モンスターハンター――ハンター黎明期――   作:らま

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第三章閑話 一人の生徒+エピローグ

 風を切る音が周囲に木霊する。ビュンビュンと何かを告げたいかのようになり続ける。だがそこに規則性などなく、ただ喚き散らす子供の様。

 銀に輝く一振りが、男の手によって宙を舞う。存在しない何かを振り払うかのような動きは、ただいたずらに男の体力を奪っている。

 水でもかぶったかのような男の顔から一筋の汗が流れ落ちた。男はそれをうっとうしく思ったのか、顔を腕で拭う。当然風切り音は止み、一度動きを止めたことで疲労が男に主張を始めた。

 

 

「…………」

 

 びゅうん。また音がする。男は振るのを再開した。何かに取りつかれたかのような動きを繰り返す。得られるものは何もない。ただ疲労だけが溜まり積もる。

 

「ぜえっぜえっぜえ……だああああああ!!!」

 

 男の咆哮が疲労など吹き飛ばしてしまえという意思と共に吐き出された。それでいきり立たせることができる段階などとうに過ぎた。それもただ、疲労を蓄積させるだけの結果に終わる。

 

「――そろそろ休んだ方がいいですよ」

「ウンカイ。――すまないな、うるさくて」

 

 男はいつの間にか近くに立っていた仲間の声に気付く。ウンカイは、いや男――ヤマトもだが、かつて紅呉の里の近くにリオレウスが降り立った時、和也と共に戦った戦士だ。背は高く劉に比べれば大分劣るが平均よりはがっしりとした体をした青年、眼や鼻は細くのっぺらとしていて、和也が失礼などを気にせず評すれば『仏のよう』と言う顔立ちだ。がっしりとした体つきから衣が法衣のように見え、故に僧兵をイメージしやすいのも原因だろう。

 

 地べたに腰をおろし体を休ませる。荒い息を何とか落ち着かせるとヤマトは自嘲気味につぶやいた。

 

「本当に情けない……この程度でこのざまだなんて……」

 

 この程度とは言うが、重い武器を手に持って動き回ったのだ。体力を消耗するのは当然である。しかしそれを当然だから仕方ないなどといえばモンスターと出会った時どうすることもできない。ヤマトの目的はモンスターと戦えるようになることだ。現状では牙獣種ならばともかく、飛竜種相手では敵うことはない。

 白鳳村での狩りからもうそろそろ一年が経つ。その際にも和也と劉は飛竜を狩った。優れた二人に追いつこうと思うなら飛竜を狩ることを想定すべきであり、即ち現状はやはり力不足である。

 

「別にヤマトさんの問題でもないでしょう? 和也さんと劉さんを気にしているのでしょうけどあの二人は別格ですよ。それに、元々ヤマトさんは体が強い方ではないですし」

 

 ウンカイから見ればヤマトは十分にやっている。元々ヤマトは体が強い方ではない。それがこれだけ動いたのだ、かつては考えられないことでもある。そう言って慰めるがヤマトは納得していない様子だ。

 

「いや、私の問題だろう。皆をまとめる役目は和也殿がしてくれる。ならば私は少しでもモンスターと戦えるようになるべきでしょう。けれど……こうも体が動かないとは……」

 

 そう言うヤマトの目には強い決意が宿っている。この場の思い付きの説得ではとても考えを改められそうにない強い意志だ。ウンカイは眉尻を下げるが口を開くことはなかった。

 

 やがて、十分に休憩をできたのかヤマトは立ち上がる。

 

「とにかく少しでも体を鍛えねば。今はモンスターがいないからいいが、もし出て来た時少しでも役に立てるようになっておきたい」

「ふう。それならお付き合いしますよ」

 

 ヤマトのそれにため息をつきながら、訓練に付き合うことを告げる。きょとんとした眼を一瞬見せたヤマトは伺うように首をかしげる。

 

「別にお付き合いしていただかなくても大丈夫ですよ?」

「放っておいたら何時までもやっていそうですし……それに自分もヤマトさんと同じく、もう今日の仕事は終わってますから」

 

 そういってウンカイは朗らかに笑った。ウンカイ自身が言うとおり、既にヤマトもウンカイもこの日の仕事は済んでいる。

 肉を食い、栄養を多く摂取できるようになった現在、かつてに比べれば体力は十分にあり仕事が終わるペースも早い。仕事が終わった後の時間・体力の余裕は十分にあり、こうした余暇と呼べる時間が存在するようになっていた。

 銀の光が宙を舞う。それは光が紅く染まるまで続いていた。終えた後に帰るヤマト。しかしその顔には達成感はなく、ただ疲労だけが浮かんでいた。

 

 里での仕事をヤマトはサボることなく励む。土器を両腕で抱え一生懸命。その重さ故にか、足はふら付き酔ったかのような千鳥足だ。

 

「ぐっ……よっ……」

 

 重いものを持ち上げようとするためにうめき声を漏らす。その際にも足は右へ左へと落ち着きが無い。腕が上がらないために少しでも上に持ち上げようとつま先立ちになることも原因だ。

 

「おいおい大丈夫かよ。大分疲れてるんじゃねえか?」

「大丈夫……ですよ。こんなことで泣き言いう訳にもいきませんし……」

 

 剛二の気遣いにもそう答えるヤマトだが、言葉とは裏腹に顔色は悪く大丈夫などとはとても見えない。虚勢を張っていることは明白だった。

 ヤマトは持ち上げていたものをおろし、別のものを運ぶために家の外へ向かおうとする。その小さな背中がどうにも不安で、再度剛二は声をかけた。

 

「あんまり疲れているようなら休ませてもらえよ」

「そんな時間も……ないです。とにかく今は……――」

 

 ふらっと……ヤマトの体が傾いだ。足から力が抜けたように倒れ込む。倒れきる前に剛二が腕を持って支えたがやはり疲労はもう限界なのだろう。

 

「ったく、ふら付いてるじゃねえか。やっぱり休め。老には俺から言っておく」

「しかし……」

「しかしもねえよ。休まねえとどうせ失敗するだけだ。今は休め。幸い今は和也のおかげで余裕がある」

 

 その言葉に、ピリッとした痛みがヤマトの胸に奔る。

 和也が紅呉の里にやってきて、生活は劇的に変わった。かつての脅威は糧となり、人は生きることを楽しむ余裕さえ生まれた。モンスターを狩り、生活を豊かにする英雄。英雄は脅威を拭い去るだけでなく、日常生活でさえ向上させた。

 対し自分はどうだろうか。人をまとめ、モンスターから逃げる術を身に着け、人を守る立場にあったはずだ。しかし、今の自分はどうか。かつての役割は和也に譲り、その他の役は他大勢に劣る。それどころかこうして普段の仕事にさえ悪影響を与える始末だ。

 醜い嫉妬だとヤマトは思う。それを理解できるからこそ、下唇を強く噛んだ。己の醜い心内をさらけ出さないように。

 

「わかり……ました。それでは……失礼します……」

 

 そう言ってヤマトは己の足で立ち、それでもふら付く体を支えるために扉の淵に手を置いた。いや、置こうとした。

 

「っ、危ねえっ!」

 

 目測誤りヤマトの手は空を切る。そのまま支えようとした体重は中空に委ねられ、土器の置かれた一画の一部へと飛び込んだ。正確にはその手前に倒れ込み、慣性の法則から少し地面を転がった結果土器のあった場所へと倒れ込んだのである。

 

「おい、大丈夫――っ、伏せろ!!」

 

 剛二は倒れたヤマトへと近寄ろうとした。そうしながら声をかけていたはずだが、突如声をあげて地面へと倒れ込んだ。

 倒れる剛二とヤマト。剛二の伏せろと言った真意を問うことなど必要なく、その答えを知ることとなった。

 

 ――ボゥゥゥゥゥン!!

 

 爆発音。そして黒煙があがる。もうもうとあがるそれは爆薬のものだ。大した量ではないが、そう広くない室内の天井を満たす。

 

「つっ……!」

「剛二……さん……」

 

 地面に倒れ込んだまま剛二は短く呻き声を漏らす。その腕には一本細く赤い筋が走っている。

 

「どうしたの!?」

「大丈夫ですか!? ――っ」

 

 外から異常を察したお絹と和也が入ってくる。二人とも驚きと焦躁を顔に浮かべ慌てた様だ。倒れるヤマトと剛二を見てお絹は慌てて駆け寄ろうとするが、剛二がゆっくりとだが立ち上がってそれを制した。

 

「大丈夫だ。ちょっと切っちまったがそれぐらいだ。ヤマトが少しへまをしちまってな。疲れてるみたいで勘弁してやってくれねえか」

 

 それは和也とお絹に向けて言ったものだった。お絹は剛二本人がそういうのならと納得し、大きな怪我をしていないことに安心した様子を見せる。しかし、和也はそれに答えず、額に力を入れて眉を寄せるだけだった。

 

「ああ、その……な。ヤマトも――」

「あ、いえ、すみません。ぼうっとしてました。むしろこちらの責任です。爆薬の危険性を深く考えてなかった……」

 

 なお言い募ろうとする剛二の言葉を和也は途中で遮った。和也が答えなかったのは怒っているからなどではなく、自責の念に駆られてのことだ。

 爆薬という危険物の扱い、それを和也は十分に把握していたはずだ。だというのにおざなりな管理の仕方に異を唱えなかった。それどころか気づくこともなかった。明らかな失態だ。

 故に和也はそれを恥じ改善のために行動した。爆薬の置く場所を見直し、それ以降管理する人間には十分な知識を教えることに模した。本来あるべき姿へと是正されたのだと和也は思う。

 

 しかし。

 

 ヤマトの胸の内にはただ劣等感が募っていた。自身の失敗のせいで――と。

 

 

 ヤマトの失敗による誤爆事件から数日後、ヤマトは自室にてある話を剛二から聞くこととなった。

 

「授業……ですか?」

「ああ。和也が知識を広めたいとさ。お前やレンジにはリオレウスの時の経験があるからって期待してるみたいだぞ?」

 

 ヤマトやレンジは和也と共に紅呉の里の近くにリオレウスが降り立った時戦っている。故に飛竜との戦闘経験がある数少ない一人だ。

 恐怖の権化たる飛竜との戦闘経験があるということはそれだけモンスターに対する警戒も強く、同時に乗り越えた自信も得ている。

 モンスターに警戒され、モンスターなど怖くないという考えが蔓延りつつある現在の紅呉の里に於いて、ヤマトはモンスターとの戦闘を想定して一人訓練をしていたことを考えれば和也の期待も正しいことがわかる。しかし――

 

「私は……私は行っても邪魔になるだけではないでしょうか……」

 

 あの失敗以降、ヤマトは十分すぎるほどの休息を摂る様にしている。同じ失敗は絶対に繰り返さないという意思が現れているといえよう。その甲斐あって消耗していた体力はだいぶ回復し、同じ過ちは繰り返されないはずだ。しかし、あの事件はヤマトから勇気という物を奪ってしまっていた。

 

「まだ前の失敗を引きずってるのか? 和也も気にしてねえってんだ。お前が気にすることじゃねえぞ」

「それはわかっているのですが……どうもそのように思えなくて……」

 

 ヤマトは目を伏せて力なく告げる。平均より小さいヤマトの体が剛二にはより一層小さく感じられた。

 ヤマトのそれはPTSD,トラウマと言ってもいいだろう。同じ失敗を繰り返すことを恐れ、ヤマトは訓練さえ敬遠がちになっていた。元々必要性に迫られて始めたという訳でもない。自分が訓練してても大した成果はなくそれどことか仕事も碌にできなくなるというある種の事実がヤマトを縛りつけていた。

 精神外傷について剛二には詳しい知識などない。それでもヤマトが過去の失敗を恐れていることは分かったし、そのせいで良いパフォーマンスも期待できないことが理解できる。だがその一方で、男なら勇気を出せという気持ちもあった。

 律儀に姿勢を伸ばして座っているヤマトの肩に手を伸ばす。同年代と比べても華奢な肩は、剛二の手が乗ってビクリと震えた。

 

「和也は気にするなと言っていたぜ。失敗そのものは悪いものでもないともな。ただ、失敗してそれを活かせないのはダメだと言っていた。失敗したままにしちまうのは活かせてないってことじゃねえか?」

「それは……わかっています」

 

 本当に少しだけだが力強い答えが返る。頑張ろうという本人の意思を感じられる答えだ。それならばと剛二は尚言葉を紡ぐ。

 

「むしろ、失敗を引きずっているのなら和也の指導のもと、十分に練習すればいいんじゃないか?」

「それは……そうですね……」

 

 返事は肯定、しかし表情は優れず納得していない様子でもあった。ならばまだ説得を続けた方がいいのかもしれない。しかし剛二にはそれ以上の言葉は出てこなかった。

 一応は肯定の言葉を得られたのだ。これ以上は必要ないかとその場を去ることにする。必要なものが必要な場所にきちんとおかれた部屋を後にして剛二はふっと漏らす。

 

「まじめな奴なんだが、どうしたもんかねえ……」

 

 失敗を反省し、それを悔やんでいるからこそこうして停滞してしまっている。十分すぎるほど責任感を持つのがヤマトだ。和也が来て里そのものが変わっているためにもうわからないが、そのままだったら次期まとめ役になっていただろうと思えるぐらいにはヤマトは責任感が強い。それ故に失敗の責任も強く感じている。自身の責というものがわかりやすい状況だったが故に特別に。

 それらの事情を理解しながらも剛二にはどうすることもできない。後は本人の問題だろう。

 

「ま、なるようになるか」

 

 剛二はそうくくった。括ったというより諦めたと言った方がいいのかもしれない。剛二の呟きは誰にも聞こえることはなく、ただ剛二の耳を満たして終えた。

 

(最後は肯定した以上はあいつは和也の授業とやらを受けるだろうし、それ次第だろう)

 

 ならば自分にはどうすることもない。そう断じて剛二は帰路へと付いた。

 

 

 授業が始まって数日が経った。ヤマトは剛二の予想通りきちんと参加し訓練、勉強に励んだ。元々本人のまじめな性格故にだろう、やるつもりになれば集中力は十分にあった。そのため、こと座学という点においてヤマトは十分な成績を見せる。

 しかし集団教育というものは同時にヤマトの平均より低い体力という物を露呈させる結果にもなった。同じことをやらせてもヤマトは他多数より劣るのだ。それは幼子が大人に敵わないことを示すようなごく当然のこと。本人にとっては納得しうるものではないが、誰にとってもどうしようもないことだった。

 

 そのヤマトは今、野外にてアイルーのケイと共に何かを作っているようだ。小さなタルの外観を調べ、時に中に手を突っ込み、何か目的があってのことは間違いない。

 ヤマトは樽をひっくり返した状態で、赤い団子のような球体の塊を樽の中に入れた。重力によって落ちることが当然のはずだが、それが落ちてくることはない。何かで支えられているのだろう。

 

「えっと……それでこれをこの辺でいいですか?」

「いいと思うにゃ。後は確かめる」

 

 ケイはそう言うと周りを伺うように首を振った。近くには誰もなく、彼らを見咎めるものはない。しかしそれでも数度、ケイは確認を繰り返した。余程不安なようだ。

 

 ――じゃあそれを叩きつけて。

 

 そう言ってケイは少しだけ距離を取る。ヤマトは神妙な顔で頷き、小さなタルを両手で頭の上まで抱え上げ、それを一気に地面へと叩きつけた。

 小規模ながら爆発音。地面にたたきつけたからだけではなく内部からのエネルギーによって樽は破裂する。地面との衝突によって生まれた反動のエネルギーに爆発のエネルギーが加わり、樽の破片はあちらこちらへと飛び散るはずだった。しかし――

 

「にゃっ! できた」

 

 それが成功だったと示す声がケイの口から出て来た。小タルの破片は確かに地面から散らばったがそこに爆発のエネルギーが加わったかのような派手な飛び散り方はしなかった。代わりに上空へと向けて跳んだ破片は重力の枷などないかのように高く上がっていた。

 

 小タルの中には鉱石を使った仕切が複数あり、その見た目に反してとても重い。ケイが指示だけしかしなかったのはそうした理由があったからだ。仕切によって爆発のエネルギーは一方向のみに向けられ、それが空へと向いた結果破片は空高く舞い上がった。

 

「うん、いい出来です。このままだと威力が足りないですから何か工夫が必要ですね……」

 

 ヤマトは満足そうに呟いた。言葉の字面だけを見れば満足とは言えないが、ひとまず目的に適った結果が得られたことが嬉しいのだ。実験の第一段階は成功、じゃあ第二段階に移行しよう。これだけである。

 ヤマトの言った『威力が足りない』ということはケイにもわかっていることだ。んー、と口元に手を当てて考えるケイは気軽な口調で案を出す。

 

「先に土爆弾をつけて飛ばすのはどうにゃ?」

「面白いけど……たぶんまだ足りないですね」

「うーん、後は牙とか爪とかの破片をいっぱいつけるとか……あ、カズヤ」

「え、和也さん?」

 

 ヤマトとケイで案を出し合っているところに近づく人がいた。そこまで大きな音を出したわけではないが、爆発音を出したのだから人が近づくことはおかしくはないだろう。

 ケイはいち早く近づいてきた和也に気付いたがヤマトにとっては不意打ちだった。驚いて少々体を震わせる。

 

「えってなんだよ、ヤマト……。それにしても二人とも面白いことやってんな」

 

 ヤマトの反応に口を尖らせるような態度を見せるが和也は面白そうな口調でそれを言う。事実、ヤマトとケイがやっていたことを和也は面白いと思ったのだ。

 

「い、いえ、これは別に遊んでいたわけではなくてですね、遠距離に対する攻撃手段の確立を考えまして――」

「何焦ってんだよ……。別に悪いとは思ってないぜ? むしろお前の言うとおり、遠距離攻撃手段になり得るしいいことだと思うが」

「そ、そうですか……」

 

 ヤマトは和也に咎められていると思ったのか焦って弁解を述べる。汗を浮かべて慌てて言い募る姿はまるで怒られる子供の様だ。

 しかし和也は純粋に面白いと思っていたので咎めるつもりなどない。最初の時点ではっきりとそれを告げたつもりだったがまだ足りなかったようだ。

 ヤマトは元々和也に対し劣等感を抱えている部分がある。そうでなくとも現在の和也とヤマトの関係は教師と生徒だ。勝手な行動に対する後ろめたさもあって、怒られると感じてしまったのだ。先の事件もあってヤマトは和也に対し負い目を感じていたことも原因だろう。

 そうやってほっとする様子のヤマトにケイは『だから堂々としていればいいって言ったのにゃ』と告げる。事実、別に焦る必要などなかったのである。

 

 乾いた笑いを浮かべるヤマトだったが、和也は二人のやっていたことに殊更興味を示した。

 小タルを使った爆弾と言えば小タル爆弾だが、それで遠距離攻撃と言えば打ち上げタル爆弾だ。洞窟の内壁に張り付いているモンスターを落とす時などに使うアイテムだが、誰に言われるでもなく自分たちでこうした発想にたどり着くことに和也は純粋にすごいと思ったのだ。

 ヤマトもケイも武器を使った戦闘訓練ではあまりいい成績を出せなかったので、教師としてはここは褒めるべきでは――など思う。

 

「でも二人ともこういう何か作るってのが好きなのか? 調合とかも張り切っているように見えたが」

「面白いニャ! 混ぜたり作ったりするのは楽しいニャ」

「私は……なんでしょう。必要なものを作らないとって思ってです」

 

 和也の問いにケイは元気よく肯定を示した。猫の顔に満面の笑みを浮かべ、溢れんばかりのやる気を体と言葉で示している。一方でヤマトはあまり気の乗らない返事――のように見える。

 確かに必要なものは誰かが作らねばならずヤマトは責任感からそれを考えただけの可能性もある。けれど、先ほど威力の向上についてケイと考えあっていたヤマトはそうした義務だけでやっていたようには、少なくとも和也にはとてもそうとは思えなかった。

 

「――人には得手不得手があるからな。調合が苦手って奴もいるし。ヤマトやコンがこれら得意ならこっち方面で任せてみようか」

「賛成にゃ!」

 

 先ほどの返事でも示した通り、ケイは和也の提案に即決で快諾した。ヤマトの即答が得られなかったことも想定通りで恐らく拒否感はないはずだと和也は考えていた。そのため和也はヤマトへと向き直り改めて尋ねる。

 

「そりゃあ良かった。ヤマトはどうだ?」

「あの……いいのでしょうか」

 

 内から湧き上がる喜びを抑えるような、仕事中に遊びに行っていいと言われた子供のような、おずおずとした調子でヤマトは尋ねた。和也の確信通り、ヤマトは調合を任せられるということに強い意欲を見せている。

 

「良いも何も、こっちから任せたいんだって」

 

 和也は笑って肯定を示す。この世界に来てからだいぶ鍛えられた――地球ではむしろ感情を隠す無表情が多かった――笑顔は果たしてヤマトを安心させる効果はあったのか。それはヤマトにしかわからないだろう。

 ただ敢えてひとつ述べるのであれば、自身が尊敬し自分より優れていると思う相手に頼られるということは何よりも心地よいものだった。

 

「なら……お願いします」

 

 ヤマトははっきりと受ける意思を見せた。強い意志を秘めた眼をまっすぐに和也に向けて、任せて大丈夫だろうと感じられる強い口調ではっきりと。

 

「よし、決まりだ。良い物作ってくれること期待してるぜ? お絹さんの下で回復薬作るってのもいいが、二人とも今は好きな物作ってもらう方がよさそうだな」

「好きなもの……ですか?」

 

 好きなものを作っていい、と言われヤマトは戸惑う様子を見せる。里の備蓄を使って遊んでいいと言われたと感じたのだ。好きなものを作っていいとは他者の強制を受けずやりたいようにやっていいという意味だが、取り違えてしまったのである。

 

「ああ。要は自分が作りたい、作った方がいいと思ったものを作ってくれってことだ。今は遠距離攻撃やってたんだろ? ならその続きで構わない」

「うーん……後はどうやって威力あげるかが問題ニャ」

 

 説明を受けて理解を示した二人は考える。先ほどまでの思考の続きを示す。二人は腕を組み、首をわずかに動かしながら思考を続けた。やがて、ヤマトははっと顔を上げる。

 

「和也さん、ご相談があるのですが――」

 

 

 

 ヤマトの発想は過去の失敗から思いついたものだった。爆発によって土器を壊し破片によって怪我をさせてしまった事件。あれはそのまま飛竜種に対する攻撃手段になりうると考えたのだ。

 オオナヅチとの戦闘によって使われたそれらは成功を見せる。確かにダメージを与え、結果討伐も撃退も無理だと思われていたオオナヅチを撃退する結果となった。これはヤマトの成果だと言っていいだろう。本人は、『和也殿の爆薬という発想あってこそ』と譲るつもりはないようだが。

 

 手榴弾が爆風でなく破片を飛ばして攻撃するように、ヤマトの発想もそうしたものだ。土器の硬さはさほどでもないが、それでも爆風によって飛ばされた破片は凶器と化す。剛二のと言うとおり、えげつない代物だろう。

 

 和也にとってこれは一つの契機だった。和也や劉抜きでではないが生徒たちは強大な敵と戦い、これを撃退した。この経験は間違いなく今後とも活かされるだろう。和也らがいなくなっても大丈夫かもしれない。ならばこの平和は半永久的に保たれる――かもしれない。

 

 

 

 時は流れて違う時代。人も物も変わった時代。それでもモンスターは決して滅ぶことなく生き続け、人々に恐怖と暴威を振るい続ける。

 けれどもう一つ変わらないものがある。人はもう、モンスターにおびえ続けるだけではない。彼らは己の知恵と勇気を振り絞り戦い続ける。

 

「回復薬に大タル爆弾、砥石、準備完了」

「じゃあ行こっか。目標はティガレックス! 今日中に見つけて狩るよ! 皆困ってるんだからね!」

「へいへい。んじゃお参りも済ませたことだし行きますか」

 

 時代が変わってもハンターは生き続ける。人と生活を守るために。

 彼らは向かう。モンスターと戦うために。彼らの背には多様な武器を交叉させた人の像が立っていた。

 

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