ジャック×親指姫   作:サイエンティスト

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 前回、何やら(一方的に)仲違いしたような二人。その後のお話。
 実はこのジャック×親指姫がただの妄想だった時点では前回で致しちゃう感じのお話もありました。でもお互いに血塗れな上お外での初めてとかさすがにロマンの欠片も無いのでやめました。ちょっとそれは猟奇的すぎる……。




ジャックの受難

「あ、ちょうど朝ごはんだったんだね。おはよう、皆」

 

 翌朝、すっかり回復したジャックはちょうど朝食の席であった食堂に顔を出した。

 昨日の親指姫との一件は仲間を連れてきた白雪姫たちにより一応の解決を迎えた。とはいえ裸で抱き合っていたという驚愕の事実は知られていない。幸いにもその頃にはジャックの体調も峠を越えていたため、皆が辿りついた時にはすでにお互い衣服をきちんと身に着けた状態だったからだ。そのためジャックとしては一安心の所であった。

 ただジャックが大怪我をしたことや大量出血で動けなくなるほど弱っているのは普通にバレてしまったため、元街道沿いエリアから黎明の救護室まで赤ずきんにお姫様抱っこで運ばれるという惨い仕打ちを受けてしまった。特に解放地区を通るあたりで感じた好奇の視線が一番辛いものであった。

 まぁ本当に一番辛かったのは、親指姫があれから一切口を利いてくれなかったことの方なのだが。

 

「あら。御機嫌よう、ジャックさん。もうお身体の方はよろしくて?」

「まだ休んでいなければ駄目よ、ジャック。無理はしない方が良いわ」

「ううん、もう大丈夫だよ。皆、心配かけてごめん」

 

 未だジャックの体調を心配してくれているシンデレラとアリスに笑いかけ、体調の良さをアピールする。今回は一日休んでしっかりと回復しているので、眩暈が起きたり倒れたりすることもない。

 強がっているわけではないと皆も分かってくれたらしく、一様に安堵の吐息を漏らして微笑みを浮かべていた。

 

「ふふっ。すっかり回復したようね、ジャック。普段通りの青白い肌で安心したわ」

「どこ見て安心してんのさ、あんたは……まあ体調戻ったみたいで何よりだよ、ジャック。朝ごはん出来てるからいっぱい食べて体力付けなよ?」

「待っててください、ジャックさん! すぐに白雪が食事の用意をしますから!」

「うん。ありがとう、白雪姫」

 

 やはり安心した様子の白雪姫がすぐさま席を立ち、ジャックの朝食の準備に走る。厚意によるものなので断ったりはせず、お言葉に甘えて席について待つことにした。

 

(あれ……?)

 

 その間周囲に視線を巡らせてみたのだが、まだ朝早いせいか皆が席についているわけではなかった。まだ寝ているのか何人か少女たちの姿が見えない。今一番ジャックが気になる少女の姿も。

 

「ねぇ、赤ずきんさん。親指姫たちはまだ起きてきてないの?」

「ん? かぐやとネムは当然としてラプとハーメルンは起きてきてないけど、親指はそこに……って、あれ?」

 

 スプーンでテーブルの一角を指す赤ずきんだが、そこには食べかけの朝食があるだけ。

 どうやら今の今までそこにいたようだがいつのまにか席を立っていたらしい。気がつかなかったのか赤ずきんも首を傾げている。

 

「ついさっきまでいらしたのに……お手洗いでしょうか?」

「そっか……うん。それじゃあ、いただきます」

 

 それなら特に気にすることはないだろう。挨拶をするのは後に回して、ひとまずは白雪姫が用意してくれた朝食を頂くことにした。

 親指姫が戻ってきたなら、二人きりで話をしようと心に決めて。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、結局親指姫はジャックが朝食を終えても食堂には戻ってこなかった。

 ちょっと疑問に思ったが女の子である親指姫には色々あるのだろう。あまり詮索すると失礼になるかもしれないので特に深く考えはせず、ジャックは朝食の後片づけを終え一旦部屋へ戻ることにした。

 

「ちょっとネム、こんなとこで立ったまま寝てちゃ駄目よ。二度寝したって良いからせめて朝ごはん食べておきなさい」

「ん、んー……」

(あ、親指姫だ……!)

 

 そしてその最中、廊下で困り顔の親指姫と八割くらい夢の世界にいる眠り姫の姿を見つけた。傍らには同様に眠そうで目蓋が落ち気味のハーメルンの姿もある。

 しかしジャックに最も強い反応を生じさせたのは親指姫だ。何せその姿を目にしただけで心が浮き立ち、とても幸せな気持ちになってきてしまったのだから。

 たぶん以前までならどうして顔を見ただけでここまで嬉しくなるのだろうと不思議に思ったに違いない。ただし今はちゃんとその理由に気付き、受け入れているので戸惑いは無かった。むしろ当然とさえ思えてしまうほどだ。

 

「くくっ、睡魔に身を任せながらも身を倒さぬとはさすがは姫だ。ワレには到底にゃしえない業でありゅな……故にワレは横ににゃりて再び深き眠りにちゅく……」

「さり気なく部屋戻ろうとしてんじゃないわよ、ハーメルン。あんたも朝ごはんくらい食べときなさい。ていうかあんた寝癖凄いわよ……」

「この魔王たるワレが寝癖だと? 何を世迷いごとを……む、ジャックか」

 

 親指姫たちの前に姿を現すと、眠気にだいぶ舌が緩くなって言葉を噛み捲くり、半分目蓋が落ちているせいで途轍もなく目付きの悪いハーメルンに視線を向けられる。

 ちなみに長い銀髪は重力に逆らい猛烈に逆立っている。あれが寝癖で無いなら一体何だというのか。

 

「おはよう、ハーメルン。それから眠り姫も……半分以上寝てるみたいだけど……」

「んー……おはよう、ジャック……すー……」

 

 ジャックの挨拶に対したぶん寝言で挨拶してくる眠り姫。驚くほど器用な反応だが立ったまま眠れる眠り姫ならこれくらいは簡単なのかもしれない。

 

「それから親指姫もおは――あ、あれ? 親指姫?」

 

 なので特に言及することも無く続けて親指姫に挨拶をしようと顔を向けたのだが、あろうことか忽然と姿が消えていた。ほんのついさっきまでそこにいたというのに。

 意識の大半が夢の世界に旅立っている眠り姫はともかく、ハーメルンもたった今それに気がついたらしく周囲に視線を向けて姿を探していた。

 

「ワレに気取られずに姿を消すとは……さすがは姫の血縁でありゅな。驚愕すべき隠遁能力だ」

「……僕、何か親指姫に避けられてる気がするな……」

 

 朝食の時は偶然と思ったがさすがにこの状況では考えにくい。いくらジャックとハーメルンが傍にいるとしても、無防備にも立ったまま眠ってしまっている眠り姫を放ってどこかへ行ってしまうとは。

 それに避けられる理由には幾つも思い当たる節がある。口も利かず顔も合わせず、一秒でも一緒の空間にいたくないという感じの親指姫の反応からすると、理由はたぶんジャックが怒らせてしまったせいだ。何を言っても命を賭けるのを止めようとしてくれない、死にたがりの分からず屋だと誤解されたままでは仕方ないかもしれないが。

 

「ふむ? ジャック、貴様まさか女子を傷つけるような不埒な行為を働いたのではなかろうな?」

「そ、そんなことは……してない、よ?」

 

 そしてハーメルンの指摘により、それとは別件の失態を思い出してしまう。事故とはいえ裸を見てしまった挙句、自分の意思で許しも得ずにキスまでしてしまったのだ。これらは間違いなく不埒な行為に違いない。

 一番にそれを指摘してきた意外にも鋭かったハーメルンを騙せるとは思えないが、ジャックは何とか誤魔化しを試みてみた。まぁ視線はだいぶ泳いでしまったので確実にバレただろうが。

 

「そうであるか。ならば思い過ごしではないか?」

(あ、バレなかった……)

 

 しかしハーメルンは何の疑いも無く信じてくれた。どうやら鋭いのは眠気に細めた視線だけらしい。

 

「うーん、思い過ごしなら良いんだけどな……」

「うむ、間違いなく思い過ごしであろう! では話は終わったからして、ワレは部屋に戻るとしよう」

「うん、その前にちゃんと食堂で朝ご飯食べてきなよ。あ、できれば眠り姫も連れて行ってあげてくれるかな?」

「うぅ……心得た……」

 

 さり気なく部屋に戻って二度寝を決め込もうとしているハーメルンを引きとめ眠り姫を任せつつ、親指姫との問題をどうするべきか考え込むジャック。

 とにかく命を粗末にするような発言をしたことも不埒な行為を働いてしまったことも頭を下げてしっかり謝罪するべきだし、そうしたいというのが本音だ。罪悪感もあるが、何より親指姫に避けられていると考えるだけで酷く胸が痛んでしまうから。一刻も早く機嫌を直してもらわなければその痛みに耐えられそうに無い。

 しかしここまで露骨に避けられていると簡単には行かないだろう。何せほんのちょっと目を離した隙に掻き消えたように姿を消してしまうのだから、捕まえるのは容易ではない。

 

(でも、絶対話を聞いてもらわないと……!)

 

 それでも何としてでも親指姫に話を聞いてもらいたかった。しっかりと謝罪をした上で、自分の胸の内に芽生えた気持ちを伝えたいから。

 眠り姫の手を取り食堂に向かうハーメルンをしっかりと見送ってから、ジャックは絶対に捕まえると意気込みあたりを探して歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーメルンは親指姫に対して驚愕すべき隠遁能力だと褒めはやしていた。それを聞いた時には隠遁能力は言い過ぎだろうとちょっと呆れたのだが、今やジャックはその認識を完全に改めていた。

 

(親指姫、本当は透明になれるとかじゃないよね……?)

 

 結論から言うと親指姫に話を聞いてもらうことはできなかった。というか捕まえられなかった。

 部屋に訪ねていっても無視されるのはもちろん、時間をずらしたりしているのかもう食事の席で見かけることも無い。たまに姿を見かけた時に何とか捕まえようと試みるものの、いつもあと一歩のところで見失ってしまうのだ。

 親指姫はかなり小柄なので気をつけていても見逃してしまうのではないだろうかと考えたこともあるが、一度などは廊下の曲がり角で曲がった親指姫に数瞬遅れて曲がると、どこにも姿が見当たらなかったというあまりにも理解しがたい事態にさえも遭遇した。

 正直今や自らの能力で自分を小さくしてジャックの目を掻い潜っているのではないかと疑っているほどだ。本当にそんなことができるのかまでは知らないがそれくらい捕まえられなかった。

 

「ちょっとジャック、話があるからあたしの部屋に来な」

 

 そんな日々が五日も続いたせいだろう。ついに赤ずきんからの呼び出しがかかってしまった。呼び出し方が喧嘩に誘われているようでちょっと怯えてしまったのは秘密である。具体的には一発シメられそうな感じで怖かった。

 

「えっと……話って何かな、赤ずきんさん?」

「……ジャック、あんた親指と喧嘩か何かしたろ?」

 

 しっかり手を握られ部屋へと連行された後、話の内容を尋ねると赤ずきんは前置きも無く核心に迫ってきた。

 一応疑問系であったものの表情には一切の疑いは無く、何か後ろ暗いところがあるということは確実に見破られている。さすがにこれではハーメルンの時のように誤魔化すことはできそうもない。なのでジャックは正直に話すことにした。

 

「喧嘩はしてないよ。ただちょっと、意見の食い違いがあっただけっていうか……」

「まあ深くは聞かないけどさ、やっぱりあんたからさっさと謝った方が良いよ。親指が折れたりしないのはあんただって分かるだろ?」

「うん。だから僕は謝ろうとしてるんだけど、なかなか親指姫を捕まえられなくて……」

「徹底的に避けられてるなぁ。一体どんなこと言えばそこまで怒らせることができるのさ……」

 

 赤ずきんも自分が目にしたここ数日のジャックの避けられシーン集を思い出したのだろう。呆れ半分の苦い顔を浮かべながらも視線でじっくりとジャックを責めてくる。

 

「怒らせることを言ったのは認めるけど、さすがに僕もここまでとは思ってなかったな……」

 

 意地悪な視線と罪の意識に居心地の悪さを覚え、視線をあらぬ方向へ向けて溜息をつく。

 実際に自分の命を賭けて親指姫を助けた挙句、次からも同じように命を賭けて助けると言ってしまえば正直誰でも怒るだろう。というか逆の立場ならジャックでも怒る。

 しかし同じ立場なら親指姫も同じ事をすると言ったのだから、厳しく怒りたっぷり注意したとしてもすぐに自然といつも通りの二人の関係に戻ると思っていた。だが親指姫はかれこれ五日間怒ったままだ。それも顔を合わせないどころか同じ部屋にもいようとしないほどに。

 

「やっぱりこういうのは当人同士の問題だろうけど、もう少し頑張ってどうしても親指を捕まえられないっていうならあたしのとこにきなよ。ふんじばるなり閉じ込めるなりして話できるようにしてやるからさ」

「ありがとう、赤ずきんさん。気持ちは嬉しいけどさすがにそこまではしてくれなくて良いよ」

「本当にー? 親指の様子見る限りだとそれくらいしないとあんたとは顔合わせそうにもないよ?」

「僕もそう思うけど、そんなに乱暴な真似したら余計に怒らせそうな気がするからね……」

 

 ただでさえ徹底的に避けられているというのにこれ以上親指姫を怒らせたらどうなるか分かったものではない。

 許して欲しければやはり正攻法で正面から行って謝罪するしかないのだ。正面から行って捕まえられるかは別として。

 

「それもそうか。ま、頑張って早く仲直りしなよ、ジャック。いい加減あたしも皆も気まずくて堪んないからさ……」

「う、うん。頑張るよ……」

 

 やはり気を揉んでいるのは赤ずきんだけではないらしい。自分のためにも皆のためにも、ジャックは一刻も早く親指姫と仲直りすることを心に決めて部屋を出た。

 

「――あ!? 親指姫!?」

「うげっ……!」

 

 その瞬間、ちょうど赤ずきんの部屋の前を通りかかったのか件の親指姫とエンカウントした。

 

(チャンスだ! 今すぐ捕まえ――今『うげっ』て言われた!?)

 

 ジャックにとっては非常に幸運だったが親指姫にとっては最低の不運なのだろう。ジャックの顔を目にした瞬間露骨に眉を顰められた。その上何か『うげっ』とまで言われた気がする。

 

「……っ!」

「ちょ、ちょっと待って親指姫! 少しで良いから話を聞いて!」

 

 そして始まる追いかけっこ。だが今回は一歩踏み出せば何とか触れられそうな近距離で始まった。妨害が無ければ今回こそは捕まえられる。

 そう息巻くジャックはツインテールとスカートをたなびかせて走る親指姫の後を全力で追った。廊下の角を曲がる親指姫だがいかんせんジャックとの距離が近いためいつものような隠遁能力は発揮できないはずだ。これなら勝てる!

 

「っ――白雪! そこで両手両脚広げてそのまま待機!」

「え!? は、はい、分かりました!」

「し、白雪姫ー!?」

 

 しかし今度は訪れた運が逆転する結果となってしまった。

 角を曲がったジャックが目にしたのは、何が何だか分からない顔をしながらも姉の唐突かつ意味不明な命令を愚直に実行し、行く手を遮るように両手両脚を広げた白雪姫の姿だった。その隣には困惑気味のアリスの姿と、奥の方には親指姫の後姿。

 今までの経験からすると今更後を追ってもまた姿を見失うだけだ。残念ながら今回もジャックの敗北である。

 

「はぁっ……惜しかったな。今日こそは捕まえられると思ったんだけど……」

「え? あ! すみませんジャックさん! 白雪、邪魔してしまいましたか!?」

 

 がっくり肩を落として溜息をついてしまうジャックに、自らの行動が及ぼした結果を理解したらしい白雪姫。邪魔をされたのは確かだが悪気があったわけではないので、別に責める気は無かった。

 

「ううん。白雪姫のせいじゃないよ。素直なのは良いことだもんね」

「さすがに今の反応を素直と表現するのはどうかと思うのだけれど……ジャック、まだ親指姫に避けられているのね」

「う、うん。もう五日くらいになるかな」

「うーん……どうして姉様はそんなにジャックさんを避けているんでしょうか……」

 

 あまりにも徹底的に避けられているせいかその理由については皆詮索しようとはしないのだが、やはり気にはなるのだろう。白雪姫は独り言のように呟いていたものの、視線はちらちらとこちらに向けられていた。

 

「それは僕が怒らせることを言ったせいだよ。さすがにここまで徹底的に避けられるようになるとは思ってなかったけど……もしかして僕、親指姫に嫌われたかな……」

 

 あまり考えたくない可能性だがここまで避けられているとなると嫌われたのだとしてもおかしくはない。

 おまけにその嫌いな奴が自分の姿を見るたびしつこく追いかけてくるのだから、怒りが増すことはあれど収まることはないだろう。これでは自分の気持ちを伝えても受け入れられはしないどころか、仲直りすら怪しいところだ。

 

「ジャック、あなたが親指姫に何を言ったのかは知らないのだけれど……そもそも親指姫は本当に怒っているの?」

「え? もちろんだよ。だって僕の話を全然聞いてくれないどころか、顔を合わせようともしてくれないんだから。さっきは不意のことだったから何とか顔を合わせることはできたけど、僕を見た途端『うげっ』って言ってたしね……」

 

 聞くまでもないであろうことを尋ねてくるアリスに、先ほどの親指姫の反応を伝えるジャック。さすがに顔を見られて『うげっ』はかなり傷ついたので誰かに聞いて欲しかったのだ。

 

「そ、そうなんですか……でもさっきの親指姉様、怒っているような顔はしていませんでしたよ?」

「え、怒ってない……ああ、じゃあ嫌そうな顔してたってことかな? さすがにあれだけ追い回せば嫌がられても無理ないよね」

(……あれ? もしかして僕のやってることってストーカーじゃないのかな?)

 

 冷静に考えてみると親指姫の姿を探して歩き回り、姿を見かけると追いかけていくジャックのやっていることは普通にストーカーではないだろうか。

 そんなストーカーを魔法で撃退したりはせず避けるだけなあたり、親指姫にしては非常に優しい対応な気もする。

 

「いいえ、そういった悪感情の表情はしていなかったわ。あれはむしろ、その……恥じらい、という表現が近いかしら?」

「え……恥じらい……?」

 

 首を振ったアリスの口から出てきた予想外の言葉に、思わず自分の耳を疑うジャック。

 聞き間違いかと思って今度は白雪姫に視線を注ぐが、どうやら同じ考えだったらしく首を縦に振っていた。

 

「はい。親指姉様、何だか凄く恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていましたよ?」

「え、本当にそんな顔してたの? 僕への怒りで顔が真っ赤になってるとかじゃなくて……?」

「いいえ。その、ジャックがそんなことをするはずは無いと分かっているのだけれど……あなたにとても恥ずかしいことをされて、必死に逃げてきたような顔をしていたわ」

「ぼ、僕に恥ずかしいことをされて、って……僕はそんなことした覚えは……あ」

 

 あった。十二分にあった。

 お願いしたわけではないが、裸でお互いに抱きついて身体を暖めてもらったこと

 そのために必要だったとはいえ、ジャックの衣服を全て親指姫に脱がせてもらったこと

 事故だったとはいえ、親指姫の裸を上から下までじっくり眺めてしまったこと。

 質問の意図を勘違いして、じっくり眺めた親指姫の裸の感想を伝えてしまったこと。

 そして極めつけは自らの意思で、許しも得ずに唇にキスしてしまったこと。

 

(身体を暖めてもらったのと脱がされたのはセーフだとしても、他は全部アウトだよね……)

 

 最初の二つはギリギリ除外できるとしても、他の三つはどう考えてもジャックにされた恥ずかしいことである。気付いてしまった上に光景や感触を思い出してしまったジャックは、羞恥に顔が赤くなっていくのをはっきりと感じた。

 

「じゃ、ジャック? 何故、思い当たる節があるような顔をしているの……? ま、まさか、あなた……」

 

 そしてその反応を答えと受け取ったのだろう。アリスは信じられないと言った表情で唇を震わせていた。

 

「え!? じゃ、ジャックさん……もしかして、親指姉様に無理やりエッチなことを……!?」

「そ、そんなことしてないよ! 確かに無理やりだったかもしれないけど、あれはそこまでエッチなこと何かじゃ――!」

 

 少なくともキスはそこまでエッチなことではないはずだし、そんな気持ちでキスしたわけではない。心外だと思ったせいでジャックは口を滑らせてしまった。咄嗟に噤むが、時すでに遅し。

 白雪姫は顔を真っ赤にして、逆にアリスは何故か顔を真っ青にして驚愕を露にしていた。

 

「つ、つまり、ジャックは……そこそこエッチなことを、無理やり親指姫にしてしまったということ……?」

「ち、違うよ!? さっきのは言葉の綾で……!」

「い、いやあぁぁぁぁ! 不潔です、ジャックさん! 見損ないました!」

「う、嘘よ、そんな……! ジャックが、そんなことをするなんて……!」

「ご、誤解したまま行かないで白雪姫! あっ、ど、どうしたのアリス!? アリス!? しっかりしてアリス!?」

 

 まるで親指姫のように走って逃げていってしまう白雪姫と、絶望に支配されたかの如く崩れ落ちかけるアリス。

 もしかしてアリスたちの言う通り、親指姫は本当は怒っていないのではないだろうか。ただあの時のことが恥ずかしすぎて、顔を合わせられないだけではないのだろうか。

 本当にそうなのだとしたらまだ希望は潰えていない。しっかりと頭を下げてその件について謝罪し、その後に自分の気持ちを偽り無く伝えればまだ可能性はあるはずだ。

 

(でも顔を合わせたくないくらい恥ずかしい思いをさせたなら、もうしばらく時間を置いた方が良いかな……?)

 

 しかし話をするのは親指姫が顔を合わせられるようになるまで気持ちが落ち着くのを待つのが賢明だろう。あまりにしつこいと本当に嫌われてしまうかもしれない。

 ひとまずストーカー行為を止めることに決めたジャックは、まずは今にもブラッドスケルター化しそうなくらい謎の衝撃を受けているアリスをどうすべきか悩むのだった。

 

 

 

 





 次回、一章終わり。
 次回からやっとニヤニヤできるはずのシーンがちらほら出てくるはずです。正直好きなのはそういうシーンで重い話はあんまり好きじゃないです。物語にはそういうシーンも必要だということは分かっているんですけどね……。

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