ジャック×親指姫   作:サイエンティスト

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 ジャック×親指姫、最終話。ついに二人は……。
 最早まえがきで語ることはありそうでないです。あとがきにはありますけど。
 とりあえずメアリスケルター2発売を楽しみにしているお方のそれまでの繋ぎにでもなれたなら幸いです。あるいはコーヒーや紅茶の砂糖代わりにでもなれたなら。
 しかしまさか書き始めて三ヶ月程度で最終話に持ってこられるとは……。

 



いつまでも2人で

「はぁ……やっぱり親指姫を抱きしめてるととっても安心するなぁ。気を抜いたらこのまま安らかに眠っちゃいそうだよ……」

 

 ネグリジェ姿の可愛らしい恋人の身体をぎゅっと抱きしめ、安堵の吐息を零すジャック。 二人でベッドに入り身を寄せ合ったジャックと親指姫は、当然のようにお互いに抱き合っていた。ただし身長差のせいもあってか、親指姫の方は抱きしめるというよりもジャックの胸に寄りかかり軽くしがみついているという表現の方が正しい。

 死の一歩手前の自分を引き戻してくれた感触と温もりのせいか、先ほど感じた興奮も一旦は大人しくなってしまうほどの安心感を覚えられた。いっそこのまま身を委ねてしまいたいくらいだ。

 

「安らかに眠るのは良いけど死ぬんじゃないわよ? あんたが言うと何か不穏なのよ、それ……」

 

 そのせいか親指姫が腕の中で顔を上げ、酷く心配そうな瞳を向けてきた。

 

「あははっ。そんな僕がしょっちゅう死にかけてるみたいなこと言わないでよ。さすがに僕だってそんなに危ないことしたりは――」

「――してない、とか言ったらぶん殴って思い出させてやるわよ?」

「ごめん、してます……」

 

 心配そうな表情が妙な迫力を感じるにっこり笑顔になったので、大人しく謝罪し頷く。

 親指姫はジャックの命知らずな行為を許してはくれたが、別に肯定しているわけではないし認めてくれたわけでもない。たまに引き合いに出されて怒られたりすることもしばしばだ。

 

「……そういえばあんたと一緒に寝るのはこれが初めてね。前はちょっと、あんたがケダモノになりかけてたからできなかったし……」

「だ、だって親指姫が初めて僕のこと好きって言ってくれたし、初めて君からキスまでしてくれたんだよ? しかも一回だけじゃなくて凄くいっぱい……言い訳に聞こえるかもしれないけどそんな風になったって仕方ないよ……」

 

 思い出したように頬を染め、更に膨らませて責めてくる可愛らしい親指姫。

 自分も悪いと思ってはいるがアレは親指姫にも責任がある。初めて好意を素直に口に出し、それを何度も口に出し、初めて自分からキスをしてきて、それを何度も繰り返す。これらを別々の時とかではなく同じ時に全てやられてしまえば誰だってケダモノになりかけてもおかしくない。

 

「確かにそうね。あんたは私があまりにも可愛すぎて我慢できなかったんでしょ?」

「うん。正にその通りだよ」

「本当にあんたは何の躊躇いもなく頷くわね。でもそれでこそ私のジャックよ!」

 

 事実なので素直に頷くジャック。ある程度答えは予想していたらしく、頬を染めるといった反応は見られなかった。むしろ嬉しそうに笑われた。

 ただ答え自体では見られなかったものの、一拍置いて自然と頬が染まっていた。何か恥ずかしいことを聞きたがっているかのように。

 

「……今は、どうよ?」

「今は……あの時に比べれば平気かな。もう何度も好きだって言ってくれたし、キスだっていっぱいしてくれるようになって少しは慣れたからね」

 

 あの時は親指姫からの初めての愛情表現が畳み掛けてきたせいで許容量を超えそうになってしまったのが原因だ。今は愛情表現に慣れてきたし、何よりとても安心できる温もりを腕の中に抱いている。なのでケダモノになりかけることもなく添い寝できるので、親指姫だって嬉しい答えに違いない。

 

「……何かイラッっと来る答えね」

「ど、どうして?」

 

 そう思っていたのに返って来たのは不機嫌な返事と視線。反射的に尋ねてしまうと、心底呆れを含んだ溜息まで返されてしまった。

 

「だってあんた、それじゃあ今の私があの時より魅力無いとか言われてるみたいよ? もうちょっと言葉選びなさいよね」

「あ……ごめん。でも、別にあの時より魅力が無いなんて思ってないよ。むしろ今の親指姫、あの時よりも可愛くて凄くドキドキしてるんだ……」

「ふん、誤魔化したって遅いわよ。って、言いたいとこだけど……あ、あんた、本当にドキドキしてるわね……」

 

 ご機嫌斜めな感じだったのに途中で戸惑いを露にする親指姫。

 たぶんジャックの胸に耳を当てる形で身を寄せているから分かったのだろう。ジャックの心臓が早鐘のように打っていることが。

 

(そ、そりゃあそうだよ……今の親指姫の格好、可愛いけど少しエッチだし……凄く良い匂いがするし、柔らかいし……)

 

 親指姫は可愛らしいが露出度が高く生地の薄いネグリジェを身に着けている。間近で見る白い肌にはドキドキさせられるし、生地が薄い分感触も温もりもより深く感じられて更にドキドキ。おまけに甘い蜜を連想させる香りがその赤い髪から漂ってくるのだ。これでは親指姫が反応に困ってしまうほどにドキドキするのも仕方ない。

 しかし反応に困っているのは親指姫だけではない。ジャックもまた反応に困っていた。何故ならドキドキしているのは自分だけではなかったから。

 

「そ、そういう君も、もの凄くドキドキしてるよね……?」

「っ……」

 

 指摘すると痛いところを突かれたとでも言うように眉が歪み、あらぬ方向に視線が逸らされる。

 その薄い膨らみがジャックの胸に密着しているのでわりとはっきり分かってしまったのだ。親指姫も自分と同じ、あるいはそれ以上にドキドキしていることが。

 

「じゃ、ジャック……今から私が聞くこと、正直に答えなさい」

「う、うん……」

 

 見破られたせいか否定はせず、とても真剣な声音で言葉を紡ぐ親指姫。頬が朱色に染まっているのはいつものことだが、その表情は見たことがないほどに真剣だ。

 

(こ、こんなに真剣そうにするなんて、一体何を聞かれるんだろう……)

 

 緊張感に息を呑み、先ほどとは違う胸のドキドキに支配される。軽い怯えすら覚えてしまうほどのドキドキに。

 親指姫はじっとジャックの瞳を真剣に見上げてきていたが、やがてその小さな唇を開き質問を口にした。

 

「あんた……ロリコン?」

「……えっ?」

 

 しかしその質問に緊張感は一気に吹っ飛んでしまった。

 

「ご、ごめん、親指姫。今何て言ったのかな?」

「だ、だから……あんた、ロリコンなの? 小さな女の子にしか興味なかったりすんの?」

「え、えぇっ……」

 

 念のため聞き返してみるものの、返って来たのはやはり同じ質問。しかも変わらず極めて真剣な面持ち。冗談を言っているにしてはあまりにも雰囲気が真面目すぎた。

 

(もしかして……自分が小さな女の子だからそういうのを気にしてるのかな?)

 

 思い当たるとすればそれくらいだった。確かに親指姫は俗に言うロリコンが興味を示しそうなくらいの背格好だ。だからそんな自分にこれ以上ないほど夢中になっているジャックが実はロリコンではないかと疑っているのだろう。そういえば以前はラプンツェルに不埒な真似をしたのかとやたらに疑われた気がする。

 

「お、怒らないから正直に答えなさい! ていうか正直に答えないと怒るからね!」

 

 頬の朱色を更に濃くしてやはり真剣な表情で尋ねてくる。ちょっとだけ怯えたように見えるのは答えが不安だからなのだろうか。しかし肯定と否定のどちらに対して不安を覚えているのかは乙女心の分からないジャックには分からなかった。

 

「え、えっと、少なくともロリコンじゃないと思うよ? 別に小さな女の子にだけしか興味無いっていうわけじゃないし……そもそも、小さな女の子にはあんまり……」

 

 なので素直で危なくない答えを返す。

 別にジャックは小さな女の子にしか興味が無い危ない奴ではないし、そもそも幼い女の子は対象外だ。幼い女の子と言うのは身近な例で言えばラプンツェルがそれに当たる。ラプンツェルはまだ子供なのでそもそもそういう目で見るのは間違っている。

 

「……ちっ」

(い、今舌打ちしたよね、親指姫……)

 

 答えを返すと腕の中で至極残念そうな舌打ちが上がった。もしかするとロリコンではないと答えたことで自分がジャックの興味の対象外だとでも思ったのかもしれない。しかし十分対象内にいるということくらい今までの日々で分かってくれたはずなのだが。

 

「……もしかして、僕がロリコンだった方が良かったの?」

「そ、そうよ。それなら浮気の心配も少なくて済むじゃない。それに……ロリコンなら、こんな私でも満足なはずでしょ……?」

「っ!? お、親指姫っ、何を……!?」

 

 打って変わって切なさに溢れる声音で酷く怯えたことを口にすると、あろうことかジャックの手を取り自らの胸に触れさせる親指姫。

 手の平に伝わってくるのはふにっという感じの柔らかさ。薄いネグリジェの生地を通して僅かだが間違いなくそれが伝わってくる。その行動と感触に混乱し固まる中、親指姫は自らの胸にジャックの手を触れさせたまま言葉を続けていく。

 

「あんたあの時、優しく断ってくれたわよね。私のために……本当はそういうこと、したがってた癖に……」

(あ……もしかして、親指姫は……)

 

 恥ずかしそうに、それでいて申し訳無さそうに言葉が紡がれていく。

 ここまでされればいくらジャックでも続く言葉と真意は理解できた。本当は理解したのではなくそうだと良いという願望なのかもしれないが、どちらにせよ予想は正しかった。

 

「も、もう、我慢しなくて良いわ……準備、できたから……」

「親指姫……」

 

 親指姫はついに心の準備を終えたのだ。強制されるでもなく、万が一に備えるでもなく、自らの意思だけでジャックに全てを曝け出し、捧げることを。その想いと愛情、そしてついに親指姫の全てを受け取れる喜び。正直な所あまりの喜びに飛び上がりそうだった。

 だが喜びに打ち震えるジャックとは異なり、親指姫は酷く不安気な顔をしていた。

 

「けど……ロリコンじゃないなら、あんたの方こそ本当に良いわけ? 私って、身長もだけど……他も、こんなよ……?」

(ああ、そっか……だからロリコンじゃないって言ったら、残念そうな顔されたんだ……)

 

 どうやら浮気や性癖云々が心配でロリコンかどうかを確かめたのではないらしい。自分の小柄で慎ましやかな体型でもジャックが本当に喜んでくれるかどうかを確かめたかったのだろう。だからロリコンではないと分かったことで心底残念に思ったに違いない。そんな心配は杞憂だというのに。

 

「……大丈夫だよ。僕は君のことが大好きだから、君が不安に思ってるその身体だって……本当は襲いかかって色々したいくらい好きなんだ……」

 

 この際なのでもう隠さず本音を口にする。

 身体つきも背格好も関係ない。他ならぬ大好きな恋人の身体だし、ジャックだって男だ。できることなら隅から隅までその肢体を眺め、白い肌を撫で回して感触に浸り、柔らかな肉に舌を這わせて味わい尽くしたいと思っている。酷く独占的で乱暴な想いかもしれないが、自分に想いを寄せてくれている心だけでなく、その身体も自分のものにしたいと。

 

「って、ことは……本当はロリコンってことね!? あんた、やっぱラプンツェルに手を……!」

 

 しかし何やら勘違いして目を吊り上げて怒る親指姫。そして何故かラプンツェルに手を出したと疑われてしまった。

 

「だ、出してないってば! 好きになった親指姫がたまたま見た目幼い子だっただけだよ!」

「ロリコンは皆そんな言い訳するって聞いたわよ! て、ていうか誰が見た目幼い子だってのよ!?」

「ええっ!? 自分でそういうこと言っておいてそこは認めないの!?」

 

 おまけに何やら話が変な方向に逸れていく。

 しかしそれも仕方の無いことだろう。身体を捧げる心の準備が出来たといっても緊張や不安は簡単には拭えないはずだ。特に身体つきなどを不安に思っていたらしい親指姫にとってはちょっとした発言も過度な反応を招いてしまうに違いない。すでに顔は耳まで真っ赤で瞳は混乱に揺れているのだから。

 

「な、何か話がおかしくなったけど……とにかく、僕が嘘なんてついてないのは分かってるよね? あの時だって、さっきだって……君を押し倒して滅茶苦茶にしたりしないように、キスを止めたんだから……」

 

 一つ咳払いして話を戻し、しっかりと瞳を覗き込みながら言葉を紡いでいく。

 親指姫もジャックと見詰め合うことで冷静さを取り戻したらしい。やがて混乱に揺れていた瞳は落ち着きを取り戻し、驚くほどしおらしくなっていた。

 

「……なら……がっかりしたり、しないわよね……?」

「……うん。絶対がっかりなんかしない。それに前にも言ったよね? 親指姫の身体、凄く綺麗だ、って……」

「ジャック……」

 

 事故で見てしまったその身体への感想を口にするも、今回は変態と罵られることもなければ蔑まれることも無かった。反応はむしろその逆。僅かながら安堵の表情を浮かべ、親指姫は自らの胸に触れさせていたジャックの手を静かに離した。

 

「こういう時は、男がリードしないといけないんだよね……? じゃ、じゃあ……」

「っ……!」

 

 お互いの身体を覆っていたシーツを脇に退かし、身体を起して親指姫の上に覆い被さる。さしずめ正面から押し倒したような状態だ。

 心の準備ができていてもやはり冷静でいることは難しいのだろう。親指姫はジャックの下で縮こまり、火が出そうなほどに顔を赤くしたまま凍り付いていた。

 

「ほ……本当に、良いんだよね……?」

 

 自らも緊張による顔の火照りを感じながら最後の確認を行うジャック。

 親指姫のことはとても大切だが、始めてしまえば途中で止められる保証はなかった。相手はただの可愛い女の子ではなく、どこまでも可愛らしい愛しくて堪らない恋人だ。その身体を自由にできるとすれば理性を保てる自信は無い。

 

「い、良いわ……でも、その前に一つだけ……一つだけ、約束しなさい!」

「う、うん……」

 

 小さく頷き、押し倒された状態で気丈に声を荒げる親指姫。

 緊張からか小さな身体は震えていたものの、その言葉を口にするためか精一杯の強がりを見せていた。

 

「……一生、私の隣にいなさいよ……? 私を捨てたり、いなくなったりしたら……ぶっ殺して、やるんだから……」

 

 その震える唇から儚く弱々しく紡がれたのは、言われるまでも無く心に決めていた想い。無論考えるまでも無く頷いた。

 

「うん。約束するよ、親指姫……」

「ジャック……」

 

 一生を共にすることを誓い合い、ジャックは親指姫と唇を重ねた。

 言葉だけの口約束ではなく、行動で誓いを結ぶために。愛しい少女の心と身体、その全てを受け取るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、皆……って、あれ? 本当に皆いる。珍しいね、何かあったの?」

 

 翌朝、朝食の席に顔を出したジャックは珍しい光景に目を丸くした。まだ朝早くなのに何と血式少女たちが全員席についていたのだ。いつもはもっと遅くに起きてくるはずのかぐや姫や眠り姫、ラプンツェルも含めて全員だ。

 

「じゃ、ジャックさん……っ! べ、別に何もありませんことよ!? をーっほっほっほっほ!」

「そ、そうです! 何でもありませんよ、ジャックさん! あははははは!」

(うん、もの凄く怪しい。どう見ても何かあったよね……)

 

 ただし何か様子がおかしい。シンデレラと白雪姫はジャックの姿を目にした途端、慌てて過剰なくらい元気いっぱいに振舞おうとする。おまけに何やら顔は真っ赤だ。一体どうしたのだろうか。

 

「ねえ、赤ずきんさん。シンデレラたちどうしたのかな?」

「ひぇっ!? あ、あたし!? さ、さぁ? あたしは何も知らないなぁ?」

「えっと……アリスは、何か知ってる?」

「ご、ごめんなさい、ジャック……私も、何も知らないわ……」

(赤ずきんさんにアリスまで……一体どうしたんだろう?)

 

 二人の反応に疑問を抱いて赤ずきんに尋ねてみるも、二人ほどではないがあろうことかこちらも同じ反応。アリスに聞いてみても同じ反応だ。

 

「わ、わらわも知りませんよ~?」

「……んー……んー……」

「わ、ワレも知らぬじょ……存ぜぬ、じょ……」

 

 そしてかぐや姫、眠り姫、ハーメルンは僅かに頬を染めて気まずそうに目を逸らす。まだ聞いていないどころか視線を向けただけでこの反応。やはり何かがおかしい。

 

(何だって皆恥ずかしそうに顔を逸らすんだろう。まるで僕が皆に恥ずかしいことでもして気まずくなってるみたい――っ!?)

 

 そこまで考えた瞬間、一つの可能性に思い至った。そして生きた心地がしなくなった。

 何故ならもしもジャックの予想が正しければ、それはもう死ぬほど恥ずかしい思いをしなければならないから。

 

「あらジャック、あなた突然顔から血の気が引いて青くなったわよ。何かショックな出来事でも思い出したのかしら」

 

 眩暈がしてきて倒れそうなジャックに対し、いつも通りの口調と表情で指摘してきたのはグレーテル。この場でたった二人だけ様子のおかしくない少女の内の一人だ。

 そしてたぶん、ジャックが危惧していることを尋ねても恥ずかしげも無く答えてくれそうな少女だ。

 

「ぐ、グレーテル……き、聞いても、良いかな……?」

「何かしら?」

「えっと、その……アリスたちの様子がおかしい理由、君は知ってるかな……?」

「ああ、そのことね。あなたが起きてくるまでその話題で持ちきりだったから知っているわ。昨夜あなたが親指姫と俗に言うセッ――」

「わああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 危惧したとおりの答えが全部出てきそうになったのでジャックは心からの叫びを上げてそれを遮った。

 皆で話していたということは遮っても意味は無かったのだが、できれば聞きたくなかったから。

 

「ねーねー、じゃっく! こどもつくったってほんとうー!? どうやってつくったのー!?」

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 しかし現実は非情だった。せっかくグレーテルの言葉を遮ったのにラプンツェルが代わりに口にしてくれた。子供特有の純真さと好奇心に瞳を輝かせ、無邪気な残酷さを余す所無く発揮して。

 

「じゃ、ジャック……私からは、これだけは言わせてもらうわ。私たちは別に覗きや盗み聞きを働いたわけではないのよ? ただ、その……壁が、薄いから……」

(あははっ、壁は薄いから大きな声を出せばそりゃあ聞こえちゃうよね! どうして僕はそんなことにも気付かなかったんだろうね!?)

 

 酷く気まずげな表情をしながらジャックを気遣って濁して教えてくれるアリス。しかし濁されてももの凄い衝撃的な事実なので軽く現実逃避に走ってしまう。さすがに自分と親指姫がアレコレしている時の様々な声を聞かれていたという現実は受け入れがたかった。

 しかも皆が皆この場にいるということは、アリスだけでなく皆に聞かれてしまった可能性が大いにある。誰もからかって来ないのはつまりはそういうことだろう。もういっそ消えてしまいたいくらいに恥ずかしいし、もう顔を合わせたくないくらいに気まずい。

 

「ねーねー、おしえてよー! みんなじゃっくにききなさいっていってたよー!」

「ごめん、ラプンツェル。しばらくで良いから静かにしててくれないかな?」

「えー? しばらくってどれくらいー?」

 

 とりあえず無邪気に心を抉ってくるラプンツェルの口は一旦閉じてもらった。

 どうもこの様子だと誰もラプンツェルに事の詳細は説明していないようだ。まあ説明するわけにもいかないので張本人に対応を回すのは分からなくも無い。

 

(生きるのが嫌になるくらい恥ずかしいけど……僕が受け入れるしかないよね、これ……親指姫が知ったら耐えられそうに無いし……)

 

 この現実はできればジャック一人が受け止めなければならない。親指姫は裸を見られたりキスをされたりした恥ずかしさで五日間もジャックを避けていたのだ。同性とはいえ赤ずきんたちに最中の声を聞かれた事実を知れば、もうどんな反応をするかジャックにも想像が付かない。

 

「ま、まあ、あんたたちはラブラブだしそういうことするのも仕方ないっていうか、自然かもしれないってのは分かるよ……だからあたしたちがとやかく言うことじゃないんだけどさ……その、今後もそういうことするつもりなら、もうちょっと声を落としてもらえると助かるかな……」

 

 そして皆も親指姫が耐えられそうにないと思っているらしい。赤ずきんが頬を染めながらもわざわざ異性であるジャックにそういった言葉をかけてきた。

 言う方も言われる方も気まずさの極みだがそこは非情にありがたい。ジャックとしても恋人が辱められるくらいなら自分が辱められた方が遥かにマシだ。

 

「ほ、本当に、ごめんなさい……」

 

 故にジャックは現実を受け止め、深々と皆に頭を下げた。下げられた方も困るかもしれないが他にどうすれば良いのかは良く分からなかった。

 

「ま、まあ、あたしたちから言いたいのはそれだけだよ……一応、親指には気が付いてないふりで通すことになってるからさ……」

「う、うん。ありがとう、皆……ごめんなさい……」

 

 やはり親指姫を気遣ってくれている赤ずきんたち。ジャックが再び頭を下げると皆笑って許してくれた。もちろんその笑いは妙に乾いていたり真っ赤だったり苦々しかったりしていたのだが。

 

「皆、おはよ! 何かさっきジャックの悲鳴っぽい声が聞こえたんだけど気のせい?」

 

 そして幸運なことに今の一幕が終わってから親指姫が食堂に現れた。それはもう晴れ晴れとした感じの最高に輝く笑顔で。幸せなことに何も知らずに。

 皆に勘ぐられるのを避けるために顔を出す時間をずらしていたから良かったものの、もしジャックではなく親指姫が先に顔を出していたらどうなっていたことか。

 

「き、気のせいだよ、親指! さあ、そろそろ朝ごはんにしようか!」

「そうですわね! もう空腹でお腹と背中がくっつきそうですわ!」

「わ、わーい! 皆一緒の朝ごはんはとっても嬉しいです!」

「……ジャック、何か皆テンションおかしくない? ていうか何で全員いんの?」

「さ、さあ、何でだろうね? それより朝ごはんにしようよ、親指姫。食べ終わったら一緒に散歩にでも行こう?」

「そうね。その後はまた販売所行って色々物色するわよ?」

 

 ジャックを含めて皆不自然だったが、幸せいっぱいの親指姫はさほど気にならなかったらしい。満面の笑みでジャックの隣に腰を降ろし、今にも鼻歌を奏でそうなくらいに上機嫌な様子だ。

 できれば親指姫にはずっとこんな幸せそうな笑顔を浮かべていて欲しい。そしてこれからは一生その笑顔を見守り、ずっと二人で歩んで行きたい。考える場面がだいぶおかしい気もしたが、ジャックは心の底からそう願った。

 

「――ねー、おしえてよじゃっくー! どうやってこどもつくったのー!?」

(ラプンツェルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!)

 

 しかし頬を膨らませたラプンツェルの悪意の無い好奇心に、ずっと幸せそうな笑顔を浮かべていて欲しいという願いは早速叶わなくなってしまった。

 とはいえ自分たちの関係はこれくらいの波乱があった方がお似合いなのかもしれない。少なくとも親指姫は交際が始まってから周りが焦れったく思うくらいずっとぎくしゃくしていた上、素直になってからは周りがうんざりするくらいくっついてイチャイチャしてくるのだから。少なくとも平穏過ぎて盛り上がりに欠けるような関係ではない。

 なのできっとこの波乱も自分たちの関係を大いに盛り上げてくれるに違いない。凍りついた親指姫の顔が徐々に赤く染まっていく様子を目にしながら、現実逃避気味にそんなことを考えてしまうジャックだった。

 





 出番が一番少なかったラプンツェル、最後の最後でとびっきりの爆弾を爆発させてくれました。何か年齢対象ありそうな話とか色々ありましたが具体的な名称云々は出していないのでセーフのはず。
 今回カットしたR18展開ですが、厳密にはカットしたわけではなくそっちに投稿しました。ただでさえ少ないメアリスケルターのSSで更にエロという需要が不明な一品。でもカットするのもどうかと思ったので書いちゃいました。良ければそちらもお読みください。
 そして今回で本編は終わりですが一応余章としての後のお話も予定しています。ただこっちはちょっと投稿が遅くなるかもしれません。むしろ今までが異常なペースでしたけど。
 余章のイチャラブレベルはたぶん四章と同じかもうちょっと上です。でも感覚が麻痺気味の私には判断に自信が無いです……。

 何はともあれここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。あと一ヶ月くらいでメアリスケルター2発売です。恋獄塔も手に入れるためにちゃんと予約はしましたね? ちなみに私はファミ通DXパック(3Dクリスタル付き)を予約済みです。PS4も買いましたし。しかしコントローラーが思いの他ダサい……。
 
 
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