ジャック×親指姫   作:サイエンティスト

17 / 24

 余章開始。といってもイチャイチャするだけ。
 まあ最初の1、2話は前置きと言うか準備というべきかなんですけど。しかしそこでもイチャついているのが何とも言えない……。



余章:2人の世界
イチャラブ禁止令


 

 

「おっ、と。ジャック、そこ段差あるから気をつけなさい」

「え――わぁっ!?」

 

 先を歩く親指姫の注意を聞いていたにも関わらず、ジャックは段差に脚を取られてすっ転んだ。何とか顔面を打つことは避けたものの、地面についた手の平にずきりと痛みが走った。

 

「言った傍から転んでんじゃないわよ、ドジねぇ。ほら」

「あ、ありがとう、親指姫。注意してもらったのに転ぶなんて情けないなぁ……」

 

 呆れた顔をしながらもしっかり手を差し伸べてくれる親指姫。羞恥に顔を火照らせながらもその手を取って立ち上がる。

 まあ一応荒れた石畳の道を歩いているので転ぶのも仕方ないかもしれない。これが整地された道なら否定のしようもなく情けないところだ。

 

「あーあ、服汚れてんじゃない。どっか怪我は?」

「大丈夫、ちょっと腕を擦りむいたけど平気だよ」

 

 ジャックの服の汚れを払いながら怪我の有無を尋ねてくる。呆れた顔をしつつもやはり優しさは隠せていない。三姉妹のお姉さんという立場上か面倒見の良さは抜群だ。

 

「一応見せてみなさい。正直あんたの大丈夫も平気も当てになんないし」

「ええっ、酷いなぁ。これくらいで嘘はつかないよ」

「ふーん、つまり酷い時は嘘つくってことね?」

「う……」

 

 妙な迫力の笑顔で尋ねられ二の句を告げなくなってしまう。心配はかけたくないのでそこそこ酷い怪我なら嘘はつくかもしれないし、実際そんな嘘をついたこともあったりなかったりだ。

 とりあえず返答ができなかったので代わりに怪我をした左手を差し出す。まあ怪我といってもほんの少し血が滲んでいる程度の擦り傷で本当に大したことは無い。親指姫も納得してくれたらしく、しっかり掴んでいた手の力を緩めて頷いてくれた。

 

「まあこれくらいなら大丈夫ね――んっ」

「わぁっ!? お、親指姫!?」

 

 そして唐突に手の平に甘噛みされた。しかも擦り傷の部分を小さな舌で舐めて、汚れや血を吸い上げるように吸い付かれる。あまりの驚きに飛び上がってしまうジャックだった。

 

「何これくらいで顔赤くしてんの? 人前でだって平気でキスしてきたあんたはどこ行ったのよ」

「べ、別にどこにも行ってないよ。君が僕よりも大胆になっただけじゃないかな?」

「あー、確かにそうかもしれないわね……」

 

 頬を染めて居心地悪そうにしながら頷く親指姫。素直になれてからというものかなり大胆になっていた親指姫だが、最近はますます拍車がかかってきている。

 理由として考えられるのはとある恥ずかしい事実が皆に筒抜けになってしまったことだろう。要するにジャックとアレコレした時の声を皆に聞かれてしまったこと。立ち直るのにかなりの時間を要していたものの、復活してからはすっかり吹っ切れたような感じになっていた。

 ラプンツェルの無邪気で残酷な発言によって事実を知った時は懸念どおり一波乱あったものの、筒抜けになったのは同性である血式少女たちだけなのでさほど後に引きずらなかったようだ。ちなみにジャックからすると皆異性なので未だに引きずっている節がある。親指姫同様慣れたのかたまに赤ずきんやかぐや姫にからかわれるので正直困っている。

 まあ最近ジャックが本当に困っているのはそのことではないのだが。

 

「ほら、これで消毒完了よ。あとは白雪に絆創膏貼ってもらいなさ――って、暗い顔してどうしたのよ?」

 

 その胸の内の悩みが顔に出ていたのだろうか。親指姫は酷く心配そうな表情で見上げてきた。

 

「うん……何だか最近、親指姫に世話をかけさせてばっかりだなぁって思って。本当は僕が支えてあげたいって思ってたのに、これじゃあ逆になってる気がするよ……」

 

 すでに心配をかけてしまったので嘘をつく理由も無く、正直に答える。最近抱えていた悩みとは親指姫を守り支えるという誓いが全くと言って良いほど達成できていないことだ。

 死に体のジャックを前に親指姫が晒した儚く弱々しい姿と、その口から零した切なさと悲しみに満ちた案じる想い。それらに胸を打たれ、守ってあげたいという気持ちと堪らない愛しさを感じて親指姫の虜となったジャックだ。本懐は隣で支え慰めてあげることである。

 最初から自分が完璧にそれを行えるような頼りがいのある男でないことは理解していたものの、逆に世話を焼かれて支えられていては自分が酷く無力に思えてならなかった。

 

(親指姫、最近妙に世話焼きになったからなぁ。僕に対して……)

 

 理由は分からないが最近になってジャックに対しての世話焼き加減が急激に増している。そのせいでまるで手のかかる弟か何かのように世話を焼かれがちなのだ。別に嫌ではないのだがやはり複雑な気持ちは拭えなかった。

 

「何かと思えばそんなくだらないこと気にしてたわけ? あんたもつくづく変なことで悩む奴ねえ……」

「く、くだらなくなんかないよ! だって僕は君のことが大好きだから君の力になりたいし、君の力になれることだって幸せなんだから……」

「ジャック……」

 

 その言葉を聞いて親指姫の面差しに愛しさに溢れた微笑みが浮かぶ。その微笑みを浮かべたまま親指姫は正面からジャックの肩に手を置くと――

 

「……大丈夫よ、あんたに私を支えられるほどの男らしさは最初から期待してなかったわ!」

「ひ、酷いよぉ、親指姫……!」

 

 ――飛びきりの笑顔で残酷な言葉を投げかけてきた。

 あまりにも無情な言葉にジャックはちょっと泣きそうになってしまった。確かに男らしくないことは自覚しているがそこまではっきり言われてしまうとは。

 

「あははっ! 冗談よ、冗談。あんたは隣にいるだけで、ちゃんと私の心の支えになってくれてるわよ……」

「親指姫……」

 

 再び愛しさに溢れる微笑みを浮かべる親指姫。今度も冗談に繋げてくるかもしれないと少しだけ身構えたものの、繋げられたのはお互いの手だった。握手するように手を握る力はとても穏やかで、優しさと素直な想いがしっかり伝わってくる。

 

「それにあんたは私を支えるだけで満足かもしれないけど、私は……あんたとは支えあう関係になりたいんだからね? 世話かけさせてるとか気にしないでもっと私を頼りなさい。その分、私はあんたに……甘えさせてもらうから……」

 

 そして頬を染めながらもしっかりと自分の想いを口にしていく。

 三姉妹の長女という立場、そして本人の異様なまでの天邪鬼加減のせいか、素直になってからというもの親指姫はとても甘えん坊だ。皆の前では多少控えめなものの、二人きりだとすぐ膝に乗ってきたり抱きついてきたりするのだから。

 もしかすると親指姫がやたら世話を焼くようになったのは甘える代わりに自分も何かしなければいけないと思ったのかもしれない。あるいはジャックを愛しているからこそ、愛する妹たちと同様に世話を焼いてしまうのか。

 

「そっか……うん。じゃあこれからはお互いに望む方法で支えあっていこうね、親指姫?」

「もちろん。しっかりあんたを支えてやるから、あんたも私をちゃんと支えなさいよ!」

 

 いずれにせよ甘えられるのはとても喜ばしいし、しっかり親指姫の支えになっているなら本望だ。ジャックは微笑みながら、親指姫はどことなく小生意気な笑みで、これからもたっぷりお互いに支えあうことを誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あのさ、あんたたちここがどこだか覚えてる? ていうか今あたしたちがここにいるってこと覚えてる?」

「……あん?」

 

 不意に横合いから届いた赤ずきんの声。反射的にそちらを見た親指姫の瞳に映ったのは――

 

「本当にもうお互いのことしか見えていませんのね、お二人は……」

「もう飽き飽きです~……真面目に働きますからいい加減に勘弁してもらえませんか~……」

「一つの物事に集中していると周囲の状況が認識できなくなることはあるけれど、二人がお互いのこと以外見えていないのもそれが原因なのかしら。興味深いわね」

「う、うぅ……段差一つがきっかけの話で、親指姉様がジャックさんとここまでラブラブできるようになるだなんて……白雪は……白雪は嬉しいですぅ……!」

「……ん……ボクも、嬉しい……!」

「よくわかんないけどラプンツェルもー!」

「私もジャックが幸せそうで何よりだわ」

「お嬢の身体から何やら殺気めいたオーラが……」

 

 ――恥じらいや不快、好奇心、感動、喜びと様々な反応を示す血式少女たちの姿だった。どうしてほぼ全員が揃っているのか一瞬考えたものの、すぐにその理由を思い出した。

 

「あー……そういえば私たち、探索に来てたんだっけ……」

「そ、そうだね。すっかり忘れちゃってたよ……」

 

 今親指姫たちがいるのは解放地区の街中でもなければ黎明の居住スペースでもない。今やメルヒェンの巣窟の一つと化している、かつては賑わっていたであろう元繁華街エリアだ。よくよく周りを見れば無人で寂れた店舗や建物がそこかしこに並んでいる。

 どうもジャックに気を取られすぎて周りの全てが見えていなかったらしい。そしてそれはジャックの方も同じのようだ。つまりは周りが見えなくなってしまうくらいお互いに夢中だということ。

 

「全く。私と話してるだけでそんなことも忘れるなんて、あんた私のこと好きすぎるでしょ」

「もちろん。でもそういう親指姫だって忘れてたんだから、同じくらい僕のことが好きなんだよね?」

 

 肘で小突き小馬鹿にしながら指摘してやると、一切の躊躇いも恥じらいも無い柔らかな笑みで返してくるジャック。

 以前までの親指姫ならここは否定するか誤魔化すところ。そして素直に生まれ変わった親指姫なら自分の気持ちを偽らず頷くところ。

 だが生まれ変わっただけでなく、更に大人の階段さえも登り成長を遂げた今の親指姫にとっては逆に頷くことができない問いだった。理由は簡単。ジャックが想いの強さを誤解しているから。

 

「はっ、馬鹿言ってんじゃないわよ。私の方があんたよりも気持ちが強いに決まってんでしょ?」

 

 親指姫がジャックを愛する気持ちの方が、ジャックが親指姫を愛する気持ちよりも格段に強いのだから。同じくらいなど思い上がりも甚だしい。

 

「あははっ、悪いけどそれはありえないよ。僕が君を想う気持ちは、君が僕を想う気持ちとは比べ物にならないくらい強いんだからね」

「へー、あんたにしては随分と威勢の良いこと言うじゃない?」

 

 しかし指摘してやってもジャックは未だ思い上がっていた。まるで自分の方が愛情が強く大きいと確信しているかの如き自信に満ち溢れた表情で挑発的な台詞さえ返してくる。こんな自信満々な表情のジャックも新鮮で見ていてなかなか面白いが、思い上がった奴にはお灸を据えてやらなければ。

 

「だったらどっちがよりお互いのことを想ってるか勝負よ! 吠え面かかせてやるから覚悟しなさい!」

「よーし、望むところだよ! 勝負の方法は分からないけど!」

 

 詰め寄って馬鹿面を睨み上げるとやる気に燃える瞳とばっちり視線が合う。

 もちろんジャックの瞳に敵意や怒りなど浮かんでいないが生意気なのは確かだ。勝負の方法も分からない癖にあっさり受けて立つところも含めて、妙に感情的というか直情的。やはりジャックは親指姫の人柄やその他の影響を色濃く受けてしまったらしい。つまりそれはジャックが親指姫の色に染まっているということ。

 

(……あーっ、ダメ! 睨みあってんのに頬っぺた緩んでくるわ!)

 

 嬉しさのせいで睨み合う最中に自然と微笑みを浮かべてしまい、同時にジャックの生意気な表情も微笑みへと変わる。睨みあっていたはずなのにいつのまにか幸せな心地で笑顔を向け合う親指姫とジャックであった。

 

「――変な勝負始めるな! ていうかあんたら本当にいい加減にしろー!?」

「何よ、赤姉。さっきからうるさいわね……」

 

 せっかく幸せに浸っていたのにまたしても水を射される。ジャックを睨んでいたものとは違う確かな非難を込めた視線を向けると、赤ずきんは何やら頭を抱えて溜息をついた。

 

「……ジャック、親指。まさかあたしがこんなこと言う羽目になるとは夢にも思ってなかったけど、あえて言わせてもらうよ。あんたたち――もうイチャラブ禁止だ!」

 

 そしてその口から放たれたのはあまりにも残酷で納得できない言葉だった。

 

「ええっ!? ど、どうし――」

「はああぁぁぁぁぁぁぁ!? ちょっと赤姉! 何の権利があって赤姉が私とジャックの関係に口挟むってのよ!? 私たちがイチャラブしたって私たちの勝手でしょ!?」

 

 ジャックの驚愕の声を遮り、赤ずきんに詰め寄って詰問する親指姫。面白がったり冷やかしたりならともかく、幾らなんでも親指姫とジャックがイチャラブすることを禁止する権利など無い。

 

「普段ならあんたたちの勝手だよ。あたしが口を挟む権利も無い。でもこの場ではちゃんと口を挟む権利があるんだ」

「だったら言ってみなさいよ! 一体何で赤姉に他人の恋路に首突っ込む権利があるっての!?」

「親指姫、ちょっと落ち着いて――」

「あんたは黙ってなさい、ジャック!」

「……はい」

 

 親指姫はちゃんと冷静なので宥められる必要などない。なので振り向いて一喝すると、ジャックは大人しく引き下がっていった。

 

「ふふっ。ジャックさん、意外と恐妻家ですのね」

「親指姫のお尻に敷かれていますね、ジャック~?」

「やっぱりそうなのかな、これ……」

 

 引き下がった先でシンデレラとかぐや姫に笑いかけられている。その会話内容についてちょっと思うところはあるが今はこちらが優先。親指姫は改めて赤ずきんに向き直った。

 

「……で? 何で赤姉に私たちのイチャラブに口を挟む権利があんのよ?」

「ここは仮にもダンジョンの中だ。メルヒェンやナイトメアに不意打ちされることだってある。あたしたちはともかく、周りが全然見えてないあんたたちは危なすぎるよ。そこを襲われたら一たまりもないだろ?」

「そ、そりゃあそうだけど……」

 

 嫉妬か何かかと思いきやまさかの正論。意表をつかれながらも何とか言い返そうとしたが胸の中の怒りは途端に萎んでいく。

 確かに先ほどは場所も状況も忘れてついついジャックと話し込んでしまった。赤ずきんに声をかけられなければあのままキスの一回や二回はかましていたかもしれない。というかジャックはどうか分からないが少なくとも親指姫はかますつもりだった。

 

「まあ、ジャックはともかくあんたがそこまでイチャつきたくなる事情は面白おかしく見てきたあたしたちだから良く分かるよ。だからあんたたちを守ってやったって別に良いんだけどさ、あんたたちは全然周りが見えてないから……そのせいで取り返しのつかない事態が起こる可能性はゼロじゃないんだよ?」

「っ……!」

 

 馬鹿にしているわけでも面白がっているわけでもない。赤ずきんは本気で心配してくれていた。そして周りどころかその心配さえ見えていなかった親指姫は自分がどれだけ愚かだったかを理解した。

 唐突に失われてしまうかもしれない今を楽しむために素直になったというのに、それで危険を作り出していれば本末転倒だ。何よりも自分でそこに気付いていなかったことが許せなかった。

 

「あんたたちだってそれは嫌だろ? 自分のせいで相手が傷つくなんてのはさ」

「……そうね。赤姉の言う通りだわ。もうあんな気持ちを味わうのはこりごりよ……ごめん、赤姉。怒鳴ったりして……」

 

 大切な人を失う絶望と悲しみ。それを本当に味わうこと、あるいはそれをジャックに味わわせること。どちらも絶対に嫌だ。

 親指姫は素直に頷き、赤ずきんに頭を下げた。しかし返ってきたのは別段気にした様子も無い眩しい笑みだった。

 

「良いって良いって! ちゃんと分かってくれたならそれで十分だよ。帰ったら二人で好きなだけイチャついて良いから、探索中だけはもうちょっと控えなよ?」

「分かったわ、赤姉……そういうわけだからジャック! 今日からは探索中にイチャイチャするのは禁止だからね!」

 

 振り返り、ジャックへと指を突きつけて言い放つ。思い通りに触れ合えないのは辛いが、安全のためには仕方ない。後でその分もイチャつけば良いだけの話だ。

 

「うん。残念だけど仕方ないよね。僕のせいで親指姫や皆を危ない目にあわせるわけにはいかないよ」

「私も同じ気持ちよ。あ、そういえばさっきは悪かったわね。あんたにも怒鳴ったりして……」

 

 宥めようとしたジャックを怒鳴りつけたことを素直に謝罪する親指姫。しかしこちらも気にした様子は無く、あっさり笑って許してくれた。

 

「ううん、気にしないで。最近の親指姫は素直になっちゃったから、あんな風に理不尽に怒鳴られる機会も減ってちょっと寂しかったところだし」

「怒鳴られる機会が減って寂しいって……あんた、マゾ?」

「マゾじゃないよ。それに……赤ずきんさんにあんなに食ってかかるくらい僕とイチャイチャしたがってるんだって分かって、嬉しかったから……」

「と、当然でしょ……今だって私、あんたとキスしたい気持ちを抑えてるんだから……」

 

 愛するジャックと触れ合える時間は何物にも変え難い、もっとも幸せで心安らぐ時間。それを奪われるとなれば相手が誰だろうと黙っていられるはずが無い。ジャックだって気持ち自体は同じはず。

 まあ親指姫の一喝で小さくなって引き下がってしまったジャックだ。赤ずきんに食ってかかることができるとは到底思えないし、それを望むのは酷というものだろう。

 

「う、うーん……それも良いけど、僕は抱きしめながらキスしたいなぁ……」

「だ、だからそういうのがダメだって言ってんの! 今は我慢しなさい! そ、その代わり、帰ったら好きなだけして良いわ……」

 

 親指姫が赤ずきんに食ってかかった事実が余程嬉しいらしく、ジャックは今にも抱きつきたそうにうずうずしていた。

 それ自体は別に構わないしむしろ望む所なのだが、親指姫の中では触れ合いではなくイチャつきに分類される。だから今は安全のために厳禁だ。

 

「……いや、だからあたしは今みたいにイチャつくの止めろって言ってんだけどさ」

「嘘でしょ!? 今の会話のどこにイチャついてる要素があったってのよ!?」

「た、ただ話してただけだよね、僕たち……?」

 

 なのでまたしても注意されたことでジャックと共に目を丸くしてしまった。まさか見詰め合って言葉を交わしているだけでイチャラブに分類されるとは。

 

「どこと言われても会話の始まりから終わりまで全てです~」

「イチャラブの定義は良く分からないのだけど、不思議と苛立ちを覚える会話だったわ」

「苛立ちは覚えませんでしたけれど、その……何だか照れ臭くなる会話でしたわね……」

「う、うむ。ワレも何故か顔があちゅい……熱いぞ!」

「自分でも気付けないくらい、親指姉様が自然にイチャイチャできるようになるなんて……う、ううっ……!」

「……ん……感無量……!」

「あはははっ! むりょー!」

 

 赤ずきんの偏見かと思い他の少女に視線を向けたものの、どうやら偏見ではないらしい。残念ながら妹たちを含めてほとんど皆がイチャついていると断定していた。

 

「えぇー……私たちがおかしいの?」

「どうだろう。もう自分じゃ良く分かんないよ……」

 

 お互いに夢中になり過ぎで自分を見失いがちだし、確かにちょっと感覚が麻痺している自覚はある。今やキスで終わる仲などではなく同じ部屋の同じベッドで寝起きしている上、身体さえ許しあう仲なのだ。今の親指姫たちにとってキスは最早ただの挨拶。もちろん愛情表現でもあるが、する時の気安さは挨拶とほぼ変わらない。

 とはいえまさか物理的に触れ合ってもいないのにイチャついていると言われるとは。あまりの認識の違いに親指姫とジャックはお互いに見詰め合って首を傾げるしかなかった。

 

「……あははっ。ダメだなぁ、見詰め合ってると何だか頬が緩んできちゃうよ」

 

 しかし見詰め合っているとジャックの表情にはすぐに微笑みが広がった。親指姫への深い愛しさを感じる、優しい微笑みが。

 

「あんた自制心無さすぎでしょ。少しは私を見習いなさい」

「見習えって言ってもそういう君だって笑ってるじゃないか。しかも僕より嬉しそうだよ?」

「し、仕方ないじゃない! あんたの笑顔見てると勝手にこっちも笑顔になんの!」

 

 自分が抱いている愛情の方が強いので、もちろんこちらも同種の笑みを浮かべている。見詰め合っていると堪らない愛しさが胸の内に溢れてきて、どうしても頬が緩み笑顔になってしまうのだ。以前までは照れ臭さで無意識に軽い暴力や罵倒に移れたというのに、今や無意識にじっくり堪能するようになってしまった。

 以前も今もほとんど変わらないジャックはともかく、どうやら親指姫は呆れるほどの天邪鬼か頭が痛くなるくらい素直になるかの二択しかない両極端な性格だったらしい。

 

「あーあ、ダメだこりゃ……」

「ふふふ。関係初期の頃と比べると親指姫は別人のようだわ。恋愛というのはそこまで人の内面を変えてしまうものなのね」

 

 本当に手の施しようがないくらいにお互いに夢中になっている親指姫とジャック。そんな二人に赤ずきんは心底悩ましそうに頭を抱え、グレーテルは興味深そうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 





 呼吸するようにイチャつく様はまごうことなきバカップル。2章あたりではアレだったのにこんなことになってしまうとは……。

 そういえば残念なことにメアリスケルター2が発売延期になったらしいです。6月末から7月中旬に。なんてこった。
 そんなわけでイチャイチャさせて何とか間を持たせる予定です。本編も楽しみだけどやっぱり恋獄塔の方が楽しみかもしれない……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。