黎の姿が光に包まれ大きく、そして変わる。
胸に宿る水晶は満月の様に
これこそが
その一連の様子を見ていたケトル爺とヤクモ隊員は、起きた出来事に驚愕し見とれていた。
「あれは…………巨人……?」
「成功したか。レイは今、【ウルトラマン】となったのだ」
「ウルトラマン……?」
黎は大きく変わった自分の手や、遠くなった地面に小さく見えている建物を見渡しエレキングを見やる。
今の黎はエレキングと比べれば少し小さい。しかし、どこか威厳漂う姿に負ける気は無かった。
「『行くぞ!』」
黎は背を丸めて構える。その独特のポージングはケトル爺の記憶から、かの有名なウルトラマンを連想させていた。
黎が跳躍し、エレキングの首に左手で手刀を浴びせる。モロにくらったエレキングはバランスを崩し始めた。追撃として黎は右手で手刀を作り、バランスの崩れているエレキングに与える。
またもバランスを崩すエレキングの頭を押さえつけ、ヤクザ蹴りをエレキングに与える。距離が離れた所で黎はある事に気付く。
(何だ、これ?……僕の頭に戦い方が入ってくる。
この巨人、この“ウルトラマン”の戦い方が!)
黎の頭に様々な知識が流れ込んでくる。プロレス調の戦い方や、エネルギーを使用した多彩な技に関する“やり方”と“特性”が黎の体と頭に馴染んでくる。
次に黎はエレキングに向けて右腕を突き出すと、緑色の渦巻き状の光線が発生しエレキングに向かっていく。危険察知をしたのも束の間、光線がエレキングに当たる。
そして両腕を組むと、エレキングから爆発が巻き起こる。急に爆発が起こった事でエレキングからも動揺を隠せないが、すぐさま黎は両腕を水平にさせると丸ノコ状のエネルギーを発生させる。
そして右手を丸ノコ状のエネルギーごと頭の側面に持っていき、それをエレキングに向けて放つ。エレキングの体に当たると、火花が散っていく。
エレキングは負けじと体勢を立て直し、口から放電光線を放っていく。黎は冷静にバリアを発生させて光線を防ぎ、バリアを発生させたままエレキングへと近付く。
「シェアアアアア!」
ウルトラマンとゼットンの声が合わさった様な雄叫びを挙げると黎は跳び、ドロップキックをくらわせる。エレキングが道路に倒れ瓦礫が飛び散っていく。
着地した黎は、追撃の為にエレキングに向かって走り出す。
「うぉおおー!スッゲェ!」
「『!?』」
突如黎は止まり、声の聞こえた方を見る。ウルトラマンへと変身しているため五感が優れた状態へとなっている。故に人間の声も聞こえている。
そちらを見ると、スマホを使って動画を撮っている男性が居たのだ。
すぐに黎は離れる様にジェスチャーをするが、相手の方は気付いてしまった事で興奮しており逆に逃げようともしなかった。どうすれば良いのか考えていると、ケトル爺とヤクモ隊員の居る場所を見やる。
【ZETA】へと変貌した黎を見ていたヤクモ隊員とケトル爺は、戦闘機の物陰から飛び出してこの状況を有り得ない様な表情で見ていた。
独特なポージングにプロレス調での戦いを見ていて、ケトル爺は思い出していた。【怪獣退治の専門家】と呼ばれる“初代ウルトラマン”の姿を。
「ウルトラマン……か」
その懐かしむ様な表情のケトル爺に、ヤクモ隊員は尋ねる。
「貴方、あの巨人のことを知ってるの?」
「……知っているも何も、我々宇宙人はウルトラマンという存在を知っている。
宇宙の平穏を守り続ける、光の巨人達のことじゃよ」
エレキングに猛攻を仕掛ける
そして長き年月が経ち、“光の国”が宇宙の交通に関する仕事をしてくれたおかげで、こうして黎の居る地球へと向かう事が出来た。黎と知り合ったのは単なる偶然ともいえるが、今は黎との出会いを
“ウルトラアタック光線”“八つ裂き光輪”と続けざまに放つ黎は、エレキングを追い詰めていた。そして何かを考えていた際にエレキングが立ち上がり口から“放電光線”を放つも、黎は長方形型のバリアを自身の目の前に作り防いだ。
そしてバリアを作ったまま押し出し、バリアを解除すると黎は跳んでドロップキックを放ちエレキングを倒れさせる。
「凄い……!あれが、ウルトラマン……!」
ヤクモ隊員がその光景に釘付けになっていると、耳にかけている通信デバイスから声が聞こえる。
〔ヤクモ隊員、応答せよ!ヤクモ隊員!〕
「こちらヤクモ!こちらは無事です隊長!」
〔民間人の方はどうなっている!?〕
「えっ…………あの、その……」
口ごもるのも無理はない。助けた民間人が、あのウルトラマンだということを伝えたとしても信じてもらえるかどうか。それだけがヤクモの頭を悩ませていた。
そんな時、ひょいと通信デバイスを取るケトル爺。
「あ、ちょっと……!」
ケトル爺はヤクモに落ち着けとジェスチャーをすると、その通信デバイスで話をする。
「はいはい、もしもし」
〔……誰だ?〕
「あぁ、スマンのぉ。儂はその民間人じゃ、つい先程助けられての。心配せんでもヤクモ隊員とやらも無事じゃぞ」
〔そ、そうか…………ではすまないが、ヤクモ隊員と変わってくれないか?〕
「了解した」
ケトル爺は通信デバイスをヤクモ隊員に渡すと、自分の口に人差し指を当てる。つまりは、黎の正体については話すなということ。
それを理解したヤクモ隊員は、通信デバイスを耳にかけて話す。
「すみません隊長」
〔いや良い。それよりも…………あの巨人はなんだ?エレキングが手も足も出ていない〕
「いえ、まだ私にも……何がなんだか…………」
その会話中にエレキングに向かって走り出した黎。その足音に全員視線を向ける。だが、急に止まり何も無いであろう方向を見ていた。
「隊長!巨人が走りを止めました!」
〔こちらコカド!エレキングが起き上がります!〕
〔くそっ!なぜあの巨人は止まった……!?〕
今度は黎が何もない様な場所で腕を払う動作をした。それを見ていたケトル爺が、もしやと思っている所に黎がケトル爺とヤクモ隊員が居る方向を見た。
「まさか…………すまんがヤクモよ、今すぐ戦闘機を出してくれ」
「それは、一体なぜ?」
「恐らく……」
「ウゥ!」
「「!?」」
黎が苦しみの声を挙げる。それもその筈、先程体を起こしたたエレキングが尻尾で黎の体を縛り“エレクトリックテール”という攻撃をくらっているからだ。
その様子を見たケトル爺は、ヤクモ隊員を急がせる。
「早ようせぃ!彼奴は恐らく、まだ避難していない民間人を見つけたと思える!」
「ッ!?本当なんですか!?」
〔ヤクモ隊員、どうした!?〕
「まだ民間人が居るようです!今すぐそこに向かいます!」
〔でも、何処に居るってんだよ!?〕
「恐らく、ウルトラマンがあの時止まって見つめていた場所に居るはずです!」
〔……ウルトラマン?〕
「あの巨人の名前です!では急ぎます!」
通信を切ると戦闘機へと乗り込むのだが、後ろにケトル爺が座っていた。急すぎて何が起きたのか理解しかねたヤクモ隊員であった。
「な、何をしているんですか貴方!?早く降りて避難を!」
「黎が示した場所は分かった!儂が案内しよう!」
「あぁもう!」
ケトル爺を乗せたまま、戦闘機が離陸し黎が示していたポイントへと向かう。未だにエレキングに捕えられている黎は、胸のライフタイマーが
降り立ったヤクモ隊員が今現在動画を撮影している男を避難させようと試みる。
「何をしているんですか!ここは危険です、早く避難して下さい!」
「おーっと!?ここに来て美人登場!やっぱり映えるのは美人だよねぇ!」
「話を聞いてください!それと動画も止めて!」
しかしやめない。命が惜しくないのだろうか、動画を撮り続けている。ケトル爺は静かに男の後ろに回り込みスマホ画面を見てみると、コメントが幾つも更新されており多くの人間が見ている事が分かった。そしてそれを
「ウアアゥ!」
「ッ!?」
黎が3人の上空に現れたかと思いきや、その後ろに飛んでいった。エレキングが尻尾で投げ飛ばしたと推定できる。そしてエレキングが黎に向かって歩みを進めた。
その進行方向に3人が居た。強硬手段としてヤクモ隊員は男の腕を引っ張り戦闘機へと連れて行く。
「おっと!?なぜか戦闘機へと連れ込まれている俺!この危機的状況に俺
そしてヤクモ隊員から、聞こえてはいけない何かが聞こえた。
ヤクモ隊員が男の持つスマホを取り上げると、そのまま綺麗に半分に破壊した。
「あー!何すんだよオイ!」
「おんしゃあ、ええかげんにせぇよ!おまんみたいに避難もせん輩はアタシらにとって迷惑極まりないんじゃボケェ!そこで命がのうなったら、おまんがやりゆう動画投稿すら出来んこと考えられんのか!おぉ!?」
かなり早口に捲したて四の五の言わさずに圧倒させる。土佐弁全開のヤクモ隊員は大の男を、火事場の馬鹿力とも謂わんばかりの力で男を戦闘機の後部座席に
変な声を挙げながら後部座席で犬神家状態となった男を乗せて、今度はケトル爺に向かい合う。
「おまんも早う逃げぇや!」
「少し落ち着かんか。儂はキチンと逃げるわい」
ケトル爺は普通の老人が走れない速さでその場を去った。去っていった事を確認すると戦闘機に乗り込み、その場から避難する。危うくエレキングの被害にあう羽目になったと思うと少しだけ安堵するヤクモ隊員。
その飛び立つ戦闘機に、エレキングが気付いてしまった。エレキングは体を回転させて尻尾を振るうと、戦闘機の右翼に当たり墜落していく。
「きゃああああああああ!」
〔ヤクモ隊員!〕
〔ヤクモ先輩!〕
黎がケトル爺とヤクモ隊員が居る方向を見ていた時、突然体に尻尾が巻き付けられる。
「『ッ!しまった!』」
拘束から逃れようと必死にもがくが、捕えられると同時に電気が黎の体を伝わっていく。
「『なんだ、これ……力が…………ッ!入らない……!』」
ネオ・ウルトラマンの胸のタイマーはエネルギーが残り少なくなっていくと黄色から白へと変わり点滅するのだ。この白い点滅が消えると黒く染まり、最終的に活動が不可能となるのだ。
戦闘機が飛び立ち、先程の男が居た場所に着陸する。その事が分かると、とても安心していた。
しかしそんな余裕など与えない。エレキングは黎を投げ飛ばす。
「『ぐあッ!』」
人間サイズで比較的大きな広場に、投げて倒される黎。地面から土や道路の破片が舞い上がっていく。
エレキングは倒れた黎に向かって歩みを進めた。進路方向には不味いことに、ヤクモ隊員とケトル爺に加えて男が居る場所だった。
「『ッ……不味い!このままじゃ…………!』」
と、そんな時女の怒鳴り声が聞こえる。女の声でヤクモ隊員(黎は名前はまだ知らない)だと分かった。誰を怒っているのかは明白であろう。
そして戦闘機のブースター音が黎の耳に入る。良かったと感じつつエレキングを見やるが、当のエレキングは戦闘機に視線を向けていた。
「『まさか…………ッ!待て!』」
そして予想通り、エレキングが尻尾で戦闘機をはたき落とす。右翼に被害が及び、墜落していく戦闘機。
「きゃああああああああ!」
「『絶対に、見捨てるもんか!』」
黎は立ち上がる。そして初めて巨人ではなく、
黎は願った。そして願いが届いたかの様に黎の体が
黎が気付いた時は、戦闘機が
落ちている感覚が無くなり、まだ生きていると実感したヤクモ隊員はネオ・ウルトラマンを見上げる。
「ウルトラマン……」
黎は戦闘機をそっと安全な場所に降ろすと、エレキングを見やる。そうしている内にドンドン点滅が早くなっていき、黎の意識も薄れつつあった。
そしてエレキングが、口から“放電光線”を発射した。これでトドメと謂わんばかりに。
しかし黎は薄れつつある意識の中、無意識に両手を水平にして胸のライフタイマーを目立たせる様に構える。
エレキングの放電光線が黎のライフタイマーに当たった瞬間、その放電光線は
「『ッはっ!?……今の、今のって…………まさか、攻撃を?』」
ここでは無いどこかの宇宙の中に、このウルトラマンがフィクションとして存在する世界がある。これはその中の1つだが、1967年4月9日に放送された話に“ゼットン”と“ウルトラマン”が戦うというお話がある。
普通ならウルトラマンが勝つのだろうが、この時はゼットンが勝利を収めた。それはなぜか?
ゼットンには
そして初代ウルトラマンを倒した事で、後々の物語でも強力な怪獣として度々ウルトラマン達の前に現れるのだという。
黎が変身している【ZETA】は“初代ウルトラマン”と“ゼットン”の、正に因縁のある1人と1体の組み合わせである。当然、黎が初代ウルトラマンの技が使えるのならばゼットンの能力も使えるというもの。
光線を吸収し、あとは発射するだけ。そこで黎はまた初代ウルトラマンの姿が頭の中に浮かんだ。
初代ウルトラマンが磨き上げて必殺の威力にまで高めた、我々なら誰もが知り、そして真似をした
黎は少しだけ後ろに下がった後、素早く両手を十字に組むと黎の右手から
エレキングはそれをモロにくらい、エレキングが動かなくなると黎も両手を戻す。エレキングはそのまま倒れて、爆発した。
爆発が終わり漸く戦いも終わったのだと分かった黎は、疲れからか体が後ろに倒れていく。その際に変身も解かれるが、生身の黎を支えたのはケトル爺であった。
「よう頑張ったな、レイ」
「……ごめん、ケトル爺。僕、ねむぃ…………」
そのまま黎はケトル爺の腕の中でスヤスヤと眠ったのであった。