ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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いつもの通り分割してます。

意地を秘めて立ち向かう三人の戦い。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
5.ビリーザキッド
6.ベートーベン
7.ゴエモン
9. リョウマ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第90話 「貫く信念」

〈BGM:闘志果てしなく(遊戯王ゼアル)〉

 

兵藤、ゼノヴィア、そして俺。幾度となく傷つきながらも立ち上がり、覚悟の輝光をその目に宿して強大な悪神の前に立つ。

 

なおも立ち向かおうとする俺たちの姿に、ロキは一息吐いた。

 

それは折れない俺達の執念への呆れか、戦士として対峙する勇気への感心か。

 

「…ヴァーリの言を認めよう。私は確かに貴様を侮り、人間だからと情けをかけた」

 

息を吐いてから顔を上げ、ロキは俺に向かって言った。

 

「仲間を守りたいという純粋な貴様を見て、三大勢力に都合よく利用されているのだと憐れんだ…だが、それは我の杞憂だったようだ」

 

その杞憂を振り払うかのように顔を軽く振るうと、ぴちゃりと貫かれた腹の傷を撫で、己の血に濡れた拳をぎゅっと握る。

 

「ここまで来てなお歯向かうというのなら、貴様を一人の敵として、エインヘリヤルたちに並ぶ勇者と認めてやらねばなるまい」

 

ロキの表情から悠然とした色が消え、きっと引き締まったものになった。

 

こっちが覚悟決めたのと同じようにいよいよ本腰入れてくるか。

 

「一人じゃ奴には勝てねぇ、三人合わせて行こう」

 

隣に並ぶ兵藤が一歩前に出た。

 

「わかってる」

 

腹部の傷は既に治癒を始めている。が、今まで付けた傷と比べると妙に回復の速度が遅い。もしかすると、同じユグドラシルから作られたグングニルの効果でも働いているのか。

 

いずれにせよ、このグングニルのレプリカが戦いのキーを握ることには変わりない。

 

並ぶゼノヴィアと兵藤が飛び出し、俺も遅れて二人に追随する。駆け出した二人の姿はあっという間に遠ざかっていく。

 

転生悪魔の二人と違って生身の人間である俺はどうしても二人に身体能力で追いつけないし、身に纏う制服も戦闘用に特殊加工が施されているとはいえ耐久は心許ない。

 

だから、二人の何倍も慎重に立ち回る必要がある。奴の攻撃を無傷で潜り抜け、二人の攻めで生み出される隙を突き、一撃で奴を穿つ。それが今の俺が為すべきこと。

 

「来い」

 

不敵に構えるロキは周囲に魔方陣を展開し、様々な属性魔法で攻撃を仕掛ける。

 

飛び出す火球が大地を吹き飛ばし、荒ぶる雷が岩を砕き、炸裂する風刃が二人を襲う。

 

しかし俺達は怯み、その足を止めることはない。ただひたすらに迷いなく走り続ける。風刃や火球はゼノヴィアがデュランダルですれ違いざまに切り裂き、悪神への道を拓いた。

 

「うぉぉぉ!!」

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

先に奴の下へたどり着いた二人が攻撃を仕掛ける。真っすぐに振り抜かれる拳と、眩い剣閃がロキに向けて放たれた。

 

対するロキも動く。ユグドラシルでできた右手、その五指をぴたりと揃えると、くっつきにゅるっと伸びて鋭さを帯び、刃の広いバスターソードのような形状に変化した。

 

聖なる力を纏った剣閃を、叡智の結晶とも呼べる大樹の剣閃が払う。そして兵藤が豪速で放つ拳をぱしっと払い、腕を掴んだ。

 

二人を同時に相手にしたことで、魔法の攻撃が止む。今なら俺を阻むものは何もない。

 

態勢を低くし、なるべく二人の陰になって目につかぬよう馳せる。

 

二人には助けられてばかりだ。だから、俺が奴を倒して皆を助ける。

 

変身時と比較すればかなり遅いペースではあるものの、どうにか二人の陰から飛び出してロキの懐に入り、槍の間合いにおさめた。

 

「心臓を貰うぞ!」

 

「それで我を封じたつもりか!」

 

両手をふさがれたロキ。ニヤリと笑うと、まだ残っているぞとばかりに左足で蹴りを繰り出した。間近に詰めていた俺にはそれに反応し、対処する術はない。

 

「ぐふぅ!」

 

回避しようもなく、腹に鋭く叩き込まれた蹴り。その衝撃が真っすぐ体を突き抜け、そのまま一気に俺を吹き飛ばして押し戻す。

 

地面すれすれの短い低空飛行の後、どさっと一度地面を跳ねると地面に身を激しく擦りつけながら停止する。

 

「あ……はぁ……」

 

全身にできた擦り傷、身を打ちつけた痛み。どれも痛い。変身した状態でも受けたダメージは痛かったが、生身だとこんなにも痛い物だったのか。

 

そして何より辛いのは身を焼くような痛みではない。腹を強く圧迫されたことにより込み上げてくる嘔吐感だ。

 

それは痛みよりも耐え難い、今までにないほど強い不快感だ。我慢できない。

 

「う…うぇぇぇ……」

 

痛みをこらえて上体を起こすと、抑えきれないそれをすぐに近くにぶちまける。体を支配する不快感は一度では消えず、俯いて何度も吐く。

 

「おぇ…ハァ…ハァ…」

 

内臓もやられたのか、吐き散らかされた吐しゃ物には赤い血の色も混ざっていた。

 

「悠!」

 

それでも残る吐き気と痛みで白熱する意識の中、ゼノヴィアの声が聞こえた。その隣にいる兵藤の拳を握るロキは。

 

「ぬぅん!」

 

気合の一声。ぐいんと勢いをつけ、片手で掴んだ兵藤を隣のゼノヴィア目掛けて投げ、叩きつけた。ロキの行動に意表を突かれた彼女は投げられた兵藤と見事に激突し、一緒に地面を転がる。

 

「はっ!」

 

そこに追い打ちをかけるように、口角を歪ませるロキが厚い刃と化した右腕を思いっきり振り上げると鋭い斬撃が迸る。

 

真っすぐ地を這う斬撃が這った跡を鋭く残しながら猛進し、同じく地に体をつける二人を襲う。

 

「やべ!」

 

気付いた二人は慌てて横っ飛びでそれぞれ躱し、二人仲良く切られるのを避けた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

一方でようやく嘔吐感が落ち着いてきた俺は荒い呼吸を整える。

 

両手が塞がり咄嗟に繰り出されたものではあるが、あれが神の蹴りか。運が悪けりゃあれで死んでいた。痛いのと吐く程度で済んだのは幸運だ。

 

しかし、生身で受けるダメージがこれか。今までの戦いは強化スーツが受ける衝撃を和らげてくれていた。それでもかなりのダメージを受けたりしたが、俺がまた、どれほどあの力に頼っていたかを痛感した。

 

…やはり、俺は非力な人間だ。非力だが、貫くと決めた意地がある。まだくたばるわけにはいかない。

 

決意を新たにまたグングニルを握り直し、立ち上がる。

 

〈BGM終了〉

 

〔Boost!Boost!〕

 

「ミニドラゴンショット!」

 

向こうで兵藤が籠手の力で増大化した魔力を手のひらから撃ちだした。普段のドラゴンショットと違ってかなりサイズダウンした小さな赤い光球がカーブしながらロキの下へ飛来する。

 

「無駄な足掻きを」

 

ふんと鼻を鳴らしてロキは飛んでくる攻撃を逆にサッカーボールみたく蹴り返そうと足を動かす。しかし光球はロキの下にたどり着く少し前の所に着弾し、ボンと爆ぜた。

 

「む…!」

 

小さいながらもそれなりに秘められた威力に巻き上がる爆風と濃密な煙が充満し、ロキの視界を遮る。

 

〔Boost!Boost!Boost!〕

 

「行くぜ、ゼノヴィア!」

 

「頼んだ」

 

〔Transfer!〕

 

その間譲渡の力をゼノヴィアに発揮する兵藤が、彼女と共に再び動き出す。その時の彼女の一瞬の目くばせで全てを理解した。

 

明確な根拠はない。だが彼女がそう合図した、彼女の意思が伝わったという確信はあった。

 

その確信に導かれるままに意を決し、嘔吐感を鎮めたばかりの体でまた槍を携え、ロキの下へとひた走る。

 

〈BGM:残響dearless(魔法使いと黒猫のウィズ)〉

 

「姑息な目くらましだ…むうん!」

 

向こうにいる標的のロキは力強く腕を振るい、まとわりつく煙を強引にかき消した。煙が消えたことで晴れた視界に飛び込んできたのは。

 

「おおおお!!」

 

ゼノヴィアだった。前面に二つの聖剣を交差したまま、真っすぐロキに突っ込んでいく。

 

「特攻のつもりか?愚か者め!」

 

嘲笑のままにロキがバスターソードと化した右手を振り上げる。

 

その瞬間、ゼノヴィアの聖剣からカッとくるめく光が溢れる。聖剣を交差させることで力を共鳴させ、その力を解き放ったのだ。

 

「ぬぅぅぅ!!」

 

二つの聖剣を使った目くらましは強烈な効果を発揮した。目くらましにしては聖剣二つを使うなど豪華すぎるくらいだが、神を相手にするのだからこれくらいはしなければ効かないだろう。

 

ごく近い距離から光を受けたロキはたまらず両目を塞ぎ、呻きを上げて、悶える。

 

「紀伊国!」

 

奴が悶える間にも走る俺の隣に兵藤が並ぶと、肩に触れた。

 

〔Transfer!〕

 

籠手から音声が鳴ると、倍加の力を流し込まれ心臓がドクンと脈打った。そして、全身に力が漲る。

 

「譲渡はこれで限界だ、あとは任せた!」

 

「合点承知!」

 

倍加した身体能力が、走る速度を押し上げる。そして悶えるロキの下へ飛び込む。

 

攻撃のモーションに入ったその瞬間、目つぶしから少し立ち直ったロキが目を僅かながらに開け、俺の存在に気付いた。

 

「同じ手が二度も通じるか!」

 

馬鹿めと言わんばかりに笑いながらまたもロキは蹴りを繰り出す。

 

しかしそうするのを俺は待っていた。

 

「三度目はない!」

 

思った通りだとニヤリと笑う。槍を真っすぐ突きだすのではなくぶおんと黄金の軌跡を描き、グングニルで足払いをかける。狙いは片足を上げたことで唯一奴の体を支える柱になった、右脚だ。

 

「何!」

 

虚を取られたロキが目を見開いた。右足をやられたことで両の足が地を離れる。ものの見事に足をすくわれ、勢いよくすてんとロキがすっころんだ。

 

「今だ!」

 

そして倒れたロキに、今度こそ仕留めんとグングニルの一閃とデュランダルの聖刃が殺到した。

 

「グァァァ!!」

 

いち早く走るデュランダルの剣戟がロキの体を左肩から右横腹にかけて深く切り裂き、続くグングニルがロキの胸をずぶりと穿つ。

 

今までどんな攻撃を喰らってもけろりとし、回復してきたロキも流石にこれは応えたらしく目をカッと開いて絶叫を上げた。

 

手ごたえありだ。このまま攻撃を続ければ…!

 

「ああっ…ぐぅぅぅっ!!」

 

しかしそれでやられてくれる悪神ではない。絶叫で上向いた顔をばっとこちらに向けると、すぐに反撃の魔法を繰り出さんと、魔方陣を展開する右手を俺にばっと向けた。

 

「しま…」

 

「危ない!」

 

咄嗟に大きく声を上げた兵藤がドンと俺に体当たりをかけ、突き飛ばした。突然のことで受け身も取れず、身を打ちながら数度ゴロゴロと地面を転がった。

 

次の瞬間、ロキの手から魔法の奔流が炸裂し、至近距離という射線上にいた兵藤に直撃した。その余波にゼノヴィアも巻き込まれ、二人仲良く吹き飛ばされてしまう。

 

硬い地面を何度も転がった末に静止する兵藤。

 

「い…てぇ」

 

制服はボロボロで黒焦げ、頭からだらだらと血を流す兵藤が、痛みに呻きながら上体を起こす。鎧は禁手発動中にもかかわらず、もはや全損と言っても過言ではないほどにボロボロになっていた。

 

「兵藤!」

 

「ハァ…ハァ…死ねぃ赤龍帝!」

 

深手に息を荒げ、口から血を垂れ流すロキが苦し気に起き上がると右手を突き出し、魔方陣からびゅおおと荒ぶる無数の風の刃を放つ。

 

「させるか!」

 

片膝を突くゼノヴィアが再びアスカロンとデュランダルを交差させ、共鳴し増幅した聖剣のオーラを一瞬だけ解放する。

 

殺到する風の刃を容易く飲み込み、圧倒的な質量を以て光の中に消し去った。

 

「まだだ…まだ終わらない!」

 

己と二人を鼓舞しようと叫びながら、槍を杖代わりにして立ち上がる。

 

三人でここまで来たんだ、折れてなるものか。戦い抜くと決めた。この信念と、一度は失われた彼女の命にかけて!

 

〈BGM終了〉

 

その時少し離れていたはずのロキの姿がふっと消えると、一瞬で俺の目の前に現れた。反応が追い付かないままロキの左手が、俺の胸倉を掴みぐいっと持ち上げた。

 

「離せ…!」

 

ジタバタと足掻くが、ロキの手が緩むことはない。

 

「悠!」

 

「紀伊国!」

 

向こうで二人の叫びが聞こえた。しかし助けに行こうにも力を使い果たしたのか、呼吸を荒くするばかりで立ち上がれそうにもない様子だ。

 

だがロキの方からわざわざ近づいてくれた。こんな絶好のチャンスを逃すまいと握る槍でロキを一突きせんとするが、それを奴が気付かないはずもなく槍の穂を右手で掴まれて力任せに奪われてしまう。

 

そして槍をぞんざいに投げ捨てると、そのまま腹パンを叩き込んできた。

 

「うっ!」

 

衝撃に押し出され、吐き出す空気。鈍い痛みが襲った。

 

それでも俺はそれだけで獣を殺せそうなくらいなにらみをガン飛ばしながら、ロキの手を逃れようとジタバタする。何度も蹴りつけるが、ロキは一切動じない。

 

必死な俺とは対照的に、あれだけのダメージを受けながら冷静そのものの表情で掴み上げた俺を見上げるロキは言った。

 

「無力にして尽きぬ闘志、生身で我に傷を負わせる執念、やはり昨今の平和ボケした人間にしては惜しい人材だ。我が配下のエインヘリヤルとして迎え入れてやりたいところだが…聞かぬのだろうな」

 

「できない相談…だな。俺は…こいつらと一緒に戦うと決めている!」

 

仲間を見捨てて生き延びるなど、そんなドブに捨てられ腐りきった生ごみにも劣る選択は御免だ。

 

その選択は、今までの俺を、今の俺の全てを否定する。そんなことが許されてなるものか。

 

足掻く、藻掻く、歯向かう。何度も足を振るって蹴りを入れる。

 

「くそっ…この…!」

 

「抗うな、ただの非力な人間が神に敵うはずもない。貴様の道はここで途絶える」

 

反抗も空しく、手刀で一息にとどめを刺さんとばかりに奴は右手を構えだす。

 

「敵うはずがなくても……俺はッ!!」

 

この身を奮わせる燃え滾る感情にぎりっと歯を食いしばる。

 

だとしても、最悪の結末をただ指をくわえて見ることなんて俺にはできない。いや、もうしたくない。

 

「もう誰も失いたくない、死なせたくない、弱くたって諦めない!!全部、俺が守るッ!!」

 

そして猛りに猛る闘志、迸る感情のままに天に向かって、思いの丈を吼える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きらっ。

 

ふと、見上げた天にきらりと青白い光が瞬く。普通の星たちに混じって夜空を彩るそれは次第に不自然なほどに輝きを増していく。

 

「何だ…?」

 

ロキもそれに気づき、怪訝な表情を向ける。ますます明るくなっていく青い光。

 

いや違う。あの光の輝きが増しているのではない。

 

こっちに落ちてきているんだ。

 

推測の通り、光はこっちに真っすぐ落ちてきていたのだ。

 

それに気づいた数秒後というものすごい速さでに、光は俺に直撃した。

 

体も、意識も、全てが白になっていく。

 

 




大変長らくお待たせいたしました、次回はパワーアップ回です。お楽しみに!

次回、「彼方より来たる願い」

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