転生愉悦部の徒然日記   作:零課

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一つの区切り 野望の終焉


輝きは君の中に 赤の情熱 白の希望

 何度迎えたかも分からぬ夜明け。そして、その夜明けを見る度に震えを感じるようになったのはいつからだろうか。

 

幻想の住人、人の世界に塗りつぶされて消えゆくものたちの嘆きが聞こえるようになったからか。

 

森の管理者、樹妖精の許可を得ずに無作法に切り開かれる森の悲鳴が聞こえるようになったからか。

 

人を罰し、裁くために生まれたような教えが土着の教えを、営みを汚すようになったからか。

 

神と呼ばれたものが堕とされ、魔に落ちぶれる姿を見たからか。

 

人を好いて関わったばかりに封じられたものが、その与えられる力を貪るけだものを見たからか。

 

 分からない。卑王と呼ばれて尚もひた走り、下らぬ教えを伝えた大陸の下衆とも手を結んでこの島に生きる幻想のために戦い続けた、抗い続けた。

 

 アンブロシウス、ウーサー、そしてマーリン。この自身を追い詰める輩と戦い続け、アンブロシウスは殺せた。ウーサーとマーリンは粘ったが、ウーサーも長き戦に疲弊したせいで病に倒れ、自身の犯した不義のせいで国も崩壊。これでマーリンだけだと安堵したのもつかの間。新たな敵対者が現れた。

 

 アーサーと名乗るその王は颯爽と現れたかと思えばあっという間に諸侯をまとめ上げ、更には星の聖剣を手に入れ、多くの精兵をまとめ上げてかつてのウーサーを遥かに上回る戦力に成長した。たった十年そこらしか生きていない若造が行ったとはとても思えない。マーリンがいたのだとしても正に英雄、英傑の所業としか言えないだろう。

 

 更にはさしたる戦力もない片田舎だと捨て置いていたオークニーでも傑物が一人現れる。

 

 カナ・フナサカと名乗る女剣士はモルガンにイグレーヌを救い、オークニーに届けるだけではなく、神秘の宿る森の住人と打ち解け、魔獣をも配下に置き、たった十年でオークニーを経済国に引き上げた。戦に出ればアーサー王を打ち負かし、産業に関われば多くの農産物や技術を生み出して国を肥やした。教育者としても優秀で自身の配下、現国王のガウェインを始めとした多くの武人を育て上げた。

 

 しかも、それらの行いは全てが魔獣と共に行っている。迫害されるばかりの魔獣があの国では守護のシンボルになり、多くの民の心の拠り所になっていた。一度直に出向いた時も人は魔獣を尊敬し、魔獣は人間に心をひらいていた。

 

 そんな幻と、夢とも思える部隊を作り上げたカナは突然の来訪、こちらの世迷い言と嘲笑われた言葉に真摯に聞き入り、咀嚼し、受け止めきった上で言った

 

『私は我儘ですから。貴方様の素敵な意見はどうにも受け入れられません。限界まで抗って、戦って、この皆で、守りたいもののために動きますよ。貴方様と同じ様に』

 

去り際には

 

『この島の去りゆく者達のために尽力はしましょう。その上で貴方と戦う』

 

 と何処までも心配りをした上で打倒すると啖呵を切ってみせた。恐らくは私に余計な躊躇いを生まないためだろう。全く、人を憎みきったはずの自分の心に『殺すには惜しい』と思わせるほどの気持ちのいい女は初めて見た。

 

 そんな、ウーサーの後継者が迫ってくる。星の聖剣を携え、精兵を率いて自身の居城を、戦力を、そしてこのヴォーティガーンを滅ぼさんと。

 

 湖の騎士を、隻腕の騎士を、妖弦の騎士を、剛剣の王騎士を・・・他にも数え上げればキリがないほどの名だたる騎士を引き連れて。

 

 カナも・・・いや「銀嶺の将」もまた同じ。自身の主である太陽の騎士であり、王に参じる形で鉄の騎士と馬脚を揃えてこの長き争いに決着を付けんと。魔狼を、魔猪を、ワイバーンを連れて・・・

 

 しかし、こちらも負けるつもりはない。自身の意志で肉体を捨てられぬ巨人族を始めとした幻想の住人もいる。退けぬし退くつもりもない。浅ましき人間なにするものぞ。必ずこの手で討ち果たし、去りゆくものたちの楽園をこの島に・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 卑王ヴォーティガーンとアーサー王率いる軍団、そしてオークニーのガウェイン王率いる軍団の一大決戦は、正に阿鼻叫喚の血戦であり、かつてのどの戦よりも激しく、剣戟も、悲鳴も、怒号も響き渡り、草は朱に燃え、土には人であったものやパーツが飛び散り、ワタをぶちまける。血のかかっていない場所など無き程の様相を見せる。

 

 若きブリテンの騎士もこの戦場で我武者羅に剣を振るい、目の前の敵と戦い、殺し、勝利のために仲間と共闘しつつ、この戦場をふと見回す。

 

 流石はアーサー王の精兵部隊。蛮族のみならず、幻想種まで率いるヴォーティガーンの抵抗を抑え、徐々に戦線を押し上げては相手の守備を突き崩す。その戦場に、三本の飛矢が放たれた。

 

 金属と木を組み合わせた軽装鎧に身を包む騎士団、随伴する魔狼に魔猪、そして掲げられる蒼と白を基調とした狼が描かれた旗。銀嶺騎士団。その本隊がブリテン、オークニー連合軍の側面から出陣。敵陣に斜めから突入し、敵の腹を食い破る。

 

 その軍が姿を表した瞬間、正に天地が揺れた。ブリテン、オークニーの騎士は喉を裂かんばかりの歓声を上げ、サクソン人は今までの勢いが嘘のように怯え、青ざめ、悲鳴を上げては動けないものは容赦なく殺され、逃げても追いつかれて殺された。

 

 『剣姫』

 

 銀嶺騎士団隊長のカナに付けられた二つ名。最近、ブリテンに来ては剣術指導、ジュウジュツなるものを教え、それ以外の時間は農業や哨戒をしてくれる銀の麗人。

 

 その剣は涼やかな動きで美しく、まるで魔法のような技術の持ち主だという。

 

 速さを意識すればいつ剣を抜いたかも分からぬほどの抜刀で相手を切り刻む。

 

 型にはまらない、戦場仕込みの剣術よりも奔放、かつ確実に敵を屠る。舞うような、雲のような動き、軽やかな剣舞。

 

 その配下も精兵揃いで、ブリテンの精兵全てをあてがっても勝てる可能性があると言われるほど。

 

 多くの噂を呼ぶその将の噂が敵味方問わずに真実だと知らしめる様に銀嶺は暴れ回り、その先頭で華奈は自身の化け物じみた馬に跨がり、敵を斬り殺す。

 

 手の剣を何気なく、軽く動かしたような動きで敵の首が一つ宙を舞い、顔が二つに割れて中身をぶちまけ、剣を、槍を向けた騎兵の手は全て武器ごと切り捨てられ、胴が、首が泣き別れて命を失う。

 

 付き従う騎士も、魔獣も主だけに苦労させるなと暴れ回り、一人が、一匹がまるで鬼神のように、地獄の獣のように辺りの敵を屠る。華奈の側を固め、風の双剣を構える副官ダンカンは自身の周りに見えない壁があるかのようで、その円の中に入った蛮族はすぐさま身体が幾重にも切り裂かれて命を散らす。誰も近づけぬ死の間合いを作り、カナの側面の防壁となりつつ、敵を屠り続ける。

 

 この快進撃に呼応する形で中央でも二本目、三本目の矢の動きが起き始める。

 

 アーサー王とガウェイン王の持つ二振りの聖剣の光が、炎が敵をなぎ倒し、ヴォーティガーンの城への道を切り開く。

 

 更には空からの落雷に火球の嵐。それはつがいのワイバーンと銀嶺の副官にして名高き魔術師、アンナのものであり、切り開いた道を更に広げて大部隊が通れるほどのものに。なり、そこへ連合軍本陣が走り、城へと向かう。

 

 王手を打とうとするブリテンサイドにそれを防がんとする蛮族、これにまた銀嶺が動く。足止めを計るために敵の側面に撃ち込まれる槍と矢の雨。それを、戦場の端から城への道、中央付近という距離もお構いなしに届かせて蛮族をハリネズミに変える。

 

 狼や魔猪は落ちている槍を、矢を拾い、騎士たちはそれを少し変わった棒で引っ掛けて投げる。即座につがえて打つ。投げた槍は普通ではありえないほどの距離を出し、矢と共に敵へと降り注ぐ。

 

 盾をも貫く攻撃に蛮族の足は止められ、問題なく本陣は城に到達。その後の防備もまるで鉄の壁をそのまま落としたかのような防御に加え、かつてアーサー王を食い止め続けたというヤマジまでもが参戦。これで完全に城へは蛮族は一切入れない形になり、更には城と元々の連合軍のいた場所により、挟撃の形に。

 

 巨人族の攻撃もいつの間にか隊を分けていたカナの部隊が一手に引き受け、その機動力で撹乱、制圧していく。

 

 この電撃作戦にはペリノア王、パーシヴァルは大笑いをして膝をたたき、トリスタン、ベディヴィエールは呆然としてこの光景を眺めるばかり。最高の騎士として名高いランスロットも安堵の表情を浮かべ余裕のある表情に変わる。グリフレット、ベイリン、ベイランなどは先のうっぷんを晴らすかのごとくもう突撃を始めた。

 

 この時に脳裏に思い浮かんだのはアーサー王のことだ。自分の手腕、作戦一つで敵味方巻き込んで気がつけば中心にいる。やり方こそ違えど、想起してしまうほどにはこの戦場の変わりようは凄まじいもの。

 

 拮抗していた戦場は一気に崩れてしまい、ヴォーティガーンを討つために駆けた両王は無事に城に到着。

 

 敵を入れないよう残った軍は壁となり蛮族の逃げ込む場所をも奪う。しかも先の攻撃で空いた軍の穴も突かれ、蛮族の軍の横陣も二つに裂かれそうになっており、時期に分断され、包囲蹂躙されることだろう。

 

 これを覆せる破壊力を持つ巨人族、魔獣は銀嶺が既に対処し始め、アンナ、ワイバーンの援護攻撃もあり、上手く抑え込んでいる。

 

 『銀の死神部隊』その名前に相応しい暴れ方、決戦の場は、既に騎士たちの狩場となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬっ・・・・ぐぅうう・・・」

 

 たどり着いた討伐すべき目標、卑王ヴォーティガーン。その王に剣を突き立て、攻めるアルトリアにガウェインだが、未だに勝機を見いだせずにいた。

 

 アルトリアの様な瞬間的な加速もなく、ガウェインのような太陽の加護による剛力もない。しかし、速い。いや、速く見せている。細かな足の動きや最低限の動きで此方の先手を打ち、更には聖剣の開放での攻撃も味方を射程に巻き込むように立ち回るせいで強力な一撃も出せない。

 

「はあっ!」

 

 攻撃の動作に移り、剣を構えようとしても。

 

「ふん」

 

 持っている細身の剣による連続の刺突に最低限の動作で行われる鎧の隙間を狙う切り払いを防ぐために防御の動作にするしかなく。今の所致命傷もないが、あちらも同様。いや、此方がかすかに傷が増えているのに対し、ヴォーティガーンは剣で受ける必要のないものは体を動かし、鎧で受け止め、その合間を剣で反撃する分。あちらが優勢だろう。

 

 数も、武器の質もものともしない、かつてのウーサー王の時代から戦い続け、磨かれた老獪な剣術。齢すらも武器に変えて数の差も逆に決め手を打たせない戦上手な動きにガウェインは思わず歯ぎしりする。

 

 外の戦況は優勢なのだろう。此方に敵が流れ込んでいないことも、落雷に火球の音が絶え間なく響き、狼の遠吠えも聞こえる。華奈、ランスロットを始めとした外の面々は作戦を進め、蛮族達を追い詰めている。それだと言うのに自身はいまだ卑王ヴォーティガーンを討てずに、追い詰めることが出来ていない。そんな心境を見透かすようにヴォーティガーンは此方を見て下らないと距離を詰め、腹部に前蹴りを打ち込んでガウェインを吹き飛ばす。

 

「ぐっ・・・!」

 

「貴様ッ!!」

 

 アルトリアの魔力放出による加速、それに合わせた胴薙ぎを受けてヴォーティガーンは吹き飛ぶものの、動きに合わせて飛んだだけで何も問題はないと着地、つまらないと言いたいばかりにため息を吐く。

 

「この程度か・・・・早く終わらせてしまおう・・・」

 

 そのまま後ろに下がり、杯に入った赤い液体を嚥下し、身体に変化が起き始める。飲み込んだ液体は赤き竜と対をなす白き竜の血液。人から逸脱し始める人、竜の混じり合った咆哮を上げ、闇を纏いヴォーティガーンを包み込む。

 

闇が渦巻き、辺りを満たしきった後、その闇の出現元から現れたのは、黒き巨大な邪竜。憎悪に満ちた目で此方を睨み、鎌首をも上げた後に、吐き出される黒い吐息。

 

 咄嗟にアルトリア、ガウェインは飛び退くものの、逃げ遅れたもの、呆気にとられていた者は容赦なく漆黒のブレスに蹂躙され、呑み込まれ、姿を消した。

 

「この剣は太陽の現し身。あらゆる不浄を清める焔の陽炎『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』!!」

 

 生死を共にし、忠誠を誓う部下の死に激高して聖剣の真命開放をするも、それも闇のブレスでかき消されるばかりか、焔、そして闇のブレスによって見えなくなった視界から邪竜の抜き手をモロに受け、ガウェインは吹き飛ばされてしまう。

 

『聖剣を持ち、加護を持ち、これだけのお膳立てをされ、素晴らしき師を持って尚この体たらくか。情けない。貴様らの師、カナであるなら一人で私と十分に切り結んで立ち回るであろうよ』

 

 失望し、侮蔑の表情でガウェイン、アルトリアに吐き捨てる邪竜ヴォーティガーン。情けないと必死に動こうとするガウェイン、そしてそのガウェインをかばう形で立つアルトリアは歯噛みした。

 

 アルトリアから言わせればそもそもあの義姉? の剣技自体がおかしいのだ。聖剣でも魔剣でもない変わった剣でカリバーンを破壊し、教導任務ではペリノア王は愚かランスロットすらも赤子扱いする。今尚強さを増す化物。全く見たことのないあの剣技の高み。どのようにすれば手に入るのか。皆目見当もつかない。

 

『人の側にありながらも魔を知り、共に歩き、慈しむ特異な存在。彼奴ほどの傑物があるからこそ私も思う様に自身の道に邁進し、そして迷いも無くなったのだ・・・!』

 

 まるで華奈に直接出会い、理解者に、友を得たような言い方。そして少しの後悔、憐憫を目に宿したものの、すぐさま金色の目に殺気を宿し、再び口におぞましいほどの魔力が溢れかえる。

 

 間に合わないか。そう思った刹那、何かがアルトリアとヴォーティガーンの間に刺さり、その次の瞬間、周りの石壁、床がまるで生きているかのように動き、幾重にもヴォーティガーンのその巨大な竜の体を拘束、ブレスも口輪をされた上に石の拳のアッパーを貰い、中断。

 

『グッァォオオォオ!!?』

 

 突然の奇襲にブレスを封じられたことで混乱するヴォーティガーンを他所に、もう一つの何か、ではなく変わった形の剣が刺さると辺りに充満し、アルトリア、ガウェインの身体を、聖剣の輝きを封じんと、蝕まんとする闇の瘴気が祓われる。

 

「これは・・・・・」

 

「はい・・・あの方しかいません」

 

 地面を操る聖剣に闇を払う剣・・・ではなく刀。これを振るう騎士は一人しか無い。思わぬ騎士の参戦にアルトリアも、ガウェインも背負っていたものが一部降ろされたような感覚を感じ、同時に申し訳なく感じる。

 

「おまたせしました。ガウェイン様、アルトリア様。大丈夫ですか?」

 

 銀嶺騎士団隊長。華奈が救援に来てくれたのだ。深山、陽炎を回収し、鞘に収めつつ両者の容態をチェックし、一度離れると同時に拘束が解けた邪竜が姿を表し、加勢した銀の騎士を見やり、一つ息を漏らす。

 

『やはり来たか。カナよ。外の巨人族、幻想種はどうした?』

 

「問題なく全て倒し、妖精郷に送り届けました。残る蛮族も銀嶺に任せていますので、貴方様との約束、そして責務を果たそうかと。そうでなくても愛弟子であり、主。そして義妹の妹であり同盟国の王。殺させはしませんよ」

 

『ふむ・・・・・言うではないか。流石は私が見込んだ女だ・・・代行者の責務もこなしている。感謝しか無いな』

 

 まるで親しい友人と話すような雰囲気の華奈にヴォーティガーン。先程までの殺し合いの空気が一変したこと、一気に疑問が浮かんでは、アルトリアの中で暴れ回り、混乱が起きる。先程からのヴォーティガーンの発言に妖精郷。わからないことに単語。一体二人は何を知っているのだろうか。

 

「カナ殿・・・ヴォーティガーンとは一体どの様な・・・」

 

「? ああ、簡単に言えば殺し合うことを約束した友達みたいなものですかね?」

 

 益々わけが解らなくなる。あの卑王と華奈が友達? しかも殺し合うことを約束? いつ出会ったのか。どうして殺し合うことを約束したのか疑問は増えてしまったが。

 

「では・・・カナ殿は私達の味方。そう考えていいですか?」

 

「勿論。敵なら初手でガウェイン様の首をはねてヴォーティガーン様と挟み撃ちでアルトリア様を刺しているはずですから」

 

 あっさり恐ろしいことを言ってのける華奈にアルトリア、ガウェインの両者は背筋が寒くなり、表情が引きつるが、援軍であることを確認出来たことで体勢を立て直したヴォーティガーンに全意識を傾け、剣を構え直す。

 

『では・・・思う存分殺そうか』

 

 ヴォーティガーンも人の身体ほどの高さもある尻尾を振るい、腕を地面に叩きつけて瓦礫を飛ばし、ブレスを吐いて此方を苛烈に追い込む。しかし、華奈の聖剣「深山」による地面からの奇襲、足場形成。「陽炎」による闇のブレスより発生する瘴気の浄化。更には加勢により、情けないところは見せられない、華奈だけに働かせるなと息を吹き返したガウェイン、アルトリアの両名も面食らった邪竜の動きに慣れてきたことで連携を取り、時折聖剣を開放して攻撃を叩き込む。

 

再び行われる光と闇の激突。剣閃の嵐が竜を襲い、また幻想種の頂点が振るう一撃が、竜の息吹が騎士たちを襲う苛烈な鎬の削りあい。

 

「カナ殿、ガウェイン殿、少し、時間を稼いでもらっていいですか?」

 

「何をするつもりで?」

 

「ロンの槍を使います・・・ですが拘束の解除などいかんせん時間がかるので・・・・」

 

 しかし、それでも決定打には至らない。そう考えたアルトリアはこのために持ってきたロンゴミニアドを開放することを決意し、華奈、ガウェインに前衛を任せ、槍の開放に務める。

 

 そうはさせじとヴォーティガーンも動くが、華奈の鋭い剣戟で足場を崩され、その隙きを突く形でガウェインがその剛力で無理やり姿勢を崩す、または聖剣の炎で視界を防ぎ、その間に移動すると中々に近づけない。

 

「――聖槍、抜錨」

 

 その間に準備を整えたアルトリアの持つ純白の光で編まれた一本の槍。

 

「最果てより光を放て。……其は空を裂き、地を繋ぐ嵐の錨! 最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)!!」

 

 邪竜の心臓目掛けて突撃、放たれる一撃は確かに邪竜の心臓を貫いた。手応えもアルトリアの手にしっかりと伝わる。致命傷だ。これなら助かるまい。そう確信するには十分過ぎる傷。

 

 だが、それでも尚邪竜の火は潰えず、胸に刺さるロンゴミニアドを両手で無理矢理に引き抜き、ブレスを薙ぎ払って三人を牽制する。

 

『まだ・・・・・まだだ! まだ倒れ伏すわけにはいかぬ!! 私が死ねば人に追われた獣はどうなる!? 世界に不要と断じられた種はどうなる!! 居場所を失い、ただただ追われ、怯える日を過ごして無為に消え去るだけだ! 妖精、精霊、巨人、亜人、魔獣、竜種、神霊、その分霊や化身、半神・・・全て、全てが消え去ってしまう!! 勝手に霊長の長だと驕り、ふんぞり返り、どれだけの者を手に掛けたかも分かるまい!!! 強引な開墾で管理権を失った妖精がいた! 貴様らが信仰する教えに、大陸の馬鹿な教えに貶められた神獣が、神がいた! 勝手に関わり、思いのままに行かぬからとあらぬ噂をかけられて殺された精霊がいた! 封じられた者がいた!!』

 

 胸から血を吹き出し、口からは瘴気も血反吐も呪詛も吐き出し『ヒト』全て、自身をも下らぬ、憎々しいと呪いを吐き、金の両目からは血涙を流し、その禍々しい金の竜眼は赤く染まって更に禍々しさを増す。

 

『かつての王は司祭でもあり、管理者だった! 自然に生きるもの、国に生きるものと釣り合いを保ち、神や自然と調和を、生きるテリトリーを無理なく考えるものだった・・・それが貴様らは遠慮なしに踏みにじり、魔が力を借せば『悪魔憑き』と罵り話も聞かずに封じた。妖精が関われば『妖精憑き』と疎ましがり、好意的なものまで封じた。それで利があれば飛びつく・・・浅ましさにも程がある! 悍ましい!!! 貴様ら人間ほど悍ましい者ほどいない!! 人に世界の舵を渡せば間違いなくこの世界を・・・星を喰らいつくし、自身も喰らい滅ぼす!! そしてこの星を荒れ果てた何もないものに変える!!! だからこそ、私が貴様らを殺し、住処を失う、まつろわぬものたちの守護をせねばならんのだ!!!!!』

 

 流れ出る血の量、そして吐き出される瘴気の濃度も低くなっていることから、もうヴォーティガーンに力がないことは誰にも明白だった。しかし、アルトリア、ガウェインは、金縛りにあったように動けなくなっていた。

 

 卑王ヴォーティガーン、そんなものではない。眼の前で血涙を流し、荒れ狂う竜は決してそんなものではなく、ただただ、消えゆくかつての隣人たちのために立ち上がり、満身創痍になっても尚戦おうとする、志高き王であったのだ。

 

 自分たちと同じ、守るべきものの前に立ち、壁となり、礎にならんとする王だった。

 

『消え去れ! ウーサーの子、その血を引く騎士よ! そして、人にありながら魔と共にある騎士よ! 私達の世界に人間は不要なのだ!』

 

 残った力を振り絞り、今までの規模とは比べ物にならないブレスを吐き出す。

 

 ロンゴミニアドの一撃のために力を使い果たし、逃げるすべも無くなったアルトリアにガウェインは迫りくる漆黒のブレスに覚悟を決め、目を閉じたその時

 

「奥義・因果断裂・四門」

 

 その声と同時に聞こえた太刀音。それを皮切りに幾重にも重なった斬撃の乱舞の音。恐る恐る目を開けると迫っていた漆黒の闇は全て消え去り、驚愕に目を見開くヴォーティガーン、そして二つの刀を手にもつ華奈の背中が映り込む。

 

 あのブレスを切り払い、防ぎきったのか? 太陽の聖剣すらもねじ伏せる闇を・・・

 

 ありえぬ、しかしそれがなければアルトリアもガウェインも生きていないこともまた事実であり、驚愕の余り、二度目の金縛りに二人は襲われ、そして守ってくれた女性に見入ってしまう。

 

『がっぁああああ・・・・ここまで高みにいるのか・・・・カナよ・・・だが、まだだ、貴様を殺して、アーサーもガウェインも殺して・・・外の騎士共も殺して・・・勝たねば・・・』

 

「いいえ、ヴォーティガーン様。貴方様の野望はもう潰えました。この先どう足掻こうとも貴方の負けです」

 

 血に濡れた牙を見せ、尚も戦意を見せるヴォーティガーンに対し、華奈は毅然とした態度で厳しく告げ、自身の武器をすべて収め、戦闘態勢を解く。

 

『ほざけ! 私はまだ倒れていない、戦えるのだ! ここで貴様ら最高戦力を殺せば後は貴様らと比べれば有象無象の木っ端! まだ可能性は・・・』

 

「確かにここで私達を殺せば動揺は見込めるでしょう。ですが、私達を今から倒し、その後へ続く、野望をこなせるだけの力が貴殿にあるとは思えません。それに、外にいるランスロット様、トリスタン様、ペリノア様・・・他にもいる綺羅星のごとく揃う騎士たちは決して木っ端などと言えるほど容易い相手ではないでしょう」

 

 華奈の言葉にヴォーティガーンは思わず息を呑む。華奈の見立てどおり、今のヴォーティガーンは意地、執念、気力でどうにか立っている状態であり、攻撃できたとしてもブレスを一撃。しかも、渾身の一撃を今目の前で華奈に打ち砕かれた。

 

 何らかの奇跡で三人を討ち果たしても、その時点で力尽きて待っているのは死だけだろう。

 

『・・・・・私の負け・・・・・・・か、儘ならぬものよ。人を捨て、幻想の頂点になってもこの有様・・・私の野望は積み木細工、とんだ道化だったようだ・・・』

 

 敗北を認め、地面に身を横たえる黒い竜。先程までの憎悪、殺気は無く、諦観の色が移り、光を失っている。

 

「人の欲望は恐ろしきもの。貴方様の言う通り、間違いなくこの世界を喰らいつくし、まだ見ぬ大地にも手を伸ばし、そこに残る神も、神秘も殺し、喰らい尽くすでしょう。もし、計画が成功しても、それは長く続かないでしょう。断言します。人が考えるものであり、それ故に持つ底なしの欲を持つ限り、どんなに貴殿の計画が完璧でも壊すことでしょう。私が、剣を好きなあまりにこの境地に立ったように、一人でこうなる可能性もあるのです・・・それが何千、何万と束になれば・・・・・・・作り上げた理想郷は人の手で地獄に変わります」

 

 竜に言葉を紡ぎ、沈痛な面持ちで語るカ華奈の、全てを見てきたような悲しき目に、言葉の重さに、誰もが押し黙ってしまう。

 

『はじめから・・・・・計画倒れ、いや、引き伸ばしただけ地獄の釜を熟成させただけだったか・・・ああ、悔しいが、これで良かったのだろう。カナ・・・未だこの世界に残る幻想の住人は・・・』

 

「ええ、必ず妖精郷に送ります。その約束は違えるわけにはいきません。その上で、じつは管理代行者として貴殿・・・いえ、陛下に一つお願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」

 

 もう死ぬ寸前、竜になったことでどうにか生きながらえているだけの竜に何を頼むのだろうか? 唐突な華奈の提案に皆の意識が集中する。

 

「私は管理者代行権限でガウェイン様と共に多くの幻想に生きる方々を妖精郷に送ったのですが・・・なにせ私は騎士団の隊長、ガウェイン様は一国の王。妖精郷に送り、それぞれの生活に手を貸すどころか、テリトリーの区分けも上手くいかないのです。どうにも多種多様な種族のルールの折り合いが上手くいかないものでして・・・そこで、竜となり、幻想種の頂点である貴方様を私が送り、そこで皆の指導や生活場所の手配などを行う、言うなれば妖精郷のリーダー、守護者になっていただきたいのです」

 

『!!!!??』

 

 頬を掻きながら話されるあんまりにも突拍子もない提案に思わず驚きの声を上げるヴォーティガーン。先程まで殺し合っている相手に抹殺、封印するどころか管理者の代弁者として妖精郷の住人の管理、援助を申し出たのだ。驚きもしよう。

 

「既に私の既知の妖精、精霊、幻想の住人、そして陛下に助けられた者たちは貴方様の来訪を心待ちにしています。どうですか? 人の浅ましさ、悍ましさを知り、幻想種の頂点となり、かつての自身の種族まで捨て去って立ちはだかった偉大な守護王。私も、モルガン様も、イグレーヌ様も、そして、この件に関して手を貸すと言った湖の乙女様、幻想種の方々も貴方ならと言っています。妖精郷の住人の守護、調停、引き受けてはくれませんか?」

 

『願ってもない・・・・・・まだ、まだ私を、負けて死ぬだけの私を求める幻想の住人の声があるのか・・・こんな幸せはない。・・・・ああ、私の駆けた道は、間違いでなかった』

 

 血に染まった瞳からこぼれ出る透明な涙。それに流されるように朱に染まった瞳は美しき金に戻り、まるで憑き物が落ちたような安らかなものに、表情も傷の苦しさも、憎しみもなく、自身の未来に思いを馳せる明るきものになっていた。

 

 望外の幸せ。死んで、妖精郷でも敵対したモルガンらに消滅させられるのが関の山だと考えていたはずが、守りたいと思っていた者達の楽園の守護任務。しかも代行管理権限を借り受け、自身も認めた騎士から依頼される。これが幸せでなくて何になる。もう現世に未練はない。思い残しも彼女が、太陽の騎士が、その母が引き受ける。野望は敵わなかった。だが、新たな門出が待っていた。

 

 人であることに苦しんだ日々も、夜明けを迎える度に薄れる神秘に怯えながら戦い抜いた日々も、幻想種の保護のために身分を偽り走り抜いた日々も・・・・・・無為に終わるものではなかったのだ。

 

『では、最後に・・・私の我儘を聞いてもらいたい・・・カナ殿よ』

 

「何なりと。陛下」

 

『私の介錯を貴殿に頼みたい。私の首を土産にし、権限を得て、仲間を労い、その報奨でこの島を駆けて・・・まつろわぬ者達を救って欲しい』

 

 そう言って首を伸ばして華奈の斬りやすいようにし、目を瞑る。もう、震えも、何もこの世界に未練はない。後は安らかにこの世界を去りゆくだけ・・・・・・・

 

「相分かりました。幻想の守護王ヴォーティガーン。まつろわぬ者達の明日のために走りきった白き竜『アルビオン』の代弁者。ブリテン島の管理者、モルガン様より管理代行権限を借り受けたこの舩坂 華奈が謹んで介錯をさせて貰いましょう」

 

 華奈の宣言、鞘から解き放たれる刀の音にヴォーティガーンの動きは完全に止る。華奈も陽炎の力を放ち、柔らかな陽光が激戦で壊れた城の中に満ち溢れる。

 

『――・・・ありがとう』

 

「さらば!」

 

 ヴォーティガーンの口からポツリと溢れた感謝を合図に陽炎を一閃。振り抜かれた一撃はヴォーティガーンの首を見事に両断。溢れ出る血は城から大地にしみ込み、陽炎の魔を祓う力で竜の体に残る瘴気は現れ、黒き身体も純白の体に変わる。

 

 肉体はやがて崩れ去って白き灰になり、風に舞って場外に舞い散り、既に蛮族を討ち果たし、決着の付いた戦場の騎士たちのもとに降り注ぐ。

 

 それは、朱に染まった戦場を白く塗りつぶすように戦場全てに降り、流した血を、傷を覆い隠そうとする。純白の雪のようで、誰もが城から散り出たこのあまりにも白い灰に視線を奪われる。

 

 その後アーサー王の勝利宣言、ヴォーティガーン討伐のことが全軍に知れ渡り、その勝報はブリテン、その同盟国に即座に早馬でもたらされ、この島に残るブリテンに敵対する最後の勢力の消滅したことがこの日、確実なものになる。

 

 それは、アーサー王のブリテンが事実上のこの島の統一を果たした事にほかならず、この事に国全てが歓喜の声で満ち溢れる。ここに魔王を打ち倒す騎士の王あり。誰もが讃え、褒めちぎり、憧れ、これから訪れるであろう平穏に思いを馳せた。

 

 

 

 




取り敢えず、今回で大きな区切りの一つは終了。ちゃんと書けているのか、ヴォーティガーンを魅力的に描けているのか不安で仕方ないですが、出さなきゃ物語は進まない。ある漫画家が「漫画作品を出すのは自分のケツの穴を見せるようなもの」というような言葉を言っていた記憶が朧気にあるのですが、ああ、そのとおりだなと嫌という程実感しました。

まあ、ちゃんと完結までがんばりますけどね? 私自身、華奈の物語の結末をちゃんと出したいですから。

よくよく考えたら、白き竜の代弁者であり、ウーサー世代から戦って生き延びて、勢力を維持できるヴォーティガーンは相当に恐ろしい男ですよねえ。もし彼に少しでも多くの賛同者がいたらアルトリア、華奈はより手こずっていたでしょう。

取り敢えず、シリアスは自分は不得手なのかなあと思い、また次回からはゆるい日常を書いていけたらと思います。投稿から数日時間があいているのになぜかお気に入りが増えていてえっ、マジですかい!? と嬉しい驚きを貰ったりして、ケツ叩かれながらもゆっくり書きますので、お待ちいただけたら幸いです。

最後に UA 18027件 しおり 52件 お気に入り 187件 有難うございます! 皆様また次回までさようなら。さようなら。
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