彼と会ったのは小学生名人戦の時だった。
初戦の相手が彼だった。
才能はあった方だと思ってた。
でも、私の才能なんて本物に比べたら些細な物だった。
それを痛感させられた。
…舐めていた。
大人にだって勝ったことがあった私は年下の彼に負けるなんて万に一つも考えていなかった。
その思い上がりは中盤になって呆気なく潰された。
私が勝負手と思って放った一手を驚く事なく数回、瞬きしただけで返された。
返された手を見て自分の勝負手が悪手であった事を悟った。
その後も、私が何度も何度も考えて指して手をノータイムで返された。
そして、その手には私以上の読みが宿っていた。
終盤にもなれば最早、逆転不可能な盤上になっていた。
それでも、私は自分で負けを認められなかった。
嫌だった。
思い上がっていた自分の鼻を年下に砕かれるのが、自分が最善手だと思ったものがとんでもない悪手だと認める事が、自分を相手に飄々と指す彼の将棋に惹かれた事が。
とてつもなく嫌だった。
だから、私は投了出来なかった。往生際悪く、延命の手をひたすら指した。棋譜を見ればプロ・アマ問わず私の足掻きをみっともないと言うだろう。そんな情けない手を指し続けた。
ただ、一人。
彼だけは私の足掻きを嘲笑せず、真剣に向き合ってくれた。安全に詰ます事は幾らでも出来るのに、より最善な手を探してくれた。
結果は73手で私の負け。
実際はもっと速く投了する内容だったけど。
挨拶をしたあとの感想戦は私の将棋感を大きく変える物だった。
彼が指す一手一手が私にはとても思い付かない物で才能の差をより深く認識させられた。
それでも、彼が指してくれた一手一手を私は何度も何度も反芻した。
もう一度彼と闘いたい。そう思っていたから。
でも、それも幻想だと解ってしまった。
彼と闘うのは私なんかじゃない。彼に負けずの才能をもってる人達と闘うんだと小学生名人戦の決勝を見て理解してしまった。
実際に、小学生名人戦のベスト4の皆はそれ以来頻繁につるむ様になっていた。
私は、初戦負け。彼らはベスト4。
しかも、才能ならこの場にいた誰よりも上。
私なんかが彼等と共に居るのは許されない。
あそこに私の居場所は無い。
でも、それでも私は彼ともう一度闘いたい。練習試合でも研究会でも無い公式な場で彼と闘いたい。それが不可能だと知っていても、諦める事は出来なかった。
だって私は、彼の将棋がーーー
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それから数年して、女流に一つの新しいタイトルが生まれた。
『女龍』
プロの『竜王』と対になるタイトルだ。
タイトルの出資者はテレビ局のスポンサーで、テレビ向きに用意されたタイトルだ。
このタイトルを取った者は『竜王』との試合が組まれる。その試合をテレビで放映するにあたってつけられたタイトル名が『女龍』である。
りゅう対決! そういう番組名で。
女性なら誰でも参加できる、マイナビと同じスタイルの棋戦だ。
『女龍』初代タイトルホルダー【
女龍が誕生したこの瞬間。
『竜王』九頭竜 八一
『女龍』青龍 蹄
二人の対決が決定した。
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「…まさかこんな機会が訪れるなんて」
諦めていた彼との再戦。それが叶う。
練習でも研究会でもない本物の公式戦が。
テレビだから公式とは微妙に言えないかも知れないが。
「これで、彼と全力の勝負ができる。」
自分の才能では女流になれてもタイトルを取って彼と闘うなんて出来ると思っていなかった。それでも、女流のタイトルを取るため死にものぐるいで研究をしていたら当初取るものとは違ったタイトルを取れてしまった。
「奨励会どころか研修会にも身を置いていない私が取れるのはマイナビだけだと思ってたんだけど」
入らなかったのはそれなりの理由があるが、それでもダダでさえ才能の無い私が自ら可能性の一つを閉じるのは当初凄く悩んだ。だが、結果的にあの選択は正しかった。
彼と戦えるタイトルを取れた。
「覚悟しててね
自分自身にも言い聞かせる様にそう言って。
対戦の日日まで、私は彼に勝つ為に研究を行う。
作者は女流のタイトルがどういう仕組みかも知りません。
完全に原作しか将棋の知識ないです。