転生愉悦部の徒然日記   作:零課

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 今回の方は死闘。いやまあ、大真面目にこの人は今までとは大分格が違いますしね。何がひどいって、下手に頼光を追い込んでも丑御前が出てきかねないってヤバいですよねえ。酒呑童子を置いて天魔の総大将って。


死闘 源頼光

 「はぁー・・・最近は夜に戦うのも増えているから、こういういい夜は久しぶり・・・」

 

 

 「そうですね。いやあ。安心できます」

 

 

 夜。風呂も終わりみんなで食事も終えてゆっくりとしていた夜半。いや。本当に武蔵ちゃんの言う通り。夜にインフェルノ、そしてパライソとまあ。ろくなことがなかったし、疲れがあったのだろう。

 

 

 気ままに食事をして、お風呂も浴びてとまさしく命の洗濯。みんなでゆっくりできるいいものだよ。

 

 

 「おい。修理が終わったぞ。ついでに少しばかり研ぎも良くしておいた。前よりもいい具合に使えるはずだし、持っておけ」

 

 

 「おっ。村正のじいさまありがとう。ほーぉ・・・いやあ・・・いつ見てもうっとりするような、怖すぎるほどの具合で。こいつは見るだけで価値があるってものよ」

 

 

 「だが飾るだけでは勘弁だぞ? 刀は使ってこそよ」

 

 

 「そこはもちろん。なにせまだまだ英霊剣豪もいるしね」

 

 

 「ああ・・・なっ・・・!?」

 

 

 ゆっくりとした夜の中、不意に結界に響く雷鳴の音。障壁が防いでいるがそれでもこの出力は並のものではないとわかる。

 

 

 急いで居間から出てみると庵の庭の入口で刀に電撃をまとわせて結界を切りつけている頼光さん。いや、英霊剣豪がいた・・・

 

 

 見抜いていたのか・・・!?

 

 

 「なんでここを・・・!」

 

 

 「容易いこと。我が配下の虫たちを使い調べて通れなかった場所を調べればそこが虫よけの結界があるとわかる。そこに我が雷で探れば之この通り」

 

 

 「京での経験とか、術師とかからの対策でも聞いたんでしょう。元。みんな。戦いましょう。まだ剣豪英霊一騎だけのほうがやりやすい。いえ、そうでもしないとこの戦士は倒せない」

 

 

 「ふふふ・・・何名も来ようと同じこと。あの虫を、衆合地獄を倒してくれたあなた達はお礼代わりに死に場所を選ばせましょう。ここの庵以外で戦いたいでしょう?」

 

 

 刀を納めつつも不敵な笑みは絶やさず、そしてここまでで自分のライバルでもあったはずの相手を倒しても尚崩れぬ余裕。英霊剣豪という歪められたあり方もあるだろうけど、それを差し引いても彼女はそれをできるほどの実力と経験のある女傑。

 

 

 実際に、村正さんにおぬいちゃんたちがいては危ないか。

 

 

 「わかりました。あそこの山の上で戦いましょう。その上がちょうどよく広く動けるようになっていますし」

 

 

 「よろしい。では、私が消えてから結界を解くといいでしょう」

 

 

 そう言ってすぐさま消えてしまう頼光さん。あの時代の武者だと不意打ち夜襲朝駆けは当たり前だが・・・

 

 

 「マシュ、藤丸。わたしたちの背後を・・・」

 

 

 「はい・・・結界の解除をお願いします」

 

 

 英霊剣豪に見破られる結界の中で、守られるか不明の中での解除。しかし、これを飲まねば下手すれば増援も来て不利な戦いを強いられる。

 

 

 結界を解除する瞬間が長く感じつつ、解除するが、なにも起こらない。そして、怪異もこない。約束を守ってくれたということか。

 

 

 「ふぅ・・・村正さん。庵の中でどうかおぬいちゃんたちを守っていてください。わたしたちが動いてきますので」

 

 

 「ああ・・・あの姉ちゃんは任せるぞお前ら」

 

 

 村正さんに背中を見守ってもらいつつ、結界を展開する道具を予備でもらい、発動させてから私達も山に向かう。

 

 

 華奈も自分よりも力も魔力も上と言わしめた剣士。どれほどなのか・・・武蔵ちゃんの支援できるのか。バクバクと心臓の音が大きく聞こえる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「無事に来てくれて何よりです。そのまま亀のようにこもるのなら土気城を焼き尽くすほかなかったですから。まあ、それはそれで英霊剣豪を切ったらしいその業物を封じたまま殺戮を出来たので良かったですけどもね」

 

 

 「流石にそれは許せないし、そっちは約束を守ってくれてよかったわ。英霊剣豪も案外義理堅いのね」

 

 

 「まあ、手順が少し変わるだけですからね。それに、ふふふ。どれほどの戦士なのかじっくりと味わいたい、焼き尽くしたいので。さぁ。構えなさい。これ以上余計な名乗りはいらないでしょう? 我が忌み名。黒縄地獄。この浮世を地獄にするものなり」

 

 

 やはり、丑御前でもない英霊剣豪として染まってしまっている。もう倒す他無い。

 

 

 結界を展開して戦いの場を整える。それも驚かれもしない。ちょっとした事で異界に行くこともある日本の伝承の時代に生きた武者らしい。

 

 

 「ほう・・・なんと清らかな。しかし、この場所で戦うとは。私相手には、この黒縄地獄相手には・・・悪手ですよ」

 

 

 「っづづ・・・・!」

 

 

 「ぐっあ・・・!!」

 

 

 そういうやすぐさま弓を引いてまるでドゥンケルのような速度で、それでいて威力も凄まじく武蔵ちゃんにすぐさま切り傷がいくつも、マシュは盾ごとジリジリと押される連射。これを機械ではなく人の手で、弓で成しているというのか?!

 

 

 「はぁっ・・・!」

 

 

 「ぐっ・・・マシュ籠もって!」

 

 

 「っ!?」

 

 

 弓の弾幕に驚く間もなく上空から雷を纏い落雷と斬撃を同時に叩き込んでくる。そこをどうにか避ける武蔵ちゃんとマシュだけど、その間にマシュの脚を切ろうとしたのだろう。河原に飛ぶ草と土煙の中から飛び出てくる地面を削りながら飛んでくる斬撃。

 

 

 マシュも急いで盾を下に構えて耐えるも、この連撃だけでも驚くのは無理もない。

 

 

 「っつ・・・」

 

 

 「どうしましたか? この程度では倒れないでしょう?」

 

 

 太刀筋の鋭さは、技術は華奈が上。だけど重く、早く、そして雷撃を纏うのもあって一撃を受け止めるだけでも消耗してしまう。

 

 

 涼しい顔をしながら振るう彼女の太刀をマシュと武蔵ちゃんは苦しい顔をしながら互いにカバーしつつ、呼吸を切らさないようにしながら戦うがそれも苦にしていないのだ。

 

 

 長い手足を活かした太刀筋は鞭のようにしなり、盾を蹴り飛ばす足技も凄まじい。

 

 

 美しく、重く、痛い。その武技はまさしく京を守る守護の鬼と言えるだろう。英霊剣豪に選ばれる逸材なのも納得だ。

 

 

 「なんの。このくらいは経験しているからね。負けないわ! さあ、まだまだ始まったばかり。思い切りやり合いましょうか!」

 

 

 「はい! この程度お母さんのシゴキに比べれば軽いものです!」

 

 

 二人もその威圧に負けずに刀と盾を構え、立ち向かい地面を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふっ・・・やぁっ! はっ!」

 

 

 戦いは一刻を越えても尚続き、そして武蔵ちゃんにマシュは回復を礼装と魔術でしてサポートしているが黒縄地獄には傷らしい傷はない。武蔵ちゃんも清川村正で黒縄地獄にダメージを与えられずにいるせいで英霊剣豪としてのまま戦い続けてしまっている。

 

 

 この眼の前にいる相手は骸のようなもの、カルデアの彼女とは別人とはいえ同時に同一人物のようなもの。できる限り宿業に囚われたまま倒したくないと武蔵ちゃんも刃を振るうが、届かない。

 

 

 そんな戦いを数百合ほど刃をぶつけ合ったか。武蔵ちゃんが奮った一撃を黒縄地獄が受け止めたときに変化は訪れた。

 

 

 「なんと・・・この刃は我が身に届かず。だというのに・・・なぜ、この身体は、心胆は痛さを覚えているのですか・・・? か・・・かは・・・あ・・・!」

 

 

 「酒呑童子で掴みかけたこの感覚・・・ようやく・・・届いた・・・・・! 華奈さん・・・これを言っていたのね・・・これが・・・」

 

 

 清川村正で傷を与えていないというのに、黒縄地獄の宿業を清め、すすぎあり方の歪みを流す。相手に刃が触れずとも、その見えない概念を切る。それを武蔵ちゃんは成し遂げたのだ。華奈や初代翁の領域に。

 

 

 「かは・・・がぁ・・・は・・・は・・・・あ・・・あぁ・・・わ、私は・・・私は・・・なんという・・・! 平穏を守る守護者、武者というのに自ら太平の世になったこの浮世を・・・!!」

 

 

 「頼光さん・・・」

 

 

 そして、そのあり方が戻れば、膝をついて顔を抑えて涙を流す頼光さん。巴御前は主たちと天下泰平を求めて戦った。酒呑童子はそもそもが享楽に生きる鬼。望月千代女は戦乱の中で生きたくのいち。ただ、彼女の場合は一応人の世は一時の落ち着きを得て怪異妖魔から人を守るために生きた戦士。

 

 

 だけどその妖魔もほぼいない、戦も島原の乱が終わり天下泰平の世を自ら乱そうとしていた。その意味を理解しているからだろう。もはや先程の狂気にそまった戦意はなく。ポロポロと涙が流れているのがわかる。

 

 

 「ああ・・・私は・・・本当に・・・なんと・・・皆さんも、私を戻してくれて感謝します。この時代を荒らすために呼ばれ、あり方を歪められていたということに・・・気づかせて、戻してくれて。本当に感謝しか無いです。

 

 

 ですが・・・私の心は戻ろうと英霊剣豪の宿業は既にこの身を骸同然に変え、私が腹を切ろうとも、心の臓を穿とうとも、首を切ろうとも私は死なない・・・わかるのです・・・もう、私は『そういうもの』に変えられてしまっているから・・・」

 

 

 「やっぱり・・・概念。英霊剣豪の宿業をひたすらに切っていたけど、そのなかで掴んだ。そのあり方や歪み。同時に体の変化は単なる不死性を与えたというわけじゃないのね。加えて、他のみんなも言っていたけど、術者が召喚しているから、そもそも英霊としての縛り・・・令呪もあるだろうし」

 

 

 「はい・・・私はどう足掻こうがあのキャスター・リンボなる術者と、その主に抗えない。それはもう確実なことでしょう。そして、皆様にせめてもの情報を与えようにも、私達英霊剣豪を呼ぶ際は、転移をさせるか式神での通信で場を特定もできず・・・拠点がわからないのです。

 

 

 なので、せめてもの償いに。いえ、あなた達への助けとして何をすればいいのかこの頼光はわからないのです」

 

 

 涙ながらに話を聞けば、本当にこの術を仕込んだというキャスター・リンボの危険性がよく分かる。小太郎くんが倒そうとするほどだし、やはり何かある。そして、警戒心もあるということか。

 

 

 英霊剣豪と成り果てさせた頼光さん相手でも下手に自分等の拠点を割らせないようにしているあたり。

 

 

 「なら、僕たちに倒されるために本気で戦ってください」

 

 

 「え・・・?」

 

 

 そしてここでこの提案をぶっこんでくる藤丸の肝の太さ。介錯はこっちがするけど戦ってほしいというその話に思わずキョトンとする頼光さん。

 

 

 「その、武蔵さんは英霊剣豪にされてしまった英霊の皆さんと戦いながら剣士として高みへと登り、強くなっているのです。その経験となる剣豪としての切合い。その経験を与える指南者としてもう一度、今度はこの状況を終わらせるために私達と戦ってくれると嬉しいです」

 

 

 「そういうことですね。無論その体を思い切り・・・いえ。それは華奈さんがブチギレそうだし・・・まあ、こほん。私達剣士にとっては腕利きの剣豪との立会は千の修練に勝り値千金の価値のあるもの。京の守護神でありあの酒呑童子も茨木童子も倒した腕前。

 

 

 ぜひ私ともう一度立ち会ってくれれば。その剣の経験を糧に。必ずこの騒ぎを収めてみせますから」

 

 

 「・・・・・なるほど。ふふふ。心得ました。ではこの源頼光。今からは英霊剣豪ではなく、一人の剣士としてあなた達と本気で殺し合い、戦いましょう。

 

 

 之より先は私達をこのように作り変えた術者にまだ強力な剣士がいる。それを倒すというのなら。ええ。私を二人がかりでも倒せなければいけません」

 

 

 ゆっくりと立ち上がり、涙を拭いて視線を鋭く戻し、刀を構え、弓を背負う。みなぎる戦意も先ほどの歪んだものではない。防人の先達として、剣士の先達としての誇りと覚悟を見せてくれるもの。

 

 

 「この源頼光。たとえあなた達が希望であれども、私に刃を届かせ宿業ごと仕留めなければ容赦なく両断しましょう。かかってきなさい・・・!」

 

 

 こうして、第二ラウンドが、鬼や羅刹のような顔とは違う人を守るものとしての戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「軽い。そのごまかし程度は見切られる」

 

 

 「うぐっ!」

 

 

 天眼を持っての確実な攻撃をも見切り初手で武蔵ちゃんの攻撃を軽々と太刀で弾き返す。

 

 

 「盾の中にも固く構えすぎず。ときには虚脱を使い流すべきです」

 

 

 「くぅあ!」

 

 

 矢の雨の中身も鏑矢を交えてまるで鋭い刃の雨の中にハンマーで殴るような衝撃はマシュの防御の構えを崩し、華奈のように盾を足場に、あるいは掴んで拳や蹴りを放つ。

 

 

 「刺突は鋭く、早く、突きへと使った力を反動に戻すのも素早く!」

 

 

 放つ刺突は刀の反りを利用して盾の縁からすり抜けて、あるいはただただ素直に受け止めるだけでは統べるようにして身体の何処かを貫くように狙いすます。

 

 

 やはり、強い。剣豪の技術に天魔の総大将丑御前の力をも持つ源氏の棟梁の一人。多くの妖怪、魔を打ち倒したその武技は英霊剣豪として手にしたさらなる膂力を差し引いても十分すぎるほどでさきほど同様武蔵ちゃんとマシュは頼光さんが5つの攻撃を放つ間にようやく1つ反撃をできる程度だ。

 

 

 「これほどに鋭いって・・・! 刃の竜巻。いえ、落雷も含めれば刃降り注ぐ台風の中に突っ込むようなもの! 全く恐ろしいったらありゃしないわ!」

 

 

 「ふふふ。しかし貴女の剣筋も素晴らしい。力量差、技量をも埋める独特ですが鋭い一撃は私も何度もひやりとしました。なるほどこういう剣豪もいるのかと私自身、滾ってしまうほどで・・・」

 

 

 しかしそれでも二人は楽しそうでマシュも頼光さんの指導と言葉を聞きつつ、でも気を抜けば直ぐに死を与えられるほどの剣戟に対処。武蔵ちゃんもだんだんとその剣筋を覚えつつある。

 

 

 普段から剣技でいえばそれ以上の華奈に挑んでいた経験がある。より上の剣筋が。剣戟が。自由なふるまいの剣舞に。

 

 

 「私こそ・・・ここで負けるわけには行かないの・・・! この・・・っ・・・なん・・・のぅ・・・お!」

 

 

 その剣技は、執念は女神ロンゴミニアドに。眼の前で神に届かせてしまい、その作戦は生きた神創兵器にも通用し、女神同士の約定も切り捨て、悪意の怨念も切り捨てた。その高みを見続けた武蔵ちゃんは、ここで負けないと気炎を上げて傷だらけのままつっこみ、頼光さんの止めの刀を反らして作ったその一瞬に心の臓に刃を届かせた。

 

 

 「ああ・・・見事・・・です・・・ふふ・・・」

 

 

 「貴女の剣技は重く、早く・・・とんでもなかった・・・でも、元やマシュ、藤丸に・・・貴女よりも上の剣士を知っている。そこまで届くためにも・・・なおさら、負けられないって・・頑張ったから届いたの・・・」

 

 

 「あら・・・それほどの剣士・・・ぜひ、お会いしたいものです・・・私もぜひご教授をし受けたいほど・・・・・ありがとう・・・英霊であれば、いずれ出会えるかもしれませんし・・・既にあっているのなら、その私は幸せでしょう。

 

 

 どうか、武運・・・を・・・」

 

 

 宿業ごと肉体を斬られて、憑き物が落ちたように笑顔で死んでいく頼光さん。うん。大丈夫。カルデアには既に貴女がいて。華奈にメロメロだし。

 

 

 そして、この経験もまた必ずこの特異点でこの先ぶつかる相手にも活かせるはず。ご指導ご鞭撻。立ち会いありがとうございました。

 

 

 みんなで手を合わせて頼光さんを見送り、結界を解除してとっぷりと月が出ている夜の森をみんなで庵へと戻っていくことにした。今夜はまた、気兼ねなく休めるといいけど。




 多分パワーでは酒呑童子が上だけど総合力だと大真面目に頼光さんりゅーたんよりも上なのかしら。
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