イチャラブ度、レベル2。ついにイチャラブが始まる……?
ジャック×親指姫の3章です。ちなみに4章で物語自体は終わりですが余裕があれば余章と称してその後のイチャラブを書く予定です。でも余章のお話のアイデアがどれもこれもR18に寄ってしまいそうで困ってます。
一転攻勢
ジェノサイド化した親指姫による、激しくディープな愛情表現を受けた夜からすでに数日。正気に戻るとやはり羞恥に耐えられなかったらしく、しばらくの間親指姫は顔を合わせてくれなかった。食事の席でも顔を合わせられなかったし、偶然顔を合わせればたちまち逃げていってしまう。まさにあの五日間の再来だ。
とはいえ避けられる理由が分かっているのであの五日間よりは幾分マシであった。まあその間キスもできなかったので正直かなり辛い所だったが、相思相愛であったという舞い上がりそうな事実のおかげで耐えられないほどではなかった。おまけに親指姫がジャックに対して抱いている好意は、控えめに言っても途轍もなく大きな好意。これで喜ばしく思わないわけが無い。
それに避けられている期間でジャックは自らの気持ちに整理をつけ、心を決めることができた。片思いの恋人ではなく、相思相愛の恋人としての触れ合いをするために。
「おはよう、ジャック。今日はやっと親指が朝ごはんの時間に出てきてくれたよ……恋人として、心置きなく挨拶しときな?」
「うん、そうするよ。ありがとう、赤ずきんさん」
そしてやっと親指姫が朝食の席に顔を出すようになったころ、ついにジャックは心構えを行動へと移すのだった。
「おはよう、親指姫。やっと一緒にご飯が食べられるね?」
まずは普通の挨拶をすると共に、食事中の親指姫の隣へ腰を降ろす。
すると一瞬視線がこちらに向き苦い顔をされてしまうが、別段距離を取られることも無ければ怒られることも無い。どうやら親指姫もやっと気持ちの整理がついたらしい。
「お、おはよう、ジャッ――んむぅ!?」
「おおっ!?」
「ま、まぁ……」
なので親指姫がたどたどしく挨拶を返してきた瞬間、ジャックはその唇を奪った。突然の凶行に親指姫は顔を真っ赤にして固まり、席についていた他の少女たちが感嘆と驚愕の声を零す。
(ま、まあ驚かれるよね。こんなことするのは初めてだし……)
何せ覗かれている時を除けば人前でキスをするのはこれが初めてだ。驚かれるのも無理はない。それはキスを見た赤ずきんたちも、キスをされた親指姫も同じであった。
「い、いきなり何すんのよあんたは!? 赤姉たちの前でキスするとか正気なの!? 人前ではダメだってルール忘れたんじゃないでしょうね!?」
正気に戻った途端これ以上ないほど露骨に距離を取り、真っ赤になりながらこちらの正気を疑うような視線を向けてくる親指姫。恥ずかしがっていることも怒っていることも手に取るように分かる反応である。
(でも、これは照れ隠しで本当に怒ってるわけじゃない……!)
だが今のジャックには分かっていた。親指姫は照れ隠しに怒っているだけで、本当はとても喜んでいるのだと言うことが。
「ごめん、朝の挨拶をしたかっただけなんだ。最近君に会えてなかったから嬉しくてついね。もしかしてこんなことされるのは嫌だったかな?」
「い、嫌に決まってんでしょ! よくもルールを破って人前で私にキスとかできたわね! 後できっついお仕置きをしてやるから覚えてなさい!」
「あははっ。うん、覚えておくよ」
距離を取ったままそっぽを向いてこちらを見ようとしない親指姫。反応も口調も刺々しい。
(でもこれも照れ隠しで、本当は喜んでる……はず!)
だがやはり今のジャックには分かる。喜びに緩んだ表情を見られたくないから顔を背けていると言うことが。
その様子を思い浮かべて可愛らしさに笑いつつ、親指姫の食べかけの食事を目の前まで届けてあげた。途端に憂さ晴らしするように勢いよく食べ始める姿もまた可愛らしい。
「ジャック、何かあんたかなり積極的になったね……いや、前からわりとオープンだったし親指に告白もされたから別に不思議じゃないんだけどさ、思ってたよりも大胆っていうか……」
「え? そ、そうかな?」
ちょっと意外だったのかほんの少し目を丸くした赤ずきんにそんな感想を口にされる。確かに今まで皆の前でキスをしなかったというのに、いきなりするようになれば大胆と言われても仕方ない。
(でもあんな風にキスされたところをたっぷり見られたんだし、別にもうこれくらいなら……)
しかしジャックはつい数日前、親指姫に押し倒されて濃厚なディープキスを受ける場面をたっぷり見られてしまったのだ。アレに比べればただ一瞬唇を触れ合わせるキスなど恥ずかしくも何ともない。
もっとも恥じらいを感じようとも親指姫とキスはしたいし、しなければいけない理由があるのだが。
「以前まではジャックさんが下手に出ていたはずでしたのに、今や完璧に立場が逆転していますわね……」
「あれだけ素直に好意を表していたジャックを無下に扱っていたツケが回ってきたということね。ただ親指姫も内心では嬉しそうなのだけれど……」
「不思議ね。相思相愛ということが分かってお互いに上下関係が無くなったはずなのに、関係の主導権をジャックが握るようになるなんて。二人の性格から考えて親指姫が主導権を握ると思っていたわ」
「姉様もジャックさんも幸せそうで、白雪も嬉しいです!」
「わ、私のどこが幸せそうだってのよ!? こんなに嫌がってるってのにあんたたちおかしいんじゃない!?」
最早隠す気の無い自分たちに関する雑談にあっさりキレて、テーブルを叩いて必死に否定する親指姫。しかしその怒りに対して誰も驚いた様子は見せなかった。ただし白雪姫以外は。
「あー、はいはい。分かってるよ、親指。ジャックにキスされたって全然嬉しくないんだろ?」
「そ、そうよ! こんなとこでキスされたって全然嬉しくないんだから」
「……つまり二人きりの時にキスされたなら嬉しい、ということね。相変わらず素直ではないわね、親指姫」
「そ、そういうことでもないって言ってんの! 二人きりでも人前でもジャックにキスされたって全然嬉しくないんだからね!」
「はいはい。分かりましたから食事中は静かにしてくださいませんこと?」
「適当にあしらってんじゃないっつーの! 私の話ちゃんと聞きなさい!」
親指姫は立ち上がってなおも必死に言い放つが、最早誰もまともに取り合ってはいなかった。
朝食の席に顔を出したのは親指姫より遅かったジャックだが、最終的に食べ終えたのはほぼ同時になった。その理由はジャックが早食いだからとかではなく、親指姫が赤ずきんたちへ食事そっちのけで必死に照れ隠しを行っていたせいだ。もちろん終始まともに取り合ってもらえていなかったが。
しかしそれも仕方ない。親指姫はつい数日前、皆の前でいかにジャックのことが大好きかということを言葉と行動でこれ以上無いほどに見せ付けてしまったのだ。最早どれだけ言葉で好意を否定しようともジャック自身を含め、誰も信じていはいなかった。
「じゃあ行こうか、親指姫?」
「――っ!?」
食後、ジャックは席を立った親指姫の手を取って勝手に握った。途端に赤く染まる親指姫の顔。顔を赤色に染めるスイッチは一体幾つあるのだろうか。
「ちょ、ちょっと!? 何当たり前みたいに手握ってんのよ!? ていうか行くってどこに連れてくつもりよ!?」
「えっ、親指姫の部屋だよ? だって僕にルールを破ったおしおきをするんだよね?」
「だ、だからって何で手握んのよ!?」
握られた手と、こっちを見てニヤニヤしている赤ずきんたちに交互に視線を注ぐ親指姫。
嫌そうなことを言って怒ってはいるがやはりこれも照れ隠しだ。その証拠に握られた手を無理やり離されることはなかった。まあ代わりに万力のような力で締められてはいるが。
「ルールを一回破ったからもう一回破っても同じかなって思って。でもこれでおしおきは二回分になっちゃったかな?」
「あ、当たり前よ! きついお仕置きしてやるから覚悟しなさい! 生まれてきたことを後悔させてやるんだから!」
「あははっ、何されたって後悔しないよ。だってそのおかげで君に会えたんだからね」
「……っ!」
脅し文句をかけてくる親指姫に対し思った言葉をそのまま返すと、途端に耳まで顔を赤くされてしまう。それでも何か言おうとしていたものの、開いた口が動くだけで照れ隠しの罵倒も何も出てくることはなかった。
「うーん、何か親指がジャックに丸め込まれる図しか見えないな。あたしだけじゃないよね?」
「え、ええ……私は、その……ジャックさんに骨抜きにされてしまう図が浮かびますわ……」
「そもそもお仕置きとは具体的に何を指しているのかしら。ジャックの反応からすると対して苦痛の生じない軽めのものだということは予想できるのだけれど」
「そ、それはやっぱり……キス、とかじゃないでしょうか……?」
「……なるほど。つまり親指姫はたくさんキスしてやるから覚悟しなさい、と言っているわけね。何故かしら、また不思議な苛立ちを感じるわ……」
「そ、そんなわけないっての! もちろん殴って蹴っての暴力に決まってんでしょ! 動けなくなるくらいボコボコにしてやるわ! おらぁ!」
「わぁっ!? ちょ、親指姫!?」
さすがに言葉だけでは否定するのが無理と悟ったのか、それとも完全に無意識の照れ隠しなのか、親指姫は小さな脚で背中に蹴りを入れてきた。
「おら、キリキリ歩け! ルールを破ったらどうなるかあんたの身体にたっぷり教え込んでやるんだから!」
「じ、自分で歩くから蹴らないでよ、親指姫……それじゃあ皆、またね?」
今度は執拗なローキックで脚を進ませてくるので、ジャックは皆に一旦別れの挨拶をしてから歩き出した。
「あーあ、あれだけやったのに結局親指は変化無しか。ジャックも可哀想に……」
「赤ずきんさん、顔が笑っていましてよ。楽しんでいますわね?」
「せっかく気持ちを伝えられたのだからもう何も遠慮することは無いはずなのに、親指姫は一体何を考えているのかしら?」
「きっと根っからの天邪鬼なのね。一体何時まで素直になれない日々が続くのかしら。興味深いわ」
「親指姉様……」
去り際に聞こえた皆の言葉は、相変わらず素直になれない親指姫に対するもの。
だがジャックは今はこれでも構わなかった。親指姫がこれ以上無いほどに強い好意を寄せてくれていることは、もう言われずとも分かっているのだから。そう、今はこれでも。
「さあ、これでどこにも逃げ場は無いわよ! よくも赤姉たちの前であんなことしてくれたわね! しかも二回も!」
部屋の扉を背に仁王立ちとなり、敵意溢れる瞳を向けてくる親指姫。すでに部屋の中にいるジャックは唯一の逃げ道である扉を塞がれているため逃げ場はどこにもない。完全に手詰まりの状態だ。
(……まあ最初から逃げる気はないんだけどね)
ただしそれは逃げる意思がある場合の話。そしてジャックには逃げる気などこれっぽっちもなかった。胸の中にある意思はむしろ真逆のものだ。
「覚悟しなさい! 身の毛もよだつようなとびっきりの――っ!?」
言い終わらない内にジャックは親指姫の正面に立ち、その唇を奪った。鋭かった瞳は驚きに見開かれ、次いで困惑と怒りに揺れ始める。
「んっ……ふ、ぁ……!」
だがその両肩に手を置いて更に口付けを続ける。触れ合わせるだけでなく、静かに唇を食む甘めの口付けを。
多少もがいて抵抗を示していた親指姫だが、それは照れ隠しだと分かっているのでやめてあげない。抵抗は次第に大人しくなり、やがて怒りと困惑が瞳から消えうっとりと細められていった。まるでジャックとのキスがとても幸せだというように。
「……大好きだよ、親指姫」
「ぁ……!」
キスを終えて笑いかけながら好意を伝え、その身体をぎゅっと抱きしめる。胸に顔を薄める形になった親指姫の頭を優しく撫で、愛情をしっかりと伝える。さらさらの髪の毛の感触はいつまでも撫でていたくなるくらい癖になる感触であった。
「じゃ……ジャック……」
怒りの炎を消し去られたかのごとく、しおらしくなって腕の中にいる親指姫。どこか恥じらいがあるものの、その口から零れるジャックの名にも刺々しさは無い。完全にジャックからの愛情表現を素直に受け入れていた。
「……な、何しやがんのよあんたはああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「うわぁっ!?」
しかしそれは数秒程度のこと。正気を取り戻した親指姫は突如顔を赤くして叫びながらジャックを突き飛ばしてきた。勢いそのまま尻餅をついてしまい、親指姫を見上げる形になってしまう。そして見上げるその面差しには再び羞恥と怒りが溢れていた。それも顔を震わせるほどの。
「あんた調子乗りすぎ! こんなに私を好き勝手弄ぶとかふざけてんの!? いい加減にしないとあんたのこと嫌ってやるからね!」
「あははっ、ごめん。でも嫌いになるってことは、やっぱり今は僕のことが好きでいてくれてるんだよね?」
「っ……! だ、だれがあんたのことなんか! 私は、私は別にあんたのことなんて……何とも思ってないんだからああぁぁぁぁ!」
「あ! お、親指姫!?」
どうやら反応できる程度の中途半端な辱めだったのが原因らしい。半ばパニックに陥ったのか親指姫は扉を開けて部屋から出て行ってしまった。
「私は部屋に戻るわ! しばらく一人で身の振り方ってもん考えて反省してなさい!」
「あ……う、うん。分かったよ……」
廊下の曲がり角から顔を出して最後にそれだけ言い放つと、ついに姿が見えなくなってしまう。咄嗟に追いかけようとしたがたぶんもう間に合わない。追っていってもまた謎の隠遁能力により姿を見失ってしまうだけだろう。
なのでジャックは大人しく部屋の中で反省していることにした。実際ちょっと反省が必要だからだ。
「……やり過ぎた、ってわけじゃないよね? このくらいはしろって書いてあるし……」
懐から一枚の用紙を取り出し、内容を確認しながら考える。
この用紙は数日前、ジェノサイド化した親指姫により新たに制定された恋人同士の触れあいルールを書き記したものだ。ちょっと用紙の至る所にピンク色の血の染みが出来ているがその辺はご愛嬌。内容は以前のものとは比べ物にならないほど大幅に変化している。そして以前と最も異なる最大の特徴は『制限』が存在しないという点だ。
以前のルールではキスに関して、一日二回までで人前では厳禁という二つの制限があった。だが今回新たに制定されたルールは回数と状況の制限が大胆に撤廃。一日二回であったはずのキスは、何度でも好きなだけキスして良いというとても自由なルールに。人前では厳禁という制限は、いつでもどこでも好きにしろという奔放なルールに。それだけならまだしも、むしろ人前だろうと何だろうといっぱいキスしろと推奨されているのだ。表面上は泣こうが喚こうが嫌がろうが、心の中ではジャックにキスされて飛びつきたいくらいに喜んでいるからと本音を語って。
(予想はしてたけど、こんなルールを作っても普段の親指姫は相変わらずだなぁ……)
あの時の親指姫は想いを吐露するだけでは飽き足らず、本当に何でも包み隠さず話してくれた。わざわざジェノサイド化した理由に関しても、ジャックが自分から離れていかないようにちゃんと気持ちを伝えておくため、普段からイチャイチャラブラブできる真のカップルとなるためと。
だが前者はともかく後者は無理に思えた。別にジャックとしては構わないどころかそんな風に触れ合えるならむしろ望む所だが、肝心の親指姫がそう簡単に素直になれるとは思えなかったのだ。
そして予想は正しかった。親指姫は相変わらず素直ではない。しかしその心の中はジャックとの恋人としての触れ合いに喜びを感じているようだし、もっとイチャイチャしたがっている。ならばジャックがするべきことは一つだ。
(……うん。やっぱり僕からもっと迫っていっぱいキスしたり、いっぱい抱きしめたりしてあげよう!)
それこそがこの数日でジャックが心に決めた誓い。愛しい恋人が望む通りの触れ合いをしてあげること。例え照れ隠しに嫌がられても怒られてもだ。
元々新たに決められたルールで指示されていることだし、ジャックだって親指姫といっぱいキスしたい。手を繋いだり抱き合ったりもたくさんしたい。それに軽くなら人前でもしたいという気持ちもある。
何故なら親指姫が自分の恋人であることや、こんなにも可愛い女の子が恋人なのだと知って欲しいからだ。ちょっと性格の悪い考えかもしれないが、そんなことをしたくなるくらい親指姫が可愛いのが悪い。その可愛さを思い出し一人部屋の中で笑ってしまうジャックであった。
「そういえば親指姫、結局どこに行ったのかな。ここが親指姫の部屋なのに……」
あまりの恥ずかしさに自分がいた場所すら忘れてしまったらしい、その可愛らしさに。
「あー、もう……何でこうなるんだろ……本っ当に素直じゃないわ、私……」
部屋の扉に背を預け、一人肩を落として溜息を零す親指姫。
自室を目指して逃げ去った後、さっきまでいた場所が自分の部屋だと思い出した親指姫は建物内を一周する感じで隣の白雪姫の部屋へと訪れていた。別に自分の部屋に戻ってジャックを蹴り出しても良かったのだが、あんなことを言った手前すぐさま顔を合わせるのも気まずいのでやめておいた。
「が、頑張ってください姉様! 兄様は姉様の気持ちを知っているんですから、あと一歩踏み出せば良いだけです!」
「分かってるわよ。でもその一歩が無茶苦茶遠いんだっての……」
その独り言で大体の事情を飲み込んだらしく、白雪姫が精一杯の応援をしてくれる。
もう姉妹とジャックのみの場所では完璧に兄様という呼称が定着していた。つまりは白雪姫も眠り姫もジャックを義兄として認めているわけで、親指姫との恋仲であることを完全に受け入れているのだろう。もしかしていまいち素直になれない親指姫本人よりも受け入れているのかもしれない。
(せっかく気持ちは伝えられたってのに何も変わってないじゃない……あーあ、こんなはずじゃなかったのに……)
ジェノサイド化して想いの丈からジャックとしたい触れあいまであらゆる本音を本人にぶちまけた親指姫だが、実はその最中に勘付いてしまったのだ。こんな方法で普段の自分が素直になれるわけがない、と。
ジャックに好意を伝えたり表現したりすることは非情に恥ずかしく、照れ臭くてどうしてもできない。なので行き過ぎなくらい大胆になれるジェノサイド化を経て想いを伝える。これでジャックはもう親指姫が抱えている自分への想いを知っている。だからもう遠慮も恥ずかしがりもせずジャックに抱きついたりキスしたり、甘えたりできる――という考えの元での行動だった。
しかしそれが殴りたいくらい甘い考えだということに、ジェノサイド化したことで気付いてしまったのだ。ジャックが親指姫の気持ちを知っていようと知っていまいと本当は関係ない。親指姫が本当に照れ臭くて恥ずかしいのは、自分の心に素直になることそのものだということに。
(結局さっきだって凄く嬉しかったのに、蹴りいれたり突き飛ばしたりなんだりしちゃったし……本当何やってんのよ、私は……)
それでも二人きりの時くらいならあるいはと思ったものの、結果はこの有様だ。せっかくジャックがキスして抱きしめてくれて、その上好きだと囁きながら頭を撫でてくれるという幸せのフルコースを振舞ってくれたのに、突き飛ばして逃げるという心底笑えない照れ隠し。
手の施しようがないくらい根深い天邪鬼加減に涙が出そうな親指姫だった。
「……でも、別にもう素直になろうとしなくて良いんじゃないかしら?」
「え、ええっ!? どうしてですか!?」
「だってジャックはもう私の気持ち知ってるんだし、私がそういう性格だってことも理解してくれてるんじゃない! だったら無理に言う必要なんてないでしょ!」
その事実に気付いた親指姫が晴れやかになった心で顔を上げると、衝撃を受けた白雪姫は目を丸くしていた。
平時の親指姫が素直に伝えられないだけで、すでにジャックは親指姫の気持ちを全て知っている。ジェノサイド化していても自分がやらかしたことの記憶はちゃんと残っているし、実際にやらかそうと思ったのも自分だ。要するにジャックが好きな気持ちはもう余す所無く伝えてしまった。その気持ちの権化とも言うべき新たなルールまで作ってしまうほど好きだという気持ちを。
まあさっきは照れ隠しにルールを作り直したことは覚えていない振りをしてしまったが、ジャックのあの積極性から考えると完璧に覚えているに違いない。というかルールを記した用紙を渡してしまったのだから当然だ。
「え、ええっ!? それじゃあ姉様はずっとこのまま、兄様に一度も好きと言わないまま過ごすつもりなんですか!?」
「べ、別に一度も言ってないわけじゃないでしょ。いっぱい言って、いっぱいキスしてやったじゃない!」
「で、でも、あれは……」
何か言いかけて言葉を濁す白雪姫。
言いたいことは何となく分かるが、ちょっとジェノサイドしていたってアレは正真正銘の親指姫自身。だから気持ちは一応親指姫が伝えたものであり何の問題もない。はず。
ジャックは親指姫のことが好きで好きで堪らないはずなので、相思相愛だということが分かった以上もう離れて行ったりしてしまうことはないだろう。照れ隠しにあれだけ邪険に接していた上、片想いだと勘違いしていたにも関わらず、執拗なまでの愛情表現をしてきてくれた奴だ。だからきっともうこの問題は解決した。
「あー、でもそれはそれとして……あいつに弄ばれてるって思うと何か腹立つわ。私ばっかり恥ずかしい思いさせられてんじゃない……」
そうして問題が解決するとまた別の問題が見えてくる。
赤ずきんたちの目の前でキスしてきたり、手を握ってきたり、不意に親指姫を辱める発言をいきなり口にしたり。以前から辱めは日常茶飯事だったが今日のは特に悪質だ。しかもそんなことをしてくるジャック本人は恥ずかしがっていないのがなおのこと腹が立つ。
(やっぱあいつ調子に乗ってんのかも。確かにもう告白受けた方された方とかは関係なくなったけど……)
確かにジェノサイド化からの告白によってジャックとの上下関係はリセットされたようなものだし、愛情を示し触れ合ってくれることが嬉しくないわけではないが、だからといって簡単に主導権を譲る気はない。
それに親指姫はあれだけ散々辱められたのだ。ジャックにも同じ気持ちを味わってもらわなければ気が済まないし、復讐の権利だって十分にあるはず。
「……良し、決めたわ! 見てなさいよジャック、こうなったら絶対仕返ししてやるわ! あんたも私と同じくらい恥ずかしい目に合わせてやるんだから!」
故に親指姫は復讐を決意するのだった。絶対にジャックを辱め、自分と同じ気持ちを味わわせてやると。
「ね、姉様……そんなことをするよりも、兄様に好きの一言を……」
「白雪! もちろんあんたにも協力してもらうからね! 協力しなきゃまたお仕置きよ!」
「兄様、ごめんなさい……白雪も協力します、姉様!」
姉からの協力要請に対して、可愛くて素直な妹は笑顔を浮かべて頷くのだった。満面の笑み、というには少々青い顔で。
ツンデレは根深い。そして嫉妬深く根に持ちやすい。だがそれが良い。
とりあえず今回はイチャラブ度が上がったのかどうか意見が分かれそうなところ。でもこの章の話はあと三つあるわけで……。
というか最近気づいたんですけど、どうして後に恋獄塔でイチャラブが見られるのに私はわざわざこんな作品を書いているんでしょうか……まあ結局は書きたいからという理由に落ち着きますが、個人的にはパラレル的な恋獄塔よりもちゃんと神獄塔でのイチャラブが見たいと思っているせいもあったり……そういう風に思うのは私だけじゃないですよね……?