くっそ病弱なお兄ちゃんが旅立つ妹の為に頑張るお話 作:文月フツカ
「そういえばジータの兄君はどのような人物だったのだ?」
ある日、騎空挺の上でカタリナさんがジータに俺の事を聞いた。そういえばジータの主観的な俺の評価を聞いた事はなかった。
「え、お前兄が居たのか?」
普段は猫を被っている錬金術師の開祖であるカリオストロさんが最初から素で聞いてきた。
「うん居たよ。ザンクティンゼル旅立つ時に、私たちを守るために死んじゃった……けど」
自分で言ってて落ち込むなら最初から言わなければ良いんだとは素直に言えないな。それだけ俺の事を思ってくれてるって事だしなぁ……。でもいい加減この首輪外して?
「お、おう……すまん」
普段は魔物絶対殺すジータが珍しく落ち込んでいるのを見て、どう対応していいか分からないのか。薄情かもしれんが俺も分からん。
「あ、お兄ちゃんの事だったね。そうだねぇ……ビィ?」
「んぁ~? そりゃもうあの一言しか無いと思うぜ?」
え、ジータとビィの間で俺に対する共通認識の一言? それは流石に俺自身でも分かるぜ。生まれた時から3人一緒だったもんな。
『くっそ病弱』
超優しいお兄ち……えぇ? 事実だけどなんかお兄ちゃん悲しい。重ねて言うが事実だけどもッ。
「まず小指を角にぶつけたら半年は腫れと痛みが治まらないね」
「転んで出来た掠り傷一つで治るのに結構時間かかってたな」
「お医者様に言われてたけど、免疫力とか抗菌?とかいうのが生まれながらに完全に死んでるって」
「あー、肺結核とかいうのにもなってて、年中咳と吐血してたな」
「全力疾走とかしようものなら、走り始めた瞬間に吐血からの横転。掠り傷のコンボもあった」
良く生きていられたよな俺。死んだけど。
「えぇ……そいつ本当に生活出来てたのかよ」
ザンクティンゼルの澄んだ空気じゃないと肺結核悪化するとか言われた日には、ジータとは都会に旅行とか行けないのかと落ち込んだ。まぁ図らずも今は似たような状況ではあるのだが……。
「そ、想像以上に兄君は体が弱かったのだな」
ルリアちゃんもカタリナさんもドン引きする脆弱さだったらしい。
「で、でもでも! 私たちを守るためにヒドラをこう、ズバーっとやったのは凄かったです!」
「あぁ、あのヒドラを、明らかに安物の刀でありながら私にも見えない速さで斬り捨てたのは驚いた」
あ、刀の話をしだしたからナルメアさんが目敏く聞きつけたらしい。ふわふわとジータの近くに来た。
「団長ちゃん。団長ちゃんのお兄様はそんなに強いの?」
はっきり言うが強くない。あんなの文字通り、ジータの為ならこの命尽きても良いという覚悟の下、無理矢理気力で体を動かしたにすぎん。肉体は滅びて尚、その魂はジータに首輪を嵌められているが。
「少なくとも制限時間を設けた上で、1対1の剣での勝負なら私は勝った事無いなー」
その話を聞いて、遠巻きに聞いていた他の団員たちの驚愕の視線。なんか自分の事なのに恥ずかしい。
「でも戦闘とか出来ないオイラでも分かる事なんだが、正直勝つだけなら簡単だぜ?」
「まぁね。スタミナが無いとか、壊滅的じゃなくてマイナスに振り切ってるから、ちょっと持久戦に持ち込めば勝手に倒れるしねぇ……」
「まぁそれを差し引いての剣の腕は凄いというか、傍目から見ると気持ち悪かった」
ビィ!? そんなに変な腕してたかな俺の剣。
「えぇっと……団長ちゃん?」
「あ、ごめんなさい。強さでしたね。刀を振ってるとね、なんか剣がぶれるんだお兄ちゃんって。なんか一撃しか喰らってない筈なのに、三撃同じ所から同時に喰らったみたいな」
「それほど神速の剣技という事か」
「あ、オイラそれのネタ聞いた事あるぜ。ジータがいつ自分で気づくか、兄貴はいつも楽しみにしてた」
「ビィずるい! あれ一体どういう仕組か未だに分かんないんだよ!?」
「まぁ兄貴からは、言うなとは言われてねーしな。で、兄貴が言ってた言葉そのまま伝えるから、オイラに理屈とか聞かないでくれよな」
いつの間にか、剣で戦う奴ら全員が集まってきている。なんだこの公開処刑……。
「早く早く」
「ええと、一の斬撃の中に二の斬撃と三の斬撃を内包する。それをほぼ同時では無く全く同時にやる事で、例え相手が盾で防御しようが、その上から叩き斬る……らしいぜ?」
「んん?……えぇ? なんだそれは」
「あ、あらあら?……あらあら?」
「オイラも初めて聞いたときは何言ってんだって思ったけど、事実そうなんだ。そんな防御不可の剣を奥義でもなんでもなく、ただの通常攻撃で振るってるんだぜ? それに加えてあのジータですら突破出来ないんだぜ? 言っちゃ悪いが、剣の腕に関しては規格外って言った方がいいかもしれないぜ」
長々と説明ありがとうビィ。でもそんな化け物みたいに言うなよ。期待外れかもしれないが、練習でもなんでもなく、初めて剣を握った時から、感覚でやってる事だからなぁ。俺自身も、え、出来るだろこの程度の説明しか出来んのだ。
「団長ちゃん。お兄様の使っていた刀って持ってるかしら?」
「あるよ? 取ってくるね」
そういうとジータは私室へと駆けて行った。っていうか俺も引っ張られていく。
あぁ~れー。
「……団長ちゃん達には悪いのだけれど、超技巧の剣術の代償が言っていた病弱さだとしても、不気味だわ。目にも見えない速さで連続攻撃では無く? どれだけ速く攻撃出来たとしても、突き以外で同じヶ所から全く同じ攻撃をするのは不可能。その突きでさえ神速を誇っても絶対に一撃と二撃の間にラグはある」
「そうだな。人体の構造上、全く同時に同じ攻撃を出すなど土台無理な話だ」
「そも斬撃の中に斬撃を内包なんて芸当、出来る奴居んのか?」
「考えられるとすれば、武器に備わっている能力だが」
「兄貴は今ジータが持って来ている刀しか持ってなかったぜ? しかもその刀ですら、行商人から格安で買った大量生産品だしよ」
「おーい、持ってきたよー!」
相変わらずの安物だなその刀。もっと良い武器振ってみたかったが、もう叶わぬ夢だしなぁ。あーでも別に強さとかどうでもいいな。なんやかんや言いつつもジータが笑っていられるなら、何も要らねーな。
「見せてもらうわね」
そういってナルメアさんやカタリナさん。カリオストロさんもじーっと検分し始めた。
「……太刀ね」
「あぁ、太刀だな」
「何の能力も無いね☆」
あったらあの行商人も凄い値段吹っかけてくるしな。たしか300ルピすらもしてないぞソレ。
「この武器でヒドラを一撃かぁ……そっか。本当に言葉通り、決死の一撃だったのね……」
ま、お兄ちゃんとしては当然だな。妹を守るためなら命の一つや二つ差し出すさ。
「最近、お兄ちゃんが近くにいるって確信を持って言えるんだよね。やっぱりこれは見守ってくれてるって事だよね」
それを聞いて、ルリアちゃんも笑ってジータの隣に立つ。俺からもルリアちゃんに感謝を。ジータを助けてくれて、本当にありがとう。騒がしい妹だけど、これからもどうかよろしくお願いします。
「あ、魔物! 斬らなきゃ!」
……成仏出来んなぁ。
もう何もしなくても勝手に倒れる弱さ。石拾って足に少し強く当てるだけで致命傷。