転生愉悦部の徒然日記 作:零課
しおりがじわじわ増えているんですが、どんなものか分からず、嬉しいけどなんだろう? となっていたりと色々勉強中です。
今回はまた一番長いです。ゆっくりジュースでもお茶でもお酒でも飲みつつ、ゆるゆるとお楽しみ下さい。
戦端が開かれて両軍がぶつかりあった。剣をぶつけ、盾で受け止め、矢玉が飛び交いあれよと殺到する。けたたましい怒声が、悲鳴が熱風に乗ってこだまする。その中でひときわ輝くのは騎士王アルトリア・ペンドラゴン。青のバトルドレスに趣向を凝らした鎧に身を包み、聖剣・カリバーンを振るって戦場の花となり前線でその采配を惜しみなく振るう。
「進め! 敵の防御を突き崩せ!」
率いる精兵に檄を飛ばして戦場を優勢に持ち込もうと動く。今回の戦は此方にとっても大切なものであり、あちらもそれを感じているのか兵が今までよりも強く、固い。
いつもならケリが付いている筈の勢いで攻めているのだが、今ひとつ決定打とならない。柔軟にいなされ、深く入り込んでも、時折現れる精兵に隊が分断され、勢いが殺される。今回の戦いにロット王も本気で決戦と決めているのか、情報で聞いた近衛兵、親衛隊まで出張ってきている。それらに・・・この国を牛耳る魔女、モルガンや名を知らぬが宮廷魔術師の配下にして側近、カナ・フナサカの部隊「銀嶺」この両部隊に更には相対するジャック将軍の巧みな防御術、用兵術。これが中々したたかだ。
上手く攻めてもいつの間にか間に兵を挟んで壁を分厚くして攻め切れず、そこを分断される。相手もそれを分かっているのか微かに罠をはっており、指揮が届かぬうちに攻め込む、フォローが出来る前に進む部隊はその罠にハマる。此方も理解した上で攻めるが、そうした時に厄介な横槍が入る。
王直下の近衛兵、親衛隊、そして銀嶺だ。どちらもこちら以上の精兵揃いであり、親衛隊が攻められる流れを断ち切り、そこに銀嶺の魔狼と兵士、騎馬が弓を射かけて確実に兵士を刈り取る。一撃離脱に慣れている部隊のせいで銀嶺を追いかけようにも魔狼に騎馬は素早いせいですぐに逃げられて森のなかに消えるし、親衛隊もその間に付近の兵を立て直してまた防御陣営を復活して攻撃を受け止める。この繰り返しだ。
この防御陣営を支える鍵は親衛隊と銀嶺の二隊。その大将のカナは陣の半ばにいて自身の部隊の指揮に尽力を注いでいる。親衛隊は恐らく後ろに控えているジャック将軍と・・・もうひとりの・・・銀嶺の指揮官だろうか。
とにかく厄介だ。有利ではあるが、あまり時間をかけて疲労を蓄積してはこの先の城攻めや行軍にも影響が出かねない。最終目標は王城にいるモルガン、魔術師の討伐にこの国の掌握。そのためにも相手の出鼻をくじき、即座に攻め入るためにも焦れるようなこの戦況は早く終わらせたい。いや、終わらせるべきなのだろう。兵士にも少し相手の守備の堅さに辟易した声もあるし、横槍に警戒しすぎて集中できずに死ぬ兵士も出ている。優勢とは言えこっちが血を流していないわけではない。それでも戦を大きく動かせないのは、奇襲部隊を動かすあの銀の女将軍の存在にほかならない。
敵将、カナ。調べれば調べるほど、異質で、恐ろしい。モルガンを剣士と救い出してロット王のもとへ無事に送り、それ以降の目覚ましい働き。例え王が洗脳されていたとしてもその功績や用兵の妙は素晴らしく、特に機動戦においては他の追随を許さない。不気味な術や道具で農業、食料を発展させて、魔獣を使った部隊に移動手段の確保。もし魔女の手下でなければ、もっと早く知れたのなら直々に出向いてスカウトしたはずだ。此程の変わり種は個人としても興味はある。
しかし、今はその将が敵なのだ。何故銀嶺の魔獣や騎士を多く出してこないのか、疑問に思って罠を警戒したが、これ以上は下策だろう。何もしてこないというのなら、こちらが一時に押し切り、変えられぬ流れを作るだけだ。
「・・・・・合図を」
剣を掲げ、陽光に照らして数瞬後、新たな鎧の音に騎馬の音が響いて戦場に近づく。その音は形を持ってオークニー領へ接近。その音も正体は軍であり、新しく現れたもう一つの軍勢が側面から喰らいつく。敵も動揺しつつも立て直そうとするが、そうはいかない。その軍をまとめ、先陣で切り込む紫紺の鎧に身を包んだ美丈夫の騎士はランスロット。彼に側面を食いつかれ、僅かな隙きも致命傷に変えるあの騎士に横腹を食らいつかれては半壊は確実。後は正面から押し込んで合流して押しつぶす。この流れは途切れない。いや、私が途切れさせない。
「皆のもの! ランスロット卿が敵を崩し始めた!! 今が攻めどきだ! 思う存分暴れるぞ!!」
味方を鼓舞して再度突撃を敢行。このまま軍を半壊、いや壊滅させて一気に攻め上がってみせる・・・!
「側面から敵が来たぞぉ!!!」
兵士の叫ぶやいなや、全くその通りに敵が来た。その速さは疾風と言うにふさわしく、勢いは到底止められないであろう濁流、士気はまだ距離のあるこちらにも伝わり圧される兵が出るほど。最前線では悲鳴や怒声、肉が切り裂かれる音に金属音が響く。自分のもとには崩されて対処を求める伝令の悲鳴に近い叫び。
まったく自分の未熟さにため息が出そうになる。何重に用意した防御策もアーサー王一人に崩されそうになり、簡単な一手でこうも容易く崩される。そして、納得もできた。
こうも一戦で凄まじさを見せつけるアーサー王とその配下。私・・・ジャックでもこうなるのだ。今までに戦った諸侯、国の将兵も同じ気持ちだったのだろう。気圧された兵士や恐怖に動けなくなる兵士。これならまだ蛮族やワイバーンの相手のほうが余程優しい。
予備兵や弓兵を駆使した防御に銀嶺の戦力を使って横から着いても勢いが落ちる様子はない。決めにかかった。という所だろうか。それを周りの将官も感じたか恐怖、焦りの色が出始めた。
「全く・・・・・嫌になるほど予想以上ですな・・・ジャック将軍」
焦りを見せていないのは自分と・・・いや、彼だけだろう。木と鎧の組み合わさる独特な鎧。いつも余裕のある涼し気な顔で短い髪をまとめているイイ男。銀嶺の副官の一人、ヤマジだ。
彼はこの状況にも冷静に兵を割り振り、切り込んでくるアーサー軍への対処を止めない。
「ああ・・・・この進軍速度、攻撃力・・・想定以上だ。・・・・・だけど、これもカナが読んでいたとおりだ。伏兵、次の一手までな」
「はい、『戦況が上手く進まず、不満の声が上がる頃に何らかの精兵を、恐らくランスロット卿を必殺の助攻として攻め込み、軍内の心境を敵味方全て塗り替えるでしょう』・・・・・と」
二人してこの攻め込まれている状況だと言うのに思わず笑ってしまう。全くその通りに戦が運んでいる。此方も手を抜いたつもりはないし、銀嶺もその基質上侵略者、カナが警戒する相手に侮ることはありえない。つまりは本気でぶつかってもこうなる。相手のほうが上手だと完全に理解している。淡い希望もなにもない。戦うために余計な物を切り捨てて考えている。いや、希望的観測を踏まえてこうなるのが最低ラインなのかもしれない。
守備陣営を構築しながら兵が動けるように指揮を飛ばしながら思い出す。軍議の内容を
『今回の私達の勝ち筋なんてはっきりありません。将を討とうにもあまりにも高みにあり、兵もまた勇猛果敢で精強。魔術に関してもマーリンがいる以上勝ちが狙えませんしそもそも食い下がれるのはモルガン様にイグレーヌ様。アンナ様もまだその域には到達してません。あの軍の濁流にぶつかればそのまま飲み込まれ、潰されるでしょう。それこそあっという間に』
『じゃあ、諦めるのか? そんなものは願い下げです。戦わぬうちにあの軍に生殺与奪権を与える無条件降伏なぞもってのほか。ですから考えます。この大波を乗り切る方法を』
『あの軍は基本的にただの力押しや勢いだけで勝てたわけではありません。恐ろしいのは何らかの原因で戦況の勢いが止まりそうになると必ずと言っていいほど第二の波を起こして空気の一新を図る。味方には戦意の火を付けて、敵には僅かな希望や意思を驚愕に変えて、次に恐怖に変える波を用意しているのです。これは各所の戦闘でも顕著に現れています』
『そして、この攻撃役を多く担うのはランスロット卿です。この方の戦果にはこの奇襲からの攻撃での功績も多くあることから分かるでしょう。そして、私達にも使ってくる。私の奇襲、機動戦略を潰すためか、速攻で倒すためか、最強の予備戦力を温存してアーサー王は暴れます。そして、その後は合流していつもどおりに攻める』
『なので、私達はその波に乗りましょう。程々に逃げちゃいましょう。波を勢いづけちゃいましょう。そうすれば面白いことになるかと。』
『私が前線近くで指揮を取りますから撤退し始めたら皆様も引いて下さい。ヤマジはその際に銀嶺と親衛隊を殿に置いて、ほどほど・・・ま、ほぼ逃げ腰でいいので二部隊の指揮をお願いします。いいですか? 勢いに乗る。潰そうとは考えないでくださいね?』
半分ほどしか理解は出来なかったし、他の将兵もそうだろう。真に理解しているのは王、カナ、ヤマジ、アンナだけだろう。だが、それでいいと思っている。此方も完全に理解しないほうが下手な演技でボロを出さないだろう。
そう思っていると前線でまた大きな声が上がり、騎馬隊が此方に近づいてくる。その先頭を駆けるのはカナ。今回の作戦の立案者だ。どうやら頃合いらしい。少し此方に目配せを送ると脇目もふらずに奥へと馬を走らす。その速さはあっという間ですぐに馬の尾も見えなくなり、戦場から離脱した。この光景に味方はどよめき、相手からは嘲笑と罵声が飛び交い、此方を煽る。「魔女の使いも大したことはない」「そんな腰抜けでよくもまあ此方に和睦や同盟を打診しに来たものだ」と。
これに憤る味方もいるがそれよりもカナが抜けたことによる前線の混乱状態がひどい。急いで撤退の指示を飛ばして退却を開始。逃げてくる味方を先に行かせて此方もヤマジと指揮を撮るために残り、少しだけ相手の様子を見ることにした。博打と揶揄したカナの作戦。どんなものか。もしかしたらこの先に目の前で起きるのかもしれない。そして・・・若きにしてこの国のために文字通り粉骨砕身で尽くすあの子の助けとなるために、もう少しだけ・・・・・
側面攻撃が成功して前線の崩れようは、見慣れた光景ながら、気持ちがいい。今回のような防御に長けた相手なら尚の事。アーサー王の旗揚げから一兵士として前線で戦ってきたが、今回の戦いは特に皆の熱の入れようが凄まじい。それもそうだろう。相手は魔女の支配する国で魔獣を操る将もいる危険極まりない国。だが同時に得るものも大きい。ここ数年の発展具合に多くの特産物。特に蜂蜜や砂糖のような高級嗜好品を多く出せる技術に以前とは見違える程豊かな土地。この国を攻め落とせたなら、自分たちのような平騎士にもどれだけの富が転がってくるのか。アーサー王は大義を掲げたが、同時にこの見返りのことも伝えて自分たちに火を着けた。
その成果は凄まじく、相手もアーサー王相手に長く粘っていたが、自分の所属するランスロット卿の遊撃部隊が側面を攻撃してからは陣形が大いに乱れ、立て直して側面からの敵に対処しようにも正面のアーサー王からの苛烈な攻撃がそうはさせない。魔獣使いと噂される女将軍、カナも先程から自身の部隊で私達にぶつかり、別働隊で側面を突いて足を止めようとしているがそうはいかない。ランスロット卿がカナとぶつかり対応、二十合ほど斬り合い勝てぬと感じたか即座に自身の部隊を後ろに下げて本陣へと逃げ始めた。
前線を支えていた将の不在によってオークニーの兵士のうろたえようは酷く、簡単に陣を突破できる。親衛隊や銀嶺の一部が殿となって一応の退却戦の体を繕っているが、最早潰走になるのは秒読みだ。寧ろよく持ちこたえたほうだ。士気も最高、将も最高、作戦も文句なし。此方の強みを活かした作戦にここまで食い下がれたのはそうはいない。けど、ここまでだ。もう後は相手の背を討ち、砕いた士気の相手の心を徹底的にへし折るだけだ。そしてこの国を我らの穀倉地帯にして、この島の統一を推し進め、自分もここで富を・・・・・・・
そうして相手の攻撃を続けて破竹の勢いを続けて、いつも以上の勢いで攻め続けたその時、背後でありえぬ報告が聞こえた。
「敵の奇襲部隊が出現! 我らの軍が分断され・・・・奇襲部隊は銀嶺! 敵将カナもそこにいます!!!」
有利だと思っていた、もう目前まで勝利を見据えていた。それが、全て音を立てて崩れた。周りの兵士も同様が現れ、浮足立つも、打つ手がすぐに思い浮かばない、励ます言葉が出ない。この衝撃に誰もが思考停止を、麻痺をしていた。不意を突かれたのだ。此方が、完膚なきまでに。
何度歯を食いしばっただろう。何度剣に手をかけて仲間の元へ駆けつけたいと思っただろう。ダンカンは戦場から離れた森に部隊を分散させて待機、ひたすらに合図を待っていた。その間、言い難いほどの焦燥、悔しさに身を焦がしそうになり、命令違反を犯すのを堪えている。
・・・・・僕の大将、カナは『貴方の役割があのアーサー王への楔になる』と言ってくれたが、歯がゆくて仕方がない。奇襲だって手を抜いた。ランスロットの部隊を発見できても、見逃した。本気を出さずに、ひたすらに遠くでヤマジさんが、カナ大将が、ジャック将軍が、この国の兵士が・・・頑張っているのに、ただ見ているだけなのは・・・言葉に表せないほどに、辛い。
そもそも、農民の出自で、さほど軍略に明るくない自分がどうやってあの常勝不敗のアーサー王への楔になるのかが分からない。離れた場所からだと尚の事分かる。あの軍は、正しく精強の軍だ。ランスロットが側面攻撃を成功させてからの動きは手慣れている。自分たちのような少数では、どれ程も被害を与えることは・・・
「お待たせしました!」
そんな思考の海に沈みそうな時に聞こえた。待ち望んでいたよく通る綺麗な声、一度思考を切ると、そこには巨大な茶色の馬に乗る、銀糸の髪が特徴的な、キモノ? に身を包んだ美しい女性。僕の大将。カナそこにいた。どうやらあの戦場から離脱して馬を栗毛に変えてここに急いで来たのだろう。このことにみなは湧き立ち、僕自身も期待していた。もう、見るだけじゃなく、参戦できると。
「皆様・・・今、アーサー王の軍は私達を追撃、壊滅させんと勢いに乗っています・・・いえ、乗りすぎました。見なさい! 戦線は確かに押されてはいるがあの伸びに伸びた軍列を。私達の富に、勝利に目が眩んで我先にと手柄をあげんとひた走り、そのせいで将もその勢いを上手く御せずに間延びしている・・・」
確かにそうだ。ここまで軍が伸びては、横腹を突けば僕たちでも上手く食い敗れる。いや、奇襲、強襲に慣れた僕たちならやれる。
「今の彼らは常勝不敗の軍などではなく、ただの勝利の美酒を欲して浅ましく駆ける酔っぱらい!! そんな阿呆にあなた達は負けるわけがない! そうでしょう!? 目の前の餌にヨダレ垂らした魔獣を! 弱者をいたぶるだけの、搾取しか脳のない蛮族の軍を! あなた達は蹴散らした! その疾風の如く動く足で! 剣で! 牙で!」
身体が熱くなる、興奮で鼻の奥がツーンとなり、力が漲り始める。狼達も牙を出して唸りを上げ、魔猪達も鼻息が荒い。
「ここまで我慢したのはこの時のため!! 溜めに溜めさせたその力を! 勇気を! 憤りを!! あの酔いどれの横っ面にぶつけてやりましょう! そして、見せるのです・・・・・この国は容易く落とせない! 私達「銀嶺」が、皆がいるのだと!!!!」
熱が、爆発した。誰もが、動物たちも興奮を抑えきれずに咆哮を上げ、皆も雄叫びを上げて猛る。空気が熱くなり、腹の底に焼けた鉛を押し付けられたような圧迫感。そして・・・この気分の高揚。抑えきれない。何かをして吐き出さないと、この熱に殺されそうだ・・・早く、早く号令が欲しい。暴れさせて欲しい。
「全軍ッ・・・突撃! あの伸びた軍を食い破り、目にものを見せますよ!!!」
カナの号令が下ったことでここに吐き出されるだけだった熱は指向性を持って動く。その速さはランスロットなど目じゃなく、その士気は会えばあの軍の誰もが息を呑むだろう。待ち望んだ救援。しかもこれが成功すれば・・・・いや、成功する。とにかく出来れば九死に一生の、相手にしてみれば盤上をひっくり返される程の衝撃だ。早く救いたい、この戦場の主導権を握り返したい。
「ダンカン・・・」
ふと、横を並走しているカナが話しかける。カナの乗る栗毛は大きいので見上げる形になるが、互いに気にせずに会話は続く
「貴方はとても優しい。農民故に弱いものの立場が。心情が理解できる。自然が相手の仕事故に長いスパンで物事を見極めることもできますし、我慢もできる・・・」
それは、優しく語りかけるも、檄だった。僕のための、静かな檄。
「だからこそこの大役を任せました。貴方だから副長に選んだ。気負うなとは言いません。だけど、忘れないで。貴方は、決して弱くも、情けなくもない、立派な戦士ですよ」
言い切ると此方に微笑んで栗毛を加速させ、いい気になっているアーサー王の軍に突撃、すぐさま突破口を開いて部隊が殺到する。勝ちを確信して目の前にしか興味のなかった相手の理解が及ばず呆然とした顔、恐怖に染まった顔。先程まで優位に立っていたはずの立場が変わったのだ。しかし、今はここに留まり、殲滅するのではなく、機動力を生かして此方の部隊で線を引く。そして、そこからは背を突いていたはずの相手の背を討ち、敗走していた部隊と挟撃を始める。きっとこの騒動を感じたヤマジさんやジャック将軍が見抜いて行動を起こすはずだ・・・今はここの軍の流れを完全に分断、孤立させる。皆ががんばった分・・・僕たちが頑張るのだ!!
「クソっ! なんなんだ!! ここに来て今更大規模な奇襲・・・しかもそのせいで分断!!? 冗談じゃねえ!」
中軍に組み込まれていた騎士の一人が罵声を浴びせて空気が一変した戦場を見やる。戦線は完全に混戦状態。指揮系統も上手く機能していおらず、動こうとした瞬間には相手に見抜かれて殺されている。この戦が始まって度々横からの足止めや奇襲は受けた。だが、此程の攻撃はなかった。規模が違う。勢いが違う。理解できる。今までは手を抜いていたのだと。
軍の特徴というのは、戦えば嫌でも理解してしまうのだが、そしてこの軍は、異常なまでの機動戦、殲滅、そして、連携に長けている。まるで狩人と軍の合わさったような部隊だ。
騎士一人に対し魔狼二匹がまず襲いかかり、一匹が武器の持つ手を無力化し、もう一匹が相手の喉笛を噛みちぎるか、鎧の隙間に牙を入れて引き剥がす。そしてそこに三人組の兵士が参加する。一人は魔狼が襲いかかった騎士にとどめを刺し、残りの二人は騎馬であれ、歩兵であれ、弓を射掛け、倒した騎士の武器を投げつけ魔狼やとどめを刺す兵の死角をカバー。更には数こそ少ないが魔猪も複数参加しており、忙しなく常に戦場を駆け巡っては相手に突撃して体制を崩す、襲われそうな部隊を援護。またはその固い毛皮に大きな肉体で盾となり、場をかき乱す厄介な存在だ。
はっきり言って自分たちのように堂々と敵を打ち砕く。というよりも、確実に敵を仕留め、仲間との連携による死者を出さぬような徹底した一対多数の戦い。しかし、少数でありながらもこれが軍全体で庇い合うように常に動き、場所を変え、思わぬところから発展し、損耗無く相手を削っていく。隙を見つけても縦横無尽に動き回るゆえに今までの常識も対策持も通用しない。陣形の穴を突こうにも何処を攻撃すればいいのか、魔獣と騎士の混成部隊なんてものがそもそも聞いたことも見たこともない。例えこの混乱を脱し、体勢を立て直そうとした騎士がいても、打てる陣形も兵法も無いと気付いて再び混乱したその一瞬を逃さずにあの部隊は刈り取る。
恐ろしく冷静だ。徹底してすぐに殺せる「弱者」と、手を打つ可能性のある「強者」または「賢いもの」を率先して潰し、常に混乱や恐怖が続くように戦う。
事実。こうして見る間にも一部の軍の遮断で精一杯の数の奇襲部隊に周辺の部隊の数は減り始めてその数の差は埋まりつつある。そうしているうちにこの部隊の戦い方のもう一つの効果が出始める。恐怖の伝播とその具体的な方法の可視化。何せ魔狼に噛み殺される、騎士に容赦なくトドメを刺される。魔猪に吹き飛ばされて武器が刺さる。首の骨が折れる。此方よりも数段早く動きまわる弓騎兵に射殺される。一番マシなのが騎馬の騎士たちに戦いを挑んで殺されるか。それも挑む場所に辿り着く前に足を封じられる。馬を魔狼や魔猪に潰されて動けないところを殺される。
今までは前線に詰め寄せる軍の波と一部の部隊しか見えなかったはずが数が減ってきてだんだんと見えてくる。どんな死に方をするか。どんな物を相手にするのか、そして、ここまで数が減っていることの理由をまざまざと見せつけられる。
こうなったらもう駄目だ。誰かが恐怖すればそれが伝わり、集団に、軍に広がり、そして皆一様に士気が下がる。足が鈍る、止まる、逃げ出す。逆に駆け出して戦おうとするものは即座に各個撃破されてそこで終わる。それを見てまた士気が下がる。
そうこうしているうちにこっちにも魔獣と騎士の歯牙は向き始め、周りの騎士たちも怯えだす。自分だって逃げたい。だけど、足がすくんで動けない。ああ・・・なんてことだ。この国にいる「銀の死神部隊」その話は本当だった・・・あの鎌をしっかりと見据えるまでは動いてはいけなかった・・・二頭の魔狼が・・・襲いかかり、何かが噛みちぎられる音を最後に、意識は途切れた・・・・・・
この尋常ならざる事態にマーリンはその整った顔を伝う冷や汗を拭うことも軽口を叩く余裕もなくなっていた。十数年前のモルガン達を救った女剣士。この島に、いないはずの人種。見たこともない剣技に武器、何もかもが異常。しかもその異常性は月日を過ぎる度に顕著に現れていき、片田舎のはずのオークニーをこの島でも有数の経済大国に押し上げた。更には魔獣と騎士の混成部隊の成立。モルガン、イグレーヌの覚醒による千里眼の阻害。これで正確な国の様子が見れなかったし、この戦場でもところどころ見えなくなっていた。それも意味のない場所だったりここに来て精度が低くなったことで油断していた。
前線が進みすぎて伸びた軍列を容赦なく断ち切るために突入した精鋭に周辺の軍の足はすっかり止められてしまうだけではなく恐怖も刻まれている。後軍は完全に機能停止状態であり、一方的に嬲られるだけ。前軍も局地的部分は押し勝っているが、先の退却で逃げた軍がジリジリと包囲網を敷いており、分断した軍も前軍に向かえば包囲網が完成するだろう。
この嫌な流れを作ったのがあの時に手をかけなかった剣士が起こしたことなのだと考えるだけでも恐ろしい。こちらの戦績を、強さを利用してこその逆転包囲。こんな戦法なんて思いつくか。思いついてもこちらが勝負に慎重にならなければ精鋭を遊ばせるだけの愚策になる危険な作戦。しかし、ハマってしまったためにこの惨状だ。急いで自分も出陣して後軍の士気を震わせて銀嶺を無理矢理にでもすり抜けてアルトリアと合流。包囲陣を敷いている分薄くなった敵軍を突き進んで包囲を突破して陣営を立て直して仕切り直すしか。
「僕も出るよ。皆出陣の用意を」
馬に跨がり、後軍と合流しようとする直前に伝令が駆け込んできた。しかも、それは最後尾や武器などの輸送隊に配備した伝令。嫌な予感がするものの、あちらは伝えるのが仕事。こちらの心境など知らずに情報伝達と対処を貰うために伝聞を伝える。
「背後に隠した兵糧備蓄庫と・・・軍馬のための馬草を貯めた補給地点が奇襲を受けて焼き払われました!! 魔獣を多く従えていたことから奇襲部隊は銀嶺・・・また、将として・・・銀嶺副官アンナ。そして・・・魔女、モルガン!!! 既に敵は離脱をしており・・・我々の騎馬でも追いつけず・・・」
思考が再び止まりそうになる。兵糧庫を焼き払われた? あれほど綿密に場所を見繕い、念入りに千里眼で常に周辺を索敵していたし、結界も張っていたはずだ。モルガンなら欺けるだろう。だが、何故見つかった? いや、それだけではない。これでは戦いにならない。この国なら各所で略奪をしてしまえばそれなりには持つかも知れない。だけど、それは望むところではない。あくまで魔女が悪いのであって民草は悪くないと説明した手前、アルトリアも拒みかねないし、やってしまったらこの国を完全には掌握できない。必ずこの略奪はアーサー王の経歴に泥が付き、周りの王も嘲り、認めないだろう。
遅まきに後方から黒煙があがり、火花が空に舞う。間違いなく自軍の兵糧庫と馬草の集積拠点だ。この漂う臭いと煙の規模は先の伝令が嘘でも何でも無く、念入りに焼かれたのだろう。そのせいで敵軍の士気は盛り上がって各所で自軍を押し返し始めたし、味方は逆に士気がガクンと落ちたせいで前軍にも勢いがなくなり始めている。
今回の戦場を掌握しているカナ。軍の生命線を壊滅させたモルガン。過去の自分の手落ちが今になって戻ってきた。この煙がその事実にあざ笑うようにこちらに流れて兵士や自分を見えなくなるまでその黒い煙を見せつけては消える。この場で動いているのはこの事実を前もって知っていた伝令と出撃を待つ軍馬のみ。今、ここにいるほぼ全ての人間が度重なるバッドニュースに思考が麻痺、いやさ放棄していた。
そして、誰もがこう思った「常勝不敗の我が軍が、王が初めて負けるのか?」と
「モルガン様。これで最後の兵糧集積地点です。これ以上は焼く必要もなく、そろそろ追手が来るでしょう。急ぎ撤退をして私達は帰りましょう。カナ隊長が他の皆様と考えたルートがありますし、マーリンの千里眼から逃れられても直接襲われてはひとたまりもありません」
銀嶺副官にして魔術師の弟子でもあるアンナの進言を耳にしながら、私はこの光景に見入っていた。あの魔術師に一泡吹かせてやった。それもこの国を守る大舞台で、気持ちがいい程に決まった奇襲で。
思わず笑い出そうと吊り上がる口角を手で抑えながら思い返す。あの大博打と自身が罵ったカナの作戦を
『まずはアーサー王の軍と私達はぶつかります。で、そのまま普通に戦って下さい。あの強さの軍は下手に包囲しようとか、不意を突こうとしても上手くいかないでしょうから、防御しつつジリジリ相手を削り取ればいいです。攻め手のあちらは補給ができない、し辛い以上は嫌な打撃ですし、焦れると思います』
『そして、最前線・・・より少し下がった場所で私は銀嶺の一部を指揮、剣を振るいます。変な連携は不要です。悟られるのが一番まずい。そして、相手は魔獣使いだの魔女の手下だのいう私に目が行くはずですので、それも使って軍の目を前線に固定します』
『そうして私や軍の被害、今までよりも動かない戦局に私達の手札を見せないことに焦れてあちらが必殺の札を切ったら私は適当な時間で退却して、一気に戦線を離れて伏兵の場所に合流します。ジャック将軍たちは退却しながら私達から見た最後尾の軍を先導させながら分解して遠巻きに、少数でもいいので包囲できるように再配置を』
『相手が勝ちを確信して前線が勢いづき、多少なりとも軍列が伸び始めたら私とダンカンで横腹を突き破って遮断。軍を裂きます。前線に将が集まり、誰もが手柄をあげてやろうと足早になった状況で後方の弱い部隊でもいいから一人でも多く殺して頭数を減らします』
『そこまでしたら今度はモルガン様です。モルガン様はマーリンの千里眼を欺けますので、私の魔猪部隊、アンナ様の突撃隊、魔狼の中でも特に足の早い子達を預けます。全滅を目的としたものではなく、通りすがりに相手の食料を焼き払うすり抜け、一撃離脱の特化部隊で相手の食料を焼いて、更には包囲されつつある状況による不利な現状を完全に叩きつけます。相手がこのやたらと複雑な平野を選んだのは食料を上手く隠すため。それに適しためぼしい場所は皆で見繕っていますし、結界の種類もフランスに居る時に見れた大結界を再現、そして簡単に破壊できるまで磨き上げたモルガン様に相手の拠点破壊に優れた魔術を持つアンナ様なら可能でしょう。キャンプファイアーしたらすぐに戻ってくださいね? 長居は無用ですから』
『そして、最後にですが、包囲は遠巻きに、最悪いるだけでも良いです。この状況なら何処かに戦力を集めて一点突破からの撤退か奥に侵攻して略奪をしながら進むでしょう。そのために厄介な戦力のアーサー王、ランスロット卿のどれかを暫く足止めする戦力を前線に送り込んで少しでも行軍を遅らせている間に残存兵力を更に叩きます』
確かに博打なのは否めないが、相手の戦績と強さ、今回の敵の意気込みゆえの勢いを利用し尽くし、こちらは守りと主な連携や行動を一緒にせずに機動力、少数精鋭の強みを使い尽くした戦術は見事に噛み合い、もう相手はこれ以上この国に居座り戦うなら汚名を残す略奪を取るしか無く。こっちはまだまだ拠点に兵力も温存しているので長期戦で時間を稼ぎながら銀嶺や現地の魔獣達をけしかけて削り取ればいい。
後は最後の作戦。前もって飛ばした使い魔を通して写った光景は前線を支えるアルトリア。その部隊に、銀の矢が到達した。
『その戦力ですか・・・・・・・? 力不足かもしれませんが、私です』
アルトリア。カナお姉さま・・・どちらもご無事で。戦場で我儘な願いなのは承知だが、願わずにはいられない。既に煙の臭いも無くなり、遠く戦線から離れた場所からモルガンは手を合わせて祈りを捧げた。
思うままに戦い、攻め崩していたはずの私達がいつの間にか包囲され、追い込まれている。私が聖剣を振るおうにも遠巻きから弓騎兵の一斉射が動きを抑え、魔狼の群れが私を取り囲み、常に一定の距離を保っている。こちらが引けばその分詰め寄り、前に出ればその分引く。魔力放出で突撃を仕掛けてもヤマジという銀嶺の副官が前に出て魔猪や部下と数人がかりでなんとか押さえ込み、また押し返されるという事態。私ですらこうなのだ。ランスロット卿の場所は遠目でもこちら以上の戦力が割り振られているのだろう。一向に救援もあの声も聞こえない。
こんな状況、アーサー王と名乗ってから初めての経験だ。勝利が見え始めた瞬間に一気に盤上がひっくり返り始め、煙からして食料庫まで焼き払われたのだろう。未だ将は討たれてはいないだろうが、後方の部隊は壊滅状態は確実。分断していた銀嶺の兵が殺到し始め、ここも苦しくなってきた。魔獣との連携だけが強みの部隊かと思ったことが悔やまれる。副官は満身創痍ながら私の攻撃を幾度も受け止めて、吹き飛ばされてもまた立ち上がる。兵士も魔獣をカバーするために剣を振り、こちらの精兵に渡り合い、倒していく。もうここでの戦闘は負け確定だろう。
認めたくはない。だが、これ以上の兵士の消耗はここを手に入れることも、退却してからの行動も危うくなりかねない。苦渋の思いで退却の合図をしようとした矢先、新たな部隊が突撃してきた。とっさの防壁はまたたく間に砕け散り、生きていた兵士の首や腕が飛び散り、血しぶきが雨のように降り注ぐ・・・その突撃隊の戦闘に立つのは見たことのない衣装に身を包み、両手に芸術品のような反りのある片刃の剣と短剣を持って私の部隊の兵士を一息に斬り殺し、悠然と歩を進める。少々彫りの浅いことも気にならない程の美しい風貌に豊穣の女神を思わせる肢体。銀糸の長髪は返り血を浴びて一部を紅く染め、その蒼の瞳は私を見据えて他は眼中にないと視線を動かさない。魔女の手下・・・魔獣使い、銀の死神部隊・・・・そんな二つ名が思い浮かんでは消えた。そうなのかも知れない。だが、それを差し引いてもこの将は恐ろしく、油断ができない。纏う空気は涼やかで鋭く、自重だけで切り裂かれそうな剣気を纏う。初めて会う敵だ。
「あなた方の軍は強く、その勢いを活かした波状攻撃も素晴らしかったです。・・・だからこそ貴方方はこの状況に追い込まれました。会うのは二度目ですね? アーサー王。いえ、アルトリア・ペンドラゴン様」
剣をゆうゆうと自然体で構えながら言葉をかわそうとしてくるカナ。魔術の気配も直感も感じない。なにもない普通の会話なのだろう。
「黙れ魔女の使いよ。そのような戯言を交えに来たのではあるまい?」
こちらの言葉にそのとおりと返し、言葉を紡ぐ。
「魔女の使い・・・ふふ、ある意味正解ですが・・・はい、今回の戦は、まだ決着は着いてはいませんが、互いに多くの血を流しました。貴方の展望も知っていますが、私達の大切な方を知ること無くその覇業を成しては欲しくもなく、この国を踏みにじるのは止めてほしいのです」
大切な人・・・モルガンのことだろうか、部下のことだろうか・・・・
並のものでは怯え竦むような威圧を前にしてもまるで気にすることもない。警戒も、構えもしない。何故か苛立ちが募る。まるで自分が小さいことで癇癪を起こしている子供のようでカナが不思議と大きく見える。
「・・・・・・・私に席につけと?」
「はい。今回の戦を収めて休戦、和睦・・・・若しくは同盟を組んではいただけませんか? 私達はあなた達の戦力をよく分かりましたし、その道は卑王を倒す光にもなりましょう。貴方方は決してこの国が容易い敵ではなく、魔女がこの場にいなくともここまで戦えることを示しました。どうですか? 互いのためにここは一つ」
道理だ。これ以上の被害は立て直して次の戦いにもすぐには起こせない。ここは一度引いて立て直したりこの国からの同盟や和睦の際に何らかの形で資金なり資材を手に入れるべきなのだろう・・・
だが、もう一つだけ聞きたかった。今回の戦の動き。間違いなくこんな作戦を立てるのはこの国の将軍にはいない。こんなハチャメチャな作戦思いつかない。
「その前にだ・・・カナ」
「何でしょうか?」
「今回の作戦は、貴様のものか?」
「はい、博打同然のとんでもな机上の空論でしたが、ハマってよかったです」
なら、ここでこの女将軍を打ち取れば戦況はともかく次に繋げられる。次もカナがいては恐ろしいが、守り以外は全てが銀嶺に、カナにしてやられた形だ。この剣士さえいなければ後はどうにかなるはずだ。
「なら・・・ここで貴様を倒して戦況を立て直す!」
魔力を迸らせ、一息に彼我の距離を詰めて華奈に襲いかかるアルトリア。弾丸のような速度で接近して左からの横薙ぎで両断せんと迫る。華奈は右手に構えた太刀を垂直に立てて剣の軌道上に置いて、体はすべてその後ろに置く。
「っああぁあああ!!!」
渾身の気合を吐きながら華奈の胴に振り抜かれる聖剣。しかし、その前に置かれた太刀に当たり、その刹那、聖剣の勢いをいなし、自身は聖剣の勢いに乗るように聖剣に当てた刀と一緒に縦回転で聖剣の軌道の上を転がって避ける。更にはその勢いを利用して左手の脇差で回る身体の勢いを乗せた切り上げの一撃を見舞う。
「なぁっ!?」
振り抜いた勢いで体をねじって見事に避け、回転の勢いを殺しきれずに体勢の戻りきらない華奈に向けて魔力で強化した肉体を振るい、再び再加速して上段からの打ち下ろし。
「やぁああああ!」
しかし、これも太刀で受け止められ、あらぬ方向に逸らされる。しかも今回の華奈は体勢をその間に体制を立て直して足払いを見舞い、それにかかったアルトリアは勢いのままにつんのめり、体勢を崩して華奈の後方にたたらを踏む。
「シイッ!!!」
互いに背中を見せる体勢を利用して聖剣を身体に隠し、振り向きざまに突きを二つ放つ。線の剣戟が通じないなら点の突きで受け流せないようにしつつ魔力放出の加速で穿つことを狙う。
しかしこれも向き合った華奈の突き出された剣先を向けた太刀で一撃目はそっと緩やかな動きで流され、二撃目は崩れた姿勢の分より大きく身体を崩されてすぐには戻せない状況で左肩に峰で一撃を叩き込まれ、鈍い痛みがアルトリアを襲う。
「はあああああッ!!」
怒声をあげて、我武者羅に剣を振るって華奈を倒さんとする。
打ち下ろし、切り上げ、突き、袈裟懸け、薙ぎ。
思いつく限りの、直感に従って振るう必殺の数々。どれも当たれば巨漢の重装兵士は愚か幻想種でも一撃で屠り、遠くの木々、兵士にも傷を与えるほどの剣圧の乱舞。それでも華奈に届くことはなく、大きな隙を突かれては、身体の所々に鈍い痛みを抱える場所が増えていく。
幾多もの戦場で相手を屠ってきた剛剣がまるで届かない。どんな力もいなし、かわされ、勢いを必要以上に受け止めない剣術はアルトリアの力押しの剣術にはトコトン相性が悪く。その力も勢いも逆に利用されては身体を打ち据えられる。
「あぐっ・・・・・!」
数十合ほど打ち合い、優劣が如実に現れ始めた。一合斬り合う度に焦りがアルトリアにのしかかっていく。常に先手を取り、攻めているはずなのに効果は上がらずに身体を打ち据えられるばかり。その間も自身の部隊や国の兵士たちは銀嶺に討ち取られ、数を減らしていく。それだけではない。アルトリアと華奈の一騎打ちでアルトリアは疲労がたまるばかりか、華奈は汗一つ、息一つ切らせずに攻撃を捌き、時折横槍を入れる兵士はその周辺の兵士ごと斬り殺してまたこちらと切り結ぶ。銀嶺は華奈の勝利を確信しているのかひたすらに周りの戦いに集中。強いて言うならこちらの戦いに巻き込まれないようにしているだけだろうか。
こちらの兵士たちは対象的に士気はガタ落ちでいつもの勢いも覇気もなく魔獣や兵士に襲われ、悲鳴を上げては一人、また一人と死んでいく。
切り上げを逸らされて晒してしまった胴体に容赦のない蹴りを打ち込まれて後方に吹き飛んでしまう。倒すと息巻いた覇気も殺気も薄れ揺らぎ、顔には焦りと疲労。そして幾ばくかの後悔があった。もしここで意地にならずに撤退していたら、ここまでの被害を出さずに済んだのだろうか。と。
肺を酷使して全身に空気を行き渡らせながら思案する。この剣士をどうやって打ち倒そうか。これ以上は時間をかけられないし、自分自身も切られたわけではないが、いつも以上に溜まっている疲労に打ち込まれた打撲痕のせいで感覚がないところも出始めている。何回斬り殺されていたかも分からないが、手を抜いている、油断しているうちがチャンスだ。確実にモノにしなければいけない。
「もう止めませんか? 私としては是非ともモルガン様とお話していただければ嬉しいのですが・・・」
悲しそうな目でこちらを見やる華奈。本人にそのつもりはなくともアルトリアにはこれが挑発と映り、思わず斬りかかりそうになるも冷静になることに努め、剣を掲げる。
(剣で敵わないなら。これで打倒してみせる!!!)
呼吸を整えつつ、全身の魔力をカリバーンの刀身に集中させていく。華奈は一度距離を取り、太刀を二振り。右手の指の間に脇差を握り込んでブラブラと遊ばせている。華奈も特に防御の構えでもなければ、背後は銀嶺やオークニーの兵士のみ。これなら味方への被害は出ないだろう。
これならこの攻撃も思う存分に打てる!
「選定の剣よ、力を! 邪悪を断て! 『勝利すべき・・・
気合とともに今正に放たれんとする黄金の光。もうこの距離からは何も対応はできない。避けることはできようが巻き込まれる部下が出てくるのは確実。部下を思うならこの一撃を受けるしか無い。アルトリアが勝利を確信したその刹那。
「蹴鞠」
遊ばせていた脇差をアルトリアがカリバーンを放つコンマ数秒早く指から放し、足の爪先で思い切り蹴り上げてカリバーンの剣先に激突。軌道が上向きに修正され、攻撃が華奈にもう届くことは無いと絶望に染まるが、まだこれだけでは終わらなかった。脇差を蹴り上げるとほぼ同時に距離を詰め、腕を左右に交差させた二つの太刀でカリバーンを挟み込むように捉え、思い切り振り抜き、自身もその勢いでアルトリアの横をすり抜けて距離を取った後、向き直る。
「太刀殺し!」
キィン! という鋭い金属音と同時に太刀による魔力を込めた一撃により行き場を一瞬失った魔力の暴発がカリバーン、アルトリアを襲う。手元から発生した爆風で地面を転がり、土にまみれてしまうアルトリア。暴風によるフラつきと衝撃から立ち直り、手元を見やるとそこには爆風で吹き飛んだ篭手の残骸と少し火傷の残る手。そして、太刀の切込みを起点に半分近くは魔力の暴発で根元付近から折れたカリバーン。
折れた刀身は暴発による打ち上げから地面に落ちて二人の目の前に刺さり、もう使い物にならない刀身を見せる。
「あ・・・・あぁっぁあぁぁぁぁあぁ・・・」
戦は敗戦濃厚。剣も敵わない。最後の手段は逆に狙われていたのか聖剣を折られる墓穴をほった。しかも、一騎打ちの間に周辺部隊は散々に打ち破られて立て直しも不可能・・・進撃など持っての他。アルトリアの絶望の呻きを聞いた兵士の中には完全に心が折れた者が出始め、投降するもの、命乞いをするもの、放心してしまうもの、逃げ出すもの、やけくそになり特攻するものと反応が様々だった。
しかし、この騒ぎは即座に終結する。緩やかに包囲をしていたオークニーの部隊が引きはじめ、逃げ道が出来てくる。そこに誰が叫んだか退却を始める兵士で溢れかえり。あれ程国へ攻め入らんとした騎士の波は数を減らして進軍してきた方向とは逆方向に逃げおおせる。
これを見た華奈はすぐに各所の銀嶺及びすべての軍に追撃は不要。敗残兵の中から略奪に走るものは私達銀嶺が皆殺しにすると伝えてアルトリアとの一騎打ちの場から離れる。
暫くして別の前線で戦っていたランスロットの部隊が放心状態のアルトリアを回収。マーリンは既に退却を考えていたのかランスロットにアルトリアを任せると殿を務めた。
この光景にオークニーの兵士の誰もが信じられないと放心し、すっかり日の暮れ始めた戦場に佇む。華奈自身もよくもまあ勝てたものだなと何処か他人事のように考えながら空を見上げていつの間にやら戻ってきた栗毛を撫でる。
「おいおい大将。勝鬨をあげなきゃ皆その場で眠っちまうぜ?」
そんな軽口を叩きながらすっかりボロボロなヤマジ・・・だけでなくダンカンにアンナ、銀嶺の皆が集まっており、私に勝どきを上げろと口々に言い出す。これに現場の兵士も悪ノリしてジャック将軍も早くしないと酒が飲めないと言ってくるので私が音頭を取ることに・・・コホン
「この戦!わたひひゃちの勝利です!!・・・・・噛んじゃった・・・!」
締まらないなと皆に笑われてながらも天をも揺るがさん勢いの雄叫びと笑い声は暫く響き渡り、夜になって皆で休むことに。さて、軍馬も沢山死んだみたいですし、馬肉の香草焼きや刺し身、タタキにハンバーグ。夜食は何にしましょうか? 取り敢えずこの後はアルトリア様の誤解が解けたらいいのですけどね。
華奈「ざわ・・・ざわ・・・・」 ←今回の博打下手人
ヤマジ「いい男ってのは、ついつい見えを張っちゃうんだぜ?」 ←影のMVP
ダンカン「ぶっ殺してやる!!」 ←大暴走、大活躍
アンナ「キャンプファイヤー会場はこちら~~」 ←お祭り開催
モルガン「マーリンザマァーアァアwwwww」 ←やり返せてご満悦
動物たち「ヒャッハー! 逃げる騎士は餌だ! 逃げない騎士はよく訓練された餌だ! ホントこの職場は天国だぜフゥハハハーハァー!!」 ←敵の騎士をムシャム シャ・・・華奈のご飯欲しい
マーリン「え、なんなのこの滅茶苦茶加減」 ←いつもと逆にしてやられる
ランスロット「おのれカナ!」 ← 釣り餌扱い
アルトリア「カナ怖いカナ怖いカナ怖いカナ怖い・・・・・・・もうヤダ」 ←色々やらかして完敗
というわけで色々足りない頭をひねって無駄に長くなった今回。お付き合い有難うございます。色々アルトリアがフルボッコなので愉悦部員の皆様以外、アルトリアファンの皆様には重ね重ね申し訳ありません。けど、考えていたらこうなってしまいました。
華奈もここまでうまくいくとは思わなかったこの作戦。負け無し? じゃあノラせて横から殴ろうぜ。な作戦。「耳川の戦い」をネタに色々ぶち込んで出来ちゃった今回の話し。矛盾とか練りの甘い部分も多いでしょうねえ・・・(震え声)
華奈がかなり強いですが、三度も転生して、一度目、幕末で剣客。二度目、愉悦部員。三度目、世紀末ブリテンで大暴走。経験も積み重ねたものも馬鹿にできないとこれくらいの強さにしました。
剣を使いながら魔獣も使える・・・英霊になるならセイバーとライダーのダブルクラスでしょうか?
毎回毎回更新する度にお気に入りが増えるのに嬉しいやら期待されているのでしょうか? と不安になるやらで楽しく見ています。有難うございます。
次回はゆる~くいくと思います。またゆるりとお楽しみ下さい。
最後に UA 6,377件 しおり 16件 お気に入り 92件 そして、評価をくれている皆様。いつもありがとうございます。楽しい物語に囲まれた日々を願います。