なんやかんや頑張るネギま逆行物語 作:ハイルミッテル
予想外。例え天上の神であってもこの展開は予想外だ。特典とは、即ち魂の拡張。ずっと、そう言い伝えられていた。
しかし違ったのだ。特典とは、人間の魂の許容量内に無理やり力を落とし込める――――謂わば、咒い。
そして咒いというのは得てして器があっても問題ないとは限らない。そしてそれを知るものは誰も居ない。
独りだけ居る、観測者を除けば。
特典、それらは経験と超常の怪物。継承するのならば代価はその身で補わなくてはならない。ましてや土台がないのだから尚の事。
覚悟しろ。少しでも気を抜けばその身が食われると知れ。
それらは獅子奮迅とオマエの全てを狙っているぞ?
――――キミには期待しているんだ。だから少しだけ、良いものを上げよう。なに、観測者としての老婆心のようなものだ。頑張って使いこなしてくれ給えよ?
近くにはなんの気配もない。少し離れた所に二つ、気配がするのみ。それ以外の気配は何も感じない。
こんな穏やかに目を覚ましたのは何時振りだろうかなんて考えて、なんとも懐かしい気分に浸る。
身体を起こして見れば、またギチギチと身体の節々から悲鳴が上がる。痛みを無視して周りを見渡せば、何処かの家の中のようだ。
はて、どうしてこんな見覚えのない場所に自分がいるのかと記憶を漁れば、すぐに答えが見つかった。
――――何だ、夢じゃなかったのか。ということは、声が出ないのは変わりないか。
小さく嘆息する。声が出ない、というのは意思表示や諸々の問題が出てくるし、何より魔法が使えない。これは死活問題だ。
とは言えその原因を作ってしまったのは自分であるし、魔法も万能ではない。一度壊れて塞がってしまったものを治す事は出来ないのだ。
それに、魔法が使えなくとも私には刀がある。ともすればナイフさえあれば例え死徒だろうと――――いや待て、俺はナイフなど使ったことがないぞ? 刀など以ての外。確かに仲間の中に刀を使っている人はいたが、その人に習ったこともない。
死徒とはなんだ? 俺はそんな物を知らない。分からない。自分の記憶のはずなのに、何処か違うような気持ちの悪い違和感。
俺は俺だ。他の何者でもない。ナイフだの刀だの死徒だのは、恐らく寝ぼけて適当なことを考えてしまったのだろう。そう思い込もうとして――――
「――――ッ!?」
――――痛みが走る。目の奥が焼けるような激痛。脳の奥を焼かれているような激痛。生きたまま脳を掻き混ぜられているかのような激痛。頭を抑えて蹲ろうとして、バランスを崩しソファーから転げ落ちた。身体は突然の痛みにパニックを起こしたように小さく痙攣し、呼吸は浅くなる。気が狂いそうな程の痛みは意識を失うことすら許さず、生理的反応で目からは涙が溢れた。
――激痛の中、脳裏に浮かぶものは全く見覚えのないモノ。
それらはまるで俺という存在を食い散らかすように暴れまわる。少しでも気を抜けば、
歯を食いしばって耐えてみるも、それらは一向に静まる気配はない。ただ延々と知識と記録が頭の中で流れるのみ。
――――人を殺した。
――――化物を殺した。
仲間のために、愛する人のために。
楽しかった記憶、辛かった記憶。いろんな情景や感情が一挙に押し寄せる。あぁ、知らない、こんなもの俺/私は知らない!
「――――ぃ」
ふわりと、誰かに抱きかかえられる感触がした。同時に聞こえる誰かの声。
薄っすらと目を開けて見てみれば、其処には金髪の少女の顔が間近にあった。
「し――しろっ! ――いっ! 聞こえているか!」
次第にはっきりしていく声。それはどうやら俺を心配しているらしい。
問い掛けに激痛を堪えながら頷くと、少しだけホッとしたような表情を見せる。
……何故か、それがたまらなく嬉しかった。
「なら、まず深呼吸をしろ。良いな? ゆっくり呼吸をするんだ」
言われた通りに意識してゆっくりと空気を吸い、吐く。同時に手のひらに温かい感触がして、その温もりによって徐々に痛みを引いていく。
数分間深呼吸を繰り返せば、激痛は殆ど鳴りを潜め少し痛む程度まで収まっていた。
「……どうやらもう大丈夫のようだな。一体何があった?」
金髪の少女がそう問い掛けながら俺の身体を抱きかかえソファーに座らせる。……痛みは引いたが身体は未だ小さく震えていて歩くことすら難しそうだったので正直助かった。
ソファーに座ると目に映るのが目の前の机の上に置いてある中サイズのメモ帳。その横にはご丁寧に万年筆も置かれていた。
ちらりと横目で少女を見れば、まるで書けるなら書けというように頷く。手は他の部位に比べ比較的動きそうだったので、ギュッと力を込めながら万年筆を握った。
『記憶を漁ろうとした。』
『そうしたら 知らない人の記憶と知識が溢れてきて』
『気付いたら あぁなっていた。』
書き終わった万年筆を机に置く。文字に起こしてみればこの程度だ。細い所を省いているが。
メモ帳に目を通した少女が顎に手を当てながら思案気に顔を顰めていた。それはそうだろう、と思う。なにせ知らない人の記憶と知識があると言っているのだ。そんなこと、魔術――――いや、魔法では出来はしない。もし俺も同じことを言われたら眉を顰めるであろうことは目に見えている。
同時にそこまで考えて、何をバカ正直に書いているのだと自分を叱責したくなった。普通に考えればこんなこと信じてもらえる訳もなし。敵意がないからと少し気が緩みすぎていたか。愚かにもほどがあるだろう。
……そう、考えるのだが。どういう訳か、この人に嘘を吐こうとは微塵も思えなかった。酷く懐かしい感じがするからだろうか。分からない、解らないことだらけで吐き気がする。俺は本当に俺なのか。さっきの記憶を、知識を見て自信がなくなる。
仲間の名前も顔も覚えていないなんて、それこそ
それに、頭痛がしてからずっと視えるこの線に点は一体何なのだろうか。じっと見ると脳髄が焼けるように痛みが走り、しかし何処を向いても視界に映るそれを視ないようにすることは不可能。俺は、一体どうなってしまったのだろうか……。
――――ふと。思考の渦に埋没しそうな中、そう言えば俺もこの少女に聞きたいことが有ったのだ、と思い出す。此方ばかりが質問されているが、少しくらいは良いだろう。
そうと考えれば善は急げだと、万年筆を手に取る。その音に気付いたのか少女が顔を上げた。
『名前』
「は?」
言葉の意味が伝わらなかったのか、少女は訝しげに顔を顰める。
それを見て主語を抜かしすぎたかと小さく反省した後、もう一度メモ帳に言葉を書く。
『貴女の 名前 は?』
「あぁ、そういう事か。……エヴァンジェリン。エヴァンジェリン・
こくりと一度頷くことで返事をする。こうして会話していると、やはり言葉を喋れないということは酷く不便だ。慣れれば変わるのかも知れないが、意思疎通がスムーズに進まないというのはあまり良いことではない。
それにしても……あぁ、どうしてだろう。初めて聞いたはずの名前なのに、どうしてか懐かしく感じる。一抹の罪悪感と喜び。自然と涙が出そうになって、気付かれないように俯いて歯を食いしばる。
しかしそんなあからさまな行動をしたからか、少女――――エヴァは俺が泣いていることに気付いたようで、あたふたと慌て始めた。
「ちょっ、待て! 今の何処に泣く要素があった!? 名前か、私の名前か!? えぇい、子供のあやし方など私は知らんぞ……っ!」
慌てるエヴァに首を振って大丈夫と伝えようとして、口から漏れるのは空気の抜ける音ばかり。
結局俺が泣き止むまで、この状況が落ち着くことはなかった。
◇
あれから小一時間程。俺はいつの間にかエヴァの側で待機していた茶々丸――ついさっき教えて貰った――が淹れたお茶を飲んでいる。
泣き止むまでに数十分、その後泣いてしまったことで恥ずかしくなり赤面してしまった顔を収めるのに数十分。今は漸く落ち着いてどうにか平静を保てている。
時間が経って落ち着いたからか、視界に映る線なども意識をズラして視ないようにすることが出来た。とは言え、何処にでもあるそれを完全に視ないように出来るわけもなく、直視している時程ではないが頭痛はする。が、それも無視すれば問題なかった。
何年も荒事を続けていた影響と、師匠に施された魔法の特訓で痛みには慣れているのだから、この程度は造作もない。
「…………色々と聞きたいことは山のようにある。名前以外の記憶があるのかどうか、そしてさっき書いていた他人の記憶や知識とはなんなのかとかな。
だか、それを聞いてまた泣かれても呻かれても面倒だ。だからそうだな……一先ず、貴様の名前を付けるとしようか。いつまでも固有名詞がないというのは面倒だ」
……確かに、そうかも知れない。諸々の理由で俺は自分の記憶を覚えていない、と嘘を吐いている。信じているのか居ないのかは定かじゃないが……そうであってもそうでなくても、俺という個を呼ぶためには名前は必須だ。
正直自分で自分の名前を考えるのは億劫であるし、エヴァが考えてくれるというのなら渡りに船……だろうか? いや、まだ彼女が考えてくれると決まったわけではないが、言い方としてはそうだと判断できる。
同意を示すように頷けば、エヴァは悩むように顎に手を当てて首を傾げる。人形のようなその容貌にその仕草は、まだ幼いというのに何処か蠱惑的で思わず見とれてしまった。
――――はて?
じっと彼女を見つめていて違和感を発見する。どうも、自分の記憶と現在の状況に言い得ぬ不快感が合った。例えばそう、俺はソファーに座っていて彼女は立っているというのに何故目の位置が彼女のほうが上なのだろう、と。
見たところ彼女の身長は140……多く見積もっても150が精々だろう。そして俺の最後に記憶している身長は170程。足も付かない程高いソファーに座っているのに彼女のほうが――いや待て。ソファーに座っていて足が付かない……?
ありえないだろう、どれだけ足の長い椅子だ。170cmの俺が座って足が付かないなんてあり得るわけがない。どういうことだろうか? まさか自分が思っているより家具なのが大きくて、彼女の身長も思ったより高い……なんてのは、ありえないな。
だとしたら何故……? あぁクソ、不快だ。不愉快だ。気持ち悪い何だこれは。一つのことに違和感を覚えれば、様々なところに違和感があると気付いた。身体の感覚も些か……いやかなり記憶しているものと違う。
思わず眉間にシワを寄せ考えてみるも、意味がわからない。
――――俺/私は一体、なんなんだ……?
また思考の渦の中に埋没しそうになった時、どうやら名前を考え終わったエヴァが声を上げた。そしてそれは、俺にとって果てしないほどの爆弾だった。
「ふむ、そうだな。貴様の名前は今日からノワール。フランス語で闇という意味の言葉だが、まあ安直で覚えやすいだろう、小娘?」
まさに理解できない、とはこのことを言うのだろうか。意外に冷静な頭の片隅で思う。
こむすめ。コムスメ? ……小娘。彼女は俺に対して、そういった。あぁ、アレか。そういうことか。つまり……俺は、死んだと思ったら見知らぬ場所で女になっていた……と?
は、ははは。いや、いやいやいや。待て、どういうことだ一体? 何故? どうして? 魔法でそんなことが可能なのか? あぁいや可能だな。ご禁制の魔法薬を使えば可能だ。しかしそれを
少なくとも俺の中に魔法反応は一切ない。誰かに何かをされた形跡も全く――――
「――――ッ!?」
困惑の中、必死に自分の中を探り何かなにかと探し回る。指の先から爪先まで意識を集中して、果ては精神までも解析しようとして――また、脳髄を焼くような頭痛が走る。
いや、それすらも生易しいほどの激痛。言葉で表現できないほどのそれはまるで調べようとしたことに対しての神罰かのように重い。
あぁ、痛い。イタイイタイ痛い痛い痛いイタイイタい痛イ痛い痛イイタいイタイ痛いいタイ痛いイタイ痛イ――――!!
許容範囲を明らかに超える激痛は耐えられるわけもなく。あっさりと、しかし粘ついた泥のように俺の意識は沈殿していく。
【――――世の中には知らなくても良いことがある。学べて良かったじゃないか、
最後に、そんな声が聞こえた気がした。
取り敢えず書き上がったので投稿。……読み直してみるとクソですね。当たり前のよっちゃんですが。
あとで書き直します。