ジャック×親指姫   作:サイエンティスト

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 イチャラブ度、レベル3。さあ、ここからだ。
 ジャック×親指姫の4章。タイトルはこれしかないと思いました。タイトルの元ネタが分かる人は私と同じくイチャラブ好きのスケベ野郎のはず。ちなみに元ネタだと緑髪の僕っ娘が一番好きです。あ、眠り姫のことじゃないです。





4章:ラブラブカップル
同棲メアメアリ


 ついに親指姫が自らの心の壁を乗り越え、素直にジャックへの気持ちを露にした夜。

 あれから数日経過した今、ジャックと親指姫の関係は大幅に前進を果たしていた。とはいえ元々両想いであったので前進したというよりもそれが表面に出てきただけ、という表現が正しいかもしれない。

 しかしそんな簡単な言葉で片付けられないほど恋人として過ごす日々は劇的な変化を遂げていた。例えば朝食の席で顔を合わせる場面でさえ変化がこれでもかというほど分かりやすく現れる。そして今、ジャックはちょうどその場面へ顔を出す所だった。

 

「おはよう、親指姫。今日はずいぶん早いね?」

「やっと起きてきたわね、ジャック。ほら、さっさとここ座りなさい」

 

 声をかけると急かすように隣の席を叩き招いてくる親指姫。そんな可愛らしい様子にいつもの如く微笑みを零してから、ジャックは隣へと腰を下ろした。

 すると食事の手を止めた親指姫が口元を拭い、こちらへ顔を向けてくる。どことなく期待と喜びが見え隠れする微笑みを浮かべた顔を。

 

「確か今日は親指姫の番だったよね。違ったかな?」

「私の番よ、私の。だからほら、早く顔こっち向けろっての」

「うーん、どうしようかなぁ?」

「どうしようかなぁ、じゃないわよ!? 約束したんだから早くこっち向きなさい!」

 

 あえてあらぬ方向に顔を向けお願いを無視してみると、腕やら服やらを掴まれてがくがくと揺さぶられる。

 

(あはははっ。やっぱり親指姫は可愛いなぁ)

 

 これは照れ隠しで乱暴をしているわけではなく、純粋に早くジャックに自分の方を向いて欲しいがための行動。そんな素直な可愛らしさにまたしても微笑みを零してから親指姫の方を向いた。

 

「ごめんごめん。親指姫が可愛い反応してくれるからついついからかってみたくなっちゃって」

「やっぱあんた本当はSね! そんな大人しい顔して本当に鬼畜な奴だわ!」

「もちろん違うけど本当に僕が鬼畜だとしても、君はそんな僕が大好きなんだよね?」

「……っ」

 

 ちょっと自信過剰な質問に親指姫は言葉を詰まらせ眉を寄せる。今までの親指姫ならそんなわけないと怒り出すところだ。

 実際今までは事あるごとに否定され、照れ隠しと分かっていてもちょっと胸が痛くなることを言われた。しかし今の生まれ変わった親指姫は一味違う。

 

「……そうよ、残念なことにね。んっ――」

 

 少し不機嫌そうにしながらも勘違いのしようもなく肯定し、更にキスまでしてくる。

 これが今の、劇的な成長を遂げた親指姫だ。

 ちなみに今日は親指姫の番というのは、朝の挨拶の時どちらからキスをするかの順番のことだ。現在は日替わりで交代していて、明日がジャックの番。このどちらからキスするかを提案したのも生まれ変わった親指姫だ。

 

「……おはよ、ジャック」

「うん。おはよう、親指姫」

 

 キスを終え、間近でにっこりと微笑みあう。ようやく思いのままに触れ合えるようになった喜びと、相手への想いを込めた笑みを浮かべて。

 そして二人で視線を正面に戻すと、そこには様々な表情を浮かべる仲間たちの姿があった。今の一幕を問答無用で見せ付けられ思い思いの表情を浮かべた仲間たちの姿が。

 

「ジャックさんも親指姉様も仲良しになって何よりです! 白雪は嬉しいです!」

「あーあ……本当にもう完璧お熱いカップルになったよ、この二人。親指もすっかりジャックに調教されちゃってさ……」

 

 特に対称的なのが白雪姫と赤ずきん。白雪姫は最早嬉し泣きしそうなくらい瞳を輝かせ感動を露にして、赤ずきんは寝覚め最悪といった感じの表情だ。今までは散々面白がって楽しそうにニヤニヤ笑っていたものの、親指姫が素直になってからというものすっかり大人しくなっていた。

 

「やはりジャックさんによる調教の成果でしたのね……い、一体どんなことをされればここまで人が変わってしまいますの……?」

「たった一晩で親指姫をここまで素直にしてしまうだなんて……さすがはジャックだわ……」

「だ、だからそんなことしてないってば! アレは冗談だって親指姫も後で言ってくれたの覚えてるよね!?」

 

 顔を赤くしていたアリスとシンデレラが勝手に恐れ慄くので必死に否定する。

 親指姫の豹変振りが尋常でないせいか皆に洗脳や調教の疑惑をかけられたジャックだが、結局どれだけ説得や否定を繰り返しても疑惑は一向に晴らせなかった。なので皆の中ではジャックが何やらとても鬼畜な人柄ではないかという認識が徐々に出来上がりつつあるらしい。

 しかしあれだけ天邪鬼だった親指姫が一晩明けて人が変わったとしか思えないほど素直になっていれば、そんな風に思われるのも仕方ないかもしれない。

 

「そ、そうよ! 大体調教するなら私がする方でジャックがされる方でしょ!?」

「いやー、それはどうかな? あたしは親指の方がされる側に思えるよ。ていうかもうしっかりされてるじゃんか」

「私はどちらでも構わないから調教されていく過程を是非拝見してみたかったわ。残念なことに親指姫は一晩明けたら突如豹変していたもの」

「だからされてないって言ってんじゃない! 本っ当に分かんない奴らね!」

 

 珍しく気落ちした様子を見せるグレーテルだが、そもそも調教などしていないので期待に沿うことは出来ない。一体皆は今のジャックを何だと思っているのだろうか。

 たぶんもう何を言っても疑惑を晴らすことは出来そうにないので、仕方なくジャックは否定するのを諦めた。

 

「落ち着こうよ、親指姫。別に僕たち調教したいとかされたいとか思ってるわけじゃないんだからさ」

「………………そうね。別に思ってるわけじゃないし」

(今、何か間があったよね……)

 

 数秒の間を置いて頷いた親指姫に皆の疑惑の視線が集中する。

 調教したいのか、調教されたいのか。どちらかは分からないが少なくとも迷ったことは確からしい。しかし何か触れてはいけない感じの答えが返ってきそうなせいか誰もそれ以上詮索はしなかった。

 

「あ、そうだ親指姫。朝ごはんの後に食後の散歩でも一緒にどうかな?」

「良いわね、それ。でもその前に部屋でイチャつくこと、忘れんじゃないわよ?」

 

 食後の散歩を了承しただけでなく、部屋でイチャイチャすることさえ求めてくる親指姫。まだちょっと頬を染めているものの、これは比喩でも冗談でもなく本気の言葉だ。

 

「もちろん。散歩の時に手を握らせてくれるなら、だけどね」

「何よ、手ぐらいいっつも握ってるじゃない。ていうかあんた、ダメって言っても握るでしょ?」

「あははっ、ごめんね。どうしても君と手を繋ぎたくて……」

「全く……本当に仕方ない奴ね、あんたは……」

 

 ちょっと呆れた顔をする親指姫だが、その口元は微笑ましそうに緩められている。何だかんだでやっぱり親指姫はジャックのことが好きなのだ。そしてもちろんジャックも親指姫のことが好き。お互いにそれはもう間違いも勘違いもできないほど理解している。

 気持ちが通じ合っている嬉しさに、ついついお互いに食事の手を止め見つめ合ってしまうのだった。

 

「おかしいな。あたしたちはからかって面白がってたはずなんだけど……どうしてこんなことになったんだろ……」

「私は別に面白がっていたわけではありませんけれど……この敗北感は一体何ですの……?」

「悔しかったらあんたたちも恋人作ったら? ああ、でもジャックは私のだから他の男にしときなさい!」

「お、親指姫……」

 

 心底切ない顔をする赤ずきんとシンデレラに追い討ちをかけるように、親指姫がジャックの背中を叩きながら笑顔でのたまう。

 当然以前までの親指姫なら口が裂けてもそんなことを言わないはずなので、あまりの驚愕に二人は腰を抜かしかけていたほどだ。ジャックも反応に困って何も言えず、照れ臭さに火照る顔を逸らして隠すしかなかった。

 

「ジャックに調教されたからっていっても、まさか親指にそんなこと言われる日が来るなんて……あたし、もう生きる気力が無いよ……」

「わ、私が一体何をしたと言いますの……?」

「親指姉様がそんなことを言えるようになるだなんて……白雪は感動で胸がいっぱいです……!」

「アリス、あなたの表情が見たことも無いくらいに冷たくなっているのだけれど」

「……何でもないわ」

(僕もアリスのあんな表情初めて見た……怖い……)

 

 親指姫の惚気染みた言葉がよほど気に障ったのだろうか。アリスは最早近づいた者が一瞬で凍りつきそうなほどに冷たい表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食後、親指姫はその足でジャックの部屋を訪れた。

 理由は極めて単純明快。毎朝の恒例となったアレをするため。やっと素直になれた親指姫が自分のしたいこと、して欲しいことを可能な限り洗いざらいぶちまけた結果、こんな日課ができてしまったのだ。もちろんジャックが親指姫の要求を二つ返事どころか嬉々として受け入れたのは言うまでもない。

 そしてその毎朝の恒例。それはまず二人でベッドに腰かけ、親指姫がジャックの膝に身を乗り出す形で身を寄せ――

 

「……んっ……っ……ふぁ……」

 

 ――歯ではなく唇で、ジャックの唇をかぷかぷと食むこと。要するにちょっとだけ進んだキス。

 これはキスの練習も兼ねた、皆の前なのでほんの一瞬で済んだ朝の挨拶の続きである。自分の心に素直になった親指姫としてはあの程度で満足などできない。それに一日の初めのキスという大切なキスである以上、もっとしっかりやらなければいけないことなのだから。もちろん一日の終わりのキスも同様に大切なのでしっかりやるのは言うまでもない。

 

「……うん。もう十分だよ、親指姫。ありがとう」

 

 キスを終えて身体を退くと、ジャックの心底幸せそうな微笑みが瞳に映る。親指姫が素直に好意を表わすようになったおかげか、大体ジャックはいつもこんな感じの顔をしている。馬鹿っぽい笑顔だがそれを見たい親指姫としてはこっちが幸せに笑ってしまいそうだった。

 

「ふぅ……これでちゃんと朝の挨拶の分は済ませたわね。ジャック、明日はあんたの番だからね?」

 

 軽くその腕を叩いて忘れないように釘を刺す。この朝の恒例行事は皆の前で行ったキスの続きなので、キスする側は当然その日の朝にキスする方だ。

つまりは明日の朝ジャックは親指姫におはようのキスをして、朝食後にたっぷり続きをしてくれるという具合である。実に素晴らしい日課だという認識はジャックとの間で共通の認識だ。

 

「うん。それにしても今でもちょっと信じられないなぁ……親指姫がこんなに僕とキスしたがってたなんて……これって本当に夢とかじゃないんだよね?」

「あんたまだ現実か疑ってんの? 私がこんな風になったのそんなに意外?」

「意外に決まってるよ。親指姫だって自分でもそう思ってるんじゃないかな?」

「ぐっ……!」

 

 そう言われると弱い。実際ジャックの告白から今までの日々を振り返ってみると、明らかに無駄で天邪鬼で馬鹿なことしかしてない。最初から素直になっていればこの幸せな日々はもっと早く訪れていたというのに。

 しかし過ぎたことを今更悔やんでも仕方ない。すべきなのは今を楽しむこと。取り返しのつかない事態が容易く起こる世界で、楽しめる内に楽しまないというのは愚かなことだ。

 

「あんたが悪いんだからね! 私がこんな風になるくらい、夢中にさせたあんたが……夢だとか幻だとか逃避してないで、責任とっていっぱい甘えさせなさい!」

「わぁっ!?」

 

 なので親指姫は強く言い放った後、ジャックに飛びついて一緒にベッドに倒れこんだ。

 

「本当はずっとこういうことしたかったんだから! どんだけ我慢してたと思ってんのよ、もうっ!」

「親指姫、本当に人が変わっちゃったなぁ……まあこれはこれで可愛いからどうでも良いや! うん!」

 

 やりたかった抱きつきからの頬擦りを行うと、ジャックも最早細かいことは気にせず嬉しそうに親指姫を抱き返してくる。

 元々心の中では両想いであったものの、最早この五日間で自他共に認める相思相愛のラブラブカップルとなっていた。ただし自はともかく他からの表現はカップルの頭に『バ』という文字がつく。しかしやっと満足のいく触れ合いができるようになったのだからそんなことは些細な問題だ。

 

「……ん? ジャック、それ何よ?」

 

 ジャックに猫のように甘えていた親指姫だが、不意に枕の下から何かが顔を覗かせているのに気付き顔を上げた。

 良く見るとそれは何かの本だった。寝る前に読書でもしていたジャックが枕元に本を落としてしまい、それが枕で隠れていたというだけの話だろう。

 なので反射的に尋ねただけで深い意味は無かった。無かったのだが――

 

「――あ!? こ、これは何でもないよ! それより早く散歩に行こう、親指姫!」

(……無茶苦茶怪しいわ、こいつ!)

 

 ジャックが慌てて身体を起して親指姫を押しのけ、枕で完全に本を隠して誤魔化すように散歩を提言してくれば話は別だ。

 珍しく狼狽した姿を見せるジャックのこの反応。恐らく親指姫に見られると何か不都合が生じる内容の本を読んでいるに違いない。例えば男なら誰でも持っていそうないかがわしい内容の本とか。

 しかしジャックだってやはり男だ。あの時手は出されなかったとはいえ、実際そういうことに興味があると言ったのも覚えている。だからジャックもそんな本を持っていたとしても仕方ない。

 

「……見せてみなさい、ジャック?」

(さもないと一生後悔するくらい酷い目に合わせるわよ?)

 

 なので親指姫はにっこり優しく笑いかけ、早く見せろと控えめに促した。あくまでも表面上は優しく、だ。

 

「……は、はい」

 

 そして親指姫の優しさにほだされたのだろう。ジャックはちょっと顔を青くしながらも大人しく従い、枕の下から取り出した件の本を手渡してくれた。

 

(で、こいつの趣味って一体どんな――)

「――って、何よこれ? ただの恋愛の本じゃない」

 

 それなりに緊張しながら表紙を確かめたものの、予想とは全く異なるまともな本だったことに拍子抜けしてしまう。ページを捲って目次辺りに目を通してみるも、内容は恋愛や恋人との過ごし方についてのアドバイスや注意点などがほとんどの恋愛指南でやはりまともだ。何故ジャックはこんなものを恥ずかしそうに隠そうとしたのか。

 

「必死に隠そうとするからてっきり怪しい本かと思ったわよ。紛らわしいわね」

「ご、ごめん。こんなの読んでるって知られるのがちょっと恥ずかしくて……」

「あんたの恥ずかしさの基準って全然分かんないわ……」

 

 人前でも二人きりでも躊躇い無くキスし、好意を伝えてくるジャックがこんなまともな本一冊で恥ずかしがるとは。そもそもこれは恋人としての関係をより良いものにするため勉強しているようなものなのだから、むしろ誇っても良いはずなのだが。

 

「……でもあんたが恥ずかしがるってんなら理由はどうでも良いわ! 余すとこなく読んであんたのこと辱めてやるんだから! さあ、ジャックは一体どんな内容の本を読んでんのかしらね!」

「親指姫って結構意地悪だよね……」

 

 しかし恥ずかしがるならからかわない手は無い。散歩を取り止めにした親指姫はちょっと珍しく拗ねた様子のジャックの前で読書に耽ることにした。

 

「ジャック、そこ座って私の椅子になりなさい!」

「でもその割には甘えん坊なんだよね。可愛いなぁ……」

 

 しかしそんなジャックの珍しい表情も、その一言であっさり馬鹿っぽい微笑みに変わっていた。拗ねた様子も悪くは無いが、やはり一番見たいのはこの馬鹿っぽい笑顔。

 それを見て心の底から嬉しさを感じつつ、親指姫は満を持してジャックの膝に腰かけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意地悪で甘えん坊な親指姫に椅子を命じられ大人しく椅子に徹しつつ、その身体を後ろから抱きしめ温もりと幸福の役得に浸って十五分。

 

(親指姫、だいぶ集中して読んでるなぁ。僕を辱めるんじゃなかったっけ……)

 

 予想外に本の内容が興味を引いたのか、親指姫はすっかり夢中で読書に耽っていた。自分の興味のある箇所にページを飛ばしたりはしているものの、時折『へー……』とか感心したり『んー……』とか苦々しい声を零したりするほどに。たぶん当初の目的はすでに頭に無い。

 

(散歩も良いけどこれも幸せな時間だなぁ。親指姫、抱き心地が良くて暖かいし、良い匂いもするし)

 

 なのでジャックは親指姫の頭に自分の顎を乗せる形で本を覗き込み、一緒に読書を楽しんでいた。

 もちろん読み方や読む早さが違うので読みにくいのは当然だが、ジャックとしては読書よりも膝に乗せた親指姫の温もりと可愛らしさを楽しんでいるので気にはならなかった。その身体や髪から漂ってくる甘い香りに心が穏やかになるのも一つの要因だ。

 

「……ジャック、ちょっとここ読んでみなさい」

「え? 急にどうしたの?」

 

 別々の楽しみ方をして幸せに浸っていると、不意に話しかけてくる親指姫。

 そして読んでいた本のとあるページを指差し、促してくる。突然そんなことを促す理由も気になったので、ジャックは言われたとおりそのページに目を注ぎ文を読み上げた。

 

「えっと……同棲。極めて関係良好な恋仲の男女が一つ屋根の下で共に暮らすこと……?」

 

 親指姫が指差した場所にはそんなことが書かれていた。どうも自分たちの関係に当てはめているらしく、順調に交際が進んでいること前提の内容の部分ばかり見ていたようだ。

 

「私たちっていうか、私だけだけど……ちょっと前までは問題あったけど、今じゃだいぶ仲は良いわよね?」

「そうだね。極めて関係良好って言っても良いんじゃないかな? 僕の膝の上で読書する親指姫なんて今までじゃ考えられなかったもんね」

 

 以前までの親指姫なら間違っても自分でジャックの膝に座ろうなどとはしない。そしてジャックが強引に座らせたとしても大人しく座っているわけも無い。この点だけ考えても自分たちの関係は極めて良好になった。赤ずきんあたりからはラブラブバカップル認定されるくらい。

 

「そ、そうでしょ? つまり私たちだって同棲するためのの条件は満たしてるってことよね?」

「えっと……親指姫が何を考えてるか大体分かるから先に言うけど、僕たちもう同棲してるよ? ここ一応一つ屋根の下だから、僕たちだけじゃなくて皆となんだけどね……」

「あー……そういや、そうだったか……」

 

 残酷な真実を告げると途端に親指姫は肩を落とし、元気を失くしてしまう。

 実際の所ここは黎明の居住スペースなので、一つ屋根の下には親指姫以外にも多数の人々が集っている。この区画に限っても血式少女全員だ。一つ屋根の下で一緒に暮らすことが同棲だと言うなら間違いなくジャックたち全員が同棲している。

 

「……そんなに同棲してみたかったの?」

「だって仲の良い恋人同士は同棲するって書いてあんのよ? で、私たちは仲の良い恋人同士。だったらもう同棲するしかないじゃない!」

「別に必ずしなきゃいけないってわけじゃないと思うけど……」

 

 本に書いてあるとしてもそれは絶対の決まり事ではない。することもある、くらいの認識で構わないはずだ。大体ジャックだってその本は参考程度のもので、馬鹿正直に書いてあること全てを実行したり従ったりなどもしていない。親指姫だってそのくらいは分かっているだろう。

 

(って、ことは……今よりも僕と近くで暮らしたい、ってことかな?)

 

 つまりはそういうことに違いない。ラブラブバカップル認定を受けている今以上の関係になりたいのならそれしか無いだろう。だから親指姫は同棲などと言い出したに違いない。

 ジャックとしても今以上に近くで暮らせるならむしろ望むところだ。何故ならそれは今よりも間近で長い間、親指姫の可愛い姿を見られるということ。今でも十分幸せなのに更に幸せになれる。仮にも男のジャック的には不安要素が無いわけではないが、他ならぬ愛しい恋人の願いでもある。ジャックは心を決めて答えた。

 

「……うん。そんなにしてみたいなら同棲してみよっか、親指姫?」

「は? いや、あんたさっき自分ですでに同棲してるって言ったばっかじゃない」

「うん。でもそれはあくまでも一つ屋根の下の話だよ。だから僕たちは……一緒の部屋に住むっていうのはどうかな?」

「っ……!」

 

 それを提案した途端、親指姫は勢い良く振り返ってジャックに視線を注いできた。頬を染め、驚愕に丸くなった瞳で。そしてどことなく嬉しそうな雰囲気で。

 

「ジャック……前から思ってたけど、あんたって大人しい顔して本当に大胆よね……」

「急に同棲とか言い出した親指姫には言われたくないんだけど……それで、どうかな?」

「……ナイスアイデアよ、ジャック! ご褒美にキスさせてやるわ!」

「本当? それじゃあ、遠慮なく――」

「――っ」

 

 上機嫌で許可を出してくれたので遠慮なく親指姫の唇を奪う。ただし今回は軽く触れ合わせるだけ。そんなに毎回進んだキスを行う必要は無いのだ。これからはいつだってお互いに好きな時に好きなだけキスし合えるのだから。

 

「……でも親指姫、僕と一緒の部屋で暮らすことなんて本当にできるの? 女の子なんだから僕に見せたくないこともあるんじゃないかな?」

「あー、あるにはあるわね。特に着替えとか……まあそういう時は洗面所でも使うわ。あんたを閉じ込めるのにね」

「あ、僕がそっちに行かされるんだね。まあ良いけどさ」

 

 腕の中から良い笑顔でこちらを見上げつつ、そんな解決策を出してくる親指姫。閉じ込めるという表現はどうかと思ったが、親指姫と一緒の部屋で生活できるという夢のような日々が実現するのならそれくらいは構わなかった。

 

「で、一緒の部屋に移るのは良いとしてどっちが部屋移る? 私は別にどっちでも良いけど、あんたは?」

「うーん……僕の部屋、あんまり手を加えてないから殺風景だしね。僕が親指姫の部屋に移るのが良いんじゃないかな?」

「そうね。けど、正直私の部屋の様子だとあんまりあんたに似合わないわよね。あんたが自分の部屋あんな風にしてたら私でも引くし……」

「ま、まあ、それはそうだよね……」

 

 端的に言えば少女趣味で可愛らしい部屋で、男であるジャックが寝起きする。とりあえずとても居心地が悪いということだけははっきりと分かった。可愛いのは恋人だけで十分だ。

 

「……あ、それならこういうのはどうかな?」

「ん? 何か良い考えでもあんの?」

 

 あまりの悩みようにジャックという名の椅子から若干ずり落ちていた親指姫が、期待を込めて下から見上げてくる。

 たぶん先ほどよりもナイスなアイデアだ。上下逆さまになった感じで親指姫を見下ろしながら、ジャックはその考えを口にした。

 

「親指姫が僕の部屋に移るんだよ。ただしその前に僕の部屋を二人で模様替えしてからね。どうせ僕の部屋は手を加えてないんだから、これから僕たち二人の好みに模様替えして一緒に暮らすための部屋を作っていくっていうのはどうかな?」

 

 どうせジャックの部屋が飾りも無く殺風景なままなら、逆にそれを利用するのだ。手を加えていないならこれから幾らでも加える余地がある。それこそ二人で話し合い、お互いの好みに合わせた同棲のための部屋を作り出すこともできる。

 

「っ……!」

 

 伝え終えると親指姫は衝撃を受けた感じの表情で固まっていた。ジャックから見ると顔が上下逆さまになっているのでちょっと分かりにくいが、頬に朱色が指しているので受けた衝撃は好ましい方向のものだろう。

 

「どうかな? ちょっと大変かもしれないけど楽しそうだよね?」

「良いじゃない、それ! 名案よ! 二人で私たちの愛の巣を作りましょ!」

「っ……!?」

 

 その証拠に親指姫は身体を起しこちらに興奮した様子の笑みを見せると、勢いのせいかとんでもないことを口にした。そしてそのまま固まった。

 

(……これ、突っ込んだ方が良いのかな? それとも何事も無かったみたいに流した方が……?)

 

 ジャックでさえちょっと顔が熱くなるような発言だったのだから、親指姫が固まってしまうのも仕方ない。そしてここでジャックが間違った反応を返せばたぶん怒られる。

 

「……うん。そうだね」

 

 なので悩んだ末、最終的に流す方を選択した。突っ込んだ方が怒られる可能性が高そうなので安全策のつもりだった。

 

「そこは何でも良いから反応しなさいよ! 何か無視されると余計に恥ずかしいじゃない!」

「あいたっ! ご、ごめん! じゃあ、えっと……愛の巣を作るって言っても親指姫は巣を作る親鳥よりも生まれた雛鳥っぽいよね!」

「あんた私がまだ子供だって言いたい訳!? 馬鹿にすんのもいい加減にしろっての!」

「やっぱりどっちにしろ怒られるんだね!? でもこの感じ懐かしいなぁ! いたっ!」

 

 しかしそこは親指姫。素直になっても恥ずかしがり屋で照れ屋なのは基本的には変わらないようで、相変わらず理不尽な怒りをぶつけてくる。

 ただそんなやりとりが懐かしく、身体をどつかれながらもジャックはついつい笑ってしまった。そのせいで余計に怒られたのは言うまでもない。

 

 

 





 自分で書いておいて何ですが、これはイラッと来る……。
 同棲に向けて動き出す二人。次回はその続き。

 原作では血式少女たちの部屋はちゃんとコーディネートされていたのにジャックの部屋だけそのままなのが何となく寂しかったです。2ではジャックの部屋ももうちょっと……と思いましたが2ではジャックは……はぁっ……。

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