ジャック×親指姫   作:サイエンティスト

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 何かちょっと物々しいタイトルですが実際にはそんなことは無いです。残念ながら今回はジャック未登場。
 でもイチャラブ好きとしてはカップルの片割れがその場にいない状況でもニヤニヤできるお話を書けるようになりたいです。できているかどうかはともかくとして。
 




作戦会議

 ジャックと恋仲になってからおよそ一週間。

 その一週間を過ごし親指姫が抱いた感想。それは――

 

(全っ然、物足りない……!)

 

 ――であった。

 物足りない理由はもちろん、自分のしたい触れ合いが微塵もできていないからだ。ジャックが愚直にルールを守るせいでキスは一日二回しかしてもらえないし、頭を撫でてもらったり手を握ったりなども両方合わせて片手の指で足りる回数。

 こっちから求めればジャックだってもっと色々してくれるはずだが、そこは素直でないことを自負している親指姫だ。素直に求めることも出来ないばかりか、度々真逆のことを口走ってしまう。本当はもっと素直に好意を表し、触れ合いたいのに。

 このままではいつまで経っても幸せにはなれないし、辛い思いが募るばかり。だから何としてでもこの状況を打開しなければならない。ジャックと真の恋人同士――ラブラブなカップルになるために。

 

「そういうわけで相談に乗ってもらうわよ!」

 

 そういうわけとは言いつつもラブラブの件は説明していないが、とにかく他の血式少女たちの力を借りることにした。ジャックも寝付いたであろう夜更けを迎えてから、昼間に予め伝えておいた通り皆を食堂に呼び集めて。

 まあ皆と言ってもあまり力にはならなさそうなので声をかけなかったラプンツェル、深夜の恋愛相談という心底面倒くさそうな集まりの出席を拒否したかぐや姫、ちゃんと協力する気はあったものの眠気に敗北して夢の世界に落ちていた眠り姫は欠席だ。

 

「それで、あたしたちに相談したいことって? 誰かさんと違って恋人のいないあたしたちが力になれるかなぁ?」

「力になれなくても相談にくらいは乗ってもらうわよ、赤姉。でばがめしてたんだしそれくらいは良いでしょ?」

 

 相変わらずからかい混じりの赤ずきんを睨む親指姫。ご丁寧にもコップやら聴診器やらを用意しての盗み聞きをしておきながら何の責任も無いとは言わせない。

 そして皆にはジャックとのことを知られたし話してしまったのだ。力を借りずに放っておくなど勿体無い。どうせなら骨の髄まで利用してジャックとの恋人生活の礎とするべきだ。

 

「まあ面白そうだからあたしはそれで良いけどさ。何だかんだであんたたちの様子を見てるのも楽しいしね!」

「動機が不純ですわよ、赤ずきんさん。私は喜んで相談に乗らせて頂きますわ」

「は、はい、白雪もです! あまり力になれないかもしれませんが、相談相手にくらいはなってみせます!」

「ありがと、皆……」

 

 結局はお人好しの集まりだ。皆笑って親指姫に力を貸してくれることを約束してくれた。白雪姫だけはおしおきの後遺症かちょっと顔が青かったが。

 

「それで相談の内容は何かしら。交際方法や男女関係についてはあまり自信はないのだけれど、ジャックについてのことなら力になれるはずだわ」

「私は逆に交際方法や男女関係についてのことなら力になれると思うわ。ただあくまでも書物から得た知識だから、実際の関係に当てはめることができるかは不安が残るのだけれどね」

「くくっ、ならばワレは闇の力や魔王としての振舞いに関して享受してやろう。さぁ、何でもワレらに尋ねるが良い!」

「……ハーメルン、あんた帰って良いわよ」

「い、嫌だぁ! ワレも仲間の相談に乗るのだぁ!」

 

 アリスとグレーテルはともかくとして、親指姫が最後まで声をかけるべきか悩んだハーメルン。一応声をかけたがとりあえず今の発言で戦力外通告。

 まあ一応力になろうとしてくれているのは分かるのでとりあえずここに置いておくことにした。今にも泣きそうにしているのに無理やり外すのも居心地が悪い。

 

「ジャックのことでも、男女関係についてのことでもないのよ……私が聞きたいのは、その……付き合い始めたのに一度も相手を好きって言わない奴を、どう思うかってことなんだけど……」

 

 とりあえず気になるのはそれだ。親指姫はまず皆にそれを尋ねてみた。

 

「好きって一度も言わない、か……何かそれ身体目当てって感じがして嫌だね。あたしでもたまにで良いから言って欲しいよ」

「か、身体……! で、でも、ジャックさんはちゃんと素直に言ってくれていますよね?」

「本当にジャックさん、躊躇い無く言いますわよね。聞いてるこっちが恥ずかしくなってきてしまいますわ……」

 

 赤ずきんでさえ言って欲しいというのなら皆も大体同じ気持ちだろう。親指姫だってジャックにたくさん好きと言ってもらいたいと思っている。

 

(ってことは、やっぱ私は最低の女ってことね……)

 

 なのでやはり自分が最低な恋人ということを再認識してしまう親指姫であった。

 

「……あら? ジャックが好意を素直に口にしているのなら、親指姫の質問の意図は何なのかしら。好意を口にしない人物にジャックは当てはまらないわよね」

「うっ……!」

「ええ、そうね。告白の時に五回ほど親指姫のことが好きだとはっきり口にしていたもの。ここ七日間で私が把握しているだけでも十八回、親指姫の前で好きという言葉を用いていたわ」

「お嬢のその詳しさは一体……い、いや、何でもないじょ! ぞ!」

 

 グレーテルとアリスの指摘に皆の視線が親指姫に集中する。いつもなら怒り出すところだが罪の意識に耐えかねて無言で視線をそらすことしかできなかった。もちろんその反応が答えになってしまうのは分かっていた。

 

「親指、あんた……」

「お、親指姉様……」

「だって……だって仕方ないじゃない! 私は嫌いじゃないから特別に付き合ってあげるって名目で付き合ってんのよ!? そんなホイホイ好きとか言えるわけないわよ!」

 

 皆もそれは知っているはずなのだが、たぶん照れ隠しによるもので本当はジャックのことが好きだからと思っているに違いない。実際照れ隠しによるものでもあるし、好きだという気持ちも間違っていないので皆の予想は当たりだ。

 だからきっと二人きりの時くらいならちゃんと好意を伝えている、とでも思っていたのだろう。心底呆れたような皆の反応は明らかにその事実を示していた。実際は何一つ本音を口にしていないばかりか、羞恥と嘘で何度も塗り重ねてばかりいるというのに。

 

「……まさか親指姫は本当にそんな理由でジャックの告白を受けたの? できることならまずそこを聞かせてもらいたいのだけれど」

「お、お嬢? 何やら機嫌が悪そうだが一体……ひっ!」

「そ、それは……」

 

 アリスが放つ妙な気迫に気圧されたハーメルンが青くなり、親指姫も言葉を詰まらせてしまう。ちゃんと言い返したかったが恥じらいに口が開かない。『もちろんジャックが大好きだからよ!』と叫べればどんなに楽か。 

 

「ふーん……だったらジャックのことが好きな奴は気持ちを素直に伝えればまだチャンスがあるってことだね! 親指は別にジャックのことが好きじゃないみたいだし、誰がジャックを奪ったって別に構わないんだろ?」

「ちょ!? あ、赤姉、何言ってんの!?」

「そう。なら私は今からジャックのところへ行って胸の内の想いを余す所無く伝えてくるわ」

「は、はぁっ!?」

 

 赤ずきんの言葉にあろうことか一切の躊躇い無く席を立つ真顔のアリス。

 他の奴ならともかくアリスだ。こいつなら本気でやりかねない。瞬間、親指姫の口は勝手に動いた。

 

「ふざけんじゃないわよ! ジャックは私の恋人なのよ! あいつは絶対誰にも渡したりしないんだから!」

(……あ)

 

 そして一拍遅れて頭が言葉を理解した。

 

「あーもうっ!! 何でこんなことで簡単に口滑らせてんのよ私は!? てか何でこれを皆の前で言えんのにジャックの前で言えないのよ!!」

 

 ジャックが奪われるかもしれないと怯えたからとはいえ、よりにもよって嫉妬心丸出しで独占欲に溢れる気持ちを吐露してしまうとは。しかもこんな大勢の前で。その癖ジャックには好きの一言も伝えられない。あまりの恥ずかしさに穴があったら入りたい親指姫であった。この際入れるなら墓穴でもモグラの巣穴でも何でも良い。

 

「なーんだ。やっぱり両想いじゃんか」

「今の言葉、ジャックさんに聞かせてあげたいですわね……」

「それを私たちに言えるなら、ジャックに好意を伝えるくらいわけはないと思うのだけれど……」

 

 ニヤニヤ笑う赤ずきんと呆れ気味に笑うシンデレラ、そして表情を緩めあっさり席に戻るアリス。たぶんアリスは親指姫を煽るために席を立ったに違いない。

 

「わ、私だって努力してんのよ! でもジャックの前に立つとどうしても恥ずかしくて別のことしか言えないのよ! しかも次から言うのが余計に気まずくなること言っちゃうし!」

 

 どうせ言ってしまったのだから親指姫は続けて本音を吐露していった。もちろん本音を口にするのは恥ずかしいが、相手がジャックでないなら口に出せないほどではない。

 そもそも妹とはいえ白雪姫にはジャックのことが好きだという気持ちを教えられたのだ。問題なのはジャック相手の時だけだ。

 

「どつぼにはまる、という言葉が相応しいわね。いっそのこと何も口にしないというのも一つの手ではないかしら。ジャックへの好意を口にしようと努力することで逆の気持ちを伝えてしまうなら、最初から努力することをやめてしまえば良いと思うわ」

「そ、それは幾らなんでもあんまりです! ジャックさんだって姉様に好きって言ってもらいたいはずです!」

 

 グレーテルのとんでもない提案に即座に白雪姫が反対する。

 墓場まで持っていけと命じた約束を破って親指姫の気持ちをジャックに伝えようとしていた白雪姫だ。普通に兄様とも慕っていたし、やはり白雪姫としては親指姫だけでなくジャックにも幸せになって欲しいのだろう。

 

(でも、いっそその方が良いかもね。本当は大好きなのに好きじゃないとか嫌いだとか言うのは私も辛いし……)

 

 しかしグレーテルの言うことも一理ある。下手に気持ちを伝えようとして結果的に傷つけるようなことを言ってしまうのなら、最初から気持ちを伝えようとしなければ良い。どうせ好意を口に出来ないなら何もしない方がジャックだって傷つくことはない。

 だからいっそ本心を口にするのはもう諦めようかと思った直後――

 

「うむ。いくらジャックとて尽くせど尽くせど想い人が振り向かぬのなら、好意も萎えて去ることもあろうな。叶わぬ願いなど抱いていても無意味であろう」

(――っ!)

 

 よりにもよって戦力外通告したはずのハーメルンから、心の内を抉るような言葉をかけられた。実は不安に思っていてあまり考えないようにしていたことを、抉り出して引っ張り上げられ目の前に突きつけられるような言葉を。

 

「……ハーメルン、やっぱあんた帰りなさい」

「な、何故だ!? ワレは今何かおかしなことを言ったのか!?」

「いいえ、あなたは何もおかしなことは言っていないわ。親指姫は図星を指されて逆恨みしているだけよ」

「お、おお、そうか……」

 

 また泣きそうになったハーメルンを慰めるアリス。残念ながら今回は正に逆恨みであった。親指姫もハーメルンが何一つ間違ったことを言っていないのは分かっている。それでも八つ当たりしてしまうくらい、本当は気にしていたことを言われてしまったのだ。

 

「ま、ハーメルンの言うとおりかもね。キツイこと言うけど、いくらジャックでもあれだけ尽くして好きの一言も言ってくれないなら、さすがに親指に愛想をつかすかもしれないよ」

「っ……!」

 

 そして赤ずきんが非常に分かりやすく簡潔に言い直してくれた。

 それは絶対ありえないことではない。ジャックはただでさえ毎度の如く親指姫に生意気で偉そうなことばかり言われているし、時には軽くとはいえ暴力すら振るわれる。健気にもそれらをずっと我慢しているというのに、どれだけ努力しても振り向いてもらえない。そんな日々が続けばジャックだって疲れて諦めてしまうことだってあるだろう。

 そして親指姫に愛想を尽かして、もっと素直で可愛げのある女の子と結ばれる。それもありえないことではない。だがそれだけは絶対に嫌だった。ジャックのことが誰よりも大好きで、これからもずっと傍にいたい。誰にも渡したくない。それが親指姫の本音なのだから。

 

「それが嫌ならはっきりと伝えて差し上げることですわね。ジャックさんならちゃんと好意を伝えていれば、きっとあなたの元から去ることはありませんわ。その、だいぶ夢中になっているようですし……」

「あなたがどれだけ傲慢で威張り腐ったことを口にした事実があっても、ジャックならそれを引き合いに出してあなたを責めることはないはずよ。ジャックのことが本当に好きだというのなら、告白された側という自分の立場に胡坐をかくのはやめて素直に想いを伝えてあげて」

「わ、分かってるわよ! 私だってちゃんと言ってやりたいしジャックと色々したいのよ! でも口を開くと勝手にそういう言葉が零れてくんのよ! もうっ!」

 

 皆親身になってくれているのは分かるが、事はそう簡単ではない。すでに好意を伝えようとして真逆のことを言ってしまう負の連鎖に陥っている親指姫としては、今更どうやって自分の本音を伝えれば良いのか分からなかった。

 

「……どうしても無理というのなら方法は無くも無いのだけれど」

「嘘!? そんなのあるなら最初から教えなさいよ、グレーテル!」

 

 本気で頭を抱え始めた瞬間、何とグレーテルが救いの言葉をぽつりと零した。もちろん親指姫は一も二も無く飛びついた。まさか救い主がグレーテルになるとは意外に過ぎる展開であった。

 

「ふふっ。最初からそれを教えてしまっていたら、ここまでのあなたの本音や反応を観察できなかったでしょう? それに常識か非常識かで考えると非常識な方法だから黙っていたの」

「要するに私がさっきから頭抱えて悩む姿を楽しんでたってことね、あんた……!」

 

 意外かと思いきや救い主の正体は人が苦しみ悩む様を楽しむ悪魔であった。これならグレーテルにぴったりだ。というかその口から常識などという言葉が出てくるとは思わなかった。

 

「全部水に流してやるからその方法教えなさい! この際常識でも非常識でも何でも良いいわ!」

 

 しかしこの際悪魔でもナイトメアでも構わない。

 ジャックに自分の気持ちを伝えることが出来て、ちゃんと恋人らしい触れあいを沢山行えるようになるのなら何でも良い。そしてずっと一緒にいられるようになるのなら頼るものの存在が何だろうと些細なことだ。

 

「ふふっ。ジャックに嫌われてしまう可能性を提示した途端に積極的になったわね。何も難しいことではないわ。方法というのは――」

 

 そうしてグレーテルの口から語られた方法。それは予想の斜め上というか盲点というか、とにかく一般的ではない方法であった。グレーテルが非常識と言うのも納得できるくらいに。

 しかし一般的でないにしろぶっ飛んでいるにしろ、確かに親指姫の本音を伝えることはできそうな方法だった。

 

「それって非常識っていうよりも卑怯な手段だよね……」

「しかも根本的な問題の解決にはならないわね。いえ、ジャックに気持ちを伝えることはできるでしょうけれど……」

「……ま、まあ、良い考えだとは思いますわよ? かなり人を選ぶ方法ですけれど……」

「……うむ。闇の力を扱うには適正があろう。だが案ずることは無い。ワレよりも適正がありゅと……あると判断してよかろう!」

 

 賛同しながらもやはり皆思い思いの感想を零す。そんな中、提案をしてきた本人であるグレーテルは最後の問いを投げかけてきた。

 

「……どうかしら。必要なものは部屋で保存しているから、あなたが今すぐやるというのなら戻って取って来るのだけれど。あるいは後日ということでも私は構わないわよ?」

「親指姉様……どうしますか?」

 

 不安気に尋ねてくる白雪姫。しかし親指姫の答えはもう決まっている。

 

「……やるわ! 今すぐ取って来なさい!」

 

 人に物を頼む態度ではないがはっきりと答えた。

 そう、あの時ジャックの身体を暖めるために裸になった時と同じだ。後でどれだけ羞恥に悶えることになろうとも本当に死んだりはしない。大切なのは躊躇わずに今すぐ行動すること。

 だからこそ親指姫は今すぐ行動を起すのだった。ジャックと本当の恋人になるために、ずっと傍にいるために。勢い余って何をしでかすかちょっと不安な方法で。

 

 





 次回、とんでもないことに。まあゲームをプレイした人なら方法が何かは簡単に想像がつきますね。そもそも未プレイで読んでいる人なんていないでしょうし。
 個人的にはラブラブカップル二人だけのお話だけでなく、ちゃんと周りの人物も関わってくるお話も好きだったりします。冷やかされたり怒られたり、あえて皆の前で二人だけの世界を作ってラブラブしたり……見せ付けられるほうは心底イラっとくるでしょうね……。
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