ラドの村。
険しい山間の中、ポツリと存在したこの山村においては、夜とは闇に混じり僅かな虫の音が響き渡るだけの静寂の世界であった。
人々は、闇の訪れと共に寝静まり、そうしてただただ眠りと共に日の出を待つのがこの山村の常である。
が、しかし、この日のラド村は少しばかり事情を別とする。
村の山頂に存在する小さな丘陵地帯がある。
村長宅の裏手に存在するその場所は凡そ、村長の邸宅の一部であると同時に収穫祭などにおいて神事が執り行われる特別な場所であった。
本来ならば立ち入り禁止となっているその場所には、この夜数十を超える松明の灯がこうこうと燃え盛り、周囲の闇を照らし出していた。
闇夜の中で真昼の如く明るく照らし出されたその場所は何処か不気味であり、見るモノによっては違和感さえ感じたであろう。
松明たちにより照らし出される青々とした草木は見事な鮮やかさを有しつつも何処かよそよそしく恐怖するかの様に木々を鳴らし、虫や獣は脅威を感じたのか既にその場所から姿を消し、そこには自然本来の静謐とした、しかし何処か暖かな感じがまるで見て取れなかったのである。
そんな丘の上では合わせて10を超える村人達と礼服を身に着けた紳士風の青年、そして裸の少女の姿があった。
少女はぐったりと眼を閉じて、そうして力なく拘束台に縛り付けられ、そのあられもない裸体を男達の前にさらけ出していた。
拘束台は何とも趣味の悪い作りであった。
十字架を模した様な巨大な磔台。
処刑の際に主に使用されるそんな磔台に少女は乱暴に縛り付けられていたのだった。
しかもただ縛り付けるならまだしも、どうやら彼女を縛り上げた男達は随分と悪辣であったらしい。
男達は、わざわざ少女の両足を大きく開脚するや、それぞれの手足首を同じ位置で荒縄でしばりあげて、丁度V字型に少女を固定したのであった。
故に少女の陰部は彼女を取り囲む男達の元へと晒され、彼らの視線を一同に集めていた。
少女...といっても彼女は今年で22歳になる。
しかしながら20を超えたにしてはその肢体の肉置き<ししおき>は豊かとは言いがたく、そこには少女特有の可憐さがあった。
ほっそりと白磁の如き白雪色に彩られたその四肢はしなやかに伸び、女性特有の程よい筋肉が備わっていることが伺えた。
胸元には僅かに膨らみつつある小さな隆起がある。柔らかな印象を残した少女のちぶさである。村娘などとはまるでその形を別とする少女のちぶさは、小ぶりであったが、売春婦などの其れとは違って初々しい何処か硬い印象を残していた。
時に我慢ならなくなった男が、一度その柔らかな膨らみに指を這わせれば、小ぶりな乳房は瑞々しくプルンと震えてそうして情動的に揺れては元の形に戻るのであった。
そんな小ぶりなちぶさの頂上では小ぶりな赤色の果実が実っていた。
男を知らない無垢なる乳頭はほんのりとその色を薄ピンク色に染めながら僅かに震え、闇夜の中で男達の視線を釘づけにしていた。
腰元の肉置き<ししおき>は鍛えた少女というに相応しく、その未熟な乳房と比べ幾分かは豊かであり、程よい筋肉と脂肪で彩られたその桃尻はやはり男達の獣欲を益々駆り立てる対象であったのだ。
いずれにせよ、彼女、エルマ・エルンストは少女のような初々しさと美を備えていた。
そんな男を知らぬ少女エルマは、誰にも見せた事の無いであろう彼女の女の部分をこれでもかという程に晒し続けているのである。
薄っすらと生い茂った薄金色の茂みに隠される様にしてぷっくらと膨らんだエルマの女陰。
その未熟ながらも美しい少女の陰部に男達は視線を遣りながら、固唾をのんでいた。
男を知らないエルマにとっては、現状の自分が置かれた状況はたまったものでは無いだろう。
見ず知らずの男達を前に恥部をさらけ出すなどというのは年頃の少女には耐えがたい恥辱以外の何物でもない。
せめてものエルマの救いはこの異様な状況下で気を失っているという点につきるだろう。
ノスフェラト、ヴァルノミスが使用した魔術の効力は随分と長い間持続しておりエルマは数刻程経っても尚、夢の世界を揺蕩っていた。
空には暗雲が立ち込め、そうして、冷ややかな大気は震えるようにして村人たちの肌を射す。
そんな中でただ一人、裸のエルマは時にその冷気に体をわなわんと震わせていた。
そのたびに、エルマの乳房や臀部は情動的に揺れ動くのである。
もはや、男達が我慢の限界であるのは誰の眼にも一目瞭然である。
彼らは眼を滾らせながら、今や今やと村長の到着を待っていた。
なにせ、この少女エルマを最初に汚しつくすのは村長と決まっていたからだ。
男達は村長より急遽召集を受けて、ムロン村で違法な実験を秘密裏に指示していた宮廷魔術師、いや外道魔術師エルマ・エルンストを陵辱せしめんとこの場に集ったのである。
今、男達の獣欲はムロン村の住民達の無念を晴らさんという大義名分のもとに正当化されていた。
彼らは魔女を縛り上げる事にも、彼女を陵辱せしめんことにも、そしてその命を奪う事にも微塵も躊躇いは無い。
正義という感情により彼らは突き動かされていたのだ。
そんな中で、礼服の男ヴァルノミスはエルマや下劣な男達など歯牙にもかけずに、丘陵地帯から村を一望しながら、ジッと村長宅へと視線を落としていた。
―村長の奴め、遅いな―
毒突きながらもヴァルノミスは、内心で人間という種の余りにも愚かで弱い性を嘲笑っていた。
村長宅から男達へと視線を移すヴァルノミス。
そこに映っていたのは魔物よりも尚醜い人の姿であった。
一人の少女を贄にして、獣欲と支配欲とに駆られた人間達は正義という大義名分の下、己が獣欲を満たさんとしている。
―これだから人間はたまらない―
そんな彼らを前にして、ヴァルノミスは嘲笑を浮かべるより外なった。
獣の交配に理由などは無い。
ただ己が衝動に従い、己が性を解き放っているのみだ。
それは魔物も同様である。
しかし、自らを高等生物と見なす人間は己が性欲を満たす事にさえも理由を見出さなければならないのである。
そんな人間の取り繕った様な偽善とその奥に潜んでいる獣よりもおぞましい人ならではの醜さがヴァルノミスの愉悦を喚起していたのである。
ヴァルノミス、自らを伯爵と名乗るこのノスフェラトの青年は偉大なる闇の王の直臣の一人であり、四魔天とも呼ばれる存在である。
本来ならば北の果てにて居を構える彼はいわば、魔族の貴族というに相応しい。
そんな彼が南へと足を運んだ理由は、一重に先の北伐に端を欲する。
先の北伐では多くの魔物や魔族が第七騎士団を筆頭に人間側に征伐され、結果、魔族側は眼を瞑れないほどの大損害を被っていた。
例に漏れず、ヴァルノミスは北伐にて彼の直臣を失ったばかりか、貴下の死霊軍団を壊滅一歩手前まで追い込まれる程の損害を受けていた。
また、北伐の後も人間側は魔族の本拠たる北部へと散発的に冒険者達を送り出している。
正規兵と比べれば冒険者達の脅威は魔族側にとって幾分もマシであったが、現状が続き人類側による新たなる北伐という事となれば魔族側もかなりの損害を覚悟しなければならない。
ヴァルノミスが田舎村へと至ったのは、彼の配下たる魔物達を補充を人間に見出したが故であった。
ヴァルノミスの赤い瞳は、ぼおぼとと燃え盛る松明の炎を浴びて薄っすらと怪しくどよめく。
ヴァノミスの口元は妖艶ににやけており、その瞳には人間という種を見下すかの様な軽蔑の色さえ滲んでいた。
ヴァルノミスと村長との間には取り決めがあった。
丁度、1月ほど前、ヴァルノミスはアンガレス・フォロボス両国の境界に存在する小さな山間部を兵力補充のための拠点と定めた。
ヴァルノミスの得意とする術は、主に幻惑術を始めとした精神魔術一般であったが、それと共にヴァルノミスは魔化術と呼ばれる魔術を開発していた。
魔化術とは主に人を対象として、彼らを魔の眷属へと変貌せしめる魔術である。
既にヴァルノミスは北伐の前後には術の理論を完成させていたが実践は終ぞムロン村の一件が初となる。
して、彼の術の実験は大成功と相成る。
彼は、ムロン村なる小さな村で魔化術の使用により、その村民の約半数をアンデット化する事に成功したのだった。
勿論、邪魔が入り、アンデット達は全滅するに至ったが、しかし、ヴァルノミスにとっては、さほど大きな問題では無い。
なにせ、まだラド村には200を超える村民がおり、ヴァルノミスにとっては、彼らを対象にしてアンデットの数を増やせばよいだけの話である。
唯一、ヴァルノミスが気になったのは大剣を操る男の存在であったが、その男も今や、宮廷魔術師により討伐されている。
後はヴァルノミスは舞台を整えて、フィナーレを飾るのみである。
そう、魔化術により高位の魔族とアンデットを生み出す事である。
魔化術により、高位の魔族を如何に手にするかという事であったが、既にヴァルノミスには予測はついていた。
彼がムロン村にて住民達を対処に魔化術を使用した際には村民はまるで泥の様に溶け落ちるか、若しくはアンデット化するかのいずれかの命運を辿ったが、しかし、ヴァルノミスが望んだような高位の魔族が生み出される事は無かった。
もともと研究肌であったヴァルノミスはその原因を人間が持つイドナの量の差にあると見た。
まず、イドナの量が少ない人間はアンデットにさえなる事無く、ぐずぐずに崩れて消失する。
そして、イドナの量が中等度の者はアンデットとなり、彼の私兵となる。
では、イドナを大量に持つ人がどうなるか?
ヴァルノミスは、そういった者達は高位の魔族となりうる可能性が高いと予測したのである。
そして、その答えを証明するのがエルマであった。
ヴァルノミスと村長との取り決めとして、ヴァルノミスが村人の安全を保証する代わりに村長は生きの良い魔術師を用意する事を約束した。勿論、ヴァルノミスは最初から約束など反故にする算段であった。
しかし、気の弱い村長は、突如現れたノスフェラトの恐喝の前に碌な思考さえ出来なかった。
なにせ、ヴァルノミスが、ムロン村の事を話題に出し、試しに村人の一人をアンデット化させれば、ラド村の村長は一も二も無くヴァルノミスの提案に賛同してしまったのである。
そうして、村長はヴァルノミスの言うがままに地方官へと魔術師派遣を依頼する。
村長としての思惑はどうやら、適当な魔術師の派遣程度を期待したのだったろうが、しかし村長の思惑に反してラド村へと送られたのは宮廷魔術師であった。
村長はエルマを前にして青ざめた。
なにせ宮廷魔術師である。
万一、宮廷魔術師になにかがあれば、帝国は黙って見過ごす事は無く、草の根を分けてでもラド村へと事件の解明に乗り出してくるのは明白であったからだ。
魔族と村長との間で何かしらの取引があったとなれば、村長の命はおろかその一族郎党にどの様な処分が下るかは予想だに出来ず、村長は恐怖した。
最もそんな村長の想いなどはヴァルノミスの知るところでは無い。
ヴァルノミスとしては、高位な魔術師は実験体としては願ったり叶ったりであったし、エルマはなによりも美しかった。
薄っすらとした絹の如き薄金髪と紺碧色に輝くその瞳、そして白で彩られた柔らかな美しい相貌と肢体はまさしく魔貴族たるに相応しい容貌であったのだ。
ヴァルノミスはその無垢なる少女をますます、自らの色へと染め上げて臣下へと墜とさんと、より一層、劣情を強めるのであった。
ククと笑い続けながら、ヴァルノミスはエルマへと視線をやる。
その美しき無垢たるエルマは、その全身を彼女とは対称的な醜なる男達に晒しつづけていた。
男達はエルマの美しき四肢や膨らみかけた乳房へと今にもむしゃぶりつかんと、視線を這わせながら、そして特に念入りにエルマの恥部へと獣欲交じりの視線を注いでいた。
このエルマという美と、素朴ながらも粗悪な村民達の醜が織りなすコントラストこそが、ヴァルノミスにとって最高の絵画であったのだ。
最後の一手は、村長がこの場に至って終幕となる。
醜悪の象徴たる村長やこの場に集った男達により、美の象徴たるエルマがその魂と肉体を汚されつくすときこそ、ヴァルノミスの芸術は完成へと至るのである。
して芸術の完成の末に、絶望したエルマを魔族として昇華させる事こそがヴァルノミスにとっての終着であった。
そろそろ、エルマは眼を覚ますであろう。
うつらうつらと首を傾けながらも、先ほどよりエルマの瞬きする回数は増えている。
目覚めた際のエルマを思い、ヴァルノミスはくぐもった様な笑いを漏らす。
屈辱的な格好を前にして、この無垢なる美は如何にその相貌を歪めるであろうか。
その表情を羞恥に染めるか、それともただただ憤怒の色に貌を歪めるか。
泣き叫ぶか、それとも口汚く男達を罵るであろうか。
して、その後、少女は醜い男達に汚されつくし、如何に絶望するか。
絶望とはヴァルノミスにとっては筆舌に尽くせぬ珍味であった。
魔族は大なり小なり人の精神に得も言われぬ快楽を見出す。
して、ヴァルノミスが最も好んだのは悲哀などを始めとした負の感情なのである。
特に美しき女が惨めに落ちていく様はヴァルノミスにとってはこの上無い愉悦であるのだ。
恥辱。
恐怖。
絶望。
堕落。
そういった負の感情に絡めとられた少女が、絶望の末にヴァルノミスの眷属として魔貴族として生まれ変わるのだ。
クククと呻く様に笑い声を上げるヴァルノミス。
ヴァルノミスの端正な顔立ちは何処か不気味に魔の色に歪んでいた。
この時、ヴァルノミスは勝者としての昂り故か、一人の男と一人の少年の存在を完全に見落としていた。
一人は彼を一歩手前まで追い詰めた謎の冒険者ガーランド。
一人はエルマと共に村へと入ったベイス少年。
超越主たる奢りがヴァルノミスへと二人の存在を脳裏の彼方へと追いやり、そして彼から約束の時間をとうに過ぎても未だに現れぬ村長について深く考えるゆとりを奪っていたのだった。
ヴァルノミスの関心は、これからエルマを襲う悲劇とその後、自らの直臣となる美しき宮廷魔術師の末路についてのみであったのだ。
この時、丘陵地帯を裏手から駆け上がる静かな獣の姿にヴァルノミスは気づく事は無い。