転生愉悦部の徒然日記 作:零課
「切りつけても効果はなし・・・概念とはいえ、固有結界、心象世界を切れるにはまだ至らず・・・ね」
「御仏様の加護も感じぬ。地上に現れた地獄とはこのことか。しかしまあ・・・地獄でも神仏はいる。それさえもないとは・・・」
天草の声が響く。この固有結界は天草の見た、味わった地獄。刻まれたもの。それがこれだと。
そして今突破の手段がない間に既に相手は城を起動することが出来てしまった。ただ、一つ気になるワードが。
空想の根? 並行世界をたどっているはずなのに空想とは。一体、どのような術式なのだ。
特異点であるこの下総。清姫様のことといい、平行世界のことを話していることといい。人類史に打ち込まれる異変。と言うにはあまりにも最初から違う部分が多すぎるし、英霊によって歪められた。ではなく『最初からそうである』ものが多い。こんな状況だけど、この件。なにか異質だ。
「ほう。そいつは一言多かったな妖術師。おまえさんら。姿は見えないがここからは儂の仕事だ。ちいと大人しくしていな。こっからは儂の仕事。我慢を重ねて待った本番よぉ。
奥の手はねえのかって? 阿呆が。あるに決まってんだろ。この英霊剣豪の騒ぎで何で術者でなく、安倍晴明でもなく鍛冶師の儂が呼ばれたか。そいつを計れなかったオメエの負けだ」
鉄を打つ音が聞こえる。その音はこの地獄の中にあって心地よく、力強くミミに届いて響く。
「かつて求めた究極の一振り。其れは肉を断ち骨を断ち、命を絶つ鋼の刃にあらず。我が業が求めるのは怨恨の清算。縁を切り、定めを斬り、業を切る。即ち、宿業からの開放なり。
さぁ。受けてみやがれ。こいつがオレの、都牟刈、村正よぉ!!」
振るわれる一刀は地獄と自分の姿しか見えない中で確かに捉え、その刃は閉じたこの世界を切り裂いた。
都牟刈の太刀。その刃は神代の時代にてかの八岐之大蛇の尾の中から出てきたというもの。わかりやすくいえば草薙の剣。それを鍛冶師が用意し、振るうその一撃は私達をこの結界から開放すると同時に、起動していた穢土城を一刀両断。
そしてあまりの熱量故に城が燃えてしまうことで完全に城そのものが燃え始める。これでは最早天草の紡いだ術式の起動も潰れてしまっただろう。
「そうか・・・望月千代女、酒呑童子・・・・ハ、ハハハ・・・ハハハハハハハハ!!! 召喚の折の際に既にこのような結末は決まっていたというのか!
しかし、しかしだ。なぜ貴様の刃は我が身体まで届いたというのだ」
両断された切り口から燃え始めている穢土城の中で身体を袈裟懸けに斬られたであろう傷口が見える天草。武蔵ちゃんがやれる宿業切りを受けたとはいえ、そのあり方、怨念はたやすく消えないのだろう。怒りと諦観と執念が交じるままだ。
「そりゃあ、お前さんエド城なんてもんを用意したからだよ。知ってんだろ。妖刀村正。徳川に類するものを害する刀剣の類ってやつよ。ったく。よっぽど徳川憎しでここまで来たんだろうが、そのせいで却って儂の攻撃が結界のみならず城にお前さんまでとどいったわけよ」
「は・・・ははははは・・・なんという・・・なんという滑稽な・・・な・・・これ・・・は・・・」
彼の原動力は復讐と殺戮。そのためにあらゆる手を用意して、そして相手を潰すために名前のゴロも合わせた故の強い術式もあった。だけどそれ故に却ってその計画すべてがおじゃんになった。
人を呪わば穴二つ。徳川の世を呪おうとした結果私達というカウンターの戦力が呪詛返しをしたような形になったと感じているのだろう。
そしてそれで終わるはずもなく。いくつかのクナイが天草の心臓を貫き、十文字槍がその腹を切り裂いた。
「なんだ・・・これ・・・は・・・」
「千代女殿、そして段蔵、母上のクナイだ。僕の知る天草四郎時貞とは別のなにかよ。貴様の行いどう取り繕うが許せぬ所業。英霊剣豪にされた者たち。特異点といえどもそこにいた人々を害したその所業。たとえ忍びの僕でも度し難い。
死ね。死んであの世で皆に詫び続けろ」
「地上で地獄を味わったその苦悶、苦痛。如何程のものか拙僧はあの地獄の景色を見てもまだ計りきれん。しかしだ、それを貴殿の世界ではないものにまで与えていくその所業は仏様でも許せぬことだろう。
せめて拙僧の槍で屠ってやる。地獄で罰を受けた後は今度は恨みのない輪廻転生を受けることを願う」
「おのれ・・・たかが・・・忍びと仏僧ごときに・・・」
息絶えた並行世界の天草。これで、英霊剣豪の全ては倒れて、穢土城の起動自体も根源からぶっ潰した。もう、問題はないはずだ。
「清姫様は無事のようです先輩」
「よかった。一応イシスの雨で解毒に呪いをできる限りないかチェックしつつと・・・みんな。そろそろ降りよう! このままじゃ黒焦げになっちゃいます!」
あっちでは意識を失っている清姫様を藤丸とマシュが様子を見てマシュが背負ってくれている。
たしかに城が燃えているし、しかも木造の部分も多い城だ。火の手があっという間に広がっている。急がないと炎で焼かれて死ぬ前に煙のせいで死にかねない。
「よし。身体強化の術式は問題なし。胤瞬さん。藤丸をお願いします。私は武蔵ちゃんを抱えていくので、小太郎くんも村正さんも早く」
「おう。だが問題ねえ。儂はもう頃合いよ」
「え。退去するのですか村正殿!」
皆で天守閣から瓦屋根伝いに降りていく準備ができたというのに。村正さんは退去の光が。致命傷は追っていないはずなのに・・・あの刀の反動?
「ああ。神でもねえ、ましてや戦士でもねえやつが都牟刈を使ったんだ。その反動で英霊だろうと消えるだろうよ。まあ、心残りは・・・一つ二つ無いわけじゃねえ。ったく・・・子育ても鍛冶も大変だ。
まあ、刀匠のはてに神仏に至る。生前の儂の極めた阿呆具合を少しでもごっことはいえ出来たんだ」
「大丈夫。おぬいちゃんたちの無事は僕らが見ておくから。ありがとう。村正さん」
「おう。そんなら気兼ねなく退去できらあ。あの手間のかかるガキどもの安否。頼んだぞ」
笑顔で去っていく村正殿。ありがとう。華奈や初代翁がいないなかでは貴方が打った刀がないと勝てなかったし、武蔵ちゃんも強くなれなかった。
「皆さん。ここのルートなら安全かと。私が先導しますので急いで!」
マシュの方も脱出のための降りるルートを見つけたようで、そこからみんなで降りていき、燃える穢土城を後にする。
「ふぅー・・・・」
「いやはや・・・なんとかなりましたね・・・」
燃える穢土城を見つつ、少し城から離れた場所。幸いというか天下の将軍家の血筋が住まう松平の城。周辺には木々があるものの、炎を塞ぐように水路があるのも相まって火の粉以外では延焼する危険もないだろう。ましてや今は風向きは川の方に向かっているし町は問題なさそうだ。
完全に避難は住んでゴーストタウンとなった町と燃える城を見ながら私達は腰を下ろして息をつく。ようやく終わったのか。と。
「これで血生臭かった英霊剣豪の、悲劇も終わる・・・おわ・・・あれ? 退去がないね」
「うーん。なんでだろう・・・あ。聖杯・・・! そういえば、特異点を構成する聖杯はどこに!?」
カルデアの方も通信があんまりできないようでアドバイスもなかったがそういえばそうだ。この亜種特異点。それを形成する。あるいはこ私達に認識出るほどに強固に作り上げたリソース元である聖杯がない。
「うーむ・・・こまりましたね・・・一応、宝物庫の場所は調べていて、いくつかの財物を持ってきていましたが小判しか無いですし、壺も普通のもの・・・」
「小太郎殿いつの間に! いやしかし、聖杯も一緒にあの城の中だとしたら・・・燃えて壊れるということはないだろうが、完全に鎮火した後に探さねばいけないか?」
「そうなりますかね・・・? とりあえず、できれば侍の皆さまが帰ってくる前に探し出すか、清姫様がおきたら事情を説明して聖杯を探す許可をもらうしか・・・」
「その心配はないぞ皆様方」
そう言ってふらりと目の前に歩いてくる青い髪を長く伸ばした色男。背中には長い、いや大太刀といってもいいほどに長いが細い。独特の長物を背負った剣士がいた。
「聖杯はここにある。そして、其れはあの妖術師殿、英霊剣豪の皆を撃ち倒したそなたたちに与えられるべきものだ」
「聖杯! あ、あの。貴方は?」
聖杯を取り出し、マシュも其れが本物だと見抜いたようで驚きを隠せない。そして私もだ。こんな形で手間が省けるとは。
「うむ。拙者は妖術師殿に雇われていた用心棒のようなもの。名は佐々木小次郎。とはいえ英霊剣豪とやらの宿業は埋め込まれていないので安心せよ」
「っっ・・・! そう。貴方があの佐々木小次郎ね・・・で。聖杯を持ってきてどうしたのよ」
「そうだなあ。某。妖術師殿に恩義はあれど後で手向けに黙祷の一つでも捧げれば良い。だから貴殿らへの怨恨は恨みはない。聖杯を渡しに来たのも貴殿らが必要なものと感じたからだ。
ただなあ。聖杯をここに持ってきた駄賃代わりというのも何だが。宮本武蔵よ。拙者と立ち会ってくれぬか。腕前はエンピレオ殿の戦いで然と見ている。そのうえで前、その剣術。直に味わいたく参上した」
背中の長物。物干し竿を抜いて臨戦態勢に入りつつある佐々木小次郎。
同時に胤舜さんも小太郎くんも構えるが冷や汗が出ている。
「参ったのぉ・・・思わず構えるほどには・・・強いぞこの剣士」
「はい・・・武蔵殿。手伝いは・・・」
「いいえ。結構。彼が求めているのは私との果たし合い。そして、私もそれを断る理由もない。剣豪同士が出会って斬り合いを求めるのなら、受けるが筋。そして・・・ええ。同時に彼と私が戦わないと最低でも聖杯を譲ってくれなさそうだもの」
武蔵ちゃんも戦闘態勢に入り、刀を抜く。天草との戦いはほぼ何も動かずに済んだので消耗はないが、それでも柳生殿よりも強いと私でも肌で感じるほどの剣気。
信じる他無いが勝てるのか? そう不安が頭をよぎるほどには。
「勝ってきてね。武蔵ちゃん」
でも背中を押す他無い。彼女は止まらないだろうし、そのほうが力になるはずだから。
「・・・・・ええ! やっぱり私のことをよく分かっているじゃない! ふふふ。さあ。参りましょうか小次郎!」
「応よ。武蔵と小次郎。二人の剣鬼が出逢えば起こることは必然」
「「驚動天地の切り合い! 剣鬼剣戟はまさに天を突かん! さあ、いざ参る!」」
最期の。これこそ本当に最後の下総での剣豪同士の戦いが幕を開けた。
ああ。なんという剣術だ。一振りごとに三つの刃が私を襲う。但馬のじいさまの剣術は合理に秀でていた。だけど小次郎はひたすらに楽しんでこの剣をふるい、そして、それをずっと続けてきたゆえの伸びの大きさが合理を極めた剣術の先へと行く。
まさしく無限。尽きない剣戟は無限の剣。
その太刀の届く場所である限りその刃は防御不可能。たとえ英霊の、伝承の武具であっても受け止めることでしか防げないであろう。
ああ、すごい。この感じ。自分が全く敵うかもわからない戦い。だというのに、それがすごく愉しい。そしてそのなかで磨かれていく感覚。
距離を取るしかなかった太刀筋が見え始めてくる。疲労で疲れているはずの身体の冴えが戻り、増していく。
目を閉じる合間もない。その刹那も惜しい。今自分が強くなり続けている感覚、強い相手との最高の戦い。死ぬかもしれないという考えすらも惜しい。
今この瞬間全てを楽しめ、味わえ、その上で先に進め。勝てばさらなる戦いが高みを目指す機会がある、死の概念とかした剣士が、白銀の剣士が。そして愛しい人との約束とご褒美が。
私は我儘だから。この果たし合いもその先も全部全部欲しいから。そのために負けられない。
感謝している。この出会いに戦いに全て全て。それらが私の糧となるのだから。
そして、剣士に対するその返礼は報奨、金子、名誉だけではない。振るう剣技もその御礼となる。だから、見てもらおう。
私が出せる今の全力。無限の剣筋に対する、これしか無い。いやその先の。零の・・・・
「おぉおおおおおおおおおおお!!!!」
「・・・勝者、宮本武蔵・・・!」
これが、私の出せる。無限の刃に対する、零の刃。天元をも越える。一撃だ。
「ああ、見事。実に見事だ天元の花よ。その剣筋振る舞いすべてが美しく。実に・・・実に善き立ち会いであったぞ・・・」
そう言って満足気に倒れ伏す佐々木小次郎。ええ。私も。コレでようやく目指していた人の剣術に、一つ近づけたのだから。
「聖杯。貰っていくわね」
死なない程度に少し傷を治してから私達はその場を一度去る。きっと彼も何かを後にのこしているから。そのためだけのほんの失礼。だけど、勝者だからコレくらいはしていいよね?
「んーっっ・・・・くはぁー・・・」
「おはよう。武蔵ちゃん。傷は大丈夫?」
「ええ。お陰様で」
あの戦いから一夜。色々とあったが小さくもその分エネルギーのリソースの質が高いのかなかなか崩れない特異点。それをいいことに私達はカルデアから許可を得て普段はなかなかできない退去前にお世話になった人たちにご挨拶の時間を頂いた。
私の方は早朝に済ませておいているので今はゆっくり宿で寝ていた武蔵ちゃんを待っていたのだ。
「マシュと藤丸。小太郎くんに胤舜さんは?」
「マシュと藤丸は清姫様に小太郎くんが持ってくれていた金銭を一部城の再建に使用してと返しに行って、その後におぬいちゃんと田助君を引き取ってくれる方に挨拶と小判を渡したりとかしているよ。
小太郎くんたちは見回りをして妖魔がいないと分かって退去していったよ」
「そっか・・・ふぅーっ・・・いやー・・・激動の一夜でしたねえ」
「全くだよ。でも、みんながいてくれたから。武蔵ちゃんがいたからこそ無事に勝てた。本当に良かったよ」
無事とはいえず下総の方々の被害はある。だけど、この世を地獄に変えようとしていた天草を対処はできたし、被害を押し留めたとは言えるはず。だから、今は眼の前の愛しい剣豪を、華のような女性を労いたい。
「ふふふ・・・そうだね。そう思いましょうか! でないとこんな豪華な宿は借りられないしね。あ。そうだ元。貴方私が言っていたこと覚えている?」
おにぎりを頬張り、味噌汁をすすり元気になっていく武蔵ちゃんがふと思い出したと言わんばかりに私のそばに寄ってきてニヤニヤと微笑む。
ああ、そういえばご褒美のことだ。佐々木小次郎や聖杯のこともあって頭の片隅に追いやっていたことを思い出してそうだったねと笑い返す。
「もちろん。あの戦いが終わった後にご褒美が欲しいんだよね? 一応金子はまだあるし、何が欲しい? カルデアの方でも小判、純金だからきっといい感じに大金を使えるからそっちでも・・・!?」
「うふふふ・・・私が欲しいのはね。貴方よ。源元。私もイシュタルとか、エレナとか、アンメアのお二人のように貴方が好き。当世ではお大尽様様や殿様でなくても甲斐性、財力が夫婦、愛人ともにあれば側室、ハーレムもいいのよね?
なら、私もあなたのそばにいる一輪として添えて頂戴。ほら・・・添え善喰わねば・・・ですよ・・・・ん・・・」
コレ以上の反論は認めない。というか話せば話すほどに自分が恋愛事情に弱いとよく分かっているであろう大剣豪殿は私の唇を奪い言葉を紡がせず、布団から起きたというのにすぐに渡しと一緒に布団に転がってから藤丸とマシュが戻るまでの幾分かの時間。新たな私の愛しい人と愛し合ってカルデアに戻っていった。
最期の小次郎と武蔵の戦いでは武蔵が成長していますね。わかりやすいイメージだとはじめの一歩での日本タイトルマッチでの千堂と一歩のミックスアップのシーンを想起しました。
コレで下総終了。次回は召喚と箸休め。
セイレムもしますが、またまた元さんが主役。モデルの方のリクエストもあいまってもう一度亜種特異点。ここも華奈がだと瞬殺ですので華奈は出ません(確定)