これまでの、そして今回の行動で証明している。もし彼女が俺達に害をなす存在ならこの危機的状況で俺達に手を差し伸べたりしないだろう。

 

そして叶えし者など今の凛を一番知っているのは彼女だ。俺は彼女を元に戻すためにポラリスさんから情報を引き出さなければならない。この状況を乗り越えるためにも、凛を取り戻すためにも、今の俺達には彼女の力が必要だ。だから今は彼女を信じるほかない。

 

「でも僕たちの敵じゃないなら、どうして僕たちに存在を隠すよう紀伊国君に頼んだんだろう?」

 

しかし木場はポラリスさんへの疑念を隠さない。確かにそこはちゃんと説明してもらわないと気になる点だ。

俺もその理由についてはイマイチよくわかっていないことの一つでもある。

 

「…それはわからない。こればかりは直接本人に聞くしか」

 

「なあポラリス…さん?」

 

『何用だ』

 

会話しているうちにいつの間にか兵藤が一人異質な存在感を放つポラリスさんに恐れることなく言葉をかけた。

 

「あんたってどうして悠に俺達に内緒にするよう頼んだんだ?」

 

「いや行動に出るのが早い!?」

 

そして誰もが異質だと思い接するのに躊躇する彼女へ臆することなく直球で疑問をぶつけた。ヴァーリたちが闘争心と好奇心の塊なら行動力の塊かこいつ!?

 

『ふふ、それは私がまだ正体を明かし、本格的に歴史の表舞台に立つ時ではないからだ。この歯車の仮面を外し、素顔を君たちに晒した時こそがその時だよ』

 

正直に訊く兵藤に思わずポラリスさんも苦笑しながら答えた。

 

この人、兵藤たちにも同じことを言ってんな。というか男だと思われてるっぽいからまず女だということにびっくりするんじゃなかろうか。

 

この場で教えてやるのは簡単だが…その反応も見てみたいからあえて黙っておこう。

 

「…お前、本当に何者だ?禍の団のスパイか?それともロキが内側から崩すために送り込んだスパイか?」

 

はぐらかす物言いにゼノヴィアは剣呑な視線を向ける。やはりと言うべきか、俺を助けたという事実があるとはいえ完全に信用しているとは言えない。

 

「どうなんだ、ヴァーリ?」

 

「俺の知る限り禍の団にそんな奴はいないしあの機械じみた武装も存在しない。むしろここまで目立つ奴が禍の団に所属していれば同じ禍の団の俺が知らないはずはないと思うがね」

 

「あのユグドラシルの力を手に入れた今のロキならスパイを送り込むまでもなく我々を全滅させられると考えるでしょうね」

 

「ム…」

 

最もらしいヴァーリとアーサーの言い分にゼノヴィアも反論できず押し黙る。

 

もし本当にポラリスさんが禍の団の構成員だったりしたら俺が社会的にも精神的にも死ぬぞ。信じた人が実はテロリストでしたなんて最近悩みの種が多い俺の心にとどめを刺す一押しになること間違いなしなんだが。

 

『焦らずともそれを知るいつかは必ず来る。だがこの戦いに敗れてはそのいつかも来ないがな』

 

「いつかいつかとは、まるで未来を知っているかのような口ぶりだな」

 

『さてね、だがいつかは必ず来るとだけ言っておくとしよう』

 

ヴァーリの挟んだ言葉もやはりいつものようにはぐらかす。今までに何度も見てきたこういう彼女らしいところが本当にポラリスさんなんだと実感させる。

 

そしてこれから初めて、ポラリスさんと肩を並べて戦う。これまでは模擬戦の相手で共闘する機会のなかった彼女の実力の一端を垣間見る時が来たのだ。神を相手にする以上、俺に見せたことのない力も使うだろう。うちのリーダーがどれ程のモノか見せてもらおうじゃないか。

 

追及しても無駄だと感じたか、それ以上誰も問い詰めることはなかった。

 

やがて作戦開始前の緊張と静寂が再び戻って来る。会話はなく、びゅうびゅうと泣くような風の音がこの場を支配する。

 

「…悠、わかっているな?」

 

静寂の中で隣にそっと身を寄せるゼノヴィアは心配そうな眼差しを向ける。

 

「もちろんだ、絶対に死なない。必ず生きて帰ろう」

 

彼女の心配を和らげ、切なる思いに応えるようにそっと手を包むように握り返す。

 

彼女を泣かせるまで心配させてしまったのだ。ここで生きて帰らねば、男が廃るというもの。必ずや生還し、彼女が話したいことを聞き遂げよう。

 

彼女との約束を果たすことが、こんな自分に寄せてくれる彼女の信頼に報いることに繋がる。

 

絶対に…生き残って見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチッ。

 

刹那、ホテル上空の何もない空間に電撃を帯びた波紋が走る。突然の現象に多少は和らいでいた雰囲気は一気に緊張で張り詰める。

 

波紋は幾度となく繰り返し、空間から滲み出るように俺達のターゲットが姿を現そうとしている。

 

「来た」

 

「標的を確認、結界術式を展開しろ」

 

即座にバラキエルさんが通信魔方陣を介して別所で待機しているシトリー眷属に指示を出す。

 

数瞬の後、空に様々な複雑な文字が刻まれた術式がばっと展開する。広範囲に展開されたそれは空一面を覆いロキもその範囲に巻き込む。

 

やがて結界から放たれるかっと眩い光が視界を塗りつぶして――

 

 

 

 

 

視界を覆う光が晴れると、雲の間から月明かりが覗く夜の空の色が赤紫色に変わっていた。そして変わっていたのは空色だけでない、ビル屋上だった風景も殺風景なゴツゴツとした岩が突き出る採掘場。

 

屋上にいた全員がこの場にいる。無事、シトリー眷属が発動した結界による転移に成功したのだ。

 

「やれやれだ」

 

そんな中、ひときわ高く槍のように鋭く突き出た岩の先端に悠然と降り、ぴたりと立つ男が一人。

 

「我の力に対応できるよう特別に組まれた術式か。今の我に対抗しうるとはなかなかのやり手だよ」

 

俺達が阻止しなければならない敵、悪神ロキ。その姿は以前と違い身に取り込んだというユグドラシルの面積が増えている。

 

側頭部から木の角が生え、木に飲まれた端正な顔の右半分はもはや異形の怪物にも見える。さらにはその背に大きな木の根が六本ほど雄々しく突き出ており、さながら天使の翼のようだ、最もその翼は純白でもなければ美しさもない不格好なものだが。

 

そして木の怪物へとその身を近づけた主の傍に、フェンリルが控える。獰猛な神喰狼が従う主の敵を見下ろしてうなりを上げた。

 

「だが無駄な足掻きだ。ここで誰の邪魔も入らず貴様らを皆殺しにし、会場に戻りオーディンの首を打ち取る。オーディンの寿命が僅かながら伸びただけに過ぎん」

 

冷徹な殺意が向けられる。遥か格上の存在である神の殺意、そのすごみに世界が一瞬で凍り付いたような錯覚を覚え、圧倒されて思わず一歩後ずさる。

 

怯む俺達の中で一人、動じないバラキエルさんが奴に言葉を投げかける。

 

「貴殿の思想は危険すぎるな。なぜそこまで変化を恐れる?」

 

「何を言う、貴様らの言う変化とは我々にとって猛毒でしかない。閉ざされていた神話はオーディンによって開放され、猛毒の風が流れ始めている。猛毒によって歪められ、死にゆく北欧神話を我が主神となって正し蘇らせる。今更後に引く選択肢はない」

 

「話し合いは無意味か」

 

俺たちよりも永き時を生き、神話の変遷を見てきたが故の決断を下したロキの意思は揺らがない。短い話が終わりいよいよ決戦が始まる。戦の機運が一気に高まり、それぞれがオーラを高め、得物を構える。

 

「行くぜ」

 

「ああ」

 

「滾るな」

 

果敢にも一歩前に出る兵藤、その隣に俺と戦いに昂るヴァーリが続く。本丸を叩く役目を任命された三人だ。

 

〔Boost!〕

 

〔Divide!〕

 

〔ゴーストドライバー!〕

 

各自、神器を一斉に展開する。転移した直後から禁手のカウントを始めていた兵藤はカウントを終えており、いつでも発動できる。

 

緊張や戦意、様々なものが混ざり合って震える手で己の魂が込められたスペクター眼魂を握りスイッチを押して起動、ドライバーに差し込む。

 

〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

ドライバーから黒と青のパーカーゴーストが出現し、神との戦いを目前にする俺達を鼓舞するように力強く周囲を舞う。

 

そして高らかに叫ぶ。戦うための掛け声、力を解き放つ詠唱、己を変えるための一声を。

 

「禁手《バランス・ブレイク》!」

 

「禁手《バランス・ブレイク》」

 

「変身!」

 

同時に光が弾け、その姿を戦うためのものに変じさせる。

 

〔Welsh Dragon Balance Breaker!〕

 

随所に翡翠の宝玉が埋め込まれた、赤き龍帝の力の具現たる勇ましい赤鎧を身に纏うは赤龍帝、兵藤一誠。

 

〔Vanishing Dragon Balance Breaker!〕

 

背に透き通るような空色の光翼を生やす、白き龍皇の力の象徴たる美しい白鎧を身に纏うは白龍皇、ヴァーリ・ルシファー。

 

〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト〕

 

黒いスーツの上に全身に青いラインが走る、異世界より来たる戦士、仮面ライダースペクター。

 

今ここに、立場と世界を越えて赤、白、青の3人の勇士が並び立つ。

 

今こそ、決戦の時。

 

「かかってくるがいい、神に歯向かう命知らず共よ」

 

俺達を見下ろす傲岸不遜たる神は相対する実力者たちを前に不敵に笑む。

 

一神話の命運をかけた戦いの幕が、ついに切って下ろされた。

 




ということで前回言っていたやりたかったこととは3人の同時変身でした。やはり同時変身って熱いですよね。ネクロムも加わるかどうかは今後次第です。

次回、「赤と白と青の三重奏」

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