トンネルの改修工事が始まった。
BGM:「地上の星」
―――― ふたりの協力 ―――――――――
―――― あきらめたくない ―――――――
―――― ヒトの知恵 ――――――――――
―――― フレンズの力 ―――――――――
助 手 「なんですか今の」
はかせ 「おーぷにんぐ、なのです。気にしてはだめなのです」
プレーリーが、湖の周りに以前掘った穴から、粘土を掘り出した。
ビーバーとプレーリーが、小さな木桶に重りの石を付けたものを作った。
プレーリー 「本当に、無茶しちゃだめであります……」
ビーバー 「大丈夫ッスよ。……いってくるッス」
ビーバーが、粘土を入れた木桶を持って、トンネルにたまった水に潜った。泥は沈んだが、水は濁っていて、トンネルの中は暗く、ビーバーは手探りと、水の流れを体で感じることで、水もれ個所を探した。
ビーバーは、以前事故のあった場所の近くに、トンネルの壁から水が噴き出している個所を発見した。水圧のためか勢いは弱かった。彼女はそこへ粘土を盛って、穴をふさいだ
だが、粘土はすぐにはがれてしまった。何度盛っても水圧に負けて、上手く定着せず、水もれは止められなかった。しかも水もれは複数個所あった。
トンネルから出てきたビーバーが言った。
ビーバー 「手ごわいッスね……。プレーリーさん、木の板を作るッス」
ビーバーは地上とトンネルを何度も往復して、かなりの量の粘土を盛り、粘土がはがれないように木の板でおさえた。
ビーバーは、はかせたちに本を読んでもらい、本の絵や写真を参考にして、木製の回転式ポンプを設計し、その縮小模型を作った。プレーリーがポンプの製作を行った。ポンプの動力は、遊園地にあった乗り物の部品を使い、自転車のような足こぎ式にした。
島じゅうにある、使われていない水道管を、プレーリーが掘り出した。
ある時、掘り出した水道管から、水が噴き出した。
ビーバー 「あああ! それまだ生きてるッスよ!」
水道管を、ビーバーが水に潜ってトンネルの底に通し、排水管にした。排水管のつなぎ目には粘土を使った。
プレーリーがペダルをこいで、回転式ポンプを動かした。
プレーリー 「はあ、はあ……」
ビーバーは、湖へ水を吐き出す部分を見ていた。
ビーバー 「水が、出てこないッスね……」
回転式ポンプは空回りするばかりで、水を吸い上げることができなかった。
プレーリー 「やはり桶でくみ出すしかないであります」
ビーバー 「完成後のことを考えると、やっぱりポンプが欲しいッスよ。あの本にはほかの形のポンプも書いてあったから、そっちを試してみるッス」
ビーバーが、ポンプをピストン式として再設計し、プレーリーがポンプの製作を行った。木製では強度と精度に不安があったため、遊園地の乗り物の駆動部の部品と、木製の部品を組み合わせて製作した。
完成したポンプは、手押しの井戸ポンプを二回り大きくしたようなものになった。
ビーバー 「やった! 水がでた! すいあげてるッス!」
ポンプは水を吸い上げた。水を湖へ移すことに成功した。
ビーバーとプレーリーが交代でポンプを動かし、トンネル内にたまっていた水を、湖へ移していった。
プレーリー 「はあ、はあ、はあ……」
ビーバー 「もういいっスよ……。交代するっス……」
これには、かなりの労力が必要だった。
彼女たちは、本で得た知識で、コンクリートの材料のセメントを作ろうとした。これは、止水や水抜きの作業と平行して行われた。
はかせ 「セメントの原料は、島じゅうを探せばなんとかなるです」
助 手 「ただ、製造には特殊な窯が必要なのです。これです」
助手は本に載っていた図を指差した。
ビーバー 「こんなもの、どうやって作るんスか?」
助 手 「代用品を探す……のもむずかしいですね」
はかせ 「さらに、セメントの製造には火を使う必要があるのです」
ビーバー 「そんなの無理っスよ……」
セメントは、製造が困難だった。
はかせ 「探すのです」
彼女たちは、ほかのフレンズにも協力してもらいながら、島にセメントがないか探した。
砂漠の地下迷宮。
ツチノコ 「外に、袋が積んであったな」
助 手 「おそらく、それですね」
はかせ 「確認するのです」
建設途中だった砂漠の地下迷宮で、セメントが発見された。彼女たちは、セメントと、砂利、砂、水を混ぜて、コンクリートを作った。
彼女たちは、トンネルの壁に、薄く延ばした粘土を木で支えるようにして貼り付け、その上に木で型枠を作って、そこにコンクリートを流し込んだ。その作業と並行して、以前の木組みを撤去していった。コンクリートが固まったら型枠を外して、コンクリートに隙間ができた所には粘土を詰めた。短いトンネルだったが工程が多く、崩落がおきないように慎重に作業を進めたため、工事には時間がかかった。
プレーリー 「水が! 開けてしまったであります!」
再び、トンネルの壁から水が噴き出した。
型枠を取り付ける作業の途中、プレーリーがトンネルの壁に穴を開けていたが、穴が偶然水脈につながってしまったのだった。
プレーリー 「ここはわたしが食い止めるであります!ビーバーどのは先に逃げるであります!」
プレーリーは、木材で穴をふさごうとした。
ビーバー 「ダメッスよ! いっしょに逃げるッス!」
ふたりは無事退避できたが、トンネルの約三割が水没した。再び水もれを塞ぎ、水抜きが行われた。そのあとは、水もれで破損した型枠を補修しなければならなかった。
プレーリー 「また水たまりができているであります!」
コンクリートと粘土で固めた壁から、水がしみ出していた。
ビーバー 「たぶん、また同じことがおきるッス。対策が必要っスね」
プレーリーがトンネルの一番深い所に小さな横穴を作り、そこの床を下に掘り下げて、貯水槽を作った。排水管を貯水槽に突っ込み、必要に応じてポンプで水抜きができるようにした。
トンネルの、改修工事が完了した。
湖の岸側の、トンネル入り口。
プレーリー 「完成、したであります……」
ビーバー 「長かったッスね……」
プレーリー 「最初は、ビーバーどのが通るであります!」
ビーバー 「これは、プレーリーさんのトンネルッスから、プレーリーさんが先に……」
プレーリー 「工事の指揮を取ったのはビーバーどのであります! 先に行くであります!」
ビーバー 「いえ、お先にどうぞッス」
プレーリー 「いやいや、ビーバーどのが」
ビーバー 「いえいえ、プレーリーさんが」
プレーリー 「いやいや」
ビーバー 「いえいえ」
助 手 「あなた達は何度も通ったのではないですか?」
はかせ 「では、われわれが先に……」
プレーリー&ビーバー「ダメ(であります!)(ッスよ!)」
プレーリー 「ふたりでいっしょに通るであります!」
ビーバーとプレーリーを追って、はかせと助手がトンネルの中を歩いていた。
はかせ 「時間はかかったですが、予想以上の完成度なのです」
助 手 「本によると、ヒトはこれの5千倍以上の長さのトンネルを、海の下に掘ったそうです」
はかせ 「……ありえないのです。それが本当ならヒトは化け物……化け物以上なのです。その本は信用できないのです」
助 手 「島の地下のバイパス、あれも相当な規模ですから……おそらく本当なのでしょう」
はかせ 「恐ろしいのです……。ほかには、どんなトンネルがあったですか?」
助 手 「正直、思い出したくないのですが……。その本によると、ヒトが作った大きなトンネルは、数え切れないほどあるようです。トンネルの太さはこれの10倍以上のものも珍しくなく、その中には、バスをはるかに超える大きさの乗り物が走っていました。……地上からトンネルまでの深さは……我々の身長の千倍以上のものもあります……」
助手の声が震えてきた。
助 手 「……メインのトンネルとならんで、脱出や作業のための……同じ長さのトンネルが、数本掘られていて……。途中には……いくつもの横穴、縦穴があり……地上へと……」
はかせ 「やめるです……。からだが……ふるえてきたのです…………」
助 手 「……やっぱり……思い出さなければよかったです…………」
はかせと助手はガタガタと震えた。
BGM:「ヘッドライト・テールライト」
はかせと助手がトンネルから出て来た。
助 手 「以前、“ほかの島に渡るトンネル”と言いましたね」
はかせ 「ヒトはそれを作ることができたのです。われわれは、仮にもヒトの姿になったのです。理論上は、我々にも作れるです」
助 手 「知識と技術の蓄積、技術者の育成、地盤の調査、掘削機械の開発、トンネルの設計、莫大な量の資材の調達や製造、資材や機械の運搬方法の確立、作業員の確保……。そこまでできて、やっと、仮のトンネルの工事ができる……。そこから先は、見ての通り、水や崩落との戦いになります」
はかせ 「我々の生きているうちには完成しないのです」※
助 手 「開通どころか、着工すら難しいでしょうね」
はかせ 「遠い遠い未来の、夢物語、なのです」
おわり
※ フレンズの寿命って、どのくらいなのでしょう? 謎です。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
TVアニメ1期5話を見て、このトンネルは危険じゃないか? と思って書きました。けものフレンズはそんな所を気にするような作品ではないし、そこを真面目に書くと固い話になってしまって、原作のゆるい感じと逆の変な方向に行ってしまうのですが、どうせ書くなら、誰も書かないような変なものを書きたい、と思って書きました。変だけどこれは面白いのか? という疑問がありますが。
多少は調べて書いたのですが、知識不足です。粘土なんか使って大丈夫なのかは分かりません。
フレンズの力と島にあるものだけで、困難なことを実現するにはどうしたらいいのか? というのを真面目に考えました。それは「ひこうじょう」と同じです。
「プロジェクトⅩ」懐かしいです。パロディになりきれていないのは私の力不足です。「地上の星」「砂の中の銀河」がサンドスターっぽい、と書いてから気付きました。「ヘッドライト・テールライト」は3番の歌詞がポイントです。
ポンプの動力を、オランダの干拓みたいに風車にしたらきれいかな、と思ったんですが、大げさすぎるのでやめました。
青函トンネルの構想は、大正時代からあったそうです。本州と北海道を結ぶ隧道ができたら、と考える人はもっと昔からいたと思います。「遠い遠い未来の、夢物語」です。