トンネル   作:くにむらせいじ

3 / 3
工事

 

 トンネルの改修工事が始まった。

 

 

 BGM:「地上の星」

 

 

[  プロジェクトフレンズ  ]

 

 

   ―――― ふたりの協力 ―――――――――

 

 

――――――― 起きてしまった事故 ――――   

 

 

   ―――― あきらめたくない ―――――――

 

 

―――――――――― 止まらない水 ――――   

 

 

   ―――― ヒトの知恵 ――――――――――

 

 

――――― 作れなかった、コンクリート ――   

 

 

   ―――― フレンズの力 ―――――――――

 

 

 

 

友と暮らすため、水と戦え

~ 湖の下、トンネルを作ったフレンズたち ~

 

 

 

助 手   「なんですか今の」

はかせ   「おーぷにんぐ、なのです。気にしてはだめなのです」

 

 プレーリーが、湖の周りに以前掘った穴から、粘土を掘り出した。

 ビーバーとプレーリーが、小さな木桶に重りの石を付けたものを作った。

プレーリー 「本当に、無茶しちゃだめであります……」

ビーバー  「大丈夫ッスよ。……いってくるッス」

 ビーバーが、粘土を入れた木桶を持って、トンネルにたまった水に潜った。泥は沈んだが、水は濁っていて、トンネルの中は暗く、ビーバーは手探りと、水の流れを体で感じることで、水もれ個所を探した。

 ビーバーは、以前事故のあった場所の近くに、トンネルの壁から水が噴き出している個所を発見した。水圧のためか勢いは弱かった。彼女はそこへ粘土を盛って、穴をふさいだ

 だが、粘土はすぐにはがれてしまった。何度盛っても水圧に負けて、上手く定着せず、水もれは止められなかった。しかも水もれは複数個所あった。

 トンネルから出てきたビーバーが言った。

ビーバー   「手ごわいッスね……。プレーリーさん、木の板を作るッス」

 ビーバーは地上とトンネルを何度も往復して、かなりの量の粘土を盛り、粘土がはがれないように木の板でおさえた。

 

 ビーバーは、はかせたちに本を読んでもらい、本の絵や写真を参考にして、木製の回転式ポンプを設計し、その縮小模型を作った。プレーリーがポンプの製作を行った。ポンプの動力は、遊園地にあった乗り物の部品を使い、自転車のような足こぎ式にした。

 

 島じゅうにある、使われていない水道管を、プレーリーが掘り出した。

 ある時、掘り出した水道管から、水が噴き出した。

ビーバー  「あああ! それまだ生きてるッスよ!」

 

 水道管を、ビーバーが水に潜ってトンネルの底に通し、排水管にした。排水管のつなぎ目には粘土を使った。

 

 プレーリーがペダルをこいで、回転式ポンプを動かした。

プレーリー 「はあ、はあ……」

 ビーバーは、湖へ水を吐き出す部分を見ていた。

ビーバー  「水が、出てこないッスね……」

 回転式ポンプは空回りするばかりで、水を吸い上げることができなかった。

プレーリー 「やはり桶でくみ出すしかないであります」

ビーバー  「完成後のことを考えると、やっぱりポンプが欲しいッスよ。あの本にはほかの形のポンプも書いてあったから、そっちを試してみるッス」

 

 ビーバーが、ポンプをピストン式として再設計し、プレーリーがポンプの製作を行った。木製では強度と精度に不安があったため、遊園地の乗り物の駆動部の部品と、木製の部品を組み合わせて製作した。

 完成したポンプは、手押しの井戸ポンプを二回り大きくしたようなものになった。

 

ビーバー  「やった! 水がでた! すいあげてるッス!」

 ポンプは水を吸い上げた。水を湖へ移すことに成功した。

 

 ビーバーとプレーリーが交代でポンプを動かし、トンネル内にたまっていた水を、湖へ移していった。

プレーリー 「はあ、はあ、はあ……」

ビーバー  「もういいっスよ……。交代するっス……」

 これには、かなりの労力が必要だった。

 

 彼女たちは、本で得た知識で、コンクリートの材料のセメントを作ろうとした。これは、止水や水抜きの作業と平行して行われた。

はかせ   「セメントの原料は、島じゅうを探せばなんとかなるです」

助 手   「ただ、製造には特殊な窯が必要なのです。これです」

 助手は本に載っていた図を指差した。

ビーバー  「こんなもの、どうやって作るんスか?」

助 手   「代用品を探す……のもむずかしいですね」

はかせ   「さらに、セメントの製造には火を使う必要があるのです」

ビーバー  「そんなの無理っスよ……」

 セメントは、製造が困難だった。

はかせ   「探すのです」

 彼女たちは、ほかのフレンズにも協力してもらいながら、島にセメントがないか探した。

 

 

 砂漠の地下迷宮。

 

ツチノコ  「外に、袋が積んであったな」

助 手   「おそらく、それですね」

はかせ   「確認するのです」

 建設途中だった砂漠の地下迷宮で、セメントが発見された。彼女たちは、セメントと、砂利、砂、水を混ぜて、コンクリートを作った。

 

 彼女たちは、トンネルの壁に、薄く延ばした粘土を木で支えるようにして貼り付け、その上に木で型枠を作って、そこにコンクリートを流し込んだ。その作業と並行して、以前の木組みを撤去していった。コンクリートが固まったら型枠を外して、コンクリートに隙間ができた所には粘土を詰めた。短いトンネルだったが工程が多く、崩落がおきないように慎重に作業を進めたため、工事には時間がかかった。

 

プレーリー 「水が! 開けてしまったであります!」

 再び、トンネルの壁から水が噴き出した。

 型枠を取り付ける作業の途中、プレーリーがトンネルの壁に穴を開けていたが、穴が偶然水脈につながってしまったのだった。

プレーリー 「ここはわたしが食い止めるであります!ビーバーどのは先に逃げるであります!」

 プレーリーは、木材で穴をふさごうとした。

ビーバー  「ダメッスよ! いっしょに逃げるッス!」

 ふたりは無事退避できたが、トンネルの約三割が水没した。再び水もれを塞ぎ、水抜きが行われた。そのあとは、水もれで破損した型枠を補修しなければならなかった。

 

プレーリー 「また水たまりができているであります!」

 コンクリートと粘土で固めた壁から、水がしみ出していた。

ビーバー  「たぶん、また同じことがおきるッス。対策が必要っスね」

 プレーリーがトンネルの一番深い所に小さな横穴を作り、そこの床を下に掘り下げて、貯水槽を作った。排水管を貯水槽に突っ込み、必要に応じてポンプで水抜きができるようにした。

 

 

 

 

 トンネルの、改修工事が完了した。

 

 

 湖の岸側の、トンネル入り口。

 

プレーリー 「完成、したであります……」

ビーバー  「長かったッスね……」

プレーリー 「最初は、ビーバーどのが通るであります!」

ビーバー  「これは、プレーリーさんのトンネルッスから、プレーリーさんが先に……」

プレーリー 「工事の指揮を取ったのはビーバーどのであります! 先に行くであります!」

ビーバー  「いえ、お先にどうぞッス」

プレーリー 「いやいや、ビーバーどのが」

ビーバー  「いえいえ、プレーリーさんが」

プレーリー 「いやいや」

ビーバー  「いえいえ」

助 手   「あなた達は何度も通ったのではないですか?」

はかせ   「では、われわれが先に……」

プレーリー&ビーバー「ダメ(であります!)(ッスよ!)」

プレーリー 「ふたりでいっしょに通るであります!」

 

 ビーバーとプレーリーを追って、はかせと助手がトンネルの中を歩いていた。

 

はかせ 「時間はかかったですが、予想以上の完成度なのです」

助 手 「本によると、ヒトはこれの5千倍以上の長さのトンネルを、海の下に掘ったそうです」

はかせ 「……ありえないのです。それが本当ならヒトは化け物……化け物以上なのです。その本は信用できないのです」

助 手 「島の地下のバイパス、あれも相当な規模ですから……おそらく本当なのでしょう」

はかせ 「恐ろしいのです……。ほかには、どんなトンネルがあったですか?」

助 手 「正直、思い出したくないのですが……。その本によると、ヒトが作った大きなトンネルは、数え切れないほどあるようです。トンネルの太さはこれの10倍以上のものも珍しくなく、その中には、バスをはるかに超える大きさの乗り物が走っていました。……地上からトンネルまでの深さは……我々の身長の千倍以上のものもあります……」

 助手の声が震えてきた。

助 手 「……メインのトンネルとならんで、脱出や作業のための……同じ長さのトンネルが、数本掘られていて……。途中には……いくつもの横穴、縦穴があり……地上へと……」

はかせ 「やめるです……。からだが……ふるえてきたのです…………」

助 手 「……やっぱり……思い出さなければよかったです…………」

 はかせと助手はガタガタと震えた。

 

 BGM:「ヘッドライト・テールライト」

 

 はかせと助手がトンネルから出て来た。

 

助 手 「以前、“ほかの島に渡るトンネル”と言いましたね」

はかせ 「ヒトはそれを作ることができたのです。われわれは、仮にもヒトの姿になったのです。理論上は、我々にも作れるです」

助 手 「知識と技術の蓄積、技術者の育成、地盤の調査、掘削機械の開発、トンネルの設計、莫大な量の資材の調達や製造、資材や機械の運搬方法の確立、作業員の確保……。そこまでできて、やっと、仮のトンネルの工事ができる……。そこから先は、見ての通り、水や崩落との戦いになります」

はかせ 「我々の生きているうちには完成しないのです」※

助 手 「開通どころか、着工すら難しいでしょうね」

 

はかせ 「遠い遠い未来の、夢物語、なのです」

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ フレンズの寿命って、どのくらいなのでしょう? 謎です。

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 TVアニメ1期5話を見て、このトンネルは危険じゃないか? と思って書きました。けものフレンズはそんな所を気にするような作品ではないし、そこを真面目に書くと固い話になってしまって、原作のゆるい感じと逆の変な方向に行ってしまうのですが、どうせ書くなら、誰も書かないような変なものを書きたい、と思って書きました。変だけどこれは面白いのか? という疑問がありますが。
 多少は調べて書いたのですが、知識不足です。粘土なんか使って大丈夫なのかは分かりません。
 フレンズの力と島にあるものだけで、困難なことを実現するにはどうしたらいいのか? というのを真面目に考えました。それは「ひこうじょう」と同じです。

「プロジェクトⅩ」懐かしいです。パロディになりきれていないのは私の力不足です。「地上の星」「砂の中の銀河」がサンドスターっぽい、と書いてから気付きました。「ヘッドライト・テールライト」は3番の歌詞がポイントです。
 ポンプの動力を、オランダの干拓みたいに風車にしたらきれいかな、と思ったんですが、大げさすぎるのでやめました。
 青函トンネルの構想は、大正時代からあったそうです。本州と北海道を結ぶ隧道ができたら、と考える人はもっと昔からいたと思います。「遠い遠い未来の、夢物語」です。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。