「オーガスくんクラス代表決定おめでとう!」
「「「おめでと~!」」」
パン、パンと乾いた音が鳴る。オレにとってはなじみ深いその音が、この平和な国では祝い事のために鳴らされるっていうんだから、世界は広いな。
あの決闘から一週間。保健室に常備されてるメディカルナノマシンのお陰でセシリアが完治したタイミングで、1組全員でパーティを開くことになった。ちなみに後で聞いた話だけど、ISの絶対防御も完璧じゃなくて、シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば生身の身体にダメージが貫通するんだって。もし殺してたら騒ぎになりそうだし、生きててよかった。
「はいはーい、新聞部でーす。今話題の『1組の悪魔』、三日月・オーガスくんに特別インタビューをしに来ました~!」
「Oh……」
「副部長自ら……」
「オイオイ、死んだわあの先輩」
インタビューって何だ?それに、新聞?あんまり馴染みの無い言葉だな。
馴染みがないと言えば、今この女の子が言った『1組の悪魔』っていうのも聞き慣れないけど、もしかしてそれ、オレのこと?
「あ、私は二年生の黛薫子、よろしくね。じゃあ早速、クラス代表になった感想をどうぞ!」
「クラス代表って、いろいろやることがあって、面倒くさいなあ。別に、オレはセシリアでもよかったんだけど」
「……ISを見ただけで悲鳴を上げるような状態で、勤まるわけがないだろう……」
「あれ、君は確か篠ノ之さんだね。IS生みの親である篠ノ之博士の妹で、オーガスくんと同室の!あとで取材させてもらってもいいかな?ていうか今しちゃう!早速ですが、オーガスくんとの関係は?」
「ルームメイト兼、保護者……といったところか?決闘のときのように、こいつは放っておくと何をしでかすかわからんのだ」
「ホウキはいい奴だよ。勉強見てくれるし、武器の使い方とか教えてくれる。あ、そういえばお礼をまだ言ってなかったっけ。この間の戦いさ、お陰で突きがきれいに決まったよ。ありがと」
「衝撃の事実!あの“悪魔の一撃”を生み出したのは篠ノ之博士の妹だった!……早速いい記事が書ける気がしてきたわ、ありがとう!」
「ち、違うんだ!皆もそんな目で見るな!」
その後はみんなで写真を取って、運ばれてきた料理やお菓子を腹いっぱい食べて、オレが学園に来るきっかけになったときの話を聞かれたから答えようとしたら、なぜかホウキに必死で止められて。そしたらみんなが急に騒がしくなって……そんな穏やかな時間が、夜遅くまで続いた。
こういうの、久しぶりだな。ここに来る少し前、タバネがオレ達の後ろ盾になってくれたときに鉄華団のみんなで騒いだとき以来だ。
オルガ。オルガがくれた新しい居場所は、本当にいいところだよ。
◆
「オーガスくん、おはよー。ねえ、転校生の噂、聞いた?」
「ううん、転校生がどうしたの?」
「それがねー、なんと中国の代表候補生なんだってー」
「……中国の?その話、詳しく聞かせてくれない?」
「おー。オーガスくんが乗ってくるのは珍しいねー。でも、そのこわーい顔をやめてくれたら嬉しいなー」
次の日の朝、隣の席の女の子からこんな話を聞いて、タバネが言ってたことを思い出した。
『確かにそこのおいしそうな子の言うとおり、これで君たちが直接手出しされることはないだろうね。でも、おバカさんはどこにでもいるからねー。ほとぼりが冷めた頃を見計らって、どうにかして接触しに来るはずだよ。例えばそうだねえ……学園に行くみーくんと仲良くなって、そこから君たち、さらにその先の私に、って言う風にね』
マルスと中国の間では国境紛争が続いてて、特にオレたちが住んでたクリュセでは激しい戦いが起こることが多かった。オレやオルガや、他の今の鉄華団の団員は、当時そこにあった民間軍事会社CGS所属の兵士として、MWに乗って働いてた。
そんな日がずっと続くかと思ってたある日、人権活動家として有名(もちろんオレは知らなかった)な女の子、クーデリアの護衛をオレたちが担当することになった。クーデリアはオレたちみたいな少年兵の現実を知って、痛みを分かち合いたいとか言ってた。正直、初めて会ったときはあの無自覚な上から目線、あんまり面白くなかったよ。
で、その夜、戦いが起こった。いきなり中国軍のMW部隊がオレたちの基地に攻めてきて、真っ先に矢面に立たされたオレたち参番組はたくさん死んだ。オルガとビスケットの機転で敵が減ったから、なんとか押し返すことができたんだけど、そのときにあいつが現れたんだ。
緑色の全身装甲に身を包んだ、自由に空を飛ぶ人型の機械――ISが。
そいつは指揮を取っているのがオルガだってすぐに気付いて、右手に持ってたライフルを向けた。それを見たオレは頭が真っ白になって、とにかく無我夢中で、射線に割り込みながら機銃を連射した。何発かは敵の銃口の中に吸い込まれていったけど、オレが覚えてたのはそこまで。気がついたらオレはMWから投げ出されて基地の中に倒れてた。全身がひどく痛くて、視界はなんだか真っ赤だった。それでも、赤く染まった世界のなかで、光り輝いてた何かがオレを呼んでる気がしたから、かろうじて動く左手を伸ばした。
こうしてバルバトスと出会ったオレは、世界で初めてのIS操縦者になって、タバネと出会って、今ここにいる。手に入れた居場所に不満はないけど、きっかけになったあの戦いのことは、どうやってもいい思い出にはならない。やられっぱなしは嫌だからな。
「まー、難しいならそのまんまでもいいや。その転校生は2組に転入してすぐに、前のクラス代表からクラス代表の座を譲り受けて、今度のクラス対抗戦にも出てくるんだってー」
「へえ……いいね、それ」
「代表候補生ってことは、当然専用機持ちよね?それじゃ、今年の1年生のクラス代表は、全員専用機持ちってことになるのかしら?」
「対抗戦が荒れそうね」
「でも4組の代表は、この間の決闘を見て怯えてたわよ。直接対決になれば間違いなくオーガスくん大勝利よ!」
「怖さでいったら、あの3組の子も相当よね。なんか、強くなることにしか興味が無さそうで、先輩にケンカを売ったとかいう噂もあるくらい」
「あっそ。で、2組の転校生は?」
「昨日の今日だからねー。情報なしだよ」
「――あら、早速あたしの話題で持ちきりみたいね」
盛り上がりに水を差すように、初めて聞く声が割り込んできた。
声がしたドアの方を見てみると、そこにいたのは腕を組んで片膝を立ててドアに寄りかかってる女の子がいた。ついでに言うと、やっぱり見ない顔だ。じゃあ、こいつが噂の転校生?
「あたしが中国代表候補生、鳳鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ。さて、噂のガンダムフレームの持ち主っていうのはアンタね」
「ファン・リンイン……そうか、おまえが……」
「話は聞いてるわ。あの機体、『ガンダムバルバトス』は、元々うちの国に割り当てられたコアよ。それを――ひっ!?」
すでに間近に迫ったファンの喉へと手を伸ばし、握りしめる。相手は、アトラとそう変わらない体重の女だ。だから、片腕でも十分持ちあげられる。
「あ、あんた……何の……」
こいつは中国の代表候補生で、専用機持ち。つまり、オレたちを襲って、仲間を大勢殺したやつらの一味だ。オルガが言ってたよ、いつか必ずこの落とし前をつけるって。対抗戦まで待つつもりだったけど、こいつはここで――。
「た、たす、け……」
「何をやっているか、三日月!」
ゴツン、と頭の後ろを殴られた。誰だよ、オレの邪魔をするのは。気にいらない。
「その目をやめろ、三日月!ここはIS学園だ、国同士の争いを持ちこむな!」
「ごめん、ホウキ」
「謝る相手が違うだろ、まったく……」
そういえばビスケットは、絶対に騒ぎを起こさないようにって言ってたような。アトラからも、女の子には優しくしなきゃだめって。でも、こいつは敵だし……とりあえず、ホウキの言葉に従っておこう。
「なんか、ごめんな」
「げほっ……何が『ごめん』よ!あんた、頭おかしいんじゃない!?」
「二人とも、落ちつけ。周りの迷惑だ。……んん?」
「そういえば、誰だか知らないけど止めてくれてありがとう。助かったわ。……げっ」
「「お前は!」」
あれ、この感じ。ホウキとファンって、もしかして知り合い?
「一昨日の偽幼なじみ!」
「一夏のところにいた泥棒猫!」
一夏ってたしか、織斑先生の弟で、ホウキの幼なじみだよな。そういえば先週末は久しぶりに会う約束をしてるとかで、妙に浮かれて出かけてたっけ。
なんか、オレそっちのけで盛り上がってるけど、そろそろやめた方がいいよ。織斑先生の足音が聞こえる。
◆
「あ」
「むっ」
「げっ」
昼飯を食べに食堂に行ったら、朝会った中国の代表候補生、ファンとはち合わせた。
「……はあ、最悪。せっかく気分転換にいいもの食べにきたのに、あんた達に出くわすなんて」
「飯を食べる場所が食堂なんだから、こういうこともあるでしょ。嫌ならどっか行けば?」
「三日月の言うとおりだ。ほら、早く進め。後が詰まっているだろ」
でも、こういうときに限って空いてる席が少なくて、オレら3人はひとかたまりになって座ることになった。睨みあうホウキとリンの間に挟まれて、なんだか居心地がわるいな。
「ねえ、あれオーガスくんじゃない?」
「何あれ、修羅場?」
「えーと、うん。ある意味修羅場……というか、修羅みたいだった」
「男の子の取り合いなんて、青春ね」
「あはは……中途半端に正解というか」
周りも騒がしいし、さっさと食べちゃおう。正直オレもこいつの隣で食事とか、嫌だし。
「で、あんたはなにマイペースに食べてんのよ!」
「蕎麦」
「そんなの見ればわかるわよ!」
うるさいなあ。メシがまずくなるだろ。
「まったく、自分は関係ありません、みたいな顔しちゃって。……なんでこんなやつのために、あたしが……」
「それ、どういう意味?もしかして、朝言いかけてたことに関係あんの?」
「あ、ん、た、が!強制終了させたんでしょうが!いきなり人の首締めてどういうつもりよ!」
「だってあんた、宣戦布告に来たし、オレの敵なんだろ」
「……はあ。『悪魔』とはよく言ったもんね。人間の常識が通じないわ」
朝の出来事だけじゃない。こいつの国は、オレたちの仲間をたくさん殺したんだ。その落とし前はつけさせないと。
「三日月、これ以上はやめておけ。常々言っているが、ここはIS学園だ。暴力では何も解決できんぞ」
「解決?何それ。オレはただ、やられっぱなしが嫌なだけだよ」
「自分がしたことを棚に上げて、何言ってんのよ?ISの強奪に、国境侵犯。おまけに女の子に手を上げるなんて、これだからマルス人は」
「バルバトスを無くしたのはおまえらが間抜けだからだ、ってタバネが言ってたよ。それとも、こういうのって、そっちの国に抗議した方がいいのかな?オルガは、話はついてるって言ってたんだけど」
「何を言おうが、あんた達はテロリストと同じよ!そんな相手に妥協点を探すなんて、するわけないじゃない」
「うるさいなぁ。オレも面倒臭くなってきた。いい加減――」
背中がかっと熱くなって、オレの周りにユラユラと揺れる影が現れる。バルバトスもこいつを叩き潰したがってるんだ。何度も授業を受けたから、1秒もせずに展開できる。そして一撃叩き込んで静かにさせてやれば――
「あらあら。なんだか騒がしいとは思いましたが、お猿さん同士の縄張り争いでしたか」
「……邪魔しないでくれる?」
「何よいきなり偉そうに!あんた、何様よ」
臨戦態勢だったオレ達の間に割って入ったのは、保健室で休んでたはずのセシリアだった。なんか調子悪いって聞いてたけど、元気そうだな。
「あら、ご存じないんですの?この私、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットを?」
「そういえば、聞いたことがあるわね。代表候補生のくせに、決闘でボコボコにされて引きこもってるイギリス人がいるってね」
「まあ、それで挑発のつもりですの?弱い犬ほどよく吠える、というのは日本のことわざでしたっけ」
……なんか、やりあう気分じゃなくなってきたな。
「あなたも代表候補生、そしてクラス代表というのでしたら、こんなところで周りの生徒を怯えさせるような真似は慎むべきですわよ」
「それは……そうだけど。でも、こいつが悪いんじゃない!」
「見苦しい言い訳など不要ですわ。あなたも三日月もクラス代表なのでしょう?ここはIS学園。国同士のいさかいを持ちこむ場ではありません。学生なら学生らしく、クラス対抗戦で決着をつけられては?」
「上等よ!あんたなんか、コテンパンにしてやるから……って、何のんきに食べてんのよ!」
またあいつが騒ぎだしたけど、無視だ。昼休みは限られてるし、食事くらいゆったり食べたい。
◆
「三日月さん、篠ノ之さん、少しよろしくて?」
「ん、セシリア、何か用?」
「こら三日月。オルコット、昼は助かった。感謝するぞ」
「気になさる必要はなくってよ。あんな騒ぎを放っておいたら、わたくしの沽券にかかわりますもの」
5時間目から授業に復帰したセシリアは、放課後になったらオレと箒に話しかけてきた。
「いきさつはわたくしも聞きましたわ。三日月さんの故郷、マルスは中国との国境紛争が続いている国ですわね。その代表候補生である鳳さんと反目するのは仕方がないことだと思いますわ」
「そこは同意するが……暴力はいかんぞ、三日月。武士道に反する」
「直接やりあうのとISで勝負するのって、そんなに違うかな?オレは、同じことだと思うんだけど」
そもそも、ファンは敵だし。タバネも「潰せ」って言ってた。
あれ、「ガツンとやっちゃえ」だっけ?まあ、意味はそんなに変わらないからいっか。
「違いますわ。IS戦はあくまでスポーツの一種。殺し合いではなく、互いを高め合う競技です。私怨を持ちこむな、とは言えませんが、そのことは心に留めておいてくださいませ」
「えーっと、どういうこと?」
「場外乱闘をするな、と覚えておけばいい」
決着はクラス対抗戦でつけるってことになったし、それまでに仕掛けるのはダメなのか。わかった。
「わたくしの友人も紛争に巻き込まれて、今も現地に取り残されていますの。ですから、三日月さんの気持ちは――」
「それってもしかして、クーデリアのこと?」
「クーデリアをご存じでしたの!? 彼女は無事ですか?」
「ここに来る前、最後の仕事がクーデリアの護衛だったんだ。戦闘が起こったけど、クーデリアは巻き込まれてないよ。今は国連本部?ってとこに向かってると思うよ」
「そうですか、良かった……本当に……」
お嬢様同士繋がりがあるのかと思って聞いたけど、本当に知り合いだったのは驚いたな。
クーデリアは戦いとは無縁の、平和な場所で育ったって聞いたけど、あの全身装甲のISが出て来たときは、自分がバルバトスを装着して戦うって言ったんだ。ISは女にしか扱えないからって。
それまでは上から目線で世間知らずなお嬢様だと思ってたけど、凄い奴だなって思った。
そんなクーデリアの友達だっていうセシリアも、実はちゃんとしたやつかもね。
「どうやら、恩を返さねばなりませんわね。三日月さん、クラス対抗戦に向けて、このセシリア・オルコットがコーチして差し上げますわ」
「オ、オルコット。気持ちはありがたいのだが、お前は確かISにトラウマが残っているのでは?」
「じゃあ頼むよ。オレもそろそろ、空飛んでる相手との戦いに慣れておきたいし。素振りにも飽きてきたし」
「聞き捨てならんぞ三日月!」
こうして、オレは二人から教えを受けながら、クラス対抗戦の日を迎えることになった。
ひとこと次回予告
「――こいつは、死んでいいやつだから」