転生愉悦部の徒然日記 作:零課
「うーん。こんな大きな城で褒美を貰える機会も手に入るって。やっぱり元はいいことを柳生のじいさまに言ってくれたわ! こーんな機会そうそうないもの。うどんいくら食べられる分の金子をもらえるのかしら!」
「む、武蔵殿流石に声を控えて。とはいえ、ええ。今回の功績。真比類なきものかと思います。戦をくぐり抜けた経験のある武者を軽々と屠る酒呑童子の討伐。その最後は武者たちも見ていますし、なにせあの僅かな時間で被害者が出るほど。
それを抑え込めたのは見事な武功です」
「いやー・・・どうにか無事ですんで良かった。本当に。大真面目にあの鬼は多分英霊剣豪の中でも一番人に仇成す存在としては怖いし」
あの戦いで見事に酒呑童子、その周辺に取り巻く怪異を倒したことを見事柳生さんに見てもらい、武者たちの手当をしつつ下総への帰還。一夜の休息を取ることに。
その後江戸の剣豪であり今回の下総の救援の総大将柳生但馬守殿が武功を認めたのでその褒美を配るのとなにか話があるようで今回は土気城にお邪魔させてもらった。
「えーと。僕も来ていいの??」
「いやーたぶんキミは一緒にいたほうが話がすすむというか」
「それで私もいるのはなんというか、護衛。という感じがしていいですね」
その付添に胤瞬さんは「武功を立てたとはいえとどめを刺したのは武蔵殿。戦場を整えたのは元殿。拙僧もやりをふるったが一番手柄は二人。それにまあ、坊主に余計な金子を渡されて余計な欲が出るかもしれぬし拙僧は城にはいかない。どうか藤丸殿たちと楽しんでこられい」ということで宿で食事を取りつつ休息。
藤丸とマシュは入れ替わりなのと、まああの姫様なら絶対にいたほうがいいという判断だ。
「ふふふ。皆さん楽しくご歓談中ですね。英霊剣豪及びに怪異の討伐お見事。そして、ようこそおいでなさいました我が土気城へ!」
早速と言わんばかりに襖を開けて笑顔を花開かせながら座り込む清姫。今日もきれいな笑顔で藤丸に甘え、マシュは少しムッとしている。
「ひめー! 近うございます! もそっと。もそっと離れてくださらないと駄目ですって! 私が殿に怒られちゃいます!」
「良いではないですか。江戸の精鋭たちをも寄せ付けず、殺しもしてしまうほどの鬼と怪異を打ち倒した戦士たちへの敬意を払うのに何が駄目なのですか。それでも武家に仕えるものですか貴女は!」
「むぐっ・・・! た、確かに拙者も彼らの強さは聞き申しておられますがそれはそれとして家柄というものがですね・・・!」
さすが恋になると一直線の火の玉美少女な清姫。凛とした態度で部下の方にピシャリと論破するも食い下がる。
「姫様。それも道理ですが我儘を申されても部下も困りましょう。部下の諫言を聞くのもまた武家の娘としてすべきことぞ」
そこにすっと現れるのは柳生殿。その言葉に清姫も少し藤丸から距離を取って柳生殿に頭を下げた。
「・・・柳生殿は厳しいですね。ですが私も確かに武家の娘であり姫。その言葉はしっかりと受取りましょう。
では改めまして皆様。此度の怪異討伐。及びあの酒呑童子に近しいと思われる鬼の討伐。下総に住む一人の女として感謝申し上げます。本当に、ありがとうございます。
褒美は後で腰元からお渡ししますので、どうか固く構えずにしてくださると嬉しいです」
「こちらこそ武家の働きをさせていただけるとは至極恐悦。そして成すべきことを成せて安堵の中に姫様のお言葉真染み入ります」
「ははっ。この浪人には有り余る褒美。ありがたく頂戴します」
「右に同じ」
「私も右に同じ」
「本当に感謝申し上げます。清姫様」
みんなで頭を下げるが、なんというか城の主とその側近がいるという状況は堅苦しいし息が詰まる。こういうときに場を和ませたり、あるいは道理や正論を話しつつもうまくできる華奈が羨ましい。
「本当に城下町の皆様も、そして休まれている武者の皆様も安堵し、助けられ、あるいは頼もしき戦士の存在に負けられないと奮起するもの。気を入れるものと様々で良き刺激になっていると思われます。
そして、その上で実は今日あなた達を呼んだのはこの論功賞与のため以外にももう一つございます。今城下で噂になっている話を知っていますか?」
「確か、清姫様に文が届いたというものでしたよね。ですが・・・」
そう。実は休んでいる間に清姫様に届いていたという手紙。武者500人が鬼狩り、怪異を討ち果たそうとする間に届く文というのもまあわからなくはない。が、近況報告や相談は城の主。清姫様のご両親に通達すれば良い。そもそもそういう話は柳生殿がここに来る時点で届けているはず。
この状況下で清姫様という幕府の将軍家の血を引く女性に届くものとなればある程度絞れるわけだが中にはろくでもない可能性もあるわけで。
「はい。中身は大変痛ましいものでして。しかしこの文のために多大な危険と関係者を巻き込む悪戯をするとは思えない。故に、本気で私の命を狙っている存在がいるのでしょう。正体定かではない賊が。
我が城には多くの家臣が、侍がいます。そして島原の乱を経験した但馬様の精鋭480人も目を光らせています。
しかし、その中でこれを言うべきではないでしょうけど、不安で仕方ないのです」
「それは仕方がないでしょう。神君徳川家康公が開いた天下の徳川幕府。その縁者に当たる姫君をこの世の中で襲うなどどれほどの不埒ものであるか。そしてその覚悟を持つものかと考えるのは」
「そうね。戦乱の世でもそれを行うのは至難の業。だからこそ、いえ、より今の時代の中で天下の姫君を狙うということをなそうとする覚悟と力を持つと思われる相手。姫様なら不安に思って当然よ」
「だからこそ、ええ・・・皆様にお願いします! 藤丸様、マシュ殿、武蔵殿、小太郎殿、元殿! どうかこの清姫を賊の凶刃からお守りくださいませ!」
うーんそう来たかあ。いや、なんとなく話は読めてきたけど、傭兵まがいの扱いから一気にお姫様の護衛ってぶっ飛び過ぎじゃないかな? 流石に信長に秀吉、秀長でもここまで一気にした例はほぼないと思うんだけど。
「ま、お待ち下され清姫様! いくら姫様のお気に入りとはいえ酔狂にもほどがございますぞ! 腕が立つとはいえ下々、しかも浪人ですら無いものもいる! そんな奴らを城にあげるだけでも狂気の沙汰といいますのに、護衛など!
平時であればお家取り潰しの可能性もありますぞ!!」
「!!!・・・・」
「ほう。お家取り潰しと。平時であればそうであろうな。だがしかし今は怪異はびこる下総。既に里が二つも賊か怪異かもわからぬものに皆殺しを受けている状況。この災禍の時であればまず腕が立つもの。そして彼奴らはさほど欲もない。ならば身分の良し悪しは二の次よ。
彼奴らの腕はこの但馬が泊を押す。そして、我が配下達にも彼奴らの武功、此度の戦いぶりを褒め称え敬意を払うものがいる。其の上で聞こう。姫の采配と私の見立てを疑うか? 松平の渦中は」
「あのー・・・僕からもいいですか?」
「はい。どうぞ藤丸様!」
おや、珍しい。この状況で藤丸が手を上げて意見を言うとは。
「えっと。華奈さん。あ、私の師匠みたいな人だけどね? その人から学んだ藤堂高虎とか、立花宗茂。彼らのような身分がもともと低いけど更に没落、お家取り潰しとなっても武功を上げて今の大名家になっている人達もいるのに、この状況下で武家がどうとかで、立場で姫様を守れると家中さんは言っているのかなって」
「左様。彼らも戦国の世、災禍渦巻く戦乱の中で武芸と人徳、知略をもって成り上がった。今は下総もすべてが同じとはいえないが災禍のとき。この上で、これ以上の采配を言えるのか?」
「い、いいえ・・・・大変失礼いたしました。どうか皆様、姫様をお願いします」
うーんまさかの強きの論破。そして。うん。彼の存在のためだけに家康が江戸城をバリアフリー化して、現在の将軍家光まで徳川家三代にわたって多大な信頼を得ていた藤堂高虎も最初は小さな没落した土豪の生まれ。関ヶ原後に家を取り潰されるも復活できた立花宗茂を出されたらそりゃあ何も言えないかあ・・・
とりあえずなんやかんやと柳生殿の助けもあって無事に護衛の任務成立。いや~助かった。そして護衛ということでいちゃつけると言わんばかりに早速清姫様。藤丸に猛アタックを開始したぞ。
「はぁー・・・これが異国の種子島。ここまで進歩しているとは! 流石です! えーと。もう一度教えてもらっていいですか? 手取り足取り」
「は、はぁ・・・えーと・・・ここをこうして、そうそう・・・」
あれから藤丸の持っているM9レイヴンの射撃練習を清姫様は藤丸とつきっきり。そりゃあもう藤丸の鍛えた肉体が清姫様の背中を支えつつ手を重ねてとしながらの練習がずっと続いていた。
最初は武蔵ちゃんとの武芸の練習だったけどあの護衛依頼の際の押し問答で出てきた立花宗茂。その妻誾千代は女性の鉄砲隊を揃えて城の防備に回していたという話から是非銃の扱いも習いたいとより密着。
マシュがヤキモチ、もとい焼きマシュマロになっているので私達がなだめつつ過ごせばそろそろ夜になるという時間に。
「藤丸殿!」
「うん!」
「きゃっ!? あ、あわぁわあああああ・・・・♡」
「そこか!」
そろそろ夕餉に。となる頃合い。小太郎が気配を感じてクナイを投げて藤丸の盾になり、藤丸はすぐに清姫様を抱きかかえて急いで庭から城の中にダッシュ。清姫様は夢心地というかオーバーヒート。
私もドゥンケルで応戦射撃をするも、ひらりと避けられて岩の上に立つ小柄な少女。すっごい過激な網の衣装と黒い布で隠したその姿に驚くも、背丈からして最初に藤丸たちと応戦した忍者だと少し記憶を探れば出てくる。
「者共、出会い出会えい!! 賊でござる! 逃がすことなくこの場で討ち取れ!」
「敵英霊剣豪と思われる存在が来ました! 清姫様。先輩、私の後ろに!」
「うわー・・・なんかあんな感じの衣装で踊って歌った歌手が日本にいたような・・・わっとと!」
「日の本であのような破廉恥な衣装を!? わ、私もあれなら藤丸様を・・・?」
「やれやれ侍というのはいつもうるさくよく吠える。同じ顔をして、つまらぬものよな」
「なんだと、我らを愚弄するか!」
「ならば、これを見て同じ顔と気勢をあげられるか?」
「なっ!? 何だどこからこの大蛇が・・・っ!?」
そのくノ一と思われる女性の英霊剣豪はすぐさま影から大蛇をだして侍たちに襲いかからせようとしていくが、藤丸のレイヴンと私のドゥンケルがそれを拒む。城の壁や柱に傷がつくのは勘弁して欲しい。代わりに影の大蛇や怪異たちをぶち殺して、砕いている分火縄銃よりも威力が落ちてめり込んでいる程度だから。
「皆さん! このくノ一の相手は私達がします! この人相手だと数の有利が意味をなさない!」
「はい! この相手は私達が! 皆様はどうか周りに怪異が隠れていないかを調べつつ離れてもらえれば!」
「賊は未だいる可能性があります。これが陽動で仕込みかもしれない。どうかここは僕らに」
「ぬぅ・・・わかった! しかしだ! 貴殿らが倒されれば我らが打って代わりあの女を討つ。それでいいな! 武運を!」
「話し合いは終わったでござるか? まったく。もっと殺せたかもしれぬのを二度も防ぎよってカルデアのマスターたち。そして、ほう。一度は背を切った風魔の小せがれがまだ生きていたか」
「不意をついた割には傷が浅かったのでな。望月千代女。忍びというのに、仕掛けも技も浅い。故に逃げ切れた。そしていま、再戦の機会を得た!」
小太郎が下総で倒れていた理由がわかった。なるほど。既にこのくノ一と、何かと戦って倒れていたのか。
傷は治りつつあれどその回復に使った魔力がない。確保する手段がないゆえに、消滅の危機を免れたけど栄養不足、貧血のような状態にあったと。
「ははははは! 術師殿に気を向いている間に殺せると軽く考えていた拙者の落ち度。そして同じ忍びとして、ああ。この機会は逃さぬ。姫ともども殺してくれる!」
「は。そのくせ、こんな手を打つとは、やはり怖いか?」
気炎を上げる望月千代女だがそこは忍び。任務成功と失敗の際は逃げる手段を考える。あらゆる想定を考える忍び故か。影と変わる仕込みをしようとしていたようだけど小太郎の投げるクナイと手裏剣で逃げ場を作るためと思われる場所、影に札の着いた物を投げてしまい、宙を渡るための足場にしようとしていたであろう糸を切る。
「!! 小癪なっ・・・!」
「冷静でないその一瞬。命取りだよ!」
「しまっ・・・!」
小太郎との因縁。そして自分の策を、備えを潰されてしまい次善策を動かそうとするその数瞬。無事に邪魔されずに結界を展開。千代女、小太郎、私、武蔵ちゃんの4名でこの中で戦えるように出来た。
「さあ、もはや備えをしていた土気城ではなく、姫もおらずにお前が殺しそこねた忍びとお前を倒すための剣士武蔵殿、マスターの元殿がいる。諦めろ。望月千代女。英霊剣豪としての強さと技量にうぬぼれたお前の負けだ」
「何を! この場でお前たちを殺せばいいのであろう。さぁ・・・この大蛇たちで貴様らを縊り殺し、飲み込んでくれようぞ!」
「甘い・・・蹴鞠!」
「なぁっ!?」
戦いが始まる。と思った瞬間。その大蛇ごと貫く武蔵ちゃんの剣。それを投げるのではなく蹴り飛ばして、不意をついた太刀を飛び道具として扱う華奈の剣技。
ここ最近は暇があれば華奈や初代翁とトレーニングをしていた中で技を盗んだか。とはいえ、華奈に比べると制度も威力も低い。村正の打った清川村正、明神切り村正業物の切れ味あってこそ出来たと言うべきだろう。
「ぐぅ・・・かは・・・く・・・我が、パライソとしての宿業が・・・!? がぁ・・・か、何だこの刀は・・・!」
「酒呑童子の戦いで得た感覚、それをもとにぶっこんでみたけど・・・うん。気持ち半分は理解できたかも。
望月千代女。確か・・・三郎の蛇の呪いを継いでしまった。甲賀の歩き巫女の有名なくノ一。そこの関係もあるのかしら?」
「はぁ・・・あ・・・は・・・ああ・・・・ようやく・・・・ようやく・・・静かに・・・我が呪いも、英霊剣豪の宿業の声もない・・・ふぅ・・・うぅ・・・あ・・・感謝・・・感謝しか無いでござる・・・」
宿業に歪まされている部分が戻るや、千代女は地面に突っ伏し、身を震わせながら戦意がどんどんしぼんでいくのを感じる。
あの見えた痣らしきものに、武蔵ちゃんの言うように千代女の一族に関わる大蛇の呪い。それまでもを駆動させて、あるいはそう思わせるようにして暴れさせていたというのだろうか。だとしたら・・・どれだけたちの悪い宿業と言えるのだろうか。
英霊剣豪という術式と宿業。英霊にさらなる剛力と宿業を斬らない限り首を切られて、心臓を穿たれても死なないもはやゾンビと言えるような強化のあり方。反吐が出るとしか言いようがない。くノ一、忍びという修羅と汚れ仕事を、戦国時代の修羅の時代の中の暗部を担うくノ一ですらこうなるのだから。
「・・・千代女。貴女は・・・まだ、やらないのですか?」
「いや、いや・・・もう、主命であっても、これ以上はもう今は戦の喧騒も、切合も、戦いも嫌でござる・・・これは拙者も、一族も何もかもを欠けてもいい。もう、いまは静かに眠りたいのだ・・・せめて、英霊として今この場にこれ以上はいたくない。
あの蛇が這いずり回り、身を侵すあの感覚に、声に、怯えたまま戦いたくないのだ。武蔵殿。こうして姫の命を取りに来てこんな願いを言うのは筋違いだが、どうかわが首を落としてくれ・・・」
「・・・・・・」
武蔵ちゃんと小太郎がアイコンタクトを取る。仕掛けはないか。罠の気配はあるか。忍びというものをよく知る小太郎から見てももう完全に心が折れてしまっているのだろう。コクリと武蔵ちゃんは頷いて小太郎くんが糸で千代女から引き抜いた明神切り村正を手に持ってまるで斬首の際に首を差し出しているような状態の千代女の首を切り落とす。
「・・・ありがと・・・・とう・・・・・」
「・・・・・切り捨て御免。どうか今は安らかに・・・」
「・・・武蔵殿、元殿。後で一度僕のことについて話したいです。この下総で何をしていたか。皆さんと会う前に何をしていたかを」
「うん・・・お願いするよ」
結界を解除して、首を切り落とされて退去していく千代女の姿を見せることで残りは怪異を打ち倒せば終わりだと、賊将を討ち取ったと城の侍の皆さんに、藤丸や清姫様に教えつつ。この英霊剣豪を生み出したであろう術師殿とやらに関わるかもしれない話を聞くべきだと後で伝えようと心に決める。
可愛いですよねー千代女ちゃん。思わず心の中の京水が出てくる。
武蔵ちゃんなら華奈の剣技、蹴鞠とかのたぐいは覚えるかなーと思い。