りゅうたいけつ!   作:アーズベント・ウィッカ

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対戦前日(蹄 視点)

おかしい。

とてつもなくおかしい。

 

目の前には現役女子高生タイトルホルダーの祭神雷がいる。

というか一緒に店のポテトを食べている。

 

研究が一段落したので息抜きに近くのこの店に入り、一人寂しくポテトを食べていたら祭神さんが相席してきた。

…怖い。

 

「キヒ、『女龍』さんはぁー。こんなとこで何してんのさぁー? 明日は大事な大事な八一との対戦でしょー? 公式での八一との対戦でしょ? いいなぁいいなぁいいなぁいいなぁいいなぁー」 

 

「研究が一段落したので休憩中です。そういう祭神さんは学校の方は?」

 

確か、今日は祭神さんの対局は無かったはず。

となれば学生の彼女は当然学校にいる時間なのだが。

祭神雷は私の質問に一瞬眉を上げたあと、ニタァと笑って応える。

 

「そんなんサボりに決まってるさぁー。これから八一に会いに行くのに学校なんて行く暇無いに決まってるでしょ」

 

さも、当然の様にサボりを告白されても…。

全く、彼の周りはこんな人ばっかり。

 

「そうなの、あんまりサボら無い方がいいわよ。後で面倒になるから。それで、学校に行く暇は無いのに私と一緒に居るのはいいの?」

 

学校は何回がサボると癖になるのよね。むかしそれでやらかしてしまった身としては、前途ある若者に同じ轍は踏んでほしくない。

 

「そのことだけどぉー。

ーーー私はあんたを認めて無い。月見坂撩や供御飯万智にすら劣る才能で八一と指すなんて認められるわけ無い。」

 

間延びした話し方から一転、強い口調となる。

 

劣る才能。

わかってる。

女流棋士のタイトルホルダーの中で一番才能が無いのが私だ。

今はまだ気付いている人は少ないが女流棋士として闘って行けば行くほど、私の才能の無さは晒されていく。

 

現在、手にしてる『女龍』も防衛出来るか怪しい。

防衛出来れば年一回は必ず彼と戦えるはずだが、その未来が訪れると思えない。

 

ひょっとしたら、彼と闘えるのはこの一回だけかもしれない。

あの日からの念願はたった一度だけの物となるかもしれない。

 

だから、祭神雷の言葉は正しい。

才能が正義のこの世界に置いて私は認めて貰えない存在だ。

 

けど、それがどうした。 

諦める事が出来なかった私は遂に掴んだではないか。

喉から手が出るほど欲した彼との対戦を。

 

だから、私は祭神雷を真正面から見据えてーーー

 

「私が勝つわ」

 

ーーーその一言だけを告げる。

 

私の宣言を聞いた祭神雷はしばらく、目を見開いた後お腹を抑えて吹き出す。

 

「あっはははは! 才能の無いあんたがぁー? 将棋の歴史上で頂点に近い才能を持ってる八一に勝つぅー? はははは!」

 

…仕方ない反応だけど、ちょっと引く。

この子、外見可愛いのに何でこんなに残念なんだろう?

 

「はははっ。笑った。…今回は譲るさぁ。でも、あんたのタイトル来年私が貰うから。」

 

そう言って祭神雷は去っていった。

 

…譲るも何も今回は私が勝って手に入れたんだけど。

 

でも、うん。

 

彼女は挑戦者として私のタイトルを獲りに来るんだろうな。

彼女の八一君への執着は並じゃ無い。…人の事は言えないけど。

 

というか、私のタイトル狙ってる人多すぎなんだけど。

いや、そりゃあ普通に皆狙ってるけど。

私のタイトルっていうより、その後の竜王(やいちくん)戦を狙ってる人が。

 

タイトルホルダーだけでも、月見坂さん供御飯さん空さん祭神雷。この四人が凄く狙ってるんだけど!

 

「あっ! 『女龍』さん!」

 

自らのタイトルの価値のヤバさに震えていたら、またしても声をかけられる。

 

声をかけて来たのは、小学生のグループだ。

その中には、女流棋士が二人混じっていた。

 

「こんにちは」

 

「ふぇ! 挨拶された! 澪、挨拶されたよ!」

「落ち着くのです! 取り敢えずこっちも挨拶しないと」

「しゃうだよー!」

「こんにちは雛鶴あいです!」

「…ふん」

 

賑やかで微笑ましい。

祭神雷で無駄に張り詰めてた心が癒やされる。

 

「君達はよく『竜王』と一緒にいる小学生だよね。お弟子さんも居るし」

 

「澪達のこと知ってるんですか?!」

 

澪ちゃんって子が目をキラキラさせる。 

 

「そりゃね、ニコ生の乱入やら雑誌のインタビュー記事なんかでよく見るからね」

 

「ふぁー凄い事なのです!」  

 

純粋に喜んでる君達には悪いけど、『竜王』と女子小学生の噂は良いものじゃ無いよ。殆ど八一君はロリコンって確定されてるし。

それを知ってるのか、弟子の二人は浮かない顔だ。

 

「こうのうひとぉ、たいとぉるほるだぁー?」

「えっ! シャルちゃん知らないの? この人は研修会にも奨励会にも入らないで『女龍』をとった凄い人だよ!」

「そうなのです! しかも、現役タイトルホルダーの三人を倒してなのです!」

「すごおぃ!」

 

うわぁー。

ごめんなさい。私そんな凄くないです。

子供の純粋な言葉は心に刺さって痛い。

 

「あ、でも明日は九頭竜竜王と対戦…。」

「…そうなのです」

「ししょーとたたかうの?」

「うん、師匠も順位戦で準備出来なかったから今日一日研究するんだって」

「ふん…。テレビの企画かなんか知らないけど、あのバカは女流棋士に何かと縁があるわね」

 

先程まではしゃいでた小学生が一気に落ち込む。

私が『竜王』と闘うのが悲しいらしい。

弟子の子はあまり気にして無いけど。

 

ん? そういえば…

 

「というか、君達学校は?」

 

さっき、祭神雷にもした質問をする。まだ、学校が終わる時間じゃ無いはず。

 

「今日は祝日で学校はお休みです!」 

 

「そうなんだ」

 

なるほど。

…祭神雷に騙された。

それより、気付こうよ私!

幾ら引き籠もりでも、祝日は覚えとこうよ!

 

その後、しばらく女子小学生達と談笑を楽しんだ。

 

途中で気付いたけど、八一君の弟子の一人。

確か、夜叉神天衣ちゃんは私のタイトル滅茶苦茶狙ってた。

雛鶴あいちゃんの方はそこまで欲して無かったけど。

 

「まぁ、良い息抜きにはなったかな」

 

そう言って私は、自宅に戻り最後の大詰めを行う。

 

 

 

 









なんか変速的な物語進行でごめんなさい。
次はまた八一視点ですが、その次から対決が始まります。
まぁ、そんな長くない筈です。(将棋の知識がないから。)
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