くっそ病弱なお兄ちゃんが旅立つ妹の為に頑張るお話 作:文月フツカ
俺の妹はかわいい。そう、たとえ訓練を施された兵士を一方的にボコボコにしていたとしても、見てくれは良いから人が集まってくる。まるで誘蛾灯だと思いながら、俺は妹の将来を心配する。
性格はどうなのかと言われると、基本的には明るくて社交性のある奴なので、一緒にいると楽しいだろう。
まぁ本人は何か呪いか祝福か受けているかの如く、面倒なことに巻き込まれていく体質なのだが。
ビィはもう慣れているとして、カタリナさんという騎士や蒼い髪のルリアちゃんはこの先知ることになるだろう。ジータという存在がどれほど退屈という言葉から嫌われているのかを。
そんな事を俺の体が埋葬されている墓を背にしながら、去っていく3人+1匹を眺める。
いやしかしアレだ。ジータが心配で成仏出来なかったとはいえ、体がこんなに軽いなんて初めてかもしれない。
なんならタンスの角に小指をぶつけても直ぐに痛みが引きそうなぐらいだ。しかし幽霊となっても何をすれば良いんだ。心配だから付いて行く、もとい憑いていっても、余計に成仏出来なさそうである。
どうせ面倒に巻き込まれる星の下に生まれた子なんだし、死人がギャーギャー騒いでも意味はない。ちゃんと無事に五体満足で帰って来て、墓前でただいまとでも言ってくれれば、今度こそ安心して逝ける。それまでここで気ままに待っているとしよう。
『行ってらっしゃい』
「ねぇビィ。私思うんだ……お兄ちゃんはきっと私たちの旅を近くで見守ってくれている気がするの」
「あー、何となくわかるぜ。兄貴なら色々言いながらも見ていてくれるだろうなぁー」
「2人はお兄さんの事が大好きなんですね。なんだか胸が暖かくなるお話しです!」
「キチンと挨拶しておきたかったものだ」
「よーし、これからも頑張るぞ!」
拳を高らかにあげて、おー!と言いながら進み始めたジータを微笑ましく見送る。お兄ちゃんはしっかりとしているジータを見れてとても嬉しい。
『おっヴぇ』
その瞬間。突如として首元が引っ張られる感覚。踏みとどまろうとしても、まるで首輪を付けられているかの如く無理矢理引き摺られる。
何事かと思いちゃんと視線を向けてみると、何やら自分の首に糸が巻き付いており、その先が…先が……。
『じ、ジータの全部の指に滅茶苦茶に絡まってやがるッ』
「まずはどこに行こうか」
『いや妹よ死人に優しくして!? お前の無邪気さが死後のお兄ちゃんを犬のごとく引き摺ってるぞ!?』
死人に口なし。死者の声が生者に聞こえる筈も無く、首輪をつけて強制移動を喰らっている俺はまるで奴隷のごとく。美少女に犬のように扱ってもらって羨ましいか? 妹にコレやられるなんてもう恥ずかしくて穴に入りたい。まぁすでに体は墓穴の中だが。やかましいわ。
「お兄ちゃんとこの綺麗な大空を旅したかったなー」
お兄ちゃん今現在お前に引っ張られてお空にダイブしそうなんだが。だめだめ許しませんよ。独り立ちしないと。
唐突に話が変わるが、バンジージャンプと言うのをご存知だろうか。何でも高いところから命綱を付けて飛び降り、スリルを楽しむという、都会の若者で人気らしいアクティビティ。
小型のものとはいえ騎空挺は騎空挺。それ専門の技術を学んだ人にしか操縦は出来ない。ましてや戦闘が専門である軍人騎士が、趣味でもないのに騎空挺操縦の技術を理解しているなど、普通有り得ない。
旅立ちに使うこの騎空挺は狭く小型であるので、霊体である俺すらも中には入れなかった。なので外の羽にでも掴まるしかないのかと諦めていたが、なんとすり抜けて掴めなかった。幾度も羽を握ろうとするも、そのたびに虚しくすり抜ける俺の手。
おまけにあまりに酷いカタリナさんの操縦技術。それは変な糸で首縛られて引き摺られている霊体の俺にも影響を及ぼしている。その結果何が起こるかお分かりいただけるだろうか。
『あ”あ”あ”あ”あ”!』
一切揺れが収まらない上に、頼みの命綱は首に巻きついている正体不明のくっそ細い紐。上を見れば今にも落ちそうなフラフラの騎空挺。下を見れば、見たことを後悔するぐらいの絶景。
生身であれば怖くて気絶できるのだが、そこは霊体の有難迷惑な仕様か何なのか、気を失う兆候が一切感じられない。生前、ジータのあまりにも破天荒な振る舞いに疲れた時、さっさと自分から眠るように気絶出来た身が羨ましく感じるとは…!
というかそろそろ空挺から聞こえる嫌な音が大きくなり始めた。まぁ流石にここまで来たら俺でも分かる。痛みがあるかは知らないが、地面に突っ込む未来は変えられないらしい。というかもうすぐそこまで地面が来てる。
『お、おさらば』
「面目ない……騎空挺の操縦が、まさかここまで難しいとは……」
地面に叩き付けられて紅葉おろしになる衝撃がここまでとは思わなかった。痛みこそ無いが、純粋な衝撃が俺の精神性をガリガリと削っていった。全部完璧な人間なんて居ないと言ってあげたいが、如何せん言葉も届かない上に、あんな事を体験させられたら、少々腹に据えかねる。
だが良く考えなくても分かる事だが、結局のところはジータが無意識に俺を引っ張っていたのが原因なのであって、カタリナさんはそこまで悪くは……いややっぱりちゃんと習熟してから操艦してほしかったです。
そのあと大きな音を聞きつけてやってきたであろうラカムという男性に色々言われたジータ達は、街道を進み街へと行くことにした。無論、俺を引っ張って。
ちなみに去り際にラカムさんはジータらにもう会うことは無いと言った表情をしていたが、ジータ歴=死亡年齢の俺に言わせれば、その認識は実に甘い。
ここからなし崩し的に巻き込まれ、いい話風に締められて付いて行く事になるだろう。俺のジータに関する予想はほぼほぼ当たる。何やら事情を抱えているラカムさんも、ジータに出会ったことで何かしらの進歩はあるだろう。……例えその過程が恐ろしく彼女に振り回される形であっても、頑張ってくださいとしか俺には言えないな。
どこかに今の俺をどうにかできる人が居ないかと思いつつ、そよ風が気持ち良い街道を、ジータに引っ張られて歩いていく。ビィを抱きかかえながら二人と話をするジータはとても楽しそうで、それを見ていると俺も自然と笑みが浮かんでくる。
このまま物騒なことを呟かずに少女らしく―――
「あ、魔物。斬らなきゃ」
知ってた。
ラカムさん胃薬待った無し。