I.B.S~鉄血のストラトス~   作:虹甘楽

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珍しく長文となりました。


第4話 こいつは、死んでいいやつだから

 ファンと会った次の日、クラス対抗戦の組み合わせが発表された。オレとファンの直接対決は最初の試合。それが決まってからはずっと、ホウキやセシリアとISの訓練を続けてた。

 近距離での立ち回りや格闘はホウキ、中・遠距離での戦いはセシリアに教わったけど、正直ピンとこないな。ホウキは隙があれば刀を振らせようとするし、セシリアは理屈ばっかりで、阿頼耶識の感覚に合わせて撃ってるオレとは何か違う気がする。それでも、射撃のタイミングとかは参考になったけどさ。

 

 そういえば、バルバトスの装備がいつのまにか増えてた。右腕に、まるでブルー・ティアーズの砲台みたいな武器がくっついてて、ミサイルが撃てるようになった。分離して飛ばすこともできるみたいだけど、オレには無理みたいだ。イメージ・インターフェースっていうのが関わってるらしいけど、身体の一部を飛ばす感覚なんて分からないからかな。

 

「まるで〈ブルー・ティアーズ〉のような装備ですわね。倒した相手の装備を真似ているのですか?」

「単一仕様能力なのか?しかし、あれは第二形態以降でなければ発現しないはず」

「ガンダムフレームには謎が多いですわね……」

「関係ないよ。あるものを使う、それだけだから」

 

 滑腔砲だけじゃ不便だったし、丁度よかった。刀を投げたら、またホウキに怒られるし。

 

「ともかく、特訓は今日までだ。明日は出せる力をすべて使い、あの中華娘をやっつけてやれ!」

「箒さん、焚きつけないでくださいませ!三日月さん、これは試合なのですから、くれぐれもやり過ぎないようにお願いしますわ」

「手加減って、難しいんだよな」

 

 前にクーデリアが襲われたあの戦闘の話をしてから、セシリアはずっとこの調子だ。そもそも襲撃の犯人が中国とは限らないから、今国連がやってる調査の結果が出るまでは必要以上にファンと喧嘩しないように。それから事件の真相を知らないファンを恨んでも仕方がないって。

 代表候補生なんて言っても、まだ15歳の子供で、国の中枢に意見を言えるような、幹部みたいに偉くはないらしい。じゃあセシリアもそんなにエリートってわけじゃないんだな、って言ったら落ち込んでた。

 ところで、15歳だったらオレの周りだともうみんな戦ってたり、働いてたんだけど。こういうところで常識の違いを感じるな。

 

 

 

 

 

 

 そして、試合当日。満員になったアリーナの中で、オレとファンは向かい合ってた。

 『バルバトス』を纏ったオレの視界、網膜投影された世界が、相手のISが『甲龍』っていう名前だと教えてくれる。ほかに見た目から分かることは、棘付きの装甲とか尖った爪とか、バルバトスと似た近距離パワー型っぽい。バルバトスが元々中国にあったっていうのは事実らしいし、見た目が似てる気がするのはそのせいかな。

 

「さて、三日月・オーガス。今謝るなら少しくらい痛めつけるレベルを下げてあげるわよ」

「前、同じようなことを言ったやつがいたよ。あんたも口だけなのかな」

「一応言っておくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ。シールドエネルギーを突破ーー」

「もういいよ喋んなくて。ホウキが言ってたんだ。あんたをヤっちまえってさ!」

 

 言ってない!とどこかから聞こえた気がしたけど、それは試合開始のアナウンスにかき消された。

 

 両手で構えたメイスを振りかぶり、推力全開で飛びかかっていく。相手も考えてたことは同じみたいで、刃を二本連結させた、巨大な青竜刀を手に突撃をかけてた。

 獲物同士がぶつかって、火花を散らす。拮抗は一瞬、吹き飛んだのは甲龍の方だ。

 

「甲龍が力負けした?第一世代機に?」

 

 詳しくは知らないけど、ガンダムフレームにはISコアとは別にリアクターが搭載されていて、その二つを同期させることで高い出力を出せるんだって。この技術は、まだどの国家でも再現できてないらしいよ。だから、こうなることは分かってた。

 

「一気に仕留めるーー」

「させないっての!」

 

 姿勢を崩した甲龍目掛けてメイスを構える。パイルバンカーに一撃必殺の攻撃力があることは、セシリアが保証してくれた。見たところ相手に射撃武器はない。なら、これで終わる。終わらせる。

 

 そう思った矢先、甲龍の肩の装甲が開いて、中に収められた球体が光る。

 それを目視するのと同時に、オレとバルバトスは吹き飛ばされていた。

 

(何をされた!?)

(バリアー貫通、ダメージ86。不自然な空間の歪みを検知)

 

 直感に従って体をひねると、左足を何かが掠めた感覚があった。

 

「見えない攻撃……?」

「侮ったわね、あたしを!」

 

 バルバトスが検出する「空間の歪み」ってやつを頼りに、絶え間なく機体を動かす。でも、完全には躱しきれない。装甲が少しずつ凹み、削れて、ダメージが蓄積していく。

 空気を固めて、撃ってるのか?射撃武器が無いと思ってたけど、とんだ隠し球があったもんだ。

 

「よくかわすじゃない。でも、いつまで保つかしら?」

「チッ!」

 

 距離を保ってちまちま削ってくると思えば、青竜刀を力任せに振るう。受けに回ってメイスを構えれば、至近距離で撃たれて肩の装甲を吹き飛ばされた。

 こっちもお返しに、右腕に付いた砲台からミサイルを撃ち出す。これには不意をうたれたのか、左腕の装甲を失った甲龍は飛びのいて、また距離が開いた。

 

「やってくれるじゃない!」

 

 ファンがオレを睨んで、また見えない攻撃を放つ。スラスターを噴射して避けて、肘のあたりを何かが掠める。……うん、段々わかってきた。

 

「オレを痛めつけるんじゃなかったの?」

 

 挑発してみたら、砲撃が激しくなった。連射は速くなったけど、狙いが荒い。

 さっきから感じてるヘンな感覚に従って体を動かして、滑空砲を放つ。弾は外れたけど砲撃が止んだから、メイスを振り上げて一気に接近。受けて立つとばかりに構えられた青竜刀とぶつかる寸前でメイスを収納。ガードをすり抜けて蹴りを叩きこんだ。そのまま甲龍を蹴り飛ばして、反動で飛び上がり、反撃の砲撃を回避した。

 

「何で!?何で当たらないのよ!」

「何度も見てれば、そりゃ慣れるよ」

 

 見えない攻撃は奇襲には向いてるけど、来るとわかってるなら避けるのは難しくない。

 

「んじゃ、そろそろーー」

 

 攻撃は見切った。だから勝負をつけようとしたまさにそのとき。

 

 突然、大きな衝撃がアリーナ全体に走った。

 

 

 

 

 

 

「オーガスくん、凰さん、今すぐアリーナから脱出してください!」

 

 ピットにて試合をモニターしていた山田真耶は、突然の乱入者の出現に大いに慌てていた。ヘッドセットに向けて大声を上げるその姿は、普段のおっとりとした彼女とは似ても似つかない。

 

「何だあの機体は。見たことのないIS、それも全身装甲機か」

「先生!わたくしにIS使用許可を!すぐに出撃できますわ!あの見るからに重装甲の機体……実弾メインのお二人では相性が悪くってよ!」

 

 上空から現れてアリーナのシールドを破った乱入者は、深緑の装甲に身を包んだ、奇妙な機体だった。

 現代のすらりとしたISからはかけ離れた、丸みを帯びたシルエット。まるで球体のようにも見える短い手足。その両手に握られているのは、何かの冗談のように巨大なハンマーだ。あれを叩きつけ、純粋な物理的破壊力のみでシールドを破ったとでもいうのだろうか?

 甲龍以上にわかりやすい、明らかなパワー型。そんな特徴的な機体は、しかしこの場にいる誰もが知らない機体であった。

 

「山田くん、連絡はもういい。それより、不明ISの特定は済んだか?」

「ダメです!データベースに該当ありません。でも……」

 

 ディスプレイに目を通しながら、彼女は呟く。

 

「この独特の周波数……バルバトスに近い、ような……」

 

 そう聞いたとき、織斑千冬は先程までとは違う、異様に鋭い視線をしていた。

 

 

 

 

 

 

「何?あれ」

「知らないわよ、そんなの」

 

 突然降ってきた新手のIS。どうやら、ファンにも心当たりがないらしい。

 

「とりあえず、試合は中止よ。あんたはピットに戻りなさい」

「あんたはどうすんの」

「あたしは代表候補生。いくら敵同士とはいえ、一般人のあんたを守る義務があるわ」

「へえ……」

 

 メイスを肩にかついで、甲龍の隣に立つ。

 

「ちょっと、早く逃げなさいよ!」

「逃してくれるならね。それに……」

 

 敵性ISの出力増大。ベレー帽のような頭部の隙間から覗くツインアイが怪しく光った。

 

「あんたの命令を聞く理由はないよ」

 

 人型、というよりはまるでカエル型の機体が、重そうな見た目や短い足からは想像できない俊敏な動きで迫って来る。PICがあるから、そういうのは関係ないんだろうな。

 

 メイスを振り下ろした。押し負けた。見た目通りの質量を持った機体は、それ自体が凶器だ。追撃を受ける前に、自分から飛びのいて距離をとる。

 

「オーガス!」

「いいから」

 

 オレを庇うように飛び込んできたファンは、青竜刀を不明機に叩きつける。

 が、不明機はスラスターを吹かしてバックステップ。紙一重で切っ先を避けると、力任せにハンマーを振り回した。

 

「きゃあっ!このっ!」

 

 咄嗟の判断か、敵の間合いにさらに踏み込むことで威力を減らしたファンだったけど、敵のパワーはそれ以上。腕の力だけで甲龍を吹き飛ばした。

 甲龍も反撃であの見えない攻撃を放ったようだけど、直撃を受けたはずの敵機には傷一つない。バルバトスよりも丈夫なんだな。

 でも、今の攻撃のお陰で、あいつに隙ができた。滑空砲では効果がないだろうから、狙うのは一撃必殺の威力を持つパイルバンカー。

 

 突きの構えでメイスを持ち、突撃。敵と目が合ったけど、もう遅い。既にメイスの先端は、奴の胸部を捉えている。

 パイルバンカーが放たれた瞬間、信じられないことが起こった。敵の機体が、まるでオレと同じように体を捻ったと思ったら、右腕に強烈な痛みを感じたんだ。

 わずかに逸れた突きは、丸みを帯びた装甲に流されて、杭は装甲を抉り取るに留まった。錐揉みして吹き飛ぶオレの視界の隅で、砕け散った白い装甲と、噴射光を放つハンマーが見えた。

 

 あの動き、阿頼耶識?いや違う、武器にスラスターが内蔵されてたんだ。だからあんな無理な姿勢変更ができたし、高威力の打撃が放てる。厄介だな。

 

 

 

 

 

 

「ミカくんは確かに強い。でも、いつまでも力任せじゃ勝てないよ?この、ガンダムグシオンには」

 

 

 

 

 

 

「あんた、大丈夫!?」

「そっちこそ」

 

 右腕が潰されて、腕部のロケット砲も壊れた。でもシールドエネルギーはまだ残ってるし、戦闘続行に問題はない。

 ファンはオレが壊した左腕以外に目立った傷はないけど、いや、よく見たら青竜刀にヒビが入ってる。これじゃ、次の攻撃には耐えられないだろうな。

 

「それならいいわ。それより見た?あの動き」

「うん。なんていうか、人間離れしてた」

「あんたの動きも大概だったけど、あいつはそれ以上よ。まるでーー」

「人間じゃないみたいだよね。もしかして、無人機?」

「あり得ないわ。ISは操縦者がいなくては動かない。それは絶対のルールよ!」

「そっか。まあでも、やることは変わらないかな。あいつを潰すよ」

 

 パイルバンカーは一発きりだから、もう使えない。太刀だと破壊力が足りない。メイスで動かなくなるまで叩くしかないか。

 

「悔しいけど、あたしの武器じゃ効果がない!牽制に徹するから、トドメは任せるわよ!」

 

 ファンが飛び出して、見えない砲撃をドカドカ放つ。威力で見れば通用はしないけど、土煙を上げたり妨害には使えそうだ。加えてファン自身もチョロチョロ飛び回るから、振り回してるハンマーも当たらない。その状況に焦れたのか、敵は巨大なハンマーを収納し、右手に肉切り包丁のような分厚い刃を、左手には短銃身のマシンガンを展開した。

 チャンスだ。

 

「行くよ」

「オッケー!」

 

 三度(みたび)メイスを振りかざし、吶喊。ファンが飛びのいた空間に身を滑り込ませたけど、直感的に何か嫌な感じがしたから、飛び跳ねた。直後に、足の下から聞こえたのは爆裂音。ハイパーセンサーが、敵の胸部装甲から放たれた砲弾を捉えた。

 

「そういうのもあるんだ」

 

 落下の勢いも乗せてメイスを叩きつける。頭部装甲が凹み、何かに誘爆したのか小規模な爆発が起こった。

 さらにもう一撃、と思ったけど、そう上手くはいかなかった。力任せのスラスター移動で逃げた敵はマシンガンの弾をばら撒き、オレの接近を阻む。

 ……こんなとき、もう少し小回りの効く武器があればな。小振りのメイスとか。

 

 まあ、無い物はしょうがないよね。後でおやっさんに頼んでみるとして、問題は今だ。この感じだと、あと二、三発殴ったところで有効打にはならない気がする。

 さて、どうする?

 

「三日月!」

 

 不意に、アリーナ内にホウキの声が響いた。どこから?ーー中継室だって?

 

「刀を使え!いくら装甲が良かろうが、関節は脆い!」

「この声ーーあの剣道女?」

 

 ファンもホウキに気付いた。同時に、敵のISも。

 敵は突然響いた声に興味を引かれたのか、周りを見回して音声の発信源を探す。

 そして無造作にマシンガンを向け、引き金を引いた。空薬莢が奏でる乾いた音とリズムが、耳朶に焼きつく。

 

「ホウキ?」

 

 中継室から爆炎が上がる。

 ……今、何があった?

 コイツは今、何をした?

 

「何、やってんだよ、お前」

 

 突撃。肉切り包丁をガントレットで受け止めつつ、殴りつける。敵の左手がマシンガンごとひしゃげ、残弾が誘爆して爆発が起こった。

 

「お前が……!」

 

 ショルダーチャージをスウェーで避け、腹を蹴って距離を取る。敵はまたハンマーを展開した。

 いいよ、付き合ってやる。殴り合いなら得意分野だ。

 

「――落ち着け、三日月!私は無事だ」

「間一髪、ってヤツね」

 

 ホウキの声が聞こえると同時、爆煙が晴れた。そこにいたのは、肩アーマーが吹き飛び、青竜刀も折れ、満身創痍のIS、甲龍。そっか、ファンが間に合ってたのか。

 ……良かった。これで安心して。

 

 こいつを、殺せる。

 

 敵がハンマーを振りかぶる。オレを頭から潰すように放たれたそれを、逆に真上からメイスで串刺しにした。

 次は、至近距離から発砲。これはさっきと同じパターンだ。距離を詰めると撃ってくる、まるで機械のような正確さ。

 

 飛び上がりつつ、太刀を具現化。刃を下に構え、頭と胴体の継ぎ目を狙う。

 

 こいつが有人機なのか無人機なのか、それはどうでもいい。こいつはホウキを殺そうとした。オレ達を殺そうとした。だから、こいつは――

 

「こいつは、死んでいいやつだから」

 

 白い光を帯びた太刀を、装甲の隙間に刺し入れる。特に抵抗もなく進んだ刃は首から胸、腹まで進み、敵の股下から先端を覗かせた。

 一拍遅れて吹き上がる赤茶けた液体は、人間の体を流れる血液ではなく、機械を巡るオイル。そっか、本当に無人機だったんだ。みんなの前で人を殺すのはなんか嫌だったし、機械でよかった。

 

 もはや輪郭を保てず、無数の光の粒となって消える敵機を見ながら、オレはなぜかそんなことを考えてた。

 

 




ひとこと予告

「で、なんでシャルルは男の格好してるの?」
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