不機嫌。機嫌が悪いこと。誰であろうと人の機嫌が悪い時、得をすることは滅多にない。戦いで相手が慎重を欠くとかそれぐらいで、見知らぬ他人であろうと不機嫌な者が隣に座っているだけで周りの者まで不機嫌になる。まだ身の内にそのイライラを隠してくれるならばいい。しかし、ハリのように炎のような苛烈さを持った空気を周りに放ち始めると最悪だ。手を伸ばさずとも熱せられた空気は周りの空気を押し広げ、何を聞かなくても手を出してはいけないことが分かる。学年別トーナメントの噂で色めき立っていた一組のクラスは、口を開くことを許されず全員両脚に綺麗に両手を置いて椅子に座り、下を向いて机の上の傷跡を見つめることしか許されない。一度クラス代表者決定戦の後に不機嫌になったハリを見ているから分かる。しかも見るからにその時以上、声を掛ければ言葉で殺される。一夏は誰よりそれを理解し、ハリから目を背けダラダラと油汗をかいた。箒も窓の外、偉大な青空に視線を投げて考えることをやめた。セシリアは諦めの微笑を浮かべ行儀よく西洋人形のように動かない。鈴音は一組の教室を廊下からチラ見して帰って行った。麻耶は今だけは渾名で呼んでくれと天井を仰ぎ、千冬さえも目を瞑り今夜の夕食のことを考えるという現実逃避。本当ならば騒ぎたい。転校生の話がしたい。噂の真偽を確かめたい。しかし無理。今一人でもその話題達に手を出した瞬間バックドラフト。一組が消し炭になる。何故か少し髪や制服に霜の張ったハリは、そんなことはどうでもよく、鋭い目は教室の入り口を睨んでいる。ここまで来たら転校生の顔とやらを拝んであげましょうという訳の分からない上から目線で、要はどのイライラから手を付けていいのか分からずハリの頭の中は台風の通った後のようにゴチャゴチャだった。
「失礼しま……」
「…………」
転校生は教室に入った瞬間凍りついた。ただならぬ雰囲気。教室全体が殺気立っている。これがいずれ世界を担うIS操縦者達の空気なのかと開いた口が塞がらない。一人は失礼しましたと言ってそのまま帰りたいと思った。もう一人は予想以上の厳格さに気を引き締め治す。無言の麻耶に教室の前方に案内され、涙目で自己紹介しろと口には出さずとも訴えかけられる。これまで大事に育てていた子豚の出荷が決まったんだ……というような目が転校生二人の不安を煽り、クラスメイト達を見回して更に不安になる。
「シャ、シャルル・デュノアです。ふ、フランスから来ました。この国にぼ、僕と同じ境遇の方がいると聞いて転入して来ました。よ、よろしくお願いします」
IS学園に男子が来ればどうなるか。騒がれ騒がれ兎に角騒がれもみくちゃにされる。そうなるだろうことをIS学園に入る前に聞いていたシャルルだったが、話と違うとホームシックに陥った。無言で睨みつけてくるクラスメイト達が恐ろしい。自分の正体がもう全員にバレたのではないかとシャルルの心をズタボロにしていく。ハリのせいで口は開けない、でも三人目の男子の登場に狂喜乱舞したい。その相反する二つの想いがせめぎ合い目から出ているだけなのだが、転校生のシャルルにそれが分かるわけがない。更にいつまで経っても隣の同じ転校生が口を開かない。何を警戒しているのか口を引き結び、自然で、しかし無駄なく薄い緊張感を持っての立ち姿は軍人のそれ。飼い慣らされた猟犬が待ったをかけられている。そんな空気を纏っていた。
「…………挨拶をしろ、ラウラ」
「ハッ!」
シャルルの自己紹介から二分は使い、恐る恐る口を開いた千冬の言葉にラウラはこれまでの人生で最高の敬礼をする。あれほど見事な挨拶は見たことがない、と後々まで一組のクラスメイトは語ったものである。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。貴官らと会えたことは誇りに思う。よろしく頼む。以上だ」
ちゃらちゃら浮ついた連中だとラウラは思っていた。実際校内を歩いていた時は想像通りで怒りが込み上げたわけだが、一組の蓋を開けてみれば誰もがピリピリとした空気を放ち何かを警戒している。流石は千冬のクラス。自分の想像を簡単に裏切ってくれると誇らしげな笑みをラウラは浮かべる。それに一組のクラスメイトは困惑した。まるで同族を見るような目。これが一組のデフォルトだと思われては堪らない。
「! 貴様が」
そんな中で一夏を見たラウラの目が途端に険しくなった。一組がラウラにとっていいクラスなのと織斑 一夏のことは別問題だ。ツカツカと一夏に迫るラウラだったが、その足は途中で止まった。赤が遮った。クラスの規律を乱そうとしたために怒ったのかとラウラは思ったが、これ以上問題が起こらないように少々ポンコツ気味のハリが潰しにかかっただけだ。
「貴様……」
ラウラの赤い瞳とハリの赤い瞳が重なる。軍人としての嗅覚か、出来の違いを嗅ぎ分ける。只者ではない。自然と、しかし隙のない佇まいが同じ軍務関係者の類だとラウラに告げた。
「名は?」
「ハリです」
「貴様が代表だな」
「それは後ろの彼です。僕ではない」
「なッ⁉︎ ……そうか、一応は弟ということか。この中で代表を務めるとはな。忌々しいことだが、最低限の実力はあるということか」
「ほう、随分と腕に自信があるんですね」
「まあな…………それより貴様なぜ霜が張ってるんだ?」
「聞かないでください」
「おい! おい貴様! 説明しろ! 聞いているのかハリ!」
「なんですか?」
本日の授業は一組と二組の合同。自称三人目の男性IS操縦者の面倒を見るためにいち早く一夏はシャルルを連れて出ていったというのに未だ戻ってこない。シャルルの相手を率先して一夏が引き受けたせいでラウラの面倒を見るように千冬から直々に頼まれてしまった。男も二人、転校生も二人で丁度いいとは千冬の言葉。何が丁度いいのかハリには理解できない。そんなラウラの相手はラウラが無駄なくキビキビと動くのと、無駄なことは口に出さない無口な軍人気質のおかげで苦ではなかったのだが、それもすぐに終わってしまった。一組と二組が合流したおかげで一組はいつもの活気を取り戻し、ラウラ好みだった魔法は解けて一組の女子達は普通の女子高生に戻ってしまう。その様にラウラは怒髪天。長い銀色の髪を波打たせて、これまで隣に静かに突っ立っていたハリに八つ当たり気味に食って掛かる。
「なんですか? ではない! アレはなんだ! さっきまでの気迫は!」
「これがいつもの彼女達ですよ。何を期待していたのか知らないですがね」
「ぐッ、少し見直したのが間違いだ。やはり教官はこんなところにいるべきでは……」
急にぶつくさと独り言を口ずさむラウラにはお近づきにはなりたくないと数歩ハリはラウラから離れた。が、いくつか気になることがあるのでその足を止めた。未だ教官教官と口ずさむラウラはこれまでハリが会った者の中でも別の意味で怖い。
「お忙しそうなところすいませんが一つ聞きたいことがあるのですが」
「駄目だ。私に話すことはない」
「貴女の疑問に一つ答えたのですから貴女も一つくらいは答えてください」
「…………なんだ」
「もう一人の転校生。貴女は気付いているでしょう?」
そうハリが言うと、ラウラは再びハリに視線を戻した。ハリの後方で騒いでいる女子達とハリをチラチラ見比べ、口元がゆっくり弧を描く。
「やはり貴様は馬鹿ではないようだな」
「見れば分かりますよ」
「ああ、動きで分かる。最近のフランスでは女のことを男と呼ぶらしいな」
ビンゴ。一夏がシャルルの相手をしてくれていて良かったとハリはハリで笑顔を浮かべる。それに加えてこの無駄のない建設的な会話が素晴らしいと久々に身体から力が抜けた。シャルル・デュノア。自分は男だと自己紹介の時に宣言した時は、何を言ってるんだとハリは頭を痛めたが、どういうわけかクラスの女子は信じ切っていた。自分の感性が死んだのかと一瞬不安になりもしたが、もう一人の転校生は非常にハリ好みだ。黒を黒。白を白と言え、ダリルのように遠回りに話すことも、箒やセシリアのように色恋にうつつを抜かしてもいない。不安要素はあるが、ハリが楽に相手をできるタイプの人種。それが今の会話で確定した。
「それが分かっていて貴女は何も言わなかったのですか?」
「興味がない。私に関係ないことにいちいち首を突っ込むこともない。貴様はどうなのだ?」
「フランス、デュノア社の思惑などどうだっていいというのが本音なのですが、男としてここに来たのなら僕が何もしなくても向こうからやってくるでしょうし。手は打たなければならないでしょう」
「ふん、貴様みたいなのがいるのが唯一の救いか。ここはぬるすぎる」
「その意見には賛成ですが、ならなぜここに来たのですか?」
ラウラの目が鋭さを帯びる。その瞳に映るのは何かしらの決意。亡国機業でハリが幾度となく見た顔だ。そういうものからだいたい早く死んでいく。地雷だということは分かっていたが、今は踏み抜くのが一番。シャルルの問題が控えているのだから、一夏を見て何かをしようとしたラウラの問題を先に解決できれば後が楽だ。ほっといた場合面倒くさくなった上でハリに話が回ってくるのが目に見えている。
「……お前ならいいだろう。教官を連れ戻すためだ」
「教官? ああ」
ちらりとラウラが千冬に目をやったのを見てハリは納得した。千冬はある理由で一年間ドイツで教官をしていた時期がある。それはハリも知るところ。そしてラウラはドイツから来た。ラウラの言う教官は千冬であり間違いない。
「教官にこの場所はふさわしくない」
「それを決めるのは貴女ではないと思いますが」
「なんだと」
「なんだと言われましても、それを決めるのは織斑先生であって貴女ではない。それぐらい分かるでしょう」
「そうだとしても!」
「それが全てですよ。もう少し考えた方がいいと思いますが、そのまま織斑先生に言えば怒られるのが目に見えます」
「つッ、ならどうすればいい」
織斑 千冬。短い時間でも分かりやすすぎる。それがラウラにとっての絶対的ワード。どうすればいいなどと急にか弱くなるラウラに、どうしようもないでしょうと言ってみいいのだが、ハリは少し考える。そしてすぐに考えるのをやめた。このラウラの内に潜む厄介ごとは千冬の不始末と言ってもいい。ならば千冬に放り投げるのが一番面倒がない。そのためハリが言うのは、
「織斑先生に直接聞いてみては?」
「それだと怒られると言ったのは貴様だろう!」
面倒くせえ。ハリが言ったのは連れ戻すと言うのではなく話し合えという意味だったのだが、ラウラの辞書には連れ戻すという言葉しか載っていないらしい。しかも怒られるのが嫌とは小学生か。急に馬鹿らしくなってきたハリを助けたのは、ようやっとやって来た一夏とシャルルであった。授業が始まったおかげでハリはラウラから解放されたが、ラウラからの鋭い視線は止まない。
そんな二人は御構い無しに授業は進み、実戦訓練。ハリの知らぬところで騒いでいた鈴音とセシリアが見本として前に立たされ、その相手は麻耶であった。落ちてきた麻耶と一夏が衝突するなどというハプニングが中学から鍛えてきた一夏にあるわけがなくしっかり避ける。そんなドジっ子麻耶であるが、一夏かハリと組むならいざ知らず鈴音とセシリアは恋敵同士。仲がいいなんてことがあるわけもなく、IS学園教諭として甘くはない実力者である麻耶に足を引っ張り合いながら勝てるわけがない。鈴音とセシリアは無様に大地に転がり、連携の大切さとIS学園のレベルを同時に先生が教えてくれた。
「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では八グループになって実習を行う。今回は人数が多いためハリのラファール・リヴァイブも訓練機として使用する。各グループリーダーは専用機持ちがすること。ハリは……そうだな、面倒を見ろと言ったことだしボーデヴィッヒと組んでサポートをしろ、では分れろ」
ちょっと待った。ハリの睨みは千冬に華麗に流されてしまい、代わりにラウラのより切れ味の良くなった視線がハリを切り刻む。わざわざサポートなどと言っては、千冬がラウラを軽く見ているとラウラが勘違いしても仕方がない。その後、分かれて授業が開始し、和気藹々と学生達が盛り上がる中ラウラとハリのグループがまさに軍隊のようであったことは言うまでもない。
「ハリ、少しいいか」
午後の授業も終わり、放課後。訓練場に向かおうとしていたハリを千冬が呼び止めた。氷の女王が待っているアリーナへと向かうのがただでさえ嫌だというのに、少し険しい顔をしている千冬の姿に、ハリの足が余計に重くなる。
「なんですか?」
「今日から急な部屋割りの変更があってな。デュノアが来て男が三人になっただろう。だが寮には二人部屋しかないからな。今日から織斑とデュノアが同部屋だ。お前はボーデヴィッヒと同部屋になった。荷物は移しておいたからよろしく頼む」
「は?」
申し訳なさそうな顔をしている千冬の姿から言って冗談の類ではない。それがハリにも分かる。部屋割りの変更は別にいい。しかし、下手なことがないように男三人を無理矢理一つの部屋に押し込むか、最悪転校生二人を同じ部屋にするのが普通だろう。これまで特に問題のない一夏とハリを引き離す何かしらの理由があるのは当然で。そしてそれにハリはすぐに思い至る。
「織斑先生、デュノアさんのことは」
そこまでハリが言って、千冬はピクリと眉を動かし目を伏せる。その様子から言って確定。千冬はシャルルのことに気ずいている。
「彼を餌にするつもりですか?」
「あの馬鹿の方が適任だろう。お前では餌にはならん」
「別にいいですよ、私から見ても彼とボーデヴィッヒさんを同部屋にするよりマシだと思いますから。ただボーデヴィッヒさんはどうするんですか?」
「すまない。それに関してはそうとしか言えん」
「まあ構いませんがね。一つの物事を除けば彼女の相手はとても楽だ」
「はあ、いつも思うがお前があいつの友人でいてくれて本当に助かる」
「私としてもボーデヴィッヒさんの思惑通りに事が進んで織斑先生がいなくなっては困りますから」
千冬の相手をするのはハリの数少ない楽しみだ。自分と対等以上の相手がいなくなってはハリとしても困る。それではIS学園でハリと並ぶ者がいなくなり、過ごす時間に無駄が増える。どんな天賦の才能を持っていようと、才能とは活かすことができなければ意味がない。
「それは口説いているのか?」
「まさか、だったらもっと気の利いたことを言っています」
「だろうな……、できればボーデヴィッヒのことをいろいろ頼む。私ではおそらく無理だろう。今のあいつは私の言うことを素直には聞かん。だがお前ならできるだろう?」
「なにがとは敢えて聞きませんが、天才に憧れた彼女は別の天才の言うことならば聞くと?」
「私はそう思っている。ボーデヴィッヒはお前といればきっとお前のことを気に入るだろう。それであいつが変わってくれればいいのだが」
「織斑先生……先生していますね」
「……あたりまえだ馬鹿者」
ハリの頭に嬉しそうな顔をして千冬が出席簿を落とす。理不尽。だがこれはチャンスだとハリは目を光らせた。ラウラは小さいが千冬にとっての弱味。これを使わない手はない。
「織斑先生、では一つお願いがあるのですが」
「なんだ?」
「もし私がボーデヴィッヒさんの件を片付けることができたら付き合ってください」
「……お前正気か?」
「ええ、本気でなければ嫌ですよ」
「……、…………少し考えさせてくれ」
本気の千冬と手合わせする約束をできれば取り付けたいハリだったが、警戒してか色よい返事をもらうことはできなかった。せめてラウラに関する情報をもう少し千冬の口から聞きたいと思うも、なぜか上の空になった千冬からはなにも得られず、ハリは訓練場に足を向けた。待ち構えているのは氷の女王。行きたくはないが、ハリが行かなければダリルがハリの部屋に突撃し、ただでさえ氷点下の空気を放つフォルテの温度が数度下がることは目に見えている。そうでなくても、今はハリにとって都合が良かった。千冬がどういう返事をハリに返すかは分からないが可能性はある。それを考えれば、ハリの感情は昂ぶってしまい、にやける口元を隠しきれない。早急に何かで頭を冷まさなければいけないハリと、冷たい目を持ったフォルテとの戦いが訓練などと甘いものになるはずがない。
五分。冷凍庫よりも冷たくなったアリーナの床の上にはフォルテが転がっていた。ハリのスピードには追いつけないと察したフォルテが、周りの空気を凍らせていき、ハリのラファール・リヴァイブのスラスターを凍ら始めた時はハリも少し焦ったが、それを合図にハリの燻っていた感情が爆発。見る者が恐怖を覚える大変いい笑顔を浮かべ人外じみた動きを繰り出したハリが勝ってしまった。そうする気はハリにはなかったのだが、千冬との前哨戦のつもりで本気で動いたせいでラファール・リヴァイブは中破。観客の女子たちは写真を撮りまくり、アリーナの床の上でフォルテがわんわん泣いている。さらにこんな時に限ってハリの放つ雰囲気を察してかダリルもいない。不味い。アリーナの空気も相まって絶対零度の汗をハリは流す。
「うッ……うッ……負けたっス……うッ」
「…………どうしましょう、困りました」
「うッ……でも、負けは負けっスから……先輩のこと幸せにしてあげてくださいっスよ」
「え、嫌ですよ」
「え?」
「え?」
「いや、なに言ってるっスか⁉︎ じゃあなんでウチと戦ったんスか⁉︎」
「いえそれはダリル先輩から貴女に力を貸してやって欲しいと頼まれたからですよ」
「なんスかそれ⁉︎ だってアナタ先輩のこと狙ってるんじゃ」
「それはないです。もう一度言いましょう。それだけは絶対にないです」
それだけはありえない。ハリとダリルが仲良くお手手つないで歩いている姿をハリは一瞬想像し、気持ちが悪いと吐き気が込み上げてくる。あの天邪鬼を好きになることなど未来永劫ないだろうと苦虫を噛み潰すハリを見て、涙はすでに凍りつきわけが分からないとフォルテの意識は停止した。
「え? それはそれでなんかムカつくんスけど」
「なんなんですか貴女」
「こっちのセリフっスよ! なんでそれなのにウチに力を貸すんスか!」
「腐れ縁とはいえダリル先輩との付き合いは長いですから彼女のことはよく知っています。その恋人にくらい気を使いますよ」
「は? 意味が分からないんスけど」
「なんなんですか貴女」
「こっちのセリフっスよ!」
話が進まない。フォルテの中でハリが口を開くごとにハリの評価が激しく上下をし、ダリルの恋人ということもあってハリの中でフォルテの扱いがどんどん粗雑になっていく。ダリルに振り回されるという意味では二人は似た者同士。それに加えてダリルと関わりの深い二人だ。気を使わない間柄になるまで一度打ち解ければ時間はかからない。
「え? じゃああんた本当はいい人っスか?」
「少なくともダリル先輩よりはいい人です」
「なかなか言うっスね。はあ、それにしても二人目の男性操縦者がこんな化物だなんて」
「化物とは酷い言われようです」
「ラファール・リヴァイブなんかでウチのコールド・ブラッドを倒した癖に化物と言わずなんて言うっスか!」
「知りませんよ」
「ムカつくっス! ムカつくっス! もう一回勝負っスよ!」
「無理ですよ。僕は一日に五分しかISを動かせませんから」
「え? …………あんたなかなか苦労してるんスね」
「余計な御世話です」
雨降って地固まる。それも氷が張ってより強固に。フォルテになんの過去があるのかハリは知らないが、この日から妙にハリはフォルテに気に入られた。ダリルさえ絡まなければフォルテの相手をするのは悪くはない。友好の印としてハリはダリルの黒歴史をフォルテに教え、それが気に入られるのに一役買った。が、それで放課後のフォルテとの訓練がなくなることはなく、寧ろ気に入ったハリを嬉々としてフォルテの方から迎えに来ることとなり心労が増える。ダリルが唱えるワンツースリーフィニッシュを実現するために打倒更識に燃えるフォルテはありがたくはあるので無下にはできない。一夏、鈴音、弾に続き、ハリに表での友人と呼べそうな相手が久々に増えた瞬間でもあった。
ハリの弱点の一つ、織斑姉弟。