転生愉悦部の徒然日記 作:零課
「ああ、ありがとうございます。強盗を追い払うどころか護衛までしてくださって」
「いえ、礼には及びません。こちらこそ聖都への方角を教えてくれてありがとうございます。皆さんはこの大所帯でどこへ向かうのですか?」
「どこへ。と言われましても聖都ですね。安全な場所はもうあそこしかないですから。侵略者たちがやってきて、土地が燃えて、聖地も奪われて・・・でも、獅子王様が非道なる十字軍を蹴散らして聖地を我々にも開いてくれたのです」
あれからトリスタンがいなくなって交代で仮眠を取っての翌朝。僕らは道中で出会った強盗に襲われていた集団を助けてもらいつつ話をしている。
「どこから来たのかわからない騎士様ですが十字軍を皆殺しにしてくれただけありがたいじゃないですか。そりゃあ、聖地に恥知らずな都を建てたと嘆く人もいますけど・・・神の教えは不変のもの。都がどんな形だろうと私達の祈りは変わりませんから」
「ええ。信仰と祈り。その心こそが神様も喜ぶべきものでしょう。その聖都でもまた皆様の教会ができるのであればよいのですが」
(十字軍は獅子王に蹴散らされたと。オジマンディアスの発言も含めてますますリチャード一世じゃないね)
(そうなると、やっぱり獅子王を騙る英霊がいるってことでいいのかしらね。でも、都を立てるほどの騎士。とかになると数は限られるわよ?)
「失礼、お姉さん。そうなると貴方達は聖都への難民ってことになりますが、えーと。一応、その聖都は異民族でも受け入れているんです?」
「ええ。もちろんです。獅子王様は誰も拒まないと聞いています」
昨晩のトリスタンの行動を思い出すとそうなのだろうか。という考えが頭によぎるが、山の翁のハサンからなにかの情報を引き出すための致し方ない犠牲と考えているのか。
華奈さんも敵兵相手には容赦のないことはするけど、民間人へは手出しをしなかったのでまだどうにも僕の頭の中では難民の皆さんの言う獅子王のイメージと僕のイメージの獅子王はどうにもズレが有るように感じてしまう。
「その受入のイベントが聖抜。というものですの?」
「はい。聖都では月に一度聖抜の儀という難民を受け入れてくれる日があるんです。その日までに聖都にたどり着けばもう心配はいらないとか。私達も最初は迷いましたけども、村が焼けてしまい・・・半分は私達、もう半分は山岳に向かいました」
「山岳。ですか?」
「はい。先程も言いましたが聖地に都を建てた獅子王様を信じきれない人もいまして。なのでその方々は山の民が住まう山岳地帯に移動しました。ですが・・・山岳地帯は既に不毛の地。この地で生きたいのなら聖都しかないと思います・・・」
なるほど。同時に聖都を拒む山の民。そこについているであろう山の翁。ハサンたちは聖都の騎士から見ると敵対者。なのかな? でも、そうなるといまのところ衝突の話を聞かないオジマンディアス王たちと聖都のほうは一体?
ちょっと疑問が増えたと思いつつも、少しだけ水と食料を分けてから先に進む難民の皆さんを見送って僕らは小休止をしつつ話をまとめてみようとなった。
「さてと・・・これで明確に3つの勢力がわかったわけだけど・・・元。君はどう思うかな?」
「そうですね・・・まず、おそらくですがファラオたちと聖都は不可侵条約、冷戦状態だと思います。理由としては先程の難民の皆さんの話や、ここで最初に出会ったおそらく華奈が助けたであろう人たちの方でもその2つの勢力がぶつかった話を聞かないこと。
もう一つは、その勢力どちらにも手を出す、関わっていたのが山の翁たちと思われる存在。多分、ニトクリスさんを誘拐しようとしていたのは彼女を人質にオジマンディアス王を動かして聖都を奪還しようとレジスタンス活動をしているからじゃないかなって」
「うん。私もそう思っている。なにせこの時代の山の翁といえば暗殺者の語源ともなったハサンたちの住む場所、お膝元だ。そこを獅子王に取られたとなれば看過はできないだろうね」
なるほど。其の上でレジスタンス活動をしているであろうアサシン教団は昨晩はトリスタンに襲われたと・・・
『うーん・・・多分、不可侵条約を結んでいるのは獅子王、オジマンディアス王どちらも互いに手を出せば痛手になる。ただでは済まないと理解しているからで、だからこそ第3勢力のハサンたちがどうにかファラオたち動かそうとしていた。
で、そこに華奈がいて今は正体を隠しているけど聖抜の儀を見る。特異点を生み出したと言われる獅子王を見定めたうえで考えを出さないといけないと。私としては可能なら最初から山の翁たちに協力を仰ぎたいけど、まあ、聖抜の儀を逃せば次は1ヶ月後。流石にそこまで長居はできないし彼らのあり方を見ていくしかないわね』
「そうですね。所長。それと、華奈さんの方は観測できました?」
『ええ。聖都に向かって動く反応が定期的に見せてくれるようになっていてロマニと良真二人で追ってもらっているわ。だから貴方達も気にせず向かいなさい』
「はい。ありがとうございます所長!」
ここで通信は切れて僕らも再度移動を開始。難民を受け入れる日。話だけ聞けばいい話だけど、うーん・・・?
「どんな場所でも、この状況でもいるんだね強盗は・・・」
「はい。ですがしょうがないのでしょう。なにせ、ここまで人が、聖都に希望を求めて荷物を抱えてきているのですし」
無事に白亜の白。美しい巨大な城塞都市。聖都にやってきたけど、早々に追い剥ぎというか盗賊に襲われてそれを対処したあとにみんなでホッと息を吐く。
「実際、都市に来る方は財貨を持ってくるものが多いので京の周辺にも山賊、野盗、そして鬼もたくさんいました。人の世ではもはやどこでもあることなのでしょうね・・・嘆かわしいことですが」
「海賊としてはまあ分かるんだけど、流石に私のマスター、カルデアの皆さんを襲うのはいただけませんね。今は大事な宝物ですから」
「頼もしいわねえ。武人と海賊の嗅覚と危機察知能力は。さ、みんな。これを被って」
周りにまだ襲う輩はいないかと確認する中、エレナさんが人数分の外套を持ってきてくれた。どうやらこの大量の難民が住む城郭の周りでちょっとしたお店をしている人もいるようでボロの外套だがスピンクスを作成する際に残っていた木材と果実で取引をしたとか。
「一応見た目だけでも英霊とバレる可能性を抑えないといけないからね。さ、これを・・・・・・は?」
「え。僕たち寝ていたっけ・・・?」
外套を被り、難民たちの中に交じる中、夜真っ只中だった空が急に快晴となっている。まるで紙芝居で次のページに移ったように突然に。
そして、それのあとに城門が開いて出てくるのは全身を白銀の鎧に身を包んだ重装騎士。皆ハルバードに大剣、大弓を持ちながら僕らを含めた難民たちを守るようにして囲ってくる。
「・・・・どうなっているの? いつの間に日が昇ったんだ・・・?」
この現象は僕らだけの錯覚では無いようで難民のみんなもざわつく中、それを鎮めるように騎士の声が響いた。
「落ち着きなさい。これは獅子王がもたらす奇蹟。『常に太陽の祝福あれ』と我が王が、私に与えた祝福なのです」
「が、ガウェイン卿・・・!」
「え、円卓の騎士で華奈さんの一番弟子の方ですか? まあ・・・」
その声にマシュは信じられないものを見るようにして声を殺しつつもつぶやき、それにつられて僕らもその筋骨隆々のきれいなブロンドと大剣を持つ騎士の言動に注目していく。
「ガウェイン卿だ! 円卓の騎士、ガウェイン卿だ! 聖抜が始まるぞ。聖都に入れるぞー!!」
彼の言葉と奇蹟という言葉。それに難民のみんなも沸き立っていて、この苦しい時間も終わるんだと嬉し涙を流すものまでいる。そりゃあそうだろう。この豪奢な騎士たちに奇蹟を見せられ、美しい城塞都市。貧しい暮らしも苦しい思いもしなくて良い。盗賊たちもこの騎士たちが追い払ってくれると信じるに足りる威容なのだから。
ガウェインの話は続き、そのたびに難民たちからの拍手と感謝の声が響いていく。話の中にあるこの都市の名前もわかったけど、キャメロット・・・それって、アルトリアさんがかつて騎士王の時代に治めていた城。そしてガウェイン・・・まさか、獅子王の正体って・・・
「ありがとうございます。ここに至るまで長く、辛い旅路があったでしょう。我が王はあらゆる民を受け入れます。異民であっても異教徒であっても例外なく」
その言葉にますます歓喜の声は高まり、異郷の騎士であっても輝きは本物だともてはやすものまでいる始末。いや、こんなひどい状況でこの言葉に喜ばないわけがないだろう。僕も同じ立場ならきっと同じことを考えていたはずだし。
彼らの歓声の渦の中、城門から更に出てくる純白の鎧とライオンをもした兜をかぶった細身の騎士が白馬に乗って現れ、獅子王と名乗りガウェインの言葉の続きをつなぐ。あれが獅子王・・・この都市の所有者。
「最果てに導かれるものは限られている。人の根は腐り落ちるもの。故に、私は選び取る。決して穢れない魂を。あらゆる悪に乱れぬ魂を。・・・・生まれながらに不変の、永劫無垢な人間を」
「・・・・・・最悪だ。あり得ない。こんなことが起こり得るというのか・・・マシュ、藤丸、元。みんなここから急いで離れよう。何が聖抜だ。文字が違うじゃないか・・・奴らは・・・」
「ダ・ヴィンチちゃん? でも、それでは華奈さんが・・・」
話している間に急に輝く強烈な光。それは僕らや難民を包むけど眩しくない、不思議な光だった。驚く中で、何名か、本当になんでそれがわかるか不明だったけど何名かだけ光っていない難民がいた。
「聖抜は成された。その三名のみを招き入れる。回収するが良い。ガウェイン卿」
「・・・御意」
光は収まり、光っていなかった難民の人たちを受け入れるように指示したらしい獅子王は護衛を連れて城門から都市、キャメロットに戻っていった。
ガウェインたちはそれを片膝を付いて拝手で見送り、すっと立ち上がると先程の柔和な好青年。美男子の顔から剣士の顔に変わっていた。空気の変化がわかる。あれは・・・まずい。
「皆さん。誠に残念です。ですがこれも人の世を後に繋げるため。王は貴方がたの粛清を望まれました。では、これより聖罰を開始します」
「「・・・え」」
僕とマシュがつぶやくのと同時に武器を構え、囲うようにしていた騎士たちが剣を振り下ろそうと、聖罰で都市に入ることを許された子供の母親を切り捨てようと粛清の一番槍を果たそうとする中。
「・・・・・・・ふざけたことを」
その剣は一人の女性に受け止められ、握力で握り壊された。騎士の一振りを片手でつかみ取りあまつさえ剣を破壊してしまう。人間離れしたその行いに粛清の空気から今度はその女性に視線が集まる。
が、直後に地響きが起きたと思えばまるで難民たちから騎士を遠ざけるように大地から岩の丸太が飛び出しては騎士たちを吹き飛ばしていく。
「! あれは、深山での技! ということは・・・」
「荒野を彷徨い、たとえ異郷の、異教徒の騎士であってもかすかな希望を求めてやってきた牙なき難民に刃を向け、母子を目の前で殺めて引き離す真似を目の前で・・・!」
その女性は刀を抜き、騎士たちを片っ端から。まるで剣舞を舞うように、一合も打ち合わせずに無人の場所で舞うように次から次へと殺して暴れ舞う。
「その刃は敵対者へ。守るものを脅かすものを砕くために向けるもの。これは『騎士』の行いではない! 私が教えた『紳士』として、『戦士』としての教えではない!」
突破口をあっという間に切り開き、軍馬、狼たち呼び出して難民たちに乗るようにジェスチャーをしつつも片手の太刀だけで騎士を殺しながらガウェインに迫る。間違いない。華奈さんだ。
「先生・・・! いえ、華奈きょ・・・・」
「この、大馬鹿弟子がぁああ!!!!」
構えていたガウェインの刃を刀で抑え、その間に放つ鉄拳がガウェインの顔面にクリーンヒット。
「ぐはあっ!!?」
あっという間に城塞に向けて吹っ飛び、騎士たちを巻き込んで倒れて鼻血を流す。
「マシュ、皆さん待たせましたね! とっととウチの子達に難民乗っけて逃げますよ! ハサンのみなさんが先導を、殿は、私と藤太様で行うので」
「うむ。任された。我らが東国の武者も非道なことは何度もしてきているが、流石に保護を餌に粛清は許せん。さあ、我が弓術をご覧あれ!」
そう言って英霊らしい戦士が飛び出してきて無数の矢を放っては難民を殺そうとする騎士たちを逆に仕留めていく。
「華奈さん! ああ、母は無事で嬉しいです! 殿は私も任せてください。この頼光も存分に」
「じゃあ、置き土産をしていきつつ逃げようか。エレナさん」
「もちろんよ。騎士相手。ケルトのときよりきつそうだけど、二人でなら!」
一方で僕らもスピンクスに乗って華奈さんの軍馬たちが駆けていく方向に逃げつつ、エレナさんの魔導書? が空中から魔力の弾丸と光線を撃ち、アンさんが騎士たちの集団目掛けて狙撃を開始。射程内なら何度でも跳弾するその銃弾は騎士の集団の中で無数に跳ね回っては鎧や武器を壊し、殺してと多いに足止めに効果を発揮していき、被害者は出るものの包囲を砕いて騎士から逃げ切る脚を用意してくれたのが功を奏してほとんどが逃げ切れている。
倒れている騎士も普通ではないようで倒れると光の粒となって消滅していく。生身の人間じゃない?
『おそらく使い魔、召喚された騎士に近い。形としてはメイヴの召喚していたケルト兵士と似たりよったりだろう。ただ、こっちは組織化されていて軍団戦もできる。みんな気をつけて逃げ切ってくれ!』
「くっ・・・軍を二手に分けよ。4割は難民へ。残りはすべて華奈殿への追撃部隊とする! 残りの英霊は始末していいがあの銀髪の騎士、華奈殿は生け捕りとする。それを守らなければ我が王からの粛清が来ると思え!」
ガウェインも軍を分けて僕らと華奈さんたちを追いかけるようで、ガウェインは華奈さんの方に。そこからは華奈さん、頼光さん、藤太さん? と分かれつつ、山間の村を目指すことになった。
「・・・ガウェイン。戻りました」
あの苛烈な追撃戦の後、華奈たちを捕まえきれずに聖都へ戻り、玉座の間に来たガウェイン。その右頬には腫れ上がった跡があり、華奈に殴られた証が痛々しく美丈夫ぶりを汚していた。
「戻りましたか兄上。して・・・師匠の方は?」
「申し訳ありませんが逃げられました。深山を使い、猛獣の巣に誘導して騎士たちを戦わせて追撃の足を鈍らせるなど、相変わらずの撤退術で・・・」
「そうか・・・獅子王。兄上・・・いえ、ガウェイン卿への裁定はどのようにしましょうか」
玉座でその話を聞いていた獅子王と、その補佐の立場にいる真っ黒な鎧を身に包む騎士でありガウェインの弟のアグラヴェインが話をふると獅子王は立ち上がる。
「ガウェイン卿。あの方を取り逃したこと以外での被害は?」
「はっ。粛清騎士100名、軍馬を20頭。失い、そして難民を900名取り逃してしまいました・・・陛下の威光に泥を塗ってしまい・・・いかような罰でも受ける所存です」
「そうか、では頭をあげよ。ああ、膝は付いたままでいい」
そう言って獅子王は指先をガウェインに向け、瞬間、光の槍がガウェインを吹き飛ばし、苦悶の声を上げる間もなく玉座の間から城の壁を壊れるほどの勢いで空を舞った。
「あ、兄上! 兄上! 生きておいでで・・・・・・は、はぁ・・・生きているか・・・おい、医者を呼べ。兄上を治療せよ」
ふっとばされたガウェインは城の壁は愚か、城壁まで吹っ飛んでしまい、壁に叩きつけられても尚生きているようで血だるまになってこそいるが死んでない内容だとアグラヴェインはぶち抜かれた城壁から確認して急いで医者を呼ぶように手配していく。
「私はガウェイン卿に死の一撃を与えた。これを受けて生き延びたことで赦しとする。異議のあるものはいるか?」
獅子王は兜を脱ぎ、その美しい美貌を見せつつもまるで氷のように無表情のまま告げる。今の行いに異議はあるのかと。
「・・・王の裁定に異論などありましょうか。それに、ガウェイン卿にも直にみてもらうことで確信しました。華奈殿は生きている。そして、おそらく我々に挑みに来るだろうと」
「私も同じ意見です。師匠は・・・華奈殿は向かってくる。そこで我々で招き、今度こそ護り抜くために万全を期していきましょう」
「ああ・・・それに、太陽王にも既に目をかけられているようだが、こちらにあの方がいれば決戦で十分に蹂躙できるようになるであろう。ガウェインが取り逃がすほどの脚、そして難民の逃げられた数を見れば銀嶺隊もいる。あの部隊はギフトを与えた貴殿らでも2部隊で当たらねば勢いは止められないであろう」
この言葉にトリスタンもアグラヴェインも頷く。オジマンディアスとはいずれ雌雄を決する。今の時点でもそれはできるが被害が出かねない。その不安要素を払拭するうえでも、自分たちの目的のためにも華奈という存在は必須。
生前でも華奈の部隊は円卓の騎士3部隊を壁として漸く勢いが鈍るほどの激しい攻めを誇る部隊。かといって守りに関しても支援にも隙がない最強の部隊。スフィンクスが相手だろうと問題なく餌にしてしまうという確信があるほどには。
「湖の騎士に追撃を任せつつ、今は決戦の準備をせよ。あの方を取り戻し、今度こそ失わせないためにも・・・誰の手にも渡すな。良いな」
「「ハハッ!!」」
獅子王の言葉は総意であった。もうあのような、抑止にさえ抗い遺産まで残してくれた偉大な戦士をもう傷つけさせない、誰の手にも奪われないために傷つけてでも奪い取る。矛盾しているが、悲痛な思いを胸に騎士たちは任務をこなしていくことになる。
多分カルデアの事を気にかけなくて良いのならなストーム1を呼んでエアレイダーで爆撃祭りをしていたくらいには華奈も怒り心頭。
赤子から面倒を見て家庭教師をして、妻を見つけて結婚して幸せな家庭を見届けていますのでそのガウェインが子供の目の前で戦士でもない普通の母親を殺そうとするのは、ねえ。