ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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ゼアルのBGMが有能過ぎる。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
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第89話 「立ち上がる男たち」

地より見上げる悪神と天より見下ろす大天使。二人の視線が中空で交錯する。

 

「先ほどのデュランダル使いを生き返らせた力、それが貴様の時空間操作能力か」

 

先に口を開き、ウリエルの登場によって場を支配した沈黙を破ったのはロキだった。

 

「いかにも。私が時間を巻き戻した」

 

「なるほど、伝聞に違わぬ出鱈目さだ」

 

肯定を告げるウリエルにロキは苦笑する。

 

時間を操る能力とは各神話の時間を司る神でもない限り、停止や加速などごく限られた用途でしか使えない。それを象徴するのがギャスパーが保有する停止の邪眼。あれは対象が視界におさめた者のみで、停止できる相手も自分や相手の力量に左右されるなどかなり不安定な神器だ。

 

聖書の神が作り出した神器はもちろん、時間に関する魔法も回復魔法と同等かそれ以上に難解を極めるもので使い手はかなり稀少であると聞いている。

 

そんな中で神でなく、神器所有者でもないにもかかわらず時間を停止、さきのような遡行など自在に操ることが出来るウリエルは時空間操作能力を保有する者達の中で一線を画する存在だ。

 

「これ以上貴殿を看過することはできない。ユグドラシルを取り込み、北欧神話を揺らがさんとする今の貴殿は禍の団以上の脅威だと、私は認識している」

 

剣を携えて見下ろすウリエルの目が一層鋭くなり、それに射貫かれるロキは愉快そうに笑った。

 

「それはそれは、我も評価されたものだ。元龍王に堕天使幹部、セラフとくれば次は魔王も来るか?」

 

「いいや、彼らが出るまでもない。私が戦いを終わらせる」

 

眩い剣を握る手をすっと上げるウリエル。輝く剣の切っ先をロキに向けた瞬間。

 

消えた。予備動作もなく、瞬きするよりも早く、忽然と姿を消したのだ。

 

「消え…!」

 

その言葉がロキの口から発せられるより早く、剣光は翻る。

 

次の瞬間、音もなくロキの眼前に唐突に現れたウリエルが痛烈な一太刀をロキに見舞う。神聖な刃が悪神の胸部を切り裂き、ザシュっと音を立て、今まで誰も散らさせることのできなかった悪神の血が舞った。

 

元居た上空からロキの下へ至るまでのウリエルの動きを捉えることが出来た者は、誰もいなかった。

 

〈BGM:ゲイツリバイブ(仮面ライダージオウ)〉

 

「ッ…!」

 

自分の意識と反応を越えた一撃を受けて今まで余裕、不敵そのものだったロキの表情が驚愕の色に染まった。

 

幸先よく大ダメージを与えたウリエルはロキに反撃をさせる間も与えないと言わんばかりに次なる剣戟を放つ。先の一撃で振り下ろした剣をそのまま下段から振り上げるように剣閃が迸る。

 

「フェンリルッ!!」

 

咄嗟に叫ばれたロキの一声で、フェンリルはすぐさま主を危機から救わんと駆け付ける。

 

「ぐあっ!」

 

しかしフェンリルが到着するよりもウリエルの斬撃が早かった。迸る鮮やかな剣光がまたもロキの胸を切り裂く。二度目の攻撃が一度目の攻撃でできた傷と交差し、ロキの胸部に深いバツ印の傷跡を作った。

 

「GAR!」

 

そしてようやく主の下へ駆け付けたフェンリルが神をも殺す凶悪な爪をウリエルへ振りかざす。

 

一度はゼノヴィアの命を奪った凶悪極まりない爪。並の者なら反応することすら叶わない攻撃にウリエルは反応し、剣で受け止めた。

 

間違いなく、ウリエルの動きはフェンリルの速度を越えていた。これももしかすると、ロキの言う時空間操作能力のたまものなのだろうか。

 

ウリエルがフェンリルの相手をしている合間にロキは二人から大きく跳び退り、距離を取る。今のロキですら警戒するウリエルの力、一体どれ程のものか。

 

爪を払い、今度はウリエルから攻撃を仕掛ける。ぶつかり合う刃が刹那に消える無数の剣光を生んだ。両者互いに引けを取らぬ速度で数合打ち合い、ウリエルは動く。

 

「半径5m限定、『時間停止《タイム・フリーズ〕』5秒間実行」

 

その言葉と共に一瞬ウリエルのオーラが弾け、能力は発動する。

 

フェンリルを中心に言葉の通り、風や巻き上がる土煙の半径5mに収まる何もかもがその場で静止する。

 

だがその範囲内に収まるウリエルだけは停止していない。全てが制止した空間で動けるウリエルがおもむろに腰を落とし、横一文字に剣を一閃。

 

「ふっ!」

 

続けて剣を振り上げ、鮮烈に振り下ろす。振るった剣をまるで付着した血を払うかのようにまた軽く振るうと。

 

キン。

 

そこで時間停止の効果が切れ、フェンリルの時は動き出す。動き始めた狼をすぐさま襲ったのは時間が止まった間に受けたウリエルの斬撃だった。

 

フェンリルの樹根に絡まれた巨体がブシャッという聞くも痛々しい音を響かせ、綺麗な十字の軌跡を描いて裂かれる。綺麗に四等分されたフェンリルの体がずどん、ぼとぼとと大量の血を垂れ流しながら地面に落ちていった。

 

脳天も、内部の臓器も全て斬撃で真っ二つにされている。即死なのは明白だった。

 

「一撃かよ…」

 

その光景に、俺は開いた口が塞がらなかった。

 

あれだけ苦労したフェンリルのクローンを一瞬で屠ってしまった。これが天使の頂点に立つ実力者か。とんでもない助っ人が来てしまったものだ。

 

今なら作戦開始前のバラキエルさんが名前を伏せた意味が分かる。こんな奴が来るとなれば、戦闘狂揃いのヴァーリチームは黙っていない。

 

ピク。

 

バラバラの骸になったはずのフェンリルの一部が僅かながらに動いた。それに呼応するように残る部位も痙攣するように動き始めると切断された部位に巻き付く樹の根がにゅるにゅると伸び、分かたれた部位を絡み合い、接合し、元の姿を取り戻していく。

 

「GA…RRR……」

 

そして数秒後、傷跡を完全に塞いで完全に復活したフェンリルの姿があった。

 

「自己再生能力か」

 

「GAAAA!!!」

 

一層凶暴な本能という火に油を注いだように、猛り狂った眼で雄たけびを上げる。そして大地を踏み抜き、音すら置き去りにした速度でウリエルに突撃をかけた。

 

「『時間加速《クロック・アップ》』」

 

対するウリエルもまたオーラを弾けさせると、再びその姿を消す。

 

それから一秒後。

 

キン、ガキン、キン!

 

耳をつんざくような音と衝撃があちこちで息つく間もなく次々に弾けては消え、また弾ける。あの音の正体は間違いなくウリエルとフェンリルの戦いの音だ。俺達が踏み入ることのできない、常識と感覚を超えた超スピード戦が繰り広げられている。

 

あまりにもバカげた実力者が繰り広げる戦闘に、俺は背筋が凍てつくような怖気とそれを溶かす安心感を同時に覚えた。

 

もしこれが敵だったらという恐怖、そしてこれが味方だという安心。どうりで天使の最強が天使長のミカエルさんじゃないわけだ。

 

「これが…天界の超越者、『時空穿覇の聖騎士《クロノ・パラディン》』」

 

かつての大戦時に堕天使と悪魔に恐れられた彼につけられた二つ名。神にも匹敵する時空間操作能力だけでなく近接格闘や剣にも長けたことからそのような二つ名を付けられた。

 

その武勇による功績を以て彼は空席となった四大セラフの座に登り詰め、大戦後も2勢力だけでなく他の神話体系の畏怖の対象となったという。

 

絶え間なく弾け続ける音。ふと一際大きな音を響かせると、少し遅れて音の発生源が空に移った。どうやら空中戦に持ち込んだらしい。

 

それからも俺には音とその衝撃しか認識できない戦いは続いた。さっきのようにフェンリルの時間を停止せずにクロックアップで応戦したということは、奴のスピードは停止能力では捉えきれないということか?

 

〈BGM終了〉

 

このまま熾天使と神喰狼の戦いの観戦に場の雰囲気が移りかけた時、ザッと注意を向けるかのように足音が響いた。

 

「ウリエルめ…神に仕える天使が、異教とはいえ神に歯向かうとは」

 

戦いを続けるウリエルのいる空を一瞥し、苦々し気に胸を抑えるロキがぼそりと吐き捨てる。

 

よく見ると胸につけられた傷がシュウと煙を上げて塞がり始めている。さっきのフェンリルと同じだ。これもユグドラシルを取り込んだことで得た力なのか。

 

やはり生半可な物理攻撃では奴を倒せない。さっきのウリエルのような必殺の一撃が必要だ。

 

胸の傷に触れたことで付いた血をはたはたと手を振って払い、おもむろに兵藤へと向いた。

 

「さて…仕切り直しだ、赤龍帝。今度こそ潰してやろう」

 

「クッソ、ウリエル様が来るまで俺一人でやるしか…!」

 

ロキが魔法を放ち、兵藤がドラゴンショットをぶつけて相殺する。ウリエルの参戦で中断していた戦いが再び始まった。

 

「助っ人はウリエル様だったのか…」

 

その一方。天を見上げ、信徒としてはあこがれもいいところの熾天使の戦いぶりを俺と同じ様に見えないながらもどうにか見ようとするゼノヴィアは呟いた。

 

「ゼノヴィア……」

 

そんな彼女の姿を一目見た瞬間、俺の心にぼうっとある感情の小さな火が灯る。

 

彼女を死なせてしまった絶望か、はたまた時間が巻き戻り彼女が生き返ったという現象への驚きの余韻かおぼつかない足取りで、とぼとぼと彼女に歩み寄る。

 

灯った感情の火は近づくたびに大きく燃え上がり、身を焼くほどの業火になった。

 

「ゆ、悠…!?」

 

そしてこらえきれない感情のままに、彼女をぎゅっと抱き寄せる。突然の行動に困惑する彼女の声が聞こえた。

 

全身で彼女を抱きしめ、その全てを感じる。布越しに伝わる体温、柔らかい体、彼女の反応、全てが生きている証だ。それらは絶望に沈みかける所だった俺の心を優しく癒してくれた。

 

彼女が生きている、それだけで、俺は―――。

 

「そんな、お前らしくない大胆な…」

 

「…よかった」

 

「…?」

 

「よかった……お前が生きてくれて……本当に良かった……!!」

 

込み上げる感情と涙が理性という堤防を容易く破壊し、抱きしめたまま泣きじゃくる。

 

一度失われた彼女の命。それが俺の中で如何に寄り添ってくれる彼女の存在が大きいものだったかを痛感した。

 

そしてそれは、これまで本当の自分をさらけ出せない自分にそんな資格はないと押し殺してきたある思いをより強くする。

 

俺って、やっぱりゼノヴィアのことが―――。

 

「…何だかよくわからないが、君に抱かれるのは悪くないな」

 

困惑していながらも、まんざらでもないと嬉しそうな声が返ってくる。

 

まだ気の抜けない状況なのはわかっている。でもほんのわずかでもいい。この瞬間だけは、彼女の生を実感していたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈BGM:友の証(遊戯王ゼアル)〉

 

感情の迸りも冷めた頃、涙を収めて俺は彼女を抱きしめる腕を放す。

 

「ゼノヴィア、今度はお前に助けられたよ…そして、教わった」

 

感情をあるがまま解き放った後、俺の胸に新たな決意の鼓動が宿っていた。それは心のさらに芯の部分に確かに強く根付き、それを成し遂げろと強く訴えてくる。

 

無論、俺はそれに従う。拒否する選択肢なんてなかった。それは決して強制されてのものではない、俺自身が、それを成し遂げたいと切に願っている。

 

視界の端にきらりと光るものを認め、俺はその方へ歩き出す。

 

「悠、お前…」

 

見つけた。戦いの中で手放してしまったグングニルのレプリカ。それをからんと拾い上げる。この状況で唯一俺が戦いに用いることが出来る武器だ。

 

オーラも魔法も神器も扱えない俺では今まで以上に力を引き出せず、そんじょそこらに転がるただの槍に毛が生えた程度のものにしかならないだろう。

 

だがこのまま徒手空拳でロキとやり合うよりはましだ。そして何よりこれは神の武具のレプリカ、力を引き出せずとも素の硬さと鋭さには期待できる。

 

「戦う力がなくても、俺は傷つく皆を見殺しになんてできない」

 

黄金の表面が、泣いて赤くなった目元と覚悟を宿した俺の瞳を映し出す。

 

彼女の死を間近に経験したことが、俺の心の弱さを消し去った。

 

「行くのか」

 

その表情から決意を読み取ったか、ゼノヴィアが声をかけてきた。

 

「ああ」

 

「君はもう変身できない。それでも、神と戦うのか?」

 

「そうだ」

 

そう答える俺の心には微塵の迷いも、恐れもない。

 

「…やっぱり、君はバカだな」

 

迷いのない即答に、ため息交じりに彼女は苦笑いした。

 

「バカで結構。何もしないでくの坊出なけりゃ何でもいい。…でも俺一人じゃあいつを助けられない、お前の力が必要だ」

 

苦笑する彼女へと振り向くと、彼女の顔を真っすぐに見つめて言う。

 

これから向こうでたった一人で神と戦っている兵藤を助けなければならない。あいつも彼女のように死なせてなるものか。

 

だが俺一人では非力なのも事実だ。だからこそ、ゼノヴィアの力を借りたい。死んで生き返ったばかりで申し訳ない気持ちいっぱいだがそうするしかない。

 

「俺のわがままに付き合ってくれるか」

 

もしかすると、また彼女を死なせてしまうかもしれない。はたまた、今度こそ俺が死ぬか。

 

だがそれを恐れては代わりに兵藤が死んでしまう。兵藤だって俺の大切な仲間の一人だ、助かったばかりのゼノヴィアの命と天秤にかけて切り捨てるなんてマネはできない。

 

あの時の俺は何もできず、何もせず、ただ茫然と彼女の戦いを眺めるだけだった。もう二度もあんな思いをするのは嫌だ。また自分のせいで仲間を死なせてしまうなんてことには絶対にさせない。

 

見つめること数秒、こらえきれないとばかりに彼女は「ハッ」と大きく笑った。

 

「こんなに真っすぐ見つめられて、君の頼みを断るなんてできないよ。こんな調子じゃ、私が逃げろと言っても逃げないんだろうな」

 

「げ」

 

実感があり過ぎて返す言葉もない。

 

時間が戻ったということは彼女もあの出来事は覚えていないはずなんだが…まさか、覚えていたりするのか?

 

「…ふふっ。それでこそ、私が認めた男だ」

 

そして可笑しそうに、満足げに微笑んだ。デュランダルとアスカロンを携える彼女は俺の隣に並ぶと、俺を背に守ろうとした時よりも晴れ渡るような表情で、力強く言う。

 

「さあ、私と一緒に行こうか!」

 

「…ああ!」

 

好きな人と一緒なら、もう怖くない。

 

〈BGM終了〉

 

 

 

 

 

 

 

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荒れ狂う嵐のような魔法が大地を吹き飛ばし、一誠を破壊という大海の藻屑にせんと迫る。

 

「おわっ!」

 

どうにか攻撃を免れるも、その余波に巻き込まれた一誠は爆風に煽られながらも龍の翼でどうにか風の流れを掴み、ふらつきつつも無事に着地する。

 

赤い兜は既に全壊し、頭と鼻から血を垂らす一誠の素顔を露わにしていた。辛うじて残った首から下の鎧の隙間からは鎧と同じくらいに濃く赤い血が流れており、肩で息をするほどのダメージを蓄積していながらなお戦い続ける一誠の消耗は激しい。

 

相対するロキも無傷ではない。白くはためくローブが繰り出された一誠の拳圧で所々破れている。魔法の弾幕を突破され何度か殴られたし、力を発揮しないミョルニルで直に数度叩かれもした。

 

だが付けられた痣も傷も全てユグドラシルの力で自動的に治癒する。その体質のせいで一誠は一向に有効なダメージを負わせられずにいた。

 

「…ハァ。弱いくせに精神はタフだ」

 

たった一人でここまで踏ん張ってきた兵藤を評するロキはかなりうんざりとした調子だ。

 

「テメエなんかにゃ俺の心は折れねえよ…!」

 

口角を上げて一誠は不敵にも啖呵を切る。神を相手にたった一人でここまで持ちこたえたのは奇跡と言えるだろう。

 

「ここまで追い込んだというのに覇龍は使わないのか?」

 

「…覇龍は使わねえ、代わりにミョルニルをてめえの脳天に打ち込んでやるよ」

 

前の戦いで覇龍を使用し寿命を削った一誠はまた覇龍を使えば今度こそ生命力を完全に削られ死んでしまう。

後先考えずに発動すればロキに大ダメージを与えることはできるが暴走した状態で味方をも巻き込みかねない。

 

アザゼルにきつく言われたのもあって、二度目は決して使わないと一誠は固く誓っている。

 

「減らない口、随分と舐められたものだ」

 

(…だが、何度かミョルニルの力が発動しかけた場面があった。戦いの中で奴の心が研ぎ澄まされているのか?いずれにせよ、そろそろ止めを刺さねば)

 

交戦の最中、一誠がミョルニルを振りかぶった時、清らかな心の持ち主しか使えないはずのミョルニルが輝きを放ったのだ。輝きは10秒も持つことはなかったが、ロキが警戒を高めるには十分だった。

 

このまま放っておけば、ミョルニルの力を完全に発揮してしまうやもしれない。それに神器は思いの力に応えるというしおまけに目の前で自分に歯向かってくる兵藤一誠は数々の戦いで女性の乳房でパワーアップした男だとも聞いている。

 

万が一の不測の事態を起こされる前に、さっさと赤龍帝は打ち取るべきだ。

 

その意思を固めたロキの下へ、影が降る。

 

 

 

 

 

 

 

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〈BGM:ハードボイルド(仮面ライダーW)〉

 

「!」

 

影、もとい女剣士は

 

「ハァッ!」

 

勢いよく振るわれる剣に身を翻して回避する。

 

「デュランダル使い…!」

 

ゼノヴィアの攻撃はまだ終わらない。さらに踏み込み、前進。両手剣でありそこそこ重量のあるデュランダルを片手で扱って易々と取り回し、さらにもう片手にアスカロンを携え二本の聖剣を以て次から次へと剣戟を繰り出し追い詰める。

 

デュランダルの上段振り下ろしがロキの右腕に叩きつけられ、続けてアスカロンの横一文字の一閃がロキの腹に走る。しかし後ろに腹を引くことで剣戟の範囲からすれすれ逃れた。

 

「勢いはよし、剣の腕もよし、だがそれでは我は倒せん!」

 

「だがお前の注意は悪しだな」

 

「!」

 

ゼノヴィアと攻防を繰り広げるロキの背後に俺は忍び寄っていた。ウリエルのような瞬間移動をできない俺が奴に詰め寄ることが出来た理由は3つ。

 

一つ目は奴が魔法攻撃を放って大地を砕いて所々砕けた岩の山を辺りに作ってくれたおかげでそれを隠れ蓑にどうにか近づくことが出来た。ユグドラシルを取り込んで火力を増した派手な攻撃が仇になったな。

 

二つ、ゼノヴィアが果敢にも怒涛の連撃で攻め立ててくれたおかげでロキの注意はしっかり彼女に引き付けられ、付け入る隙が生まれた。彼女には感謝しないとな。

 

そして三つ。俺の力を封じた奴の、もうあの人間は何もできないと高をくくってしまった油断。俺の力を封じた時にそんなことを言っていた。

 

ただの人間がもう歯向かってこないとでも思ったか?窮鼠猫を嚙むって言葉を身をもって教えてやる。

 

「なっ…!?」

 

あとは生まれた隙に、渾身の一撃を穿つだけ!

 

「オオオオオッ!!!」

 

裂帛の気合を迸らせながら、渾身の一突きを背後からロキの腹部に突き立てる。

 

ずぶりと黄金の槍は悪神の体を穿ち、奴の腹に風穴を開けた。

 

「ぬがっ!ぐぅぅぅぅぅ!!」

 

いきなり腹部を貫かれたロキがごぼっと血を吐き、激痛に叫ぶ。

 

「うううううらあああ!!」

 

返り血を浴びる俺はそれではまだ終わらないと再び絶叫を迸らせながらロキの腹部を貫通した槍を引き抜き、渾身のドロップキックを繰り出して豪快に蹴り飛ばした。

 

「ごっ…!」

 

キックを背後から受けるロキは無様にも顔面から地面との接吻を果たし、どさりと倒れこむ。

 

「はぁ…はぁ…」

 

〈BGM終了〉

 

この一撃だけでもかなり精神と体力を消耗した。まず気付かれないだろうがそれでも慎重に慎重を重ねて気取られぬようこっそり動き、全力の攻撃をぶちかましたのだ。

 

だが俺の目的はロキを潰すだけじゃない。

 

〈BGM:燃えるデュエリスト魂(遊戯王ゼアル)〉

 

「兵藤」

 

「紀伊国…!」

 

息を荒げて膝を突く兵藤の下へすぐに駆け寄り、手を差し出す。

 

俺の登場に驚きながらも差し出された手を握り、俺の肩を借りながら兵藤は立った。そして俺は手の次に、今度は透明な液体の入った小瓶を差し出す。

 

「こいつを使え」

 

「え、これってフェニックスの…!」

 

そう、俺に支給されたフェニックスの涙だ。さっき死んだゼノヴィアに使ったがウリエルが時間を巻き戻してくれたおかげで戻ってきたのだ。巻き戻された戦いの中でゼノヴィアが切り落とされた左腕に使った涙も同様に復活している。

 

「時間が戻ったのと一緒に戻って来た。俺のことはいいから少しでもダメージを回復しろ」

 

「お、おう。サンキュー!」

 

瓶のふたを開けて兵藤は中の液体をぐびっと呷る。その回復効果はすぐに現れたようで鎧の隙間や頭についた傷からぬめりとした流血が止まり、上がっていた息も整いだした。

 

「イッセー、無事か」

 

そして俺が奇襲を仕掛けるまでロキの気を引いてくれたゼノヴィアも俺達の下に駆け付けた。

 

揃った俺達二人の姿に、先まで一人でロキを相手にし、険しかった兵藤の表情は明るくなる。

 

「なんとかな。ゼノヴィアもサンキュー!でも紀伊国、お前もう戦えないんじゃ…」

 

「…確かに今の俺は変身できないし、戦う力はない」

 

もう戦えない。その言葉に目を伏せ、腰に巻かれたゴーストドライバーに視線を落として言う。

 

今までの俺の力の象徴であるそれは、今となっては俺の無力さの象徴だ。

 

「…皆を助ける力があるのに何もしないのは嫌だ」

 

俺はその誓いを胸に今まで戦い続けてきた。

 

だがそれは『力がある』ことを前提としていた。この戦いで俺はその前提となる力を失った。

 

力を無くした俺にもう戦うことはできない、仲間を助けることはできない。仲間に嘘を吐いた俺にはいよいよ存在価値はないのだと失い、惑い、怯え、恐れた。そしてその結果が守ると決めた大事な人、仲間である彼女の死だった。

 

命が消えゆく彼女の言葉と顔はいまだ強く俺の脳裏に残っていて、忘れられない。いや、忘れてはならない。

 

「でも、何もできないからといって何もしないのも、もう嫌なんだ。俺はもう後悔はしたくない」

 

だが心を砕くような最悪の結末を経験したからこそ、俺は立ち上がることができた。こうしてまた、ロキと相対せんと戦いに戻ることができた。

 

もう二度と、あのような結末を迎えてはならない。今までは可能性、あるかもしれない未来でしかなかった結末を俺はこの目でしかと見た。それが俺の決意を強固なものにした。あんなものは見たくないし、あんな思いはしたくない。

 

力がない?だから何もできない?そんなことを理由にして、やって来る見たくもない結末に目を背け、いざこの身に降りかかってきた時に嘆くのはもうごめんだ。

 

「俺は足掻く。例え今のように非力でも立ち上がり、敵に歯向かう。泥だらけになろうと血まみれになろうとクソみたいな運命に抗い抜いてやる」

 

「…」

 

「そして、皆と笑い合う完全無欠のハッピーエンドを迎える。それが再び立ち上がった俺の決意だ」

 

決意を言葉にすることで確認し、自分自身にも言い聞かせるように二人の前ではっきり宣言する。

 

「…なら、お前の覚悟って奴に付き合うぜ」

 

「私も付き合おう」

 

俺の宣言を聞いて士気を高めたようで、二人は微笑みながらも俺に同調してくれた。

 

「行先はあの世かもしれないが、それでもいいか?」

 

「俺達悪魔にはあの世はないけど、死ぬ気はねえよ。叶えたい夢があるからな。でも、死ぬ気でやってやるぜ!」

 

「君と一緒に行けるのなら本望だ、怖くなんてないさ」

 

こんな気の抜けない状況だというのに二人は笑顔だ。それが強がりによるものだとしても、気の張り詰めた俺の心を安らげてくれた。

 

そして何より、俺の無謀な足掻きにわざわざ付き合おうとしてくれる二人の存在がありがたかった。

 

「貴様ら…」

 

ぎろりとこちらを睨みながらゆっくり立ち上がるロキを見据えて言い放つ。

 

「無能でも、非力なりに足掻き抜いてやる。人間の意地ってもんを見せてやるよ」

 

覚悟は決めた、後は貫くだけだ。

 

〈BGM終了〉

 




別に戦場のど真ん中でチョメチョメしたわけじゃないですよ?

次回ではいよいよ…!

次回、「彼方より来たる願い」

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