くっそ病弱なお兄ちゃんが旅立つ妹の為に頑張るお話 作:文月フツカ
俺の妹はかわいい。身内贔屓も入ってはいるが、それを差し置いてもかわいいのだ。まぁ最近は村の外でうろついている魔物が慈悲なくジータの剣の錆になっており、かわいいよりもたくましいという言葉が似合い始めたが。
俺はどうも生まれてくる時に体力とかスタミナとか、恐らく男にとって大事なものを全部ジータに渡したんだろうというのが、小さいときの親父の意見だ。それを聞いてこう思った。
―――いや多分吸い取られたんだ、と。
免疫力もしっかりと無くなっているみたいで、俺はもう病弱の一言に尽きる。転んで軽い擦り傷を負えば、一カ月は治らずに、地味な痛さと格闘することになる。タンスの角に小指をぶつけようものなら半年は悶絶しなければならない。不便なようだが、唯一ジータにも負けないという特技はあるにはある。後述の理由で披露する事は無いと思うが。
で、そんな俺は数年前から肺結核という病気にかかった。医者曰く、俺の免疫力でこれに掛かると回復は絶望的とのことだ。というかもう絶対無理と言われた。激しく動かなければ10年近くは生きれるが、唯一の特技だった剣を振るおうものならいつ死んでもおかしくないらしい。喀血と咳、あと全身の激痛と眩暈、おまけに吐き気が常に襲って来るが、じっとしていれば笑うぐらいは出来る。
まぁジータに知られてからというもの絶対安静を食らったのだが。お兄ちゃん妹に下半身の世話されたくないんだが。
「お兄ちゃん。今日のお夕飯はスープにするから材料狩って来るねー!」
買って来いよ。狩るってお前…。ザンクティンゼルの魔物滅ぼす気なのか。
日に日に戦闘狂に仕上がっていくお前を見ていると、将来が不安になるよ全く。お兄ちゃんあと数年の命なのに、ストレスで更に死期早めるかもしれない。
そうやってぼーっとしていると、村のすぐ近くで爆発音が聞こえた。どんだけ暴れてるんだと思いつつ、なにやら変な気配もするので、悲鳴を上げる体に鞭打って行ってみよう。
起き上がるときによっこらせと無意識に言ってしまうあたり、もう精神も年寄りかもしれない。悲しいなぁ。
極東の島国で主流と言われている「カタナ」を鞘に入れた状態で左手に持ち、右手で吐血を防ぐため口元を抑えながら何とか村の入り口に着くと、最近良い噂を聞かないエルステ帝国の兵士が村長と何か言い合っていた。
話を盗み聞きしてみると、蒼い髪の少女を見なかったかとの事。荒事を防ぐためなのか、村長は一切知らないの一点張り。膝もガクガク震えており、聞き込んでいる帝国兵士ですらどうするよコレといった視線を向けていた。
すると突然森の方角からヒドラと呼ばれる魔物が出現した。これを緊急事態と見た兵士たちはすぐさま森の方へと駆けていく。まさかあの爆発ジータが起こしたというのか。有り得る。
悲鳴を上げる体を無視して森の中へ進んでいると、突如として上空に……なんだアレ。え、ドラゴン?
閃光のようなブレスを口から放ったドラゴンは、突如として消え失せ、代わりにヒドラの無残な姿が目に入った。あのドラゴンってまさかジータが変身したとか言ったりしないよな。正直な話出来そうで怖いんだが。
悠長にしていると、帝国の将官と思わしき人物が突如立ち上がり、ヒドラの死体に紅い小瓶の液体をかけ始めた。
「いけない! ヒドラが回復したッ…!」
まさかあれが四肢が欠損しようがどんなに重い病気だろうが直してしまうという噂のポーションか…?
くれよそれ。
「もうあの星晶獣は呼び出せないみたいですねぇ! 今度こそ殺して差し上げますねぇ!」
舌打ちしながら剣を抜く女騎士とジータ。そして絶望の表情を浮かべる蒼い髪の少女。確かに今のジータではちょーっときついかな。まぁでも、最期に恰好付けるぐらいはいいよな。
「お兄ちゃん!? タンスの角に小指ぶつけるだけで半死状態になるお兄ちゃんが何でここにいるの!?」
妹よ、言ってなかったがお兄ちゃんの心はガラス細工なんだ。初対面の人の前で天然を使って心を抉らないで。と、アホなことを言いつつ、極東の国で量産されたであろう安物の刀「野太刀」に手を掛ける。
シスコン舐めんな。可愛い妹が世話になった礼ぐらいはしてやる。
「我が身は病弱なれど、この一撃は大切な人を守る誓いの一撃也。この誓いをもって我が剣技、ここに極致に至らん。眠れ安らかに……
瞬間、文字通りに空間が切れた。比喩でもなんでもなく、一閃の傷が空間に付いた。ヒドラに放たれたソレは鱗や肉をバターのように容易に切断した。
複数あった首は全て一撃で落とされた。だがヒドラはそれに気づかずに。必死に首を元に戻そうと根元が動いている。だが落ちた首は既に地面に在り、世界がヒドラの最期を認めた途端、力なくその場に崩れ落ちた。
いつの間にか野太刀が納刀されている事実に気付いた三人が、ヒドラと青年を交互に見やる。この人物は今、達人と呼ばれる武術家以上の絶技をやってのけたのだ。
お兄ちゃん凄い!と駆け寄ろうとした妹が見たのは、膝を尽き口から夥しい量の血を流す、唯一の肉親であった。
「お兄ちゃん! しっかりして! 血が…せっかくルリアのお蔭で私、生き返れたのに……なんで、こんな」
「泣く、なよジータ。俺の病気なら遅かれ早かれ、こうなるんだ」
止まらない血を妹に付けないようにしながら、青年は死に際に精一杯の笑顔を浮かべる。
「イスタルシア、行くんだろ? 兄ちゃんは付いて行けないけど、見守ってはいるから、な?」
「そんなの嫌だよ! お兄ちゃんも一緒に行こう!? お兄ちゃんとビィとカタリナとルリアと私の五人旅、絶対楽しいよ!? だから早く血を止めて、ね!?」
「兄貴…」
「ジータの兄君……私の力不足だ。本当にすまない」
「お兄さん。わ、私の魂をもう一回っ……」
「……たとえ肉体が復活しても病気は消えない。だから、気持ちだけ、ありがとう」
青年は瞼をゆっくりと閉じる。
「いやだよお兄ちゃん! 置いて行かないでよ……独りに、しないで……」
泣きじゃくる頭に、優しく手が置かれた。
「独り、じゃないさ。この人たちは本当にジータを寂しくさせたりしないさ。俺も、ずっと見守っているから、いつものように笑顔で、精一杯…生きるんだよ」
青年は頭を優しく撫でると、ゆっくりと、ゆっくりと力が抜けていき、地面に手が落ちた。
その手を握りながら、少女の慟哭が森中に広がった……。
数日後。
「行ってきます。絶対見守っていてね! お兄ちゃん!」
「兄貴、俺、絶対ジータを独りにしないからな。ゆっくり休んでくれよ!」
「ルリアも、ジータもビィ君も、絶対に守る。あなたの生き様、一生忘れない」
「お兄さん……絶対、絶対にジータを独りにしません! 私の覚悟、見ていて下さいね!」
ザンクティンゼル。この小さな島から、後に世界中を巻き込む伝説の騎空団が始まった。
『やべぇ……成仏出来なかった』
誰も書かなかったから書いた。
誰かこんな感じのストーリー書いて。
別にオリ主じゃなくて兄がグラン君とか、弟グラン君ショタ系でもいいから。
とりあえず兄弟モノがみたいの。