TIME IS MONEY   作:遠人五円

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第5話 悪縁契り深し

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、ハリ、試しに飛んでみせろ」

 

  今日は実技の授業。クラス代表を決める立ち回りを演じた三人が見本として前に並ばせられていた。名目上は貸し出しのため、フィッティングをしていないハリだけは既にラファール・リヴァイブを纏っており、一夏とセシリアはISを展開させようと意識を集中する。

 

「早くしろ。熟練したISの操縦者は展開まで1秒とかからないぞ、出来たら飛べ、その後に急降下と完全停止をやって見せろ」

 

  千冬の叱咤と、ハリの急かすような視線を受けて一夏とセシリアは意識の集中を深める。最初にセシリアが、少し遅れて一夏がISを展開させた。それを見た千冬の「よし、飛べ」という合図があがった瞬間に、一陣の風が頭上に舞った。瞬時加速(イグニッションブースト)、急上昇などと生やさしいものではない目にも留まらぬスピードで遥か彼方へ飛び去るハリは、上昇してきたセシリアと一夏とすれ違い誰より早く地面に帰ってくる。地面から僅か1センチ残してハリは見事に停止した。

 

「何をやっているか馬鹿者!」

 

  そんなハリの頭に千冬の出席簿が炸裂する。普通の態勢では届かないので、ハリの頭に届くようにジャンプする姿が少し可愛らしい。ハリは特に痛いと言うこともなく、当たり前というように淡々と千冬へ言葉を運ぶ。

 

「いえ、時間が勿体無いので」

「基本的な飛行操縦と言っただろう! どこに基本的と言われて瞬時加速(イグニッションブースト)を多用する者がいる!」

「そうは言われましても、普通に飛んでいてはすぐに稼働限界時間が来てしまいます。まあ私のは特殊な例ということで」

 

  ハリの言っていることは別に間違いではない。ハリにとってISを動かせる時間というのは他のIS操縦者と比べてとても貴重だ。即席麺が出来上がるくらいの時間しかないのだから、ちんたら飛んでいてそれで終わりというのは勿体無さすぎる。何よりまだ今日は実技の授業が続く。飛行操縦の実演で一日を潰すわけにはいかない。クラスの女子達の尊敬と呆れの混じった目を受けながらハリはラファール・リヴァイブから降りる。

 

  分かっている千冬もそれ以上何も言わず、まだ降りて来ないセシリアと一夏を待つことにした。見本としてなら二人の方が役に立つ。しかし、いつまでも降りて来ない二人に業を煮す麻耶からインカムを奪った箒の一声により、セシリアは模範的な急降下、完全停止を。一夏は悲しいかな、落ちるスピードそのままに地面に突っ込んだ。

 

「馬鹿者、誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする。はあ、お前とハリを足して2で割れば丁度いいだろうにな」

「……すいません」

 

  そう千冬に言われても、ようやく剣道以外で始められたISの特訓、イメージでISを動かすといったISの説明を、箒は擬音だらけで分かり辛く、セシリアは丁寧過ぎて分かり辛く、ハリは「だってできるでしょう?」と天才ぶりを発揮されて全く分からなかった。なんだできるでしょうって、過程をすっ飛ばされて結果だけ持ってこられるのが一番堪らない。そういえば昔の千冬姉もそんなだった気がすると地面の中で一夏は肩を落とす。

 

  そんな一夏の周りで、クラス代表を決める試合からやけに丸くなったセシリアと箒が何やら言い争っている。それを見るハリと千冬の冷めた目と言ったら恐ろしい。しかも次第にそれが一夏の方へと向いていく。一夏はこのまま穴にずっと隠れていたかったが、そういうわけにもいかなかった。

 

  これは授業だ。千冬によって場を納められ、武器の展開へと移行する。一夏は武装剣一本ということと、慣れている剣ということでそれなりに速く展開できたが、それでも千冬に遅いと言われ、セシリアは銃の展開こそ早かったが、変なポーズと近接武器の展開の遅さを注意された。ハリはこれ見よがしに両手のライフルを出したり消したりを繰り返し、あまりのスピードに常に展開しているように見える。さっさと終わりにさせろというハリのトゲトゲした空気に千冬はもうほっとこうと授業を締める。

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ」

「織斑先生、私はどうなんでしょう?」

「織斑、グラウンドを片付けておけよ」

「織斑先生」

「分かった! お前に文句はない! 授業は終わりだ!」

 

  クラス代表を決める試合以降、セシリアが変わったのと同じようにハリも少し変わった。もうクラス内で好き勝手言ってもいいだろうと開き直ったとも言える。そんなハリがよくやることは、主に一年生らしからぬISの操縦技術を用いて千冬を困らせることで、同じ天才同士何か思うところがあるらしい。だいたい千冬が話を切り上げて終わるのだが、たまに競い合うものだから一組のクラスメイト達は内心大喝采。ISを纏わずとも千冬の動きが見れるということもあって、千冬の評価は学園内で更に上がっていた。

 

  授業は終わりしばらくして、穴を埋める作業をしなければならない一夏は放っておいてぶらぶらと学園内をハリは歩いていた。「薄情者!」という一夏の叫びは当然聞こえないフリをして、この素晴らしい無駄な時間の使い方を謳歌する。何かしているようで何もしていない時間。これが最高なのだ。日が傾き黄昏れている空を眺めながら、冬が終わり暖かくなりだした四月の夜風の心地よさに髪をなびかせ、足は軽やかにリズムを刻む。

 

「ちょっといい?」

 

  そんなリズムを狂わせるものが、道端の小石以外にも転がっていた。最近こういったことが多くなってはいないか。学園にいる二人だけの男子。目を惹き声を掛けられることがないわけではないのだが、自分の時間を削られるのをハリは何より嫌う。気が付かないフリをしてさっさと行こうとハリは足を進めようとするのだが、「ちょっと‼︎」と力強く声を掛けられては気にしないわけにもいかない。普段ならハリが一度無視をすれば女子がそれ以上声を掛けられることはなく、クラスの者はもうハリのことが分かっているので、用事がない限りハリが一人きりで時間を潰している時は話しかけてこない。

 

「……なんですか?」

 

  呆れた声でハリは周りを見回すのだが、人影は見当たらない。こんな学園で過ごしているせいで幻聴でも聞こえるようになったのかと首の後ろを掻くハリの目の前で、「どこ見てんの!」と声が爆ぜた。

 

  視線を落とせば艶やかなツインテールが春の夜風に揺れている。学園に来てまだ一ヶ月経っていないが、学園でハリが見たことのない少女だ。日毎に代わる代わる一夏とハリを見ようとやってくる女子達のせいで、ある程度女子の顔は覚えている。一年生なら特にだ。しかし、ハリの目の前の少女の制服についているリボンの色は一年生の証拠。そう、見たことがないのだから知り合いのはずがない。そうハリは自分に思い込ませる。

 

「なんで気が付かないのよ!」

 

  そう叫ぶ不気味な少女をハリは怪しげな目で睨む。なぜ気が付かないのかと言われても、それは少女の背が単純に低すぎるからだ。ハリは欧州人特有の高身長で身長180を超える。それより30センチは低い少女が近くにいたこともあり視界に入らなかっただけ。

 

「久しぶりじゃないハリ、相変わらずみたいね」

「……誰です?」

「ちょっと⁉︎」

「冗談です、元気そうですね」

「全くあんたそんなんで学校生活上手くいってるの?」

 

  上手くいっていません。そう言ってもいいのだが、お節介なこの少女にそんなことを言っても面倒なだけだ。凰 鈴音、中国の頃に一夏と同じく一緒だった少女がなぜかIS学園にいる。ハリも少し驚いたが、それは鈴音が着ている服を見れば答えが出ている。IS学園の制服。つまりそういうことだ。

 

「転校ですか?」

「今日からね、このあたしに会えなくて寂しかったでしょ」

「いえ別に」

「またまた〜〜、あたしは分かってるんだから」

 

  なにがですか? とはハリは言わない。意味がないからだ。この人懐っこい自己完結型少女の相手をすることほど疲れることはない。ハリの苦手なタイプの人間だ。しかし、ハリの想いがどうであれ、ハリと関わりの深い人間を見ればこういうタイプはハリと相性がいい。その例に鈴音も漏れず、ハリは面倒な顔をしながらもその場を離れることはなかった。

 

「あーとそれでね、総合受付の場所が知りたいのよ、案内してくれない?」

「僕がですか?」

「他に誰もいないでしょ、それに友人の頼みくらい聞いてよね」

「では貸し一つで」

「うっそ、こんなので?」

 

  春の夜風を切る人影が一つから二つに増えた。静かな時間は終わりを告げ、一方的に喋る鈴音の話に適当にハリは相槌を打つ。鈴音が言うには中国の代表候補生になったらしい。世界最大人口の国からの代表候補生ならば実力を疑う余地はないが、鈴音は一年前に一夏とハリの学校から転校した。にも関わらず一年と少しで国家の代表候補生になるとは凄い才能だとハリは内心舌を捲く。いったいどれほどのレベルなのか、ハリの興味はそっちに割かれ鈴音の話があまり耳に入ってこない。

 

「まあそんなわけでね、その……一夏ってどうしてる?」

 

  だが、鈴音から零された友人の名前だけは耳に入ってきた。あまり見たくはなかったが、ハリが恐る恐る鈴音の顔を盗み見れば案の定ハリが一番見たくない顔を鈴音は浮かべている。薄っすらと赤く染まった頬、恥ずかしそうに目を背ける表情、鳥肌が立つと顔を青くし、この場にいない弾に怨みの矛先を向ける。恋する乙女の取扱いがハリは一番苦手だった。

 

「彼は変わりませんよ、こんなところでもいつも通りです」

「ふーん、その、あたしのことなんか言ってた?」

 

  なぜ箒といい鈴音といい人伝に自分のことを聞くのか、自分で聞いてくださいと思い切り放り出したい気持ちをなんとか抑え、興味ないからと蓋をしていた鈴音に関する一夏との会話をなんとか記憶の海から引っ張り上げる。

 

「…また会いたいと言っていましたね」

「ほんと! ふーんそっかー」

「ええ勿論」

 

  俺とハリと弾と鈴の四人でな! と一夏が言っていたのは内緒だ。どこぞのゲームのように爆弾を育てられても困るので、最低限のフォローはする。もし一夏を巡る修羅場が起こればハリが巻き込まれるには明白。ハリが遠くに避難しようと一夏の方からやってくる。実際中学の頃はそうだったので、高校でくらい平和な時間をハリは過ごしたい。

 

「彼は知っているのですか?」

「あたしが転入してくること? まっさかー、サプライズよサプライズ、教えてないわ」

「……それは驚くでしょうね 」

「でしょ!」

 

  気分よさそうに歩く鈴音を見る限り問題はないようだ。と、安心して歩いていたのだが、ふと遠くから二人の元に流れてくる若い男の声。ハリはここにいる。ともなれば一人しか該当するものはいない。ハリが止める間もなく鈴音は小走りでその元へ行き、顔を声の方へと振った瞬間固まってしまう。何を見たのか知らないが近付いてはいけない。足を止めて逃げようかとハリが思案している間に鈴音はくるりと身体を反転させて、そのまま殴りかかりそうな勢いでハリに詰め寄ってくる。

 

「……どうかしましたか?」

「ねえハリ、あんたはあたしの味方よね?」

「……まあ」

「早く受付に案内して」

「……はあ」

 

  もうどうにでもなあれ、思考を放棄して鈴音をさっさと総合受付へ放り投げようと足を速める。ハリの平穏は遥か彼方。結局総合受付に着いてからもハリは解放されることはなく、愚痴の吐け口として付き合わされることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで! 織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

「おめでと〜!」

 

  色とりどりの紙吹雪とテープが宙を舞う。その真ん中で暗い顔をして一人座る一夏は、デカデカと寮の食堂内に貼られた『織斑一夏クラス代表就任パーティー』という紙を他人事のように眺めていた。一組のクラスは全員出席らしく、ハリの姿もあった。部屋の隅で一人立っているハリのところの方がまだよさそうだと、自分を持ち上げ群がる女子から離れて一夏はハリの元へ向かう。

 

「よお、楽しんでるかハリ」

「まさか、早く終わりませんかね、苦手ですよこういうのは。貴方はどうです? 貴方のパーティーでしょう」

「俺も苦手だよ、箒にも嫌味を言われるし」

「それは御愁傷様」

 

  口元に微笑を浮かべるハリを一夏は肘で小突く。なんだかんだ仲のいい二人だ。ハリと一夏が二人でいる時は、女子のほとんどは遠巻きで眺めているだけで二人には近寄らない。男同士特有の空気に女子達が入りずらいのと、イケメン二人眺めているだけで目の保養になる。そんな二人に近寄れる者は限られる。大体は箒が割って入っていくのだがこの日はもう一人。

 

「はいはーい、新聞部です。話題の新入生、織斑 一夏君とハリ君に特別インタビューをしに来ました! あ、私は二年の黛 薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」

 

  名刺を手渡してるくる薫子。一夏は受け取り、ハリも渋々受け取った。

 

「ではではずばり織斑君! クラス代表になった感想をどうぞ!」

「えーと……」

 

  周りの視線が一夏に集まる。入学式、自己紹介の時のことが一夏の中で思い起こされる。なんと言うべきか助けを求めようにも、その時と同じく箒はそっぽを向いており、ハリも助けてはくれない。

 

「まあとにかく頑張ります」

「えー、もっといいコメント頂戴よ〜〜」

 

  余計な御世話だと一夏は顔を顰めるのだが、薫子はまるで気にしてくれない。一夏の取材性のなさにさっさと見切りをつけて、もう一人の専用機持ちであるセシリアの方を向く。しかし、そこは生真面目なセシリア、質問に答えるのはいいのだが話が長くなりそうだったために薫子に手早く打ち切られてしまった。

 

「いいよ、適当に捏造しておくから。よし、織斑君に惚れたからってことにしちゃおう」

「な、な、なな⁉︎」

 

  狼狽え顔を赤くするセシリア。嘘だろ……、と見慣れた光景ではあるのだが、その光景はハリのこれからに暗雲が広がっていることを教えるのに十分だった。セシリアと一夏の間に何があったのか。考えられるのはクラス代表を決める試合だが、誰かさんのせいで真面目に見ていなかったハリには何があったか分からない。当の一夏はそんなセシリアの様子にまるで気が付いておらず、この友人に恋だの愛だのを教えることが出来る気がしない。だいたいそんなのハリはゴメンだ。

 

「それじゃあハリ君は? 何かコメントくれる?」

「……そうですね、せいぜいこの時を楽しむとしましょう」

「うーんちょっと弱いかなあ、ミステリアスなのはいいんだけど、まあ捏造するからいいんだけど」

「なら聞かないでくださいよ」

「まあまあ、それとハリ君にはもう一つ聞きたいことがあるのよね」

「なんですか?」

 

  薫子はぴらりと一枚の写真をハリの前に突き出す。そこに写っている二人の人物、一人はハリ。そのハリと一緒に写っているもう一人が不味い。ハリは顔には出さないが、一夏と知り合ってから初めて最大の焦りが心の中をかけ廻る。固まるハリを尻目にどんどん何事かと人が集まっていき、一夏もセシリアも箒も写真を一度覗き込み、驚いた顔で続けてハリを見る。

 

「へーすっごい美人だな、誰だよハリ」

「三年生のダリル・ケイシー先輩、アメリカの代表候補生で一夏君やセシリアちゃんと同じ専用機持ち、そんなダリル先輩とこんな親しそうに話してるなんてどんな関係〜〜?」

 

  写真のダリルを美人と言ったせいで一夏の両隣に般若が現れているのだが気が付いていない。周りのクラスメイトも今回ばかりはハリに注目し、ギラつく好奇心の散弾銃が容赦なくハリの心を撃ち抜いた。ダリルとハリ、あれだけ騒いで気が付かれないわけがない。だから嫌だったんだ、今度ダリルに会ったらどうしようかと頭を回しながら、一応考えていたこうなった時の言い訳を口に出す。

 

「……ダリル先輩の叔母が僕の母と親友でしてね。小さな頃からの知り合いなんです。織斑君や篠ノ之さんの関係と同じ、所謂幼馴染というやつです」

「へーそうなのか、知らなかった」

「えーつまんない、もっとこう恋人とかさあ」

「知ってて言っているなら捏造するにしてもやめてください。僕はまだ刺されたくないので」

「あー……なるほど分かったわ」

 

  流石に三年生をネタにはしづらいのだろう。それも相手はあのダリル・ケイシー、ダリルの悪名のおかげで助かったとも言えるこの状況だが、ダリルのせいでこうなったとも言える。IS学園二年生である薫子は納得してくれたが、一年生はそうもいかない。陰ながら広まる尾ひれのついた噂を止めることはできるはずもなく、近い未来にイージスの片割れが突撃してくるのは確定した未来である。

 

「まあいいやそれも使えるネタだし、じゃあ三人で並んでね、写真撮っちゃうから」

「三人? 俺とセシリアとハリ?」

「そうそう、噂の専用機持ち二人に隠れた天才ハリ君。これは表紙を飾るにはぴったり!」

「そ、そうですか……」

 

  少し残念そうにしているセシリアの手を薫子は強引に引っ張って行き、ハリと一夏の間に放り込む。黒い髪と金色の髪、赤い髪が並ぶ様は一枚の絵画のようだ。

 

「それじゃあ撮るよー、35×51÷24は?」

「あ、えっと……」

「74.375ですね」

「はやっ⁉︎」

 

  ハリが答えを言うのと同時にシャッター音が響く。ISも装着していないのにどういうわけか、いつの間にか一組のクラスメイトがハリ達三人を取り囲んだ。こういうのが苦手そうな箒までしっかり入っている。

 

「あ、あなたたちねえ!」

「まーまーまー」

「セシリアだけ両側にイケメンはべらせてずるいって」

「思い出になっていいじゃん」

「ねー」

 

  そんな和気藹々とした空気で、一夏クラス代表就任パーティーは夜10時まで続いた。どっぷり暗くなった外の景色を眺める余裕のない一夏は、写真撮影の後女子達に揉みくちゃにされて精魂尽き果てていた。ハリに肩を貸してもらい部屋に戻ると、着替えるのも怠いと一夏はベットに転がる。打ち上げられたセイウチのようにベッドに埋もれる一夏のだらしない姿を女子が見たらどう思うことか。幻滅するよりも先に黄色い声が飛ぶのだろう。

 

「あー、ハリが同室でよかったよ。もし女子と同室だったらこうはできないだろうし」

「貴方は気は使えるのにどうしてそう鈍いんでしょうね」

「何が?」

「自分で考えてください」

「ひでー」

 

  力なく文句をいう一夏だが、高校生になったのだからそろそろそういうことに気がつくべきだ。一夏のもう一人の幼馴染が帰って来たことがその発破剤になってくれるかは分からない。鈴音の帰還を一夏に伝えようかハリは迷ったが、狭い学園、代表候補生の転入だ。明日には噂になっているだろう。

 

「そういえば、彼女が帰って来ましたよ」

 

  一夏へ振り向き伝えようとするのだが、ハリの目に入って来たのは寝息をたてる友人の姿。見ている夢がなんであるのかハリには分からないが、いい夢であることを今だけは祈ってやり一夏の上にシーツを放り投げる。起きれば悪夢が待っているだろう。明日のことは明日の自分に任せようと、ハリもベットに寝転がり夢の世界への切符を切った。

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