転生愉悦部の徒然日記 作:零課
オジマンディアス「余が。か? ありえぬよ。ネフェルタリ。余はいつでも万全であるゆえにな」
ネフェルタリ「そうね。肉体はそう。でも、心に迷いがあるわ。カルデアに、華奈さんになにかあるの?」
オジマンディアス「隠せぬものか。フハハハ。ああ。少し悩みがある。が、それは彼奴らと銀狼殿と話して決める。故に、今は気にするでない」
ネフェルタリ「そう。なら、今は貴方を支えながらいつでも歓迎の準備をしないとね!」
オジマンディアス「それでこそ余の妻よ。では、早速動くとしよう(・・・聖杯を下賜するのはいい。ただ、あの狼は目に聖杯を見ても喜びよりも余の目を見ていた。見抜かれていたか。
余の予想が正しければ獅子王の正体や、余の考え、獅子王の考えを持ってどのような答えを出すか。博打などする趣味はないが、今回はそれにかけるぞ。銀狼殿)」
~カルデア~
清姫「ここまでカルデアが緊張しているのは初めてですね・・・華奈さんも無事だといいですが」
スカサハ「なぁに。そこで早々に死ぬような奴ならここまで来る前に死んでいる。問題はないだろう。それに銀嶺隊が今もいるのが生きている証拠よ」
清姫「そうですね・・・はやくますたぁと元さんと合流できればいいのですが」
スカサハ「ずっとそれを考えつつヤキモキしては気が滅入るだろう。せっかくだ。私が槍の稽古をつけてやろう。運動はいい気分転換になるぞ。薙刀などどうだ?」
清姫「うーん・・・」
スカサハ「もし武芸もある程度学べば藤丸とも一緒に修練ができるぞ」
清姫「します! 是非ご指導お願いします!」
スカサハ「よし。では基本的な動きから教えよう」
「いやはや、さすがファラオだ。これだけ大量の物資を分けてくれるなんて。ふふふ」
「おいしい水に新鮮な果実に食料。それに干し肉に干し魚。医薬品までよりどりみどりですわね♫」
「当然です! 我ら砂の民、ファラオである王の領地の中で野垂れ死なれては面目がたちませんし。それに、王は貴方たちに華奈殿への何かしらの期待があるようです。
・・・私ではオジマンディアス様や銀狼殿の真意は見抜けませんがきっとこの状況を変えるべきものでしょう。故に、手厚くもてなしたとは思います」
「おそらくはそうなのでしょう。私達も華奈の行動は基本敵を倒すことにつながっていますが、読めないことがあるので」
あれから軽く豪華な食事会をオジマンディアス王の妻ネフェルタリさんも参加して開いてもらい、休憩後に物資をたくさんもらって僕らも砂漠を抜けて行くことにした。華奈さんがいないし、何より見聞を広める。
それはつまり聖都に、そしてハサンらしきメンバーの勢力を見て回り、聖都の獅子王か、オジマンディアスどちらかを倒すかを考えるべきということだと思う。
「ああ。それは確かだろう。それに、その行動をする間ファラオのみんなが守ってくれるのなら聖杯も問題ないし、とことん感謝するよ。大量の資材のお陰でこれも作れたしね!」
ホクホク顔で最後に出てきたダ・ヴィンチちゃんが何やら持ってきた2台の木製のバギー。
「名付けて万能車両オーニソプター・スピンクスさ!」
「まあまあ! なんときれいで可愛らしい」
「フォーぅ! キャウ。フォー!」
「おお、ダ・ヴィンチちゃん。これは・・・! 運転免許証等は必要でしょうか!?」
「いやいや、流石にエンジンとかはないし、それにこの時代に合わせた技術力じゃないと成功しないからねえ。でもちゃんと動くし、動力は魔力をもとにしているからね。
ロンドンで出会ったフランちゃんのあのガルバニズムを軽量、小型化したものを組んでいるから元、藤丸でそれぞれ分かれて魔力を流してくれればそれを動力炉に時速70キロは出せる。ここから聖都まではおよそ100キロほど。砂丘などを考えても2、3時間では問題なくつくはずさ」
なんと魔力で動くアシスト自転車ならぬ自動車を即席で作ったという。しかも4人乗りだからこの人数なら2台あれば問題ない。
ぶっ飛んだ発想だけどあの砂漠を歩かないでいいのは本当に大助かりだ。
「なんと・・・! 天才とずっと言っていましたがこれは本当にすごいです!」
「ふふふ。言っただろう? 万能の天才ダ・ヴィンチちゃんだって♫」
「ええ。ふふふ。どうか旅路もお気をつけて。元。華奈殿にも無事出会えるように。そして、次は戦ではなく穏やかな再会を願います」
笑顔で優しく手を降ってからスフィンクスに乗って自身の神殿に戻っていくニトクリス。エジプトという国を、領地を呼び出しているそうなので宴が終われば政務につかないといけないようで中々大変そうだ。
「さて、それじゃあチーム分けだ。私とマシュ、藤丸、フォウ君で1台目。2台目は元、アン、頼光でいこう。運転は任せたよ藤丸」
笑顔でスピンクスのドアを開けて乗り込むダ・ヴィンチちゃん。おおー! 車の運転ができるなんて! 安全運転しつつ楽しむぞー!
「あ、それと砂嵐、砂対策のゴーグルね。ちゃんと専用のがあるからそれも着用して」
「はーい」
「いやっほー! 早いはやーい!」
「先輩! 私にも是非運転を!」
「ん? マシュも? いいよー。じゃあ、助手席に盾をおいて、僕は後ね? よろしく!」
「了解です!」
「うーん馬車よりずっと快適で早い。これが車の乗り心地。いいですわねえ」
「ふふふ。快適です。愛馬に無理をさせたくないときはこれを使うのがいいのでしょうね」
砂漠の中をみんなでドライブでもするように駆け抜けていく。砂嵐の地帯を超えれば視界も開けてきて楽しくみんなで砂丘を飛び越えたり上手に合間を縫いつつ進路が逸れないようにしたりとで楽しく走っていく。
無免許運転なのにそれが問題ない。自転車と同じだからということでこうして一足先に木製のバギーを運転できるなんて最高!
マシュに途中で一度停車して運転席を交換してもらい、後ろでダ・ヴィンチちゃんと休憩しつつ水を飲む。
「いやあ、今回は肉体労働が増えそうだったから用意したけどこれはいいね。荷物もトランクに積み込めるし、砂漠の中でもこの速度。これなら華奈に銀嶺隊を呼んでもらわずともいいから魔力を、消耗を抑えられる」
「ですね。しかし、一体この外の、エルサレムはどうなっているんでしょう」
「うーん・・・予想が当たればひどいが、そうでなくてもまず悲惨だろう。どうころぼうが最悪。それが緩和されることはないだろうね。アメリカのときもひどかったがまだあれは人理が崩壊する土俵際で踏ん張っていた。が、今回はそれがない。
神王が最初から味方してくれるかもなのはいいがそれでも本来なら米国で言うところのエジソンに当たる陣営が一つ滅んでいるわけだ。それを滅ぼした獅子王がなぜそれをしたのか。あの槍兵含めてまだ不安は多い。華奈君があえて通信をよこさないのもそれだろう。自分が目当ての一つと思われているからね」
確かに。言ってしまえば勢力を一つ滅ぼして尚あのオジマンディアス王が直々には手を出さないほどの、出せば被害を出すと思うほどの相手なのかも。あれだけスフィンクスもいて、尚そう思わせるほどの・・・
華奈さんを求めるとなれば円卓の騎士に憧れているか、求める人だろうけどもあれは個人で動いているのかここの特異点の組織の差し金なのかもわからない。
「謎が多いですね・・・」
「ああ、その上で華奈は狙われていた。だから離れて私達は気楽に動ける。狙う相手が減るからね。でも、その槍兵は華奈がオジマンディアスの領地に来たときは襲われなかったことから砂漠の領地に踏み込むのは危ないと理解もしている。と、同時にファラオたちの味方ではないと推測できる。
そこを割り出しつつ我らが騎士様を迎えに行こうじゃないか。おっと。そろそろ砂漠エリアを抜けるぞ。総員速度を落として」
話しているといつの間にか砂漠エリアを抜けて漸くこの特異点の姿。13世紀のエルサレムの本来の状態がわかる。
「安全運転で行きます。では、3,2,1。抜けます!」
僕らの車が先頭のまま砂漠エリアを抜けると、そこは、ひどい有り様だった。とある一画を除いて。
大地が燃え尽くされて草木も生えず、倒木も燃えカスになりつつあるような状況。更には暑さも砂漠程ではないが近しいほどの暑さだ。
「これは・・・気温48度。相対湿度0% 大気の魔力密度0,3%・・・・予想があたってしまったようだね。人の生きられる環境じゃない」
「これが・・・13世紀のエルサレム?」
「ひどいな・・・紛争地帯のほうがまだましなレベルだぞ」
元さんらも降りてきてその光景に唖然。
それはそうだろう。建物もなく、何やらオアシスのある場所以外はあらゆる場所で生命の気配がまるでない。
「おそらくだが、ゲーティアの人理焼却の仕事。それに近しい状態になりつつあるんだろう。魔術王は人類定礎を歪めてしまうことで特異点を生み出して、不安定になった人類史を過去まで燃やし尽くした。
逆を言えばその人理焼却の基点たる特異点は焼却の波が来なかったんだけど・・・特異点が崩壊してしまえばこうなるのもあり得ると。
ただ、その中であのオアシスは・・・?」
「・・・いちおう、話を聞いてみましょう。すいませんみなさん。少しお話いいですか?」
ダ・ヴィンチちゃんの言うことが確かなら文字通り完全に死に絶えて焼け落ちつつある大地ということになるのだけど、その中でひときわ、普通ならあっていいはずだけど今は異常なオアシス。
そこで水くみをして、果実を分け与えている人らにマシュが声をかけてみる。するとその人らも笑顔で答えてくれる。
「おお、なんだいお嬢ちゃん。水がほしいのかい?」
「ああ、いえいえ。そこは皆様でどうか最後の一杯を。あの、このオアシスは一体どうしたんです?」
「これか。これはなあ。華奈さんっていうすげえきれいなカルデアの騎士さんが掘り当ててくれた水と、果実だ。急に村が焼けて、食べるものもなくて化け物になりかけていた俺等を助けてくれただけじゃなくて、こうして恵みまで与えてくれた・・・」
「それから砂漠にお姫様? といっしょに行って心配していたんだが、数日前にここから北の方でまた似たようにオアシスを作り出したって噂でなあ。ここの水ももう最後だし、俺等も水と果実を自分の分以外分けたら出発しようとしていたんだ」
「お、おかあ。いえ、華奈さんが。ですか!? そ、その新しいオアシスの話は何日前です!? 私達もカルデアのものです!」
まさかの華奈さんの人助けの痕跡。というか、人類史が焼け落ちつつあるこの場所で水を掘り当ててしまい、果実まで用意するとかどういう道具を使ったんだろう・・・?
「君等カルデアのものか! いやーそれはそれは・・・本当に命の恩人だよ。華奈さんらは。感謝してもしきれない程に。あーそれと、いちおう新しいオアシスを作ったという話は2日前ほどだね。砂漠から抜け出してきたあたり大したものだが、太陽王と反りが合わずに聖都に向かっているのかも知れねえが・・・」
「明日以降かね。聖抜という儀式が近づいている。ただ・・・そこにはいかねえほうがいい。たしかにあそこはなんでもあるだろうし、強い戦士たちもいる。だがな。何もかもあるからこそ、綺麗だからこそ怖いものがある」
なんでもあるし、その儀式がすごく大事なのだろうか? でも、この反応は、顔はいいものを思い出す。見てきたような顔じゃない・・・
アンさんに頼光さんも怪訝な顔をしつつ不安そうにしている。
「でも太陽王の場所も危ない。ここのオアシスも水はそろそろ尽きる。それなら、皆さんはどこに行くんですか?」
「お、いいこと聞くねえお兄さん。俺等はここから北にあるという山村に行くことにしている。その合間にオアシスで補給をしつつな。兄さん等カルデアの騎士の関係者なら獅子王とやらも気にいるかも知れねえが・・・悪いことは言わねえ。死にたくなかったら聖都の壁には近づくな」
「ご忠告感謝します。それと、どうかご無事で」
「ああ。嬢ちゃん等の方もな」
手を降って分かれつつ、スピンクスに乗り込んで少し岩陰に移動しつつちょっと相談をしようとみんなに頼んで止まり、考え込む。
「うーん。獅子王。実際にいた王様だとは知っているけど、彼十字軍サイドだよね? 十字軍はオジマンディアス王が蹴散らして、だっていうのに聖都には獅子王率いる騎士たちがいる。で、何かの儀式を行っていて、でも危険だと」
「なんというか、情報があまりにチグハグで・・・まとまりがあるようですが知っている情報と噛み合わない。十字軍なら、やはり現地住民への加害などでしょうか?」
「それと3つ目の勢力と言うか、まあ小さいのでしょうけどおそらくハサンたちのいるばしょ。ここから北の山村にいるというのもありそうでは? たしか彼ら「山の翁」と呼ばれた人たちでしょう?」
「じゃあ、今のところオジマンディアス王たちのエジプト。ハサンたちの小さな山村、そして、獅子王のいる聖都にいる騎士団。でいいのかな?」
それぞれのいる場所を大まかに地面に石でガリガリと描いて線でつなげて見る。綺麗に三角形で、そしてそれぞれが山、都市、砂漠と守りに秀でているゆえに多くぶつかり合わないようになっているように思えてくる。
「そのうちの二つ。山村か、聖都どちらかに華奈がいるのだろう。現状、ハサンは私達がニトクリスさんを誘拐したのを不正だから歓迎してくれるかは未知数だし・・・聖都にはもしかしたら華奈を狙った騎士がいる可能性が高い」
「でもまあ、どのみち調べないといけない場所。とりあえず、聖都に行ってみる他ないかも知れないね」
『ああ、やっとつながったわ! みんな。無事!? 漸く通信が安定して』
行き先が決まったところで割り込んでくるカルデアの通信。オルガマリー所長の声にみんなホッとなりつつ笑顔を見せて返す。
「もちろん元気です!」
「オルガマリー所長。はい。私達も今から聖都に向かうところでして」
「ああ、それとねオルガマリー所長。変な話だがこの特異点では既に十字軍は敗北しているのだけど獅子王たる人物が今のエルサレム。そこを聖都としているというトンチンカンな状況でね。華奈くんの状況含めてなにか知らないかな?」
『は、はい!!?』
ダ・ヴィンチちゃんのいきなりの情報交換でぶっこんでくるものに素っ頓狂な声を出してしまう所長。うんうん。言っていることメチャクチャだけど事実らしいんだよねえ。それ以外にも続々と話される情報でパンクしそうな声が聞こえるのが面白い。
『う、うーん・・・いちおう、まずは聖都のほうね。まず観測できるうえで二つ巨大な魔力感知ができる。その一つがおそらく聖都。もう一つは、貴方達の行ってきたオジマンディアスの場所でしょうね。で、2つ目に華奈の方も無事観測はできているわ。ただ、存在証明のための所在がわかる。程度でモニターはできていないの。
冬木よろしく気配遮断の礼装とかで時折ごまかしつつって感じね。だから、そっちの行く方針に関しては了解。だけど、気を付けて。仮にも獅子王と名乗り今も無事。オジマンディアスが倒したというのにその名前を名乗っているというのはエジプトのファラオたちも早々に手を出せないのかも知れないし』
「もちろんさ。聖抜という儀式を見定めつつ華奈を探して、いなければ山村に行こうと思う」
そう言って通信を切り、僕らもまたスピンクスで聖都を目指していった。
「「・・・止まってください・・・!」」
運転中、急にアンと頼光サンの声が被ってスピンクスを止めるように静かに、よく通る声でみんなに伝え、そしてスピンクスを止めた。
「なにか・・・嫌な気配が・・・」
「ええ・・・エレナさん・・・出来れば、遮音の術などはありますか・・・?」
「な、なに?」
「すごい・・・気配がします。おぞましい何かがいる。そういう気配と英霊が」
アーチャーの目と海賊、武者の直感というべきなのだろうか。厳しい表情で遠くを見つめる頼光さんの視線を追えば確かに500メートル先に英霊らしき弓を携えた戦士と、それを守ろうと前に出ている人影、そしてその後ろには一般人と思わしき人が。
「・・・っ・・・! と、トリスタン卿・・・!」
マシュが消え入りそうな声で必死に両手で口をふさぎつつも話した言葉に僕もみんなも驚く。あの赤毛の戦士。それがトリスタンというのなら、円卓の騎士。華奈さんたちの同期で、高名な騎士の一人だ。
急いでスピンクスを影に。ちょうど小さな坂の下だったのであちらから見えないようになりつつ反射光対策をした望遠鏡と遮音の魔術をエレナさんがこっそり個人ごとにてくれたのでそれで様子を見る。
「・・・・・嘘でしょ・・・あれって・・・」
「最悪だ・・・・」
隣でエレナさんとダ・ヴィンチちゃんも見ているが何やらトリスタンを見て悲痛な顔を見せつつ悩んでいる。
「トリスタン卿・・・もしかして、獅子王のそばにいるのでしょうか・・・」
「一旦下がるべき・・・?」
「駄目だ。もし下手に動けば、気配を微塵でも感じさせればたとえ頼光がいても誰かが死にかねないほどだ。「ギフト」を持っている・・・おそらく、マシュ。君の中のギャラハッドが覚えている頃よりあのトリスタンはずっと強い・・・」
「多分、私達がこの距離に近づいて気づかれていないのはあのアサシンの英霊たちを追いかけていた直後と私達が見つけたタイミングが被って、しかもその上であのアサシンが手練れだからこそ意識を割いているからですわ。
でないと・・・音に聞こえし円卓の騎士の中においても数少ない弓の名手。その目に私達は見つけられていたでしょう」
逃げるのも駄目、助けに行くのも駄目だとダ・ヴィンチちゃんが止める。それほどに強いというのか・・・ギフト。祝福? なにかの後押しを受けているってこと・・・?
とにかく息を殺しつつ、坂を壁に、燃え残っていた倒木や岩と岩の隙間からそっと覗いてみる。
「さて・・・我が使命は情報収集と貴方達を捕らえるまで止まりません。故に、どのように後ろの方々を逃がすおつもりで?」
「・・・私が投降しよう。情けない首だがいちおうハサンの一人。故に、そちらの欲しい情報もあるかもしれん。その首と引き換えに一日その脚と右手を動かすな。それなら、いいだろう? その後で尋問でも拷問でもして話を引き出すがいいさ」
なにか、話している? そして、アサシンの方は何やらトリスタン? から後ろの人らを逃がそうとしているようだ。
「何たる高潔。そして、そこまでして後ろの人々への万が一を考えるとは。なるほど。素晴らしい。そして、価値ある貴方が来るというのであれば・・・」
「その返事、承諾と受け取る。ならば・・・」
「ええ。ですが、そのために抵抗されては困ります。手足の腱を切らせてもらいましょうか。そしてそこのあなた。このハサンを縛りなさい。逃げられないように念入りに」
ハサンの持っていたナイフで肘と膝の周辺。筋肉の腱がある場所を両手両足切り裂いて動きをできなくしていた。捕虜にする気だろうか。更には一般市民の一人に束縛もされてしまう。これでは逃げることもできないというもの。
「ぐっ・・・グォ・・・! これで、いいな・・・さあ、いけ! 同胞たち! 呪腕の奴らなら受け入れてくれるはずだ!」
「あ、ありがとうございます!」
なにか頭を下げつつ走り去っていく一般市民の人々。交渉が成立したのか。
「自ら動きを封じ、束縛にも応じた。お見事ですならば私も約定を守りましょう。そして・・・・尋問を始めましょう」
そう思ったのもつかの間。左手で弓らしきものの弦を鳴らした瞬間、逃げていた女性の首が切り落とされて、近くの女性の傍で血飛沫を上げて走ったまましばらくして倒れる。
「な、なにを・・・!!」
「ああ、私は悲しい。ハサンであろうものが私の得物を理解していないとは。両足と片手を動かせないことで私を封じたとはなんという慢心」
また弦を弾けば、今度は男性の一人が真っ二つにされて大地に臓物をぶちまけてただの肉塊に代わってしまう。
「我が妖弦フェイルノートに矢はありません。これはつま弾く事で敵を切断する音の刃。一歩も動かず、弓を構えずとも肉袋を立つ程度は容易いこと。さあ、ではここ数日前に太陽王の領地を出たという銀狼騎士。華奈はどこにいるのか。先程言っていたハサンの情報網。関係性からある程度知っているでしょう?
貴方の大事な同胞とやらが全部死なない内に教えてくれれば幸いです」
「おのれ・・・! 聖都の騎士が!」
「ほら、早く言うのは恨み言ではなく情報です」
あまりにひどい惨劇が数秒ごとに人の命が散らされる一方的な虐殺によって繰り広げられていく。ハサンの方も何もできずにそれを見ていくだけ。
ひどい。これをどうにかしたい。だが、そのなかで鳴り響く刃と刃がぶつかり合う音が響く。
「「!!?」」
「「「「「!」」」」」
それには全員が驚く。深くフードをまとった人物が剣を一振り持ってトリスタンのあの攻撃を防いだのだ。
「少しはやるようですね」
攻撃の標的をその剣を持つ人に変えるもその剣士は剣を軽く振りつつトリスタンに近づき、あの音の刃の攻撃を全部躱し、受け止めきっていたのだ。
「なっ・・・・ガァっ!!?」
そこから更に震脚を使い深い踏み込みから放たれる拳の一撃をトリスタンの土手っ腹に打ち込んで数十メートル遠くにふっとばして転がし、その間にハサンの拘束を解き、最後のおまけと言わんばかりに使っていた剣を鞘ごと放り投げてトリスタンの顔面にストライク。
「! っ・・・! 貴方は・・・!」
頼光さんたちでも危ないと思わせる相手を瞬殺したことに驚きつつも、次の瞬間にはハサンを抱えたまま僕らの後ろに移動しており、なにか羊皮紙? を巻いたものを転がしてから次の瞬間にはまたいなくなっていた。
気がつけば市民の人らもいなくなっており、死者は・・・5名ほど出てしまったけど、残りは全員あの人がハサンも一緒に助けたんだろう。
「な、何者なんでしょう・・・・・」
「わからない・・・あれもハサンの一人なのだろうか?」
「いや、あの移動方法と、あの弓の攻撃方法を知っている対処法はあの子でしょう」
起き上がったトリスタンが先程の剣士の投げた剣を持ち、しばらくなにか感慨にふけっていたのか? をしたあとに立ち去っていき、漸く緊張の糸が切れたところでみんなでどっとへたり込む。
急な状況が連続で起きすぎて何が何やらだ。
「・・・聖都の騎士と、ハサンは敵対状態のようだけど、民間人も容赦なく巻き込むとは・・・」
「現在の状況だと、それぞれがそれぞれに敵対している状態なのかなあ・・・」
「元。その羊皮紙にはなんて書いているの? それと、カルデアの方でも観測はどうなっているかしら。あのアーチャー、本当に離れているわよね?」
『ああ、あのアーチャーは君たちから離れて既に800メートル以上は離れている。この殺害は何の意味があるのか。十字軍の再現をしているというのなら悪趣味だけども・・・』
「ああ。了解エレナ。えーと・・・『聖抜の儀で会いましょう 華奈より』・・・さっきの剣士、華奈だったのか! じゃあ、剣を使っていたのはあのアーチャーに、トリスタンに悟られないため?」
「ああ、お母さん。無事で良かったです! ハサンを助けたということは、現在は山の翁のもとにいるんでしょうか?」
「その可能性は高いですわね。それに・・・先程のアーチャーの様子と、聖抜の儀。そして聖騎士の話・・・うーん・・・」
「とにかく、今は一度ここで隠れ過ごしてから夜明けになって動きましょう。あと、オアシスの人の発言を踏まえるとおそらく聖抜の儀は人を集めて行うもの。外部から人を招くものでしょうし、下手にそこでは暴れないでしょう。あのアーチャーが聖騎士だとしたら」
「エレナの言う通りだね。今日はこれ以上は行動せずに明日早く動くことで今日の移動できなかった分を埋めていこう」
その後は仮眠の交代を決めてしっかりと休んでいき、夜が明けたところでスピンクスに乗って僕らは聖都を目指した。
華奈、モルガン、アルトリア、モードレッドブチギレ案件。