タイトルは何かこれが相応しいような気がしました。ちなみに「ねこねここねこ」で私の頭に最初に浮かぶのは、某RPGのけん玉を武器にする少年魔法使い。あんまり面白い格好が他に無いのでずっと着ぐるみだった記憶があります。
そういえばメアリスケルターでは親指姫は大体ずっとブラッドウィッチでした。一見まともな格好に見えるのに実際には太股むき出しのえっちぃ格好。上はちゃんと厚着なのに下はブルマみたいなのが堪りませんね!
(うーん……親指姫、大丈夫かな。苛められてないかな?)
物資販売所で適当に時間を潰し黎明に戻ったジャックは、真っ先に食堂を目指して歩いていた。
もうそろそろお昼なので空腹といえば空腹だがそれが理由ではなく、もちろん親指姫のことが心配だから。ずっと食堂にいるはずが無いとしてもやはり確認しておきたくなるくらい。それに販売所で商品を物色している時も気になって気になって仕方なかった。やはりジャックの頭の中はもう親指姫のことしか詰まっていないらしい。
ちなみに今日はイチャイチャする相手を連れずに一人で行ったせいか、くららは普通に歓迎してくれた。しかし毎日のように目の前でイチャイチャされていたせいできっと毒されてしまったのだろう。帰り際にはいまいち刺激が足りない感じの物足り無い顔をされた。ここまで来るともう申し訳ないとしか言いようが無い。
「おっと。ちょうど良いとこにきたね、ジャック? ちょっとこっち来なよ」
罪悪感と不安を抱えながら皆の部屋の前を歩いていると、唐突に赤ずきんが姿を現した。何故かジャックと親指姫の愛の巣、もとい部屋の中から。
「あっ、赤ずきんさん。親指姫は無事なの?」
「無事ってあんた、あたしたちが何すると思ってたんだ……良いからちょっとこっち来て耳を澄ませてみなよ?」
一旦眉を顰めた後、眩しい笑顔で扉を叩きジャックを招いてくる。何だかとても楽しそうだ。というか結局親指姫はどうなったのか。赤ずきんの言葉に従うためというより、親指姫の安否を確認するために歩み寄っていく。
「それよりも赤ずきんさん、親指姫は――っ!?」
その時――にゃーん。
そんな可愛らしい鳴き声が扉の向こうから聞こえて、ジャックは息を呑んだ。一瞬耳を疑ったところでもう一度――にゃおーん。
(……えっ!? ぼ、僕の部屋に猫ちゃんがいる!?)
理由は分からないが間違いなくいる。いや、理由はどうでも良い。猫が部屋の中にいるという事実が大事だ。
「あ、赤ずきんさん、もしかして……」
「ああ、とっても可愛い猫だったよ。たぶんもの凄くあんた好みの猫じゃないかな?」
ニヤリと笑いながら頷く赤ずきん。どうして話したことも無いのにジャックの猫の好みが分かるのか一瞬気にかかったものの、やはりそんなことはどうでも良い。
「そっか……よし、怖がらせないようにゆっくり行かないとね。触らせてくれる猫ちゃんだと良いなぁ……」
部屋の中の猫を刺激してしまわないよう、慎重に扉を開けていく。その最中に聞こえたのは――にゃー。どことなく怯えたような鳴き声だ。
元々猫は警戒心の強い生き物。経緯は不明だが状況的にはこの部屋に閉じ込められたのと同じ。こちらを警戒するのは無理も無い。できればそのお腹に顔を埋めてモフモフしたいがさすがにそれは難しいだろう。
(せめてちょっとで良いからナデナデしたいなぁ。一体どんな猫ちゃんなんだろう?)
期待に胸を躍らせながら少しずつ扉を開いていく。しかし不意に頭に浮かんだ懐かしい出来事に自然と手が止まった。
(そういえば前にもこんなことがあったっけ。あの時は親指姫が猫の鳴き真似をして狭い所にいるのを誤魔化そうとしてたんだよね)
それは交際を始める前のこと。
親指姫は狭い所が好きで安心できるらしく、あの時は廊下の物陰で隠れるようにして安らいでいた。しかし偶然通りかかったジャックに物音を聞かれ、猫の鳴き真似をして誤魔化そうとしたのだ。まあ結果的には逆に興味を引いて引き寄せてしまい失敗していたものの、鳴き声は完璧に本物の猫のそれであった。
(猫の鳴き真似本当に上手だったなぁ。できればもう一回くらい聞いてみたいけど、さすがにそんなこと頼むのはおかしすぎだよ……)
猫の鳴き真似をして欲しい、などとお願いするのは明らかにおかしい。ジャックに夢中な親指姫でもさすがにそれは引いてしまうだろう。思わず苦笑するジャックはそんな儚い願いを振り払うと、開いた扉の隙間から部屋の中を覗き込んだ。
「――え?」
そして、固まった。予想外の光景に対する驚きのあまりに。
部屋の中には猫は一匹も見当たらなかった。中からあんなに可愛らしい鳴き声がしていたのに。
しかし代わりに女の子が一人カーペットの上に座り込んでいた。何故か赤い髪の間から黒い猫耳を生やした、愛しい愛しい親指姫が。
「にゃー……」
その口から零れたのはどことなく元気が無さそうな、本物としか思えないほど完璧に再現された猫の鳴き声。
そう、つまりさっきまでの鳴き声は親指姫の口から出ていたものだったのだ。
(な、何て……何て可愛い猫なんだ!!)
正気を取り戻したジャックが一番最初に抱いた思いはそれであった。どうして親指姫が猫耳をつけているのかとか、どうして酷く機嫌が悪そうなのかとかは二の次で。
もうこの可愛らしさの前では理由や疑問などどうでも良かった。ジャックにまじまじと自分の姿を眺められているせいか、親指姫は不機嫌そうな表情のまま頬を染めて視線をそらしてしまう。しかしその反応もまた可愛らしい。
「これが親指への罰だよ、ジャック。猫耳つけて猫の真似して過ごすっていう面白おかしい罰さ。なかなか似合ってるだろ?」
「うん。それはもうびっくりするくらい似合ってるよ。でも本当にこんなのが罰なの? 親指姫はともかく僕にとっては全然罰でも何でもないんだけど……」
猫真似を強制されている親指姫はだいぶ恥ずかしそうで機嫌も悪そうだが、当然ジャックの方は痛くも痒くもない。というか胸の中が暖かくて油断するとにやけてしまいそうなくらい幸せな気持ちだ。
あと気を抜くと今すぐ走り寄って撫で回したい気持ちでもある。
「これは親指への罰であんたへの罰じゃないからね。心配しなくても次はあんたの番にしてやるから楽しみにしてなよ?」
「あ、あんまり楽しみにはしたくないかな。今の親指姫みたいなことを強制されると思うと……」
思わず自分が今の親指姫と同じ仕打ちを受けた場合のことを考えてしまい、怖気に震えてしまうジャック。
可愛らしくて意地悪な恋人にリボンを付けられるという屈辱を受けたことはあるものの、あの時はリボンを付けるのみで人語を封じられたりはしなかったし、後でご褒美にいっぱいキスしてもらった。しかし今回の場合は人の言葉を話すことすら許されない上にご褒美も無しだ。それはあまりにも辛すぎる。
「だったら探索中にイチャつくのを止めるよう努力しな。さてと、それじゃあ本格的に罰ゲーム開始だ! ジャック、そこの機嫌悪そうな猫を散歩に連れてってあげな!」
「にゃっ!?」
以前は頻繁に見られた面白おかしそうな笑みを浮かべ、機嫌悪そうな猫を指差す赤ずきん。当然ながら指されたのは親指姫であり、猫真似しながらの散歩という惨たらしい仕打ちを命じられ目を丸くしていた。
「えっと……ちょっと良いかな、赤ずきんさん?」
「ん? どうしたのさ、ジャック。リードが必要なら用意してやるよ?」
「い、いらないよそんなの……そうじゃなくて、散歩ってことは今の親指姫を連れて外に出ないといけないってことだよね? 今の、猫みたいな親指姫を……」
「当たり前じゃんか。人前であんな格好でにゃーにゃー言うのはさすがに今の親指でも辛いだろ?」
「にゃー……」
視線を向けられた親指姫は覇気の無い鳴き声を零し、酷く疲れを感じる表情であらぬ方向を見る。さすがに生まれ変わって成長を遂げた親指姫でもこれは辛い仕打ちのようだ。まあ考えるだけでジャックでも辛いのだから当然と言えば当然だが。
しかしこれは自分たちを罰し律するために必要な仕打ち。愛する人だけでなく、他の皆までも危険に晒す可能性を失くすために。辛くなくては意味が無いし、止めて欲しいとお願いできる立場でもない。
「……ごめん、赤ずきんさん。今の親指姫を連れて外に出ることだけは許してもらえないかな?」
それでもジャックは願ってしまった。自分の心の内に生じた想いにあらがえず。
「ジャックー? いくら親指が可哀想だからってそれは認められないよ。これは親指を辱めるのが目的なんだからさ」
「ち、違うよ。親指姫が可哀想とかじゃなくて……いや、可哀想は可哀想なんだけど……そうじゃなくて……」
「……にゃ?」
厳しい視線を向けてくる赤ずきんから目を逸らして親指姫の姿を見る。理由が分からないせいか首を傾げ、丸い緑の瞳でじっとこちらを見上げてきている。
赤のツインテールはまるで尻尾のように揺れているし、鳴き声はもう本物としか思えないほどの再現性。恋人としての贔屓目を抜きにしても声も姿もとてもとても可愛らしい。
だが贔屓目もプラスされているジャックが感じたのはただの可愛らしさではなかった。頭に付く言葉は『とても』でも『非情に』でも、『死ぬほど』でも無い。
「あ、あんなに可愛い親指姫の姿、他の男に見せたくないんだ……できれば、僕だけが見ていたいなぁって……」
「にゃっ!?」
自己中心的にも『他の男に見せたくないほど』だった。
「うわー……!」
そんな答えが返ってくるとは予想もしていなかったのだろう。赤ずきんは可愛らしくも頬を染めるとちょっと反応に困ったように視線を彷徨わせていた。
「ダメ、かな? 代わりに僕が幾らでも罰を受けるから、それだけは許して欲しいんだ」
「あー……わ、分かったよ。あんたにそこまで言わせるなんてよっぽどだからね……出歩かなくて良いけどその代わりこの区画ではずっと猫のままでいてもらう、ここまでなら妥協してやるよ」
「う、うん。ありがとう、赤ずきんさん……」
しっかり頭を下げて頼み込んだ結果か、それともあまりにもらしくない言葉を口にしたせいか。とにもかくにも外を出歩くことは勘弁してもらえた。
髪飾りに近いものを身に着けただけでその姿を他の男に見せたくないなど子供っぽいにもほどがある想いだ。しかしそれでも見せたくないと思ってしまったのだから仕方ない。
「それにしてもジャックがそんな独占欲いっぱいのこと言うなんてびっくりだよ。あんた本当に親指のことが好きなんだね……」
「にゃあにゃあ!」
呆れを通り越して感心すら見える顔で呟く赤ずきんと、笑顔で可愛らしい鳴き声を上げる親指姫。猫語が分かるわけではないが何となく『あったりまえよ!』と言っているように聞こえた。
「さて、と。じゃあ散歩は無くなったしそろそろお昼ごはんにしようか。ジャック、食堂に行くよ?」
「そうだね。じゃあ親指姫、おいで?」
「……にゃー」
思わず本物の猫を呼ぶような言い方をしてしまうと、親指姫はちょっとむっとした顔をしながらもジャックの下へと歩み寄ってきてくれた。歩くと揺れるツインテールはやはり尻尾のように見えてとても可愛らしい。
恋人としての贔屓目もあるのは間違いないが、この可愛さを感じているのはジャックだけではないはずだ。なので頬を緩ませつつ隣の赤ずきんの表情を盗み見ると、もちろんそこにはジャック同様の微笑みが広がっていた。ただし、明らかに何か企んでいる悪い微笑みが。
「おっと、何やってんのさ親指?」
「にゃ?」
「あんたは猫なんだから二足歩行で歩くなんておかしいだろ? ちゃんと猫らしく歩きなよ。這いつくばってさ」
「にゃあっ!?」
そしてあまりにも鬼畜な命令がその口から飛び出した。
よく親指姫にドSと言われるジャックだが、たぶん今の赤ずきんのように嫌らしい笑みで鬼畜な命令をする人をドSと言うのだろう。
「あ、赤ずきんさん、さすがにそれは……」
「あたしだってここまではやりたくないよ。でもこれはあんたたちのためでもあるからね。あたしも罪悪感を堪えて心を鬼にするさ」
「だったらどうして笑ってるの……?」
言っている事はもっともだが明らかに楽しそうな笑みを浮かべているので説得力に欠けていた。
というか薄々勘付いてはいたが赤ずきんやかぐや姫は罰ゲームにかこつけてジャックたちで楽しむことが目的ではないだろうか。
「ま、どうしてもできないっていうなら別にやらなくて良いよ。ただしその代わり――親指はお留守番、だね?」
「……っ!!」
「あ、それでも良いんだ。うん、じゃあそうしなよ親指姫。お昼は運んできてあげるからね」
楽しむことが目的だと思ったが意外にも優しい対応。確かに部屋でお留守番なら誰の目にも留まることはない。なのでジャックはそれを薦めたものの、何故か親指姫は酷く不安そうな表情をしていた。
「あはははっ、ジャックは優しいなぁ。でもそういうことじゃないんだよ」
「え、そういう意味じゃないの? あ、もしかして僕と一緒に食べたいのかな? じゃあ僕もこっちで君と一緒に食べるよ」
「にゃぁ……」
(……あれ、そういうことでもないのかな?)
この提案にも表情は晴れない。
一体何が不安なのだろうか。少なくともジャックには原因が分からなかった。
「どうする親指? 大人しくお留守番するか、それとも猫みたいに四つん這いで歩くか。さあ、どっちか選びな!」
「ウウゥゥゥゥゥ……!」
踏ん反り返って命じる赤ずきんに威嚇染みた唸り声を上げる親指姫。
もしかするとお留守番と言う言葉には何か別の意味が含まれているのかもしれない。そうでもなければ悩む必要も無い選択肢に対して屈辱と羞恥で顔を真っ赤にするはずがない。
「えっ、親指姫……!?」
そして、そんな表情をしながらも床に膝を付こうとするわけもなかった。
「うわー、本当にやる気だよ……やっぱりあんたらお互いのこと本当に大好きなんだなぁ……」
「にゃー! にゃにゃー!」
床に両膝を突いた親指姫が呆れた様子の赤ずきんを睨み上げつつ何かを言う。ジャックの理想も幾分入った予想だが、恐らく『好きあってんじゃないわ! 愛し合ってんのよ!』だと思われる。
(……何だか良く分からないけど、親指姫は僕のためにここまでしようとしてるんだ。それなら、僕だって……!)
親指姫はジャックのために猫真似しながら床を這い蹲るという屈辱的な選択をしたのだ。最近はやたらに世話を焼かせてしまっている上、元々は照れ屋で恥ずかしがりな親指姫にここまでさせる。一生を共にするパートナーとしてはさすがに指を咥えて見ているわけにはいかない。
ここでジャックがすべきことは、耐え難い辱めから愛する少女を救い上げること。
「――にゃっ!?」
「おおっ!? ちょ、ジャック!?」
故にジャックは文字通り親指姫を救い上げた。膝の裏と背中に腕を回し、その小柄な身体をお姫様抱っこすることによって。
別に身体を抱きしめることは初めてではないしもっと凄いことをした経験が何度もあるのに、腕の中の可愛らしい子猫は赤くなって縮こまっていた。場違いにも一瞬だけこのままベッドに運びたいと思ってしまうジャックだった。
「今の親指姫は猫なんだからこんな風に抱き上げて運んだって構わないよね、赤ずきんさん?」
「そ、それは認められないよ、ジャック。これは親指への罰なんだから」
「だからって女の子に地べたを這い蹲らせるなんていうのはやり過ぎだよ。幾らなんでもそんなの見過ごせるわけないじゃないか」
「けどあんたの要求はさっき呑んだばっかりだし、これじゃあ罰ゲームの意味もほとんど無くなるしさ……」
赤ずきんは多少困った顔をするが認める気は無いらしい。
しかし猫真似くらいならともかくとして、四つん這いで床を歩かせるなど明らかに罰ゲームの範疇を超えている。男ならまだしも相手は女の子。それも自分の愛する少女だ。そんな恥ずかしい真似は絶対にさせない。
「……そっか。どうしても認めてくれないなら僕にだって考えがあるよ、赤ずきんさん」
「考え?」
「にゃー?」
「赤ずきんさんにだって僕の血は必要だよね? どうしても認めてくれないっていうなら――赤ずきんさんにはもう僕の血を使わないことにしようかな?」
「なっ……!?」
「にゃぁ……!」
さすがにこの発言には二人とも大きく目を剥いていた。
しかしそれも当然だ。今のは完璧に否定のしようもなく脅迫なのだから。血式少女の穢れを浄化できる唯一の血を持つジャックがそれを使ってあげないというのは、普通の人間で言えばどんな怪我をしても絆創膏から痛み止めまで治療道具は何も与えないという極めて惨い仕打ちに近い。
まさかこんな脅迫をされるとは夢にも思っていなかったのだろう。赤ずきんは悔しさを噛み締めるようにしながらジャックを睨みつけてきた。
「つ、ついに本性現したね、ジャック! この鬼畜野郎! あたしはあんたが誠実な奴だって信じてたのに!」
「たぶん赤ずきんさんが一番信じてなかったと思うんだけどな。僕が鬼畜だって噂を広めたのも確か赤ずきんさんとかぐや姫だった気がするし……」
その信頼がでたらめなことは分かっていたので裏切った罪悪感は特に無かった。
むしろ胸の内にあったのは晴れ晴れとした達成感と誇らしさだ。これで親指姫の気持ちに報いることができたのだから。
「それに親指姫は赤ずきんさんに食ってかかってくれたからね。僕もこれくらいはしないと君の愛情に示しがつかないよ」
「にゃー……」
腕の中の親指姫に微笑みながら語りかけると、若干夢心地の表情がじっと見上げてくる。
親指姫はジャックとのイチャラブを禁止されそうになり、赤ずきんにあんなに威勢良く食ってかかった。全ては愛するジャックと触れ合うことが何よりも幸せで、何物にも変えがたい時間だと思ってくれているから。
ならばその気持ちに応えるのは当然というものだ。それに自分の抱いている愛情の方が親指姫のものよりも大きいのだから負けていられない。
「どうするの、赤ずきんさん? どうせ僕は鬼畜だってことになってるんだから今更躊躇ったりはしないよ。親指姫を守るためでもあるんだから」
「わ、分かったよ! もうあんたの好きにしたら良いさ! けど今あたしを脅迫したことは皆に言い触らしてやるから覚悟しときな、ジャック!」
「もともと諦めてるから別に良いよ。ありがとう、赤ずきんさん。じゃあ僕たちは部屋でお昼にするね」
酷く不本意な気持ちをその悔しげな表情に滲ませ、指を突きつけてくる赤ずきん。
すでに調教と洗脳を行ったという謂れの無い罪を受け、更にケダモノ認定までされているジャックだ。今更噂が一つ増えた程度で堪えはしないし、その程度で親指姫を救うことができるなら安いものだ。
「親指姫、どこか行きたいところがあるなら僕がこうやって連れてってあげるよ。これなら這い蹲ったりしなくて済むから恥ずかしくないと思うけど……これはこれで恥ずかしかったりする?」
お姫様抱っこで運ばれる、というのはまた違った恥ずかしさがあるはずだ。なので一応尋ねてみたのだが、そこは生まれ変わった上に成長を遂げた親指姫。
「……にゃー!」
「わぁっ! あはははっ。くすぐったいよ、親指姫!」
嬉しそうに笑うとジャックの頬に軽くキスし、あまつさえ舌でぺろっと舐めてきた。さながら本物の猫がやるように、可愛らしく。
「あー、親指も満更でもなさそうだ……この罰ゲームは失敗だったかな……」
そんな仲の良い触れ合いを行うジャックたちに対して、赤ずきんは敗北感を露にしながら呟いていた。
しかし何か楽しいことを思いついたのだろう。その痛々しい表情は次の瞬間ニヤニヤ笑いと化していた。たぶん本人にとっては楽しいことでもジャックたちにとっては真逆に違いない。
「……ところでさ、ジャック。最近親指との夜はどうなってんの?」
「え……ええぇぇぇぇぇぇ!?」
「にゃあぁぁぁぁぁぁ!?」
ニヤけた口から飛び出したのはプライベートを浮き彫りにしようとする悪意に塗れた質問。これにはさすがにジャックも親指姫と共に耳を疑った。
「いやぁ、あれっきり夜にあんたたちの部屋から何も聞こえてこないから気になるんだよ。もしかしてあんたたち、もうそういうことはしてないってこと?」
「え、あ、その……」
もの凄く恥ずかしい話題だと言うのに躊躇いも容赦もなく踏み込んでくる赤ずきん。その頬はちょっとだけ赤くなっているものの、親指姫に比べれば微々たる物だ。というかこの場で一番赤くなっているのは恐らく燃え上がりそうなくらい顔が熱いジャックだ。
「あんたの要求を二つも呑んだんだからそれくらい教えてくれたって良いだろ? それにあたしたちの安眠にも関係あることだしね。あーあ、あの夜は変な声が聞こえてきて眠れなかったな……」
「う……そ、そのことは確かに悪かったけど……」
言っていることはもっともだが頷くのには途轍もない抵抗がある。
何せ話す内容は自分と親指姫の夜の生活について。話す相手は仮にも女の子の赤ずきん。これで躊躇い無く何もかも話せる男がいるとしたらまともな神経を持っているかどうか疑いたくなる。
「ど、どうしよう、親指姫……?」
困り果てたジャックは腕の中の親指姫を降ろし、助けを求めた。情けないが親指姫はお互いに支えあいたいと言っていたし、話す内容はお互いのプライベートの最も深い所にある。ジャックが自分の考えだけで話して良い事ではない。
それにジャックとは違い、赤ずきんほどではないが親指姫もこういった話にはそこそこ慣れてきているのだ。ならば助けを求めるのは当然と言える。
「にゃううぅぅぅ……にゃあ!」
しばし苦渋の滲む顔をして唸っていたものの、親指姫は決意漲る表情で頷いた。指を三本立てた手を突き出しながら。恐らくこれは許す質問の数に違いない。
「み、三つまでってことだね? それで……あ、赤ずきんさんは具体的に何を聞きたいのかな?」
「そうだね……じゃあ一つ目はこれだ。あんたたち、どれくらいの頻度でそういうことしてる?」
(うわぁ……!)
いきなり核心に迫る質問を浴びせかけてくる赤ずきん。それもニヤリと笑いながら。
今気がついたが恐らくこれはジャックへの辱めだ。親指姫は猫真似しか許されていないので身振り手振り以外では答えられない。はいかいいえで答えられる質問以外は全てジャックが言葉として口にして答えなければいけないのだ。どうやら酷く性質の悪い脅迫を行ったことで赤ずきんの不興を勝ってしまったらしい。
「えっと……ど、どうして、してるかどうかを先に聞かないの?」
「してるかどうかもこの質問で分かるから必要ないよ。だから質問を消費させようたって引っかからないよ、ジャック? ほら、早く答えな」
「う、うぅ……!」
考えを読まれていた上、答えを嫌らしい笑みで催促される。よりにもよって女の子相手にこんな話をしなければならないとは。
泣きたい思いを抱えつつもジャックは何とか口を開いた。隣の親指姫が羞恥を堪えるように身体にしがみついていくるのを感じながら。
「ふ、二日に……一回、くらい……たまに、二回……かな……」
「それほとんど毎日じゃんか……あんたもずいぶん元気だね、ジャック?」
(うぅ、恥ずかしい……どうして赤ずきんさんたちはこんな話題を平気で口にできるんだろう……)
意味ありげに笑いかけてくる赤ずきんの笑みを見ていられず、俯いて視線を逸らしてしまうジャック。
たぶん本人の性格とかも理由として考えられるが、一番の理由は周りに同年代の女の子が多いせいだろう。ジャックの周りには女の子が多いせいで針のむしろ状態だ。女の子特有の悩みや問題は向こうで共有できても、こっちは一人なので自分ひとりで抱え込むしかない。
「さてと、二つ目は……何であんたたちの部屋からそういう声がきこえなくなったのか、だね」
「そ、それは……一旦壁紙剥がして、防音素材で壁を覆ったからだよ……それから、あんまり声を出さないようにしてるから……」
「あー、だから壁があんな状態になってんだ……それにしても、声を出さないようにか。へー?」
(あ、そういえば新しい壁紙探さないと! 親指姫がバリバリに破いちゃったからもう酷い有様になってるしね! あはははっ! ははは……はぁ……)
ちょっと逃避してみるがやはり恥ずかしい現実からは逃れられなかった。
ちなみに部屋の壁紙は引き剥がされたものを貼り直して所々をテープで補修した状態なので実に不恰好な有様だ。何故そうなったのかというと半狂乱になった親指姫が防音素材で壁を覆うために全部引き剥がしてしまったから。
「質問はあと一つだけか。さーて、何にしようかな?」
「お、お願いだからもう恥ずかしいのは勘弁して欲しいな……」
赤ずきんたちと違ってジャックの心はさほど強くないのでそろそろ壊れてしまいそうだ。さすがに親指姫のように半狂乱になったりはしないが、泣き寝入りくらいはするかもしれない。
「仕方ないなぁ……分かったよ、それならこれだ。ジャック、あんたは猫耳つけてにゃーにゃー言ってる今の親指に襲いかかりたいって思ってたりするのかな?」
「全然分かってくれてない……!」
というか下手をすると今まで一番酷い質問だ。
こんな特殊な格好と状況に置かれた女の子に劣情を催しているかどうかと言う、明らかにジャックだけを狙い打ちした惨たらしい質問。やはり脅迫の仕返しに違いない。
「ほら、答えなジャック。親指もあんたの答えを待ってるよ?」
「にゃぁ……」
「う……」
見れば腰の辺りにしがみついている親指姫は不安げな顔をしてこちらを見上げていた。
こんな不可思議な状態の自分に劣情を催す変態なのか、それとも催さないまともな人間なのか、あるいは状況も状態も関係なく自分に魅力を感じてくれているのか。残念ながら今の親指姫が何を不安に思っているのかジャックには分からなかった。
「……うん。思ってるよ……」
分からないから、素直に自分の本音を口にするしかなかった。一瞬とはいえできればこのままベッドに運んでたっぷり愛でたい、的なことを考えてしまったのだから。
「へー……」
その答えに赤ずきんが口にしたのは驚きとも感心ともつかない頷き。もちろん顔は当然のようにニヤついている。言葉が無いからこそ一体何を考えて何を感じたのか分からず、余計に心が傷つくジャックであった。
(うぅ……親指姫、きっと幻滅しただろうな……)
安心したのか、落胆したのか。親指姫はジャックの答えに俯いてしまったので結局不安を払拭してあげられたかどうかは見た目では分からない。
だがこんな猫の鳴き真似しか口に出来ない上、猫耳をつけている女の子の姿に劣情を催すなどちょっと普通とは思えない。だからきっと親指姫もジャックのことを変態と思ったに違いない。
昼食を運ぶために親指姫を部屋の中に残して赤ずきんと共に食堂へ向かう中、ジャックはちょっぴり泣きそうになってしまった。数々の辱めと親指姫に変態と思われたであろう事実に。
そして何も言わずただニヤニヤ笑いながら視線を向けてくる赤ずきんのドS加減に。
実は親指姫の例のイベントを見た時からこんな話を考えていました。にゃーにゃー言う女の子とか可愛いよね。
さりげなく明るみに出る二人の情……もとい事情。まあ年頃の男女ならちょっとお盛んなくらいがちょうど良いと思いますし、別にあり得なくも無いと思います。そもそもジェイル内は娯楽も少ないでしょうし……。
それからメアリスケルター2延期のお詫びの一つである恋獄塔のPS4テーマが現在配信中です。もちろん早速ダウンロードしてそれにしました。
ただ若干見にくいのと上に並んでいる人たちの顔が見えないのが困りもの。PS4の起動画面ってレイアウトできたかな……。