Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
5.ビリーザキッド
6.ベートーベン
7.ゴエモン
9. リョウマ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
戦う力を失った俺は内で燃やしていた戦意すらも喪失し、その場に茫然自失とうなだれる。
「そんな……」
地面に下ろした目線が腰についたゴーストドライバーへと移る。かつて多くの戦いを駆け抜け、苦境を突破してきた力が今やロキに封じられ、ただの重しになってしまった。
かつて己に刻んだ誓いは、この力で大切な仲間を、友を守るというものだった。力を手にしたのなら、それを持つ者として、行使するための責任がある。己が望んで得た力の責任を、皆と共に戦い、守るために力を行使することで果たしてきた。
だがしかし、友や仲間を守る力は今失われてしまった。三大勢力の和平が結ばれてなお戦いの続くこの世界でどう生きていけばいい?このスペクターの力なくして俺は異形の世界に居続けることなどできないし和平推進大使という御大層な肩書を名乗れない、ましてやグレモリー眷属の仲間としてテロリストたちと戦うことなんてできない。
それだけではない、凛との決着はどうなる?大事に守り抜いてきた誓いは?そして、今のロキとの戦いで一体何ができるというのか?強敵に苦しむ皆を目の前にして、俺だけ何もできずに蹲るしかないのか?
いいや、俺にできることなんてない。瞬く間に胸に巣食った無力感が嘲笑う。
力がなければ敵と戦えない、皆を守れない。これから先の困難を打ち破ることも、未来を切り開くこともできない。
未来はもう閉ざされた。戦うことのできない俺にはもはや皆と共にいる資格などないのだ。
「俺は……」
俺は戦士として、もう死んでしまったのだ。力も、誓いも失った俺はただの無力で、凡庸な人間でしかない。
喪失感に囚われた俺の瞳が映す視界の隅でふと兵藤がもぞもぞと動く。よく見ると、息を荒げながらも取り出したフェニックスの涙を傷口にかけて回復していた。傷口はじわじわと狭まり、やがてその跡は血に濡れながらも消える。
「まだ…負けてらんねぇ」
血と共に辺りに散らばっている赤い鎧の欠片、足元に転がるその一つを踏みながらゆっくりとあいつは立ち上がった。
どうにか事なきを得たみたいだが、一回こっきりのフェニックスの涙を使ってしまった。次にあのレベルの深手を負えばアーシアさんの手にも負えない。つまり、次はないということだ。
…だが、俺は変身できず二天龍も片やフェンリルのおもちゃ、片やとっておきの回復アイテムを使ってしまった。
グングニルとミョルニルがキーになっているこの作戦は使い手の片方が戦闘不能になってしまった以上ご破算だ。もはやこの戦いに勝ち目など…。
「ふはっ……悪神と呼ばれた貴様が…人に情けをかけるのか」
こんな最悪の状況下で、絶え絶えの声でロキを笑う男が一人いた。嘲笑う声にロキが反応し、その男がいる方へじろりと視線を向けた。
「ヴァーリ・ルシファー…まだ生きていたのか」
フェンリルに今にもかみ砕かれそうなヴァーリが、ロキに言葉を投げかけていたのだ。
顔は血まみれで、フェンリルの鋭利な牙が腹に刺さっている。見るからに重症なのに、それでも神に対して普段のような余裕の態度を崩さない。その胆力に俺は敵ながらも僅かばかり感嘆の念を覚えた。
今にも永遠に途切れてしまいそうなほどに満身創痍な様子で、ヴァーリは言葉を続ける。
「貴様に…二つ教えてやる。戦いにおいて…油断は敗北を招くぞ」
「…何?」
「それと……天龍を…ヴァーリ・ルシファーを舐めるな」
「っ…」
身をボロボロにされ、神をも殺す牙の餌食になりながらも背筋が凍るほどの戦意とプレッシャーをロキに向ける。
流石のロキもまだこれだけの気力を残していたのかと今まで悠然としていた表情を僅かに険しくし、ヴァーリの動向に警戒し始めた。
「兵藤一誠!この狼は俺が倒す!ロキは任せた!!」
「!!」
すうっと息を吸ってから、喉が裂けんばかりに迸るヴァーリの叫びに兵藤がはっと目を見開く。さらにヴァーリは通信魔方陣を開いて指示を飛ばす。
「黒歌!移送の準備をしろ!!」
『合点承知!』
魔方陣の向こうで黒歌が応答するのが聞こえた。移送だと?一体何をするつもりなんだ…?
俺の疑問に答えるまでもなく、ヴァーリは静かに、しかし瀕死と言っても過言ではない身でありながらなお力を込めて言の葉を紡ぎ出す。
「我、目覚めるは…」
〔消し飛ぶよ〕
〔消し飛ぶね!〕
その詠唱を合図に、今は血に濡れる白い鎧の各部におさめられた宝玉が輝きを増し始める。そしてこの場にいないはずの者の声までもが響く。その声はどこまでも悲嘆、憤怒、憎悪、負の感情に満ち満ちた響きを伴っていた。
「覇の理に全てを奪われし二天龍なり――」
〔夢が終わる…〕
〔幻が始まる…!〕
奴が纏うオーラも詠唱が進むにつれてその厚さを増していく。これまでの戦いでも見せていた白龍と魔王の力が合わさった強者の中の強者とも呼べるオーラがさらなる高みへと登ろうとしている。
このフレーズ、怨嗟に満ちた声。俺は似た現象を一つ知っている。それは最近の戦いで、兵藤が起こしたそれとよく似ている。
「無限を妬み、夢幻を想う――」
〔全部だ!〕
〔全てを捧げろ!〕
やがて鎧が有機的な形状へと変じていく。全身から溢れる白いオーラは留まることを知らずどんどん増大し。
「我、白き龍の覇道を極め――」
「「「「「「汝を無垢の極限へ誘おう――!!」」」」」」
そして最後の一節でヴァーリの声と思念の声が一つになる。
〔Juggeranaut Drive!!〕
その音声がトリガーになり、白光が爆ぜる。辺りを照らす光が収まっていくと同時に光の中心にあるヴァーリの新たな姿が明らかになっていく。
その姿はまさしく白い龍だ。ヒロイックさもあった白く麗しい鎧がより生物、もっと言えばドラゴンに近いフォルムへと変化しサイズも一回りほど大きくなった。以前兵藤が暴走した時の姿と似通っているが、破壊衝動に支配された様子はなく動きにヴァーリの意志、理性を感じる。
ジャガーノートドライブ。これがヴァーリの『覇龍』か。奴は自分の膨大な魔力に本来必要とする生命力の肩代わりをさせることで、短時間ながらもあの凄まじい力を制御できるという。
しかし相手は全勢力の実力者の中でもトップ10には入るという化け物だ。如何に覇龍をコントロールできるとはいえ、果たしてあの伝説の魔獣を止められるだろうか。
覇龍を発動したヴァーリの下へ、彼方より高速で飛来するモノがあった。徐々に近づいてくるあの太い巨大な鉄鎖はグレイプニルの鎖だ。さっきまで後方でフェンリルを抑えていた魔法の鎖だが、さっきヴァーリから何かしらの指示を受けた黒歌の仕業か。
一度は捕えていた神狼を放してしまったグレイプニルが再びフェンリルにがっしりと絡みつく。さらにはフェンリルとヴァーリを閉じ込めるように周囲に球状の魔方陣が展開し、ギュルルとうなりを上げながら魔方陣は回転を始めてまたも一際大きな光を放った。
「…!」
魔方陣の光にやられまいと咄嗟に腕で目を隠す。光の放出は数秒と続き、収まってから再び視界を開く。
先ほど球状の魔方陣が展開していた上空、そこにいたはずのフェンリルと覇龍を発動させたヴァーリの姿はなかった。
ヴァーリとフェンリルに起こった現象にロキも、兵藤も、呆気に取られて先ほどまで神と龍の激闘が繰り広げられていたこの場に静寂が降り立つ。忽然と、ヴァーリはフェンリルと共にこの戦場から姿を消した。
「…フェンリルを、道連れにしたのか」
またも呆然と、俺はこぼした。
そうとしか思えなかった。あのままフェンリルをこの場で暴れさせるよりも自らの身諸共に強制的に離脱させる。己の身一つにリスクを集中させるなんと危険な手段か。それに、黒歌に通信していたりと一連の行動、あの手際の良さはあらかじめ計画していたからこそに違いない。
(あいつ…あんなにボロボロだったのに無茶しやがって…)
魔力で肩代わりするとはいえ、負担の大きい力であることに変わりない。あの状態でフェンリルを相手にするなど自殺行為もいいところだ。覇龍でも真っ当にやり合えば死は免れ得ないだろう。それとも、まだその先の策を用意しているのか。
…今度会ったらまた礼を言わなくちゃならなさそうだ。敵なのに助けられてばかりでこちらとしては面目がない。
「…ふふ」
それが最初、誰の声だったかは分からなかった。まるで収まりきらない水が器から僅かにぴちゃとこぼれたかのような笑い声。しかしその笑いは次の瞬間。
「フフフフフハハハハハハハハハ!!!」
堤防が決壊して溢れ出す、大洪水のごとき笑いに変わった。その笑いの主、ロキは狂ったように高らかに笑っていた。
「覇龍を使えるとはいえフェンリルとタイマンを貼るか…どうやら白龍皇も今代の赤龍帝と並ぶとんだ大バカ者らしい!ハハハハハ!!」
大きく口を開けて、ヴァーリの身を挺した行動が面白おかしいと言わんばかりに笑っている。
どうやら奴は神にも兵藤と一緒にバカ認定されたようだ。白は戦闘狂、赤はおっぱい好き、それだけで言えばバカと呼ばれてもしょうがない。
それからも笑い続けるロキはやがて。
「ハハハハハ…さて」
ひとしきり笑い終えたロキは改めて俺達に向き直る。その面持ちには今まで以上の余裕が宿っていた。
まだ何か俺達を相手により優位に立てるような手の内を残している。そんな風な表情だ。
そんな内心に正解を告げるがごとく、ロキは行動に出た。
「私の奥の手を紹介しよう」
世界樹と化していない左手の指をパチンと鳴らす。するとロキの傍らに比較的大きな魔方陣が現れ、転移の光が瞬く。
光が止み、そして魔方陣があった場所に現れたのはフェンリル…ではあるが異形だった。
その生き物は確かにフェンリルなのだ。だが、その生物は醜かった。背からは太くて鋭い樹根が3本ほど突き出ており、四肢が生物のようにうねる樹根に絡みつかれている、そしてロキとは逆に左目の辺りでユグドラシルの根がうねうねと蠢く。
それを一言で言い表すなら、今のロキと同じ様にユグドラシルと融合した異形のフェンリルだ。オリジナル以上にギラギラと凶暴に、飢えた輝きを瞳に宿していた。
「この化け物は…!」
「かつて私はフェンリルのクローンを生産しようと試みた。だが惜しいところまで届いた個体はいたが最終的には失敗した…それを我がユグドラシルの力を使って再利用したものだ」
新たに現れたフェンリルは大きく前足をズンと踏み出し、夜空目掛けて遠吠えをする。あのヴァーリが連れて行ったフェンリルの咆哮は敵対する者を圧倒する力強さの他にどこか気高く、魅了するモノを兼ね備えていた。
だがこのフェンリルは違う。獰猛な本能に身を任せて目に映る全てをロキの意のままに一切合切を蹂躙する怪物だ。ただの咆哮でそれが理解できてしまうほどに、今の咆哮は荒々しく、醜くもあった。
まさかの第二のフェンリルの登場に俺達は怖気のするような戦慄を隠せない。
「フェンリルのクローンだと…!」
まだそんなものを隠していたのか。だったらヴァーリは何のためにフェンリルを道連れにして…!?
「さあ…次はどうする?」
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フェンリルが解放されたという知らせを受けて急ぎ裕斗とリアス、朱乃は後方へ引き返していた。
彼女たちの内心で渦巻くのは一刻も早くフェンリルを解放したというハティをどうにかしなければという焦りと、後方で支援に努めていたアーシア達の心配だった。
特にアーシアは戦う力を持たない非戦闘員だ。一度あの狼に攻め込まれてしまえば彼女ではどうすることもできない。一応フォローとして紫藤イリナが付いているが、フェンリルが解放されるに至ったということは彼女も手傷を負ってしまったに違いない。
リアスが一眷属の主としてだけでなく個人的に抱く情愛の感情もあり、どうにか皆が無事でいるようにと強く願いながら自分の出せる最高のスピードで風を切りながらリアスは後方へと向かう。
やがて後方組が視界に映り始める距離まで進んだ。
「部長、あそこに!」
「見つけましたわ」
「ええ」
空から見下ろすと地上では肩から血を流して片膝を突くイリナとその傍らで癒しのオーラで傷を癒すアーシアとギャスパー、そしてフェンリルの子供であるハティと対峙する黒歌の姿があった。
彼女らの周囲にはあちこちに破壊の跡があり、その戦闘の激しさが窺えた。
「アーシア、ギャスパー、イリナさん!」
「部長!」
「来た!」
三人は羽根を収めて空から降り立つと、無事を確かめるべく駆け寄る。その姿を認めたイリナたちは援軍の到着に表情を明るくした。
ようやく合流した三人だが、ふとアーシアの腕に目が留まった。
「アーシア、その傷…!」
白くて華奢な彼女の腕に緑色のローブごと切り裂かれたような傷ができており、そこからどくどくと血が流れていた。
「もしかして、ハティにやられたの?」
「大丈夫です、ちょっとかすめただけです」
状況から察した朱乃は訊き、アーシアはリアス達の心配を和らげるように笑って言う。しかしそれが強がりだというのはすぐに分かった。アーシアの表情にある疲労の色が隠しきれていなかったからだ。
傷ついた者を回復させる癒しの力も何度も何度も繰り返し使えば使用者の負担になる。特にこの複数人の味方が無数のプラセクト達を相手にする乱戦状態では行使する回数も多く、今まで以上の負担を彼女に与えていた。
「ごめんなさい、私が不甲斐ないせいで…」
「すみません、フェニックスの涙も使ってしまいました」
片膝を突いてアーシアの神器による回復を受けるイリナと、傷は治っているものの制服に大きな切り傷と血痕を残すギャスパーは無力感に顔を歪めた。
前線を突破してきたハティを最初に食い止めようとしたのはイリナだった。しかしあの神速に翻弄されるまま手傷を負わされて易々と抜けられてしまい、そのまま動きを停止させようとするギャスパーの邪眼も躱してアーシアに爪を立てようとした。
『アーシア先輩!!』
『!!』
だがそれは咄嗟に身を挺して庇ったギャスパーのおかげでどうにか事なきを得た。鋭い爪により深手を負わされたが支給されたフェニックスの涙のおかげで一命をとりとめた。
その間にハティは黒歌の下へ向かいフェンリルの捕縛に力を割いているせいで迎撃に集中できないのを利用してまんまと親であるフェンリルをグレイプニルの鎖から解き放ったのだ。
フェンリルは今まで自分を抑えていた黒歌には見向きもせず、主の下へと走り去っていったが残ったハティが後方組の相手をすることになり、今に至る。
「自分を責める必要はないわ、生きていればそれで充分よ」
リアスは身をかがめると、申し訳なさそうに俯くギャスパーとアーシア、イリナをそっと抱きしめ、彼らの胸に生まれた無力さを溶かすように優しい安堵の笑みと言葉をかけた。
「私にも気遣ってほしいにゃん」
グレモリー眷属を横目にハティに魔法を飛ばしながらも4人の様子に羨ましいと言わんばかりに軽口を叩いたのは黒歌だ。
「黒歌さんは怪我をした私たちを守ろうと戦ってくれました」
「!」
アーシアが明かした事実に驚いたリアス達は黒歌を見る。
最近会ったばかりで敵としての情報しかない裕斗と朱乃はともかく、パーティー会場での初対面の小猫を巡る出来事から自由奔放で冷酷さも兼ね備えた印象を持っていたリアスにはまさかそのような行動をとるとは想像もできなかったからだ。
「ただの気まぐれよ、それに回復要員がやられたら私たちも困るにゃん」
真意を訊ねるような彼女らの視線にはぐらかすように黒歌は軽く笑い肩をすくめた。
「…あなたには感謝しなければならないわ」
そっと呟き、静かにリアスは立ち上がった。
「よくも私のかわいい下僕たちを傷つけれくれたわね」
先ほどまで三人に注いでいた慈愛の感情を消し、キッとハティに睨みを飛ばす。リアスの瞳に苛烈な戦意の炎が燃え上がった。
「フェンリルの子供だろうと、アーシア達を傷つける者には微塵の容赦もかけてもらえるとは思わないことね!」
燃えるような感情が乗った赤い滅びの魔力が飛び出し、ハティに食らいつかんとする。無論ハティにはそのまま攻撃を受けてやる理由はない。即座に踏み込み、魔力をすれすれで躱しつつ疾走してリアスへと距離を詰める。
そこに裕斗が聖魔の短剣を投擲し、牽制をかける。ハティは四本足でステップを踏んで飛んでくる刃を回避、大きく跳躍し裕斗に飛びかかる。
裕斗もそれに応じて跳び、空中にて振るわれる鋭い爪を片手剣で受け止めた。それから幾ばくか爪と剣で打ち合う。『騎士』の特性によるスピードと親であるフェンリルから受け継いだ神速が交錯し、近接戦は常人の目には止まらぬスピードで行われた。
ハティと打ち合う彼も仲間である赤龍帝と手合わせを重ね、己のスピードに磨きをかけていた。死線を潜り抜けてきた彼のスピードは、神狼の血を継ぐハティに負けずとも劣らずのものだ。
幾度目かの攻撃で大きく金属音を立て、両者は一度大きく距離を取る。
「聖魔剣よ、咲き乱れろ!」
着地して早々の裕斗の雄々しき一声で、聖魔の刃たちが次々に地面から突き出しハティを無数の刃で串刺しにするべく領域を広げていく。
それをハティは横に跳んで回避するが、跳んだ先で天から荒々しい雷が降り、ハティを打ち据えて激しくその身を焼く。
「ギャゥ!?」
「うふふ」
雷を落としたのは朱乃だった。悲鳴を上げるハティにいつも以上にサディスティックな笑みを浮かべている。
「おまけをつけたげるにゃん!」
これは好機とペロリと舌なめずる黒歌は元々の種族である猫魈が得意とする仙術、そして悪魔に転生したことで得た魔力を組み合わせて生み出した強烈な波動を放ち、雷に打たれ続けるハティに追い打ちをかけるようにぶつけていく。
これにはたまらずハティも木っ端の如く吹っ飛んで所々焦げた身で地面を横転し、やがて突き出た岩石にゴッと身をぶつけてギャウッという短い悲鳴を共に横転を止めた。
「…まだね」
その言葉に肯定を示すがごとく、ハティは起き上がった。今まで以上に殺意の混じった視線を飛ばしながら、あれだけの攻撃を受けてまるで何ともなかったかのように。
ハティは雷に焼けて若干焦げた身をぶるぶると震わせて汚れを落とす。その動作にリアス達はどこか狼…いや犬らしさを感じたが情けをかける理由にはならない。
「あらあら随分とタフだこと……たっぷりと痛ぶって差し上げますわ」
いつもの穏やかさに満ちた笑みとは違う、仲間を傷つけられたことによる敵意の冷たい笑みがハティを刺す。
「アーシアに手を出した代償は、高くつくわよ」
静かに怒りをたたえる瞳が、真っすぐに神喰狼の子を捉えていた。
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『馳せ来たれ、咆哮遥けき地雷!』
「えいっ」
プラセクトの群れを蹴散らしながら颯爽と戦場を駆け抜ける二人、小猫とポラリス。魔方陣から伸びる雷が行く手を阻むプラセクトを穿ち、仙術で強化された拳が邪魔者のプラセクトを打ち据える。
数分かけて仙術で戦場をくまなく探知した小猫は一か所気の流れが奇妙に濁っている場所を見つけた。そこは同時にプラセクトの気配が不自然に湧いて出てくる場所でもあり、ヘルブロスはそこが発生源に違いないと結論付けた。
そして彼女は小猫にそこに行くまでの案内役を任せ、行動を共にしていた。
無論、小猫が案内役を引き受けたのは単にヘルブロスをサポートするためではない。ヘルブロスが真に自分たちの信頼に足る存在かを見極めるためでもあった。
彼女が見るべきと感じたのは実力ではなく、内面。共に行動することで、素顔を隠すマスクの裏の内面を知る機会を得ることができるのではないかと。小猫はそう思ったからこそ、彼女と共に行動しているのだ。
「あそこです」
進撃を続ける中でふと足を止め、真っすぐ前方を見据える。そこは何ともない採掘場の光景だったがヘルブロスにはそこに隠された光景を、小猫はその場所を覆う魔法をしかと感じ取っていた。
『結界か』
二人の目の前で不可視の結界が展開し、何かを隠している。魔法形式は北欧式。十中八九ロキが何かを仕掛けているとみて間違いない。
「どうします?」
『問題ない、こういう時は強硬手段に限る』
そう言ってヘルブロスはおもむろに取り出した青い戦車の意匠が刻まれたボトルをネビュラライフルのスロットに差し込む。
〔タンク!〕
見る間に銃口は青い光をため込み、大砲を構えるがごとくヘルブロスは腰を低く落としてライフルを構えた。
〔ファンキーショット!タンク!〕
眼前の見えざる障害に向けられた銃口は大きな青い光弾を吐き出す。戦車の放つ砲撃のような音が大気を揺るがし、その強力な威力の代償である反動を受けて少し後ずさった。
重量感たっぷりの一撃は不可視の結界に激突し、結界は自身の存在を脅かす攻撃に反応してその姿を晒す。所狭しながらも明確なルールに沿って並んだルーン文字が刻まれた透明な結界は光弾を受け止め、激しく火花を巻き散らす。
『まだだ』
〔ギアエンジン!〕
さらにヘルブロスは白い歯車が埋め込まれた金色のボトルをライフルに差し込みさらなる攻撃のためのエネルギーをチャージし始める。
〔ファンキーショット!ギアエンジン!〕
二度目の必殺の銃撃を放ち、歯車状のオーラを纏う光弾が結界にぶつかり拮抗する一度目の銃撃による光弾に追突事故の如く衝突し、結界を破壊せんとする光弾にダメ押しをかける。
流石の結界も耐久力の限界を迎え、二つの光弾が同時に爆ぜると、ダメ押しをかけられた反動も伴うほどの威力は容易く結界を木っ端みじんに砕いた。目の前の光景がまるでガラスのように砕け散り、その真なる姿は暴かれた。
「!」
地面に描かれた広範囲にわたる魔方陣から夥しい数のプラセクト達が這い出ては羽根を広げて飛んでいく。そしてその魔方陣の傍らにこの戦いに参加している戦乙女ロスヴァイセと似た鎧を纏う新緑の長髪が麗しい女性が佇んでいた。
女は突然の二人の出現と結界が破られたことに目を見張る。まさかロキが考案した術式で作った結界を、使用者が神ではなく自分と言う半神であるため出力は多少落ちてはいるものの強引な力技で破ってくるとは思わなかったからだ。
結界を破壊し隠されていた姿を露呈させた二人が一歩進むと、女は一歩じりと後ずさる。
『そこの女、お前がこの魔方陣で、恐らくは戦いに備えて予め量産しておいたであろう虫を転移させていたのか』
「…」
警戒を向ける女はポラリスの詰問に答えを返さない。それをポラリスは肯定の意と受け取り詰問を続ける。
「あの鎧、ロスヴァイセさんのとよく似てます。ということは…」
『確か、ロキの配下にヴァルキリーの一族があったそうだ。その一族の者と見て間違いないな』
「そこまで知られているのか…」
女…ヴァルキリーは苦々し気にこぼす。二人の登場を受けて撤退も考えていたが、逆にそこまで敵に知られていたことがかえって彼女に決心をさせた。
「そうだ、私はジークルーネ。ロキ様に使えるヴァルキリーだ。北欧の未来を拓くロキ様の大望を邪魔させない!」
ジークルーネは堂々と名乗りを上げて引っ提げた剣を手に取った。
そもそもあの結界を破るような力の持ち主に敵うはずがないと彼女は理解していた。逃げようとしても、恐らく逃げる前に倒されるだろう。
それにここまでロキに味方し、自分の存在が露見した以上はもう引き返すことなどできない。もとより引き返す気など彼女にはなかったが。
追い込まれた彼女のやけくそ、無謀と言ってもいい、だがそのやけくその根底にはロキへの忠誠と信頼があった。
例え自分が奴等に力及ばず敗れるとしても、きっとロキは大望を成し遂げてくれる。自分の命を懸けた力添えを踏み台にして、天上にある北欧の革命の完遂という輝きに手を届かせるだろう。
革命を成す旗頭が例え悪神であったとしても、彼もまた立派な北欧の神であることを彼女は知っている。一見周囲を引っ掻き回す行動も、本当は己の信念に基づき、周囲のことを考えているが故のものであることも。だからこそ、忠を捧げた。
ロキの行く手を阻む敵などに屈しはしない。少しでも奴等に傷を負わせてから死ぬ。この忠誠に、最期の時まで自分は殉ずるのだ。
『仕える者として良い心意気だ。ロキもさぞ鼻が高かろう』
ジークルーネの命を駆けると言わんばかりの覚悟を前に、ヘルブロスは素直に評する。
『だがその心意気を通してやる義理はないのでな。仕事をさせてもらおう』
「!」
ポラリスは両手の糸を手繰り、結び、魔法の詠唱を始める。ジークルーネは彼女たちを見誤っていた。そもそもヘルブロスたちは自分を相手にするためにここに来たのではない。
あくまで彼女たちの目的は、転移魔方陣の破壊なのだから。
『目覚めよ神雷』
「させ…!」
ポラリスが魔法を発動させようと動いたのを見てジークルーネは魔方陣を守るべく障壁魔方陣を作らんとする。しかしそんな彼女の懐に素早く小柄な影が忍び込む。
「腹ががら空きです」
「がはっ!?」
俊敏に距離を詰めた小猫が仙術を込めた拳打をの腹に鋭く打ち込んだ。ポラリスに注意を奪われた隙を狙った『戦車』の特性たる怪力を活かした一撃に、数度地面を跳ねてどさりと倒れた。
『空の静寂打ち砕き、あえかな夢を千切り裂け!』
そしてその間に魔法は完成した。
極太の雷がプラセクト達を呼び出す転移魔方陣の上空から降り、カッと雷鳴を轟かせては凄まじい威力を以て転移魔方陣をゴツゴツとした大地ごと木っ端みじんに砕いた。
「きゃっ!」
魔方陣の近くにいたジークルーネは漏れなく威力の余波に巻き込まれ、地面をゴロゴロと横転していく。
横転が収まってから土に汚れた顔を上げ、上体を起こして彼女は魔方陣があった場所を見る。そしてその光景に唖然とした。
「そ、そんな…」
大地は黒焦げ、岩の欠片が無数に転がっている。魔法の気配も完全に失われており、疑いようもなく魔方陣は先ほどの一撃で跡形もなく消し飛んでいた。
あらかじめロキから指示を受けていた彼女はロキと共に会談の会場に現れ、誰にも気づかれることなくこっそりと転移に巻き込まれた。そしてロキが敵の気を引いている間に密かに大規模な転移魔方陣を敷いて、ロキがプラセクトを生み出すのを合図に起動、無数のプラセクト達を戦場に送り込んでいたのだ。
しかし彼女が受けた命はたった二人の、内一人はどこの誰とも知れない輩に作戦は勘づかれ、台無しにされてしまった。
彼女にとって仕えるべき、敬うべき主であるロキの命を完遂できなかったことはたまらなく悔しかった。心に激しく渦を巻く怒りという感情をぶつけるように、使命を台無しにしたヘルブロスを睨み付ける。
しかし当のヘルブロスが破壊と任務達成の余韻に浸ることはない。倒れる彼女の下へすぐに近寄ると。
『さて、聞きたいことは色々とある。世界樹の力の入手経路など洗いざらい吐いてもらおうか』
砂に少し汚れた顔へ真っすぐがちゃりと銃口を向ける。彼女が見上げた先で、引き金を引けばすぐにでも火を噴く真っ暗な銃口が覗いていた。
しかし彼女はそれでも反抗の火を絶やさなかった。どうにかしてこの状況を脱しようと睨みを続けながら頭を働かせるが。
「さっきの攻撃で体内の気をしっかり乱しました。しばらく魔法は使えません」
「!」
『よくやった、流石はD×D…じゃない、リアス・グレモリーの眷属だ』
彼女が内心で抵抗を考えていることを見透かしたように小猫が釘を刺す。そして攻撃を受けて以来体を巡る違和感の正体にようやく気付いた。
魔法という攻撃手段も絶たれ、いよいよ彼女は自らの終わりを悟り始める。
しかしそんな時だった。近くに積もった岩の陰から音もなく忍び寄っていたまだら模様の蛇が一匹、ジークルーネが地につける手に俊敏に噛みついた。
「っ!」
鋭い痛みでようやく蛇の存在に気付いた彼女は一瞬身をビクンと大きく震わせると、糸が切れた人形みたくその場にどさりと意識を失い倒れてしまった。
急な出来事に二人の対応は追い付かなかった。まさかこの草木一本生えぬこの土地で蛇がいるとは思わなかったからだ。
「こんなところに蛇…?」
『…これは』
訝し気に二人はジークルーネに牙を立てた蛇に注目する。蛇はこちらの視線など意に介さず、シュルシュルと身を這わせて引き返していく。
「すみませんね、彼女はまだ利用できそうだというあの方の意志ですので。どうかご容赦を」
第三者の落ち着いた声。蛇の行く先にカツカツと乾いた靴音を立てて如何にも優雅な雰囲気を持つ茶髪の青年が何食わぬ顔で現れる。
二人は新たに現れたその青年に身構える。小猫はその青年を知っている、禍の団に属しているテロリストとして。ヘルブロスはその青年を知っている、忌むべき敵の眷属として。
そして二人は納得もした、突然現れたあの蛇は『特性』を使った彼の差し金だったのだと。
「あなたは確か…アンドロマリウスの」
『アルギス・アンドロマリウス。深海凛…いや、『創造』の『叶えし者』が何の用だ』
ヘルブロスは吐き気すら催すと言わんばかりの敵意を含めた問いを青年…アルギスへと飛ばす。アルギスは彼女らの言葉に正解だと言わんばかりに恭しく笑みを浮かべた。
「キラツ?『創造』?」
『奴は旧魔王派ではない。理由は知らないが禍の団の名を勝手に使っているだけで本当はネクロムの配下だ』
「…!?」
聞き慣れぬ言葉に疑問符を立てる小猫にヘルブロスは説明し、小猫は明かされた事実にはっと驚いた。
ポラリスは以前悠から彼について報告を受けていた。魔烈の裂け目で交戦し、ガンマイザーを使用したこと。パーティー会場に現れたこと、そしてネクロムと彼の繋がりを思わせる『あの方』というワードのこと。
後ほど判明した情報を合わせて、彼が今深海凛の姿をしている存在の『叶えし者』であるという結論にたどり着いた。
「ほう、話に聞いた通り我々のことを知っているようですね。あの方があなたを警戒するのも頷けます…おや、グレモリーの白音も一緒ですか。中々変わった組み合わせですねぇ」
「…!」
かつて捨てた名で呼ばれたことに、小猫は思わず眉を顰めた。同時に彼に対する警戒度が一段と上がる。何故その名を知っているのか。その疑問を口にする前にアルギスは次なる行動に出る。
「ですが今回、用があるのはあなたではありません」
底の読めない光がちらつく紫色の瞳がヘルブロスへと向いた。
『自分か』
「ええ、我が主がどうしても会いたいと言うので」
『何?』
「貴様は紀伊国悠以上に読めない、警戒すべき存在だ」
鷹揚に頷きながら返したアルギスの言葉にこぼしたヘルブロスの声にさらなる第四者の声が続く。
激雷によって砕かれた石が散乱する地を、三人の注目を浴びながら歩みを進めるその戦士。
「グレモリー眷属に肩入れまでするのであればこちらも動かざるを得まい」
緑と黒のパーカーを白い強化スーツの上に着る戦士、仮面ライダーネクロム、深海凛。アルギスの主にして悠と縁の深い存在である彼女は目深にかぶったフードを取り払う。
「竜に利をなすイレギュラーは排除せねばな」
「貴様――!!」
ネクロムの姿を見た瞬間、ポラリスの中で何かが弾けた。
因縁は、世界を越えて巡り合った。
…そういえば、ポラリスの本編の変身シーンが一度もないことに気付いた。
次回、「勇気の刃」