くっそ病弱なお兄ちゃんが旅立つ妹の為に頑張るお話 作:文月フツカ
チクタクチクタクと時計の針が進む音だけが部屋に響く。
目を泳がせて成り行きを見守るわが妹に、震えて存在を消そうと必死なビィ。
彼女の怒気に晒されて身動き一つとれない俺。
「……おい」
そしてとうとう、我慢の限界が来たカリオストロさんがキレた―――!
「お前ふざけんなよ!? 妹を助けるためとはいえ俺の予備の体に入った挙句に滅茶苦茶に負荷掛けてぶっ壊しやがるだと!?」
挙句に体から出る事出来ないとかお前さぁ……と、勝手に使われて壊されたカリオストロさんは大変ご立腹だ。
いやほんと申し訳ないです。ただでさえ妹の面倒を見てくれているというのに、保護者の俺までこんなにお世話になって。
「お前ら兄弟は起こす事全部常識の理外じゃないと気が済まねーのか。しかも顔面の筋肉だけ動かないから喋れないだと? あるかよそんな局地的な筋肉硬直! 全身がちゃんと動くように調節してるっての。お前の顔面動かす力が無ぇだけだよ」
うーんこのド正論。俺はひたすらに頭を下げるしかない。本当にすいませんカリオストロさん。
「くっそ、俺の見た目だから可愛いのが余計腹立つ。数秒で錬金の最奥に到達した奴はやっぱり非常識だなおい」
頭を下げるだけではと思い、近くにあったメモ用紙にペンで謝罪の言葉を書く。
『すいません』
「まぁカリオストロさんも落ち着いて? お兄ちゃんも私を助けるために頑張ってくれたんだし、体の材料費とか費用とか騎空団の公庫から出すから……」
どうもカリオストロさんは、生前全てを掛けて成し遂げた技術を、感覚だけでやり遂げた俺に思うところがあるようで……。
『着ぐるみを着る感覚でした』
「はあああああ!?」
色々と限界が来たらしいカリオストロさんは、ウロボロスを展開して俺を拘束し、薬品漬けの巨大容器に押し込んだ。
いやぁ……ごめんなさい。
体ぶっ壊したのは謝りますが、決してカリオストロさんに思うことがあるとか、そういった事は断じて無いです!
普通の行動は特に問題なく出来るようになった。
あの後カリオストロさんは文句を言いながらもしっかりと体を治してくれた。
大変だったのは団員さんたちへの説明だ。兄が姉になって帰ってきたとかいう謎のワードを皆さんに説明しきるだけで3日を要した。刀を使う団員さんからはそれはもう興味の視線を頂いた。
中には鯉口を切られた方も数名……いやぁ、無理。練習試合とはいえ、勝てる気が一切しないな。
「あの、団長ちゃんのお兄様、是非是非私と一試合」
鯉口を切ったヤバい人筆頭のナルメアさん。この人、ジータ達に思いや悩みを全部ぶちまけて悟り開いた上でこの言動だからなぁ。
今はメモ用紙とか持っていないので、申し訳ない顔をして頭を下げる。するとどうだろうか、シュンと目を伏せながら、気にしないでねと去っていく。
ふええこっちも色々と辛い。
どうも団員の皆さんには、俺は策をも弄する凄腕の刀使いと思われているらしい。
試しに数回刀を振ってみて、斬撃の内包とかやってみたが……そも攻撃を当てられるという確信自体持てなかった。だって騎士団長だとか二つ名持ちの人ばっかりのこの人外魔境だもんなぁ。
隙を見せたらお前の最期だとか言ったけど、見せる隙自体が無い人だとどうしてもな。
「お兄ちゃん。ナルメアさんがそろそろ可哀想だよ?」
妹よぉ。お前は優しいな! でも俺って本来戦いとか嫌いなんだが!
『…!…!』
動かない表情と身振り手振りでジータに伝えると、ジータは苦笑いを返してきた。
「嫌いではあっても苦手ではないもんね。んー、私もお兄ちゃんの技もう少し見てみたいしなぁ」
妹がぶつぶつと呟いて考え込んでしまったので、カリオストロさんの部屋に避難した。普段から感覚で動いている妹が考え込むというのは、天変地異の前触れみたいなものだと、団内ではわりかし有名だ。
怖い怖い。
3日後
甲板にて
俺は今団員の皆さんが遠巻きに見つめる中、ナルメアさんと対峙しています。
おお、もう……どうしてこうなった?
あと3話ぐらいで終わりの予定
今後お兄ちゃんは喋るべきか
-
喋る
-
喋らない(身振り/手振り/無表情)