転生愉悦部の徒然日記 作:零課
「うーん・・・この感じ。いやはや、倒しても倒してもきりがない。大丈夫かみんな」
「はい。胤瞬さんのおかげでだいぶ楽です」
「しかし・・・魔の種類が明確に変わってきたと言うか。質が高くなってない?」
胤瞬さんや武蔵ちゃんの言う通り。今までよりも大型のエネミー、魔が増えてきているし、何よりも明確に鬼種と思われる存在、そして先程は大百足に大蛇と日本神話、怪物退治の伝承に出てくるようなものがお襲い来る。
撹乱、支援に秀でている段蔵に小太郎がいなければ剣豪の二人が剣や槍を振るい斬り殺すことは出来なかっただろう。
「しかし、さすがはカルデアのマスター。現代の。いえ未来の銃でしたか。遠距離狙撃もできる速射銃など大変素晴らしいですがその反動も抑えつつの支援。助かりました」
「はい。私も指や腕に短筒などで速射は出来ますが、それに匹敵するほどの連射と威力。ぜひ取り入れたいほどです」
「いえいえ。連射銃の扱いは藤丸がすごいですし、武器の知識や経験はあっちが上です。合戦経験もしていますよ」
「あーそういえばローマ。そこでも戦っていたようだしね。ほんと、カルデアのマスターたちは私よりも戦争、合戦経験は多いんじゃないかしら?」
「はははは。頼もしいことよ。実際、この山間の中でいつでも襲い来る怪異妖魔の類に対応できる。我らに指示を飛ばせるのは安心できる」
英霊たちからそう言われると嬉しくなる。とはいえ、まだまだ小さな鬼の類はまだまだ3発撃ってようやく当たるほど。ドゥンケルの装弾数に助けられている。
後は大概の奴らは数発で殺せる。そうでなくても大鬼相手でも足止めができるストッピングパワーがありがたい。ほんと、ゾウのサイズの怪物や巨人サイズの変える人間、重装鎧を砕く用に作られている武器はスゴイ。
「ふぅ・・・でも、本当に私達で良かったかも。侍衆500人とはいえ、流石にあの巨大な妖魔たち相手には被害は免れないでしょうし」
「はい。僕ら英霊3名。英霊級の武蔵殿。そして歴戦のマスターである元殿がいるからこそどうにかなっているようなものです。この時代の戦、島原の乱は城攻めとはいえ兵糧攻めが後半は主でしたし、このように視界不良、強靭な怪物はいなかったでしょうし」
「まあ、流石に天下泰平になりつつある世の中でああも危険な怪物との経験を多く手にしている荒武者が大量にいても困るしのお。火種が残っていそうと勘ぐる。
しかし、7合目まで登ってきたし、その山の先で英霊剣豪の気配も感じる。もう少しだ」
「回復、解毒の魔術は用意しているので皆さんもどうか遠慮せずに頼ってくださいよ」
英霊剣豪以外の妖怪、怪異の気配もするが残り少ない。怪我なく、無事に相手とぶつかるときに十全に近い体力を残しておくように私の支援が大事になるだろう。
無理はせず。でも全力で狙撃と指示に当たらねば。
「あらぁ。そろそろ逃げよ思てたんやけど、お侍さんらは足が速いようで」
「子鬼。だけど美しいわね。そして嘘でしょうに。こうも目立つ場所に立っていて」
山を越えて下り、その先にある広間。そこに経っていたのは黒髪の姫カット。おかっぱ? な髪型で二本の角が額から生えている。きれいな着物をはだけてなにかの布で胸を隠し、華奢な体だけどその気配は鬼種のなかでもまず巴御前よりも上の部類。
「そんなことあらへんよ? 鬼は嘘はつかないさかいに。ふふふ。だけど、そうやねえーあんたさんらと遊ぶのも、ま、ええやろ。どのみち殺戮が宿業の英霊剣豪。餌がこっちからやってくるってことで」
「みんな気をつけて。大英雄に近しいほどの魔力量だ」
「ええ。鬼の中では小さいですが、その存在感は山の中で出会った大鬼よりもずっと濃く、強い・・・! そして・・・また夜の帳が下りて赤い月が・・・!!?」
「英霊剣豪が現れるときはおおよそこうなるようね」
とにかく油断できない。あちらはカラカラと笑い気軽に構えているが、その次の瞬間には誰かの首を括りきっていてもおかしくない。
いつ仕掛けるか。そう考えていると遠くから声が響く。
「者共! かかれぇい! 妖怪変化、怪異がなにするものぞ! 我ら島原の戦を切り抜けた猛者として斬り伏せぇい!!」
柳生殿の侍衆が別のルートから合流するようにして向かいつつあちらもぶつかった妖魔たちと戦っているようだ。
武具がぶつかり合う音や怒声が響き渡り、しばらくして隊を二つに分けたのか百名ほどがこちらに合流してくる。
「貴様が英霊剣豪の一人か! ぬぅ・・・鬼とは・・・! だが同時にこの怪異の主としては納得がいく」
「せやねえ。いやあ。勝手に頭領になってしまって。どないしよかおもてなあ。投降すれば赦してくれるん?」
飄々としたまま鬼の少女と武者が向かい合い話し合う。が、その軽い態度に武者が怒り刀を抜く。
「聞いておれば。天下の松平領は下総の地を汚しておいて投降しようが済まされることではない! その素っ首たたっ斬ってくれるわ!」
「おお、怖い怖い。なら、殺そか」
武者の振り下ろした刀は、その鬼のか細い手で軽々と砕かれ、驚く間もなく臓物を素手で引き抜かれてしまう。
「あ、か・・・な・・・ぎゃぁあああああああああ!!!?」
「おお、よく響くねえ。叫び声が五月蝿いわぁ。さ、残りの武者さんも相手したくないけど、まあ、英霊剣豪だからねえ。殺さないと・・・いけんねえ?」
軽く話しながら素手で、足で武者の首をちぎり飛ばし、片手を果実をもぐように軽く千切り、その上でちぎった腕で武者の頭を鎧ごと叩き潰す。
鬼の剛力はここにあり。見た目や背丈で騙されてはいけない。その頭の角は人を超えた種族。怪力を持つ鋼鉄の肌を持つ種族というのをありありと見せていく。如何に戦場を切り抜けた荒武者たちといえども、種族の差というのを見せつけられては流石に怯み、恐怖するものも出てきてしまう。
急いでドゥンケルを構え、弾幕を張って鬼の少女に飛ばす。
「っとと・・・・これは・・・効くねえ・・・ふふふ。あの武者さんらいじめるのもいいけど、こっちのほうがええかあ?」
「武士の皆さんは転進して迫ってきている妖魔の類をお願いします! 小太郎くん、団蔵さんはお願いしていいですか!」
「「承知!」」
「行きますよ胤舜さん、武蔵ちゃん。鬼退治だ!」
「応よ! 可愛い鬼さんを切るのは忍びないけどその強さはまさしく鬼神、怪力無双! 宮本武蔵推して参る!」
「節操も仏僧の端くれなれど、法力で鎮めるよりはこれでやるほうが良さそうなのでな。宝蔵院胤瞬。参る!」
「うふふ・・・滾るわぁ・・・なら、名を名乗らないとねえ・・・酒呑童子・・・いや、我が忌み名。衆合地獄。参りますぅ」
酒呑童子。頼光さんや金時と因縁深く、そして日本の鬼の代名詞であり最強格! ますます持ってここ倒さないといけない相手だ。外の武者たちでは万の軍勢がいようとも対処できる相手じゃない。
結界を展開して余計な相手は入らないようにしつつ、4人だけの戦場を作る。さっきまでの赤い月がある場所ではない、清らかな河原。
「ほぉー・・・血塗られたウチ等にまあー似合わん場所を。ま、ええわ。そぉら」
「はぐっ! ぬぅ!」
「ほっと。あ、それ」
「おぉっと!」
軽く腕を振るうだけで武蔵ちゃんをふっ飛ばし、構えた剣で胤瞬さんのやりをふっとばす。
「うふふ。ほれほれ。さっきの武者よりはいいものを持っているようやし、色男さんが用意したこの場所。頑張らないとねえー?」
まるで遊んでいるように自由で、自分でもわかる型もへったくれもない。ただただ殴る。拳を振るうだけ。
「がっ! ぬぐっ!!」
「ふぅっ・・・ぬぅん!」
だけど、その一撃がひたすらに重く、早い。そして何より型と呼べるものがないので動きから予想できるものが無いものもある。しかも巴御前よりも小柄。少女と呼べるほどの細く小さな体なのでその力も相まってより高速で振るわれる手足。
自分の背丈ほどもある剣を持って独楽のように回ったりとするだけなのに、胤瞬さんをふっとばす剣の竜巻。実に厄介だ。
「ふっ。たしかに厄介。だが、拙僧がいるゆえにここは任せろ! 武蔵。我流、無手への相手。よく見るが良いぞ! 『朧裏月十一式』! そこか!」
ただ、その流れを断ち切るのは胤瞬さん。彼の宝具。胤瞬さんが極めた十文字槍を用いた究極の槍術。十一の式目、構えを持ってあらゆる敵、技への対応を可能とする無双の槍術。その絶技は神仏にも達すると言わしめる技を昇華した宝具。
その技は酒呑童子の攻撃を躱し、いなし防ぎ、必殺の一撃を放つ。
「うおっと! おぉーう。怖い怖い。鋭い槍捌き。危うく首を根元からバッサリやわぁ」
しかし相手も日本最強の鬼。そう簡単に死ぬ相手ではなく首の一部を切り裂かれるも致命傷に至らず。たとえ英霊剣豪の宿業がなくても鬼種の生命力ならいずれ塞がるだろうほどの傷。
だけど、たしかにその槍は届いたのだ。
「最初にあったときからおもしろそう思ってたんやけど、これはいいかん・・・・じ・・・か・・・は・・・っ・・・!」
胤瞬さんの槍にも華奈の渡していた清めの懐刀を混ぜ込んだ新たな槍。宿業は切れず。胤瞬さんもまだその位階には届かず。でも、支配を剥げずとも、宿業は途切れずとも、支配しているあり方を捻じ曲げる淀みはすすげる。
「やるぅ! さすが胤舜殿! 私もちょっとこれ破れるか不安な技なんですけど」
「身内での殺し合いは流石に今は勘弁だ! さて・・・どうなる・・・?」
「かはぁ・・・は・・・・はぁー・・・あースッキリ・・・悪酔いしたときに吐いたような気分やわぁ。爽快爽快。ふぃー・・・酒でも飲みたいわぁ。んっんっ・・・ぷは」
淀みが血とともに流れてしばらく後にまるで憑き物が落ちたような顔で持っている剣の尻についている瓢箪から酒を飲んで一息ついて笑顔を見せた。が、その笑顔は変に固いものではない。
「ふぃー・・・早速やけど、あんたさんらおおきにね。ウチも英霊剣豪とか変なのであり方を変えられて。面倒やった」
「そう。酒呑童子ですらも・・・ね。ねえ、貴女も味方に。いえ。せめてこんな事をした奴らを吹っ飛ばせるまで手を貸すことは出来ないの?」
「できればウチが一番そうしたいんよ? でもむりやわぁ。みんなまず英霊として召喚されて、英霊剣豪としての術式を、宿業を埋め込まれた。もう、ウチの霊基、体はとうに死んでいる。たとえ宿業を切っても、この結界が切れれば令呪なりで再起動もできるはず。
巴御前はん。彼女もそう言っていたんやないの?」
「うん・・・やっぱり。何かあってもそれに対する備えはあると・・・」
わかってはいたけど、やはり相手は備えが分厚い。普通なら概念さえを捉えて切れる剣士なんてそうそういないはずなのに、それを考えて幾重にも策を弄している。本当に手強い。
どうしても彼女を倒さないといつでも爆発しかねない爆弾を残すということと同義。
「なら、やるしか無いってことね。まあ、しょうがないし私にとってもこれほどの鬼と戦えるのは値千金!」
「うむ。まさしく鬼と戦える。拙僧の腕を試すにはもってこいな相手よ。これ以上そちらもあり方を歪められぬよう我らに討ち取られるが良い」
「ふふふ・・・まあ、せやねえ。お礼として死ぬのはごめんやけど、まあ、逃げはせえへんよ。ウチもまだまだやりたいからねえ・・・遊んでもらおうか」
再び火蓋を切る戦いは、まさしく激しいぶつかり合い。英霊とはいえ、人と鬼の戦いはとてもではないが武器がぶつかり合うような音とは思えない。
重機が家を解体したり、ショベルカーの先が鉄骨に当たるような、あるいはカッターの回転ノコギリが金属を裁断するような激しい音が響き、ガキィ!! バギッ!! と鍔迫り合い、拳のぶつかり合い一つを持ってしても凄まじすぎる。
「あはははは!! ああーええなあ、やっぱり自由な方がええ! 好きに暴れる方が良いわぁ!」
「全く、我が槍術を持ってしても時折歪みが出そうなほどとは自由すぎるぞ酒呑童子! これは枷を外してしまったか! ほっ!」
「ええ。でもこれがかつて日の本の、京の武者たちが戦った鬼! それと打ち合えるのは感無量! はぁっああ!!」
槍を踏み台に空を舞い、あるいは大地を這うようにしながら剣戟を繰り広げる。あちらにとってはどこまでも戯れ。殺し合いすらも自分の楽しい気持ちを満たすものに過ぎない。
気まぐれに殺すし戦うし、それで死んでもそれはそれで。と考えきれる。まさしく人ならざるもの。巴御前は人として振る舞い、武者としての武芸と鬼の血を持って振る舞うハイブリット型と言える戦いだった。
しかし目の前の酒呑童子はまさしくしたいことをするだけでそれがド級の武技となり、相手を殺す鋭い刃となる。戦士が無駄を削ぎ磨いた技術の速度を彼女はただその気まぐれで振るえる。鬼という生まれただけで強く、息をするだけで、ただ月日を過ごすだけで強くなれる圧倒的存在としての振る舞いとシンプルな暴力を振る舞う。
「むっ・・・! ふっ・・・! 武蔵、託すぞ!」
「見えた! やぁああああ!!!」
ただ、それ故に一級の剣士たちはその隙を、その動きの粗を逃さない。胤瞬の守ノ型が酒呑童子の隙を作り、その間に武蔵が二刀で振る袈裟懸け。
酒呑童子の肩と胸を切り裂き、二本の大きな斜めの傷。鬼でも死は免れない、英霊剣豪なら復活するであろう傷だが、宿業を切ることが出来たのか。酒呑童子は動く気配がない。
「ふふ・・・あ・・・ぁ・・・きく・・・ねえ。これは・・・そして、うん・・・もう、ウチも限界やわぁ・・・」
ただ、首を切られて尚話せたという逸話を持つ酒呑童子。心臓も、霊核も宿業も切られても、まだ話せるらしく座り込んで血を吐きながら色気ある微笑みを向ける。
「なぁ・・・お強いアンタさん等に。ちょっと切って欲しい相手があってなあ。この般若湯あげるさかい。受けてくれへん? 毒はないよ」
「・・・鬼は嘘をつかないというが・・・一応、だれをだ・・・?」
「ライダー・黒縄地獄。あの牛女よ。ふふ・・・あの女、ウチは嫌いじゃないけど、今はちょっとね。うちのように開放してあげて欲しいさかい。殺し殺されの間柄だけど、坊主のを愛する女としてはま、気をかけたいのん」
「それなら。ちゃんと倒すから問題ですよ。カルデアにいる頼光さんにこれ以上悲しませるのをさせたくないですし。彼女と、金時と、そのマスターの華奈が悲しみますし」
「そっか・・・カルデアにはあの二人がいるんやね。じゃ・・・ふふふ。ウチが余計な気を利かせんでも良かったか・・・鬼だって言うのに、最期にこんな縁があるから・・・ま、良しとしておくかぁ」
最期に優しく目をつぶり、標準サイズの瓢箪を残して死んで退去した酒呑童子。最初の嘘の振る舞いも、英霊剣豪としてのあり方を歪められた結果。そして、今の願いは本心だとしたら。
自分を殺した相手にも情を持つ。鬼の頂点だけど、不思議な鬼だった。
「さらば。酒呑童子。鬼の依頼というのは面妖なものだけど、応えてあげるわ」
「うむ。かの京の守護者。妖魔退治の伝説の戦士。しかとそのあり方をこれ以上汚さぬよう。気張るゆえに貴殿にもどうか安らかな眠りを」
今回は酒呑童子。彼女も大概きつい尊厳破壊でしょうねえこれ。