くっそ病弱なお兄ちゃんが旅立つ妹の為に頑張るお話   作:文月フツカ

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目覚めてすぐ本調子とか出ない


くっそ病弱なお兄ちゃん(故)が妹の為にお姉ちゃんになるお話

たった一撃。

されど一撃。

 

ジータとの間に割って入り、咄嗟に簡単な一撃を入れたのだが。新手の2名に防がれた。

 

「お前たち」

 

向こうもこういう事態を想定していたのか、異常なほどに対応が早い。他の奴らとは違い、持っている剣の鞘に白い布が巻かれている。

 

「お下がりください。あなた様に挑戦する権利があるか、見極めます」

 

虎の子の親衛隊か何かか。こんな奴ら、もっと全空に噂が広まってもいい筈なんだが。

 

「構えろ。貴様がどれほどか見るとしよう」

 

構え、か。他の武器はどうか余り知らないが、刀の構えには上段、中段、下段の基礎三つがある。

上段は既に振り被る態勢なので、一番攻撃力がある。中段はあらゆる状況に即座に対応出来る。

下段は比較的攻撃を回避しやすいが、一撃の威力が低い。

 

俺の場合は、生前の体が弱すぎて、そもそも刀を長時間構えていられなかった。上段に構えようものなら一分も持たず筋力疲労を起こす。中段は姿勢の維持は何とか出来るが、そこから何もできない。

唯一下段だけは形にはなっていた。まぁ下段にしても、構えている時はほぼほぼ力も込めていない。ただ握って持っているだけ。

 

「ふん。それが構えだというのなら、始めようか」

 

今の台詞で、こいつらに対する警戒度を上げることになった。普通ならこんな楽な姿勢の下段など、舐め腐っているようにしか見えないからな。それだけ相手も観察眼が備わっている。

さて、基礎的な復習がてら動いてみるか。弱い体でもジータに勝てていた、無い頭を使った自論剣術がどこまで通用するかな。

 

「行くぞ。貴様の血で私はまた強くなる」

 

刀を振るうとき、腕の力だけではただ振り回される。なので全身をバネの様に捻らないと形にならないのだが、生前はどうあがいてもそんな芸当出来なかった。そしてそれは健康な体を手に入れても、即座には出来る自信は無い。

ならば生前と同じやり方で戦うしかない。それ即ち―――

 

「この、ただ回避に徹するだけで―――、がッ……」

 

一人目。武器を振るっている時、戦闘中に口を開くなど、案外無駄な行動が多いな。

 

それがお前の辞世の句か?

 

気分はどうだ。咄嗟に自分の武器で防ぐも、その武器ごと、着用していた防具ごと体を真っ二つにされた気分は。

 

無駄な攻撃は一切振るわない。刀での鍔迫り合いなど、以ての外だ。刀身の損耗も激しいから、継戦能力も落ちる。

ならば本当に必要最小限の動きで敵の攻撃を躱し続ける。

敵も達人と呼ばれる程なら、その攻撃密度も凄まじい。

回避のコツとしては、あまりその場から動かないこと。最小限の動きで敵の剣筋から外れる。

生前も今も、幸いにも刀の才能だけは少しあったから出来る芸当だ。

そうして回避し続け、相手の動きに致命的な隙が出来た時、または俺が打ち込めると確信した時が、敵の最期だ。

 

その瞬間、攻撃を振るうその時だけ、全身全霊を持って刀を振るう。

斬撃を内包し、防御も許さない。

剣で俺の攻撃を防げると思うな。

鎧や盾で俺の攻撃を防げると思うな。

たかが城壁が、たかが騎空挺の装甲が、妹を守るお兄ちゃんの一撃を凌ぎ切れると思うな。

 

「……こうも簡単にやられたか」

 

 

まぁ一対一ならこれでいいんだが、敵が複数いるとこの戦法もあまり通じない。警戒して攻めてこなくなるからだ。

そして予想通り様子見のごとく構えて動かなくなった。

 

だがそこでカリオストロさんがこの体の服に入れていた薬品が役に立つ。

 

俺は唯一、刀がそれなりに使えるから使っているのであって、使えるものは何でも使う。

刀身に毒を塗るのも正しい戦術であるし、土や砂で目潰しも正しい戦い方だ。隠し持っているなら隙をついて銃を撃ってもいい。事後の処理をちゃんと出来るのであれば、人質を取ってもいいし毒ガスを使ってもいい。

戦場に事の善悪無し。ましてや襲ってきたのなら尚更文句も出ないだろう。

っていうかジータにもよく目潰しやった。

 

って事で、衝撃で爆発する薬品を投げつける。

 

一瞬怯んだ相手の視覚外から強襲を掛け、一刀のもと斬り捨てる。

 

これが、剣の才能が僅かしかなく、病弱な俺がジータに勝つために無い頭で必死に考えた俺の戦い方。

 

ジータの為なら、星晶獣だって殺してみせる。

 

 

 

 

目の前にいる人は誰だろう。

誰だろうっていうか絶対お兄ちゃんだ!

お兄ちゃんがお姉ちゃんになって帰ってきた!

 

走ったらすぐに転倒して数か月寝込むお兄ちゃんだ。

靴履いてるのに足の小指ぶつけたら一か月は痛みが引かないお兄ちゃんだ。

起き上がっただけでその日の体力ほぼほぼ使い切る勢いだったお兄ちゃんだ。

 

戦いでついぞ一本も勝てなかったお兄ちゃんだ。

 

私の為に命を投げ捨てて助けてくれたお兄ちゃんだ。

 

やっぱり見守ってくれていたんだね。やっぱり私たちザンクティンゼル人の兄弟の絆は、死を持ってしても断たれない!

 

よーし力が湧いてきた!

ちょっと間抜けな所を見せたけど、一番お兄ちゃんを見てきたから大丈夫。

お姉ちゃんになってもお兄ちゃんだよ!

 

んん? まぁ変な言い回しだけど大丈夫。

 

さぁ皆、もうひと踏ん張り行ってみよう!

 

ナルメアさん、そんなお兄ちゃんを凝視してないで戦おう?

カリオストロさん、そんな鳥がバハムートのビーム喰らったみたいな顔をしてないで。

 

色々言いたいことはあると思うけど、今はただお兄ちゃんと戦おう!

 

さっきまで怖かったけど、もう大丈夫。ルリアやカタリナさんにも大分迷惑を掛けたし、これからもっと恩返ししなきゃ。

 

ほらほらランスロットさんもパーシヴァルさんも。

 

 

あれ、っていうか剣を使う人みんなお兄ちゃんを見てる。まぁやっぱりお兄ちゃんの戦い方ってかなりヤバいからね。仕方ないか。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんがお姉ちゃんになって帰ってきた!」

 

なんだアレは。

それが、ジータ率いる騎空団の中で、剣に精通する者たちが抱いた感想だ。的確に攻撃を躱すのは百歩譲って、練習次第では出来るだろう。だがその場を殆ど動かず、『最小限の動きだけで延々と躱し続ける』など、誰も出来ない。

ましてやあの攻撃は何だ。以前団長であるジータから聞いてはいたが、あの攻撃は異常だ。

 

ただの一刀。攻撃のその瞬間だけ、恐ろしい剣圧が周りに吹き荒れる。ただでさえあり得ないのに、どういう事だろうか。

斬撃の中に、斬撃が見えた。それも三重に。

それも相まって、防いだ相手が防具ごと両断された。

剣同士がぶつかり合うこともない。鍔迫り合いなど起こさず、ただ即死の攻撃だけが振るわれる。

 

あんな芸当を出来る物など、この空にはほぼ居ない。全空の脅威たる者らは分からないが、世界でも指折りの実力者や星晶獣が50以上は居るこの騎空団でも、あそこまで異常なモノは居ない。

 

「振るう一撃、全てが必殺……」

 

ナルメアが青い顔でそう呟いた。

 

読んで字の如く必殺。必ず命を絶ち殺す斬撃。これがその人の使う奥義であるならまだ説明は行く。

武器に秘められた力を開放するなり、与えられた加護を使うなりと説明できる。

 

だがアレが持っている刀はどう見てもそこら辺にあった量産品だ。自分たちの持っている名剣や神剣の類ではない。大量生産されたただのなまくらだ。

 

だというのに。自分の技量だけで、あそこまでの超絶技巧をなし得るアレは何だ。

 

一流の戦士は武器も一流だ。整備も欠かさないし、欠かせない。その武器の能力も相まって今の強さがある。

 

だが、だが!

 

今ジータの目の前にいる存在は、悉く規格外だ!

 

戦いたい! 戦いたい! あの剣技は一体何だろうか。自らの技量がどこまで通じるか見てみたい!

 

この気持ちが、敵と戦っていた団員たちに急速に広がっていく。

 

 

だが一方で、敵には恐怖が植え付けられていた。普通に斬られるのは分かる。しかし奴が刀を一太刀振るう度に、団員の一人が必ず死ぬ。

これでは望んでいた戦いとはほど遠い。

死力をぶつける殺し合いではなく、一方的に殺される狩りになってしまった。

しかも自分たちが獲物だ。

 

親衛隊二人が簡単に殺され、向かっていった23名は、ものの数十秒で斬り捨てられた。

一太刀で一人両断し、たった23回の攻撃で、向かっていった23名は死んだ。

相手は何も言葉を発しない。ただひたすらに無表情だ。

 

 

そして遂に、大盾が重く声を発した。

 

「化け物めッ……」

 

その言葉を放った敵の首領にゆっくりと顔を向け、何の感情も得ずに見返すのだった。




周囲から見れば得体の知れない不気味な強さ
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