黎の目が覚める。知らない天井──というワケでも無かった。周りからは少し騒がしい位の人の声や足音、時たま聞こえる戦闘機のジェット音などが入る。上体を起こせば、周囲を見渡せば避難している人間が沢山居る。
先の件のエレキングによって、建物が多く倒壊している為に帰る場所が無い。だからこそ多くの人が居る。
「レイ、起きたか?」
「……ケトル爺」
「ほれ、朝ご飯じゃ」
手渡されたのは非常食の冷製スープと乾パン、水であった。乾パンは多く噛んで食べて、スープはゆっくりと味わって飲み干す。全部食べ終えると紙食器をゴミ袋に入れてケトル爺と今後を話す。
「さて、レイ。今の自分のことは理解できるな?」
「……うん。父さんのことも、分かる。僕が」
「そこからは言わんで良い。レイの正体は成る可く明るみに出てはならん」
「分かった……」
「そこでなんじゃがレイ、一旦儂の家に寄らんか?」
「ケトル爺の?あの山の?」
「うむ。少し用意したいのがあっての、今なら向かえる」
「……ん、分かった。このケースは持って行って」
「構わんよ。必要なものじゃからな」
そうしてケトル爺と黎の2人は避難所を去る。立つ鳥跡を濁さずというように、元いたその場所を片付けてケトル爺の家へと向かう。
ケトル爺の家は被害にあった建物が密集している場所ではなく、珍しく木々が密集した場所に建てられている。そしてここから3駅もの距離があるため、遠いといえば遠い。しかしケトル爺は一応“宇宙人”、黎は黎で人より体力があるので歩くのは苦というワケでは無い。
ケトル爺と黎は荷物を持ってケトル爺の住まいに向かう。殆ど徒歩で向かっているが疲れは無い、代わりに話が滞ってしまう。そして約3時間半で到着すると古風の家に上がる。
「お邪魔しま〜す……」
「いらっしゃ〜い」
「……ちょっと真似したでしょ」
「まぁの。さてレイ、ゆっくりしていってくれ」
「うん」
居間の場所で座布団に正座して少しゆっくりと過ごす。ケトル爺はお茶を入れに行き、1人になった所で黎はジュラルミンケースを開ける。入っているのはミックスデバイスと10枚の厚みがあるカード。
その内2枚は巨人“初代ウルトラマン”と怪獣“ゼットン”の絵が描かれているカード。この2枚を使い、黎は黒銀のウルトラマンに変身した。しかしそんなことよりも、黎はこれを残した父である夜月のことを考えていた。
「…………父さん、とおさん……」
勝手に出て行って、勝手に託して、勝手に戦って、勝手に死んでいった父親のことを。なぜ自分にこれを渡したのか、なぜ自分が
カードを元に戻しケースを閉じようとした途端、緩衝材が落ちる。元に戻そうとケースを再度開かせると何やら1冊の説明書の様な紙束があった。
不思議そうに黎はその紙束を手に取り、裏を見る。
「……“適合獣”?」
それだけが書かれていた。紙束を開くと、中はミックスデバイスの絵と説明文に加え巨人と怪獣のセットが幾つもあった。
「!…………これ、デバイスの。こっちは……」
黎は初代ウルトラマンとゼットンのカードを取り出し、それらを説明書のセットと照らし合わせていく。確認された番号は1、そこに初代ウルトラマンとゼットンの絵がセットで描かれていた。
「やっぱり……これ、変身する時の…………」
残りのカード8枚を取り出すが、両面見ても何も描かれていない。説明書には幾つかの形態と思わしき姿が書かれた文字と、使用する巨人と怪獣の絵が描かれてある。
「お茶持ってきたぞー、レイ」
「…………ケトル爺」
「ん、何じゃ?」
「これ、見てくれる?」
「どれどれ…………これは……ッ!」
同じくその説明書を読んだケトル爺も内容に驚く。このミックスデバイスの精確な使用方法、そして巨人と怪獣のセットによる変身形態。その変身形態の特性までもが記されていたのだ。
そして初代ウルトラマンとゼットンの組み合わせが、黎の変身した【ZETA】。初代ウルトラマンの持つ多彩な技とゼットンの固有能力が使用可能で、バランスの優れた形態であること。
他にも防御重視の形態、攻撃重視の形態、特殊攻撃重視の形態、俊敏性重視の形態など様々な形態が。しかし姿は描かれておらず、その形態名だけしか書かれていなかった。
黎とケトル爺は一旦机で向かい合う様に座り、話し合う。
「さてレイよ、これは何処で?」
「このケースの……えっと、緩衝材だっけ?その下に」
「……どうやら、レイの父親が仕込んだかもしれんな」
「父さんが…………でも、何で」
「それは分からん。じゃがレイよ、これならばその機械の使い方が大体わかるぞ。そのミックスデバイスとやらの機能もな」
説明書にはこう書かれてある。
・怪獣に対しデバイスでスキャンさせると、該当するウルトラマンのカードと怪獣のカードを新たに使用できる
・また同様に、ウルトラマンに対してデバイスをスキャンさせると該当する怪獣のカードとウルトラマンのカードが新たに使用できる
・但し新たに使用するには、ブランクカード2枚をデバイスに差し込み怪獣(又はウルトラマン)にデバイスを接触しなければならない。
・また怪獣をスキャンする場合、該当する怪獣でなければ読み込みは不可能
今黎の手元にあるブランクカードは残り8枚、あと4回までスキャンが可能ということだが逆を言えば
だが黎の居るこの地球には、黎以外のウルトラマンは居ないため怪獣をスキャンしなければならない。そして怪獣にも制限が掛かっているとなると、早々に力を手に入れるのは難しいことである。
「そして該当怪獣の制限…………ここに来るかどうかが怪しいが、覚えておいて損は無いじゃろう」
「うん……そうだね」
「…………ん、そうじゃレイ。少し相談なんじゃが」
「……相談?」
「うむ。レイよ、防衛隊に入る気は無いかの?」
「防衛隊……?」
「“Protection・Humanity・System”、その3つの頭文字を取って【P・H・S】と呼ばれる機関のことじゃ」
この世界には謂わば特殊な組織として存在している機関がある。それがケトル爺が言った【P・H・S】だが、昔怪獣がこの地球を襲った事件があったことで設立された機関である。
しかし怪獣の侵攻が沈静化したのは今から32年程前。その時代に作られた機関なのか、知る人は知る古い組織。その代わり怪獣に関するデータなどは揃っており、唯一
「でも、何で僕に?」
「今のレイは単なる“民間人の1人”であり、ウルトラマンじゃ。怪獣が襲って来たとしても、レイは変身して戦うことが出来る。
しかし、レイの正体は成る可く隠し通さなければならん。それなのに被害現場で民間人が逃げてもいないと勘づかれ、あまつさえウルトラマンだと言うことがバレれば不味い事態になるやも知れん。幸い、あの時居たパイロットには秘密にしてもらったがの」
「つまり……自然な状況にさせるってこと?」
「その通り。その防衛隊に行けばある程度の誤魔化しは効くと言うワケじゃ」
1通り話し終えた後、ケトル爺は机の上のお茶を飲む。その間でも考えている黎であったが、自身の事をどうしようかと考えたのはあまり経験していない。そんな様子を見たケトル爺は、机に湯のみを置き話を続けた。
「まぁ、そこはレイ自身が決めることじゃて。無理強いはせんよ」
そう言い終えた時、正確には少し経ってからだが黎がキョロキョロと辺りを見渡した。
「どうした、レイ?」
「……ケトル爺、何か感じない?」
「なにか……?」
「そういや、エレキングが来た時もこんな感じに」
瞬間、地面が揺れた。家が揺れて辺りの物が揺れる。ゆれがある程度収まった後、ケトル爺と黎は視線を合わせて頷き外に出る。
外を見やると、鳥の顔をした怪獣が街に着陸していた。
一方その頃、【P・H・S】本部に居るヤクモ隊員こと『ヤクモ・ヒトミ』は1人デスクで思い返していた。
あの黒銀の巨人に変身した青年のこと。あの時自分とその青年を助けた老人のことを。あの青年が黒銀の巨人である事は、その老人から喋らないでくれと念を押されており誰にも話してはいない。
というよりも、あの青年が黒銀の巨人へと変身したという事実が信用されにくいと考えた結果でもあった。そして、あの黒銀の巨人の名前のこと。
「“ウルトラマン”か…………」
「何をお考えですか、先輩」
そう言ってコーヒーの入ったマグカップを置くのは、この【P・H・S】の隊員の1人『コカド・イツキ』であった。彼はこの機関のパイロットであり、操縦技術に関すれば今のところ右に出る者は居ないほどの腕前の持ち主。
どちらかと言えば感情的なタイプであるが、それ故に仲間に対する信用が深く機関内でも信頼されている。そんな人間。
「あの巨人のこと……ですか?」
「えぇ。ウルトラマン……って、呼ばれている黒銀の巨人。あれが何なのか、さっぱり」
「ウルトラマン…………先輩が助けたご老人が言ってたんですよね?年齢的に7、80の。だったら昔起きた怪獣侵攻と何か関係があったりして」
「いや、それよりも前だ」
自動ドアが開かれると、ガタイのいい中年男性が姿を現す。
「ミナト隊長」
「隊長、それより前って……」
隊長と呼ばれたその人の名は『ミナト・ケンヤ』。この【P・H・S】隊長のポストに勤めており、リーダーシップを遺憾無く発揮し現場指揮を担当する傍ら自分自らが出向く時もある。
ミナト隊長は持ってきていた資料ファイルを作戦会議に使用するデスクに置き、ファイルを開く。そこには幾つかの文献の1部と思える紙が入っており、それらを2人に見せていく。
「ヤクモ隊員の言っていた“ウルトラマン”について心当たりがあったからな、少し調べてみたのさ。そしたら……これらが入っていたファイルがあってな」
「……って、これかなり古いですね。確認されているだけで60年前に出没してますよ」
「あぁ。その文献には共通している点があってな、怪獣らしき生物が現れ人々の平穏を脅かそうとする時のみ現れると」
「じゃあ……先の件も私達を助ける為に?」
「いや、実は見てほしいのは別の箇所にあってな。あー………………あった、これだ」
その紙を見る2人。内容を見る限り、そのウルトラマンに関する資料なのだろうが外国の文字で読めない。ミナト隊長がそれを見ている2人に説明し始める。
「何でも確認された中では
紅と銀、紅のみ、銀のみという風にしか記載されていないんだ」
「で、でも……私も隊長もコカド君も見たのは…………」
「
「そんな…………」
そんな最中、警報が鳴り響く。ミナト隊長は通信デバイスを起動させてとある人物の話す。
「イデさん、モニターの起動を!」
〔りょーかい!〕
作戦会議用のモニターに外の風景画映し出される。またもや街中に現れた怪獣であった。
「ベムスター……!」
〔いや違う!宇宙怪獣ベムスターにしては大き過ぎる!あれは80m級の大きさだ!〕
「何て大きさだよ……!」
「いや、それでも我々は人々を守る為に行かねばならん時がある!今がその時だ!」
ヤクモ隊員とコカド隊員がミナト隊長に向き合い、敬礼をする。
「出撃準備!」
「「了解!」」
ミナト隊長を含んだ3人が戦闘機の格納庫に向かう。グレーと青、白のカラーリングを施された戦闘機【V01】【V02】【V03】にそれぞれ乗り込み確認を行う。その間、出撃態勢が整い次第出撃できるように出撃口の扉が上下に開かれる。
それぞれの準備が終わると、3人は出撃態勢に入る。
「V01!ヤクモ・ヒトミ、出撃します!」
「V02!コカド・イツキ、出撃します!」
「V03!ミナト・ケンヤ、出撃する!」
3機が順に飛び立つと、急ぎ現場まで向かって行く。標的であるベムスターと思わしき怪獣は、遠くから視認できる程大きく倒せるのかどうかすら怪しい。
「こちらミナト!イデさん、ベムスターの弱点は!?」
〔腹部にある五角形の口の様なものがある筈だ!その吸引アトラクタースパウトはガスやエネルギー、果ては建造物なども吸い込んでしまう!〕
「それじゃ勝ち目がないんじゃ!?」
〔安心せいイツキ君!そいつは光線を吸収し過ぎると死んでしまうのだよ!スペシウムエネルギー砲を使って、たらふく食わせてやれ!〕
「「「了解!」」」
戦闘機の形がそれぞれ変化する。V01戦闘機の先端が2つに別れ、そこから砲身の様なものが出現する。次にV02の先端が別れると、両翼に移動し接続アタッチメントが出現しV01とドッキングを果たす。最後にV03の両翼が前に移動し、同じようにアタッチメントが出現するとV01・02複合機の最後尾にドッキングする。
その状態で約80mもの大きさのベムスターに向かって行く途中、イデと呼ばれた人物から連絡が入る。
〔ベムスターは形故に背後からの攻撃に滅法弱い!先に誘導させて、そのあとスペシウムエネルギー砲を与えろ!〕
「「「了解!」」」
素早さで言えば、航空自衛隊にある戦闘機よりも速度のある複合機はベムスターの背中に位置する。そのベムスターは街中で暴れており、建造物を壊しまくっている。
「ヤクモ、コカド!スペシウムエネルギー砲のチャージはこちらが行う!お前らは被害を抑える為に攻撃し続けろ!」
「「了解!」」
ヤクモとコカドがそれぞれスイッチを押すと両翼の一部と下から小さめの砲身が展開され、そこからビームが発射される。背中でモロにくらったベムスターはたじろぎ、複合機に注目する。
しかしベムスターが腹部の吸引アトラクタースパウトを開かせると、そこから光線を発射した。
「ッ!回避!」
寸での所で回避に成功した複合機であったが、ベムスターはまだ交戦を発射していく。しかし光線を吐き続けるベムスターの攻撃を必死に避けている為、もしエネルギーが溜まったとしても攻撃できるか怪しい。
「イデさん!ベムスターの腹から光線が発射されています!このままでは攻撃すら危ういです!」
〔何だと!?〕
今度はベムスターの腹部から竜巻状の煙が巻き起こる。それに複合機は巻き込まれ、制御を失って上空に飛ばされる。煙が晴れると、ベムスターはすかさず光線を発射する。
誰もが当たると確信し、避けられないと悟った。
しかし攻撃は一向に当たらない。不思議に思った3人は目を開ける。
その複合機の前方に、先日見た黒銀のウルトラマンが守っていたのだ。