Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
5.ビリーザキッド
6.ベートーベン
7.ゴエモン
9. リョウマ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
『こちらアーサー、美猴と共に退避を終えました』
最初にバラキエルの下へ連絡が入ったのはヴァーリチームの剣士、アーサーからだった。
「了解した、指示があるまで二人はその場で待機してくれ」
『了解しました』
短い応答の末、通信は切れる。
後方でハティと交戦中のグレモリー眷属たちは彼らの攻撃範囲から既に外れているのは確認済みだ。
ふと視線を隣にやる。そこではロスヴァイセが辺り一帯に無数の魔方陣を展開し、タンニーンは腹いっぱいに烈火を蓄えている。バラキエルの視線に気づいた二人はもう十分だと、攻撃の準備の完了を視線で合図し、それにバラキエルはうむと頷いた。
一拍置いて、バラキエルは吼えるように合図を繰り出す。
「放てェェ!!」
両腕をバッと前面に突きだし、チャージしてきた雷光を一気に解き放つバラキエル。
「オオオオオッ!!」
練りに練った業火を、一息にて吐き出すタンニーン。
「ハァァァァ!!」
展開しておいた魔方陣を一斉に起動させるロスヴァイセ。
破城槌めいた極太の無数の轟雷、この世の終末すら想起させるような業火、あらゆる属性を網羅する怒涛の魔法の嵐が同時に放たれる。
地上にも上空にも大量に展開していたプラセクト達は彼らの怒涛の攻撃に抗う術は持たなかった。回避しようにも、広範囲にわたる攻撃から逃れることは能わず。
それらが空と大地、両方に跋扈するプラセクト達を焼き、砕き、潰し、破壊し、そのすべてを消し去っていく。
断末魔の悲鳴すら上げることを許さぬ抗いようのない蹂躙は、双方のプラセクト達の尽くを殲滅していった。
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プラセクト達から退避したヴァーリチームの二人、アーサーと美猴は遠くからバラキエルたちの一斉攻撃を眺めていた。
「やっぱ元龍王半端ねえな…!」
彼らの放つすさまじい攻撃に美猴は胸を打つワクワクを抑えきれないといった様子だった。
向こうに広がるのはまさに焦土。黒焦げて、粉々に砕け散った岩と運よく形が残るも焼けて真っ黒になったプラセクトの死骸のいくつかが転がる以外には何もない。
静寂と死、濃厚な焦げたニオイが支配する大地。その中で無造作に転がっていたプラセクトの死骸の陰から影が一匹、俊敏に飛び出した。
「!」
いち早くその存在に気付いたのはアーサーだった。咄嗟に剣を構え、突撃してくる鋭い爪の一振りを受け止める。
「ようやく出会えましたね」
影の正体…フェンリルの子供、スコルの獰猛な表情を見て、アーサーも心を奮わせる闘志に満ちた笑みで返す。
殺意のこもった眼差しと刃が交錯する鍔迫り合いは続くが、力に任せて押し切れないと判断したスコルから一度下がり、そこに鋭く追撃をかけるアーサーが迫る。
壮麗な軌跡を描きながら振るわれる聖剣の刃をスコルは横っ飛びで回避した。そして回避した後、再び横合いからアーサーに飛びかかる。
「俺っちも混ぜろい!」
だが高まる戦意を抑えられない男がこの場にいた。
先の凄まじい一斉攻撃を見て高揚が抑えられない美猴が高く跳躍し、そのまま降って来るが勢いも盛んにブンブンと振り回し、みるみる大きくなっていった如意棒でスコルの腹を殴りつけた。
軽々と吹っ飛ばされたハティは黒焦げたプラセクトの死骸に激突し、地面に顎を打ちつける。
しかしその程度でフェンリルの子であるスコルはやられやしない。むくりと起き上がると牙と殺意を剥き出しに弾丸の如きスピードで美猴に突っ込んでくる。
「えい」
しかしスコルの殺意を挫かんとまたもや乱入者は現れる。
横合いから飛び出してきた小柄な少女が、サッカーボールみたくフェンリルを蹴り飛ばした。その後すたっと音を立て、狼を蹴った少女は着地する。
その少女の姿を認めて、二人は眉を上げた。
「お前は…」
「黒歌の妹さんですね」
グレモリー眷属唯一の『戦車』、塔城小猫。二人の仲間である黒歌の妹であると聞かされており、美猴は黒歌と共にパーティー会場に現れた際、彼女を連れ去る黒歌の手助けもするなど因縁もある。
二人の視線に気づいた小猫も、同じく視線を返す。
「姉さまの仲間…」
「…ほー」
ひょいと美猴が近づく。品定めするようにふむふむと顎をさすりながら、彼女の体のあちこちを見る。舐めるような彼の視線に小猫は不快そうに眉を顰めた。
「うーん、やっぱ姉と違って色々小っちぇーな」
「スコルの前にあなたをぶっ飛ばしますね」
片方は違えどいつも見る光景と似たような会話を繰り広げる二人の姿はアーサーの脳裏にこの場にいない彼女の姉を想起させ、苦笑をこぼした。
「ふふ、やはりあなたは黒歌さんの妹だ」
「…!私は…」
アーサーの言葉に、思わず小猫は言葉を詰まらせた。
本人の前で絶縁宣言をしたにもかかわらず、自分は彼女のことを変わらず姉さまと呼び、アーサーの言葉にも反応してしまっている。
どうやらどれほどあの姉が酷い人間だから縁を切ろうとしても、血縁とは逃れられないものらしい。そしてどういうわけか、この場にはいないが間接的に姉と共闘することにもなっている。
そう感じた小猫は今の姉に向ける敵意とかつての姉に向けた親愛の入り混じる複雑な思いに、彼に返す言葉もなく口をつぐんだ。
だが三人が会話する間にも、スコルは起き上がる。3対一と言う状況の変化に対しても、その凶暴な爪と牙を退くことはない。
二人の攻撃を受けてなお倒れない狼のタフさと、黒歌の妹と共に戦うという奇妙な巡り合わせにアーサーは笑んだ。
「ここであなたと共に戦うのも何かの縁ですね」
コールブランドを軽く振って、その切っ先をスコルに向ける。それに追随するようにも如意棒を、小猫は拳を構えた。
「あいつの妹の実力、見せてもらおうじゃねえの!」
「さっきの借りはしっかり返します」
奇妙な巡り合わせの下、集った3人は肩を並べた。
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「ハァァァ!」
一人果敢に、戦意を奮わせる雄たけびを上げながらゼノヴィアはフェンリルへと向かう。
聖なる輝きを宿す二振りの剣がユグドラシルと融合したフェンリル目掛けて振るわれる。迎え撃つフェンリルは溜めるような動作を見せ。
「GAAAAAA!!」
大きく開いた口から放たれる大気を揺らす咆哮は物理的な衝撃となって彼女に襲い掛かる。それを剣を交差して盾にすることで受け止めて利用し、砂煙を巻き上げながらもどうにか後退した。
「お前…!」
「悠、今のうちに遠くへ逃げるんだ。ここにいては戦いに巻き込まれる」
戻った彼女は軽く一瞥して、短く言う。その瞳に輝く恐ろしいほど決められた覚悟の光に息を呑んだ。
その光が、俺に否応なく彼女が何を為すつもりなのかをわからせた。
「まさか一人で戦うつもりか!?」
「そうだ、今奴を相手にできるのは私しかいない」
「ダメだ、フェンリルのクローンだぞ!勝てるわけが…!」
彼女の腕を掴んで、俺は必死に彼女を止めようとする。
伝説の魔獣と呼ばれたフェンリル、そのクローンをたった一人で相手にしようなど自殺行為も甚だしい。戦う相手の力量が分からないほど愚かな彼女ではない。それなのになぜ。
「私が時間を稼ぐから、お前は逃げろ!」
「おい!戻れ、ゼノヴィア!」
だが制止も空しく、制止も腕も振り払った彼女は再びフェンリルへと突撃する。
「ハァァ!!」
聖なる力を帯びた剣閃がフェンリルのボディを捉える。しかし鮮烈な剣戟は全身に巻き付く樹の根によって本体に届く前に防御されてしまう。どうやらかなりの強度を持っているらしく、鎧のような役割も備えているようだ。
これでクローン元になったフェンリルが備える神をも殺せる攻撃力と神速、唯一持ち得なかった強力な防御力をも手に入れてしまったという訳か。
「!」
剣技をぶつけるために距離を詰めていたゼノヴィアに、フェンリルの剛腕が襲い掛かる。ごうっという音と破壊力とともに来るそれを認めたゼノヴィアは。
「ふっ!」
一瞬だけ聖剣のオーラを解放し至近距離で炸裂させた。眩いオーラの攻撃力はフェンリルの防御を崩すには至らないが、オーラの反動を使って強引に彼女は後ろに下がることで、攻撃を回避した。
「何でだよ…!何で俺みたいな足手纏いで、嘘つきのためにここまでするんだ…!!」
戻ってきた彼女に俺は半ば叫ぶように問いかける。
どうして彼女は命を賭してまで、何も出来ず、何の役にも立たない俺を守ろうとするのか。わざわざすぐにでも殺されそうな俺に構うよりも、ロキを相手にする兵藤の援護をした方がずっといいはずだ。
…それに、仲間と呼ぶ連中に自分の秘密を打ち明けられない奴なんて見捨ててくれた方がよかった。なのになぜ、ここまで俺に尽くそうとする?
その問いが、ふと彼女の動きを止めた。
「…悔しかったんだ」
「…?」
ぼそりと、彼女は小さく言葉を漏らした。
〔BGM:貫く信念(遊戯王ゼアル)〕
「私はずっと悔しかった。聖剣使いなのに、力があるのにいつも君に助けられるばかりで…情けない私は本当に悔しかったんだ」
彼女は俺に一瞥することなく、背を向けたまま思いを語り始める。
今にも爆発しそうで、それを抑えようと冷静に震える声色が彼女が今まで秘めてきた思いの強さを窺わせる。
「私は君に何もしてやれなかった。でも、今やっと君を助けることができる!」
会話を待っていられないと、フェンリルが動きを見せる。フェンリルに絡みつく樹根が意思を持ったかのように動いて鎌首を擡げた。うねる樹根は凄まじい速度でゼノヴィアに殺到する。
迫る樹根を前にして即座にゼノヴィアは真っすぐ駆け出す。自ら攻撃が向かってくる方へと。
馳せる、躱す、剣でそらす、躱す、そしてひたすらに走る。凶悪な敵を相手にしてなお怯まない、逃げない彼女は前進し続ける。彼女という獲物に躱され、喰らい付き損ねた根はあえなく地面にドスンと突き刺さり、破壊の跡を残す。
そして振り返ることなく、彼女は俺に言葉を返しながら真っすぐ突き進む。
「今まで助けられてきたからこそ、君が今苦しんでいる時だからこそ、君が大事だからこそ、私が一番に動かなくちゃいけないんだ!!」
「…!」
その言葉に気付かされた。
俺は皆を守ることばかりを考えるあまりに、守られる側の気持ちを蔑ろにしていた。彼女の気持ちに気付いてやることが出来なかった。
「はあああ!!」
攻撃をかいくぐって走り抜け、再びフェンリルを剣の間合いに持ち込んだゼノヴィア。裂帛の気合と共に、木の根を伸ばして生身を露出した部位へと二つの聖剣の刃を走らせる。
聖剣の中でも破壊力に優れたデュランダルと竜殺しの力を秘めたアスカロン、輝く双刃が右前脚の付け根辺りに二つの深い切り傷を付けた。
「GAAA!!」
傷口からぶしゃっと勢いよく赤い血が飛び出し身を切り裂かれたダメージに絶叫を上げ、フェンリルは目を血走らせる。ダメージを受けた怒りか、フェンリルが鋭利な爪を生やす剛腕を至近距離にいるゼノヴィアに振るった。
回避しようもない距離と怒りによって増した速度の攻撃を、なすすべなく彼女は受けてしまった。
「ぐああっ!!」
爪を受けたゼノヴィアの体が鮮血と共に宙を舞う。その体に、先ほどまでアスカロンを握っていた左腕はなかった。
そしてゴツゴツとしていて硬い地面へと重力に従うままに落下して倒れてしまう。
「うぁ……」
「左腕が…!」
数秒遅れて切断された腕とアスカロンが彼女の傍にどさりと落ちた。切断面からはとめどなく血が流れ始める。
「うっ…ウうっ」
倒れる彼女はうめき声を上げつつも上体をむくりと起こして落ちた腕を拾い、ポケットからフェニックスの涙が入った小瓶を取り出す。そして液体を血に濡れた切断面にぶっかけてから腕を切断面に当てると、最初から切断されていなかったかのように元の様相を取り戻した。
「ハァ…ハァ……」
血と共に体力が流れてしまい、息を荒げながらも戻った腕でアスカロンを握り、剣を杖代わりにして彼女は立ち上がる。その目に灯した決意の光は微塵も鈍っていない。地面に身を打ちつけて鈍痛が走る肉体に鞭打ってまで、彼女はまだ戦おうというのだ。
「やめろよ、もうやめてくれよ!!」
そんなボロボロの彼女の姿を見ていられない俺は半泣きで彼女に訴える。
もう止めてほしかった。ここまで身を挺して守るくらいなら、いっそ何もしてくれない方がよかった。そうすれば、彼女が目の前でこんな目に合うことだってなかったのに。
辛い目を見るのは俺だけで済んだというのに。
だが俺の訴えを受けても、彼女は一歩も引かない。
「奴に敵わないのは……私の方が弱いのは…わかっている。それでも…!」
決意を自らの闘志をより奮わせる言葉にして太陽の如き絶対なる輝きを放つ瞳で、フェンリルを見据えていた。
「私は君を…守ると決めた!!戦うと決めたんだ!!」
傷を付けられたからか殺意に息を荒げるフェンリルが溜めるように身をかがめ、消えた。少し遅れて彼女も『騎士』の駒で強化されたスピードでこの場から消えるように動いた。
「それだけは譲らないッ!!!」
そして。
〔BGM終了〕
ザシュッ。
肉を裂く生々しい音が響いた1秒後、ぴちゃりと撥ねた赤い血が頬についた。そして彼女は吹っ飛ばされて、俺の足元に戻って来た。
下腹部から肩にまで大きく深々と爪痕を付けられ、綺麗に真っ二つにならなかったのが不思議なくらいに裂かれている。これが致命傷でなければなんだというのかというほど惨たらしい傷だ。
どさりと両膝を突いて、力なく倒れる彼女の体を抱き上げる。
「おい…しっかりしろ」
目に映る惨状に頭が真っ白になりそうなショックを受けて、掻き消えそうな声で彼女に呼びかける。今にも閉じられそうな向日葵色の瞳が微かに動いた。
「どう…して……逃げなかった」
真っ赤な血に濡れ、震える唇が辛うじて言葉を紡ぎ出す。
「お前一人を置いて…逃げ出せるわけないだろっ……」
抑えきれない涙を流して、俺は答えた。
あんなにも彼女が頑張ってくれたのに、俺は逃げることが出来なかった。あんなにもボロボロな彼女を置いて、一人みじめに逃げたくなかった。
どこまでも身勝手な男だ。人に信じられ、信じてくれと頼むくせに大事なことは話さないし逃げるための文字通り命懸けの時間稼ぎをしてもらいながらも逃げない。
しかし彼女は彼女の行動を無駄にする俺の答えに責めることなく、むしろ嬉しそうに笑った。
「ふ…バカは…お互い……様か……最…君の…す……」
今にも消えそうで、満面の笑みを浮かべて、力を失いゆっくりと目を閉じた。
「嫌だ…お前、死ぬな!何か言いたいことがあるんじゃなかったのかよ、オイ!!」
それきり動かなくなってしまった彼女の肩を掴み、わさわさと揺らす。涙が止まらない。
こんな大事な時に、アーシアさんのように命を救う力がない自分が溜まらなく恨めしかった。
どうにかして助けたい。だがこの傷ではアーシアさんの回復のオーラでもどうすることもできない。
だがそれでも彼女を助けなければ。彼女を死なせるわけにはいかない。死なせてなるものか。
「そうだ、まだフェニックスの涙が…!」
まだ残された希望をふと思い出し、すぐに自分のポケットに手を突っ込んで漁る。中に硬い感触を感じるとすぐにそれを引っ張り出す。
手に取ったのはフェニックスの涙。戦闘前に支給されたものの、まだ使っていなかったこの涙が彼女を救う希望だ。
「待ってろ、すぐに治してやるからな!」
瓶を捻って開けて、すぐさま中の液体を彼女に飲ませる。これで傷は涙の治癒力によりすぐに治るはずだ、彼女は助かる。
「……」
だが助かったはずの彼女はピクリとも動かず、返事を寄こさない。その手で触れる彼女の体から感じる体温は徐々に冷たくなっていくばかりだ。
「おい…しっかりしてくれよ…返事してくれ……」
彼女の生存を確認しようと声をかける。フェニックスの涙で今にも息を吹き返し、目を覚ますと思っていた彼女は動かない。
「返事しろよ!!」
大きく体をゆすり、大声で何度呼びかけてもうんともすんとも言わない。
「…まさか、そんな……」
不意に、回復しない理由を説明できる一つの可能性が頭によぎる。
だがそれを受け入れたくない。どうしても受け入れたくない。それを認めてしまえば、俺は。
しかし、フェニックスの涙を使っても回復しない彼女の体が文字通り動かぬ証拠だった。それが嫌と言うほど受け入れがたい現実を見せつけてくる。
間に合わなかったのだ。フェニックスの涙の回復を受ける前に、彼女は逝ってしまった。
如何に不死身の悪魔フェニックスから生み出され、如何なる傷も癒すフェニックスの涙と言えど、死者を生き返らせることはできないのだ。
「嘘だ…」
心の底から湧き上がる絶望に手と顔が震える。
俺が少しでも冷静さを持っていたなら、もっと早くフェニックスの涙を使っていれば間に合った、彼女を救えたはずなのだ。
でもそうじゃなかった。
俺の無能さが、無力さが、助かるかもしれない数秒の可能性をふいにした。
そう、俺が、彼女を殺した。
底なしの無限の絶望が、悲嘆が、力を無くした喪失感を抱える俺の心を潰した。
「う……うぁ……うアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「希望はまだ潰えていない」
どこからかそんな声が聞こえた。絶望という厚い膜に覆われる心にすっと入り込むような優しくも力に満ちた声だ。
その次の瞬間、腕の中の彼女の体がピクリと動いた。
「!お前、まだ生きて…!」
だがその言葉の返事の代わりに返って来たのは彼女の呼吸ではなかった。
突然派手に辺りに散った血は見る間に彼女にすうっと吸い寄せられるように戻っていく。そしてまるで磁石に引き寄せられるかのようにフェンリルへと向かっては何もない虚空で静止し、またこっちに戻って来た。
戻って来た彼女の姿にはさっき死んだ時のような痛々しい傷は微塵もない。動きからして、完全に息を吹き返している。
「は…?」
戻って来たかと思うとゆっくり倒れ、左腕にかけた透明な液体が重力に逆らい手にした小瓶に戻り、彼女の左腕がぼとっと落ちる。
そして彼女の体はまたも宙を舞うと今度は虚空に剣を振るい、引き下がり、猛スピードで後ろ走りを始める。
奇妙な現象の末、三度彼女は俺の下へ戻って来た。
「悠、今のうちに逃げるんだ」
そして彼女はそう言った。つい先ほど聞いたばかりのセリフを、全く同じ口調と、抑揚と、声色で。
目の前で起こった実に奇妙で、あり得ない現象に完全に思考がフリーズした。
向こうで戦っていた兵藤も、ロキすらも動きを止めてこの現象に驚いている。
そしていち早くこの現象の正体に気付いたのはロキだった。
「…時間を巻き戻しただと?」
胡乱気に眉を顰めながらロキは結論を述べる。
「巻き戻す…?」
停止できる奴ならうちにいるが巻き戻すなんて芸当はできないぞ。グレモリー眷属はもちろんヴァーリチームも、バラキエルさん達だってそんなことは不可能なはずだ。
「!」
唐突に、弾かれたようにロキは天を見上げる。そして何を見たのか、確信と敵意に満ちた笑みを浮かべた。
「そうか…奴か!」
全てを悟ったような奴の言葉に俺達も何があるのかと空を見上げる。
そこにあるのは星たちがくるめく星空。冥界特有の赤紫色の空は人間界と変わらぬ紺碧色に染まっており、星が輝いている。
そして俺達が見上げる方向には、夜空に輝いているというのに星ではない、しかしどの星よりも眩しい一条の光があった。
〈BGM:ゲイツリバイブ(仮面ライダージオウ)〉
その光を纏っているのは、羽の生えた男。もっと言うなら、天使だ。
光の天使がゆっくりと高度を落としていく。高度が落ちていくにつれ、光に隠された姿が明らかになっていった。
その背に生えるは12枚の黄金の翼。神々しさに満ちた翼はあの天使長、ミカエルさんにも負けずとも劣らない。
芸術にも思える装飾が施された白金色の鎧を身に纏う灰桜の髪を持つ、絵画に描いたような端正な顔立ちをした青年。
その男はまさしく、絶望に閉ざされようとしている俺達の希望であった。
「最強の熾天使…ウリエル!」
〈BGM終了〉
次回から、前々からやれ最強だの言われていたウリエルがいよいよ戦います。
次回、「立ち上がる男たち」