ジャック×親指姫   作:サイエンティスト

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 鬼畜なジャックのお話の続き。親指姫は果たしてどんな目に合うのか。
 何だか今回は年齢対象がちょっと怪しい気もしますが、恐らくは大丈夫なはず……。





鬼畜な微笑み(後編)

 朝食を全力で喉の奥に掻きこんだ後、親指姫は販売所を目指してひた走っていた。

 さすがにものの数十秒で完食とはいかず、掻きこみ過ぎて喉に詰まらせたりというアクシデントもあったために完食にはそれなりに時間を要してしまった。もちろん赤ずきんたちはそんな必死になる親指姫の姿を見られて大変嬉しそうであった。相変わらず趣味の悪い奴らである。

 まあ今はもっと趣味が悪そうで性根の腐った奴のことが優先だ。というか可愛い妹のことが心配だった。もしも尾行していることがバレたなら、今の鬼畜なジャックはきっと白雪姫を人気の無い路地裏に連れ込み、あんなことやこんなことを――

 

(うあああぁぁぁぁぁ!! そ、そんなことしたら絶対許さないわよ、ジャック!!)

 

 色々な感情に顔が火照るのを感じながら、親指姫は販売所への道を全力で駆けて行く。行き交う人々がたまに驚いた顔をするものの、もちろん完全に無視だ。確認するのは人気の無さそうな路地裏だけ。

 しかし幸いにも路地裏には妹を弄ぶジャックの姿は無かったため、特に問題も無く販売所の正面へと到着した。恐らく二人は中にいるはず。白雪姫はまだ見つかっていないのか、それとも見つかってしまったのか。不安と緊張を覚えながらも販売所の戸を開けて中に足を踏み入れる。

 目の前に広がった光景は訳の分からないもので埋め尽くされた店内。そしてまばらにいる客と思しき者たち。その中に何だか嬉しそうな顔をした可愛い妹の姿を見つけ、親指姫は心の底から安堵した。

 

「あー、良かった。無事みたいね、白雪――って!?」

 

 ただし駆け寄ろうとしたところで妹の隣にいる奴に気付いてしまう。

 積まれた商品の影で見えなくなっていたものの、そこにいたのは間違いなくジャックであった。しかも何故か白雪姫とがっちり手を繋いでいる。

 

「な、何がっちり手繋いでんのよあんたは!? 今すぐその子から手を離しなさい!」

「えっ――うわっ!?」

 

 すぐさま駆け寄った親指姫は手刀をその手に叩き込み、無理やり二人の手を離させた。もちろん叩き込んだのはジャックの手だ。

 そして白雪姫を背後にかばい、ゲス野郎を睨みつける。

 

「こ、この子は悪くないんだからね! 私があんたを見張るように命令して、この子は従っただけなんだから! 罰か何かを与えるつもりなら、私が代わりに受けるからこの子は見逃しなさい!」

 

 何で手を握っていたのかは良く分からないが、恐らく白雪姫は尾行がバレて捕まってしまったに違いない。

 だとすれば鬼畜なゲス野郎と化したジャックは絶対に何らかの罰を与えようと考えているはず。それもきっと口に出すのもおぞましくいかがわしい罰だ。絶対に愛する妹をそんな目に合わせるわけにはいかなかった。例え自分がどうなろうとも。

 

「……そっか。じゃあ白雪は見逃してあげるよ。ただし、親指姫には後でおしおきだからね?」

「お、親指姉様ぁ……」

 

 しばし迷った様子を見せた後、ジャックは表面上だけは優しく笑いながら了承してくれた。背後では白雪姫が酷く心配そうな声を上げていたが、親指姫が退けば可愛い妹が酷い目に合ってしまうのだ。たとえどんなおしおきが待っていようと退く訳にはいかない。

 

「じょ、上等じゃない! いかがわしいお仕置きでも何でも好きにしなさいよ、この変態!」

「親指姫、そういうこと声高に言うのは止めようよ……」

 

 なので強気に言い放った所、ちょっと頬を染めたジャックに諌められてしまう。

 頭の中では妹たちの純潔を奪うことを考えている癖に、一体コイツは何を恥ずかしがっているのか。

 

「良くやったわ、白雪。だけどコイツの近くにいるのは危険よ。あんたはもう帰りなさい」

「あ、は、はい。分かりました、姉様……」

 

 ジャックが恥ずかしがっている隙に背後に視線をやり、白雪姫にそう促す。ジャックは白雪姫を見逃してくれたものの、それは尾行に関してのみだ。この場に長居させると別の理由でおしおきをされてしまうかもしれない。

 白雪姫もそれが分かっているらしく、素直に親指姫の言葉に従い販売所を出て行った。ただ去り際に何だかちょっと残念そうな顔をして見えたのが少し気にかかったが。

 

「……それで親指姫、ちゃんと朝ごはんは残さず食べてきたの?」

「食べてきたわよ、残さず全部! あんたのせいで喉に詰まって死ぬかと思ったわ!」

「それは急いで食べる君が悪いんじゃ……あれ? 頬っぺたに何かついてるよ?」

「えっ、ど、どこよ?」

 

 ジャックに指摘され、親指姫は慌てて自分の頬を触って確認する。大急ぎでかっこんで脇目も振らずに駆けて来たので、そんな醜態を晒していたかと思うと気が気でなかった。

 

「……ここだよ、親指姫?」

「ひゃっ!?」

 

 そんな恥じらいと不安に襲われる中、あろうことかジャックは頬をぺろりと舐めてきた。販売所の中とはいえ、周りに人がいる状態で。当然親指姫は恥ずかしくなってきて、すぐさま顔が火照ってきた。

 

「あははっ。顔真っ赤だよ、親指姫。照れてる親指姫は可愛いなぁ」

「こ、この……! 覚えてなさいよ、ジャック……!」

 

 羞恥に打ち震える親指姫を見て、あろうことかジャックは朗らかに笑う。一発殴ってやりたい所だがこのジャックは鬼畜なジャック。愛する妹二人という弱みを握られている以上、親指姫は拳を握って怒りと羞恥を堪えるしかなかった。

 

「……何か、アレっすね。いつもとちょっとイチャつき方が違う気がするっす。もしかしてプレイの一環ってやつっすか?」

「あはは。まあ、そんなところかな?」

「いや、違うでしょ!? 笑顔で大嘘こいてんじゃないわよ!」

 

 そして一連の騒動を見守っていたくららが口にした疑問に対し、大ぼらを吹いて答えるジャックにまたしても怒りを覚えてしまう。

 間違ってもこんなものはプレイではないし、プレイらしいプレイなどしたこともない。猫耳をつけたりにゃーにゃー言ったりするのはあくまでも遊びの一環である。

 

「……本当にどうしたんすか? いつも通りにイチャついてもらわないと何だか調子が狂うっすよ」

 

 普段と親指姫たちのイチャつき方が違うことに気が付いたらしく、そんな毒されているとしか思えないことを口にしてくるくらら。

 同棲のための模様替えに必要なものを手に入れるため、以前から販売所デートを毎日のように繰り返していたせいで完璧に毒されたらしい。今ではいつも通りにイチャイチャしないとむしろ文句を言われるほどになってしまった。

 

「あー……まあ、コイツ色々あってグレーテルに催眠術かけられたのよ。そのせいで見境の無いもの凄い鬼畜になってるからあんたも気をつけなさい、くらら。たぶんあんたもコイツの好みよ」

「え、ええっ!? そ、それは困るっすよ! 自分には心に決めた人が――あっ、いや、何でもないっす!」

 

 念のためくららに注意を促したところ、真っ赤な顔で意味深な言葉を返される。

 心に決めた人とやらが誰なのかは前から見当がついているものの、本人が隠せていると思っているなら口にしないのが優しさというものだろう。故に親指姫は今回も何も言わないことにした。

 

「……ところで、今さっき催眠術とか言ったっすよね。グレーテルさん、本当にそんなことできるんすか?」

「じゃなきゃ私のジャックがこんなおかしくなるはずないじゃない。ていうかその気になれば他の女を好きにならせることもできるみたいよ。全く恐ろしいことするわよね、アイツは……」

 

 こんな鬼畜なジャックと過ごさなければいけないのは極めて苦痛であるが、それも他の女に好意を向けさせないためもの。万が一アリスやかぐや姫、そして催眠をかけるグレーテル本人などに好意を向けるようにおかしくされたら堪ったものではない。そんな危険な状況を招かないために、親指姫はこの鬼畜と過ごす時間を耐え忍んでいるのだ。

 

「そ、そんなことができるんすか!? じ、自分、ちょっと急用を思い出したっす! それじゃあお二人さん、さいならっす!」

 

 恨みつらみ、それと不平不満を込めて答えたのだが、どうもくららはその内容に心惹かれるものがあったらしい。極めて真剣な表情を浮かべたのも束の間、近くにいた人に店番を任せるとそのまま販売所から走り去って行った。

 あまりにも唐突な出来事ですぐには追いつけず、しばらく親指姫もジャックも走り去ったくららのすでに見えない後姿を眺めていた。

 

「……急用って、グレーテルのとこ行くのかしらね?」

「たぶんそうなんじゃないかな。話を聞くだけのつもりなら良いんだけど……」

 

 事態に追いついた後ぽつりと予想を零すと、ジャックはそんな極めてまともそうな言葉を発した。

 人の心を弄ぶのだって大好きなはずの鬼畜で極悪なジャックの癖に、催眠術を否定するようなことをのたまったのだ。これには親指姫も心底驚き、その顔をじっと覗きこんでしまう。

 

「ふーん……今のあんたなら催眠術で無理やり惚れさせるのだって好きなんだと思ったけど、意外とまともなこと考えるじゃない」

「えっ!? そ、そう……かな? 僕はただ、催眠術になんか頼らないで自分の力で何とかした方が楽しい気持ちに慣れるんじゃないかなって思って……」

「……つまり、惚れさせるより無理やりやった方が好みってことね!? 本当今のあんたはとんでもないゲス野郎だわ! 最低よ!」

「あはは……うん、そうだね。僕はゲス野郎だね……」

 

 わざとらしくも自嘲気味の表情で零し、視線を逸らすゲス野郎なジャック。

 どうやら催眠が解けたのかもしれないと一瞬でも考えてしまった親指姫が馬鹿だったらしい。ジャックは催眠術で従順にさせるより、無理やり従わせて嫌がったり泣いたりする反応を見たがっているのだ。

 

(やっぱこんなゲスいこと考える奴、一人にさせておくことなんて絶対できないわ! 何が何でもコイツを傍で見張ってないと! ていうかもう外にいるのもマズイんじゃない、これ!?)

 

 仮に今のジャックが親指姫に似た自分好みの女の子を見つけた場合、果たしてどんな行動を取るのか。人畜無害そうな見た目で警戒を抱かせずに近づき、甘い言葉と優しい言葉を巧みに交えて誘い込み、そこらの路地裏に連れ込む。今のジャックならそれくらいのことはやりかねない。

 もう今日はずっと二人で部屋に閉じこもっているのが賢い選択なのかもしれない。例え親指姫が部屋の中でどれだけ鬼畜で変態的な真似をされることになろうとも、その方が周囲にとって安全なのは確かだろう。

 

「さ、さてと……親指姫、それじゃあ何か掘り出し物が無いか探してみようか?」

「い、良いわよ、そんなの! そんなことより、今日はもうさっさと帰るわよ!」

 

 心と覚悟を決めた親指姫は、気を取り直すような顔をして店内を見回すジャックの腕を問答無用で引っ張っていく。もちろん自分たちの部屋へと帰るためにだ。

 

「えっ、もう帰るの? いつもみたいに一緒に仲良く買い物とかしないの?」

「今のあんたとそんなことする気なんてないわよ! あんたは私と部屋で大人しくしてれば良いの!」

「……そっか、そうだね。うん、じゃあ早く帰ろうか?」

「な、何よ、変に素直じゃない。もしかしてあんた、何か企んでるんじゃないでしょうね?」

 

 抵抗されるのも覚悟の上だったのだが、意外にも大人しく従ってくれる。親指姫には逆にそれが酷く不気味で仕方なかった。今のジャックなら自分の思い通りにならない展開など認めないと思っていたのだ。

 そんな思いを込めた疑惑の視線を向けると、ジャックは朗らかに笑いを返してきた。

 

「別に何も企んでないよ。ただ親指姫にはおしおきをしないといけないから、そのためにも部屋に戻る方が良いなって思ったんだ」

「お、おしおき!?」

 

 そして口からはやはり鬼畜な言葉が飛び出してくる。しかしこれはちょっと予想外だったため、思わず飛び上がってしまう親指姫であった。

 

「うん。だって君が白雪の代わりに罰を受けてくれるんだよね? それに君自身も言ってたじゃないか。いかがわしいおしおきでも何でも好きにしろって」

「た、確かにそう言ったけど! 本当にお仕置きなんてするわけ!?」

「もちろんだよ。だから早く一緒に帰ろうか。それとも、君は今すぐここでおしおきして欲しかったりするの?」

「っ……!」

 

 ちょっと恥ずかしそうに頬を染めながらも、そんな鬼畜な発言を容赦なく口にしてくるジャック。人前で行うのが鬼畜なジャックにとっても恥ずかしいとは、一体どこまでいかがわしく過激なおしおきをするつもりなのか。

 無論親指姫にはそんな趣味も無ければ性癖も無いので、この場でやられるくらいなら二人きりの方が断然マシ。

 

「ああ、もうっ! この変態! 人間の屑! あんた後で覚えてなさいよ!」

 

 故に悪態を吐きながらも、親指姫はジャックの手を引っ張り販売所を出るのだった。

 自分たちの愛の巣とも言える二人の部屋で、愛があるかも疑わしいジャックからいかがわしいおしおきを受ける悔しさに歯噛みしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と。それじゃあおしおきを始めようか、親指姫?」

 

 親指姫と二人で部屋に戻ってきたジャックは、早速恋人へと向き直ってにっこり笑いかける。外見はいつも通りのジャックに見えるであろう表情だが、口にしている言葉は自分でもらしくないと思えるもの。故に親指姫がびくっと若干の怯えを見せたのにも納得だった。

 

(――とは言ったものの、全然気が乗らないなぁ……うぅっ……)

 

 無論これはただの演技であるため、ジャック自身は相当気が乗らない。愛する少女に怯えた様子を見せられるのも、演技だとバレないように鬼畜に振舞わなければいけないのも、何もかもがである。

 しかし演技だと見破られてしまえば追加の罰ゲームが親指姫に下されてしまう。だからこそジャックも心を鬼にして鬼畜に振舞おうと努力しているのだ。

 

「そ、それでおしおきって一体何する気よ! 何されたって、私は絶対屈したりなんかしないわよ!」

「うーん、そうだね。どんなおしおきをしようかなぁ……」

 

 警戒心バリバリでこちらを睨む恋人の姿を前にしつつ、もったいぶる様に顎に手を当て考え込むジャック。

 販売所でもだいぶ鬼畜なことを言ったおかげか、今の所親指姫はジャックの正気を疑っている様子は見られない。このままでもバレないと思いたいところだが、念には念を入れて更に鬼畜に振舞っておくべきだろう。

 

(……そういえば、赤ずきんさんもどうせなら楽しんでみろとか言ってたっけ。でも楽しむって言われても何すれば良いんだろう?)

 

 鬼畜なのはあくまでも演技なので、ジャックには親指姫を苛めて楽しむ倒錯した趣味など欠片も無い。どちらかと言えば抱きしめて可愛がるのが趣味である。

 しかし苛めるようなことをしなければ鬼畜とは言えず、演技かもしれないと疑われる可能性も出てくる。かといって痛いおしおきや苦しいおしおきをすることは心苦しくてできない。そうなると選択肢はかなり限られてきてしまう。

 

(何か親指姫、今なら本当にどんな命令でも聞いてくれそうな気がするなぁ。うーん……ちょっとくらい楽しんでみても罰は当たらないかな? アリスもそんなこと言ってたし、痛いこととかはしたくないし……)

 

 その限られた選択肢を選ぶのもちょっと躊躇いはあるが、この罰ゲームを始めるに当たってアリスや赤ずきんは言っていたのだ。以前はあれだけぞんざいに扱われていたのだから、こういう時くらいそのお返しをしてやれと。言い方や口調に違いはあったものの、意味は大体そんな感じである。

 それにジャックと親指姫は何度も身体を重ね愛し合っている大人の関係。それならこのおしおきも苦しいことや痛いことをするよりは幾分マシなはず。

 

「……じゃあ親指姫、スカートを捲ってパンツを見せてくれるかな?」

 

 なのでジャックはちょっとだけ楽しんでみることにして、おしおきの内容を口にした。とどのつまり恥ずかしくてエッチなおしおきである。

 

「はあっ!? じょ、冗談でしょ!? 何でそんなことしなきゃいけないのよっ、この変態!」

「何でって言われても、君が白雪の代わりにおしおきを受けてくれるって言ったんじゃないか。嫌なら白雪に同じことをさせても良いんだよ?」

「っ、くぅ……!」

 

 真っ赤になって怒りを露にしていた親指姫だが、ジャックが大切な妹のことを引き合いに出した途端唇を噛み締めて大人しくなる。尤も突き刺さりそうな睨みだけはそのままだったが。

 

「や、やってやるわよ、この変態! 今更パンツ見せるくらい何だってのよ!」

 

 そして自棄気味に言い放ちながらスカートに手をかける。

 だが潔かったのはそこまでで、そのまま親指姫は固まったように動かなくなった。やはりそういう雰囲気の時意外は恥ずかしさが先立ってしまうのだろう。羞恥か怒りで震える手でスカートの裾を握り締めてはいるが、捲ろうとする様子は無かった。

 

「どうしたの、親指姫? 早く見せてくれると嬉しいんだけどなぁ?」

 

 その間にジャックはベッドへ腰を下ろし、じっくり眺められるように待機する。

 煽る言葉か態度のせいか親指姫は更に不機嫌そうに瞳を鋭くするものの、今のジャックは鬼畜に振舞わなければならない。

 

「見せてくれないならやっぱり白雪姫の所に行こうかな? あ、それとも眠り姫にやってもらうのも良いかもしれないね?」

「っ……!」

 

 だからこそジャックは魔法の言葉を口にして、更に親指姫を追い詰める。屈辱に耐えかねたかの如く歯を食いしばる音が聞こえてきてちょっと怖かったものの、妹思いの親指姫が大切な妹たちを鬼畜に売り渡すはずもなかった。

 

「このっ、変態……! 後で、覚えてなさい……!」

 

 怒りに染まった罵倒を零し恥じらいにぎゅっと目を瞑りながら、親指姫はゆっくりと自らのスカートを捲り上げていく。

 ソックスに半ばまで包まれた太股、その付け根が露となり、ジャックの目は否応無く釘付けにされる。親指姫の肌を眺めるのはいつものことなのでこれくらい平気かと思ったものの、表情がいつもと違うためか妙に新鮮で興奮をそそられてしまった。

 

(な、何か凄くイケナイ気分になってきた……今の親指姫、凄く可愛い気がする……)

 

 そんな性癖は無いはずなのだが、真っ赤な顔で悔しそうに震えながらスカートを捲り上げていくその姿には妙な胸の高鳴りを覚えさせられる。

 おまけについにその全貌を表した親指姫の下着は何と赤色。本人の髪と同じ色合いなせいか妙に愛しく思えてしまい、ジャックはついつい頬を緩めてじっくり眺めてしまった。

 最低なことこの上ない反応かもしれないが、今のジャックは鬼畜に振舞わねばならないのだから丁度良い。故にジャックは頬の緩みを隠そうとせず、スカートをたくし上げて下着を晒す親指姫の姿を視線で嫌らしく舐め回して行った。

 

「も、もう、良いでしょ……! 終わりに、しなさいよ……!」

 

 それから数分ほど経過した頃だろうか。やがて羞恥に耐えかねたかの如く、親指姫が真っ赤な顔で震えながらもちょっと偉そうに懇願してくる。

 普段は下着を見られるどころか裸を見られ、それどころか色々と大人なことをしているのにこれだけ嫌がるとは一体どういうことなのか。女の子が複雑な生き物だということくらいは理解しているものの、ジャックにはいまいち気持ちが分からなかった。

 

(終わりにしてあげたいところだけど、君に演技だって気付かれるわけにはいかないからもっとやるしかないんだ……ごめん、親指姫!)

 

 気持ちは分からないが、どのみち手を抜くことはできない。

 今のジャックは鬼畜に染まった最低な男。愛する少女を苛めて楽しむ下劣な男。そう親指姫に思われているのだから、そのイメージを肯定する行為を働き簡単には演技だと見抜かれないようにしなければならない。故に絶対にこの程度で許してあげるわけにはいかない。

 

「……そうだね。じゃあ前座はこれくらいにしてそろそろ本番を始めようか?」

「は、はあっ!?」

 

 故にジャックはにっこりと笑いかけ、新たなおしおきを行うことを告げる。あまりにも予想外だったのか、親指姫はスカートをたくし上げて下着を晒したまま驚愕に目を見開いていた。

 

「ちょっと! 今のでおしおき終わったんじゃないの!?」

「僕はおしおきが一つだけなんて言った覚えは無いよ? それにどのみち君は僕に逆らえないんだし、どうでも良い事じゃないかな?」

「……っ!」

 

 拒否すれば妹たちに同じ事をすると遠回しに警告した所、親指姫は悔しそうに歯軋りしながら睨みつけてきた。

 ここまで激しく怒らせることができているなら演技は完璧と言って良いだろう。この調子でおしおきをすればその後はある程度甘く接したとしても、演技だと見破られることはないかもしれない。

 

(……よし! このおしおきを境にもう少し優しく接してあげよう!)

 

 なのでジャックはこのおしおきを境に鬼畜過ぎる真似は控えることにした。あくまでも見破られる危険性が大幅に減りそうだからであって、全てが終わり演技だと言うことを知った親指姫がどんな反応をするかが怖いからではない。まあ怖いのは確かなのだが。

 

「でも僕だってそんなに酷いことはしたくないから、お尻ペンペンで勘弁してあげるよ。そういうわけだからおいで、親指姫?」

「はあっ!? な、何でそんな子供みたいなおしおき受けなきゃなんないのよ!?」

「ん? じゃあ代わりに白雪姫にしちゃっても良いのかな? それとも眠り姫にする?」

「――っ!!」

 

 全力で嫌そうな顔をしてくる親指姫だが、やはり妹達を人質に取られれば逆らうことは出来ないらしい。怒りと屈辱を滲ませながらも、素直にジャックの下へと歩み寄ってきた。

 

「今のあんたは本当にゲス野郎ね! 分かったわよ! お尻でも何でも好きなだけぶったたけば良いでしょ!?」

 

 そして反抗心溢れる瞳で睨みつけつつ、膝の上に腹ばいになってくる。かなりヤケクソ気味なのはそれだけこの仕打ちに納得していないからなのだろう。

 

「うん、素直な親指姫は可愛いね。愛してるよ」

「……ふん! 今のあんたは私のジャックじゃないから、同じ言葉は返してやんないわよ!」

 

 心からの本音を口にするものの、今のジャックは鬼畜で最低なゲス野郎として振舞っている。演技だとは微塵も考えていないのか、親指姫は愛の言葉にそっぽを向いてしまった。ちょっと傷つく反応だがこれなら疑われそうにないので一安心だ。

 

(よし。これで演技だって疑われずに済みそうだ。問題は本当にお尻を叩かなきゃいけないことだけど……仕方ないか。ごめんね、親指姫……)

 

 安心はできるが、実際にお尻ペンペンしなければならないので罪悪感はかなりのもの。それでも覚悟はすでに固めていたので、ジャックは膝の上に這い蹲る親指姫の下着を擦り降ろして丸いお尻を露にさせた。

 

「っ、くぅ……!」

 

 悔しいのか、それとも恥ずかしいのか、親指姫はお尻を露にされて小さく呻き声を上げる。

 どちらにせよ手早く済ませてしまった方が親指姫のためになるに違いない。改めて決意を固めたジャックは右手を上げると、その手の平を小さなお尻目掛けて一気に振り下ろした。

 

「――ひゃうっ!?」

 

 パチンという小気味良い音が鳴り、膝の上の小柄な身体がびくりと震える。決して耐え難い痛みは与えないように加減して叩いているのだが、不思議なことに悲鳴と思しき声は妙に大きく、そして妙に悩ましい。

 その反応にある種の疑念を抱いたジャックは、それを確かめるためにもう一度手を振り上げ――

 

「――んっ! ん、んぅ……!」

 

 ――先ほどよりもちょっとだけ強めに平手でお尻を打った。再び上がる悲鳴とも喘ぎとも取れる声は、やはりどこか悩ましく瑞々しい。例えるならベッドの上で愛し合っている時に上げる声のように。

 

(何か親指姫、ちょっと気持ち良さそうな声出してる……もしかしてそういうのが好きだったりするのかな?)

 

 お尻を叩かれて気持ち良さそうな声を上げるということは、つまりはそういうことだろう。恐らく親指姫は苛められて喜ぶ若干マゾ的な気質があるに違いない。

 以前までは照れ隠しに軽い暴力を働いてきたり、キツイ言葉を投げかけてきた親指姫が実はM気質だったというのはかなり驚きだったものの、ジャックにとっては別段受け入れ難い性癖ではなかった。血を求めてくることに比べれば多少のMっ気くらい可愛いものである。まあアレは性癖とはちょっと違う気もするが。

 

(そういうことなら僕も大助かりだ。このまま続ければ僕は演技だって疑われずに済むし、親指姫を喜ばせることもできるし)

 

 こんなお仕置きをすることに罪悪感があったジャックだが、親指姫の性癖のおかげでその気持ちもだいぶ軽くなってきていた。というかむしろ妙に乗り気になってきたくらいだ。演技だと疑われないために振舞いつつ、親指姫を喜ばせてあげられるのだから乗り気にならない方がむしろおかしい。

 

「何だか気持ち良さそうな声出してるね、親指姫? もしかしてお尻を叩かれるのが気持ち良いの?」

「だ、誰が気持ち良さそうな声出してるってのよ! これは――んんっ! く、悔しいのを我慢してる声よ!」

 

 確認のためにお尻を叩きながら尋ねてみるものの、親指姫は瑞々しい喘ぎを零しながら頑なに否定する。

 しかしどう見ても気持ち良さそうなのは確かだ。たぶん親指姫は今のジャックが鬼畜で下劣で最低な野郎だと思っているから素直に答えてくれないのだろう。

 

「本当に? 嘘を言ったらどうなるか分かってるよね?」

「――っ、うぅ! き、気持ち良くなんか無い! 気持ち良くなんか無いわよ!」

(うーん、どう見ても気持ち良さそうな感じなんだけどなぁ……)

 

 軽く脅しをかけてみるも、やはり頑なに否定される。顔を覗きこんでみれば涙目になっているのが分かったものの、どこか若干蕩けた表情に見えるのも確か。やはり今のジャックが普通ではないと思っているから素直になってくれないのだろう。

 

(さすがにこれ以上そこを突付きまわして意地悪するのも気が引けるし、止めておこう。何より罰ゲームが終わった時が怖いし……)

 

 元々この罰ゲームが終わったらジャックは全て打ち明けるつもりでいたのだ。その時親指姫が自分への仕打ちや行動に一体どれだけ怒るのかを考えると、これ以上突っつきまわすのははっきり言って生きた心地がしなかった。

 

「……よし。それじゃあ今日はこの辺で許してあげるよ、親指姫。痛くしてごめんね?」

 

 何だかとても怖くなってきたのでおしおきはこれくらいで止めることにして、少し赤くなっているお尻を優しく撫でてあげた。ちょっと痛そうだったので擦ってあげただけで、疚しい気持ちは一切無かった。

 

「な、撫でんなぁ! 私にそういうことして良いのはジャックだけなんだから!」

(……何だろう。拒絶されて悲しいけどそんなこと言ってくれるのが凄く嬉しいや)

 

 一切無かったのだが、怒った顔をした親指姫が非常に嬉しいことを言ってくれたおかげで徐々に疚しい気持ちが湧き出てきた。

 以前に比べればかなり素直になった親指姫なので、ジャックへの気持ちを素直に口にしてくれることは最早珍しくない。だが今口にしたジャックへの気持ちはまるで第三者に語るような言い方なのでとても新鮮だった。親指姫は今のジャックが自分の愛してるジャックでは無いと思っているから、当然の言い方なのかもしれないが。

 

「何言ってるのさ、親指姫? 僕は君の大好きなジャックだよ? 催眠術を受けたってそこは変わらないよ」

「違うわよ! 今のあんたはただの最低の屑! 私のジャックはかなりひ弱で貧血でしょっちゅう倒れるもやしみたいに細い奴なのにびっくりするくらいケダモノだけど、誰よりも優しくて誠実な世界一良い男なんだからぁ!」

 

 もっとその新鮮な嬉しさを感じたくてあえて惚けてみたところ、親指姫は顔を真っ赤にして鋭く睨みながら望みの言葉を聞かせてくれた。

 何だか前半部分は愛の告白というより罵倒に近い感じもしたが、全て本当のことなのでジャックはあまりショックを覚えなかった。それに後半の言葉で気持ちが最高に昂ぶっていたから。

 

(マズイ。親指姫がそんな嬉しいこと言うから、ちょっと我慢できなくなってきた……)

 

 確かに親指姫に愛していると言われたことは何度もあるし、優しいや誠実もそれなりに言われたことはある。だが世界一良い男とは今初めて言われたのだ。

 もちろんジャック自身は自分が世界一良い男だとは微塵も思っていないが、親指姫はそう思ってくれている。愛する少女が自分をそんな風に見てくれていたことが分かり、愛しさが溢れて止められなかった。

 

「ちょっ!? や、やめっ、どこ触ってんのよ変態!」

 

 その溢れる愛しさに突き動かされるまま、気が付けばジャックは親指姫の身体を弄っていた。膝の上の小柄な身体を抱くように腕を回し、服の上から仄かな膨らみを揉みしだいて。

 

「君が凄く嬉しいこと言ってくれるから我慢できなくなったんだよ。自分の言葉の責任くらい取って欲しいな? まあ、姉妹丼とはさすがに言わないけどね……」

 

 さすがに今のジャックでも姉妹丼などというとんでもないことを口にするのは恥ずかしかったため、途中で言葉を濁しておく。幾ら演技でも他の女の子とそういうことをするなど考えられないし、考えただけで途轍もない罪悪感を覚えてしまいそうだからだ。

 

「っ、く……!」

「愛してるよ、親指姫……」

 

 なので余計なことは考えず、ただ愛しさの赴くまま親指姫に触れていく。膝の上からベッドの上へと身体を降ろし、のしかかるようにして首元に口付けながら。

 耳元では悔しそうな喘ぎが上がっていたものの、意外にも抵抗らしい抵抗はほとんど無かった。今のジャックはジャックでは無いと思っているのだからてっきり応えてくれないと思っていたのだが、この様子なら大丈夫そうだ。

 なのでジャックは親指姫の愛らしい面差しを眺められるよう仰向けにして――

 

(あっ……)

 

 ――そこでやっと自分の間違いに気が付いた。

 確かに親指姫は抵抗をしなかったが、応えてくれようとしたわけではなかった。恐らくはさっきの濁した姉妹丼発言を、拒否すれば妹達を襲いに行くと解釈していたのだろう。悔しそうに唇を噛み締め、涙を溜めた瞳で憎々しげにジャックを睨んできているのだから。

 

(今の僕とはそういうことしたくないんだ。だったら無理やりするわけにはいかないよね……)

 

 愛する少女のそんな様子を目にしたせいか、抱いていた興奮はあっという間に収まる。不完全燃焼でどこか釈然としない気持ちはあったものの、ジャックの心の中は幸せで満たされていた。

 何故なら親指姫はどこまでも一途にジャックを想ってくれていることが分かったから。

 

「……なんてね、さすがにこんな時間から変なことはしないよ。ただちょっと君の反応を見たかっただけだから心配しないで?」

 

 なのでその頭を軽く撫でてから、身体を起して親指姫の身体の上から退いた。

 ちょっぴり残念だが向こうが嫌がっている以上は仕方ないし、ここで実はただの演技だったと言えば今までの頑張りも台無しになってしまう。そういうことは今日の罰ゲームが終わるまで我慢するしかない。

 

(それにしても……親指姫、本当にいつもの僕が好きなんだなぁ。今の僕にはそういうことさせたくないくらいに。本当はいつもの僕のままだから拒絶されたのはやっぱり悲しいけど、こんなに一途に愛されてることが分かって凄く幸せな気持ちだなぁ……)

 

 本来なら相当辛い時間になるはずだが、今のジャックは幸せいっぱいなのでさほど苦ではなかった。むしろ抑えようとしても笑みが零れてしまうくらいに上機嫌である。しかしそれも仕方ない。同じジャックでも鬼畜なジャックでは駄目だと言うくらい、親指姫に心の底から愛されているのだから。

 

「……ジャック」

「ん、どうしたの? 親指姫?」

 

 そんな風に一人幸せに浸っていた所、愛する少女に名を呼ばれる。なのでジャックは上機嫌のまま顔を向け――

 

「覚えてやがれ、このゲス野郎……」

(……うん、ちょっとやり過ぎたかもしれない)

 

 ――怒りに顔を引きつらせた愛する少女の面差しを目にして、全身に鳥肌が立つのだった。この罰ゲームが終わって全てを説明した時、許してもらえるかどうかを不安に思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うー……!」

 

 ジャックからの辱めに何とか耐え忍び、約束の刻限までのあと数分を今か今かと待つ親指姫。

 催眠術を受けて変貌を遂げたジャックはやはり性根の腐った変態野郎だった。親指姫にスカートを自ら捲らせてパンツを見せろと脅してきたり、お尻を叩いた挙句にそのまま襲ってきたり。どちらも一度だけで再び同じことをされはしなかったものの、この仕打ちだけで今のジャックが親指姫の愛するジャックでないことははっきりと分かっていた。

 

「もうすぐ時間だね、親指姫? 良かったら終わりが来る前に今日の罰ゲームの感想を聞かせてもらえないかな?」

「最悪に決まってんでしょ! とっとと元に戻って私のジャックを返しなさいよ、このド変態!」

 

 傍らから向けられる優しげな微笑みはジャックそのものであるが、中身はこれ以上無いほど汚れている。親指姫の愛する男はケダモノで猫耳や猫語プレイを好む変態でもあるが、どこまでも優しい良い男。

 だからこそこんな見た目だけそっくりな奴は願い下げであり、またその好意に応える気も起きなかった。尤も完全に拒絶すれば大切な妹達に何をするか分からないため、嫌々応えるしかないのが辛い所だ。今も頬にキスしてきたので本当なら殴りつけてやりたかったが、大切な妹達のためにも我慢している。

 

「親指姫、そんなに元の僕のことが好きなの? ちょっと性格が変わっただけで僕も同じジャックなんだよ?」

「今のあんたと私のジャックを一緒にすんなっての! 私のジャックはあんたみたいな最低の屑と違って、優しくて誠実な良い男なのよ!」

「ふーん、そっかぁ……」

 

 思いっきり罵倒してやったというのに、何故かジャックはどこか幸せそうに頬を緩めていた。まるで嬉しくて嬉しくて仕方ないとでも言うように。

 

「何ニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い! あっち向いてなさいよ、この変態!」

「あははっ。でも君はそんな変態が好きなんだよね?」

「だからあんたのことは嫌いだっての! 私が愛してるのはいつもの優しいジャックよ! いつもの!」

 

 まるで自分のことのようにニヤニヤ笑う気持ち悪い鬼畜なジャック。どれだけ嫌おうが罵ろうが毎回こんな調子であり、一向に堪えた様子を見せないのだ。だからこそ親指姫はコイツの扱いに心底困っていた。

 

(あー、もうっ! 早く来なさいよ、赤姉たち!)

 

 またしても頬にキスしてくるジャックに辛抱しながら、部屋の扉と時計とを交互に見てじっと待つ。

 あと少しで罰ゲームの時間が終わり、ジャックにかけられた催眠術も解いてもらえる。そうなれば今日はジャックが鬼畜なゲス野郎に変貌していたせいでしたくなかった触れ合いがたくさんできる。だからこそ親指姫はその時まで必死に辛抱していた。

 そして約束の時間を僅かに過ぎた頃――コンコン。部屋の扉がノックされた。

 

「赤姉っ!? 終わり!? もう終わりよね!?」

「うわっ!? び、びっくりしたなぁ。あんたちょっと反応早すぎだよ、親指」

 

 その音を聞いた親指姫は即座に立ち上がり、素早く駆け寄って扉を開けた。あまりにも素早い反応だったせいか、扉の向こうにいた赤ずきんはノックするための拳を固めたまま驚きを露にしているほどだ。

 

「そんなことどうでも良いのよ! それより罰ゲームはもう終わりなんでしょ!? とっとと私のジャックを元に戻しなさいよ!」

「ふふっ。堪らなく良い顔をしていますね、親指姫~? ジャックと過ごす時間はそんなにも苦痛だったんですか~?」

 

 さも愉快そうに笑うのはかぐや姫。見れば赤ずきんの隣にはかぐや姫だけでなくアリスの姿もある。要するに今回の罰ゲームの仕掛け人が勢ぞろいというわけだ。というかグレーテルの姿が無いのだが、催眠術をかけた張本人がいなくても催眠を解くことはできるのだろうか。

 

「苦痛なんてもんじゃないっての! こいつ私の妹たちを人質に取って私にエロイ真似させたのよ!? 本当なら同じ部屋にもいたくないっつーの!」

「うわー、何やってんのさジャック。確かにあたしも楽しめとは言ったけどさ……」

「ジャック……い、いえ、ジャックが楽しんだようなら何よりだわ。ええ……」

「あ、あはは……」

 

 赤ずきんの呆れたような瞳、そしてアリスの気遣いを滲ませた瞳を向けられ、ジャックは乾いた笑いを零す。

 鬼畜で性根が腐っているはずのジャックが何故か居心地悪そうにしていることにはかなりの疑問を覚えたものの、どうせ今から元に戻してもらうのでどうでも良いことだ。故に親指姫は疑問をあっさり投げ捨て、更に赤ずきんに詰め寄った。

 

「とにかく! 何でも良いからさっさと私のジャックを返しなさいよ! てかグレーテルいないけど元に戻せんのよね!?」

「元に戻す~? 一体何を言っているんですか、親指姫~?」

「はあっ!? 何をって……ジャックを元に戻してくれるんでしょ!? 最初に約束したじゃない!」

 

 だがあろうことかかぐや姫はニヤニヤ笑って惚けるばかり。見れば赤ずきんも同じようにニヤニヤと笑っている。

 まさかコイツら、ジャックを元に戻す気はないのではないだろう。親指姫がそんな恐ろしい考えを抱いた直後――

 

「元に戻す必要なんてないわ。そもそもジャックは催眠術なんて受けていないもの」

「……は? 今何てった?」

 

 ――アリスがとんでもないことを口にした。

 あの鬼畜でド変態で最低な屑としか思えない行為を働き、あまつさえ親指姫の大切な妹達を人質にするようなゲス野郎が、実は外見も中身も間違いなく愛するジャックそのものだということを。

 

「全部ジャックの演技だったんだよ、親指。催眠術をかけたっていうのも、演技だってことをあんたに悟らせないためのもの。あんたに追加の罰ゲームをさせたくないから、ジャックは本気で鬼畜に振舞って演技してたみたいだね。結構やるじゃん、ジャック!」

「あはは……ありがとう、で良いのかな?」

「ふぅん……この反応からすると、親指姫はさっぱり分かっていなかったようですね~。残念ですが追加の罰ゲームは無しということですか~」

「よ、良かった。あれだけ酷いことしてたのにそれが全部無駄になったらどうしようかと思ってたよ……」

「ふふっ。やっぱりジャックは優しいのね。お疲れ様、ジャック」

「ありがとう、アリス。慣れないことをしたせいで何だか凄く疲れたよ……」

 

 驚愕の事実に二の句が告げず、固まってしまう親指姫の前で事実を裏付ける会話が進んでいく。

 鬼畜な振る舞いが演技だと親指姫にバレたら、親指姫に追加の罰ゲーム。だからジャックは頑張って鬼畜に振舞っていたという裏事情も。そしてジャックが間違いなく本物のジャックだという証拠である、こっちも胸が痛んでくるほど酷く罪の意識を覚えている表情も。

 

(あー、なるほど。ジャックは演技で鬼畜に振舞ってたってことね。私が見破ったら私に罰ゲームがあるから。さすが私が惚れた男、とっても優しいじゃない?)

 

 催眠術を受けていないのにあれだけ鬼畜だった理由も理解できるし、親指姫に罰ゲームを与えたくないという優しさも理解できる。立場が逆なら親指姫だって同じことをしたはずなのだから。

 だがジャックと親指姫では決定的に異なる点がある。それはジャックに比べて親指姫は――

 

「へー。あんた正気だったのね、ジャック。全然気が付かなかったわ。随分と演技が上手いじゃない?」

「っ……」

 

 ――心がそれほど広くないという点。幾ら親指姫のためであったとしても、あれだけエロいことや鬼畜な真似をされたりしたのだ。あまつさえ大切な妹たちにまでおしおきしようとしたり、ファーストキスを奪おうとしたりしていた。本気で無くとも簡単に許せるわけが無かった。

 それでも何とか抑え込んで必死に笑顔を浮かべようとするものの、頬も眉も引きつって逆に恐ろしい形相に見えたに違いない。ジャックは怯えたように一歩後退っていた。

 

「よし、用事は済んだしあたしは部屋に戻ろうかな! ジャック、強く生きなよ!」

「ふふふっ、次の罰ゲームでも今回のような面白さを期待していますよ~?」

「おやすみなさい、ジャック。また明日。親指姫、何をする気かは分からないけれどあまりジャックに酷いことは――」

 

 さも面白そうに笑う二人にも牽制してくる元恋敵にももう用は無いため、扉を閉めてジャックへと向き直る。

 そこに立っていたのは間違いなく本物のジャック。親指姫の顔を見て心底怯えた様子を見せる、演技していた時の強気な様子が欠片も見当たらない情け無い姿であった。

 

「お、親指姫……もしかしなくても、怒ってるよね……?」

「ジャックー? あれだけ私に鬼畜なことしといて、ただで済むとか虫の良いこと考えてんじゃないでしょうね?」

 

 にっこり笑いかけながら一歩足を踏み出すと、同時にジャックは一歩後ろへ下がる。その様子は完璧に腰が引けて情け無い姿だ。ついさっきまではアレだけ別人のように振舞っていたというのに。

 

「も、もちろんそんなことは考えて無いよ? でもあれは君に演技だってバレたら君への罰ゲームが追加されちゃうから、バレないように頑張っただけで……」

「そのわりにはあんた随分楽しそうだったじゃない。ニヤニヤ笑って楽しんでたのよねぇ?」

「う、うぅ……! それは、君の反応が素直じゃない頃にそっくりで、可愛くて懐かしくてつい……うわっ!?」

 

 そのままじりじりと距離を詰めて行った所、やがてジャックはベッドに足を取られて腰を降ろしてしまう。当然ながらもう逃げ場など無く、怯えた様子で見上げてくるジャックを親指姫はにっこりと見下ろした。

 

「覚悟はできてるわよねぇ、ジャックー? 歯ぁ食いしばりなさい?」

「っ……!」

 

 抵抗する気はないのか、目を瞑って何かに耐え忍ぶような表情で固まるジャック。どうやら自分が怒られても殴られても仕方ないことをしたとはっきり理解しているらしい。全く随分と情け無い様子だ。

 その鬼畜だった時とは似ても似つかない様子に一つ小さく溜息を零してから、親指姫は怯えるジャックへ向けて更に一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

(うぅっ、何されるか分からないけど凄く怖い……!)

 

 足を取られてベッドに腰を降ろしてしまい逃げられなくなったジャックは、恐ろしい笑顔で迫ってくる恋人の姿を前にして固く目蓋を閉ざしていた。

 鬼畜に振舞ったのは他ならぬ親指姫のためだというのに罰を与えられるのはちょっと釈然としない気分だが、仕返しされても仕方の無いことをしたのもまた事実。スカートを捲ってパンツを見せるように命令したり、何度もお尻を叩いたり。あまり気の長い方ではない親指姫なのだから、むしろ今まで良く堪えていたと褒めるべきだろう。

 だからジャックは何をされても抵抗はしない心持ちでいたのだが――

 

「っ……あ、あれ? 親指姫?」

 

 ――特に自分への罰らしい罰は行われなかった。親指姫が行ったのはどちらかといえばいつも通りのこと。つまりジャックの膝の上に座り、ぎゅっと抱きついてきたのだ。

 

「まったく、もう……後で覚悟しときなさいよ、ジャック? 絶対復讐してやるんだから」

「う、うん……ごめんね、親指姫。いっぱい酷いことして」

「謝ったって許すわけないじゃない。だから謝る暇があるならもっと私を可愛がりなさい」

「うん……」

 

 胸に顔を埋めながらもご機嫌斜めな表情で見上げてくる親指姫。そんな愛らしい様子に心からの愛しさと安堵を覚えつつ、ジャックは優しく頭を撫でてあげた。

 何だかんだで今日はジャックが鬼畜に振舞っていたため、普段のようにイチャイチャしていないのだ。甘えん坊でヤキモチ焼きな親指姫からすると、それはかなり辛かったのだろう。少なくともあれだけ鬼畜な真似をされながらもまずは甘えてイチャつくことを最優先に考えるくらいには。

 

「はあっ……アレが演技だったなんて全然気が付かなかったわ。あんた、本当に根っからのクソ野郎に見えたわよ?」

「ご、ごめん。万が一にも君に見破られるわけにはいかなかったから、僕も頑張ってそんな風に振舞うしかなかったんだ……」

「とか言いつつ、あんた絶対本当は楽しんでたでしょ? 正直に言いなさい」

「う、うん。楽しかったのは否定しないよ。君の反応が懐かしかったし、凄く嬉しいことも言ってくれたし……」

 

 久しぶりにジャックに対して好意を表わさない親指姫の姿が見られたし、ジャックのことを誰よりもカッコイイ男だと思っている本音も聞けた。楽しくないわけがないし、嬉しくないわけも無い。調子に乗ってしまうのもまた仕方のないことだった。

 だが今はそこそこ素直になったとはいえ、元来素直でなかった親指姫だ。さすがにあまり口にしない類のジャックへの本音を吐露したことが恥ずかしいらしく、顔を真っ赤に染めていた。

 

「ま、全く! やっぱあんたは見かけによらずドSね! 後で絶対復讐してやるから覚えてなさいよ!」

「それはもう仕方ないから別に構わないんだけど、どんな仕返しをする気なの? 痛いのはできれば止めて欲しいな?」

「ふん、それはその時のお楽しみよ! でも、私が鬼畜に振舞っても絶対コイツには効果無さそうだし、どうすれば良いのかしらね……いっそ逆に突き抜けてみるのもの良いかも……」

(ほ、本当に何をする気なんだろう、親指姫……)

 

 教えてはくれず、ジャックに抱かれて頭を撫でられながらぶつぶつと一人思案している親指姫。ただ『逆に突き抜ける』の他にも『ジェノサイド』という単語が聞こえてきたため、間違っても穏やかで可愛らしい復讐ではなさそうだ。というかむしろこれ以上考えさせない方が身のためである。

 

「そ、それより親指姫、一つ聞きたいことがあるんだ。あの鬼畜な僕といつもの僕なら、どっちの僕の方が良い?」

 

 なので話題を変えることで恐ろしい計画を立てさせないように試みる。

 一応は成功したものの、どうやら尋ねた内容に問題があったらしい。親指姫は頬を染めながら恨めしそうな目を向けてきた。

 

「あんた分かってて言わせようとしてるでしょ? まだ演技が抜けきってないんじゃない?」

「あははっ。実はそうなのかもしれないね。それで、どっちの僕の方が良いの?」

「いつものあんたよ、いつもの! 私の優しくてカッコイイジャック! あーもうっ、これで満足!?」

「うん。ありがとう、親指姫。そう言ってもらえて僕も嬉しいよ」

 

 そしてはっきり本音を言い放つと、再びジャックの胸に顔を埋めてくる。たぶん今に限っては甘えるよりも真っ赤な顔を隠すための行為に違いない。

 鬼畜なジャックならそこを突付いてからかうくらいはしなければいけないが、幸い今のジャックはいつも通りに振舞える。だからこそジャックはそれ以上何も言わず、可愛らしい恋人を優しくかき抱いて愛を伝えた。

 

「で、でも、何ていうかその……いつもと違って変に大胆で意地悪なあんたも悪くなかったっていうか、結構ドキドキしたわ。もしジャックが催眠術とかで操られてじゃなくて、自分の意思でこういうことしてきたら……そんな風に考えてたら、何かそれほど嫌じゃなかったのよね……」

「えっ……?」

 

 しかしその最中、親指姫はそんな意味深な感想を腕の中で零した。捉え方によっては苛められるのが嬉しかったとも解釈できる、非常に意味深な感想を。

 ちょっとどころかかなり驚くカミングアウトだったが、冷静に考えてみると納得のことであった。

 

(そういえば親指姫、お尻を叩いている時に気持ち良さそうにしてたっけ……)

 

 昼間に白雪姫の代わりにおしおきを受けさせた時、お尻を叩かれながらも親指姫はどこか気持ち良さそうな声を零していたのだ。あそこまで鬼畜な真似をされながらも快感を覚えてしまうあたり、やはり親指姫はそういう性癖を持っているに違いない。まあ普段のジャックなら絶対にやらないことだから新鮮で、という理由もあるにはあるのだろうが。

 

「親指姫、やっぱり苛められるのが好きな子だったんだね?」

「ち、ちが――くない、のかしら? もう分かんないわ、自分でも……あんたはそういう女の子、嫌い?」

 

 否定はせず、どこか不安げな瞳で見上げてくる親指姫。そんな事実と様子にジャックが抱いたのはもちろん嫌悪やその他の悪感情ではなく、溢れんばかりの愛しさであった。

 

「あははっ。君のために自傷までして血を舐めさせてあげてる僕だよ? 今更その程度のことで嫌いになったりするわけないじゃないか」

「あー、そうだったわね……何か、逆にどこまで行ったらあんたに嫌われるのかちょっと興味出てきたわ。幾らなんでも心広すぎじゃない?」

「そうでもないよ。だってこれでも僕は怒ってるんだからね」

「は? 何で怒ってんの?」

 

 予想だにしない発言だったのか、不思議そうに首を捻って見上げてくる。そんな様子にますます愛しさを煽られながら、ジャックはにっこりと笑いかけた。つい先ほどまで鬼畜に振舞っていた時の心持ちを思い出しながら。

 

「親指姫、嘘ついたよね? 本当は僕にお尻を叩かれて気持ち良くなってたのに、気持ち良く無いなんて言って」

「あー……そ、それは……ひゃっ!?」

 

 言葉を濁す親指姫に対し、抱きしめていた手の片方を滑らせ小さなお尻を鷲掴みにする。そして驚愕と恥じらいによる身体の動きは、もう片方の手で固く抱きしめ押さえ込む。それらをジャックはにっこり笑ったまま行った。さしずめ先ほどまでの鬼畜に振舞っていた自分のように。

 

「嘘つきの悪い子にはおしおきしないとね。だから今からはおしおきの時間だよ、親指姫?」

「……やっぱり、そういうあんたも結構悪くないわ」

 

 自分の意思でジャックが鬼畜なことをしてきたらと考えると、それほど嫌ではなかった。どうやらその言葉に嘘は無かったらしい。小柄な身体を抱え上げてベッドに横たわらせても、親指姫は全く抵抗を見せずされるがまま。というかむしろ嬉しそうですらある。

 もう罰ゲームは終わったが愛する少女がそれを望み幸せを感じてくれるのなら、鬼畜に振舞うことくらい訳は無い。

 故にジャックはもう少しだけ鬼畜に振る舞い、親指姫を苛めてあげるのだった。普段よりもちょっとだけ、意地の悪い愛し方で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 この後、滅茶苦茶愛し合いました。
 察しの良いお方は気付いていると思いますが、親指姫が考えている復讐方法はジェノサイドなアレです。要するに次の親指姫のお話はR18のジェノサイドエッチです。
 まあハーレムの方のお話もあるので、ジャック×親指姫の話はこれでお終いというところですかね。基本的にはハーレムの方でもジャック×親指姫も書けますし、もし書く時はそっち側でになると思います。というわけで長らく読んで下さった方々、ありがとうございました。親指姫最高!
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