こことは違う別の世界。そこで僕は生まれました。だけど、その時の僕はまだ僕ではなく、他の仲間達と似たようなものでした。とにかく人間が憎くて憎くて仕方なくて、沢山の仲間達がいる場所へフラフラと行っては人を殺していました。
―――こいつは……新種のノイズかっ!
―――くっ、強いわね……。
―――なら、イグナイトモジュールで……っ!
ぼんやりとしか思い出せないけれど、装者と戦った気もする。でも、よく思い出せない。響達だった気もするけど、あんなギアじゃないからきっと違う。違っててほしい。じゃないと、僕は僕を許せないから。そこで一旦僕の記憶は途切れて、また別の場所で今度は奏によく似た装者と戦った気がする。その装者もギアが違うから多分別人。そこでもまた記憶が途切れる。次は水着を着た翼達と戦った気がする。そんな風に、僕の中には僕じゃない僕の記憶が沢山ある。
「だけど、最後はいつも同じなんだ」
僕は殺される。いつもいつも殺される。だけど、その度に僕の中に何かあったかいものが流れてきてた。それは歌。優しい歌や勇ましい歌、激しい歌に切ない歌。いろんな歌が僕の中へ流れ込んできたんだ。そして、いつだったか僕はこの世界にいた。よく分からないけど、あちこちへ行けるようになって。
「……どこに行けばいいのかな?」
よく分からないまま、僕はその力を使ってお出かけした。ある時は仲間達が人間を襲っているところへ、またある時は火事の中へと、色んな場所へ。そして、僕がノイズさんって呼ばれるようになった瞬間は、今でもはっきり思い出せる。
―――侵入者? それも、黒いノイズ? ふむ、面白いな。しかも、俺を襲ってこないとは。
それは不思議な格好をした女の子に出会った時。その場所は暗くて冷たい所で、後ろを向いたら四つの人形が置いてあった。その時は、また変なとこにきちゃったんだと思った。
「人間がいる。でも、どうしてこんな場所に一人なんだろう?」
もう僕は誰も殺したくなかった。だから動かないでその子の好きにさせていた。ただ、その子から強い嫌な感情を感じたから何度も謝った。きっと僕や仲間達がこの子の大切な存在を殺しちゃったんだって思ったから。だけど、そんな事を繰り返していたら、そうじゃないってその子は教えてくれた。
―――俺のこの感情は人間に対してのものだ。お前やノイズへじゃない。
ほっとしたけれど、じゃあ何で人間が人間に嫌な感情を抱くんだろう。そう思ってその子を見つめると、その子はポツリポツリと話してくれた。お父さんと二人で旅をしていた事、途中でれんきんじゅつって知識を使って困った人を助けていた事、そしてそれが原因でお父さんを殺されてしまった事。
―――俺はパパを殺した奴らが憎い! だが、それよりもパパの残した命題を解く事の方が大事だ。
その子は僕に色んな事を教えてくれた。今思うと、あの子も寂しかったんだと思う。それと、僕のあちこちに行く力をちゃんと使えるようにしてくれた。何でもれんきんじゅつの転送技術が応用出来たとかなんとかで、仲間達のいる場所へ出られるようになったんだ。それが終わった時、僕はその子に尋ねられた。
―――これからどうする?
どことなくここに居て欲しいと言われた気がした。だけど、僕は決めたんだ。この力で仲間達や人間を助けるって。僕の中にある歌がそうしろって叫んでた。だから僕はその胸の歌を信じて、その子には頭を下げてバイバイした。最後に僕は床へこう書いた。
「また会おうね」
それを見てその子は一瞬驚いた後、何故か帽子で顔を隠してしまったけど、少しだけ悲しい気持ちと同じぐらいの嬉しい気持ちを感じたからきっと大丈夫。それから僕は旅に出た。人間を襲う前の仲間達を家へ帰してやるために。そうこうしていたら、ある日とんでもない場所へ出てしまった。そう、奏や翼と出会った場所に。
「これが僕が覚えている事の全て」
書き終えた日記を見つめ、僕はそう呟いた。でも、正確には声になっていない。僕に口はないからだ。ネフィリムが僕の中にいるから口は出せるけど、それはネフィリムの口であって僕のじゃない。それに、言葉にしないでもお友達は分かってくれる時もある。だからへいき、へっちゃらなんだ。
ノイズさんが将棋盤を机代わりにして真新しい日記へ記したのは、まだ誰にも教えていない彼だけの思い出。そして、それを記した日記は、彼が初めて響とクリスからもらったプレゼントです。
―――はい、ノイズさん。これあげる!
―――この前もらった土産のお返しだ。
あのアメリカ旅行の際、帰りの空港で了子に買ってもらったお土産のお返し。そう二人は言っていました。何故日記かと言えば、それは単純にノイズさんの日々を知りたいから。そう隠す事なく言い放った響にクリスは呆れ、ノイズさんは納得するように頷きました。
そして、どうせならと、まずノイズさんは覚えている昔の思い出を書き出していたのです。長い時間書いていたからか、両腕を伸ばすノイズさん。と、そこへ翼が顔を出しました。
「すまない、ノイズさん。少し手合せを頼めないだろうか?」
雰囲気からして正規の訓練ではないようです。実は、翼がこうして一人でノイズさんへ訓練相手を頼む時は、大体何かストレスを感じた時の行動なのです。だからノイズさんは構わないとばかりに頷きました。
実は、翼は一人で歌う新曲が中々上手く歌えないのです。翼以外は満足しているのですが、本人はどこか上手く歌えていないと感じるのでしょう。その自分への苛立ちを忘れるために翼はここへ来ていました。
「そうか。すまないな」
どこか嬉しそうに翼は一旦部屋を出ます。それを追うようにノイズさんも将棋盤を抱えて部屋の外へ。設定を終えて翼が戻ると、ノイズさんは部屋の中央で正座していました。その雰囲気に小さく苦笑し、翼もその対面へ向かいます。
「剣道の試合のようだな」
ノイズさんは頷きます。どうやらそれを意識しているようです。翼はまた小さく苦笑しました。やがて室内の風景が変化したので、翼はギアを纏います。それを合図にノイズさんがゆっくり立ち上がり、翼も呼応するように動きました。
「いざ、尋常に勝負っ!」
刀を手にノイズさんと向かい合う翼。対するノイズさんはファイティングポーズです。しかし、お互いにそこから動こうとはしません。分かっているのです。下手に動いてはいけないと。じりじりとお互いの間合いを詰める翼とノイズさん。
「……先手必勝っ!」
先に動いたのは翼でした。脚部のブースターを吹かし、一瞬にしてノイズさんへ迫ったのです。そこから繰り出される疾風の如き一閃。ですが、それはノイズさんの体へ届いた瞬間、そのボディに食い込んで離れなくなってしまいました。
「なっ!?」
直後繰り出されるノイズさんパンチ。それを武器から手を離す事で咄嗟にかわし、翼はノイズさんから距離を取ります。
「……まさか私が刃を手放さねばならなくなるとはな」
ノイズさんは翼のアームドギアを手にすると、その場で正眼の構えを取りました。しかも、そこから素振りを始めたのです。ただ、そのやり方は無茶苦茶でした。それが剣道教室に通うようになった子供のようで、翼は知らず微笑みを浮かべてしまいました。
「違うよノイズさん。素振りはそうじゃなくて……」
きっと見よう見まねでやっているのでしょう。ノイズさんは足運びなどが滅茶苦茶でした。それを見て翼は微笑ましく思いながら近付いていきます。こうして手合せはノイズさんだけのための剣道教室へ変わり、翼は教えながら基礎や基本を見つめ直す事となって、終わった時には笑顔を浮かべていました。
「ありがとうノイズさん。おかげで何か大事なものを見つめ直せた気がする」
それなら良かった。そう思ってノイズさんは帰っていく翼へ手を振ってお見送り。と、翼の足が廊下のある物を見て止まりました。それは将棋盤の上にある日記。そこには、ノイズさんの思い出と書かれています。
「これは?」
将棋盤を戻そうと姿を見せたノイズさんへ翼は日記を指さします。すると、ノイズさんはボードへ文字をカキカキ。
「……立花と雪音からの。そう、あの二人が……」
後輩二人の行いに翼は優しい気持ちになって笑みを零しました。それがノイズさんに伝わったのでしょう。ノイズさんも嬉しそうに頷きました。と、そこでノイズさんは日記を手にその場へ座り、将棋盤を机代わりに何かを書き始めました。翼はそれを眺め、小首を傾げます。やがて書き終えたノイズさんが日記を開いて翼へ見せました。
―――今日は、翼と手合せした。だけど、途中から僕に翼が剣の使い方を教えてくれて楽しかった。今度は剣道の試合みたいに手合せしたいな。
その子供のような文章に、翼は軽く驚きつつも何だか心があったかくなったような気がして笑顔を見せました。
「楽しかったのはこっちもだから。うん、今度は竹刀を持ってくるね」
こうして二人は手を振り合って別れました。帰り道、翼はふとある事に気付いて足を止めました。
「そうか。私は上手く歌う事ばかり考えて、楽しむ事を忘れていた。音楽は音を楽しむものだ。本当に、基本を忘れていたな私は」
翌日、楽しむ心で歌った歌は自他共に認めるベストテイクとなり、風鳴翼の新曲はあちこちで笑顔を作る事になったとさ。
はい、ノイズさんの正体はXDで倒され続けたカルマ・ノイズの集合体です。その結果、装者達の想いや歌を浴び続け、あったかいものがその身に宿ったと設定しています。
原作響に見せたいと感想で書かれましたが、まさしく彼女がいたからこそのノイズさんです。握る事さえ出来ない手だからこそ、ノイズさんは差し伸ばす事しかしたくないと、こういう訳です。
生まれたのが五年前。これは、ノイズさんの中にあったかいものが生まれたのがこの作中世界での五年前という意味でした。
分かり難くて申し訳ないです。