「あー……はいっ!」
「ヴァ~」
ノイズさんを前にして響が何かやっています。どうやら言葉を教えているようです。
ノイズさんはネフィリムにお願いして同じ音を出してもらおうとしますが、中々上手くいきません。
「う~ん、違うんだよなぁ」
腕組みをして首を捻る響を見て、ノイズさんもしょんぼり。あの日聞こえた声。それとは明らかに違う声ですが、ノイズさんとネフィリムは今や一心同体。ノイズさんが思えばネフィリムが応える関係です。
つまり、ネフィリムが喋れるようになれば、それはノイズさんの言葉となってくれる。そう信じて二人は頑張っていました。
「あっ、こんなところにいた」
「ほぇ? 未来?」
そこへ現れたのは響の親友にしてノイズさんの宝物となってくれた小日向未来です。
彼女は響と一緒に振り向いたノイズさんへ微笑みながらそこへ近付いてきます。
「未来? じゃないでしょ。今日は発売日なのにいいの?」
「発売日?」
「ヴィ?」
まるで鏡のように首を傾げるノイズさんと響を見て、未来は呆れながらも楽しそうに笑いました。その笑顔にノイズさんは嬉しそうに頷き、響はやっぱり未来は可愛いなぁとほっこりします。
「ふふっ、マリア・カデンツァヴナ・イヴの新曲だよ」
「ああっ! そうだった!」
未来の告げた名前に響は思い出したとばかりに立ち上がります。マリア・カデンツァヴナ・イヴとは、ノイズさんが遠くアメリカで出会い仲良くなった相手です。
響達はノイズさんの書いた絵でしか知りませんでしたが、ある時ツヴァイウイングと合同ライブをやる相手として奏と翼から見せられた写真でノイズさんがビックリしたため、彼女がノイズさんが出会った装者なのだと分かったのです。
そして、ならばとクリスがマリアの曲を購入しみんなで聞いてすっかりファンになったのでした。
「今回の曲は絶対合同ライブで歌うはずなんだ。ごめんノイズさん。私、行かなくちゃ!」
「ノイズさん、響にはちゃんと注意しておくからね」
慌てて帰り支度を始める響を眺め、未来はノイズさんへ申し訳なさそうにそう言いました。
それにノイズさんは首を小さく横に振ってからボードへカキカキ。それが終わると未来へボートを見せます。
「えっと……気にしないでいいよ。でも僕にも聞かせてね。うん、分かった」
「未来、お待たせ! ノイズさん、また今度ね!」
「バイバイ」
ヒラヒラと二人へ手を振ってノイズさんはお見送り。途端に静かになるシミュレータールームでノイズさんはどうしたものかと考えます。
やがて何か思いついたのかノイズさんは両手を打ち、再びネフィリムの口を出現させました。
「ヴァ~、ヴィ~、ヴ~、ヴェ~、ヴォ~」
どうやら発声練習のようです。ある意味で難しい発音をこなすのは凄いと言えるかもしれません。
ただ、それはノイズさんが望む音ではありません。なのでもう一度です。
「バ~、ビ~、ブ~、ベ~、ボ~」
少し声が変わった事に気付いてノイズさんは嬉しそうに飛び跳ねました。ネフィリムの口は少し自慢げに笑っています。
スゴイスゴイとはしゃぐノイズさんと、どうだいと胸を張るネフィリムの姿が浮かぶようです。
その後もシミュレータールームから濁った声のようなうめき声のようなものが響きました。
―――今度響と会ったら挨拶だけでもしたいな。
ノイズさんのそんな気持ちが伝わったのか、ネフィリムも何度も何度も声を出し、付近を通った者達が怪獣映画でも流しているのかと思う程、とても長い時間二人の頑張りは続きました。
そして翌日、手に入ったマリアの新譜を手に未来を連れて響がノイズさんの下を訪れました。
「ノッイズさーん、来たよ~」
「こんにちはノイズさん」
定位置のシミュレータールームへ揃って顔を出した二人は、隅で絵本を読んでいるノイズさんへトタトタと近寄って行きます。
するとノイズさんも二人に気付いて顔を絵本から上げました。
そして手にした絵本を手元へ置くと、片手を口元と思われる場所へ当てて咳払いをするかのような動きを見せました。
何だろうと同時に首を傾げる響と未来へ、ノイズさんはネフィリムと示し合わせるかのように口を出現させて首を大きく動かしました。
まるでリズムを取るかのようなそれは、きっと合図なのでしょう。それを見た響と未来は「せ~のっ」と言う声を頭の中に浮かべました。
「や~」
片手を上げて出した声。それに二人は目をパチクリ。その二人の反応を見せてノイズさんは小首を傾げます。
伝わらなかったのかなと、そう思ったのでしょう。ならばともう一度同じ動きをして声を出します。
「や~」
そこでやっと二人は分かりました。
「ノイズさんっ! 今の、挨拶してくれたの!?」
今にも飛び付きそうな勢いで問いかける響にノイズさんは嬉しそうに頷きます。
「そうみたいだね」
「うわぁ……感動だよぉ。遂にノイズさんが挨拶してくれるようになったよ、未来」
「うん、凄いなぁ。本当にノイズって思えないぐらい可愛いね」
にっこりと笑顔を見せる未来に、ノイズさんは照れるように手を頭の後ろへ当てます。その姿に未来はもっと笑みを深くしました。
「当然だよ。未来、ノイズさんはノイズじゃないんだもん」
そう言って響はノイズさんへ顔を向けると手にしていたCDを見せました。
「はい、ノイズさん。これ、マリアさんの新曲だよ。一緒に聞こっ!」
「お~」
「返事まで……ホント、凄いなぁ」
こうしてシミュレータールームからはマリアの新曲が流れ、その室内では、その力強い歌声に聴き入るノイズさんを優しい笑顔で見つめる響と未来の姿があったとさ。
「聞いたぞ。お前、簡単な挨拶なら出来るようになったって?」
響達とマリアの新曲を聞いた次の日、日記を書いていたノイズさんをクリスが訪ねました。
「お~」
「うわ、マジか。あん時とは違う声だけど、ネフィリムの声って事か? 器用なもんだな、おい」
言いながらどこか嬉しそうにクリスはノイズさんへ近寄ります。そしてその隣へ腰を下ろすと、ノイズさんの日記を覗き込んで読み始めました。
「何々……今日はネフィリムと発声練習をしました。早く言葉を使えるようになりたいです?」
クリスの読み上げた内容に頷くノイズさん。そして両手を握って決意表明です。それを見たクリスは苦笑しました。
「やる気十分ってか? なんつーか、お前もあの日から頑張ってんだな。ま、あのバカが何かやってるんのは知ってるけど」
頬を指で掻きながらクリスは視線を天井へ向けます。実はクリスは響から相談を受けていたのです。
―――クリスちゃん、ノイズさんとお話し出来るようにしたいんだけど、どうしたらいいと思う?
―――まずは声を出せるようにする事だろ。何でお前は一足飛びで物事を考えるんだよ。
それに対して正論を告げながら注意を促すクリスは、本当に優しく面倒見のいい先輩気質と言えます。ただ、残念ながらそれをあまり表に出さないようにクリスはしていました。
彼女は恥ずかしがり屋なのです。それと、少しだけ素直になれない性格もあって、どうしても話し方がぶっきらぼうな部分がありますが、それをみんなは分かっているのでクリスとしては嬉しいやら照れくさいやらなのでした。
「それで、どうなんだ? まだ単音しか出せねーのか?」
クリスがそう聞くと、ノイズさんはがっくりと項垂れてしまいました。それを見てクリスは慌てます。ノイズさんが自分の言葉に傷ついてしまったと思ったからです。
「お、おい、んな落ち込むなって。あたしはただ確認をしただけだっての」
ホント? そんな風に首を傾げるノイズさんにクリスは何度も首を縦に振ります。
「おう、ホントだっての。でも、そうか。その感じじゃまだ単語は無理か」
ノイズさんとクリスは揃って肩を落とします。しかも、今声を出しているのはネフィリムなのです。
それはクリス達が聞いた可愛い声ではなく、ちょっと怖い声がノイズさんの外見で出されるのは知らない人からすればビックリしてしまう程です。
「うし、じゃせめて名前だけでも名乗れるようにするか」
顔を上げたクリスはそう言うとノイズさんへ向かい合って口を動かします。
「僕、ノイズさん」
「ぼぐ、ヴォイズざん」
「……初めてにしちゃ上出来だけどよ、それじゃ新種のノイズかその進化系みたいだな。いや、あながち間違ってもねーかって褒めてねーから」
すかさず手を頭の後ろへ動かすノイズさんへそう言ってクリスは呆れた顔を見せました。
この辺りにもクリスがノイズさんとこういうやり取りを何度もしている事が窺えます。
「じゃ、もっかいだ。僕……ほら」
「ぼぐ」
「ぼ・く」
「ぼ……くっ」
「おおっ、良い感じじゃねーか。ネフィリムも学習能力高いな」
嬉しそうに笑うクリスは気付いていませんでした。ネフィリムは学習能力が高いから喋れるようになろうとしている訳ではありません。
ネフィリムは聖遺物を食べる事で成長する存在でした。だからこそネフィリムはノイズさんが友達になろうとした事で成長しなくても良くなったのです。
何故ならもうネフィリムは大きくなる必要がないからです。ノイズさんはネフィリムの友達であり守ってくれる親でもあるのですから。
親が出来ない事を子が果たそうとする。これは人間と同じです。ネフィリムはノイズさんが出来ない事を代わりにしてあげようとしていました。
「じゃ、今度は続けて言ってみるか。僕、ノイズさん」
「ぼ、くっ、ヌォイズざん」
「惜しいんだよなぁ。よし、の・い・ず」
「ヌォ・イ・ズ」
「のー」
「……ニョ~」
「マジかっ?! そっちの方が難しいだろ!」
ネフィリムの斜め上の間違い方に驚きつつ、クリスは根気よくノイズさんに、いえネフィリムに言葉を覚えさせていきました。
何度も何度も繰り返し、時に褒め、時に注意し、その様は見る者が見れば姉か母です。
気付けば時間はあっという間に過ぎ、クリスもそろそろマンションへ帰らないといけない時間となってしまいました。
「げっ、もうこんな時間か」
クリスの言葉でノイズさんも顔を動かします。クリスの手にある携帯の時刻を見るためです。
「悪いなノイズさん。あたしはそろそろ帰らないと」
申し訳なさそうなクリスの顔を見て、ノイズさんは顔をフルフルと動かします。気にしていないよ。大丈夫。そんな言葉を告げるように。
「……また、明日も来るからな」
一番最初の友達にクリスは親愛の情を込めてそう告げるとその場から立ち上がりシミュレータールームを出て行きます。その背中にノイズさんは何か声をかけようとしますが、中々いい言葉が思いつきません。
なぜなら”さようなら”では寂しいからです。”バイバイ”も同じです。うんうん唸っている間にクリスは部屋を出て行きました。見えなくなった背中に気付き、ノイズさんはがっくりと項垂れます。
「ぼ・くっ……のぉ・い・ず・しゃん」
ノイズさんの気持ちに気付き、ネフィリムが励ますように声を出します。クリスの指導のおかげで大分言いたい事が伝わるようになったそれに、ノイズさんは少しだけ褒めるように頷きます。
その日も、その後シミュレータールームからやや不気味な声ですが、名乗りをする練習が聞こえ続けます。
そして翌日……
「「「「「あれ?」」」」」
シミュレータールームへと続く十字路で響達五人が顔を合せました。どうやらみんなしてノイズさんの最近の奇行を聞いたようです。
「奏さん達もノイズさんに?」
「そういう立花達もか」
「ああ。あいつ、最近夜通しなんか声出してるらしいっておっさんから聞いたからさ」
「あー、うん。みたいだね~」
心当たりしかない響とクリスはどこか苦い顔です。ノイズさんが頑張り屋さんだと忘れていたのでしょう。ノイズさんは日記をもらってから毎日かかさず書いているぐらいの真面目さんで、それを聞いた未来が響とは大違いだねと苦笑するぐらいです。
目的が同じなら一緒に行こうとなり、五人はシミュレータールームへと向かいます。すると、そこからノイズさんが嬉しそうに出てくるではありませんか。
「あれ? ノイズさん?」
「珍しいな、自分から出てくるなんてよ」
ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねながらノイズさんは五人の前へやってきます。そして……
「ぼくっ、ノイズさんっ!」
「「「「「おおっ!」」」」」
少しだけ怖い声と共にノイズさんが右腕を上げて挨拶したのです。その行動に誰よりも目を輝かせたのは響とクリスでした。
「ノイズさんノイズさんっ! 他には? 他には喋れないの?」
「お前、もしかしてそれをずっと練習してたのかよ。ったく、少しはこのバカみたいにさぼってもいいんだぞ」
今にも押し倒しそうな勢いでノイズさんへ迫る響と、どこか呆れつつも嬉しそうにノイズさんの事を撫でるクリスを見て奏達は気付きました。二人が願った事をノイズさんは叶えたかったのだろうと。
「成程ねぇ。響とクリスの笑顔のために、か」
「ノイズさんらしい。でも、あの声は私達がいつか聞いたものじゃないね」
「えっと、多分ネフィリムっていう子、の声じゃないですか?」
「「……ああ」」
未来の言葉に奏と翼は納得したように頷きました。それと気付いたのです。ネフィリムも本当にノイズさんと同じようになってきていると。
「翼、本当にノイズさんは誰とでも友達になっちまうかもしれないね」
「何言ってるの? 実際になってるじゃない。私達も、そしてマリアも」
合同ライブのため、マリアは昨日来日し軽い顔合わせをツヴァイウイングと行いました。その時、奏達はマリアと三人になった時に聞いたのです。
―――ノイズさんを知ってる?
その問いかけにマリアは一瞬驚きを見せましたが、すぐに笑みを浮かべて頷きました。
―――ええ。私の初めて出来た異種族の友人だもの。
ほんの少しの時間でしたが、三人は知り合いから友人へなる事が出来たのです。ノイズさんという、共通の友人を通じて。
「ぼくっ、ノイズさん!」
「これだけしか言えないんだね」
「じゃ、次は挨拶だ。こ・ん・に・ち・は」
「ぐぉん・にぃ・じゃ~」
「「惜しいっ!」」
響とクリスは声を合わせて悔しがると、それに気付いて響は嬉しそうに笑い、クリスが照れくさそうに顔を背けます。その様子を見たノイズさんは嬉しそうに頷きました。
二人の気持ちが伝わってきたからです。クリスちゃんと同じ気持ちになれて嬉しいという響の想いと、こいつと同じ気持ちになったのかと照れくさいクリスの想いが、ノイズさんの胸の歌をあったかくします。
「ノイズさん、一音ずつ発声してみたら? こ」
「ぐぉ」
未来が優しくお手本をすると、ネフィリムがすかさず声を出しました。ただ、やはり正しい発音ではありません。
「うんと、こ、だよ? まず綺麗な音を出してみて。あー……はい」
「あ~」
未来の教え方は、さすが音楽に力を入れている学院の生徒らしいものでした。そこからは卒業生に在校生を交えた発声練習開始です。
奏が先輩として音頭を取り、ネフィリムも入れたみんなで声を出します。”あ”の音が綺麗にシミュレータールームに響きます。
それはさながら音楽教室です。だけど、ネフィリムも楽しそうにみんなと声を出していきます。ただ、ノイズさんは声を出せないので響達のようにお腹に手を当てて振りをしました。
そうしている内にネフィリムの声は少しだけ綺麗なものへと変わってきました。みんなの綺麗な発声を聞いて成長したのです。
ノイズさんの胸の歌を栄養に、ネフィリムもゆっくりとあったかい心を知り始めたのでしょう。
「せ~のっ」
「「「「「「あ~」」」」」」
六つの綺麗なハーモニーが奏でられ、五人の笑顔と視線はノイズさんの口へと注がれます。ノイズさんもお腹に当てた手でそこにいるネフィリムを褒めるように撫でました。
「じゃ、いくよ? こ」
「……くぉ」
「「「「「お~……」」」」」
練習の甲斐もあり、ネフィリムは綺麗な発声が出来るようになりました。ただ、まだ正しい音ではありません。それでも、みんなは笑顔です。
「次はあたしだね。ん~」
「……ん~」
「なら私が続こう。にー……どうだ?」
「……にぃ~」
「いい調子じゃねーか。ちー……いけるか?」
「……てぃ~」
「うんうん、それじゃ最後。わー……はい!」
「……わ~」
「最後はそれを全部繋げて……」
そこで響は周囲を見回しました。未来達もそれに頷きます。
「「「「「こんにちは」」」」」
それぞれ笑顔でノイズさんへ挨拶します。その笑顔にノイズさんの胸の歌が高鳴ります。すると……
―――こん、に……ちは……。
聞こえてきたのはネフィリムの声ではありません。五人の胸に直接響く幼い愛らしい声です。
「……今のって」
「ノイズさんの声ですよね!?」
「え? そうなの?」
「マジかよ。お前、また出せたのか?」
「ノイズさん、どうだ?」
不思議そうに小首を傾げてノイズさんも考えます。そしてもう一度と思うのですが、やはりもう声は聞こえませんでした。
ただ、無駄ではなかったようです。ノイズさんが声が出せずしょんぼりとした瞬間でした。
「こんにちは、ぼく、ノイズさんっ!」
ネフィリムが教えてもらった言葉を全て繋げて喋ったのです。何とネフィリムは響の言った”繋げて”の意味を拡大解釈したのでした。
これには響達もノイズさんもビックリ。さっきまでの残念ムードはどこへやら、一気に笑顔の花が咲きました。
「やるじゃねーかネフィリム」
「うんうん。これでノイズさんの代わりに自己紹介出来るね」
「声も段々綺麗になってきたし、もっと練習すれば歌も歌えるかもね」
「それはいいね。何ならあたし達の歌でも教えるかい?」
「それよりも校歌の方がいい。さっきのはまるで授業のようだったし」
こうして週に最低一回、ノイズさんとネフィリムのための音楽と言葉の教室がシミュレータールームで開かれる事が決まります。先生役は奏と翼が担当し、生徒役は響達とノイズさんです。
と、そこへ弦十郎と了子が顔を出しました。
「ん? 今日は大人数だな」
「司令?」
「それに了子さんまで……」
突然の訪問者に疑問符を浮かべる響達でしたが、ノイズさんだけはその目的を理解したのか嬉しそうに飛び跳ねました。
「ノイズさん、ご希望の物、手に入ったわよ~」
その了子の言葉にノイズさんはバンザイをしてボードを手に取りカキカキ。
「何々……早速だから見よう、か。旦那、あたしらも一緒に見てもいいかい?」
「それは構わんが、子供向けの映画だぞ?」
「いいんです。ノイズさんと一緒にって言うのがいいんですから。ね?」
響の問いかけに何度も頷くノイズさんを見て、誰もが笑顔を見せました。やがてシミュレータールームが臨時の映画館となり、全員で床に座って映画を見る事に。
それは、ノイズさんが買ってもらった絵本の映画です。おおかみとひつじがお互いが誰かを知らずに仲良くなるというもの。
その内容に響達は気付きます。ノイズさんはそれに自分と人類を重ねたんじゃないかと。お互いへの先入観がない状態で出会えば、話が出来れば、仲良くなるんじゃないか。
そんな気持ちをノイズさんは持ったのかもしれない。そう思いながらみんなは映画を見続けました。終わった時には、誰も言葉がありませんでした。
特に響は掌をじっと見つめていました。もしノイズが言葉を話せたら。そう思うと胸が痛くなったのです。
そんな響の肩をそっと叩く冷たい手がありました。
「……ノイズさん」
ノイズさんの機械の手が優しく響の肩に乗っています。そのもう一方の手にはボードがあり、そこにはこう書かれていました。
響のした事は悪い事じゃないよ。僕が仲間達を守ったように、響も仲間を守ったんだから、と。それは、響の悲しい気持ちを感じ取ったノイズさんからの気遣いでした。
「ノイズさん……ありがとう」
異なる種族が手を取り合うのは難しい。でも、諦めなければ、何かの切っ掛けさえあれば、その手を取り合う事は出来る。そう響は思ってノイズさんの事を優しく抱き締めました。
「あの、ノイズさんの事って、やっぱり秘密なんですか?」
響と抱き合うノイズさんを見つめて、未来は弦十郎へ問いかけます。きっと、ノイズさんならみんな受け入れてくれるんじゃないかと思ったのでしょう。
「まぁ、秘密と言うか機密と言うかだが、噂ぐらいにはなっているだろうな」
「時々街に連れ出したりしてるものねぇ。しかも、弦十郎君だけじゃなくて」
ビクンと響達装者四人が背筋を伸ばしました。ノイズさんの外出は本来禁止されていて、正式に許可を取ってさせたのは弦十郎だけなのです。
そう、響達がこれまでしていた外出は完全無許可。要するにいけない事だった訳で……
「「「「ごめんなさい」」」」
「クスッ、ノイズさんまで頭下げてる……」
未来の言う通り、頭を下げる響達と同じくノイズさんも頭を下げていたのです。その光景を見せられ弦十郎が怒るはずもありません。ただ、今後の事を考えて大人らしい判断を下しました。
「分かってくれたのならいい。ただし、今後は無断での外出は決して許さん。させたい場合は、必ず俺か了子君に言え」
これには了子が苦笑い。
「ちょっとぉ、私を責任者にしないでちょうだい」
「何を言ってるんだ。こいつは了子君の部屋かここにしかいないんだぞ?」
「あっ、ノイズさんが頷いてます、了子さん」
「どうやらこいつも了子さんを責任者にしたいらしいね」
奏の言葉に頷くノイズさん。こうして弦十郎と了子がノイズさんに関する責任者として改めて響達に認識され、この日は終わりました。
この日の日記には、こう書かれていました。
―――今日はみんなと歌ったり、言葉をネフィリムと一緒に覚えたよ。また声が出せたみたいだけど、やっぱり二回目は無理だった。でも、ネフィリムが僕の代わりに喋ってあげるって頑張ってくれたので嬉しかった。また、みんなで映画見たいな。
ノイズさんの中でネフィリムは体の成長ではなく心の成長を始めています。
これは、アプリの方でカルマ・ノイズに影響されてネフィリムが変化及び強化された事を考慮しての事です。