転生愉悦部の徒然日記 作:零課
現代の銀の牙
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
品の良い調度品、物に囲まれた部屋。強いて言うのであれば、やたらと古めかしい。アンティークなものが多い応接室で向かい合う男女。二人の間にある机。その上に落とされた紙の束にしきりに目を通し、何度も確認を繰り返す。
「これで・・・落とし所でしょうかな?」
「これ以上はまかり通りませんよ。おまけも付けた。現物もある。ここらへんが決めどきでしょうね」
壮年の男性に若い女性。互いに笑みを浮かべつつも目の奥は油断もなく光り、絞れないか。落とせないかと探る。しばしの無言の空気の後。
「では、この額で研究成果は買い取らせてもらいます。品も文句のつけようがない。有難う」
「いえいえ。私こそこれを売り払えて有り難いですわ。役立つ方に渡せてこそ。そして私達も利益を得た。互いに益があるのに越したことはないです」
握手を交わし、広げられていた契約の内容に合意を見せた。男は買い取るという判を押し。女は商品の受け渡し手段を念入りに説明し直し、確認していく。貴重な品物。ミスは許されない。
再確認も終えて軽い挨拶を交わして別れた後。女はその男の応接室、見事な屋敷を出てタクシーを拾い都市部に向かう。電波も通らない不便な場所。報告をするためにも一息つくにも一度ここを離れなければいけない。
「・・・よし。もしもし? ええ・・・はい。そこのカフェで・・・ええ、私は・・・昼過ぎでしょうか。待っている? そこらへんで土産でも探すと・・・はい。お願いします。はい、はい・・・失礼します」
タクシーの中で携帯端末を取り出して電波がつながることを確認。すぐさま報告と合流のための通話を行い、簡単な待ち合わせ場所と時間を互いに確認した後に通話を切る。
「これで一段落。後は、必要なら向かわなければいけませんかね。時計塔に・・・」
ふぅ。と息を吐いて力を抜き、都市部に着くまでの時間を景色を見て過ごすことを決めた女性は移り行く景色に視線を向けて何も考えること無く過ごしていく。
イギリスの都市部。その一角にある小さな喫茶店。そこの街路側の席に腰掛けて待ち合わせの相手を待つ。先に来ているのは確かなのだが、あとから来たはずの自分が待つことになっている。土産探しに熱でも入ったのだろうか、それとも土産の追加注文でも来たのでそれの準備に追われたか。
「まぁ、こうしてゆっくり出来るのも嬉しいですね。私には現代の機器は便利すぎますよ」
着信、メールが来ていないかとズボンのポケットから端末を出して確認しながらひとりごちる。白を基調としたこの薄い板切れ一枚で遊びもできる。買い物も、連絡も世界の情勢もニュースも手に入る。便利な半面何もかもが早すぎて時折パンクしそうになってしまう。
「仕事も一呼吸置きながら出来る方が私にはよっぽど・・・ん?」
特に連絡もなく端末でゲームでもしようかとした矢先、馴染みのある気配を感じて振り返ると、待ち合わせていた人達が歩いてくる。やっぱりと言うか聞いていたよりも多めの荷物をえっちらおっちらと運んでくる若い男性。此方に手を振って駆け寄ってくるまだあどけなさが抜けない少女。端末をしまい込み、此方も手を振って応える。
「冬利様~咲様~お疲れ様でした~」
「お、お~う、姐さん。悪かったな。遅くなってよ」
「あ、姐さんーただいま~お仕事大丈夫だった?」
帰ってきた主にじゃれつく子犬のように抱きついてくる少女、咲を受け止め、左腕で優しく背中をなでてやり、空いた右手は器用に男の視線を遮る土産物の山の幾つかを受け取り、自身の利用していた机におろしてやる。そうすると幾らか鋭くも、いたずら好きな光も宿らせた目、咲と同じ茶髪をした青年。冬利の顔がしっかりと此方を見つめ、ニカッと微笑む。
此方もやんわりと微笑みを返し、頼んでおいた飲み物と茶菓子を置き、二人に座るように促した後で自分も腰を下ろす。
「いいえ? 二人の用意した魔術師の研究成果、その現物に応用の論文にその応用を活かした品。予想よりもに割増で買い取ってくれました。見事な手腕で奪い取り、始末できた冬利様の手腕。そしてそれをあらゆる視点で見てさらなる可能性を活かせた咲様のお手柄です。後でその予想金額よりも増えた分はお渡ししますので」
「そりゃ有り難いが、姐さんに任せますわ。大金の資金管理はどうにも慣れないし、すぐに使いそうでねえ」
「わ、私も・・・姐さんに任せたほうがいいかなあ・・・だって、その方が姐さんが楽になるかもなんでしょう?」
今回の取引で用意した魔術師・・・と言っても魔術師の中でもとびきりの外道を始末した上での入手したその魔術師の研究成果。それを幾らかマイルド、手を汚さぬような術式での転換や応用にした論文。外法にも手を染めた成果なのかとても素晴らしい出来、その危険性からも高値で取引されるそれの数割。決して少なくはない金額であり、普通の魔術師では十数年ほど資金繰りをして漸くという資金を欲することもなく自分に任せる二人に思わず笑ってしまう。
「っふふ・・・もう、相変わらずですねえ。お二人は・・・これだけあれば色々できちゃいますよ?」
比喩表現抜きで屋敷、別荘一つ構えてもお釣りが来るほどの金額。それを聞いても二人は変わらなかった。
「でもなあ、ブラックマーケットへの顔利きも出来るし、今のとここのお金がなくても十二分に満足だからな」
「わ、私は姐さんと一緒にいられるだけで幸せだし、一緒に色々やりたいから・・・」
「そうそう。だから気にせずに使ってくれ。姐さん・・・いや、華奈」
聞いているだけで嬉しいが、少しくすぐったくなる答えに嬉しく思うも、何故か恥ずかしく思ってしまう。飲んでいた紅茶を全部飲んでしまい、仕方がないのでごまかしも兼ねてお代わりの注文と咳払いを一つ。
女性・・・華奈は蒼の宝石のような目を伏せ、銀の長髪を指先でくるくるといじり、頬を少し赤くしてしまう。
「嬉しいですけど・・・そうもまっすぐ言われては・・・・・・コホン・・・あ、ああそうそう。時計塔は如何でしたか? エルメロイ二世様はなにか言っていましたか?」
何はともあれこの空気を変えたい。下手すれば冬利にからかわれてしまい倒されてしまう。どうしようかと思案した中で元々ここに来たもう一つの目的、時計塔、魔術師の集う研究機関。その中でも多くを束ねる12の貴族。ロード・エルメロイ二世。彼のかつての生徒の咲。今は別のロードの元にいるが現在でも私的関係は続いており、資金援助や魔術師の思考や範疇では見れない、届かない情報や視点の提供などのために度々コンタクトを取りにも来た。
華奈自身は魔術師ではないが、仮にもそういった世界に足を踏み入れ、互いに助け合う関係。せっかくその時計塔のある街に来たのだ。帰る前に頼み事でも一つあれば小事であれこなし、より関係の結び付きを強めたいものだ。
「ううん? その、先生は私達から前の分の礼装を受け取ると『今の所頼み事はないからこの街をゆっくりするか、若しくはすぐにミス・カナとお前らで一緒に今いるところのロードのところに帰るも好きにしろ』って言われて・・・なんにも無いみたい」
「まあ、最近は世界中の外道魔術師を始末してその研究成果、道具をほぼ全て売っぱらったり、渡したりしたからな。流石にあちらも管理と整理の時間が欲しい。若しくは思わぬ出費に頭を痛めてんじゃねえのか?」
「そうなのでしょうかね? あまり深入り、詮索はしませんが。ん・・・頼み事も無いのなら戻ろうかと思いますが頼まれたものは他に何がありますか?」
頼み事はなく、此方としてもここに留まる理由はない。ここで入手するものが無い限りは。自分も大学ノートを手持ちのカバンから取り出してめくり、今日のお使いに不足はないか再確認する。タクシーの中で確認はしたのだが確認グセ、そして二人も思い出してもらい、再確認してもらうためだ。
二人も私に続いてタブレット、手帳を出して調べていき、ペンや鉛筆でチェックを記していく。
「俺の所は無事終了。すぐにでも帰れる」
「わ、私は・・・あ、日本の和菓子・・・ちゅ、注文の値段からして高いやつかな・・・それ以外にも空港土産を沢山」
咲の方はまだ残りがあったらしく、和菓子。それも中々にグレードの高いやつだそうだ。後半の空港土産はともかくとして、一体何を用意したものか。
「私の知り合いが東京にいますので紹介してもらいましょう。それと・・・生、日持ちしない物の保存魔術はかけていますか?」
「そこに関してはバッチリだ。重量軽減の魔術もしているから多少重量オーバーするくらいに詰め込んでも問題はない」
「姐さん・・・いつも確認しているものね。私も大切だから確認しているけど」
当たり前だろう。自分たちの拠点は距離もあれば物資のみならず皆の依頼した嗜好品も多い。ミスは許されず、そしてその腐ったものが万が一にでも他に悪影響を与えるのは言語道断。確認は少しするくらいでちょうどいい。
「そうですか・・・では、一度輸送機に積んだ後に日本に移動、その後そこでも買い物をしてから輸送機を置いている空港に戻り、帰りましょうか・・・カルデアに」
冬利、咲も了解を示し、話しながら完食した紅茶や茶菓子のカップ、皿を纏め、荷物を整理した後にカフェを去る。
(改めて・・・転生等はしませんでしたが・・・今度は私の家族ですか。数奇、奇妙を越えて強烈過ぎる『縁』を感じますよ)
空港に向かう準備をしながら一つ華奈は思う。自身はこの世界で今から1500年以上も前にアーサー王伝説で戦い抜き、死後英霊となった。そんな自分が今はカルデアで働き、しかも部員時代の家族が今度は転生していた。しかも職場が同じ。
数奇、奇縁、こんなもので片付けなければ嬉しいのだが説明が面倒臭すぎる。
(まぁ・・・出会えたのです。一緒に戦い抜きましょう。取りあえずは今回の買い物を済ませて、また足りないものを早めに仕入れる。補充の確認ですね)
出来れば所長への確認の時に所長がピリピリしていなければいいな。と思いつつ今ある荷物に目を通し、華奈は家族とまたいられることに微笑んだ。
皆様お久しぶりです。暫く書いていなかったので取りあえずは肩慣らしがてらスタート。短くて申し訳ありません。またボチボチ書いていきますので皆様よろしくおねがいします。そして、華奈の家族も紹介、登場していきます。
職員としてちょこちょこ出していきます。立ち絵もゆっくりながら準備させてもらいますのでお楽しみください。
華奈
本作の主人公。英霊となったが召喚、受肉、さらには一度若返ったりと相変わらずハチャメチャに巻き込まれた。今はカルデアで備品課、カルデアの資金運用も一部行ったり私財を使ってカルデアを補佐する。
匂坂 冬利(さきさか とうり)
元の所属・匂坂家の後継→家出してフリーランスの魔術師
魔術師としてはさほど深くない歴史の家系の生まれ。双子の内の兄で、魔術師の堅苦しい風潮が性に合わず、家出。
その後はフリーランスの魔術師として活動。噂で聞いた魔術殺しのように特に躊躇いなく重火器を使用する。魔術使い。それの強みを生かして外道の魔術師を始末し、その研究成果を咲、他の面々に渡して応用方法や現物を売りさばいてもらうなどして資金を稼ぐ。
カルデアで双子の妹とバッタリ遭遇した。
華奈と同じ備品課に所属。カルデアを離れる際はついでに銃火器の補充も行う。咲、華奈の護衛も務める。最近は投げナイフ以外にも折りたたみ式の弓も研究中。
咲が姐さん呼びするようになったのは彼が原因。
匂坂 咲(さきさか さき)
元の所属・匂坂家の後継、エルメロイ教室出身。
魔術師としてはさほど深くない歴史の家系の生まれ。双子の内の妹。先代当主(父親)が病にかかり、魔術の行使が難しくなったため、既に家と魔術刻印を継いでいる。なので魔術師としては兄より優秀。
エルメロイ教室出身であり、その成績を見込まれてカルデアにスカウトされたことを元恩師であるロード・エルメロイ二世に相談したところ「様子を見てこい」といった感じの頼みを密かに受け送り込まれる。
カルデアで双子の兄とバッタリ遭遇した。
基本気弱、引っ込み思案の気があり、話し方も少し詰まる部分があったりする。が家族、華奈には非常に素直に甘えてくれる。「子犬のよう」と評されることもしばしば。元エルメロイ二世の生徒。ということを華奈に教えた結果。両者の関係の歩み寄りに貢献したりメッセンジャーとして奔走。
兄と同様に備品課に所属。
最近は日本製のゲームをソフト、ハードの新旧、機種問わずエルメロイ二世に沢山送りつけたりしているそうな。
咲の立ち絵は完成しているので此方に貼り付けておきます。
【挿絵表示】
最後にUA 38361件 しおり 126件 お気に入り 333件 応援ありがとうございます! これからも改めてよろしくおねがいします。