ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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長らくお待たせした分、色々明かされるかも?

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
5.ビリーザキッド
6.ベートーベン
7.ゴエモン
9. リョウマ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第87話 「勇気の刃」

それは悠達が作戦の集合場所であるホテルに集まった5分ほど前のことだった。

 

次元の狭間を航行するレジスタンスが保有する母艦、『NOAH』にて椅子に座り、まとめられたデータに目を通すポラリスは調査から帰還した部下であるイレブンから報告を受けていた。

 

「ポラリス様、例の仮面の調査ですが関西地方に一つあるのが確定しました」

 

「ご苦労、そのまま調査を続行し『憤怒』の仮面なら発見次第破壊しろ。ウリエルとの約束だからな」

 

「仰せのままに」

 

一通り目を通したところで宙に浮かび上がるスクリーンを消した。

 

「さて、妾もそろそろ行かねばな」

 

報告も終わったことで、ポラリスは椅子から重い腰を上げる。

 

これから始まる北欧の神との一戦で、彼女は戦わなければならない。彼女がこの世界で表立って戦うのは此度の一戦が初めてとなる。彼女が動く理由としては信頼、データ取り、そして警戒。目的は様々だ。

 

何よりこの戦いは今後を見据える彼女にとっても、世界の歴史にとっても大きなものになる。故に万が一にもネクロム達の介入を許し、敵の利になるような状況悪化を招くようなことはあってはならない。

 

奴等の思惑通りに世界を動かしてなるものか。気の遠くなるような年月を重ねに重ねた固い決意の下、彼女は戦いに赴く。

 

机に置かれたジュラルミンケースを手に取り部屋を後にしようとした時だった。

 

「…ポラリス様、深海凛のことで一つ訊きたいことが」

 

戦いに赴かんとする彼女を、イレブンは呼び止めた。矢庭な彼女の声にポラリスはぴたと足を止め、振り向いた。

 

「言ってみろ」

 

「ポラリス様は、今の深海凛をどうなさるおつもりですか?」

 

土壇場での問いに対してもポラリスは機嫌を損ねることなく言葉を続けることを促す。そして彼女は一瞬の逡巡の後、以前から胸の中に秘め続けた疑問を率直にぶつけた。

 

「どうする…か」

 

投げかけられた質問に、虚を突かれた彼女は内心の動揺を隠すように手を口元にやる。いつかは悠に聞かれるだろうこの質問をまさかイレブンから聞かれるとは思わなかった。

 

「悠はひどく彼女のことを気にかけています。まだいくつか不明点もありますし、私はまだ彼女が我々の想像通りであると100%確定したとは思えません」

 

「ふむ」

 

いつにもまして真面目に、どこか憂慮を含んだ口調で語るイレブンの意見を聞くポラリスは意外そうな面持ちだった。

 

確かに模擬戦などで顔を合わせ、武と言葉を交わす機会は多かったが彼女が悠を心配する言葉を口にするとは思わなかったのだ。いつも不愛想な表情をしているが、それなりに彼女も彼に対して思うことはあったということか。

 

「それにもし、彼女が深海凛であるならば我々が彼女を殺した時…最悪、悠が第二のソルになる可能性も」

 

第二のソル、その言葉を聞いたポラリスの眉がピクリと動く。

 

「…おぬし、えらく彼を気にかけるのう。そこまで気に入ったか?」

 

「…いえ、単に彼の妹思いが在りし日のソルを想起させるだけです」

 

「そうか、その気持ちはわからんでもない」

 

イレブンの答えにポラリスは口元に指を添えて苦笑した。そして苦笑の後、大きく息を吐く。

 

「普通に考えれば、奴が大きくパワーダウンしている今が討伐の千載一遇のチャンス。今まで奴等に数えきれないほどの辛酸をなめさせられてきたのだ、これを逃す手はない」

 

「…では、悠のことは無視して彼女を倒すと?」

 

「いや、おぬしの言う通り悠のこともある。悠の凛を取り戻したいという思いと、妾の奴を倒したいという思い。それらを擦り合わせて導かれるベストは……」

 

幾ばくか溜めてから、獰猛に笑みを浮かべてそれを口にする。

 

「半殺しにして、拘束する、じゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈BGM:Relentless Drive(Videohelper)〉

 

その時、風が吹いた。風が小猫の白髪を揺らした時には既にヘルブロスは小猫の傍らから消えていた。

 

そして刹那の内にネクロムの眼前に現れたヘルブロスが猛然と拳を振りかぶる。豪速で振り抜かれた拳をほぼ反射の域と呼んでも過言ではない速度で反応して手で受け止め、パンと乾いた音が大気を震わせた。止められてなお相手にぶちかまさんと力を込められる拳に、掴む手も抑え込まんと震える。

 

「随分と、手洗い挨拶だな」

 

『これほどの激情を感じたのは久方ぶりだ…貴様に会いたかったぞ!』

 

掴んだ拳を振り払うネクロムにハイキックを入れるが上体をそらして躱され、続けて横薙ぎに放つ手刀は腕でガードされた。

 

勿論ネクロムも攻撃を受けるばかりでは終わらない。近接戦で縮まった距離からヘルブロスの腹に拳打を打ち込む。

 

『うっ!』

 

腹を突き抜けるような威力によろけながらも素早く後退し、一旦距離を取った。そして両手から光糸を生み出しては瞬く間に魔方陣を組み上げる。

 

『刻め雷陣、果てどなく!』

 

魔方陣からバチバチと弾ける雷鎖がいくつも伸びる。彼女の猛る感情を表すかのように激しくうねるそれは獲物であるネクロムを絡め取るように動いた。

 

「この魔法体系は……」

 

自分の記憶にない魔法に目を細めるネクロムは伸びる雷鎖を徐々に下がりつつ回避していく。一歩一歩ステップを踏み、殺到する鎖を上体をそらし、身をねじってはやり過ごす。回避運動の中でネクロムは新たな眼魂を手に取る。

 

〔Yes sir〕

 

眼魂のスイッチを押して起動させるとすぐに左腕の変身ブレス、メガウルオウダーに差し込む。流れるようにオウダーのユニットを起こしてはスイッチを押した。

 

一連の操作を経て解き放たれた眼魂のエネルギーはぼっと煙を巻きながら、銀色の中に黄色のラインが入ったパーカーゴーストとなって顕現する。

 

〔TENGAN!EDISON!MEGAUL-ORDE!〕

 

顕現したそれを軽やかに舞うような回避動作の中で着こむネクロムは更なる変身を遂げた。

 

銀色の地に黄色で縁取られたパーカー『グリッターコート』は電気エネルギーを吸収して。肩部の黄色い丸い装甲『フリッカーショルダー』でそれを増幅することが可能。顔面部には電球型の防護フレーム『モノキュラーガードET』が装着されている。

 

〔king of invention〕

 

仮面ライダーネクロム エジソン魂。それがこのネクロムの新しい姿の名である。

 

変身を完了した瞬間、ぴたりと足を止め躱すことをやめた。動きを止めたネクロムは雷鎖たちの格好の餌食になるかと思いきや。

 

「わかり切った弱点をカバーしないとでも思ったか?」

 

ネクロムの体に触れた瞬間、魔法は鎖という形を失い電撃はコートにみるみる吸い込まれていく。これこそエジソン魂最大の能力。あらゆる電気エネルギーを吸収し、それを増幅して攻撃にも転用できるのだ。

 

「やはりその眼魂も持っていたか…!」

 

忌々し気に言いつつ腰部にマウントしていたネビュラライフル、それを構成する3つのパーツを分離、合体させ元のネビュラスチームガンとスチームブレードに戻し、両の手でそれぞれを握る。

 

「ふっ」

 

吸収したエネルギーを早速使って全身に電気を帯電して身体能力を増強し、魔法攻撃で空いた距離を易々と越えて一息にネクロムは詰め寄った。そしてヘルブロスを間合いにおさめて横薙ぐ蹴りやパンチを交えて格闘戦に持ち込む。強化された身体能力によって繰り出される攻撃の数々は速度はもちろんパワーも増していた。

 

襲ってくる攻撃にヘルブロスは怯みはしない。だが触れれば拳や脚が帯びる電撃によるダメージを受けることになるため、ヘルブロスがとった対処法は直接触れないこと。

 

一発一発が抉るような威力を秘めた打撃を、ブレードでいなし、時に身をよじって躱したりする。

 

そしてごうっと空を裂いて真っすぐ胸を穿つような拳打を赤いバルブのついたブレードの刀身で受け止める。

 

『ロキのパワーアップを引き起こしたのは貴様か、『創造』…いや、アルル!』

 

「『叶えし者』のことを知り、私の名を知っている…貴様、神竜戦争か『機界〔アルムンドゥス〕』の生き残りのどちらかだな」

 

「ふん」とネクロムは受け止めた拳を強引に振り払う。その勢いが拳に密着していたブレードのバルブを回転させた。

 

〔アイススチーム!〕

 

バルブの回転に応じてブレードの機能が発動して金色がかった刃が冷気を帯び、煌めく雪の結晶を伴う一閃が二人を分かつ。

 

さらにそこから前進するヘルブロスがネビュラスチームガンでの銃撃を浴びせつつ迫る。短い距離から数発受けて火花を散らすネクロムはこれ以上のダメージを看過するわけにはいかないと専用武器、ガンガンキャッチャーを召喚して迫る凶弾から身を守る盾にする。

 

そして今度はヘルブロスの攻勢へと番が移った。右手に冷気を宿すブレードを逆手持ち、左手にネビュラスチームガンを携えて剣戟、銃撃、そして蹴撃の3つを組み合わせて激流のごとき激しさを以て攻め立てる。

 

3つの攻撃は異界を渡り歩き、豊富に戦闘経験を積み、磨かれた彼女の腕とセンスによって攻防一体の形を成していた。攻め入るスキのない怒涛の攻撃がネクロムを打ちのめさんと押し寄せる。

 

歯向かう全てを押し流すような激流に立ち向かうネクロムも負けじと抗う。じりじりと下がりながら穿つ銃撃をキャッチャーでガードし、切り裂く剣戟をキャッチャーでそらし、薙ぎ飛ばすような蹴りを気持ち大きめに下がって躱し、時折カウンターでキャッチャーを振るうなどして防戦一方にならないように立ち回る。

 

しかし繰り出される全ての攻撃を受け流すことは出来ず時々刃がかすめたり、被弾もした。刃を受け止めたりかすめた箇所は冷気でパキパキと凍てつく。だが被弾してもなお冷静さを保つネクロムは淡々と苛烈な攻撃の対処を続ける。こつこつとダメージが蓄積していくがネクロムにとってその程度のものはまだまだ些末であった。

 

『そんなことはどうでもいい、答えろ!』

 

「図星か、まあこちらも隠す必要もない」

 

逆手持ちのブレードが鮮烈な軌跡を描いてネクロムの首元へと走るが、その間に割り込んだキャッチャーが行く手を阻む。

 

「肯定、世界樹の種を用意しジークルーネにロキに渡すようそそのかしたのは私だ。ロキに尽くしたいという彼女の一途な願いを利用するのは赤子の手をひねるようだった」

 

自分の首を狙わんとするギリギリの鍔迫り合いを続けつつも淡々とした調子でネクロムは自身の行いを明かす。

 

彼らの目的にイレギュラーである紀伊国悠はもちろんのことグレモリー眷属は取り除かねばならない障害であった。それは現在彼らがネクロム達の邪魔をしているからではない。将来的に、ネクロム達の脅威になることを知っているが故に彼女らは排除しようとしているのだ。

 

その排除のために図らずも悠を含めたグレモリー眷属全員と衝突することになったわけだが、結果として彼らの根性と結束の力に敗れる所となった。しかし敗れはしたが、諦めたわけではない。

 

いずれ来る接続の時のためにも、邪魔者はなるべく排除しておきたい。彼女はその思惑を胸に次なる行動に出る。そして歴史を知る彼女は次に起こる事件に目を付けた。

 

近々起こる北欧の悪神ロキの反乱と、それに対抗するグレモリー眷属とヴァーリチームによる共闘戦線だ。

 

このままでも十分脅威であるロキに力を分け与えることができれば、低リスクで確実に奴等を排除しうるのではないか?

 

そしてうまくいけば、悠を殺そうとした時に邪魔をした謎のイレギュラーもいぶりだすこともできる。あの行動からして、悠の味方であることは間違いない。彼らがイレギュラーの窮地に陥れば、きっと姿を現してくれることだろう。

 

その可能性にかけた彼女は切り札の一つを切ることにした。その切り札こそ、ロキが体内に取り込んだ世界樹の種である。

 

北欧神話に属する神々ならきっと適合してくれることだろう。だが変身していたおかげでまだ公に素顔が割れていないとはいえ怪しさ満点の自分ではロキに警戒され、直接渡すことはできない。

 

ならどうすればいいか?その答えは容易に捻りだせた。

 

ロキに近しい存在を介して渡せばいい。既にロキが信頼を寄せる者なら、種を疑われることなく確実かつ安全に渡せる。

 

そのために『叶えし者』たちにロキの身辺を調査させ、ジークルーネというヴァルキリーに目を付けた。彼女のことを知った時、なんと都合のいい半神がいたものだろうとほくそ笑んだものだった。

 

彼女がロキの役に立ちたいと思っていること、仕えているロキが和平に反対して和平派の神々と衝突し、ままならない状況に心を痛ませていること。

 

元々人の心を観察し、闇を探るのには慣れていた。それらを見透かす彼女が言葉巧みにジークルーネに近づけば、思い通りに動かすことなど容易い。力の大半を失っているため『叶えし者』にすることは出来なかったが、少なくとも計画通りに動いてくれるならそんなことはどうでもいい。

 

願い、欲望、彼女にとってそれらは汚いも綺麗も関係ない。欲望や願いは等しく心に近づくためのとっかかりに過ぎない。相手の欲望や願いを知り、それを巧みに焚きつけることこそが人を操る最大の方法なのだ。

 

果たして彼女は期待通りに口車に乗せられ、世界樹の種をロキに渡した。そしてロキは更なる力を手にしてグレモリー眷属とヴァーリチームの前に立ちはだかってくれた。そして、謎のイレギュラーたるヘルブロスも現れてくれた。

 

後はロキが二天龍とイレギュラーを葬り、ここでヘルブロスを倒しさえすれば不安の種は全て消え、彼女の計画通りに事は進む。

 

そのために、このイレギュラーを全力で排除する。それが彼女がここに来た目的だ。

 

互いの力が拮抗する鍔迫り合いはしばらく続いた後、ネクロムの側から飛び退って解除された。再び両者の距離は開く。そして両者ともに武器を構え、片方は痺れる雷を帯びた銃弾を、もう片方は銃撃を連射する。

 

互いの銃弾がぶつかっては相殺され、二人の間に儚く散る刹那の輝きがいくつも生まれては消えた。

 

『世界樹の種を貴様が…?どうやってそんなものを手に入れた!?』

 

「『恵愛』から、と言えば?私の名を知っているのだから彼女のことも知っているのだろう?」

 

『…イシュタルか。これは思った以上に厄介な状況だな…!』

 

拮抗する戦況、明かされる事実とそこから想定しうる可能性にヘルブロスは険しく眉を顰める。

 

『これも全て悠や二天龍を排除するためか!?』

 

「そう、だが本来ならこの段階でロキが兵藤一誠を排除するのは困難だ。…が」

 

普段らしからぬ荒立った声色で詰問するヘルブロスの一方で冷静さを全く崩さないネクロムはおもむろにピンク色の眼魂を取り出し、キャッチャー先端のソケットに挿入した。

 

〔DAIKAIGAN!〕

 

『!』

 

その動作を見たヘルブロスも次なる攻撃に備えて即座にボトルをスチームガンに挿入する。

 

〔消防車!〕

 

両者の銃が装填したアイテムに秘められたエネルギーをその銃口に蓄え始める。ヘルブロスはたゆたう水のエネルギー、ネクロムは魔を祓う聖なる炎を。

 

「あのユグドラシルはバッドエンドフラグの片鱗。全ての運命を破壊し、世界を滅亡させるバッドエンドフラグの力をロキに与えれば特異点だろうと潰せる」

 

『バッドエンドフラグ…?』

 

「流石にそれは知らなかったか。知らないにしても、そこまで教えてやる理由はないな」

 

会話は終わったとすぐにガチャリとキャッチャーをヘルブロスに向け、トリガーを引いた。それと同時にヘルブロスも引き金を引いて溜めたエネルギーを発射する。

 

〔OMEGA-FINISH!〕

 

〔ファンキーアタック!〕

 

邪をたちまち焼き尽くす聖炎と燃え盛る業火を鎮める水流が衝突する。互いを喰らい合い、飲み込み合い、やがて拮抗の末にどちらも霧散した。

 

発生した水蒸気の幕がぼうっと周囲に広がり、二人の視界にほんのりと白いベールをかぶせた。

 

〈BGM終了〉

 

『パワーダウンしているとはいえ一筋縄ではいかんな』

 

「これでも上級なのでな、そうでなければ名折れというものだ…しかし、そちらも思った以上に粘る」

 

ヘルブロスはネクロムが本領とは程遠いことを知っていて、ネクロムはヘルブロスがまだ本気を出していないと薄々感づいていた。

 

先の攻防でこのままでは互いに静かににらみ合いながら、次なる手を脳内で幾つも組み立てては捨てていく。

 

(どうする…手の内を明かすのは勿体ないが切り札を使うか?だがそれではこの体が持たん…)

 

彼女はさらなる力の解放も考えていた。あまりに強すぎる故まだ十全にコントロールできず、使えば体に大きな負担を強いるあの力。

 

それを使えばネクロムを退けることは出来るだろうが、まず負担で体力も大きく持っていかれる上にまだロキが残っている。ここで体を潰すわけにはいかない。なるべくそれだけは使わずにネクロムを倒したいものだ。

 

はっきり言って彼女は今のネクロムを舐めていた。今までの戦いを見て、全盛期の頃のデータと比較してある程度どれほどパワーダウンしたのかを予測を付けたつもりだった。

 

その予測と、彼女の長年秘め続けた思いが功を焦らせた。やはり大きくパワーダウンしているとはいえ上級は上級。そう簡単に倒れてくれる相手ではない。

 

向こうも同じようなことを考えているのか、動く気配はない。だが同時に攻め入る隙も全く見せない。この戦況に一石を投じるための手をあれこれとにらみ合いながら考える中だった。

 

静かににらみ合いを続けるヘルブロスの前にさっと小猫が出る。

 

「私も手伝います」

 

『ダメだ。こいつはわ…自分がケリを付ける。君はリアス・グレモリー達の下へ戻って皆を援護しろ』

 

助力を申し出る小猫を、ヘルブロスは強い口調で一蹴する。

 

確かに小猫の力を借りれば、幾分かこちらが有利になるだろう。だが今の小猫の力では勝敗を決定的なものにするまでには至らない。

 

「でも奴は強敵です、あなた一人では…」

 

『そんなことは誰よりも自分が分かっている、早く行けッ!奴等をロキ達に合流させると面倒極まりない、そうなる前に自分が決着をつける!』

 

「っ……」

 

彼女が胸に秘めた思いの一端の解放に小猫は言葉を詰まらせる。

 

何故ヘルブロスがここまでの感情を奴に抱くのか。ヘルブロスは一体ネクロムの何を知っているのか。疑問は山ほどある。

 

「…わかりました、ここは任せます」

 

だが戦場で迷っている暇などない。ここも勿論だが向こうの状況もフェンリルが解放されてしまうなど芳しくないのだ。浮かぶ疑問は一旦飲み込んでこの場を彼女に託し、すぐに仲間を助けに行かんと踵を返して走り去っていった。

 

「…追いましょうか?」

 

遠ざかっていく彼女の後ろ姿を見たアルギスは追撃をかけんと進み出る。

 

「捨て置け。お前はジークルーネを回収してこの場を退け」

 

「はっ」

 

しかしそれを冷静に制すネクロムの一言を受けて、食い下がることなくすんなりと彼女の意を現実のものにせんと動く。

 

彼の近くで力なく倒れるジークルーネの体を丁寧に扱ってお姫様抱っこし、足元に転移魔方陣を展開して速やかにこの場を去った。

 

「…」

 

この場に残った二人の視線が中空で交錯する。

 

世界を越えて再び巡り合った二人。互いに譲れぬ物を抱える二人はどちらかが死ぬまで、戦い続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

 

「そうか、よくやった」

 

プラセクト達を相手するバラキエルは小猫からもたらされた吉報に口角を上げた。

 

通信しながら手に持つ光の槍を逞しい剛腕で投擲し、数体のプラセクトをまとめて串刺しにする。

 

『それとあのネクロムが出現しました。今ポラリスさんが一人で抑えています』

 

「何だと?」

 

報告には上がっていた謎の戦士。若手悪魔たちのパーティー会場襲撃の黒幕にして、ディオドラに味方するなど数々の騒動に関与しているもののまだ謎の多いとされる不穏分子。彼女が禍の団の一味なのかはさておき、三大勢力の警戒対象になっていることには変わりない。

 

「…厄介だが、まずはプラセクトを一気に叩く。報告に感謝する」

 

ただでさえフェンリルが解放されるなど、あまりよろしくない戦況に現れた脅威に表情を険しくするバラキエルは小猫との通信を終えると、今度は味方全員へ通信を繋ぐ。

 

『総員に次ぐ、これよりプラセクトを一網打尽にする。直ちにプラセクトの群れから退避せよ』

 

端的にそれだけを言って通信を切る。元を絶たれたのならこれ以上数が増えることはない。ここで大規模な攻撃で一気に殲滅して、残るスコルとハティ、そしてロキと戦うメンバーへの加勢に行き戦況を有利なモノへ変えていく。

 

通信の間に近づいた眼前のプラセクト達を葬らんと手に雷光を迸らせ始めた時、突如大きな火球が飛来する。それは放たれるはずだった雷光の代わりに虫たちを掻っ攫って飲み込み、跡形もなく焼き尽くす。

 

そして火球が飛んできた方向から、二つの頼もしい声が飛んで来た。

 

「俺も力を貸そう」

 

「私も手伝います!」

 

竜の翼を広げたタンニーンと飛行魔法で飛ぶロスヴァイセがバラキエルの下へ現れる。プラセクトの体液を返り血のように浴びて汚れた彼らの鱗や鎧が二人の奮闘っぷりをうかがわせた。

 

「助かる」

 

「特大の一撃のための力を蓄えるとしよう」

 

「全力の魔法をぶつけます!」

 

そして3人は互いに背中合わせになり、準備を始める。

 

バラキエルは荒ぶる雷光を全身に帯びてより強力に高め始め、タンニーンは体内で燃え盛る豪炎を生成し、ロスヴァイセは次々に攻撃魔方陣を出現させていく。

 

無論、それを放っておくプラセクト達ではない。益々高まるオーラに危険を感じ、力を蓄えるために動きを止めた彼らを討たんと多くのプラセクト達が向かってくる。

 

「チャージの時間は私が稼ぎますよ」

 

しかし彼らに届く前にプラセクト達は徐々に活力を失い、空中で夢の世界に誘われてしまった者は次々に墜落していく。

 

眠りゆく彼らは知らなかった。ここが既にウリエルのQ、メリイの作り出す結界の範囲内であることに。

 

羊の意匠を施されたステッキを掲げるメリイは柔らかな微笑みのまま、存分に能力を発動する。メリイを中心に展開している黄金の結界は元々領域内にいた者はもちろん領域に踏み込んだものを容赦なく眠らせる。勿論結界の効果は対象を選ぶこともできるため、バラキエルたちは眠りの効果を受けずに済んでいる。

 

墜落したプラセクトに地上のプラセクトがぐちゃりと押しつぶされたりもする中、結界の効果の対象外であるバラキエルたちは存分に渾身の一撃のためのオーラを高めていった。その傍らにいるロスヴァイセが生み出す魔方陣は留まることを知らずどんどん増えていく。

 

「…急いでください、あなた様の力が必要なんです」

 

微笑みを消して、物憂げな表情でメリイは空を黒く塗るプラセクト達が蠢く空を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 

 

ヴァーリはフェンリルを道連れにいなくなった。兵藤は深手を負わされ、一度きりのフェニックスの涙を使った。俺は変身不能にされてしまった。

 

そしてロキは奥の手、2体目のフェンリルを繰り出してきた。

 

状況は最悪と呼ぶほかない。どうにかして部長さんやタンニーンさんたちをこちらに呼ばなければ間違いなく兵藤は殺される。

 

ヴァーリとフェンリルが揃っていなくなり、静かになった周囲をざっと見渡してロキは言う。

 

「…さて、残っているのは赤龍帝か」

 

一人勇敢にも立つ兵藤に鋭い目を向けて言う。

 

「テメェ……!!」

 

「そう悲観することはない。ここで死んでも、すぐに貴様の仲間たちが後を追ってくれることだろう」

 

仲間をやられた兵藤の怒りを伴う声と視線を、圧倒的な優位に立つロキは涼しい顔で流した。

 

「さて…このフェンリルを実戦で使うのは初めてでね。神とぶつける前に赤龍帝で、どれほどのものかを試してみるのも一興か」

 

主の号令を待つフェンリルを一瞥してからさっと腕を兵藤に向けようと上げた時。

 

ギュルルルルルル。

 

まるで腹の虫が唸るような音が轟いた。少なくとも俺ではないし、兵藤でもない。というかこの音量は人間の腹が出せるレベルではない。

 

「GRRR……」

 

「おお、腹が減っているのか」

 

まるで愛犬に向けるような優しさで苦笑交じりに言葉をかける。

 

ふと、腹をすかせたフェンリルの目が俺に移った。移ったままの視線が俺から離れることなくじっと突き刺さる。

 

腹をすかせた獰猛な獣が視線を向け続ける理由。それはすなわち。

 

「ひ…」

 

その考えるもおぞましい理由に至った時、恐怖のあまり上ずった声が出た。

 

あのフェンリルは俺を食おうとしている。神をも殺せるという牙で俺の身を裂き、骨を砕き、食欲を満たそうというのだ。

 

主であるロキもそれを理解したか、愉快気に笑いを上げた。

 

「ははっ。そうか、丁度いい人間がいたな。腹を満たしてからでもよかろう。やれ」

 

無情にもロキのGOサインは出された。それを受けたフェンリルが飢えた腹を満たそうとずんと俺に向けて歩みを始めた。

 

それに応じて俺もまた一歩と後ずさる。一歩、また一歩と。

 

「させるかよ!!」

 

それを見過ごすわけにはいかないと兵藤がフェンリルへと突貫しようとするが一歩踏み出した瞬間足元が爆ぜる。

 

「お前の相手は我だ」

 

冷たく笑うロキが手元に魔方陣を生み出して、それを兵藤に向ける。

 

「くそ…!邪魔すんじゃねぇ!!」

 

「邪魔するさ、悪神なのでね」

 

俺を助けに行きたい兵藤を、余裕たっぷりに笑むロキが阻む。

 

その間にも後ずさる俺はたまたまあった石に躓き、どっと尻餅を着く。

 

「こんなところで…俺は…!」

 

まだやりたいこともやらなければならないことも山積みだった。それなのに、いきなり力を失い無情にフェンリルに喰われて未来を閉ざされる。

 

こんなに悔しいことはない。俺はまだ何も成し遂げていない。それなのに。

 

「俺は……」

 

俺はまだ……。

 

「こんなところで…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ねない…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、光が飛び込んだ。その光の眩しさに俺は目を細めた。

 

横合いから眩い光の太い柱が飛来してフェンリルにぶつかり、轟音と共に軽々と吹っ飛ばした。

 

眼前の恐怖の対象が突然消え、何が起こったのかと状況を掴めず目をぱちくりさせる俺の前に颯爽と彼女は現れた。

 

「そうはさせない」

 

「…!」

 

凛とした声と共に現れた人物に、俺は目を見開いた。その人物は二振りの聖剣を携え、何よりも強い意志と共に戦場に立っていた。

 

「悠は…私が守る」

 

デュランダルとアスカロンを携えるゼノヴィアが、剣の切先を伝説の魔獣のクローンに向けた。

 




序盤のBGMはブレイドのトライアルムッキーのテーマです。サントラ未収録曲。

一応今まで登場したフォームまとめ

スペクター
・ムサシ魂
・ロビン魂
・ニュートン魂
・ベートーベン魂
・ビリーザキッド魂
・ベンケイ魂
・ゴエモン魂
・リョウマ魂
・ツタンカーメン魂
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・フーディーニ魂

ネクロム
・ムサシ魂
・エジソン魂
・ニュートン魂
・ゴエモン魂
・ノブナガ魂
・グリム魂
・サンゾウ魂

次回、「最強の助っ人」
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