Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
5.ビリーザキッド
6.ベートーベン
7.ゴエモン
9. リョウマ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
〈BGM:Extreme measures (Video helper)〉
『……』
けたたましい奇声を上げて寄せ来るプラセクト達の大群。そこにポラリス…ヘルブロスはゆっくりと歩む。
歩みは進むにつれてペースが上がって疾走へと変わり、ついには大地を蹴って大きく跳躍する。群れとの距離は一気に縮まり、やがて眼下に群れを捉えるまでに進むや否やネビュラスチームライフルを連射して雑魚を散らしながら群れの中へと着地する。
最初にヘルブロスの突入に反応したのはサボテンの形質を持ったクモ型のプラセクトだった。着地した彼女の姿を視認するとグロテスクな口を開き棘を矢継ぎ早に吐き出して、生涯最初の獲物であるヘルブロスに攻撃を仕掛ける。
『ふっ』
それを彼女は舞うようにステップを踏みながら回避、ぎらぎらと四ツ目が輝く頭部に銃撃をお見舞いして沈める。
起こった爆音に複数のプラセクト達が彼女の存在に気付き、排除せんとぞろぞろと動き出す。そしてあらゆる方向から凶暴性と食欲が混濁した輝きを目に宿すプラセクト達の攻撃が飛んでくる。
2時方向からの突撃、横っ跳びで避けて眼を狙って射撃。視界を暴力的な痛みによって潰されたプラセクトはたまらず辺りに味方がいようと構わずに暴れる。
続けて8時方向の上空からまるで狩りをするハヤブサの如くトンボの姿をしたプラセクトが急降下して襲い掛かって来る。彼女との距離は数秒とかからず縮まり、やがて間合いに入った。よだれに湿ったトンボの咢が彼女の体を捕えるまでわずか数㎝になったところ。
『ふん!』
その場で軽く跳んで宙で一回転、回転の勢いを加えた強烈なかかと落としを振り下ろし、食らいつこうとするトンボの頭部に叩きつけて滅茶苦茶に破壊する。衝撃の余波でごつごつした地面にもめきりとひびが入った。
まるで釘に金づちを打つかのような一撃にトンボは蓄えていた勢いもろとも死んだ。かかと落としを受けた頭部はへこみ、できたヒビから絶えずどろどろとした体液が流れ出る。
攻撃を対処したばかりの彼女の背後からハナカマキリ型のプラセクトが接近する。艶やかなピンク色の鋭い前足を振りかぶるがその前に彼女は体を横に捻って回転、振り向くと同時にその勢いを利用しての斬撃を飛ばす。それと同時にプラセクトの動きが止まって数瞬後、プラセクトの上半身と下半身が分かたれる。
切断された上半身がズンと音を立てて落ちた少し後で下半身も同じようにズンと倒れる。骸によって開けられたその先の光景が晒される。そこにあるのは我先に得物を捕食せんとよだれを垂らすプラセクトの更なる大群、一斉に獰猛な視線が彼女に注がれる。
そんな視線を受ける彼女は先ほど仕留めたトンボの死骸、砕けた頭部を軽く足蹴にして一瞥もくれることなく適当に転がした。
それから吐いた台詞は、戦意とそれをぶつける相手を前に高揚して震えていた。
『さあ、もっと自分を暴れさせておくれ』
バンと弾けるような音と同時に、ヘルブロスは群れの中を駆ける。
視界に入った虫から攻撃を浴びせ、次々に撃破する。銃声、剣戟音、打撃音がそれらの攻撃を受けた虫の断末魔の悲鳴を待たずに次から次へと絶えず鳴り響く。目を潰し、胴体を裂き、甲殻を衝突事故に遭った車のような惨状の如くひしゃげさせ、命を刈り取っていく。
それを行う彼女は数秒と同じ場にとどまることはなく、敵を倒すと死骸を足場にして弾丸のように跳んで移動し、次の敵へ攻撃を仕掛ける。
プラセクト達の動きはヘルブロスのセンサーと彼女の目で全て見切り、彼女の攻撃は主に急所を的確に叩き込まれていた。銃撃は敵の甲殻を穿ち、剣戟は敵の体を容易く両断し、打撃は虫の脚関節に打たれ態勢を容易く崩す。態勢を崩して一秒後に来る一撃は確実にプラセクト達を絶命させた。
まさしく四面楚歌、辺り360度をたった一人敵に囲まれた状況においても彼女は何ら怖気づくことなく淡々と、敵を殲滅しにかかる。ただただひたすら、骸の轍を刻みながら彼女は戦い続ける。
プラセクトの中に今の彼女を止められる者など、誰一人として存在しなかった。
左腕に歯車上のエネルギーを発生させてプラセクトを切り刻んだ彼女はふとドッと天高く跳躍した。これまで間近に見えていたプラセクト達の姿を置いてけぼりにして一人群れを見下ろす。
そして腰に装備したアタッチメントにネビュラライフルを引っ掛け、自由になった両手で印を結び始める。
『繋げ、秘儀糸《ドゥクトゥルス》』
短い詠唱の後、魔法は起動しヘルブロスの指から細い光の糸が伸びる。
これは彼女が夢見ざる者と人に捨てられた見果てぬ夢が戦う世界で学んだ魔法。魔法が失われた世界で唯一魔法を受け継ぎ続け世界の平和を夢見る者達の下で学び、彼女は魔法という新たな力を得た。
『黄泉の雷華の咎巡り、裁かれざる者ありうべからず!』
力強く唱えられた詠唱と共に両手の光糸は互いに繋がり、結ばれ、一つの魔方陣となる。
完成した魔方陣はばちばちと雷を帯び、すぐに大きな雷を吐き出す。それがぐるぐると大渦を巻いて地上に跋扈するプラセクト達を薙ぎ払い、不運にも雷に打たれた虫は灰燼に帰していった。
そのまま重力に従って落下していく彼女の下にハチ型のプラセクトが飛来する。獰猛な顎を開いて彼女の胴を噛みちぎらんと迫って来る。
『…』
そこに彼女はすかさずネビュラライフルを剥き出しになった口内に突っ込み引き金を引いた。発射された弾丸の威力に頭部が綺麗に丸ごと吹き飛ぶ。発生した小さな爆風に軽く煽られながらも上手く態勢を立て直して数秒後、彼女は一匹のプラセクトの背に着地した。
玉虫色のように美しい甲殻に覆われた背に妖しい模様が浮かぶ花が咲いている。収集家なら一かけらでもその絵にも言えない美しい甲殻を取ってコレクションに加えたいと思うだろうがあいにく今の彼女にはそのような一切の情緒は失せている。
間髪入れず彼女は着地の足場、クッション代わりになってくれた礼だと銃剣を突き立ててトリガーを引く。内部に侵入した銃口から銃撃が爆ぜ、内部からプラセクトを破壊した。
息絶えてはいるもののまだ死骸として外の形の残るプラセクトの骸に立つ彼女はそれでもまだやってくるプラセクト達を軽く睥睨すると次の攻撃に出る。
〔エレキスチーム!〕
ネビュラライフルに備わった赤いバルブを捻り、その機能を再度引き出す。そして今度は紫色の蜘蛛の意匠がついたボトルを装填する。
〔スパイダー!ファンキーショット!〕
ボトルの成分と電撃が混ざったエネルギー弾を上空に撃ちだすとエネルギー弾は弾けて元々の大きさの何倍はある雷の蜘蛛の巣へと変化して空中に残り、上空を跋扈するプラセクト達を引っ掛けてはその身を激しい雷で焼いていく。
上空に展開した雷の巣を一瞥してからネビュラライフルの刃の部分で地面に突き立てて、彼女は光糸を手繰って更なる魔法を繰り出す。
『修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍もて降り荒べ!』
両手の光糸が今度は複数の魔方陣を生み出し、そこから無数の雷条を一斉に打ち出す。凶暴な雷条が群れ為すプラセクト達に食らいつき焼き焦がしていく。
異世界を渡り歩き、技術も魔法も武術も、戦いに使えるモノは全てを我が物にしてきた彼女は自分を技の宝物庫、あるいは闇鍋だと自負している。そんな彼女があらゆる力を求めたのはいかなる状況だろうと、如何なる技を使う敵だろうと、如何なる性質を持った敵が相手だろうと打ち倒せるようにしなければならないと彼女が考えたためだ。
そうしなければ彼女の悲願は果たせない、彼女の敵は倒せない。長い長い歳月を重ねて硬くなり、どんな思いよりも強く、切ない物になった思いを抱えて彼女は過酷な道を歩んできた。
幸いにも彼女にはそれにかかるだろう途方もない歳月に耐えられるだけの体がある。目的のためならどんなものを使い潰してでも前進する。たとえ前進に求められるものが自分の体であろうと。
魔法を放ってすぐに緑色のヘリコプターのレリーフが施されたボトルを手早くシャカシャカ振ってネビュラライフルのスロットに装填する。
〔ヘリコプター!〕
音声が鳴り、ボトルの成分を凝縮した緑色のエネルギーが銃口に収束され、それは背後に展開するプラセクト達に向けられる。
〔ファンキーショット!〕
引き金を引くと緑色のエネルギーは大きなプロペラの形状に変化して射出され、行く手を阻むプラセクト達を切り刻みながら飛んでいく。
プロペラが飛んだ先に出来上がったのは虫の骸の道。彼女の眼前で体液まみれで異臭を放つ道に新たなプラセクト達が降り立ち道をふさぐ。
『ネクロムとの一戦を除けば久方ぶりの実戦…アジトにこもりっきりで溜まったストレスを発散させてもらおう』
マスクの裏で口角を上げる彼女の、少々過激で派手な『ストレス発散』が始まる。
〈BGM終了〉
目の前に迫るプラセクトの大群、そこに無謀にも一人で突入し鬼神のような戦いぶりを見せる彼女にリアス達は圧倒されていた。
「あれがポラリスの力…」
「あいつ無茶苦茶だな…」
疾風怒濤の勢いで攻め立てる彼女の姿にリアスは感嘆の声を漏らした。戦いを好むものが多いヴァーリチームのでさえも若干引いていた。
この戦いに加わる以上はそれ相応の実力を備えているだろうとは思っていた。だがここまでの無双を実現できるほどとは思ってはいなかった。
戦闘開始前の彼女の宣言通り、確かにリアス達は彼女の力量のほどを理解した。いや、これだけのものを見せられたら否応にも理解せざるを得ない。
『あの者の経験値が相当なものであるのは間違いないな。何より動きに迷いがない』
「これだけの強者が無所属とは信じ難い、この戦いが終われば正式にこちら側に迎えた方が良さそうだ」
この中でも年長のバラキエルやタンニーンも彼女の戦いっぷりに唸る。
作戦の指揮を任されたバラキエルは彼女の力に感嘆の意を抱くとともに、もし彼女が敵に回ったらという危機感もあった。無所属でこちらに協力してくれる今ならなおさら、脅威になる前に彼女を味方につけたいという思いは強い。
「あの人が使う魔法、今まで見たことのない体系ですね。独学にしては魔方陣が綺麗過ぎるというか…一体どこで…」
この中で最も魔法に詳しいロスヴァイセの注目点は皆とは少々違った。彼女の機械らしさを押し出した兵器よりも彼女が操る魔法に興味を奪われていた。
彼女が生み出す魔方陣に描かれる魔法文字を注視して、その魔法の出所は何かと探るがロスヴァイセが学んできた魔法知識のどこにも合致するものはない。その事実がますます彼女の放つ魔法への興味を深くしていく。
「…彼にばかり戦いを任せるわけにはいかない、我々も行くぞ」
彼女の戦いを見るメンバーの中で最初に我に返り動いたのはバラキエルだった。ばさっと背に10枚の黒翼を広げて、先に彼女が単身突撃した戦いに赴かんとする。
「さあ、私たちも行くわよ」
「はい!」
グレモリー眷属も『王』たるリアスの意志に彼女の眷属たちも応える。
「俺っちも行きますかね!」
「これほどの大群を前にして戦わないと言ったら嘘ですよ」
ヴァーリチーム達も、待っていましたと言わんばかりにそれぞれの得物を手にして戦意を滾らせた。
「我々がすべきことはあのプラセクトという虫、そしてスコルとハティの討伐だ。それが終わり次第、我々も兵藤一誠たちと共にロキと交戦する。行くぞ!」
「「「はい!」」」
メンバーにはっきりと為すべきことを刻み、戦意を奮わせんとする力あるバラキエルの一声の下、全員が動き出す。
各々が翼を広げて羽ばたき、持たざる者は颯爽と馳せ、そして果敢にも群れの中へと飛び込む。
「流星の業火に焼かれろッ!」
「雷光よ!」
今回の主戦力の一人とも言える龍王タンニーンと作戦の指揮をアザゼルに任されたバラキエル。彼らの放つ全てを焼き尽くす業火と光を帯びてその輝きを増した眩い雷光の群れがプラセクト達が埋め尽くす空に突き刺さっていく。
「悪い虫たちにはお仕置きですよー」
ウリエルのQ、メリィにたかる虫たちは漏れなく彼女の神器の生み出すフィールドで力を吸われ、夢の世界へと誘われる。
「ロキ様を止めなければ…!」
続く北欧の戦乙女ロスヴァイセも得意の魔法で一斉掃射をかけ虫の群れに穴を開ける。
「朱乃、ポラリスにいいところを持っていかせるわけにはいかないわ。こういう時にこそ、私たちの真価を発揮するときよ」
「ええ、存分にいたぶって差し上げますわ!」
各勢力の中でも突出した実力者たちに負けじとグレモリー眷属も動き出す。グレモリー眷属のツートップ、『王』と『女王』のリアスと朱乃の二人は互いに背中を預け合いリアスは地上、朱乃は上空のプラセクト達を攻撃する。
リアスの赤い滅びの魔力はプラセクトの硬い甲殻などお構いなしに甲殻の裏の内部ごと削り取る。
「…あまり長く見ていると夢に出そうなので速攻で片づけます」
不満げな表情を隠しもせず、小猫は虫たちの腹に滑り込むと小柄な体躯に似合わぬパワーを秘めた拳を打ち据え、豪快に吹き飛ばす。
「小猫、仙術でスコルとハティの気配を探ってちょうだい!」
「ダメです、虫の数が多くて気配を追えません!」
彼女が二刀の気配を捉えきれずにいたのはもあるが、スコルとハティが父親譲りの神速と父に比べると小柄な体格で密集した虫たちの間間を縫うように移動しているのが大きい。仮にその気配を捉えたとしても、無数の虫たちが行く手を阻んでしまう。
「傷は私が治します!」
「僕の目があれば…」
攻勢に出るメンバーを支えるのは後方で控えるアーシアとギャスパー。アーシアは夏休みの修行で身に着けた回復のオーラを飛ばす技で前線で戦うメンバーを回復させる。
ギャスパーは自分の体を無数のコウモリに変化させて上空からメンバーの状況を観察する。もし傷ついた者がいればすぐにアーシアに連絡を飛ばし、情報を受け取ったアーシアは回復のオーラを飛ばすという算段だ。
「ホントは私もドンパチしたかったにゃ」
「アーシアさんには触れさせないわよ!」
フェンリルを縛るグレイプニルの鎖に周囲の気を取り入れる仙術を利用して力を注ぐ黒歌も作業の間に魔法を飛ばして援護し、リアス達を抜けてアーシアが控える後方に進んだ虫はイリナが切り伏せる。
「やっぱ大勢相手は燃えるなぁ!!」
再び前線に戻り、ヴァーリチームの一員であるは赤い如意棒を叩きつけて硬い甲殻ごとプラセクトを粉々に砕く。大勢の敵を前に闘争を求める彼の心は煌煌と燃え滾っていた。
「剣士としては一対一が好ましいところですが…」
その隣でヴァーリチームの剣士、アーサーは冷静に目の前で獰猛に唸るプラセクトを容易く両断する。彼の得物は聖剣の頂点に君臨するとされる聖王剣コールブランド。数ある聖剣の王とされるコールブランドが雑兵たるプラセクト達を斬れない道理はない。
芸術品と呼んでも過言ではない聖王剣を握るアーサーの背後を狙うプラセクトが一匹いた。クワガタの姿をしたそれは見つけた得物を喰らわんと刺々しい両顎を開くが。
「聖王剣コールブランド、剣に恥じない腕ですね」
開かれた両顎は切断され、悲鳴を上げるプラセクトに片手剣が突き立てられ止めを刺す。プラセクトの亡骸の上に立つのはグレモリー眷属の『騎士』、聖魔剣使いの木場だ。
さらに彼に続き、その隣に聖剣デュランダルを携えるゼノヴィアも立つ。
「ふふ、木場裕斗君、ゼノヴィアさん。同じ聖剣使い同士でどちらが多くあの虫たちを斬れるか勝負してみませんか?」
「いいでしょう、いずれはあなたと戦うつもりです。その前哨戦には丁度いい」
「勝負なら負けないぞ」
了承の笑みを交わし合い、三人の聖剣使いは新たな敵を求め戦場を駆け巡り始める。
この戦いに参加する全員が過去に数々の戦場を駆け抜け、強敵と対峙してきた。それらの経験を通して得た力が十全に振るわれる。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
向こうでプラセクトの戦いが始まったようだ。その証拠に部長さん達がいる方向から派手な爆破音や怖気のするような雷鳴が轟いている。
ポラリスさんも今頃その力を存分に発揮して暴れていることだろう。あの人の戦う姿、本気の一端を生で拝むことができないのは少々残念だが、今はそうも言ってられない。
ヴァーリの半減領域と魔力攻撃が、ロキの放つ分厚い魔法の弾幕に僅かな穴を開ける。
「ハァァァ!!」
そこを布を縫う針の如く突破する俺はロキに迫る。オメガドライブ、そして兵藤の『譲渡』を併用して力を高めたグングニルの一撃が、ロキの世界樹の右腕に突き立てられる。
発生した激しいスパークが視界を眩しく彩った。しかしそのスパークの出所、奴の右腕には僅かばかりの傷がつくだけで一向に決定的なダメージには至らない。
「これでもダメか…!」
この光景に俺の中での焦燥はますます膨れ上がって来る。何度槍をぶつけても奴には届かない。だがロキのパワーアップの源になっている奴の右腕を破壊できなければ勝利の可能性はない。
「ダメだ、そんな貴様に相応しい相手を用意してやろう」
攻撃を受け止めるロキは落胆、侮蔑の色の乗った言葉を返す。内心を見透かしたようなその反応が焦燥をより煽った。
そんな中、おそらくポラリスさんが放ったであろう大規模な魔法攻撃から逃れてきたプラセクトが一匹猛スピードでこちらに向かってくる。
「おわっ!」
焦りに意識を奪われた俺は反応が遅れ、あえなく横合いからタックルを喰らってしまった。
「グングニル持ちの二天龍のおまけはしばらく虫共と遊んでいろ、その間私は二天龍を捻りつぶす」
「紀伊国!」
攫うようなタックルにすっ飛ばされ、ついさっきまで交戦していたロキと兵藤の姿も声も一気に遠ざかる。
勢いよく地面に激突して転がる俺は勢いがおさまると視界が不意に暗くなると同時に悪寒を感じ、すぐに飛び跳ねるように起き上がりその場を離れる。その数秒後にプラセクトの緑色でとげとげとした脚が俺のさっきまでいた場所を踏みつけた。
そして態勢を整えた俺と真正面から相対したプラセクトが、よだれを散らして凶暴に吼えた。
「くそ、邪魔すんな!」
クワガタほどとはいかないまでも大きな顎が特徴のハンミョウ型のプラセクトは咢を開き、俺を食欲を満たす餌にせんと猛進しながら攻撃を繰り出して来る。それをグングニルでじりじりと後退しながらいなす。
攻防の中でハンミョウは大振りな動きを見せた。攻防を優位に持っていくための一撃を繰り出すつもりだ。
これは好機だと腰を落とし、今までよりもスピードを伴った一撃をかいくぐって甲殻に覆われた頭部を神槍で易々と刺し貫く。流石の大樹の眷属と言えども神の槍の力には抗えず、ぶしゃっと黄色い体液を噴き出してそのまま絶命し、ずんとその場に崩れ落ちる。
一体仕留めたことでまた兵藤たちの下へ戻ろうと一歩踏み出した瞬間、こちらに近づく羽音と足音が複数聞こえた。
どうやら足止めをさせたいというロキの意志が通じているのか、それともこちらの仲間の死に反応したのか、わらわらとプラセクトたちが寄って来る。
プラセクト達の展開は早く、瞬く間に俺は周囲を取り囲まれてしまう。
「新しい力を試してやる」
そう言って取り出したのはつい最近得たばかりの新たな眼魂。
ヴァーリからもらったベートーベン眼魂。あいつからもらったという点が癪に障るがこの状況下ではそうも言っていられない。
手を空かせるために神槍を地面に突き立ててから躊躇いなく眼魂を起動させ、ドライバーに差し込んだ。
〔アーイ!バッチリミロー!〕
眼魂の情報を読み取ってその力を解き放ち、解き放たれた力はパーカーゴーストとなって現世に顕現する。
今回新たに出現した白黒のパーカーゴーストは衿や袖の部分にピアノの鍵盤を模した模様が施されていた。パーカーゴーストは周囲を飛んで、辺りのプラセクト達を軽く牽制する。
ドライバーのレバーを引っ張り、押し込むとパーカーゴーストは吸い寄せられるように俺に覆いかぶさる。
〔カイガン!ベートーベン!曲名?運命!ジャジャジャジャーン!〕
頭部のヴァリアスバイザーに灰色の楽譜の模様『フェイスミュージックスコア』が浮かびあがり、変身完了する。新たなパーカーゴーストを纏って誕生したのは仮面ライダースペクター、ベートーベン魂。
数々の名曲を生み出し『楽聖』とも呼ばれたドイツの作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンにちなんだ能力を秘めたフォームだ。
「品のない聴衆にはお仕置きが必要か」
聴衆にしては聞き分けのなさそうな彼らを前に、人差し指を立てた両手を力強いながらも軽やかさも備えた動作で振るい、その能力を発動させた。
最初のBGMはプトティラの初戦闘のBGMと言えばわかる人がいるでしょうか。
プラセクトの強さは大体中級悪魔から上級悪魔の中間くらいと言ったところです。力を裂けばもっと強く出来ますが今回のロキの目的はあくまで数でのゴリ押し、足止めですので。
次回、「白き覇」