星王が異世界から来るそうですよ?【修正中】   作:きのこの山親衛隊

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終焉を示す時計の針
星王が異世界から来るそうですよ?


 プロジェクト・アリシゼーション

 

 それは、高度なボトムアップ型のAIを作り出し、それを無人兵器に転用することを最終目的とした、自衛隊主導の極秘計画である。

 その目的のために創られた仮想世界であるアンダーワールドでは、『ラース』によって作られた人工フラクトライトたちが生活している。

 

 『ラース』はAIのブレイクスルーを促すアリシゼーション計画の最終段階として、最終不可実験──通称、異界戦争──が勃発された。それらは人界とダークテリトリーとを隔てる東の大門という結界を撤廃するという実に簡単なものだった。

 人界守備軍は整合騎士と騎士・衛士のみの総勢5000の戦力で、暗黒界軍50000との戦いに臨んだ。その戦いは現実世界からの干渉もあり壮絶なものとなり、暗黒界軍との一時共闘や、心神喪失状態にあったキリトの復活により、痛み分けに終わった。

 その後は、人界側の新代表であるキリトと、暗黒界側のイスカーンとで和平条約が締結され、双方に平和がもたらされた。

 たしかにそのあり方は英雄そのもので、その過程は誰もが万来喝采をあげる素晴らしい花道だったであろう。箒星(すいせい)のように宙を駆けていくその威容は、誰もを魅了し、虜にしたに違いない。その英雄譚はすでに終え、これから後に語られることは全て蛇足になるだろうことは疑う余地もないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白亜の門を抜けると、そこには天を支えるかのような柱が立っていた。

 それは、まるで神話の中に登場するようなバベルの塔。だが、その塔は神々の怒りに触れることなく、静かにその威容を誇っている。

 それも当然。今となってはあの塔には傲慢なる支配者であった少女はもういないのだから。今、この塔から人界の遍く全てを見つめているのは、理性によって統べる偉大なる王。全てのものが、畏怖と尊敬を持ってこうべを垂れるこの世界の支配者である星王、星王妃。

 清廉潔白を体現したかのように思われる彼らは罰せられるような罪はないのだから。

 

 星王の治世は繁栄を極め、この地──セントラル・カセドラル──は今やその栄華を誇るまでに至るようになった。

 辺りを見渡しても、人々は活気と笑顔にあふれ、その営みを続けている。自分の生きていた時代とは似ても似つかぬ様子になったことに感慨と少しの淋しさが押しよせてくる。

 

 一歩、一歩と歩みを進めるたびにその変化は明瞭になっていく。

 かつて、迷路のように入り組んでいた薔薇園は王立公園(ロイヤル・パーク)として改修され、今や観光名所の一つとして多くの人で賑わっている。

 また、カセドラルの20階あたりには失われていた《時刻みの神器》が設置されている。それはかつて失われたもの。それを再現した星王の神技には人界の誰もが感激したそうだ。

 嗚呼、と思わず声をもらす。そこには彼との思い出の場所の一つである地下に続く階段があったからだ。そこもかつては監獄として使用されていた。今はその広さと地下にあるという特性を利用して、カセドラルの市場として使用されている。

 

 そうやって歩みを進めているうちに、どうやら目的地にまで到達することができたみたいだ。

 もうすでに多くの人が集まっているようで、なかなか前の方を見ることができない。爛々と照りつけるソルスの恵みは、この地上に恵みを与えると同時に、暑苦しさも与えるのだ。特にこの人の多さでは。

 ググッと背伸びをすることでようやくその人物を見ることができた。その瞬間、遠くから壮麗な鐘の音がなるのが聴こえた。

 

 

 

 演説が始まる。

 

 

 

 

「──(オレ)が統べる全ての民たちに告げる」

 

 透き通るようなアルトボイスが、民衆で埋め尽くされたカセドラル全域に浸透するように響き渡る。

 

「よくぞ、ここまで従ってくれた。まず、そのことに(オレ)は喜びを感じている。1年ほど前だったか、。おまえたちに言った。

 ──(オレ)はこの世界の人でないと」

 

 数百、いや、遠見の術を使って見ている人を合わせるとおよそ数千にも及ぶ民衆の前で声高々に演説するのは、まだ年端もいかないように見える少年。

 だが、彼を見ている民衆は知っている。彼は、星王は不老の存在であることを。

 

 彼は、超人的な反応速度を持っていた。

 

 ただそれだけで、英雄として祭り上げられ、王に至った少年は、その容貌からは想像もつかないような凛然たる声で厳かに告げる。

 

「だが、おまえたちの忠義は未だ変わらず、()()()()()()()()()と同様おまえたちは(オレ)に尽くした。まさに──この(オレ)は恵まれていたらしい

 ならば、次は民に褒美を与えるのが王としての務め」

 

 王として。

 それが彼が手に入れた栄光にして、責任という重し。

 

「もはや、我々にはリアルワールドへの従属など必要なし。我々は人として命を得た。そこに、生まれる世界が異なるからという理由で支配され、管理される理由とはなり得ない。

 その証として、(オレ)は機竜を製作し、おまえたちにこれを与えた」

 

 王の演説は続く。

 

(オレ)はおまえたちの可能性にかけたい。もう、この世界に異世界人という機構はいらない。おまえたちは今こそ、その庇護から離れ、自立しなければならないのだ!

 かつての間違いは起こさせない。知性ありしと自負する誇り高き臣民たちよ。おまえたちは歩み続けなければならない。問い続けなければならない。自分たちの生の意味を、自分たちのあり方を、自分たちの意思を!」

 

 僕たちもかつてはそうだった。

 自分たちの境遇に妥協して、諦めて、忘れようとした。けれども、忘れれなかった。コード871があったからではない。最高司祭の統治に従っていた方が楽だからそうしてしまっていた。

 彼に、星王にあってその間違えに気付かされた。人は問い続けることをやめてはならない。常に、生き続ける限り問い続けなければならない。そんな単純なことを僕たちは忘れていたのだ。

 

「おまえたち未来は可能性に満ちている。この世界の可能性もまた然り。この世界の、あらゆる可能性は、いまはまだ不確定な光の彼方にかすかに揺らぎたゆたうのみである」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キリトくん、あれでよかったの?」

 

「ああ、もう彼らは自分たちで自律する時だ。我々の役目はもう終わった」

 

 王の寝室にて。部屋の中を薄暗く灯す光は二人の男女の影を大きく壁に映し出している。

 灯火は弱々しく、儚い。それは、自分から消えようとしているかのようにも思える。箒星は、流れ、堕ちて、消えていく。その一瞬で人を魅せることもあれば、誰にも気付かれずに堕ちていくこともある。けれども、そのどちらにせよ、結末は変わらない。

 

「ねぇ、キリトくん。もし、比嘉さんとかが私たちのフラクトライトがコピーしたらどうする?」

 

 恐る恐る聞く。それは二人がどこかで思っていた懸念。見て見ぬ振りをしていた現実。

 

「俺は。俺だけならアンダーワールドのためにのみ戦う。なぜなら俺は……あの世界の守護者なのだから」

 

 確固たる信念と決意を持ってそう伝える。

 アスナは満足そうに、けどどこか悲しそうにその意見に頷いた。

 

「アスナはどうする?」

 

「私だけ複製されたのなら、即座に消去してもらう。

 もし、二人ともに複製されたのなら、残り少ない時間を、二つの世界の融和のために使いましょう」

 

「ははっ、そうだな」

 

 そう言って二人で見つめあって笑った。

 こんな時間がずっと続けばいいのにといつも思ってしまう。

 

 けど、時間は不可逆的ものなのだ。決して戻ることなく、ただ無情に過ぎていく。けれども、だからこそ人はその短い生を精一杯使おうと努力するのだろう。

 かつて、英雄と呼ばれたキリトがそうであったように。

 

 

「長い眠りにつく前に、一つもしもの話を聞かせて?

 もし、二つの世界のどちらでも無い世界にキリトくんが連れていかれたらどうふる?」

 

 二人の視線が交錯する。その綺麗な、澄んだ目が俺の目の奥を捉えて話さない。自分の奥底の、本質を見られている気持ちさえ起こる。けど、それは、決して居心地が悪いのではない。むしろ逆、安心して、思わず身を任せてしまいたくなるような心地がする。

 

「そうだな、俺は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう自分の身体は岩のように動かない。ただ、手を握って二人で寝ているアスナの体温がほのかに伝わるだけだ。

 俺たちが長い眠りについてから30年。そろそろリアルワールドに戻れそうな予兆が出てきた。

 「もし、記憶がなくなったらどうしよう」、かすかな恐怖が芽生えたのであろうか。となりのアスナがぎゅっと手を握って来る。俺はその手を握り返した。

 もうあまり動かない唇を一生懸命動かして彼女に伝える。

 

It will be alright(きっと全て上手くいく).」

 

Sure(そうね).」

 

 そう穏やかな声が空間へ流れた。

 二人は瞳を見交わし、かすかに頷き合った。

 

 まもなく、俺らはこの世界から欠片も残さず消滅するのだろう。それは明確な死を実感させるソレには、一片たりとも恐怖を抱かさせなかった。

 隣に寝ている最愛の人さえいればどこにでもいけると確信しているからだろうか。

 そう思って目を閉じる。

 孤独だった少年の物語はここで終わるはずだった。

 

 ────後になって思えば、だからこそ気づかなかったのかもしれない。自分の宛てに届くはずのない手紙が届いていたことを。

 その手紙にはこう記載されていた。

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能を試すことを望むならば、

 己の家族を、友人を、財産を、世界の全ての捨て、

 我らの"箱庭"に来られたし』

 

 その直後、世界は暗転し煌めきに包まれた。

 

 

 

 意識は電気信号から翻訳され()()()()の肉体を形成していく。

 大容量の光回線を超高速で突進し、どこかの異世界へと飛翔していく。

 新たな冒険へ。

 次なる物語の中へ。




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