ノイズさんといっしょ   作:拙作製造機

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今回は夢物語です。


ノイズさんの不思議な夢

 その日はノイズさんとネフィリムを相手にした特別授業の日でした。

 だからシミュレータールームに響達五人が集まったのですが、そこにはノイズさんがいなかったのです。代わりに五歳ぐらいの小さな男の子が片手を口元に当てて小首を傾げながら三歳ぐらいの男の子と手を繋いでいました。

 

「えっと、奏さん、もしかしてこの子達って……」

「あー……あたしもそうだとは思うんだけどなぁ」

「片や黒髪、片や白髪。しかもどっちもガキときてやがる」

「それに、あの黒髪の少年の仕草は見覚えがある」

「ですよ、ね。あれ、ノイズさんがよくする動きですし」

 

 戸惑う五人の前へ黒髪の少年が白髪の子に手を引かれて近付いてきました。

 

「ぼく、ノイズさん」

「ネフィリムの声だ……」

 

 白髪の子が出した声に響が感動するように呟きます。するとその呟きに嬉しそうに白髪の子が歯を見せて笑いました。その無邪気な笑顔に誰もが小さく驚き、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべます。

 

「じゃ、やっぱりこっちの子は……」

「僕、ノイズさんっ!」

「「「「「お~っ」」」」」

 

 黒髪の少年の声はいつか響達が聞いた可愛い声です。そう、ノイズさんが出した事のある声です。

 

「じゃあ、ネフィリムにはネフィリムって名乗ってもらわないとな」

「そうだね。それと呼び名も考えてあげた方がいいよ奏」

 

 人の姿になったノイズさんを可愛がるように撫でる響や未来を見つめ、翼は小さく微笑みました。クリスは二人のように撫でたいようですが、恥ずかしいのかチラチラと響と未来を見つめてモジモジしていました。

 

「ネフィリムの呼び名かぁ。何かいい案あるかい?」

「リムくんなんてどうでしょうっ!」

「響にしてはいい案かも」

「み~く~」

 

 からかうような未来の言い方に響が悲しそうに声を出しながら抱き着きます。その姿を見てクリスが顔を赤くしました。

 

「そ、そういう事は家でやれ!」

「で、名前の案は他にないかい? 翼は?」

「立花のリムがいいと思う」

「翼さん、リム、じゃなくて、リムくん、です!」

「だ、そうです」

 

 気合を入れて説明する響を苦笑しながら未来が締め括ります。するとリムくんと名付けられた白髪の子は嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねました。

 どうやらリムくんという呼び名が気に入ったようです。そのリムくんの反応がノイズさんそっくりで、誰もが優しい笑みを浮かべます。

 

「それじゃあ、リムくん? 僕、リムくんって、言ってみて?」

 

 リムくんへ目線を合わせて未来がそう声をかけると、リムくんは元気よく頷いて口を開けます。

 

「ぼく、リムくんっ!」

「おおっ! リムくんも賢いねっ!」

「お前とは大違いだな」

「あうっ!」

「楽しそうだね、あんた達」

 

 響とクリスのやり取りを半分呆れ気味に見つめる奏ですが、似たようなやり取りを翼とする事があるので未来が小さく苦笑しています。

 翼は一人ノイズさんの頭を撫でて柔らかい表情を浮かべていました。一人っ子だった翼は、今のノイズさんを撫でる事で弟が出来たような気持ちになったのです。

 

「ふふっ、ノイズさんはあったかいな」

「ホント?」

「……うん、ホントだよ」

 

 可愛い声と小首を傾げる動き。それに翼は一瞬驚きますが、すぐに嬉しそうに言葉を返して微笑みました。

 その時の翼はあまり見せない表情と雰囲気でした。無邪気な反応と声に翼の本来の顔が出て来たのです。

 どこからどう見てもお姉ちゃんな翼を見つめ響達が小さく驚きます。ただ、その二人の光景は温かさに溢れていて彼女達にも自然と笑みが浮かびました。

 

「リムくんもっ!」

 

 ノイズさんだけが翼に可愛がられているように思ったのか、リムくんは二人の間に入って撫でて撫でてとばかりに背伸びをします。

 その愛らしさと行動に翼は苦笑しながらリムくんも撫で始めました。すると自分も二人を撫でたいとばかりに響も翼の横へと移動します。

 

「リムくん、どうかな? 撫でられるの嬉しい?」

「うんっ!」

「~~~~~っ! どうしよ未来っ! 私、リムくん連れて帰りたいっ!」

「気持ちは分かるけど駄目だよ」

 

 リムくんを抱き締める響へ未来がやや呆れるように止めますが、その未来もずっとリムくんを撫でているので気持ちは一緒みたいです。

 そのやり取りを聞きながらクリスがポツリと呟きました。

 

「あ、あたしは一人暮らしだから問題ないか……」

「「どうしたの?」」

「っ?! ふ、二人揃ってこっち見るんじゃねー!」

 

 つぶらな二対の瞳にクリスが耐え切れなくなったのか顔を背けました。ただ、愛らしい二人の男の子からの視線にクリスの中にある面倒見のいい顔が悶えています。

 寂しがり屋でもあるクリスにとって一人暮らしは嫌ではないのですが、やはり可能なら誰かと一緒に居たいと思うのです。

 そのため、ノイズさんとリムくんのお姉ちゃんになって暮らしたいと考えてしまいました。そんなクリスと違い本当にお姉ちゃんだった奏は二人の男の子を抱き締めてこう言いました。

 

「どうだ? 二人共あたしの家に来るか?」

「か、奏!?」

「あたしは一人暮らしだし、親戚の子って言えば誤魔化せるって」

「そ、そうかもしれないけど駄目! せめてどちらか一人だよ!」

「へぇ、じゃああたしはリムくんかな? 翼、ノイズさんに掃除してもらいな」

「「そうじ?」」

 

 初めて聞く言葉に二人が揃って小首を傾げます。その愛らしさに響と未来が微笑みました。

 

「部屋の片づけってとこかな。まぁノイズさんならすぐ出来るようになるよ。誰かさんと違って」

「奏ぇ~……」

 

 恨めしそうな目で奏を見つめる翼ですが、そんな彼女を見てみんなが笑います。ただノイズさんだけが翼へ目を向けました。

 それに気付いて翼が目を合わせると、ノイズさんはにっこりと笑います。それが翼には気にしなくていいよと言っているように思えたのです。

 

「……ノイズさん、私の部屋に来る?」

「いいの?」

 

 こくんと首を傾げるノイズさんに翼は嬉しそうに頷きます。それを見た奏がそっとノイズさんから腕を離します。するとノイズさんが翼の方へと駆け寄りました。

 ノイズさんを抱き締める翼は、そのあったかさに表情が緩んでいきます。そしてそれは翼が初めて自分の腕の中で感じる小さな生命の鼓動でした。

 

「翼さん、すっごく優しい顔してる……」

「うん、初めて見るね……」

「あんな顔、すんだな……」

 

 まるでお母さんのような翼に響達が軽く驚きます。優しく微笑みながらノイズさんを抱き締める姿は一枚の絵のようです。

 

「意外とあんた達もああなるよ。ほら、リムくんを抱き締めてみな」

「え? わっ!」

 

 奏がリムくんを抱っこして響へ手渡します。その重さにびっくりしつつも、それが命の重さだと思うと響は納得すると同時にリムくんが嬉しそうに響へ頬ずりしました。

 

「あはっ、くすぐったいって」

「ひびきっ! ひびきっ!」

「もう名前を覚えてる……」

「凄いな、こいつらの学習能力」

 

 響の名前を呼んで嬉しそうに懐くリムくんを見て、未来とクリスが驚きを浮かべてから微笑みました。

 そんな中で翼は奏と二人でノイズさんと童謡を歌い始めようとしていました。

 

「いいかい? 翼の後に同じように歌ってごらん」

「うん!」

「じゃいくよ? かーえーるーのーうーたーがー」

「かーえーるーのーうーたーがー」

 

 二人が歌い始めたのはかえるのうたと言われる輪唱をされる事の多い歌です。まず奏が歌い始めると、少し間を置いて翼が歌い始めます。それを見てノイズさんはふんふんと頷いてリズムを取るように顔を動かしました。

 

「かーえーるーのーうーたーがー」

「「「「お~……」」」」

 

 可愛い声で歌い始めるノイズさんに響達も意識を向けて小さく感嘆の声を漏らします。ならばと響もそれに続いて歌い始めました。そうなればもう未来とクリスも歌います。

 シミュレータールームにかえるのうたの輪唱が響き渡ります。最後に歌っていたクリスの声が消え、室内に静けさが戻ると小さな拍手の音が響きました。

 

「すごいっ! すごいっ!」

 

 リムくんが大興奮で手を叩いていたのです。その拍手はツヴァイウイングの二人にしても、初めて受けた時に匹敵する程あったかいものでした。

 当然響達には初めての感動の拍手です。心がポカポカとあったかくなるのを感じて、ノイズさんを含めた四人で笑顔を見せました。

 

「次はリムくんも歌ってみる?」

「うたうっ! うたうっ!」

「じゃ、もう一回?」

「それがいいと思う。今聞いたしタイミングも分かっただろうから」

「ならいっそリムくんから歌ってもらうのどうですか?」

 

 その未来の提案に誰もが頷き、リムくんがニコニコ笑顔で歌い始めます。

 

「か~え~る~の~う~た~が~」

 

 出す声全体が震えているリムくんですが、それさえも響達には笑顔になれる要素でしかありません。

 七人でのかえるのうたが響き渡り、リムくんが歌い終わります。すると、何故かすぐにリムくんが歌い始めました。

 これに驚いたのがノイズさんです。さっきは奏も翼も歌い終わった後は静かにしていたからです。

 結果、ノイズさんもならばと歌い終わるとまたリムくんに続いて歌い始めます。さてさてこうなるともう終わりを見失います。

 響は可愛い二人が続けているのでと輪唱を再開し、未来もそれに続いていくのでクリス達も苦笑しながら再び輪唱していきます。

 まさしく輪となって終わる事なく歌は続きます。最初こそ苦笑していたクリス達さえも、楽しそうに歌うリムくんとノイズさんを見ている内に笑顔となり、歌声も明るく元気なものとなっていきます。

 

 そうやってしばらくかえるのうたを歌い続けたノイズさん達ですが、さすがに疲れたのかリムくんが歌うのを止めました。

 それを合図にノイズさんも歌うのを止めて、ようやく永遠に続くかと思われた輪唱は終わりました。

 

「リムくん、歌ってみてどう?」

 

 そんな中、響が床に寝転がって笑っているリムくんへ問いかけます。するとリムくんは勢い良く起き上がってこう言いました。

 

「うた、たのしいっ! みんな、すきっ!」

 

 無邪気な言葉に響だけでなく奏達も笑顔になりました。もしここにマリア達がいれば大きく驚きを見せた事でしょう。あのネフィリムが歌を唄い、それを楽しいと感じ、更に人間を好きと言い切ったのですから。

 リムくんはそのまま響へ抱き着くとキラキラとした眼差しでこうおねだりします。もっと歌いたい。もっと教えて。

 

 そのお願いに、ならとツヴァイウイングが自分達の歌を唄うとリムくんが黙って口を開けたままで二人を見つめ、ノイズさんは目を見開いたまま二人を見つめます。

 至近距離で見るツヴァイウイングのライブは、響達にも大きく強い感動を与えました。二人はプロです。歌い踊る事でお金を得ています。その技を目の前で観れる事は、まさしくお金で買えない価値がありました。

 

「……どうだい?」

「私達の歌は難しいだろうか?」

 

 呆然としたままのリムくんとノイズさんへ二人は笑みを向けます。するとリムくんとノイズさんが互いへ顔を向けて小さく頷き合って口を開きました。

 

「「なんおくのあいをかさねー」」

「「「「「え?」」」」」

 

 二人が口ずさんだのは響達が知らない歌でした。だけどどこか胸があったかくなる歌です。

 その謎の歌をノイズさんとリムくんは歌い切り、満足そうに頷きました。

 そして疲れてしまったのか二人はそのまま床へ寝転び目を閉じます。

 

「ノイズさーん起きてー」

 

 聞こえた声にノイズさんが起き上がりました。すぐに覗き込むような体勢で自分を見ている響へ気付き、寝ていた事を謝ろうと声を出そうとします。

 でも喋れません。あれあれおかしいな。そう思って小首を傾げるノイズさん。するとネフィリムがノイズさんの代わりに響へ言葉を発してくれました。

 

「おはー」

「おおっ、ホントに寝てたんだぁ」

「何気なくおはようまで言えるようになってるね、ネフィリム」

「ホント、どうなってんだよこいつらの学習能力」

 

 ノイズさんの目の前には響だけでなく未来やクリスの姿もありました。奏と翼はまだいません。

 そう、今からノイズさんとネフィリムのための特別授業が行われるのです。

 

「でもビックリだね。ノイズさんも眠るんだ」

「そういやそうだな。ノイズの生態なんて分からない事だらけだし、睡眠がいるとか思わねーよなぁ」

「そうだね。それにノイズさんっていつも私達が会う時起きてるから」

 

 三人でお喋りする響達を眺め、ノイズさんは自分の体を見つめました。そこにはノイズさん専用ギアを纏った見慣れた体があります。

 次は頭を触りました。ギアがあってごつごつしていますが、黒い髪の毛などはありません。最後に顔を触ります。目もなければ鼻も口もありません。

 

 全ては、夢だったのです。

 

 がっくりと肩を落として落ち込むノイズさんに気付いて響達が小首を傾げます。どうしたのだろうと思ったのでしょう。三人は揃ってノイズさんと目線を合わせるようにしゃがみました。

 

「ノイズさん、どうしたの?」

「何かあったか?」

「もしかして、気分でも悪いの?」

 

 優しい三人の声にノイズさんは小さく首を横に動かすとゆっくりと顔を上げました。何か言う訳ではありません。でもどこか悲しそうな事だけは響達にも分かりました。

 ノイズさんは近くにあったボードを手にとると文字をカキカキ。やがて書き終えたノイズさんはボードを三人へ見せました。

 

――初めて夢を見た。そこだと僕とネフィリムが人間になっててみんなと歌を歌ったりお喋りしたりしてた。

 

 それを読んだ三人は思わず言葉を失ってしまいました。ノイズさんが初めて夢を見た事もそうですが、その内容がとても嬉しく、故に夢だった事が悲しくなってしまうものだったからです。

 ノイズさんの落ち込み方からも、それがどれだけ嬉しく思っていたのかよく分かったのでしょう。特に響とクリスは知っています。ノイズさんが人間に憧れている事を、人間の真似をして喜んでいた事を。

 

 あのふらわーでの一時が響とクリスの脳裏に甦ります。

 

「ノイズさん、それはきっと未来の話だよ」

「未来……」

 

 かける言葉が見つからない響とクリスに代わり、未来がそっと微笑みかけます。その優しい微笑みにノイズさんがホント?と言う様に小首を傾げました。

 

「本当だよ。いつになるか分からないけど、ノイズさんが自分で喋ってネフィリムもノイズさんの中から出てきて過ごせるようになるんだと思う。だから、落ち込まないで。ノイズさんが私達の悲しい気持ちを嫌がるみたいに、私達もノイズさんが悲しいのは嫌なんだ」

 

 そう言って未来はギア越しにノイズさんを抱き締めました。その抱擁のあったかさにノイズさんは嬉しそうに腕を動かして未来を優しく抱き返します。

 それを見ていた響はクリスの手を引いてノイズさんの後ろへ回り込みました。それがどういう意味かをクリスは聞く事なく察したのか、小さく息を吐くと微笑みます。

 

 そしてシミュレータールームでノイズさんを三人が抱き締める光景が生まれました。そのまま響達はノイズさんが元気になるまでそうしていました。

 

「すまない。遅くなった」

「早速発声練習か……っと」

 

 しばらく時間が経った頃、ツヴァイウイングの二人がシミュレータールームへ姿を見せました。ただ、そこで二人は思わず笑みを零します。何せそこでは……

 

「「「すー……」」」

 

 安らかな寝顔で眠る響達と、それを見ながらどうしようと困るノイズさんの姿があったのでした。




ノイズさん、夢を見る。未来が言ったように未来の可能性なのでしょうか?
ただ、どう転んでも人間にはなれないのが悲しいところではありますが……。
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