くっそ病弱なお兄ちゃんが旅立つ妹の為に頑張るお話 作:文月フツカ
戦士の信念が出なくてキレる程度の浅さです。
名前変えたけど気にしないで。
なんだこれ。
言葉が出ないってこんな状態を言うのか。
試験的に作っていた俺のスペアボディが勝手に動き出した。それだけでも発狂しそうなのに、何か異常なほど強い。
誰だよお前。
いやジータがお兄ちゃんとか言っていたから、魂だけ入ったんだろうけども。
まぁ魔法や錬金と言った現象もそうだが、幽霊とかも割といるこの空。
いまさら? 魂が? 何かに宿った所で?
ははは。
はぁ?
この俺が生身の頃の時間の全てを費やして成し遂げた事を、こともあろうにものの数秒だと?
そのうえ十全に体を動かして異常な剣技を振るってやがるぞコイツ。
錬金の才能やらセンスといったモノは一切ない。文字通り無理矢理入り込みやがった。
ジータを守るためなら何の代価もなく、等価交換を無視してやるってか?
何なんだこの兄妹。俺の妹の方が何倍も常識と知性があるように見える。
方や行動全部が台風を引き起こす未曾有の大天災の妹。
方や俺の十八番をゴリ押しで真似しだした不気味な兄。
何がどうすればこんな兄妹が生まれてくるんだ。やる事成すこと悉く規格外のソレじゃねーか。
胃が痛い。
この体になって初めて胃痛がした。
∇
盾というのは一見鈍重に見えて、その実とても有効な装備だ。
殴ってよし守ってよしと色々出来るのは、選択の幅が広がって有利になる。
ましてや壁かよと思うほどの分厚く巨大な盾を持ち、それを扱える十全な技術と体があるなら尚の事。
「人を簡単に斬り捨てようと、表情一つ動かんとはな」
視線を自分が持っている刀に向けても、映るのは何の装飾もないただの量産品。あの盾に正面から斬り込んでも、恐らく刀身が持たない。かといって武器を借りようにも問題がある。
こんな状況で態々予備の武器を持っている人など居ないし、貸してくれと言っても急には無理だろう。
倒した敵の武器を奪おうと、持っているのとほぼ同じ性能では、焼け石に水だ。
では盾持ちの右手に装備しているあの大きな剣はというと、これも選択肢に入らない。おそらく筋力が足りず持てない。
しかもコイツよく見たら鎧も結構ゴツイのを着込んでいる。
悲観的な考えが浮かんでは消えてくる。他の人たちは、敵の団員と戦闘中だし、カリオストロさんは……うわ目が合った超怖い。
「大丈夫」
……そうだったな。お前は絶対に諦める性格じゃなかったな。
いつの間に、どうやってかは知らないが、侍の姿になっているジータを横目に懐を弄る。
手に取った衝撃で爆発する薬品を、そっと適当な所に転がしておく。
幸運な事は1つ。俺とジータが敵の懐に深く入り込んだおかげで、1番船首側に居るという事。
不幸な事は2つ。敵味方が入り乱れて騎空艇の中央付近に居る事と、俺はジータが無事なら手段とかにあまり拘らない事。
でも……。
「みんなー! 麻痺に気を付けてね!」
これだもんなぁ。俺が懐を弄った段階で何をするのか分かるのは、兄妹の良い所だと思う。
じゃぁ、麻痺毒混入の煙幕、行ってみよう。
「全員息を最小限に抑えろ!」
この盾持ち、図体に反して賢い。そう思うと同時、煙幕が風に乗って船を覆う。
カリオストロさんには頭が上がらない。
「あの大きい人、麻痺に抵抗あるよ! 行ってくるね!」
何故そこで気を付けてねの一言も出て来ない? わが妹ながら、もう少し周りを労わる言葉を出しても罰は当たらないと思うぞ。
∇
やはりというか、ジータが圧倒的に有利だ。本来なら正面からやりあえば突破は不可能に近いのだが。
「それっ! はいそこ!」
正面から堂々と向かって斬りあうジータ。
「おのれぇ! この程っがあぁ!? 貴様ぁ!」
後ろから斬りつけたり、落ちていた弓や銃で嫌がらせをする俺。
なまじ防御力が高いせいで、嬲り殺しのソレだ。
敵が再び大盾を振りかぶり、衝撃波を起こしてくる。後ろから小突いていたおかげで、足元まで目が行ってなかったな。
その攻撃がお前の最期だ。
ジータは跳躍で回避し、元から離れていた俺は刀を構えて走る。
―――!
戦場に一際大きな爆発音が響いた。
先ほど転がしておいた爆発薬品に、ちょうど振り下ろした盾が当たったらしい。音の大きさに対して威力は小さいが、相手を驚かせる目的なので、そこは問題ではない。その音で一瞬耳がやられたのか、仰け反った大盾持ちは、バランスを崩す。
そして夕陽を背にして近づく俺を真面に見てしまったのか、一瞬目を瞑った。
終わりだ。
余っていた最後の爆発する薬品を顔面に投げつけ起爆する。
「くそ! くそ! 何なんだお前! 畜生!」
威力が低くても爆弾は爆弾。フルフェイスだが目の覗き穴に丁度入ってしまったのも運が悪い。
もう光を映すことのないその焼け爛れた目を抑えながらも、最後の力を振り絞って、俺が居る所に突撃を仕掛けてくる。
ここまで来るとコイツの執念には驚かされる。付き合ってやる必要もないけど……こんな機会もうないだろうし、妹にカッコイイ所見せておこう。
あ、敵の名誉のためにいうと、相手が万全の状態であの盾を構えていたら、俺程度での攻撃は入らなかっただろう。だから今から行うのは、死にかけの獣に止めを刺す……いうなれば駆除のそれだ。
騎士道とか真剣勝負とかは興味ないが、死にかけを嬲るほど獣には落ちていない……つもりだ。
∇
戦闘が終わって、敵の団員達も降伏……しなかった。全員が全員持っていた武器で自害しやがった。
忠誠なのか狂信なのか分からないが、2度とあんな連中には会いたくない。妹も流石に思うところがあるようで、シェロカルテさんと色々話し合っていた。
戦闘中は面倒だから流していたけど、表情が一切動かせない。体は動くのに、顔面の筋肉だけ凝り固まったように動かせない。
これじゃ会話が出来ないから身振り手振りでしか意思疎通が出来ないな。
そんなゴタゴタが片付いて一段落すると、今度はこっちに視線が集まり出した。
心なしか団員さんたちの視線が怖い。
そんな中で満面の笑みで走ってくるジータ。
その肩の上で笑っているビィ。
目のハイライトが消えてほぼ無表情に近い微笑を浮かべながらウロボロスを展開しつつ全力で走ってくるヤバい人。
助けて
駆け足でさらっと戦闘終わったけど許して。
この小説も終わりが見えて参りました。
今後お兄ちゃんは喋るべきか
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喋る
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喋らない(身振り/手振り/無表情)