ジャック×親指姫   作:サイエンティスト

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 タイトル通りのお話。
 余談ですが同じイチャラブ話だった処女作では二章でデートしていました。くっついたのは同じ一章なのに。あっちが早かったのかこっちが遅いのか……。
 でもツンデレがいきなりデレデレになるのは何か違うような気もしたので結局こうなりました。まあその分イチャつかせれば問題はない……のかな?






買い物デート

 同棲のための部屋の模様替えを行うことが決まると、親指姫の行動は驚くほど迅速だった。というか考えるよりも行動の方が早かった。何せ話が決まったらすぐにジャックを連れて模様替えのために必要なものを揃えに物資販売所へと向かったのだから。

 

「やっぱ壁は花柄とか可愛いのが良いわよね! 色もピンクとかそういうので!」

「あははっ。やっぱり親指姫も女の子だね。部屋は可愛い感じに仕上げたいんだ?」

「そ、そうよ。文句ある? それとも私には可愛いのは似合わないって言いたいの?」

 

 相変わらずわけの分からないもので溢れかえっている販売所内を二人で物色しつつ、模様替えの相談に花を咲かせる。

 言い方が悪かったせいか親指姫はちょっと機嫌を損ねた感じで睨んできた。しかしもちろんそんなことこれっぽっちも思っていない。

 

「似合わないっていうわけじゃないけど、あんまり意味が無さそうだなって。だって親指姫自身がとっても可愛いんだから部屋の可愛さなんて全然目立たなくなりそうだよ」

「そんな見え透いたお世辞言ったって何も出ないわよ。こ、これくらいしか出てこないんだからね?」

 

 ちょっと頬を赤くして照れながらも、ジャックの頬にキスしてくれる親指姫。気心の知れた仲間たちの前でならともかく、こんな不特定多数の人間がいる場所ではさすがに唇にキスする勇気は無いのだろう。

 しかし積みあがった謎の品物類の影に隠れてとはいえ、こんな場所でキスしてくるようになるとは思ってもいなかった。まあ一応一人だけこちらを見ている少女がいるのだが。

 

「あはっ。これで十分だよ、親指姫。でもピンクの花柄かぁ……ちょっと僕には似合いそうにないなぁ……」

「あー、そうね。男のあんたにはちょっとキツイか……あ、だったらこういうのはどう? 壁はあんたに任せるから、私は床の方を好きに選ばせてもらうわ」

「うん、それは名案だね。じゃあ僕は……水色の花柄とかにしようかな?」

「って結局花柄なんじゃない!?」

 

 半分冗談で水色の花柄を推すと、親指姫は度肝を抜かれた感じでツッコミを入れてくる。実はそういう反応を期待しての言葉だ。

 

「あー……でもあんたなら花柄くらいは似合いそうな感じね」

「ど、どういう意味かな、それ……?」

 

 しかし思いの他受け入れられたため不審に思ってしまう。仮にも男のジャックに花柄が似合うとはどういうことか。自分でも分かってはいるがそんなに男らしく見えないのだろうか。

 

「ま、まあ僕に似合うかどうかも大事だけど、やっぱり親指姫も気に入ってくれそうな感じの部屋にしたいよ。これからは一緒にあそこで暮らすんだからさ……」

「ジャック……」

 

 自分の好みにするのも良いが、相手の好みも取り入れてお互いの気に入る部屋にしたい。それがジャックの望みだ。

 親指姫も同じ気持ちらしく、感銘を受けたように微笑みを浮かべてジャックと見つめ合うのだった。

 

「……ジャックさん、冷やかしは勘弁して欲しいっす」

「えっ、別に冷やかしなんてしてないよ?」

 

 しかしそこで今までずっと黙って見ていた少女に水を差される。もちろん少女というのは販売所で店番をしているくららだ。いつもの少年っぽい笑みも何だか軽蔑に近い感じの睨み顔になっていた。

 とはいえ冷やかしも何もしていないジャックたちにとっては全くの誤解でしかない。

 

「そうよ。買うもん相談してるだけでちゃんと買い物はするわよ?」

「二人とも自覚ないんすか……店の中でイチャつかれるのははっきり言って冷やかし以外の何物でもないっすよ?」

「別に私たちイチャついてるわけじゃないわよね、ジャック?」

「うん。そのはずだけど……」

 

 今の親指姫との共通認識ではさっきのは仲良く買い物しているだけに過ぎない。

 そもそもキスだって唇ではなく頬へのものだったし、ちゃんと人の目を考えた上でのものだ。

 

「こ、これでイチャついてないなら普段どんな風にイチャついてるんすか、お二人は……!」

「そ、それは……ねえ?」

「う、うん……」

 

 丸くした瞳と真っ赤な顔で尋ねてくるくららの尤もな疑問に、お互い視線を向け合いながら濁して答えない。親指姫はもちろん、ジャックでさえもさすがにそこまでは口に出来なかった。口にするにはちょっと恥ずかし過ぎる。

 

(まさか抱き合って頬擦りしてるとか、これでもかってくらいキスしあってるなんて言えないよね……)

「と、とにかく店の中でイチャつくのは禁止っす! それでも続けるならいくらジャックさんたちでも叩き出すっすよ!」

「ご、ごめん。何だか良く分からないけど気をつけるよ」

 

 機嫌悪そうに言い放ちながらスパナの素振りを行うくららに謝罪し、改めて商品の物色を行うジャック。

 何となく謝ってしまうジャックはともかく、親指姫はいわれの無い罪に隣でご機嫌斜めな表情をしていた。

 

「全く、一体私たちの何が問題だってのよ。二人で仲良く話しながら買い物してるだけじゃない」

「うーん……張本人だから分からないだけなのかな。じゃあ親指姫、僕が他の女の子とさっきみたいな感じで買い物してたらどう思う?」

「ん? あんたが他の女の子と、さっきみたいに……」

 

 その言葉で顎に手を当て、視線を上に向けて考え込む様子を見せる親指姫。

 別に深い意味も無く尋ねてみただけなのだが、思案に耽っていた感じの表情は一瞬でこちらへの睨み顔になった。一体親指姫の頭の中ではどんな光景と想いが広がったのか。

 

「お、親指姫、何だか顔が怖いよ? それに僕の足ぐりぐり踏んでるし……」

「……そうね。良い機会だから言っておくわ、ジャック」

「えっと……何を?」

「べ、別にあんたが他の女の子と仲良く買い物するとかは構わないわ。手を握ったりとかも……まあ、それくらいなら許してやるわよ! で、でも、私以外の女にキスなんてしたらぶっ殺すからね!」

 

 そして乱暴な口調と真っ赤な顔で言い放ってくる。さっきまでの反応とその言い方で、さすがのジャックも親指姫が自分の想像で何を感じたのか理解できた。

 

(あははっ。親指姫、想像なのにこんなに怒るくらいヤキモチ焼いてくれたんだ……)

 

 親指姫は他の女の子と仲良く買い物するジャックの姿を思い浮かべ、こんなに怒りを抱いてしまうほどのヤキモチを焼いてしまったのだろう。つまりはそれだけジャックのことが好きで誰にも渡したくないと思っているのだ。

 自分を想ってくれている嬉しさと愛しさに、ついついジャックも我慢できなくなってしまった。

 

「大丈夫だよ、親指姫。他の女の子と仲良く買い物したって、僕がこんなことするのは君だけだから」

「っ――」

 

 少し屈んで親指姫と視線の高さを合わせ、その唇を奪う。あえて周囲の確認はせずに。

 当然のように微笑ましさに溢れる小さな笑いや、煽るような口笛が聞こえてきたがそれらはこの際無視だ。むしろそれらに耐えながらでもキスできる、ということを伝えるのが目的なのだから。

 

「……ふん、どうだか? そんな頻繁にキスするような軽い男なんて信用できるわけないっつーの」

「ええっ!? そ、そんな……」

 

 しかしどうも逆効果だったらしい。キスを終えると親指姫はむしろ軽蔑した感じでそっぽを向いてしまった。

 

(ど、どうしよう。まさか逆効果だったなんて……別に軽い気持ちでキスしたわけじゃないのに……どうしたら信用してくれるのかな……?)

 

 これにはジャックも心底焦りを抱いてしまった。まさかこんな結果になるとは夢にも思っていなかった。

 

「……ぷっ! 冗談よ、冗談。そんな情けない顔すんじゃないわよ?」

「あ!? ひ、酷いよ、親指姫! 僕結構本気で悩んだのに!」

 

 不安に頭を悩ませていると、打って変わってさも愉快そうな笑みを向けてきた親指姫。

 どうやら冗談というか単純にジャックをからかっていただけらしい。今までジャックの言葉と行動に散々辱められた過去があるせいか、親指姫はたまにこんな意地悪をしてくるのだ。

 

(……よし。ここは僕も反撃だ!)

 

 それは別に構わないのだがさすがに今回のはちょっと許せない。なので同じようにからかうことにした。親指姫の性格や考えも大体は把握しているので何を言えば動揺するかくらいジャックには手に取るように分かる。普段は悪用しないだけだ。

 

「大丈夫よ、あんたのことは信頼してるわ。だってあんたにそんな浮気とかできるような甲斐性あるわけないもんね!」

「酷い理由だよ、親指姫……こうなったら意地でも浮気にチャレンジしてみようかな?」

「は、はあっ!? 何言ってんのよあんたは!? だ、大体浮気って言ってもあんた私以外に自分のこと好きな奴なんて知らないでしょ!?」

 

 軽い冗談だというのに顔を真っ赤にして必死な表情で迫ってくる親指姫。

 何だかんだでさっきのヤキモチはわざとでも冗談でも無いはずなのだから、こう言えば動揺するのは分かっていた。そんな親指姫ににっこり笑いかけ、更に言葉を続ける。

 

「そうだね、いるかどうかも分からないよ。だからお兄さんって立場を利用して、白雪姫と眠り姫に無理やり迫っちゃおうかな?」

「だ、ダメよ! あの子たちは絶対ダメだからね! ていうかあの子たちじゃなくても絶対ダメだからね!?」

「どうしようかなー? 僕と違って軽い気持ちでキスするような女の子じゃない君なら、どうすれば良いか分かってるよね?」

「っ……!」

 

 やはりにっこりと笑いかけて優しく尋ねる。要するに浮気して欲しくないならここでキスしてみろ、と。

 当然の如く親指姫は顔を赤くして今にも怒り出しそうな表情をするが、そこは素直に生まれ変わり成長を遂げた親指姫だ。

 

「あーもうっ! 本っ当にあんたは顔に似合わずドSね!」

 

 怒り出しそうな表情のままジャックの胸倉を掴むと、大胆にもそのまま引き寄せてキスしてきた。もちろん周囲からはいくらかの笑いや拍手、口笛が上がる。そんなに客が多くないのは親指姫にとって幸運だったに違いない。とにもかくにもこれで仕返し終了だ。

 

「別にそういうのじゃないよ。さっきのは親指姫に意地悪された仕返しだからね。意地悪されたらちゃんとお返ししないと」

「あんたそんな奴だっけ? 何か私に似てきた気がするわね」

「あははっ。ずっと一緒にいるから影響受けちゃったのかもしれないね?」

 

 怪訝な瞳でじっと顔を覗きこんでくるので笑って答える。誰よりも近くで過ごして二人きりでいることも多いのだから、少しは影響を受けて当然だろう。たぶんグレーテルはこういう変化を観察したがっているに違いない。

 

「とにかく僕は本当に浮気なんてしないから安心してよ。君の言う通り僕にそんな甲斐性は無いし、僕の頭の中はいつも君のことでいっぱいだから」

「相変わらず恥ずかしげも無く言うわね、あんたは……けど私はあんたのそういうところも含めて大好きなのよね、全く……」

「うん。僕も大好きだよ、親指姫……」

 

 呆れながらも微笑んでくる親指姫にこちらも笑いかけ、二人でそのまま見詰め合う。

 心地良い胸の高鳴りに暖かな気持ち。それらに導かれるように自然とジャックたちは再び顔を寄せ合い――

 

「もう勘弁して欲しいっす! なんなんすか!? 片思いの自分をあざ笑うのはそんなに楽しいっすか!?」

 

 ――すぐ傍で上がった怒り心頭の声に、あと一歩という所で水を差されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははっ……追い出されちゃったね?」

「まさかあの程度で本当に追い出されるなんてね……まあ、確かにちょっとやりすぎたかもしれないわ……」

 

 その後、結局ジャックと親指姫は販売所から追い出されてしまった。まあ正確に言えば反省して半ば自主的に退店した、という表現の方が正しい。

 くららの心の叫びが本当のものだとしたなら、ジャックたちは片思いに身を焦がす女の子の前でいかに自分たちの仲が良いかを見せ付けていたのだから。やられる側からすればかなり惨い仕打ちだったに違いない。

 

(くららなら相手が誰かは少し考えれば分かりそうだけど……詮索は良くないよね。うん)

 

 その辺はプライバシーの問題だ。親指姫もそこは理解しているらしく、くららに追い出されたことに不満を零しつつも発言についての詮索はしなかった。

 

「……仕方ないからその辺の露店でも見て回りましょ。何か掘り出し物があるかもしんないし、少し経てばほとぼりも冷めるでしょ」

「そうだね。じゃあ行こうか、親指姫?」

 

 頷き、ジャックは右手を差し伸べる。

 呆気に取られたような顔をする親指姫だが、それは一瞬のこと。仕方の無い奴だとでも言いた気な微笑みを浮かべ、しっかりと左手を重ねてくれた。もちろんその後は指を絡め、ぎゅっと手を繋ぎあう。

 

「こうやって自然に握り返せるようになるなんて、私もずいぶんちょ――せ、成長、したわね」

「言い直したけど今調教って言おうとしたよね。僕はそんなことしてないよ?」

「わ、分かってるわよ! それくらい成長したってことだっての!」

「あははっ。赤くなってる親指姫はいつ見ても可愛いなぁ」

 

 恥ずかしがる姿も、照れる姿も可愛らしくて堪らない。もちろん笑顔も可愛らしくて堪らない。というかジャックとしてはもうどんな表情でも可愛く思えるようになっていた。悲しみ、寂しさ、苦痛。それらを感じさせない表情なら何でもだ。

 何でもというのはもちろん、今親指姫が浮かべた自信満々に見下すような悪い笑顔も含めて。

 

「ふふん。なら残念だったわね、ジャック? 私も成長したし前ほど赤くなって動揺したりしなくなったでしょ?」

「そうだね。親指姫は見違えるくらい成長したよ。でも僕は別に残念だなんて思ってないよ? その分君の色んな笑顔が見られるようになってむしろ嬉しいくらいだからね」

「どう転んだって結局あんたの得になるのね。何か腹立つわ……」

「そんなこと言って睨んでもそんな顔も可愛いから逆効果だよ?」

 

 隣を歩きながら不満げに半目で睨みつけてくる親指姫。そんな顔をされても事実なのだからしょうがないしやはり逆効果でしかなかった。

 

「でも……これだけ親指姫が成長したら少し不安だな。僕は君と付き合い始めてから何一つ成長してないから、このままじゃ君に愛想尽かされちゃうかも……」

「いやあんたは成長の必要なんてないでしょ!? ずっと前から私に恥ずかしげも無く好き好き言ってキスしてた癖にこれ以上成長とか一体どこを目指す気よ!? 言っとくけどあんたが今以上に成長したら見境無く女の子に好き好き言うただのナンパ野郎に成り下がるからね!?」

「ええっ!? な、何で成長したら大幅に退化するの!?」

 

 冗談かと思いきや親指姫はわざわざ足を止め、赤い顔でジャックを見上げながら慌てたようにまくしたてる。その表情は最早必死さすら感じるほどで、前ほど赤くなって動揺しないと言っていたわりにはそれなりに動揺を示していた。

 ただしすぐに自らの慌てぶりに気付いたらしく、一つ咳払いをするとすぐに落ち着きを取り戻していた。まあ頬の朱色は簡単には抜けていなかったが。

 

「と、とにかくあんたには成長の必要なんてないわよ。それに何があったって愛想尽かしたりもしないから安心しなさい」

「えっ、本当に? どうして?」

「……あんた、あれだけ生意気で素直じゃなかった私に愛想つかしたりしなかったじゃない。文句一つ言わず我慢して、いつも気持ちを伝えてくれてたでしょ? だから私も、絶対愛想尽かしたりなんてしないわ」

「親指姫……」

 

 幸せそうな、それでいて愛しさに溢れた微笑み。素直になってからというもの、親指姫は時折こんな慈愛に満ちた微笑みを向けてくれることがある。

 その笑顔があまりにも魅力的なため、ジャックは目にする度に顔が熱くなるほど強い胸の高鳴りを覚えてしまうのだった。見た目の幼さに不釣合いなくらい大人っぽい微笑みだから。

 しかし幸運か不運か、その微笑みはすぐに悪戯っぽい可愛らしい笑みに変わるのだった。

 

「ま、浮気とかしたら話は別だけどね。そこだけは覚えときなさいよ?」

「そっか……うん。ありがとう、親指姫」

「それはこっちの台詞よ。今まで愛想尽かさないでくれてありがと、ジャック……」

 

 お互いに微笑みあい、再び手を繋ぎ指を絡めて歩き出す。ただ親指姫はそれだけでは我慢できなかったのか、肩が触れ合うほど近くに身体を寄せてきた。

 当然街中でこんな風に手を繋いで肩を寄せ合い、仲良く歩いている男女が注目の的にならないはずがない。親指姫もそれは分かっているはず。分かっていても今はジャックとくっつきたくて堪らないのだろう。

 それができるようになったこと、それをしたいと思うほどに想いを寄せてくれていること。どちらもジャックは自分のことのように嬉しくて、同じくこちらからも肩を寄せて歩いた。

 

「あ、ジャック! これ見て、これ!」

 

 そんな風にラブラブ状態で街を歩き、見かけた露店を冷やかしつつ冷やかされること数十分。そろそろほとぼりも冷めただろうと販売所に戻ろうとしていると、道中に見かけた露店で親指姫がそんな声を上げた。

 販売所と同じく色々おかしなものが並んでいるものの、親指姫が手に取ったのはただの髪飾り。赤色に近いピンク色をしたリボンだった。ちょっとデザインが特殊な感じで、まるで鳥の翼を模しているように見える。

 

「やっぱりピンク色なんだ。親指姫も可愛いものが大好きな女の子だもんね?」

「そうよ、ちゃんと覚えてたみたいね。偉いわよ、ジャック!」

「あははっ、ありがとう」

 

 販売所での失態を繰り返さないためにしっかり言葉を選ぶと、上機嫌でジャックの頭を撫でてくれた。身長差のせいでちょっと撫でにくそうだったので、少しだけ屈んだのは秘密だ。

 

「これデザインが気に入ったわ。つーわけでジャック、これ私にプレゼントしなさい!」

「うーん……プレゼントするのは全然構わないけど、親指姫にこれは似合わない気がするなぁ……」

「……ジャック、やっぱあんた学習して無いわね?」

「ご、ごめん……またやっちゃったね……」

 

 また同じ失敗をやらかしたせいで、器用にも上機嫌な笑みのまま怒りの雰囲気を漂わせてくる。口元も目も笑っているのに妙に怖い。まあ悪気は無いと分かっていたらしく、謝ったらすぐにちょっと不機嫌な程度に表情を緩めてくれた。

 

「全く……それで今回はどういう理由? さすがに可愛すぎるから似合わないってんじゃもう通じないわよ?」

「違うよ、ただリボンの色が親指姫の髪の色に合わないなぁって思って。どっちかっていうとそのリボン赤色に近いからね」

「言われても平気なように備えたら急にまともなこと言い出したわ、こいつ……」

 

 真面目に答えたのにどこか不服そうな表情を向けられてしまう。この反応からすると本当は言って欲しかったのかもしれない。

 それはともかく、本当にリボンの色はあまり親指姫向きとは言えなかった。髪と同じ赤色でもリボンの方が色が若干薄いためだ。いっそ薄いのを通り越して白なら似合っただろうが、これでは正直目立たなくてリボンがあるかどうかも気付けないかもしれない。

 

「でも色合いか。なるほどね、確かに私の髪には合わない感じだわ……」

「あ、でもリボン自体は似合ってるよ? 親指姫はリボンで髪を括ってるイメージがあるから、きっと色さえあえばどんなリボンでも可愛く身に着けちゃうだろうね」

「……油断させて打ち込んでくるとか本当にSね、あんたは。人畜無害な顔してる癖に」

(何で褒めただけなのにいつもSなんて言われるんだろう……)

 

 ただ褒めただけなのにむっとした感じで睨みつけてくる親指姫。しかしやはり褒められたこと自体は嬉しいようで、微かにだが頬にはしっかりと赤みが射していた。

 

「でも色が合わないんじゃダメだわ。あー、せっかく気に入った可愛いリボンだってのに……」

「そんなに気に入ったなら観賞用にするっていうのはどうかな? 部屋のどこかに飾ったり巻きつけたりしてさ」

 

 何だか妙に物欲しそうな顔をしているのでそんな提案をしてみる。色が関係ないならどうやら鳥の翼を模したデザインが気にいったのだろう。そういえば親指姫の部屋のカーテンも鳥の翼のようなデザインになっていた気もする。もしかすると鳥が好きなのかもしれない。

 

「まあそれも良いけどリボンなんだしどうせなら髪飾りに使いたいのよねぇ……ん?」

「……どうしたの、親指姫? 何か僕のことじっと見てるけど」

 

 しばらく残念そうにリボンを眺めていた親指姫は不意にこちらへ視線を向けてきた。そして何か思案するようにじっと見つめてきてそのまま動かない。

 

「……ジャック、あんた私のこと大好きよね?」

「え? う、うん。大好きだよ……?」

 

 その状態で不意に自分への気持ちを尋ねられる。

 もちろんジャックは素直に答えた。親指姫のことは自分を見失ってしまうくらい大好きだ。そして簡単には不埒な真似をしたくないほど大切に想っている。それくらいは親指姫も分かっているはずだ。

 もちろん分かっていても聞きたくなる、というのは知っている。ジャックだって親指姫に好かれているのは知っているが、何度だってその気持ちを聞かせて欲しいと思っている。だからそれは十分理解できる。しかしこんな脈絡も無く唐突な場面で尋ねてくる理由は理解できなかった。

 

「そーよね! じゃあ私のためなら何でもできるわよね?」

(あ、何か凄く嫌な予感がする……)

 

 だが悪戯を思いついたようなあくどい笑顔で尋ねられ、自然と理由を察してしまった。背筋に寒気が走り、冷や汗が流れてしまうくらいの悪寒と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 露店でジャックにリボンを買ってもらい、プレゼントしてもらった親指姫。

 とりあえずその場で髪を結んでみた結果、とても期待通りの可愛らしい様子となった。髪を結んだ箇所にまるで小さな翼を広げた小鳥が止まっているような、そんな可愛らしい様子だ。何故か小鳥が好きというか気になる親指姫としてはやはり満足行くデザインだった。本当にとっても可愛らしい。

 

「……ぷっ! く、くくっ……はははははっ! あははははははっ!」

 

 なのでその可愛らしさに耐え切れずお腹を抱えて笑ってしまう。

 可愛らしさに抱腹絶倒というのは不思議な表現だがこの場では何もおかしくない。なにせその可愛らしいリボンで髪を結び、可愛らしい姿を見せているのは親指姫ではないのだから。

 

「……楽しそうだね、親指姫。君がそんなに笑ってると僕もとっても嬉しいよ」

 

 珍しく皮肉混じりの口調で引きつった笑いを向けてくるジャック。そんなジャックの後頭部では、二羽の小鳥が赤い翼を広げてこれでもかと言うほどに存在を主張していた。

 そう、このリボンで髪を結んでいるのはジャックの方だ。親指姫のことが大好きで、親指姫のためなら何でもできると豪語したのだからその通りにさせてもらった。髪は短いがどちらかといえば女顔だし銀髪なので似合うかもしれないというふとした思いつきなのだが、まさかここまでしっくり来るとは思ってもいなかった。

 

「あ、あんた無茶苦茶似合うわ、それ! すっごい可愛いわよ、ジャック……くふっ……!」

 

 直視すると笑い転げてしまいそうなので必死に目を逸らす。しかしそれでも気になってつい視線を向けて噴出してしまう。

 

「本当? 親指姫に可愛いって言ってもらえるなら嬉しいな……なんて言うわけないよ! もの凄く恥ずかしいよ、これ! 街の人皆見てるし!」

 

 珍しく顔を真っ赤にして詰め寄ってくるジャック。無論恋人の親指姫でさえ衆目もはばからずに笑っているのだから道行く人々の反応など言わずもがなだ。まあ予想外に似合っているせいで好印象という感じなのだが、ジャックとしては逆にそれが嫌らしい。

 

「大丈夫よ、ジャック! そのリボンあんたにぴったりで可愛いわ! 何もおかしくないわよ!」

「おかしくないならせめて僕の方をしっかり見て言おうよ!? 目を逸らしてないでさ!」

 

 せっかく右の親指を立ててばっちりだと認定したやったのにお気に召さないらしい。ジャックはもう顔から火が出そうなくらい顔を赤くしていた。その屈辱に歪んだ表情を見たいが見ると噴出しそうなのでやはり直視はできなかった。

 

「はぁ……やっぱりこれはいくら僕でも恥ずかしくて耐えられないよ。もう外して良いよね、親指姫?」

「えー? どうせならそのままでいなさいよ。言っとくけど似合ってて可愛いのは本当よ?」

 

 ジャックの髪は全部巻き込んで結ぶには長さが足りなかったので、指一本くらいの太さの束をリボンで結ぶ形にしてみた。するとリボンからちょろっと短い髪束が生えている感じになり、色は違うがデザインも相まって小鳥の尻尾のようになり妙な可愛らしさを演出していた。

 要するに今現在ジャックの頭は小さな赤い翼を広げた銀色の尾羽を持つ小鳥が二羽、後頭部に降りて羽を休めているという状況だ。これは可愛い。

 

「それが余計に嫌なんだってば。むしろ似合わないなら僕も冗談で笑えるのに……」

「ふーん……外すんだ? 私のためなら何でもできるって言った癖に?」

「う……」

 

 外そうとリボンに手を伸ばした所で先ほどの言葉を投げかけると、ジャックは小さく呻いて手を止めた。勝手に外したりしないようにわざわざ予め尋ねておいたのだから、引き合いに出さないわけが無い。

 

「まさかアレが嘘なんてことはないわよね? あんたは私のこと大好きだし、とっても優しい奴なんだから約束くらい守る奴よねぇ?」

「うぅ……僕の恋人って、こんなに意地悪だったんだね……」

「あー、そんな情けない顔すんじゃないわよ……そうね。だったら一緒に部屋に戻るまであんたがずっとそのままでいるってんなら、後で何かご褒美やっても良いわよ?」

「……え? ご褒美って?」

 

 泣きそうなくらい情け無い顔をしていたのでご褒美をあげると言ってみると、途端に興味を惹かれたような生き生きとした瞳を向けてきた。意外と現金な奴だ。

 

「ふふん、言ったら面白くないじゃない。それはその時のお楽しみよ!」

「ご褒美……うーん……」

 

 腕を組んで意味ありげに笑いかけ、ご褒美が何かは言わずにおく。

 ジャックはしばし真面目な顔で思案していたが、頭の後ろで可愛いリボンが二つも揺れているのでこれっぽっちも絵にならない姿だった

 

「……それなら、このままでいようかな?」

 

 どうやらご褒美のためにリボンを外さないことにしたようで、ジャックは居心地悪そうにしながらも再び親指姫の手を握ってきた。つまりこの状態のまま街を歩くことを了承した、ということだ。

 

(へっ、ちょろいわね。私が本気になればジャックなんてこんなもんよ!)

 

 今までは散々ジャックに辱められた挙句に復讐も敵わない日々を過ごしていたが、今では親指姫が本気を出せば復讐くらい片手間に達成できる。手の平の上で弄ぶのだって容易いことだ。親指姫は一回りも二周りも成長したのだから。

 

(ま、私が本気になって普段のこいつにようやく引き分けになるだけだけど……ていうかこいつが本気になったら敵わないわね、絶対……)

 

 恐ろしいことに今まで親指姫を辱めてきたジャックの言動や行動は何ら悪意の無い自然なものなのだ。そんなジャックに対して親指姫が本気を出してやっと拮抗状態が生まれた、というところ。意地悪したり意地悪されたり、辱めたり辱められたり。

 もしもジャックが自らの意思で親指姫を辱め、その手の上で弄ぼうと本気を出したなら最早太刀打ちはできないだろう。そうなったらきっと親指姫は完膚なきまでに辱められ、身体も心も余す所無く弄ばれ完全な敗北を喫するに違いない。

 

「あれ、どうしたの親指姫? 急に顔真っ赤にして……」

「な、何でもないわよ!? それよりジャック、そろそろほとぼりも冷めただろうしもう一度くららのとこに行くわよ! 今のあんたを見たらどんな反応するか楽しみね!」

「販売所に買い物に戻るんだよね? くららに今の僕の惨状を見せに行くのが目的じゃないんだよね……?」

 

 顔に出た感情を指摘されるという自然な反撃を受け、誤魔化すために親指姫はジャックの手を握り返し販売所へと向かって走った。

 そんな敗北も悪くはないと胸を高鳴らせてしまった自分への恥じらいと自己嫌悪を誤魔化すために、全力で。

 

「また来たんすか、お二人さん。いい加減冷やかしは勘弁――ぶはっ!?」

 

 そして販売所へと戻った親指姫たちを睨んできたくららは、次の瞬間お約束のように吹きだした。正しく期待通りの反応だ。

 さっきまで目の前でラブラブイチャついていたカップルに対する怒りも、死ぬほど疲れた表情で可愛いリボンを二つも頭に飾っているジャックの姿を見て吹き飛んだらしい。うずくまって必死に笑いを抑えようとしていた。

 

「あははっ、やっぱりそういう反応されるよね……」

「な、何やってるんすか、ジャックさん……くふっ……! あ、だ、ダメっす……! お腹捩れ……ぷふっ……!」

「どうよこれ? 面白いもん見せてやったんだから冷やかしだろうと何だろうとここで買い物させてもらうわよ?」

「わ、分かったんで離れて欲しいっす……! こ、このままだと、呼吸困難で死にそうっすよ……!」

「よし、言質取ったわ! これで心置きなく買い物ができるってもんよ!」

 

 模様替えのためのお買い物が再開できる嬉しさそのままに、ジャックへと笑いかける親指姫。まだちょっと笑えるがあまりにも似合っているせいで徐々に慣れてきていた。こうなるとリボンだけではなくもっとおかしなものを付けさせてみるのも面白いかもしれない。

 

「僕は心置きがだいぶあるんだけどね。頭の後ろに二つくらい、君とお揃いのが……」

「そりゃお揃いの髪型にしてやったんだから当然よ。おかげで少しは人の目もマシだったでしょ?」

「まあね。お揃いだし親指姫がお腹抱えて笑ってたから、罰ゲームか何かだと思ってた人も大勢いたみたいだよ。でも恥ずかしかったなぁ……」

(何か変に可愛くてむかつくわ、こいつ……)

 

 ここまでの道すがら向けられた視線を思い出しているのか、気まずそうに頬を染めるジャック。二つのリボンのおかげで可愛い女の子が恥ずかしがっているように見えてちょっとイラッっときた。やはりこいつ無駄に似合っている。

 

「……あ。そうだ親指姫、同じ部屋で暮らすなら必要な日用品も二人分必要になるよね。歯ブラシとか、コップとか、スリッパとか?」

「そうね。別に今使ってるのそのまま使っても良いけど、新生活始めるなら買い換えるのも良いかもしれないわね」

「だよね? だからどうせ買い換えるなら僕と君でお揃いにするのも良いんじゃないかな? お揃いのコップとか、お揃いの歯ブラシとか」

「っ! それ名案よ、ジャック! すっごいラブラブなカップルって感じがするわ! 本当あんたは良いこと閃くわね、偉いわ!」

 

 非常に冴えたアイデアに感銘を受け、思わず笑顔ではしゃいでしまう親指姫。同じ部屋での同棲を提案したことといい、二人で部屋の模様替えを行うのはどうかと提案したことといい、何だか今日のジャックは妙に頭が冴えているらしい。なのでご褒美にまた頭を撫でてやった。

 

「ただの偶然だよ。今回閃いたのは先に君がお揃いにしてくれたからだし。だから本当に偉いのは親指姫の方だね?」

「ふふっ。一体何やってんのかしらね、私たち?」

「あははっ、本当だね」

 

 するとジャックも笑いながら親指姫の頭を撫でてきたので、二人で頭を撫であうというおかしな様子になってしまう。

 しかしジャックに頭を撫でられるのは心地良くて幸せな気持ちになれるし、こちらが頭を撫でるのもまた違った心地良さがある。そしてそれはジャックの方も同じらしい。なのでお互い少々顔を赤くしながらもすぐには撫でるのをやめられなかった。

 

「もう百歩譲ってイチャつくのは良いっすから、もうちょっと控えめにやって欲しいっす……」

「あ! ご、ごめん、くらら。つい……」

(……ちっ! せっかく良いとこだったってのに……)

 

 しかしくららに非難を浴びせられたせいで、ジャックが撫でるのを止めてしまう。思わず心の中で舌打ちしてしまう親指姫だった。

 

「何か気をつけててもさっきみたいになっちゃうんだよね。どうしてなんだろう?」

「ふふん。それだけあんたが私に夢中ってことでしょ? 全く、仕方ない奴ねぇ……」

「うん、もちろん君に夢中だよ。だけどそう言う親指姫も僕のことが大好きで僕に夢中だったりするのかな?」

 

 何の躊躇いも恥ずかしげも無くさらりと答え、逆に笑顔で尋ねてくるジャック。答えが分かっているのにわざわざ尋ねてくるあたり、優しいジャックもなかなか意地が悪くなってきたようだ。というよりもやはり親指姫に似てきたに違いない。

 

「そうよ! あんたのことが大好きだし夢中になってるわよ! わざわざ言わせんじゃないっての、恥ずかしい……」

 

 以前までは言ってやれなかったし、ちょっと意地が悪くなってきたのは自分のせい。それに今はしっかり口に出して伝えられるようになった。

 なので親指姫はちゃんとその事実を口に出して伝えてやった。やはりまだ恥ずかしいが以前までに比べれば足元にも及ばない程度の羞恥なのだから。

 

「恥ずかしいってのはこっちの台詞っす……」

「あ、ごめん。またやっちゃったね……うん。じゃあ親指姫、そろそろ買い物に戻ろうか?」

「そうね。じゃあ早速お揃いの日用品探しよ! まずは食器から――って、私たち部屋の模様替えに使うもん探しにきてたのよね? 何で食器探そうとしてんの……?」

 

 いざ買い物に戻ろうとした所でふと気が付く。

 そもそもここへ来たのは部屋の模様替えに必要なものを揃えるためだったはずだ。壁紙とかカーペットとかそういう類のものを。

 なのに気が付いてみれば店を追い出された挙句に街を歩き、ジャックにリボンを付けさせて店に戻ってきたかと思えばお揃いの食器を探そうとしている。あまりの脱線ぶりに親指姫は自ら呆れてしまう。

 しかしそんな事実にジャックは呆れるどころかにっこり嬉しそうに笑っていた。

 

「別に先に模様替えする必要なんて無いんじゃないかな。こうやって二人で相談しながら、その時その時の欲しい物を買って少しずつ同棲に備えていこうよ? 時間はかかってもその方がきっと楽しいからさ」

「あんた本当に良いこと言うわね……よし、じゃあ今日はお揃いの食器を探すわよ! 明日は明日、明後日は明後日で物色しながら決めましょ!」

「うん。もちろんデートも兼ねて、だね?」

 

 お互いに笑みを交わし、親指姫はジャックと共にお揃いの食器を探して店内を物色するのだった。明日も明後日も同じように、二人でどこまでも仲良く買い物とデートをすることを約束して。

 

「ちょっと待って欲しいっす! ジャックさんたち明日から毎日ここでイチャつきながら買い物する気なんすか!? 自分これから毎日今のを見せつけられるんすか!?」

 

 そんな親指姫とジャックの幸福に満ちた素敵な日々に対し、失礼なことにくららは絶望の叫びを上げていた。

 

 

 





 
 女装した男の子に興奮するとかそういう趣味はさすがの私にもありませんが、きっとジャックは女装が似合うと思います。
 何か今回は書くことが思い浮かばないので感想の催促でも。どんな感想でももらえたら嬉しいです。



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